「Junya Suzuki」の記事

Junya Suzuki(鈴木淳也)

モバイル決済ジャーナリスト/ITジャーナリスト

国内SIer、アスキー(現KADOKAWA)、@IT(現アイティメディア)を経て2002年の渡米を機に独立。以後フリーランスとしてシリコンバレーのIT情報発信を行う。現在は「NFCとモバイル決済」を中心に世界中の小売や公共インフラ、決済サービス事例やトレンド取材を続けている。近著に「決済の黒船Apple Pay(日経BP刊/16年)」。
Appleの最新決算にみる2つの疑問、脱iPhoneシナリオの現実感

Appleの最新決算にみる2つの疑問、脱iPhoneシナリオの現実感

2019.02.07

iPhoneが売れない!? Apple決算からみえた地殻変動

すでにiPhoneはAppleにとって美味しい商売ではない?

Appleに残された道は、サービス事業へのシフト?

米Appleは1月29日(米国時間)、同社会計年度で2019年度第1四半期(2018年10-12月期)決算を発表した。事前のガイダンスにもあったとおり、同四半期の売上は当初見込みから1割減少の843億ドルで前年同期比5%のダウン、純利益は199億7000万ドルで0.5%の減少だった。

世界的なiPhone不振と特に中国での全製品カテゴリにおける売上減少が主な理由で、このあたりの話題は石川温氏の「アップルの落日? 中国後退の影響が不可避に、日本市場でも逆風か」という記事が詳しい。ここでは、Apple決算から見えてくる「iPhoneはAppleにとって本当に美味しい商売なのか?」「サービス事業へのシフトがAppleの業績を支える道になるのか?」という2つの疑問について考えてみたい。

Apple不調の震源地といわれる中国。杭州のApple West Lake (西湖) 店にて

iPhoneは以前ほど優秀な稼ぎ頭ではないかもしれない

Apple決算の詳細は同社のプレスリリースからも確認できるので、いくつかハイライトをみていく。まずはエリア別の売上で、同社の決算で言うAmericasが南北アメリカ大陸をすべて合計した数字、EuropeがいわゆるEMEA (ヨーロッパ、中東、アフリカ)地域に加えてインドを合算した数字、Greater Chinaが中国本土に香港と台湾を加えた数字、Rest of Asia Pacificが中華圏ならびに日本を除いたすべてのアジア太平洋地域となる。これを見るとわかるが、AmericasとRest of Asia Pacific以外の地域はすべてマイナスとなっており、特にGreater Chinaの落ち込みが大きいことがわかる。

米Appleの2019年度第1四半期におけるエリア別売上

少しだけ細かくみていく。下記が今回の決算における各地域の解説だ。AmericasにおいてもiPhone販売が不調だった地域があったが、ウェアラブル/ホーム/アクセサリ、サービスの売上が好調で、結果として前年同期比プラスでの業績となった。一方で米ドルの通貨高が全体に悪影響を及ぼしているとしており、今回のケースではおそらく南米方面での現地通貨安で、米ドルでの集計が低めに出たようだ。同様の傾向はEuropeやRest of Asia Pacificでもみられ(特に後者はオーストラリアやシンガポールなどの話だと思われる)、不調なiPhoneと為替問題を抱えつつも他の売上増でそれをカバーする状況だ。Appleはこのような地域において、為替事情を鑑みた販売価格の調整で売上のテコ入れを行っていく方針だという。日本の場合、iPadとサービス売上が好調であり、これが結果としてiPhoneの落ち込み分をカバーする格好となった。

・Americas
Americas net sales increased during the first quarter of 2019 compared to the same quarter in 2018 due primarily to higher Wearables, Home and Accessories and Services net sales, partially offset by lower iPhone net sales. The weakness in foreign currencies relative to the U.S. dollar had an unfavorable impact on Americas net sales during the first quarter of 2019.

・Europe
Europe net sales decreased during the first quarter of 2019 compared to the same quarter in 2018 due primarily to lower iPhone net sales, partially offset by higher Wearables, Home and Accessories and Services net sales. The weakness in foreign currencies relative to the U.S. dollar had an unfavorable impact on Europe net sales during the first quarter of 2019.

・Greater China
Greater China net sales decreased during the first quarter of 2019 compared to the same quarter in 2018 due primarily to lower iPhone net sales.

・Japan
Japan net sales decreased during the first quarter of 2019 compared to the same quarter in 2018 due primarily to lower iPhone net sales, partially offset by higher Services and iPad net sales.

・Rest of Asia Pacific
Rest of Asia Pacific net sales during the first quarter of 2019 were generally flat compared to the same quarter in 2018, as higher Wearables, Home and Accessories and Services net sales were offset by lower iPhone net sales. The weakness in foreign currencies relative to the U.S. dollar had an unfavorable impact on Rest of Asia Pacific net sales during the first quarter of 2019.

次に、この各エリアでの四半期の業績を、売上(Revenue)と営業利益(Operating Income)の両面からみていく。一般に、ハードウェア製品は部材調達や製造、流通コストなどを含めて間接経費が多く、ソフトウェアやサービス事業などと比べて利益率が低い。そのため、いくら売上が大きくても、営業利益そのものは少なくなる可能性が高い。Appleが優秀といわれる所以は、この関連コストをギリギリまで削減しつつ、商品をより高い価格で販売することでより多くの利ざやを稼げる点にある。

今回の決算で、エリアごとの売上と営業利益に注目すると、売上の増減だけでは見えない傾向が見えてくる。例えばAmericasでは売上が前年同期比で5%上昇する一方で、営業利益そのものは落ちている。理由はさまざま考えられるが、その1つは「利益率の低い製品の販売割合が増えている」ことにあると予想する。また日本では売上が5%減少しているものの、営業利益そのものは2%強しか下落していない。先ほどサービス販売増がiPhone減少分を補ったという説明があったが、それを補強する材料となっている。

米Appleの2019年度第1四半期におけるエリア別売上と営業利益

営業利益は研究開発費のほか、営業やマーケティング、会社運営にまつわる諸経費を差し引いた数字だが、純粋に製品提供にあたって費やしたコスト(Cost of sales)を売上から引いた数字をグロスマージン(Gross margin)と呼び、これが売上に対してどの程度かを知ることで一種の利益率が割り出せる。IT系企業の場合、ソフトウェアやサービス事業を展開する企業のグロスマージンは60-80%も珍しくない一方で、ハードウェアを製造・販売する企業のグロスマージンは20-30%程度になることが多い。

Appleのグロスマージンは今四半期の決算で38%であり、ハードウェア系企業としては極めて優秀だ。だが実は、Appleが現在のような高いグロスマージンを達成できるようになったのはiPhone発売以降のことで、16年前の2003年度第1四半期決算では27.6%iPhone登場前夜の2007年度第1四半期決算では31.2%といった具合だ。なお2011年から2012年ごろにはグロスマージンで40%水準を突破しており、iPhone販売が軌道に乗り始めた状況を反映した結果であることがよくわかる。

さて、このグロスマージンを製品ごとに眺めていくとさらに興味深い。製品部門とサービス部門でのグロスマージンを比較してみると、両者の性質の違いがよくわかる。注目すべき点として、製品部門での売上減少幅が前年同期比で7.2%なのに対し、グロスマージンでは減少幅が12%とより大きくなっている。単純にいえば利益率が悪化しているわけで、理由としては「iPhone以外の利益率の悪い製品の販売比率が増えている」「iPhoneそのものの利益率が低下している」の2点が考えられる。

米Appleの2019年度第1四半期における事業領域別でのグロスマージンの比較

Appleが前四半期よりiPhoneの販売台数の公表を差し控えたため、追跡が難しくなっているが、過去の経緯からみてハードウェアとしてはiPhoneの利益率が最も高く、次いでiPad、それにMacや各種周辺機器などの製品が続く。iPhoneが優秀といわれたのはその高い売上だけでなく、サービス部門を除く他のカテゴリの製品と比べて、原価が低い割に高い値段での販売が可能だからであり、そうした高額商品を販売推奨金(Subsidy)による割引を使って携帯キャリアのチャネルで販売したことが、今日のAppleを支えている。製品カテゴリ別の売上の変化を見ても、製品部門でグロスマージンを若干だが圧迫した理由の一端が、Apple Watchを含む周辺機器カテゴリにあるのではないかと推察できる。

米Appleの2019年度第1四半期における製品カテゴリ別での売上の変化

もう1つ注目したいのがiPhoneそのもののグロスマージンの悪化だ。これまで50%台後半だったiPhoneのグロスマージンは2013年度に急激に低下し、2017年度以降は40%を切る水準まで下がっている。2013年度に何が起きたのかを振り返ると、これは「iPhone 5」が発売された年に該当する。iPhone 5では従来のデザインを見直し、アルミ削り出しの金属筐体を採用して軽量性と強度を両立させた高級感溢れる外観になっている。一方で作業工程の難易度が高く、これが利益率低下の一因になっていたことが指摘されている。AppleがiPhoneに上位モデルを用意して高級路線をさらに志向するようになったのは次々モデルにあたるiPhone 6世代以降で、この頃からiPhoneが高コスト体質になったのではないかと考える。Appleは他社との差別化のための高コスト路線を取りやめるつもりはないようで、さらなるグロスマージンの悪化は避けられないと推察する。

Statistaの示すiPhoneのグロスマージンの推移(推測値)

昨年2018年にAppleInsiderが報じた記事では、iPhoneが全スマートフォンの利益の86%を占めているというデータを紹介していた。iPhone Xに至っては、その販売価格から35%を占めているというものだ。仮にも10万円の値付けでグロスマージンで40%近い製品が数千万台規模(おそらく2,000万台前後だとみられる)も販売されれば、それだけで膨大な利益を生み出す。ライバル他社の製品が多くの最新機能を詰め込んでグロスマージンを圧迫させる一方で、iPhoneは従来ながらのスタイルで高利益体質を維持してきたから、少なくとも昨年時点までは顕著な差となって現れていた。だが今後、Appleがライバルと共通のフィールドに突入して機能競争へと走った場合、さらなるグロスマージンの悪化は避けられない。

Apple自身が公表していないため筆者自身の情報ソースからの判断だが、2018年に発売された新モデルは以前ほどの勢いはなく、むしろ旧モデルがその減少分を補う形となっている。旧モデルはラインを新規に立ち上げる必要がない点でコスト削減になるが、同時に販売価格は低く抑えざるを得ず、やはりグロスマージンを圧迫する理由になる。2019年以降もこの傾向が続く限り、iPhoneが以前ほど美味しいビジネスではなくなるのは時間の問題ではないかと予想する。iPadを含む他の製品はiPhoneほど高い利益率ではないため、少なくともハードウェア企業としてのAppleは(利益率という面で) 10年以上前のiPhone登場前の水準へと落ち着くことになるのかもしれない。

コンテンツ配信プラットフォームとしてのApple

ハードウェア企業としての天井が見えつつあるAppleが、次なるフロンティアとして着目したのがサービス事業だ。今年、北米で開催されたCES 2019では、TVセットメーカー向けのiTunesアプリを介したコンテンツ配信サービスが発表された。その他、携帯キャリアとの提携によるApple Musicライブラリなどの提供、現在Appleが準備中のニュース記事サブスクリプションサービスなど、サービス部門での取り組みが数多く登場してきている。従来、Appleが用意するコンテンツやサービスというのは、同社の製品を購入したユーザーへのプレミア的な扱いだった。豊富なコンテンツが比較的リーズナブルな価格で入手できるというのも、ハードウェアを購入したユーザーへのインセンティブの一種で、Appleがあくまでハードウェア購入へとユーザーを誘導していくのが目的だと考えられるからだ。

だが状況は変化している。こうした戦略が採れるのもハードウェア販売が右肩上がりだからこそ成り立つもので、ユーザー数の伸びがピークアウトし、買い換えサイクルも鈍化しつつある状況では維持することが難しくなる。そこでコンテンツ販売を外販にも切り替えることで、少しでも収益源を増やそうというのだ。実際、CNBCは「サービス部門の利益率をAppleが公表したのは初」と今回の四半期決算を評価しており、Appleとしてサービス部門での健全性と成長性をアピールする狙いがあるのだろう。

とはいえ、Appleのサービスが単体でビジネスとして成り立つほどどれだけ魅力的かは、実際に外販がスタートして1-2年ほど経過した後のユーザー数や売上の変化を見てみないと判断できない。下記はサービス部門に含まれる内容の内訳だが、デジタルコンテンツを除いたサービスのほとんどはAppleハードウェアの販売に直結したものとなっている。

Services net sales include sales from Digital Content and Services, AppleCare?, Apple Pay, licensing and other services. Services net sales also include amortization of the deferred value of Maps, Siri and free iCloud services, which are bundled in the sales price of certain products.

前段での説明にあるように、今後ベースユーザーが増えない前提で考えれば、外販に頼った売上増はコンテンツ販売やiCloudでの新規契約、サービス購入にかかっている。とはいえ、この分野ではライバルが多く、コンテンツ配信ではNetflixやSpotify、Amazon.com、クラウドも含めればGoogleやMicrosoftもおり、ハードウェアの魅力を除外したサービス面だけでの勝負は非常に厳しい。iOSデバイスなしでどこまでユーザーをサービスに惹きつけることができるのか、ここが正念場となるだろう。

その意味で、デバイスという"枷"から幸か不幸か解き放たれ、プラットフォームを問わずにOffice 365のようなサービスを提供するビジネスにシフトしたMicrosoftは、ハードウェアにおける勝者のない世界で生き残る術を先に身に付けていたといえるのかもしれない。iPhoneは頭打ち、進出するサービス事業ではライバルが非常に多いという状況で、Appleはどこに"らしさ"を見出すのか。2019年モデルが登場する今秋以降の推移を見守りたい。

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

2019.01.23

Tim Cook氏の投資家向けレターが波紋を呼ぶ

大きな誤算だった新型iPhoneの販売状況

中国勢に翻弄されるApple、噂の「iPhone SE2」は?

AppleのTim Cook(ティム・クック) CEO

1月29日に発表される米Appleの2019年度第1四半期(2018年10-12月期)決算に合わせ、投資家らに宛てた同社CEO Tim Cook氏のメッセージレターが波紋を呼んでいる。

1月2日に発信されたこのメッセージには、当初890-930億ドルとしていた同四半期の売上が840億ドル程度と最大1割程度減少することが記されており、その理由として世界情勢の悪化やそれにともなうiPhone売上減少が挙げられている。この報告を受けて同社株価は1割程度も急落し、iPhoneに部品を提供するサプライチェーンにも影響が拡大している。現在Appleに何が起きており、今後同社はどこに向かうのか。

Tim Cook氏が投資家向けメッセージで語ったこと

Appleが決算発表前のガイダンスを下方修正することは過去にも何度かあったが、iPhone発売以降の現行体制に移行してからは過去最大のインパクトとなった。熱心なAppleウォッチャーとして知られるDaring FireballのJohn Gruber氏はこの件について「2002年6月以来」と述べており、ドットコムバブルがはじけた直後の新製品リリースに苦戦していたAppleの苦境に近い状況を想定しているのだろう。

さて、今回の下方修正最大の要因は中国市場にある。下記はTim Cook氏が投資家らへのメッセージで語った内容だが、中国では2018年後半に経済減速が始まっており、iPhone、Mac、iPadのすべてのカテゴリで売上減少が発生しているという。

> While we anticipated some challenges in key emerging markets, we did not foresee the magnitude of the economic deceleration, particularly in Greater China. In fact, most of our revenue shortfall to our guidance, and over 100 percent of our year-over-year worldwide revenue decline, occurred in Greater China across iPhone, Mac and iPad.

> China’s economy began to slow in the second half of 2018. The government-reported GDP growth during the September quarter was the second lowest in the last 25 years. We believe the economic environment in China has been further impacted by rising trade tensions with the United States. As the climate of mounting uncertainty weighed on financial markets, the effects appeared to reach consumers as well, with traffic to our retail stores and our channel partners in China declining as the quarter progressed. And market data has shown that the contraction in Greater China’s smartphone market has been particularly sharp.

もちろん経済減速を意識して中国の人々の間で旺盛な消費意欲が減退して、高価なApple製品を買えなくなったという話もあるだろう。一方で、特に中国ではiPhoneの競争力がなくなりつつあるという指摘もある。例えばWall Street Journalが1月3日(米国時間)に公開した記事では、本来は中国市場などをメインターゲットに「安価で大画面」をうたって登場したはずの「iPhone XR」が10万円近い値付けで非常に高く、Huaweiなどの競合製品と比較しても機能面で見劣りして魅力的ではないと説明されている。

実際、カメラ機能でいえばより安価な価格帯でHuaweiのP20 ProやMate 20 Proといった製品が提供されており、背面が単眼カメラで値付け面でもiPhone XRは不利だ。価格競争力という点ではXiaomiというライバルもおり、中国市場におけるiPhoneは「iPhone」というブランド価値でしか勝負できていない。

現行のiPhone XR

もともとサプライチェーンの最適化で世界最高レベルの手腕を持つTim Cook氏が中国に築いたiPhoneの製造エコシステムは、Appleを大きく成長させる一方、中国で強力なライバルを育て競合を激化させた。いまや世界で最もスマートフォン激戦区となっている市場において、中国に育てられたAppleが、中国で生まれた競合らによって弾かれつつある。

Appleの誤算と将来

Apple不調の話はいまこのタイミングで出てきたわけではなく、一昨年2017年にiPhone Xをリリースした直後にはささやかれはじめ、昨年2018年にiPhone XS、XS Max、XRをリリースしたことで確信に変わったという流れだ。

特にAppleからオーダーを受注するサプライヤ各社は、生産量の動向を事前に把握しており、昨秋に何段階かにわたってiPhone XRの製造量が当初見込みの半減以下になったことを受けて、このトレンドが確かなものだと認識しただろう。もともとiPhone XRの製造台数は全iPhoneのうち3-4割程度を見込んでいたが、現状では1割強の水準にとどまる。

iPhone XSとXS Maxもすでに販売が頭打ちのため、iPhone Xの製造ラインを復活させて(オーダー済み)在庫部品を消化したり、iPhone 7や8といった旧モデルの流通数量を増やして全体の販売台数を調整したりと、新モデル不調を旧モデル復活で穴埋めする状態が続く。

さらに、すでに製造済みの流通在庫や部品消化のためiPhone XRを大量に販売しなければいけない状況であり、Appleが携帯キャリアにバックリベートを渡す形で値下げを進めたり、トレードインプログラムを介して旧機種の下取りを条件にiPhone XRのみを比較的安価に販売したりと、さまざまな施策が続いている。

米カリフォルニア州サンフランシスコにあるApple San Francisco店舗の入り口に掲げられたiPhone XRの宣伝文句
店内ではトレードインプログラムによるiPhone XRの割引販売告知が掲げられている

iPhone XRの製造数は専用部品である液晶パネルの数量から想定できるが、もともと製造量の少なかったLG Displayはともかく、フォアキャストの大幅減少を受けて最大のサプライヤであったJDIは非常に大きな影響を受けているといわれ、新型iPhoneに関わりの深かったサプライヤほど少なからぬダメージを受けている。結果として、昨年2018年第4四半期(10-12月期)時点ですでに一部サプライヤが大幅な業績の下方修正を行っている。筆者の推測だが、後述のAppleの製造計画を見る限り、今後もしばらくはサプライヤの苦難の時代が続くだろう。

Appleの製造計画に詳しい複数の関係者の話によれば、同社は2019年秋に新しい3モデルのリリースを計画しており、それぞれ「6.5インチのOLED」「5.8インチのOLED」「6.1インチのLCD」という現状のモデル構成をそのまま維持する。機能面での大きな違いは「カメラ性能」で、最上位モデル(6.5インチ)は「3眼カメラ」を採用し、残りはすべて「2眼カメラ」となる。

「3眼カメラ」については競合のHuawei製品とは異なり、望遠や広角ではなく「深度計測」に特化したセンサーになるようだ。主にポートレート撮影を想定したもので、「強力なコンデジ」を突き詰めた競合製品との違いとなっている。また現行モデルではiPhone XRとしてリリースされた普及モデルでも2眼カメラであり、「カメラ性能で競合と比べて不利」という状況を覆す狙いがあると考える。

一方で、2018年モデルでLCD搭載製品の需要があまり見込めないと判断したAppleは、2020年モデルで「OLED搭載モデルのみ」に絞ってリリースする可能性がある。現状聞こえてくるのは「大画面」と「中画面」の2モデル構成で、それぞれの需要をカバーする。また同年代のモデルでより大サイズのカメラセンサーを搭載するという話も出ており、ライバル対抗を隠さない方針のようだ。

次期モデルは高値傾向がより問題に

反面、部品原価は高くなる一方で、この場合カメラモジュールのコストが一気に跳ね上がり全体のBOM (Bill Of Materials)を圧迫する。BOEなど中国系メーカーへのOLEDパネル製造の打診もあるようだが、LG DisplayでOLEDパネル製造が上手くいっていない現状を見る限り、今後も少なくとも1-2年はSamsung Displayによるほぼ独占供給状況が続き、パネル価格も高止まりを続けることになるだろう。つまり2020年も引き続きiPhoneの高値傾向は続き、場合によってはさらなる値上げという可能性も出てくる。

現行ラインアップで最上位機種の「iPhone XS Max」(右)と、その小型版の「iPhone XS」(左)

高価格が敬遠されるなか、iPhone XS、XS Max、XRの世代ではForce Touchの機能を省いてコスト削減までしておきながら、さらに値上げ要素を維持する狙いは何なのか。

これを筆者はイノベーションのジレンマのようなものだと考えている。iPhoneの機能としてはほぼiPhone 6の世代で完成しており、以後は大きなイノベーションなく製品の更新が続いている。一方で、大きな競争にさらされた競合メーカーらは最新機能やアイデアを惜しみなく投入し、「世界初」的なアピールを続けている。

ユーザーの目からすれば「そんなのは微々たる差でスマホの機能自体はたいして変わらない」と思うかもしれない。だがAppleの目にはそう映っておらず、焦りのようなものがあったのかもしれない。その結果、Tim Cook氏の号令で大きく舵を切って登場したのがOLED全面採用モデルである「iPhone X」や、そこに据えられた「Face ID」のような仕組みというわけだ。

おそらく、Appleが一番意識しているのは中国メーカー各社と中国市場で、昨今の大画面化や搭載機能の強化傾向(カメラなど)を見る限り、これはほぼ確信に近いと考える。もしAppleの最近の動きがおかしいと感じる方がいるのなら、それは「中国のライバルに翻弄されているから」と考えていいのかもしれない。

「iPhone SE2」の可能性はあるのか

最後に、昨今話題になりつつある「iPhone SE2」の可能性に触れて締めたい。

つい先日、iPhone SEが再販されて一瞬で売り切れたことが話題になったが、このオリジナル「iPhonse SE」が登場したのは2016年春。ちょうどiPhone 6SとiPhone 7が登場する合間のタイミングのことだ。

色々いわれているが、iPhone SEのもともとの登場経緯は、iPhone 6の不調で部品が消化しきれず、iPhone 5の筐体にiPhone 6Sの部品などを組み合わせ、「小型画面で最新機能」という形で売り出された。価格が最新のフラッグシップモデルよりも安価に設定されていたこともありユーザーからの反応もよかったが、iPhone全体のASP(平均販売価格)を引き下げる要因となった。Appleとしてはあまり積極的に販売したくないモデルでもあり、最大の販売チャネルである携帯キャリアにはあまり商品を流さず、製造も絞っていたという話を聞いている。ある意味苦肉の策で登場した製品といえる。

今回、特にiPhone XRの流通在庫が余る傾向にあり、iPhone SE2が登場する条件が整いつつあるという見方もある。だが、ある関係者の話によれば「iPhone XRは専用部品が多く使い回しが難しい」という理由もあり、高コストな製品をあえて値下げした状態で売るほどApple側にも余裕がないとう状況のようだ。少なくとも、最新機能を搭載した製品を安価に入手するルートとしての「iPhone SE2」は出てくる確率が低いだろう。

クックCEOはこれまで以上に難しい舵取りを迫られる

一方、LG DisplayなどにLCDパネルの発注を行い、今春にも安価なiPhoneの登場を示唆する声も聞く。その関係者の話によれば、実際にこうしたLCDパネル受注が増えているのは事実だとしているが、この情報だけからiPhone SE2のような新しい製品か、あるいは単に旧モデルの製造数を増やしているのかを推測するのは困難だ。

iPhone SE2のような製品を発売して既存の上位モデルの売上をカニバライズするよりも、iPhone 7や8のラインの製造を増やしてローエンド需要を満たすほうが現実的かもしれない。実際、iPhone XS MaxやXSの不調に比して旧製品の大画面モデルは販売数が伸びており、実際にこの予測を補強する。ライバルとの競合に加え、自身の製品の市場バランスを崩さないという両方に気を遣わなければいけないというのも、Appleのつらいところだろう。

キャッシュレス推進に政府が税金優遇、諸外国の実情から日本の課題が見えた

キャッシュレス推進に政府が税金優遇、諸外国の実情から日本の課題が見えた

2018.08.27

目標掲げるも進まない日本のキャッシュレス化

政府がキャッシュレス化推進のため税金優遇を検討

同様の施策を打っている諸外国の状況は?

日本経済新聞の8月21日付けの報道によれば、日本政府はキャッシュレス化推進のための支援策として、QRコードを使った決済基盤を提供する事業者に補助金を供与し、さらに中小の小売店には決済額に応じて時限的な税制優遇を行うことを検討し始めたという。経済産業省では「キャッシュレス・ビジョン」の中で、現行で20%前後の国内のキャッシュレス化比率を2025年までに40%まで引き上げる目標を掲げており、これを税制面から後押ししていく。

同様の施策は台湾など諸外国でもみられるもので、今回はこうした官民共同でのキャッシュレス化における施策や現状についてまとめたい。

インドにおけるキャッシュレス推進の実際

現金決済の割合を減らすため、何らかの電子的な取引に税金的な優遇策を導入するのは珍しい話ではない。例えばインドでは2016年に、小規模な事業者を対象にキャッシュレス対応で年間売上2000万ルピー(約3000万円)あたり30%の税金上の優遇措置を実施することを表明している。また台湾では、モバイルQRコード決済を含むモバイル決済を導入した小売事業者に対し、2020年までの期間限定で営業税を従来の5%から1%まで優遇する措置を講じている。これらは「キャッシュレス社会」推進に向けて民間事業者の対応を政府が後押しするものだ。

だが、こうした税金優遇を含むキャッシュレス推進の意図は、地域によっても異なっている。インドの場合、「シャドウエコノミー」と呼ばれる政府や金融機関が把握しきれていない金融の裏取引が大きな規模で存在しており、汚職や犯罪の温床となっている。同国では2016年末に旧500ルピーならびに1000ルピー紙幣を無効化すると財務大臣のArun Jaitley氏が発表して大きな話題となったが、これも不正一掃を狙った施策だとされている。当時は「最高額紙幣を即座に廃止してタンス預金をあぶり出し、経済を活性化させるキャッシュレス推進に向けた大胆な施策」として大々的に報道されていたと記憶しているが、このキャッシュレス推進効果はむしろ副次的なもので、キャッシュとして眠っていた不正蓄財を無効化させるのが最大の狙いだったと指摘されている。実際、その後すぐに新500ルピーと2000ルピー紙幣が発行されており、必ずしもキャッシュレス誘導を意図したものではないと思われるからだ。

インドのモバイル決済サービスPaytm。ソフトバンクは同社との提携で国内にジョイントベンチャーのPayPayを設立。実質的にYahoo! Japanのアプリ決済サービスとなる

インドに限らず、マネーロンダリングなどの不正送金や資金移動を防止し、適切な形で課税すべくキャッシュレスを推進する政府機関は多い。現金決済比率が2-5%程度まで低下しているといわれるキャッシュレス先進国の北欧についても同様の背景がある一方、ほとんどの資金の流れが追跡できるため徴税が完全自動化されるなどのメリットがあるようだ。北欧ではもともと国土の広さの割に人口が少なく、しかも地理的に偏って存在しているため、現金移動や管理コストが経済規模に比べてばかにならないという事情があった。そのため、現金取り扱いを極力減らしていくことでATMや銀行での現金取り扱いコストが大幅に減少し、その副作用として銀行強盗のような犯罪も大幅に減少するという報告がある。小売店舗側で現金の取り扱いを拒否できる法案も成立しており、おそらく今後数年内にスウェーデンやデンマークなどを中心に現金決済比率が1%未満になると予想されている。

2020年までの期間限定減税措置で経営者の重い腰を動かす

とはいえ、いまだキャッシュレス決済比率が2割程度といわれ、おそらくはインドのような大胆な施策も展開しにくい日本では、こうした仕組みをすぐに実現するのは無理だろう。その点で参考になるのは、比較的日本に近いキャッシュレス水準で、さらにその勢いを加速させていこうとしている台湾だろう。UBSの資料によれば(PDF形式)、2007年と2017年との比較で、日本では現金決済比率が90%程度だったものが2017年の段階で80%程度にまで低下している。日本ほどではないものの、台湾も現金決済比率が低下しており、この国の主役はいまだ現金にあることがわかる(ただしUBS以外の資料では日本より台湾の方がキャッシュレスが進んでいるというデータもある)。

2007年と2017年の現金決済比率を比較したUBSの資料

興味深いのは中国で、2007年の段階では現金決済比率で日本と台湾とで肩を並べていたものが、一気に70%程度にまで低下している。この勢いは年々加速しており、おそらく近いうちに香港やシンガポールと遜色ないものになると予想する。前述のインドもいまだ現金主義ではあるものの、トレンドはキャッシュレス方向へと転換しつつあり、高額紙幣廃止という劇薬が一定の刺激となったことがうかがえる。

筆者も毎年台湾を訪問しているが、年々現金を使う機会は減っていると感じている。店舗はクレジットカードまたはEasyCardと呼ばれる交通系ICカードでの買い物が可能で、現金が必要とされるのは直近で「現金のみしか扱わない店舗」「交通系ICカードのチャージ」のみに限られていた。だが今年2018年10月には海外で発行されるクレジットカードでも交通系ICカードへのチャージが可能になる予定で、外国人が台湾旅行で一度も現金やATMに触れることなく入国から出国まで過ごす日がまもなくやってきそうだ。台湾モバイルペイメント副社長の徐文玲氏によれば、現在台湾政府は2015年時点で26%だったキャッシュレス化比率を2020年までに5ヶ年計画で52%まで引き上げることを目標にしており、その目標は幾分か日本より高い。

都内で講演する台湾モバイルペイメント副社長の徐文玲氏

台湾で金融サービスの中核にいるのは財金資訊(FISC)だ。同国の中央銀行にあたる組織の一部であり、いわゆる日本の全銀協にあたる送金サービス仲介などを行っている。そのほか、税金支払いや資金調達のプラットフォーム構築や、クレジットカードやキャッシュカードの普及推進などの役割を担っており、最新の成果としてモバイル決済サービス「台湾ペイ」をリリースしている。

台湾ペイはいわゆるQRコード決済の機能を提供するモバイルアプリで、「2025年でのキャッシュレス決済比率9割、スマートフォンユーザーの6割がモバイル決済を活用」という野心的な目標を実現するための推進剤に位置付けられている。もともと台湾国内で37行ある銀行がそれぞれQRコードによる決済を推進しようとして規格分裂に向かっていたものを、共通規格としてまとめたのがその経緯だ。段階的に機能強化が進んでおり、当初はモバイルバンキングや銀行口座接続によるQRコード決済だけだったものが、将来的にはEMVCoの推進するクレジットカードのQR規格取り込みや交通系ICカードへの対応など、「ウォレット」アプリとしてより幅広い用途で使えるものを目指している。2018年5月末時点での導入店舗数は2.6万で、2018年後半には前述クレジットカード払いに対応する。最終的にウォレット内に身分証を格納して、さまざまな公共サービスを利用できる仕組みを提供しようとしている。

台湾ペイの対応状況とロードマップ

台湾ペイに関してより興味深いのが普及施策だ。筆者が2018年夏に訪問した時点ではそれほど対応ロゴを見かけなかったものの、「使える場所がなければ誰も使わない」とばかりに普及に向けたさまざなプロモーションを仕掛けている。もともとFISCは銀行を束ねる組織で、銀行間の資金移動手数料をゼロにする作戦で普及を促している。また銀行各社が出資している経緯もあり、このプロモーションは銀行自体がアピールしているほか、決済サービスを導入する加盟店開拓でも銀行自らが動いているという。

そしてこれをさらに加速するため、冒頭でも触れた営業税の期間限定での低減措置を行い、特に中小加盟店の開拓材料としている。5%から1%というのはかなり大胆な値下げだと思うが、期間限定ということで導入にスピード感を出し、各小売の重い腰を上げさせるのが狙いとなる。これなら「手数料0%とはいっても、どれだけの顧客が使うかわからない決済サービスを、店舗オペレーションやスペースを犠牲にしてまでわざわざ導入しない」と言っている経営者であっても、税金の減免措置を理由に導入に踏み切る可能性が高いからだ。

使える場所が多ければサービスを利用する潜在顧客も増えるわけで、2020年の52%目標達成までによい効果が期待できる。最終的にはキャッシュレスに移行することで現金管理や発行コスト低減、さらに金融サービスの高度化など、減税分の税収減を補う効果が得られると政府としても考えているのだろう。

日本における影響

では、日本においてQRコード決済を含む電子的な決済手段に対する減税措置はどの程度の効果があるのか。やり方や減税率しだいだが、現金決済主義を貫く店舗の理由の1つは利益率を勘案してのものであり、仮に店舗オペレーションが煩雑化したり、キャッシュフローの管理で従来の手法が使えなくなったとしても、導入の検討に踏み込む可能性が高い。おそらくは、手数料0%よりも減税によるキャッシュレス比率上昇効果の方が期待できるはずだ。

決済手数料0%(あるいは1%以下)のプロモーションはLINE Payをはじめ、今年2018年秋にもサービスを開始するといわれるソフトバンク傘下のPayPayまで、新興系の決済サービス各社が展開している。だが決済手数料勝負では体力のある企業が最後まで残る持久戦となる可能性が高い。特に「QRコード決済でユーザーに5%還元」を打ち出しているLINE Payのような比較的体力のある会社に、大手ではない他の事業者が真正面から対抗するのは難しく、0%プロモーションを展開している各社はライバル脱落まで体力勝負を仕掛けるはずだ。最終的に寡占状態で市場に残ることができれば、大きなユーザー数と加盟店数を武器に手数料や各種データビジネスのさらなる展開が容易になる。

一方で、こうした寡占状態に移行するまでに多数の決済サービスが市場に乱立するわけで、加盟店とユーザーの双方にとってマイナスの効果を生み出す。この混乱期間が1-2年程度と予測している関係者もいるが、実際にユーザーがうまく獲得できずに混乱期が長引く可能性もある。ゆえに日本におけるキャッシュレス普及を早めるのであれば、QRコードのようなアプリ決済の仕組みでは経済産業省が主導する「店舗側端末でのQRコード決済方式統一」を推し進めつつ、減税に後押しという二重効果を期待するのが吉となる。

筆者の見解だが、キャッシュレス化の加速のためには特定の技術方式にこだわらず、さらにユーザーと加盟店の両方にとってメリットとなるサービスを構築するのが重要だと考える。例えばデンマークで利用されているMobilePayやスウェーデンのSwishのようなウォレットアプリではNFCを利用していないが、銀行口座直結で手軽に送金や決済ができる点で利用者を獲得しており、参考になる部分があるはずだ。また中国ではAlipayやWeChat Payが市民権を得て巨大な決済プラットフォームとして君臨しているが、これも2社の熾烈な競合とユーザー側のメリット双方の効果あってのものだ。日本におけるQRコード決済のようなアプリ決済サービス乱立の背景に、最終的に自社サービスへのロックインを狙ったものが少なからず散見される。

最終的にユーザーがそれにメリットを感じるのであれば普及していくと思うが、そのためにも適度な競合が必要だ。政府にはぜひ、こうした競争を促す形で減税を含む支援策を打ち出し、来たるべきキャッシュレス目標を実現してもらいたい。