地方でよく、アジア系訪日外国人を多く見かけるようになった。

「東京や大阪、京都といった、メジャーで人気のある観光スポットを回る『ゴールデンルート』ではなく、なぜここに?」と疑問に思った経験のある人は多いのではないだろうか。

この動きをコントロールする企業の1つが、台湾・香港人向けに日本の情報を発信するメディア「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を運営するジーリーメディアグループだ。

ラーチーゴー!日本

(日本語での紹介サイトはコチラ)

同社では、北は北海道、南は沖縄まで計10のエリアにわたって、外国人客を呼び込んで地域の活性化につなげたい企業や自治体などと連携し、ゴールデンルートから外れた地に台湾人・香港人観光客を呼び込んでいる。

しかし、なぜ同社は市場の大きな中国や韓国ではなく、台湾、香港を主要ターゲットとしたインバウンド事業を行っているのか? 代表取締役社長の吉田皓一氏に話を聞いた。

ジーリーメディアグループ 代表取締役社長 吉田皓一氏。奈良県出身。慶應義塾大学 経済学部卒業後、朝日放送入社。総合ビジネス局にて3年にわたってテレビCMの企画・セールスを担当したのち退職。2013年、ジーリーメディアグループ創業。大学在学中に独学で中国語を習得(漢語水平考試最高級所持)し、現在は東京と台北を往復しながら、台湾のテレビ・ラジオへの出演、書籍・コラム執筆等を通じて、日本の魅力の発信につとめている

2国特化の理由は"費用対効果"と"リピーター率"

「当社が台湾・香港人に特化したインバウンド事業を行う一番の理由は、費用対効果とリピーター率の高さにある」と吉田社長は語る。

日本政府観光局が発表した2017年度における訪日客数を見ると、東アジアの訪日客数は、全体の74.2%(2,929万人)。同社がターゲットとする台湾・香港人はその内の約23%(679.6万人)を占めている。やはり韓国、中国向けのインバウンド事業の方が台湾、香港よりも大きな市場をもっていることがわかる。

2017年度における訪日外客数のシェア(訪日外客数日本政府観光局)

しかし、総人口に対する割合を考えると、台湾・香港の優位性が見えてくる。中国からの訪日客数を見てみると735万人で、これは総人口に対して0.5%程。対して、台湾・香港の訪日客数はそれぞれ、総人口に対して19.4%・30.3%と非常に高い。

単純計算してみると、1,000人に見られる記事を配信した場合、中国の場合にはそのうち0.5%の5人しか日本に来ないのに対して、台湾・香港の場合にはそれぞれ194人、303人が来ることとなる。

「たしかに中国人の訪日数は多く、1人当たりの旅行消費額も1位であるために魅力的な市場ではあるが、リピーター率は30%以下しかないということも特徴。一方、台湾・香港人のリピーター率はそれぞれ73.4%、80.4%と高い」(吉田社長)

一度「ラーチーゴー!」のファンになってもらえば、再び日本に訪れる際に、もう一度サイトを使ってもらえる可能性が高い。


このような背景のもと、同社では費用対効果の高い台湾人・香港人観光客にターゲットを絞っている。

そして、何度も日本に訪れている台湾人・香港人は、”すでに行ったことのある”ゴールデンルートから抜けて、地方に足を向ける割合が高い。そこを狙い、同社では”地方の情報”を提供しているというわけだ。

ちなみに、東京や大阪で”爆買い”する中国人のイメージとは対照的に、ゴールデンルートを外れた台湾人、香港人は、札幌で野球観戦をしたり、四国でハーレーに乗ったりと、多種多様な方法で楽しんでいるそうだ。

台湾・香港人に響く「現地目線の記事」

地方自治体と協力しながら、台湾人・香港人のニーズに合わせた情報を提供するジーリーメディアグループ。同社が運営するメディア「ラーチーゴー!」が多くのファンを掴むのは、理由がある。

その理由の1つは、記事をすべて台湾人のライターが執筆していていること。

インバウンド事業者の多くは、市場の大きな中国・韓国の観光客をターゲットとして執筆した記事をそのまま台湾・香港用に訳す、という方法をとりがちだが、同社ではそれはしない。

「当たり前のことだが、台湾人、香港人の流行りと、中国人、韓国人の流行りは異なる。当社のスタッフの9割は台湾人と香港人であり、ただ翻訳しただけの文章とは一味違った”現地目線での紹介”ができることが強み」(吉田社長)

こうした取り組みが功を奏し、今や台湾で一番読まれている日本観光情報サイトが出来上がった。

社長が「インフルエンサー」Facebook大国・台湾に強み

リピーターのニーズを満たすために、地方自治体と手を組み、その地の魅力発信を行う同社であるが、吉田社長は「自身のメディア露出」にも注力している。台湾のテレビに出演することもあり、街中で話しかけられることは少なくないそうだ。会社としてはメディアで情報を発信しながら、自身はインフルエンサーとして人を引き寄せる、同氏ならではの戦略である。

実は台湾のFacebook利用率は76%と非常に高く、「世界1位のFacebook大国」とも呼ばれている。実際に、「ラーチーゴー!」のFacebookページは67万人以上ものファンを獲得しており、記事を公開するたびに台湾のタイムラインを賑わせている。

ラーチーゴー!Facebookページ

SNSでフォロワー数の多い人物を使って商品をPRする「インフルエンサーマーケティング」を、すべて自社のリソースでやれてしまうことが、同社の強みといえる。

”オリンピック恐慌”どこ吹く風「市場に不安はない」

今後の展望について聞くと、「インバウンド事業のターゲットを横展開することは考えていない」と同氏。しかし、”リピーターの比率が多い”、”総人口における訪日客数の割合が多い”ことは、”今後の伸びしろがあまりない”ともとれる。その点についてはどう考えているのか。

「確かに、市場は成熟しきっている状況ではある。大きな成長は見込めないのが現状。しかし、大きな急落がなく安定的な市場であることは間違いない。オリンピック後のインバウンド市場の伸び悩みについても騒がれてはいるが、2国(台湾・香港)に限っては、純粋に”日本が好き”だから来ている人が多く、オリンピック後にも安定した訪日数があると見込んでいる」(吉田社長)

2013年に創業したジーリーメディアグループ。まだ設立年数は5年と若い企業であるが、同社が力を合わせる相手は、民間企業はもちろん、地方自治体が多くあるということもあり、地に足のついた事業を行っているようだ。地方に人を呼び込むためには、その地の魅力を深く知り、協力者を増やしていく必要もある。

そういう意味では、長い目で見た取り組みが求められることだろう。大きな事業の変更はせず、着々と現在の事業を強化していくことが大事なのかもしれない。

アウトバウンド事業も視野に

一方で、さらにその次のフェーズに関しては「明確な時期は定めていないが、当社ならではの強みを活かして、日本人で台湾に旅行を考えている人をターゲットとした、アウトバウンド事業も今後進めていきたい」とも語る。

昨年1年間の台湾からの訪日客数が450万人を超える半面、日本から台湾へは約190万人にとどまっている。台湾側も、リピーター確保に向けた観光地の情報発信を強化したり、鉄道会社が、駅で飛行機に載せる荷物を預かるサービスを提供したりとさまざまな工夫を凝らしている。

そうした状況の中で、台湾人ライターを多く抱えるジーリーメディアグループならではの”現地目線で魅力を発信する記事”が増えていけば、日本からの旅行客も徐々に増えていくことになりそうだ。