「阿久津良和」の記事

阿久津良和

阿久津良和(あくつよしかず)

ITライター

1972年生まれ。PC総合誌やDOS/V専門誌、Windows専門誌など、各PC雑誌の編集部を経たのちに独立。WindowsとLinuxをこよなく愛するものの、常にユーザーの立場に立った記事を執筆している。最近はクラウドを中心としたビジネスソリューションを広く取材を遂行中。コンピューター関連の著書も多数。
URL https://www.cactus.ne.jp/
ポストビッグデータ時代におけるプラットフォーマーの条件

阿久津良和のITビジネス超前線 第6回

ポストビッグデータ時代におけるプラットフォーマーの条件

2018.10.23

ポストビッグデータ時代に注目したい米Teradata社

Teradataの戦略やソリューションを紹介するイベントを取材

Teradata(テラデータ)という企業をご存じだろうか。1979年に米国で創業し、現在ではクラウドベースのデータおよびアナリティクス(分析)に特化したエンタープライズ企業である。

日本法人は日本テラデータとして活躍しているが、日本マイクロソフトなどグローバルIT企業と比較すると、日本での知名度はさほど高くはない。だが、Teradataが持つ潜在能力は実に高く、ポストビッグデータの時代を迎えた現在こそ注目すべき企業の1つに数えるべきだ。

今回は、米国日時の2018年10月14~18日にラスベガスで開催された「Teradata Analytics Universe 2018」を中心に、同社の戦略やソリューションをご報告したい。

データウェアハウスからデータインテリジェンスへ

イベント初日の基調講演では、50カ国3,000人以上が集まった会場の聴講者に対して、Teradataのビジョンが語られた。現在同社は1,200万ユーザーを抱えつつ、11兆のクエリを通じて840EB(エクサバイト)のデータが使われる状況下にある。そのようななか、講演ではTeradata COO, Oliver Ratzesberger氏が「パーベイシブデータインテリジェンスの新時代を切り開いていく」と述べた。

Teradata COO, Oliver Ratzesberger氏

抄訳すれば『意思決定者のために加工・分析したデータの普及』。これが新たなTeradataを象徴するキーワードだ。同社は従来のDWH(データウェアハウス)企業から、ユビキタスなデータインテリジェンスを届ける企業に生まれ変わるという。イベント開催直前に発表した新たなコーポレートロゴにも同様のメッセージが込められており、その意思は登壇時の発言「アナリティクスを買うのはやめよう」(Ratzesberger氏)にも通じる。

新たなTeradataロゴ

Ratzesberger氏の発言は過去の自社を含めた旧態依然としたアナリティクスツールを否定するものだった。その理由は、パーベイシブデータインテリジェンスを実現するソリューション「Teradata Vantage(以下、Vantage)」の存在が核にあるからだ。Vantageの導入事例として、オーストラリアのQantas Airways Limited(カンタス航空)が成し得た燃料消費率1.5%の改善や、米通信キャリアのVerizon Communications(ベライゾンコミュニケーションズ)の月間解約率を1.2%で抑制したことを紹介。また、米国の非営利民間医療保険の最大手であるKaiser Permanente(カイザーパーマネンテ)は、Vantageを活用することで、年間に亡くなる12万5,000人の10%を救い、3,000億ドルの経費削減に成功したという。

Teradata President and CEO, Victor Lund氏は「現在のビジネスで求められるのは、保有するデータを容易に取り出して活用できる仕組み」だと述べる。多くの企業は蓄積したデータを古いシステムで管理し、データアナリストはデータコネクターを通じて分析前の処理を行うだろう。TeradataはVantageについて、「常にすべてのデータを管理するため、分析プロセスや展開先、分析による洞察を容易に得られる」と説明する。

Teradata President and CEO, Victor Lund氏

Teradata Vantageで何ができるのか

TeradataはVantageのメリットとして「好みの言語やツールが使用できる」「分析関数とエンジンを単一化」「複数のデータセットをサポート」の3要素を得られると語る。「皆さんに適切なツールを使って頂きたい。Vantageは『適切なツールを適切な仕事に使う』という概念が背景にあり、データの形状や分析内容に応じて言語やエンジン、4D Analyticsなどを用いて、広範なビジネス課題を解決できる」(Teradata SVP of Marketing, Chris Twogood氏)という。具体的なSQLやPython、Rなどの開発言語、各種BIツールに加えて、SASやJupyter、RStudioといったプラットフォームで、JSONやBSON、AVRO、CSV、XMLといったデータを扱える。

Teradata SVP of Marketing, Chris Twogood氏

また、すべてのデータをいつでも活用できるのがVantageが備える特徴の1つ。データをスピンアップし、必要な場面でダイナミックに分析できる場面が増えているが、従来のデータを読み込んで変換する過程はトラブルを引き起こす要因に数えられる。この課題に対してVantageはデータを1つのクエリで取得し、そのまま分析を実行するNative Object Storeの実現を2019年リリース予定の次期Vantageで容易にするという。データサイエンティストやビジネスアナリストはAmazon S3やAzure Blob上のデータをシームレスに処理できる。

Native Object Storeのイメージ図
Teradata President of Teradata Labs, Oliver Ratzesberger氏(左)とMicrosoft General Manager of Azure Media and Entertainment, Azure Storage and Azure Stack, Tad Brockway氏(右)による対談も行い、良好な関係性をアピールした

データ分析の前のデータ準備に課題、全自動化で解決へ

イベントではほかにも著名な登壇者により、企業のデジタル化に向けた施策など多くの話題が語られたが、最後はTeradata VP of Technology and Innovation, Jacek Becla氏の発言に注目したい。同士は長年スタンフォード大学に在籍していたが、Teradataに席を移した理由の1つとして、「顧客視点でエンタープライズの仕事に携わっている。技術や分析エンジンに取り組み、具体的なソリューションを実現できる」と述べた。

Teradata VP of Technology and Innovation, Jacek Becla氏

Becla氏は主に研究的視点から技術に携わっているが、「データラングリング(飼育)とスキーマ設計に7割の時間が費やされる」と、分析に至るまでのデータ準備に多様な課題があると指摘した。その上で「速さや最適性といった議論ではなく、すべてを自動化する」(Becla氏)のがVantageの意義であると語る。前述したTwogood氏が述べたようにNative Object Storeの実装は来年以降だが、「単なるビジョンではなく、研究所には試作機もある。1つのクエリにデータを割り当て、PB(ペタバイト)級のクエリを実行できる」(Becla氏)と多様な分析に集中できることを強調した。合わせて機械学習に用いるGPUのマルチスケジューリングについて、解決策を検討しているとして、現在取り組んでいる研究成果もいくつか披露した。

今後の機能については実装後に機会があれば紹介したいが、強いて昨今のバズワードを用いれば、現在は「ポストビッグデータ時代」に突入している。大量のデータを処理するビッグデータプラットフォームは普遍化し、利用する企業側はもちろん分析ソリューションの提供側でも、データの集積方法や更新の容易性、アクセスの最適化が課題として挙げられてきた。これらの諸条件を解決するには我々の意識変革も伴うが、基盤となるデータ・分析プラットフォームの躍進は、課題解決の大きな近道となり得るだろう。

阿久津良和(Cactus)

サマータイムに賛否両論、何が良くて何が駄目なのか

サマータイムに賛否両論、何が良くて何が駄目なのか

2018.08.20

東京オリパラの暑さ対策にサマータイム

賛否はあるが、ITの側面から巨大リスク

場当たり的な対策でなく、慎重な判断を

2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会の暑さ対策として、夏期に限って時間を早めるサマータイム(夏時間)の導入を検討するとの報道が、各所を賑わせている。背景には今夏の異常とも言える酷暑を踏まえた、野外競技選手の体調を配慮する狙いがあるものの、その意見は政府内でも統一されていない。菅義偉官房長官は2018年8月6日の記者会見で「国民の日常生活に影響が生じる」と発言したとの報道もあり、その先行きは不明確だ。

ところで、過去に日本はサマータイムを導入した経緯がある。それはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が日本の占領施策を実施した期間の一部にあたる、1948年(昭和23年)から1952年(昭和27年)の5年間だ。当時を振り返った多数の報道記事によれば、労働時間の長期化や、睡眠不足に代表される体調への悪影響を訴える国民の意見を鑑みて、結局は廃止に至ったという。

その後も地球温暖化対策を背景に、1995年頃から国会議員による法案提出が何度か検討されたが、政局などの事情が折り重なり、導入検討は見送られてきた。つまり、オリンピック開催のタイミングでサマータイム導入の話が出てくるのは突発的なものではなく、導入賛成派の意見が再び表に出てきたものだと筆者は愚見する。

ITの側面でみるサマータイム

多くの日本人はサマータイムに馴染みがないので、導入している米国を例に説明すると、3月第2日曜日午前2時から11月第1日曜日午前2時までがサマータイム期間。この時期は午前2時に1時間の時刻繰り下げが発生し、午前1時59分の次は午前3時となる。期間終了後は午前1時59分の次が午前1時となる仕組みだ。

ヨーロッパも導入国が多く、高緯度の国で貴重な日照時間を有効活用したり、省エネへの貢献などのメリットがあるとされていた。もっとも、欧州連合(EU)ではつい最近、健康への悪影響があるという研究結果や、思ったほど省エネではなかったという指摘が相次いだことから、見直しの検討に入ったそうだ。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が提案しているとされるのは、2019年および2020年6~8月の2年間限定で2時間の時刻繰り下げを行うというもの。恒久化したいという意見もあるそうだ。どのような導入形式になるのか不明なものの、暑さ対策という意味合いを考えれば早朝に時刻を繰り下げる可能性が高い。つまり今まで午前7時に起床していた人は午前5時に起床することになる。

なお、NHKが2018年8月に実施した「2018年8月政治意識月例調査(pdf)」では、「東京オリンピック・パラリンピックの暑さ対策として(中略)サマータイムを導入することに賛成ですか(以下略)」との設問に、51.1%が賛成と回答している。

もちろんGHQ時代のサマータイムを実体験したわけではないので、軽々なことを述べられないが、少なくともITの側面から考えれば、あまりにも負担が大きく、賛成しがたい部分がある。例えば環境省が1999年5月に取りまとめた「地球環境と夏時間を考える国民会議報告書」によれば、コンピューターの改修や信号機などの対応コストは約1,000億円におよぶと試算を出している。

個人に身近なパソコンであっても、例えばWindows 10はサマータイムに対応しているが、Excelは未対応。中堅中小企業などにワークシートで時間ごとの売り上げをまとめている場合、サマータイム導入時はdate関数に計算式を加えるなどの対策が必要だ。

また、日本はこれまでサマータイムを考慮する必要がないため、開発者はUTC(世界協定時刻)とローカル時刻の相互間変換を行わず、そのままローカル時刻を用いるケースが多いだろう。この改修に要する時間は短時間ながらも、過去に納品したソフトウェアのコードすべてを確認のため洗い直す手間は、想像したくもない。

そして、単なるソフトウェアなら再納品が可能ながらも、IoTデバイスなどハードウェアレベルでサマータイム未対応というケースがあれば、そのコストはさらに跳ね上がる。新しいものを生み出す可能性の低い、ただ受発注だけが増える事業に、これほど大きな社会的コストをかけてよいものかと不安になってしまう。

加えて2019年4月30に天皇陛下は退位礼正殿の儀に臨まれ、翌5月1日には元号が変わる予定だ。他にも消費税10%アップや軽減税率の対応など、ITの現場は既に負担増で余裕など存在しない。ただでさえIT界隈では開発者不足が叫ばれる昨今、新たにサマータイム導入を強いる場合、プロジェクトの遅延や停滞など、あの「Y2K(2000年)問題」を上回る混乱を起こしかねない。

場当たり的な暑さ対策に留まっていないか

確かに今年の酷暑は異常であり、あの最中に競技を実施するのは現実的ではない。だが、筆者の目に東京オリンピック・パラリンピックは、場当たり的な対応を重ねてきたように映る。新国立競技場の設計はもちろん、招致時に掲げた内容も曖昧だ。

当時、東京都知事・招致委員会会長だった猪瀬直樹氏は、「東京が擁するインフラを提供する。輸送面も交通網がすでに整備されており、確実な能力を有している」と述べていたが、築地市場移転が遅延したことで、環状2号線の全通は2022年度に見送られた。

このように機転を利かせたように見えて、先々を見通せない結果を目の当たりにすると、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が提案するサマータイム導入も、同じ結果になるのではと思えてしまう。

これまでサマータイムを導入していたロシアは2011年、中国は1992年、台湾は1979年に廃止している。我が日本は東京オリンピック・パラリンピック実施のために、来年2019年からのサマータイム導入を検討しているが、この短期間で環境を整備するのは事実上不可能だ。慎重な判断を強く望みたい。
 

参照系APIで経済が変わる--「オープンAPI」

今さら聞けないビジネスIT用語集 第20回

参照系APIで経済が変わる--「オープンAPI」

2018.05.22

2017年5月17日に成立した「銀行法等の一部を改正する法律(通称: 改正銀行法)」の施行予定日が近づいている。金融庁は2018年6月1日を予定日としているが、同法の施行で注目すべきは、オープンAPI導入の努力義務だ。金融制度ワーキンググループは「金融機関におけるオープンイノベーションの推進にかかわる措置」の1つとして先の項目を掲げており、メガバンクはもちろん多くの地方銀行も対応済みである。

API(Application Programming Interface)はOSやサービスが保持・運用するデータや機能を、他のシステムから呼び出す際、簡潔なコード記述を可能にするインターフェースだが、オープンAPIはインターネットの普及に伴い、現在では標準的な機能として用いられるようになった。開発現場に詳しい方なら、2005年にJohn Musser氏が立ち上げたAPI情報サイトProgrammableWebもご承知だろう。

全国銀行協会は、改正銀行法の観点からオープンAPIを「銀行と外部の事業者との間の安全なデータ連携を可能にする取組み」と述べ、銀行などが保持するデータを事前に契約を結んだ外部事業者(電子決済等代行業者)にAPIとして公開することで、利用者に価値を提供する金融サービスを実現するものだと説明している。つまり、企業や政府機関が公開するAPIも広義の意味では"オープンなAPI"だが、今現在オープンAPIと称する場合は、改正銀行法で実現した金融機関が公開するAPIを指す。

このような仕組みを有識者や政府が後押しする理由は、銀行が法令上で固有業務や付随業務、周辺業務といった役割を定めており、民間企業のように自由な発想でビジネスを創出するのが難しい存在だからである。とある銀行マンは講演で、「我々は保守的な思考に陥りやすい。フィンテック的なアプローチを行うには、組織全体の改革が必要だ」と述べている。そのため、政府が枠組みを取り払い、方向性をうながす必要があるのだ。

だが、オープンAPIへの取り組みは始まったばかりである。オープンAPIには、顧客のために送金の指示の伝達まで行う1号業務の「更新系API」、顧客に対して口座情報を取得し提供する2号業務の「参照系API」を定義しているものの、前述した金融機関が対応するのは後者のみ。改正銀行法施行後、2年以内(2020年6月)にオープンAPI体制整備を努力義務として課しているものの、多くの金融機関は「検討中」「対応開始時期は未定」としている。つまり、現時点では銀行口座情報を取得して一括管理することは可能ながらも、送金振り替え指示は不可能なため、物品購入時はこれまでどおりクレジットカードなどを使わなければならない。ここが変われば経済流通は大きく様変わりするだろう。

阿久津良和(Cactus)