「阿久津良和」の記事

阿久津良和

阿久津良和(あくつよしかず)

ITライター

1972年生まれ。PC総合誌やDOS/V専門誌、Windows専門誌など、各PC雑誌の編集部を経たのちに独立。WindowsとLinuxをこよなく愛するものの、常にユーザーの立場に立った記事を執筆している。最近はクラウドを中心としたビジネスソリューションを広く取材を遂行中。コンピューター関連の著書も多数。
URL https://www.cactus.ne.jp/
「MS Nose」で新規事業創出を目指すニチレイ

阿久津良和のITビジネス超前線 第8回

「MS Nose」で新規事業創出を目指すニチレイ

2019.04.11

「おいしさ」へ科学的にアプローチするニチレイ

紆余曲折のプロジェクトが新規事業につながるまで

技術者の想いが会社を動かす基盤に

我々の生活に密着していながらも完全に解明されていないのが、食事中の「おいしさ」だ。一見すると舌体上の味蕾(みらい)で感じるものと思われるが、冷凍食品大手のニチレイ 技術戦略企画部 基盤技術グループ アシスタントリーダー 畠山潤氏は「『おいしさ』は味覚・聴覚・視覚・触覚・嗅覚(きゅうかく)で構成されるが、特に嗅覚が重要」と話す。その嗅覚を科学的に可視化する分析機器、「MS Nose(エムエスノーズ)」を通じて、ニチレイは新規事業の創出を目指している。

「MS Nose」と畠山氏

「おいしさ」の認識には香りが重要

我々は牛肉・豚肉・鶏肉の味の違いを認識しているはずだが、畠山氏は「視覚や嗅覚を抑制した状態で口に含んでも、その違いは分からない」と説明する。とある畜産分野で著名な研究者の報告によれば、通常の形態でも鶏肉以外は正解率が低く、ひき肉にしてしまえばすべての肉で正解率が降下。さらにスープ状ではすべての正解率が30%を切るという。人間は香りを含めた感覚を味として認識しているからこそ、嗅覚が重要な要素を占める。よく「風邪を引くと味が分からない」というが、この現象も同じ理由があるのだろう。

既存技術でも食品内の味や香りの成分そのものを分析することは可能だが、人が認識する感覚レベルの測定は難しかった。特に嗅覚による認識は、口内で食品をかみ砕き唾液(だえき)と混ざった後、揮発した空気が喉から鼻に抜ける際に初めて成り立つ。これはレトロネーザルアロマ(口中香)と呼ばれるものだが、読者諸氏も食事風景を思い返せばお分かりのとおり、温度変化や咀嚼(そしゃく)過程でレトロネーザルアロマは刻一刻と変化するため、定量化するのが不可能だった。

入社当初はチキンブイヨンの開発に携わり、香りの分析に従事していた畠山氏は、「既存技術による分析手法ではプロの料理人レベルの味に近づけない」という課題を抱えていた。その時に出会ったのが、英国ノッティンガム大学 食品科学科 フレーバーテクノロジー部門の名誉教授を務めるAndy Taylor氏である。2006年に「MS Nose」の発明者であるTaylor氏の論文を読み、タイミングよく訪日したTaylor氏に協力を仰いだ。Taylor氏はノッティンガム大学とのスピンアウト企業であるFlavometrixを設立し、レトロネーザルアロマの受託分析を事業として行っていた。2009年にはニチレイフーズとFlavometrixの間で研究パートナー契約が結ばれる。

レトロネーザルアロマを可視化する「MS Nose」

当時、MS Noseの装置はノッティンガム大学にしか存在していなかったため、畠山氏は2010年から約1年間、2011年の途中にも3カ月間、同大学へ出向くことになる。畠山氏はTaylor氏に「深い部分まで研究し、自分で分析したい」と伝え、MS Noseを借用する契約を取り付けた。当時のニチレイでは海外企業と共に研究開発するケースはまれだったが、「(畠山氏が在籍していたニチレイフーズには)協力的な上司がいて、研究開発部長を説得したら、次は社長、次は持ち株会社のニチレイ役員と話が進んだ。MS Noseの将来性をアピールするといった周りのサポートを受け、実現に至った」(畠山氏)と、スムーズに研究をスタートさせることができた。

研究方法を学んだ後、ニチレイの研究技術として取り込むか考えあぐねていた畠山氏だが、2012年ごろ、Taylor氏と英国マンチェスターにある企業との間で次世代型MS Noseの開発話が浮かび上がる。畠山氏は再びニチレイフーズの研究開発部長や社長の下に出向き、ニチレイは次世代機開発に参加することになった。しかし、当初開発された試作機では意図したとおりに動作しなかったという。「本来のMS Noseは水溶性の成分を分析する機械。そのためメーカーは香り分析に対応させる拡張を試みたが、うまくいかなかった」(畠山氏)。加えてTaylor氏と開発企業間のプロジェクトは頓挫し、英国企業側を頼ることが難しくなってしまった。ニチレイは、国内の小規模工場などをあたって独自拡張を行うことになり、MS Noseが国内で稼働するまでには、2012年12月導入から数えて3年後の2015年12月までかかってしまった。

ニチレイグループ 技術開発センターの一室に設置された「MS Nose」。黒い部分が同社の独自実装部分である

本格的に稼働可能になったMS Noseだが、ここに至るまで8年の月日が過ぎさってしまっている。2014年にニチレイフーズからニチレイへ移籍した畠山氏の元に、役員から「本プロジェクトは終わり」との声がかかり、畠山氏も品質保証部へ異動することとなる。それでも、冷凍倉庫内の分析センターで輸入した冷凍果汁の品質分析に従事する傍らで、畠山氏は空き時間を利用しながらMS Noseの研究開発に取り組んでいたという。畠山氏は「受託分析を請け負っていたが、私以外は数名の派遣社員しかおらず、手が回らなかった。それでも(MS Noseに関する)メディア取材などを通じて社内認知度が高まり、会社側もサポートスタッフを割り当ててくれた」と当時を振り返る。

MS Noseでは物質を構成する分子をイオン化して分子量を測定する質量分析法(Mass Spectrometry)を使う。約50回/秒の測定を通じて、呼気中の香気成分を分析する

MS Noseの実用化に取り組んだ技術者の思い

2018年5月に現在の部署に戻った畠山氏だが、MS Noseの導入・稼働へモチベーションを維持できた背景には、ニチレイが持つ企業文化が大きく影響している。「食品メーカーの根幹をなす『おいしさの定量化』に興味があった。(8年間の月日で)私なりの進捗があり、(畠山氏が所属する)技術戦略企画部は『10年後のニチレイに役立つ』研究を行っており、短期的な成果を求められていない」(畠山氏)。さらに「両親は札幌で理髪店を営んでいる。そのため『技術でお金をいただく』という姿勢に共感し、技術や知見で立脚する研究者を目指していた。入社時も『自分独自の技術を身に付けたい』という目標を持ったが、振り返るとMS Noseを通じて独自技術を蓄積できた感がある」(畠山氏)と振り返った。

Taylor氏はガムをかんだ時のレトロネーザルアロマの測定を行い、レトロネーザルアロマは20分以上継続しているのにもかかわらず、ミントフレーバーを認識するためには、甘味が大きく影響していることを立証。写真は同様の実験結果を畠山氏が再現したもの

ニチレイは「これまで弊社はおいしさとコストパフォーマンスの両立を実現してきたが、他方で食べる・作る楽しみは提供し切れていない。たとえば3Dフードプリンターで食品を作り出し、ロボティクスによる食品提供時は、従来と異なる調理方法や食材の組み合わせが求められる。その際は口内の変化を反映させた新しいレシピが必要になるが、そのデータベースは存在しない」(畠山氏)と、今後わき上がるであろう課題を提唱し、MS Noseを通じて既存事業の拡大および新規事業創出への取り組みを目指している。その一例が食のレコメンドサービス「conomeal(このみる)」。食の好みをデータベース化し、ユーザーの好みと気分を独自のアルゴリズムで掛け合わせたレシピを提案するアプリケーションを2020年にローンチする予定だ。

冷凍食品で著名なニチレイだが、低温物流や不動産、バイオサイエンスといった事業を展開していることはあまり知られていない。同社は第2次世界大戦中の1942年に当時の政府が設立した帝国水産統制株式会社を前身とし、終戦後は1945年12月に民間企業の日本冷蔵として、戦後の食糧危機を解決するために冷凍技術の研究・開発を続けてきた。1985年2月に社名を現在のニチレイに変更。2017年4月からは社内に「事業開発グループ」を設立し、新規事業創出を目指している。その基盤となるMS Noseが1人の技術者を通じて世に送り出されたことを我々は認識すべきだろう。

阿久津良和(Cactus)

エバンジェリストからアドボカシーへ、MicrosoftとIBMが進める開発者起点のIT変革

阿久津良和のITビジネス超前線 第7回

エバンジェリストからアドボカシーへ、MicrosoftとIBMが進める開発者起点のIT変革

2018.12.18

デジタルトランスフォーメーションは世界的な潮流

重要な役割を果たす「デベロッパー・アドボカシー」とは?

大きなデジタル変革、日本企業が”また”乗り遅れないために

昨今のIT企業では、「エバンジェリスト(伝道師)」ではなく「デベロッパー・アドボカシー」「デベロッパー・アドボケイト」という肩書きを目にすることが多い。本来は、その権利を代弁・擁護し、権利実現を支援する「アドボカシー(advocacy)」の実践者を指す言葉だが、昨今のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の潮流で欠かせないキーワードとなりつつある。今回は大手IT企業でアドボカシー職を務める2人の著名人に話をうかがった。

エバンジェリストからデベロッパー・アドボカシーへ

日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)でデベロッパー・アドボカシー事業部を統括する大西彰氏は、エバンジェリストとデベロッパー・アドボカシーの違いについて次のように説明した。「エバンジェリストはテクノロジーとマーケティングのハイブリッドで、世界観や製品の良いところを1対大勢で主張する。デベロッパー・アドボカシーは現実の開発者と1対1で向き合う。例えば(機能が正しく)動作しないといった悩みに開発者と同じ目線で受け止め、その声を本社へフィードバックする」。つまりエバンジェリストもデベロッパー・アドボカシーも対する相手は顧客でありながら、その役割は似て非なる。

日本IBM デジタル・ビジネス・グループ デベロッパー・アドボカシー事業部 Tokyo City Leader(事業部長) 大西彰氏

日本マイクロソフト(日本法人)からマイクロソフトコーポレーション(本社)直属の組織に席を移し、デベロッパー・アドボカシー職を務める寺田佳央氏も同様の説明を行いつつ、「私の中では(エバンジェリストからデベロッパー・アドボカシーへ)肩書きが変わっても、取り組む内容や姿勢はさほど変わっていない。Javaを盛り上げる上でコミュニティと良好な関係を築くことが大切で、Javaエバンジェリスト時代から開発者との会話や交流をとても大切にしてきた」と振り返る。奇しくもその発言は大西氏も同様で、「本質は変わっていない。振り返ると日本マイクロソフトのエバンジェリスト時代もデベロッパー・アドボカシー的な活動だった」と語る。

マイクロソフト デベロッパー・リレーション クラウド+AI リージョナル・デベロッパー・アドボカシー 寺田佳央氏

ここから見えるのは、顧客に寄り添うという顧客ファースト視点を両者とも重視しており、その意識を具現化したのがデベロッパー・アドボカシーという役割なのだろう。

ここで両者の背景を説明したい。大西氏は日本マイクロソフトで約12年、エバンジェリストなどを務め、2017年10月から日本IBMに移籍。IBMは「本社CEOのGinni Rometty(ジニー・ロメッティ)やCDO(Chief Digital Officer)のBob Lord(ボブ・ロード)も開発者にコミットすることを明言」(大西氏)しているように、開発者への関与を強化し、現在約200名のデベロッパー・エコシステムグループで広域な情報発信や個別の重要顧客を支援する活動を行っている。同社は主要なビジネス拠点にリーダーを配置しているが、東京の拠点は少数精鋭でデベロッパー・アドボカシー、プログラムマネージャーらが活動中だ。

寺田氏のJavaに関する活動は、以前の日本オラクル時代から有名であったが、2015年7月に日本マイクロソフトへ移籍。とあるイベントへ参加した際、「以前のマイクロソフトとは大きく変わった」という印象を持ったのが最初で、さまざまな開発言語に積極的に対応したMicrosoft Azureの可能性に惹かれたことで籍を移したという。Unix や Java の文化しか知らない自分だからこそ、そして代表的なマイクロソフトの競合企業 (Sun Microsystems) に勤めていた自分だからこそ、大きく変わったマイクロソフトの今を伝えられると考えた。そして「『Microsoft Love OSS !!』のメッセージを日本全国の開発者・運用者の皆様にお届けしたい」(寺田氏のブログより言葉を抜粋)と自身の役割を語っていた。現在、寺田氏もマイクロソフトコーポレーション所属で、千代田まどか氏(ちょまど)と共に日本リージョン(地域)担当のアドボカシーとして活動している。

日本はやっぱり遅れ? デジタルトランスフォーメーション

さて、各社がデベロッパー・アドボカシーという役割を設ける理由だが、背景には世界的なDXの潮流が大きい。デジタルテクノロジーで企業の変革を起こすには、ソフトウェアによる最適化が必要だが、そのソフトウェアのコードを書く開発者は特に日本で軽視されがちだ。

ビジネスリーダーとソフトウェア開発者の両者が「両輪」となってサービス開発を共に進めるのが理想ながらも実現していない。トラディショナルな企業の縦割り構造や旧態依然の企業文化など、DXが進まない理由は多岐にわたるが、この状況について大西氏は、「専門家の皆さんは難しく語っているものの、とどのつまり『(1)無駄な時間を省いて、(2)最初に全体を判断し、(3)どこからでもアクセスできる』。この3つが重要」と指摘する。

他方で両社に共通するのがクラウドの存在だ。日本IBMは「IBM Cloud」、日本マイクロソフトは「Microsoft Azure」を持つプラットフォームベンダーだが、クラウドの主役はSaaSなどクラウド上で動作するサービスであり、サービスを開発する開発者が最重要となる。そのため日本IBMは、現実世界のシナリオに則したオープンソースのアプリケーション集「IBM Developer Code Patterns」を運営して、「開発者の目的にあったシナリオを見つけて頂き、素早く試してもらう道を作る」(大西氏)活動を続けてきた。また、2018年6月11日に開催したThink Japan IBM Code Dayには3,000人以上が来場。他社ベンダーも参加する同社としては史上初のイベントに対して、「古くからお付き合いのあるパートナー様からは『IBMも変わった』というポジティブなフィードバックを頂いた」(大西氏)。

このように開発者コミュニティに対する積極的な姿勢は、日本マイクロソフトも同様だ。日本マイクロソフトの年次イベントである、de:code や Tech Summitでは、WindowsやOffice、.NETと言った既存のマイクロソフト製品・技術のコミュニティやファンをとても大切にしながらも、さらに今では当たり前のようにOSS に関連したセッションも数多く行われている。また、寺田氏はMicrosoft MVPに代表されるインフルエンサー支援やコミュニティへ積極的に参加している。

そして寺田氏の今の活動には、デベロッパー・アドボカシーへ就任する前の経験が、大きな影響を与えていると言う。「2年ほど前までは、プレゼンで発表することが業務の中心だった。それが、昨年よりお客様の実ビジネスの課題を、目の前で直接解決していく“ハックフェスト”を実施するようになった。もちろんプレゼンはとても重要で今後も実施していく。しかし、テクノロジーの領域によっては、約1時間のセッションで伝えることが難しい技術もある。たとえば、Kubernetesのような、開発手法、運用方法、DevOps、マイクロサービスのように多岐にわたるノウハウが必要な技術だ。ハックフェストは、プレゼンより多くの時間を掛け、アーキテクチャや実際のコーディング内容を確認し、操作方法でつまずくポイントを詳細に説明できる。実際に参加されたお客様やコミュニティ・メンバーが短期間で著しい成長される姿を目の当たりにし、この取り組みは素晴らしいと感じたと共に、この体験が私自身も大きく成長させた。そしてアドボカシーになった今も、コミュニティに向けてハックフェストを実施している」と、開発者と同じ目線で語る重要性を力説する。

寺田氏はデベロッパー・アドボカシーとして、「私自身は顧客が幸せになることを考えて、顧客が作りたいシステムに関する情報や技術をお届けしたい。その結果として日本IT市場が前進する活動を続けたい」と抱負を語る。大西氏も「IBMはさまざまなテクノロジーにコミットしている。開発者に対してオープンであるイメージを伝えて『ファン』になって頂きたい。個人的には日本のDXを加速させるために顧客支援を続けていく」(大西氏)と述べ、コミュニティや顧客に対する支援と、日本企業のDX推進を目指す姿勢を示した。

各社は開発者起点のエコシステム拡大を展望

お二人の取材を通じて感じたのは、ソフトウェア開発者の重要性である。筆者も以前はプログラマーとして働いた経験を持つが、今思い返せば恵まれた環境とは言い難かった。各所で叫ばれているDXの本質はワークフローを最適化するサービスにあり、サービスを開発するソフトウェア開発者にある。それを理解しているIT企業は開発者起点のエコシステム拡大を踏まえて、デベロッパー・アドボカシーの活動を始めているのだろう。

阿久津良和(Cactus)

ポストビッグデータ時代におけるプラットフォーマーの条件

阿久津良和のITビジネス超前線 第6回

ポストビッグデータ時代におけるプラットフォーマーの条件

2018.10.23

ポストビッグデータ時代に注目したい米Teradata社

Teradataの戦略やソリューションを紹介するイベントを取材

Teradata(テラデータ)という企業をご存じだろうか。1979年に米国で創業し、現在ではクラウドベースのデータおよびアナリティクス(分析)に特化したエンタープライズ企業である。

日本法人は日本テラデータとして活躍しているが、日本マイクロソフトなどグローバルIT企業と比較すると、日本での知名度はさほど高くはない。だが、Teradataが持つ潜在能力は実に高く、ポストビッグデータの時代を迎えた現在こそ注目すべき企業の1つに数えるべきだ。

今回は、米国日時の2018年10月14~18日にラスベガスで開催された「Teradata Analytics Universe 2018」を中心に、同社の戦略やソリューションをご報告したい。

データウェアハウスからデータインテリジェンスへ

イベント初日の基調講演では、50カ国3,000人以上が集まった会場の聴講者に対して、Teradataのビジョンが語られた。現在同社は1,200万ユーザーを抱えつつ、11兆のクエリを通じて840EB(エクサバイト)のデータが使われる状況下にある。そのようななか、講演ではTeradata COO, Oliver Ratzesberger氏が「パーベイシブデータインテリジェンスの新時代を切り開いていく」と述べた。

Teradata COO, Oliver Ratzesberger氏

抄訳すれば『意思決定者のために加工・分析したデータの普及』。これが新たなTeradataを象徴するキーワードだ。同社は従来のDWH(データウェアハウス)企業から、ユビキタスなデータインテリジェンスを届ける企業に生まれ変わるという。イベント開催直前に発表した新たなコーポレートロゴにも同様のメッセージが込められており、その意思は登壇時の発言「アナリティクスを買うのはやめよう」(Ratzesberger氏)にも通じる。

新たなTeradataロゴ

Ratzesberger氏の発言は過去の自社を含めた旧態依然としたアナリティクスツールを否定するものだった。その理由は、パーベイシブデータインテリジェンスを実現するソリューション「Teradata Vantage(以下、Vantage)」の存在が核にあるからだ。Vantageの導入事例として、オーストラリアのQantas Airways Limited(カンタス航空)が成し得た燃料消費率1.5%の改善や、米通信キャリアのVerizon Communications(ベライゾンコミュニケーションズ)の月間解約率を1.2%で抑制したことを紹介。また、米国の非営利民間医療保険の最大手であるKaiser Permanente(カイザーパーマネンテ)は、Vantageを活用することで、年間に亡くなる12万5,000人の10%を救い、3,000億ドルの経費削減に成功したという。

Teradata President and CEO, Victor Lund氏は「現在のビジネスで求められるのは、保有するデータを容易に取り出して活用できる仕組み」だと述べる。多くの企業は蓄積したデータを古いシステムで管理し、データアナリストはデータコネクターを通じて分析前の処理を行うだろう。TeradataはVantageについて、「常にすべてのデータを管理するため、分析プロセスや展開先、分析による洞察を容易に得られる」と説明する。

Teradata President and CEO, Victor Lund氏

Teradata Vantageで何ができるのか

TeradataはVantageのメリットとして「好みの言語やツールが使用できる」「分析関数とエンジンを単一化」「複数のデータセットをサポート」の3要素を得られると語る。「皆さんに適切なツールを使って頂きたい。Vantageは『適切なツールを適切な仕事に使う』という概念が背景にあり、データの形状や分析内容に応じて言語やエンジン、4D Analyticsなどを用いて、広範なビジネス課題を解決できる」(Teradata SVP of Marketing, Chris Twogood氏)という。具体的なSQLやPython、Rなどの開発言語、各種BIツールに加えて、SASやJupyter、RStudioといったプラットフォームで、JSONやBSON、AVRO、CSV、XMLといったデータを扱える。

Teradata SVP of Marketing, Chris Twogood氏

また、すべてのデータをいつでも活用できるのがVantageが備える特徴の1つ。データをスピンアップし、必要な場面でダイナミックに分析できる場面が増えているが、従来のデータを読み込んで変換する過程はトラブルを引き起こす要因に数えられる。この課題に対してVantageはデータを1つのクエリで取得し、そのまま分析を実行するNative Object Storeの実現を2019年リリース予定の次期Vantageで容易にするという。データサイエンティストやビジネスアナリストはAmazon S3やAzure Blob上のデータをシームレスに処理できる。

Native Object Storeのイメージ図
Teradata President of Teradata Labs, Oliver Ratzesberger氏(左)とMicrosoft General Manager of Azure Media and Entertainment, Azure Storage and Azure Stack, Tad Brockway氏(右)による対談も行い、良好な関係性をアピールした

データ分析の前のデータ準備に課題、全自動化で解決へ

イベントではほかにも著名な登壇者により、企業のデジタル化に向けた施策など多くの話題が語られたが、最後はTeradata VP of Technology and Innovation, Jacek Becla氏の発言に注目したい。同士は長年スタンフォード大学に在籍していたが、Teradataに席を移した理由の1つとして、「顧客視点でエンタープライズの仕事に携わっている。技術や分析エンジンに取り組み、具体的なソリューションを実現できる」と述べた。

Teradata VP of Technology and Innovation, Jacek Becla氏

Becla氏は主に研究的視点から技術に携わっているが、「データラングリング(飼育)とスキーマ設計に7割の時間が費やされる」と、分析に至るまでのデータ準備に多様な課題があると指摘した。その上で「速さや最適性といった議論ではなく、すべてを自動化する」(Becla氏)のがVantageの意義であると語る。前述したTwogood氏が述べたようにNative Object Storeの実装は来年以降だが、「単なるビジョンではなく、研究所には試作機もある。1つのクエリにデータを割り当て、PB(ペタバイト)級のクエリを実行できる」(Becla氏)と多様な分析に集中できることを強調した。合わせて機械学習に用いるGPUのマルチスケジューリングについて、解決策を検討しているとして、現在取り組んでいる研究成果もいくつか披露した。

今後の機能については実装後に機会があれば紹介したいが、強いて昨今のバズワードを用いれば、現在は「ポストビッグデータ時代」に突入している。大量のデータを処理するビッグデータプラットフォームは普遍化し、利用する企業側はもちろん分析ソリューションの提供側でも、データの集積方法や更新の容易性、アクセスの最適化が課題として挙げられてきた。これらの諸条件を解決するには我々の意識変革も伴うが、基盤となるデータ・分析プラットフォームの躍進は、課題解決の大きな近道となり得るだろう。

阿久津良和(Cactus)