「西田宗千佳」の記事

西田宗千佳

西田宗千佳

フリーライター/ジャーナリスト

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。
「日本の5G」に未来はあるのか? 新参「楽天」が見せた希望

「日本の5G」に未来はあるのか? 新参「楽天」が見せた希望

2019.03.08

MWCで見た「日本と5G」の現状

日本企業の存在感が薄い中、新参の楽天が奮闘

5Gのマスへのリーチはまだ先、遅れを取り戻せるか

2月25日から2月28日まで、スペイン・バルセロナで開催された世界最大級のモバイル関連展示会「MWC19 Barcelona」を取材してきた。

MWCといえば携帯電話業界を主軸にしたイベントだ。ただ、今年からは正式名称が「Mobile World Congress」でなく「MWC」となり、「モバイルに限った話題のイベントではないですよ」という感じになった。

「MWC19 Barcelona」の会場であるスペイン・バルセロナにあるFira Gran Via

そうはいっても、イベント主催が携帯通信会社業界団体のGSM Association(GSMA)なので、通信が主体のイベントであることに変わりは無い。CES(北米で毎年開催される世界最大の家電展示会)が正式名称をConsumer Electronics Showから「CES」に変えても、コンシューマ向け製品が中心であることと同じである。

今回のMWCの話題の中心はやはり「5G」だ。もはや5Gは現実のものであり、準備のフェーズですらない――、というのが今年のMWCのテーマだったように思う。

だが、こと日本と比較したり、5Gの将来を考えたりすると、なかなか微妙な気分になるシーンも多かった、というのも事実だ。ここでは、MWCを取材して感じた「5Gの理想と現実」についてまとめる。

存在感が薄い「日本の5G」

会場はとにかく、「5G祭り」だった。

日本の報道の中には、2019年1月に行われたCESでも、「5Gがテーマ」と言っていたことがあったが、まったく比較にならない。

MWCは通信が主軸のイベントなので、「5Gによって直接的に利益を得る企業ばかり」が出ているから当然のことだ。そんな企業が、本番のMWCの前に実施されたCESで5Gの本格的なニュースを出すわけがない。

T-Mobileブース。一面「5G」。携帯電話事業者のブースはどこもこの状態だった

MWCという場であるからこそ強く感じたのは、「日本企業の存在感の薄さ」だった。

現在の携帯電話業界において、個人が使う端末でも、アンテナを含むネットワーク側の機器でも、日本企業の存在感は薄い。もちろん、機器に使われる各種パーツであったり、通信から一歩離れた部分の機器では日本企業も頑張っていたりするのだが、それはMWCという場では目立たない。

特に日本の場合には、5Gの周波数帯割り当てもこれから、プレサービスの開始も2019年後半、という状況で、他国に対してざっくり半年から1年は遅れている。その中で機器メーカーの存在感がなければ、わざわざ海外に出ていってアピールする必要もない。

「携帯業界のアポロ計画」を企てる楽天

その一方で、非常に目立っていた企業もある。楽天だ。

同社はこれから携帯電話事業に参入する立場であり、特にインフラについて、4Gへの投資を抑制し、5Gを主軸とする立場にいる。

しかも彼らは「携帯電話業界のアポロ計画」と三木谷浩史社長が自ら言うほど、いままでとは違う考え方のインフラ構築をしているので、その点でも、広くアピールするのが当然の位置にいる。

楽天の三木谷浩史社長。自社の5Gネットワークの先進性をアピールした

彼らが手がけているのは、簡単にいえば「汎用技術での携帯電話ネットワーク立ち上げ」だ。携帯電話ネットワーク専用の機器を極力廃し、PCやクラウド、仮想化などの技術を活用し、5Gを主体としたネットワーク構築を行う。これまでは例のない構築スタイルで、「コストを7割削減できる」(三木谷社長)としている。

コスト以上に、インターネットサービスの携帯電話側への取り込みやサービス構築の柔軟性など、5G時代に向けた利点は多数ある。しかし、今のところは「彼らはそう主張している」という世界に過ぎず、実際にシステムが動き出し、サービス運用が開始されるまでは本当の評価を下すのは難しい。

それでも、楽天がバルセロナの地で「FCバルセロナのスポンサー、というだけでない」存在感をアピールしており、それが一定の成果を挙げていたのは間違いない。

楽天ブース。FCバルセロナのスポンサーであり、胸の「Rakuten」ロゴはすでに現地でもお馴染み。通信会社としてのアピールを強化した

日本と他国の違いは、5Gへの「切迫感」

では、日本が5Gで本当に遅れているのか、というと、「そうでもないな」という気もする。正確には「切迫感がない」と言うべきだろう。日本は5Gのスタートが少し遅いのは問題だが、それ以上に、そもそも5Gについての切迫感が薄いようにも思われる。

5Gは、なかなか真価を発揮するのが難しい技術だ。例えば、日・米・韓などで設備設置が進もうとしている5Gは、ある意味「暫定」である、ということはご存じだろうか。

5Gには、4Gとの併存を前提とした「NSA(ノン・スタンドアローン)」と、5Gだけを前提に敷設する「SA(スタンドアローン)」がある。現在、国内を含め多くの国では、先行して規格化されたこと、LTEの制御信号を使うためにコストメリットがあることなどが理由で、NSAでの設置敷設が進んでいる。

会場の天井に設置されていた5G用アンテナ

だがNSAでは、LTEの制御信号を使うがゆえに、「通信遅延」「同一エリア内への端末収容量」といった点では、本来5Gが持っているすべての能力を使えるわけではない。楽天は5Gを中心にインフラ構築を行うため、原則SAでの敷設となる。そのため「5Gの利点をより活かせる」としているが、一方で、エリア展開充実度の面では不利となる。

また、5Gをなにに使うべきか、明確なターゲットが薄いのも事実だ。

確かに、転送速度が上がるのはとてもいいことだが、そこで「ダウンロードが速くなる」「動画の画質が上がる」と言われても、実はピンとこないのではないだろうか。なぜなら、日本のモバイルネットワークインフラは、すでにけっこう快適だからである。この辺は、諸外国との大きな違いといえる。

今回のMWCでは多数の「5G対応スマホ」が展示された。それらは確かに魅力的だが、多くの人にとっては「単に通信速度が速くなったスマホ」に過ぎない。2つ折りで広げられるものが出たとしても、そこで出来ることには極端な違いはない。率直にいって、5Gは「今のままのスマホでは価値がわかりづらい」とも言える。

ファーウェイが発表した、5G対応の折り畳みスマホ「Mate X」

来たる5G時代への対応に「説得力」のある他国

5Gの価値を活かせるものとして、各社はAR・VR関連デモや、スマートシティをアピールしていた。それらの用途は確かに大きな可能性をもっているが、現状では「可能性」に過ぎない部分もある。

その理由は大きく2つある。「ニーズが定まっていないこと」、そして「"5Gであること”以上の整備が必要であること」だ。

現状の5GはNSA環境が前提で、遅延などの点でまだまだ理想的でないところがある。それに、いくらSA環境であったとしても、サービスがインターネットの向こうにあっては遅延が短くならないし、帯域の広さも活かしにくい。端末内で処理したり、携帯電話基地局のより近い部分にサーバーを置いて処理する「エッジ」型が広がっていく必要もある。

要は、どこもまだ模索中なのだ。保守的に考えれば、そのような状況で、海外のイベントで無理にアピールする必要はない、といえるかもしれない。

そして、そんなことは海外の携帯電話事業者や設備事業者だって、百も承知なハズだ。その上で「5Gはもはやリアルである」ということを信じ、先のビジョンを見せることに専心していた。

MWCに参集した企業は、今年から先、5Gに大きなビジネスチャンスを感じており、まだ実ビジネスの離陸には時間が必要だとわかっていても、モバイル業界を盛り上げるものとして、しっかりとアピールしていたのだ。

サムスンは、ブースに大量の5G対応端末「Galaxy S10 5G」を展示し、5Gを想定したデモを展開した

5G搭載スマホも、実際の出荷はずいぶん先だろう。だが、MWCの場に製品を持ってくるのとそうでないのでは、やはり説得力が違う。

それに比べると、どうしても(楽天を除く)日本の企業は、今ひとつ迫力に欠けた。

特に、ソニーモバイルが"端末メーカー”として、5G対応端末を試作機しか展示しなかったのは残念なことだ。日本市場のことを考えると、確かに「このタイミングで実機を展示する必然性はない」のだが、全体的な意気込みに欠けるように思えた。

ソニーモバイルブースには5Gの試作機が展示されたが、ガラス越しに通信速度を見せるだけ。他社の実機展示に比べると迫力に欠けた

スタートダッシュは遅れたが、勝負はこれから

日本が5Gで他国に遅れをとらないためには、ここからプレサービスや本サービスに向け、いかに色々な可能性をアピールできるかにかかっている。

今の5G環境では、たとえ対応スマホが出ても、マスに訴求しづらい。

LTEやVoLTEのような新技術も、「それが使いたい」という理由でスマホを買った人は稀で、「最新のスマホを買ったら新インフラに対応していた」というパターンが中心だ。そう考えると、5Gの展開は、「スマホから」ではなく「他の端末やサービス」から生まれる可能性が高い。スマホは、「結果的に5Gになっていた」というパターンだ。

だとするならば、「5Gならでは」の機器やサービスの創出に注力すれば、日本はそれほど「遅れた」という状況にならないで済むかもしれない。

そこに対して、いかに真剣に素早くトライアルを重ねられるだろうか。日本はこれまでそういうことがとても苦手だったが、(残念ながら)通信事業において辺境になった今こそ、そういうサイクルの見直しと高速化につなげるべきなのだろう。

楽天を見習う点があるとすれば、今回の5Gに対して、「新規参入ゆえの大胆さ」で臨むことだ。あとは、それがどこまで言葉通り実現できるかが見所となる。

「外国は中古が多い」は本当か? 総務省の中古スマホ推進に感じる課題と矛盾

「外国は中古が多い」は本当か? 総務省の中古スマホ推進に感じる課題と矛盾

2019.02.01

総務省が推進する「中古スマホ促進施策」のズレ

日本で中古スマホの使用率が高くない理由は「修理事情」にある

端末分離プランのカバーが目的なら、本末転倒だ

総務省と公正取引委員会が、携帯電話大手3社が下取りした中古スマートフォンの流通実態調査に着手している。目的は、中古スマホの国内での流通活性化だ。

現在各社は、新品スマホの購入促進を目的に、「使っているスマホを中古として引き取る代わりに割引を行う」という施策を採っている。この際、買い取った中古スマホが「日本国内ではあまり流通せず、他国に流れている」ことを問題視しているようだ。

中古スマホがあると新品が流通しづらい。だから携帯電話大手は中古をあえて国内流通していない。中古スマホの流通量が増えれば、携帯電話の入手コストが下がり、国民の負担が下がる……。

総務省が考えているのはこういうシナリオのようだ。

だが、この話はどうにもおかしい。「中古スマホをめぐる事情をきちんと理解していないのではないか」「中古スマホの商品特性を理解していないのではないか」と思えるからだ。

そこで、筆者の目から見た「中古スマホ促進施策のズレ」を指摘してみたいと思う。

アメリカでは「古いスマホは家族に譲る」

まずポイントは「中古スマホの利用率は、本当にそこまで大きな問題なのか」ということだ。

すぐに手に入りやすい調査データとしては、2018年2月にMMD研究所がオークネット総合研究所と共同で行った「日本とアメリカにおけるスマートフォン中古端末市場調査」がある。筆者はここ10年、年に最低でも5回はアメリカへ取材に出かけており、市場的に状況がよくわかっている、という点も加味して、ここでは「海外における中古市場のベンチマーク」として、アメリカをターゲットにおいてみたい。

この調査によれば、日本での新品端末利用率は「93.9%」。アメリカの「78.5%」に対してかなり高い。ネット調査であること、調査期間が2017年12月と、すでにそれなりの時間が経過していることに留意する必要はあるものの、「日本は新品に偏っている」との指摘は正しい。

ただし、ここでいう「新品でない端末」とは、中古販売された端末だけを指すわけではない。

もともと、日本においては端末を「家庭内に保管している」人の割合が群を抜いて多い。この調査によれば、日本では60.7%の人が家庭内に保管しており、アメリカでは43.7%に減る。では、携帯電話会社による中古買取、中古販売店への売買、オークションサイトへの売買が多いのか、というとそうではない。それらは日本と差がほとんどない。日本と違うのは「家族・友人に譲った」という項目。ここが12.3%もある。

MMD研究所がオークネット総合研究所と共同で行った「日本とアメリカにおけるスマートフォン中古端末市場調査」より。アメリカも日本も、中古へ流通するスマホの比率は変わらないが、「家族・友人に譲る」率では大きな違いがある

すなわち、アメリカという市場に限って言っても、「中古スマホの販売が活発」なのではなく、「使用済み端末の融通が活発」なのだ。

日米中古事情の違いは「修理」事情から生まれる

なぜこのような違いが生まれるのか? 理由は複数考えられるが、もっとも大きいのは、携帯電話事業者による販促が活発で、新品を買うハードルが低い、ということだ。新品を買いやすい環境にあるなら、誰もが新品を欲しいと思うのは当然のことだろう。

ここで筆者が注目するのは「修理」のコストと頻度である。同じ調査の中で、日米の修理に関する意識の違いも明確になっている。

日本では、修理の費用について、実に39.6%の人が「無料だった」と答えている。理由は、半数の人が「修理を補償するサービス」に加入しているからだ。携帯電話事業者によるものが41.3%、メーカーによるものが10.2%なので、合算すれば過半数を超える。これがアメリカの場合、47.2%の人がなんの補償サービスにも加入していない、と答えている。結果的に、日本の場合、携帯電話利用料金と重畳される分月々の費用が上がり、無償修理の比率が高くなる。

日本ではスマホの修理が「無料」だった人の割合が圧倒的に多い
スマホ修理費用の違いの理由は、日本では「修理を補償するサービス」に加入している人の比率が圧倒的に高いからだ

アメリカには、日本に比べて「携帯電話修理店」の量が圧倒的に多い。日本には総務省による「登録修理業者制度」があり、登録することが必要な状況だが、アメリカではそうではない。ショッピングモールなどには安価な修理業者が必ず出店しており、低価格に修理を請け負うようになっている。

一方でこの違いは、「スマホをどのくらいキレイに使うのか」という、中古端末の品質に影響している……と筆者は見ている。

日本の場合、わざわざ売る端末は、価格下落を恐れ、かなり状態の良い形で扱われる。中古業者の話を聞いても、「日本からのスマホは状態が良い」という点については一致した見解である。

一方海外の場合、中古の品質はそこまで高くない。ケースの利用率が低いこともあるが、「カジュアルに直せる」「カジュアルに売れる」ことから、それこそ「傷一つない状態」を維持する必然性が薄い、ということがあるのだろう。

特に中国やアメリカでは、携帯電話をカジュアルに販売できる、という特徴がある。どのくらい手軽かというと、街角に「携帯電話の自動買取機」が置かれているのも珍しくないくらいだ。

筆者がサンフランシスコ市内で見つけた「ecoATM」。スマホを入れると査定して買取までを行ってくれる「自動買取機」。同社はサンフランシスコを中心に、もう5年近く地道にビジネスを展開している
筆者が中国・深圳でみかけた「携帯電話の自動買取機」。こうした端末が駅の通路などに多数あり、日本よりもずっとカジュアルに中古買取が行われている

ここで、アメリカでの中古スマホ利用率を思い出していただきたい。たしかにカジュアルに販売できるが、それでも「中古を買って利用している人の割合」は大したことがない。カジュアルにスマホを処分できるものの、「中古スマホを買う人の割合は限られている」というのが実情なのだ。

そもそも中古スマホは、よほど条件が良いものでないと長く使えない。バッテリーが劣化している可能性があるからだ。アメリカにも新品のスマホを割り引いて買う方法はたくさんあり、多くの人が利用している。ならば、やっぱりスマホは「新品で買いたい」のだ。だが、そこまでしない場合もある。そんな時は、「知り合いや家族からもらう」のだろう。バッテリーの劣化やボディの傷、ガラスの傷みなどは、修理すればなんとかなる。日本より修理がカジュアルである、ということは、そうした傾向に拍車をかけている可能性が高い。

見えない部分で巨大化した「スマホ経済圏」

では、そうやって回収されたスマホは、どこに行っているのか? もちろん、中古スマホそのものとして流通する場合も多いだろう。

だが実際には、スマホは「パーツ」になってしまうことも多い。別にリサイクル用だけではない。修理用のパーツのことだ。

スマホ修理のニーズは非常に高い。日本よりカジュアルに修理ができる環境が多い他国の場合は特にそうだ。それだけニーズがあるということは、パーツのニーズも多い、ということである。修理のパーツはメーカーから公式に供給されるものも多いのだが、それらは数も限られているし、高価になりやすい。

非公式かつ安価な修理市場に向けては、もっと安価な「非公式に」流通したパーツを使う必要がある。そうしたパーツのほとんどは、中古などの形で回収されたスマートフォンから得られたものであり、なんらかの形で「なぜかパーツだけの形で市場に流れてきた」ものである。最近は、修理用に互換性のあるパーツを製造する例もある。

深圳あたりを回れば、スマホのパーツだけを大量に販売する店舗を見つけられるだろう。そういう店舗の端では、店員がスマホのパーツをさらにバラして袋分けする姿も見られる。

筆者が中国・深圳で撮影したパーツ販売店の姿。スマートフォンのパーツが機種ごと・種別ごとに分類され、卸売されている。店の片隅では、手作業でスマホパーツを分解する姿もみられる

中古スマホは、美品は端末そのものが流通するものの、そうでないものはすぐにパーツ化されて修理に回される。PCなどと違い、機種やメーカー違いによる互換性はないに等しいため、人気機種のパーツは常に需要が高い。状態が良くなくても売れるのはそのためでもある。

中古スマホの流通とは、なにも「中古スマホがスマホのまま売られること」だけを指しているわけではない。こうしたパーツ流通も含めた巨大な流通こそが、「スマホという経済圏」なのである。

その経済圏の中で、「新品が喜ばれる日本」で、中古のスマホの流通は限定的になるのが、今は「必然の流れ」である。他国の方がよほどニーズが高いのだ。そこに流れていくのは経済原理的に言っても、まったく不思議なことではない。

「分離プランありき」の議論は本末転倒

スマートフォンの性能向上による差異は見えづらくなり、1機種の製品寿命は今後長くなっていくだろう。ハイエンド機種の価格も高くなっていく。そこで「中古を選ぶ」という選択肢はあっていい。

一方で、アメリカでの事例が示すように、そこでは「知人からの融通」のような、カジュアルな例も多くなってしかるべきだ。中古流通がカジュアルな国でも「中古スマホの販売量は多くない」ことは、もう少し真剣に考えるべきである。

なにより、今回の話がおかしいのは、「なぜ中古だけを推進するのか」ということだ。

スマートフォンの販売について、今後は、通信費と端末代を分ける「完全分離プラン」が義務付けられる公算が強い。その時、スマホのハードウェアに対する支払いは確実に多くなる。そこに対する対策のために、安価な中古を推したい……。これが、総務省の考えである。

だが、それはいかにも「完全分離プラン」ありきの議論でありすぎる。

スマートフォンのハードウェアへの出費を減らす方法は、多数あっていい。知人間での融通やネットオークションなどの活用が話題に上らないのはなぜだろうか。そもそも、携帯電話事業者による販売補填をここまで強く問題視している国はない。「消費者が高い通信料金・長期契約を強いられる」状況は是正されなければならない。だが、スマートフォンを安く買いたいと思う人が「自ら望んで長期契約を選ぶ」のは悪いことではないはずだ。

中古スマホを増やすことは悪いことではない。だが、それが「分離プラン強制のマイナス点をカバーする目的」であるなら、本末転倒も甚だしい。そしてなにより、世界のスマートフォンをめぐる経済圏の状況を理解していない言動に思える。

「選べること」「強いられないこと」が重要だ。なのに、国が「強いる側」に回るのは、明らかになにか勘違いしている、と思うのだが。

新MacとiPad Proから読む「iPhone減産時代」のアップル

新MacとiPad Proから読む「iPhone減産時代」のアップル

2018.11.08

方針が変わった? アップルの製品発表会を紐解く

売り上げ安定へ、ファンが求める「手堅いMac」を再評価

iPadはタブレットからコンピュータへ脱皮できるのか

アップルは10月30日(現地時間)、ニューヨークで記者発表会を開き、MacとiPadの新製品を発表した。

発表会場は、米ニューヨークのThe Brooklyn Academy of Music

今回の発表では、iPad発売以来最大のリニューアルといっていいほどの変化を遂げた「iPad Pro」に加え、「MacBook Air」「Mac mini」といった、人気はあるが最近新モデルが出ていなかった製品の改訂が行われた。

特にMacのリニューアルについては、ファンの多くが驚いた。長年待ち望みながら、アップルが応えてはこなかったラインアップだからだ。どのくらい驚きだったかというと、「おかしい! 私たちが思う通りのものが出てくるなんで、アップルらしくない!」という皮肉な声が聞こえてくるくらいである。

「iPad Pro」。iPad発売以来、最大といっていいほどの大幅なリニューアルを遂げた
「MacBook Air」。ほぼ7年ぶりのデザイン刷新であり、2010年代末のノートPCらしい製品になった
小型デスクトップの「Mac mini」も刷新。CPU変更も含め、実に4年ぶりの新モデルになる

それでは、アップルは現在どのようなハードウエア戦略を持っているのだろうか? 新製品群から考察してみたい。

ようやく期待に応えた「Macのリニューアル」

今回の発表のポイントは、簡単にいえばふたつに絞れる。ひとつは「iPadのてこ入れ」であり、もうひとつは「Macの再評価」である。特に、同社の戦略を語る上での大きな変化は後者にあたる。

正直、ニュースバリューという意味では、iPad Proの方がずっと大きいだろう。そして、今後のアップルの売り上げに対する貢献度も、新iPad Proの登場による「iPadの変化」がもたらすものの方が大きい。だが、「アップルが今後どういう会社になろうとしているのか」を考える上では、MacBook AirとMac miniの復活は、分析しがいのある要素だ。

冒頭で述べたように、MacBook AirとMac miniは、長らくリニューアルされてこなかった製品群である。MacBook Airは、CPUなどの刷新こそ2年おきに行われていたが、デザイン的には2011年からそのまま。Mac miniに至っては、2011年にデザインが変わり、2014年にCPUが刷新されて以降、実に4年も新製品がなかった。どちらも、設計は古いが価格が安く、手に取りやすい製品として扱われてきた。

今回も壇上で多くの発表を行ったアップルのティム・クックCEO

特にMacBook Airについて、アップルは2015年以降、明確に「旧モデルを安価に売る」路線と位置づけてきた。メインストリームは、新たに設計し直した「MacBook」と「MacBook Pro」だとしていたのだ。

だが、この路線は成功とは言い難かった。MacBookは、Airのヒット要因である「13.3インチという、世界的に見ると使いやすいサイズ」「高性能なわけでも、劇的に軽いわけでもないが手頃な価格」といった要素を満たせていなかったからだ。

ではなぜAirをアップルが刷新してこなかったのか? その謎は解けないままなのだが、少なくともアップルは、MacBookではAirの人気を引き継げていない、と認めたことになる。ニューヨークでの発表会で実機を短時間だがチェックすることができた。実際よくできた製品で、ヒットする可能性は高い。

長らくリニューアルしてこなかった人気の2製品が合わせて刷新された

Mac miniに至っては、後継機すらなかった。PCのメインストリームがノート型になり、デスクトップも一体型が主流になった昨今、分離型のデスクトップの需要は減っていた。だがなくなったわけではない。特に小型のデスクトップは、PCのことがよくわかっているマニアや、業務で多数のPC(Mac)を必要とする人に根強い需要がある。

アップルはこれまで、MacBook AirにしてもMac miniにしても、消費者の需要を満たしきる製品を出してこなかった。そこにリソースを注入するよりは、iPhoneやMacBook Proに使った方が経営上有利だ、と思っていた可能性は高い。

だが今年、その方針は大きく変わった。Macに関する需要のアンマッチを解消し、ファンが求める「手堅い」Macを発売することで、売り上げを安定させる戦略を採ったのだろう。

背景に見える「iPhone依存」からの脱却

今後もアップルにとって、iPhoneが稼ぎ頭であることは変わりない。だが、スマートフォンのハードウエアは陳腐化しており、そのためハイエンドモデルの価格はジワジワと高価になっている。その結果、今後スマホの買い換えサイクルはより長期化していく。15年前にPCのスペックが陳腐化して以降、買い換えサイクルはどんどん長期化していった。それと同じことが、より速いペースで再現される可能性が高い。

そうなると、アップルとしてはiPhoneを「台数で勝負するモデル」と位置づけるのが難しくなっていく。実際、アップルは11月1日、2018年10~12月期決算より、iPhoneの販売台数を公表せず、売り上げだけを発表する形に変える、と発表した。これは、台数で勝負するモデルから売り上げ・利益率重視に切り換える証であり、「台数だけを見られても経営状況を適切に示さない」と判断しているからである。

かといって、いきなりiPhoneの販売台数が急落するとは思えない。だがハイエンドな最新機種は利益率が良いが台数が出ず、台数は旧機種で稼ぐモデルは広がっていき、結果的に、アップルのビジネスにおける「iPhone依存度」は下がって行かざるを得ない。少なくとも、今のような株価を維持して株主を納得させ続けるには、成長源泉をiPhone以外にも求めざるを得なくなる。

成長源泉としてもっとも有力なのは「サービス収入」の増加だ。過去15年に渡り、アップルは「ハードを差別化するためのソフトやサービスを利用する」というスタンスをとってきた。やれGAFAだ、やれ独占的プラットフォーマーだ、と世間では色々言われるが、アップルの利益はあくまでハードウエアの販売から生まれており、ハードを便利で魅力的なものにするための存在が、ソフトでありサービスだったわけだ。

しかし、アップルはこの方針を改めつつある。サービスを広く他社機器に公開するスタンスにはならないようだが、オリジナル映像の配信を含めたコンテンツビジネスを軸に、「サービスだけでも収益を得る」部分を増やしていく。要はユーザーひとりあたりの収益に着目し、ハードウエアよりも成長率の高いサービス部分の売り上げにフォーカスすることで株主に対するイメージを変えたい……という意図が読み取れる。

もちろん、それだけでは終わらない。現状はiPhoneほど大きな売り上げではないiPadやMacの部門についても、より「売れる」「売りやすい」機種を用意することで、売り上げ増を狙っているのだろう。今回ファンが待ち望んでいたモデルがリニューアルしたのは、やはりそれだけ「売りやすい」からだ。

「新しいコンピュータ」への脱皮を図るiPad

Mac以上に「稼ぎ頭」としてアップルが期待しているのがiPadだ。iPadは初期から完成度が高い製品だっただけに顧客満足度が高い。一方で、「ビュワー」として使う分には性能が陳腐化しづらいので、なかなか買い替えが進まず、急速に需要が満たされ、販売数が伸びなくなっていった。

そこでこれからは、安価な製品を買い替え需要に頼って売っていくのではなく、ビュワーではなく「コンピュータ」としての価値を拡大することで、他社との競合から離れてiPadの市場を作る……これが同社の戦略だ。

そのひとつが今年3月にも発表会が行われた「教育向け」であり、もうひとつが「アーティスト向け」のニーズである。

iPad Proは「ペン」を重視しており、今回も「アーティストが自由に絵を描けるコンピュータ」としての価値をアピールしていた

Macを含むPCの市場は安定的なものになっており、大きく減る要因はないし、いきなり伸びる要因もない。一方、タブレットを「ビュワー」ではなく「新しい個人向けコンピュータ」と定義した場合、市場開拓はまだできる。むしろ、カメラやペンを活用したアプリの市場は、PCでは開拓できておらず、スマホではサイズの問題でやはり開拓できていない。

タブレット市場を「新しい個人向けコンピュータ」にトランジションできれば、PCから一部の市場を奪い、まだまだ成長できる……というのがアップルの発想だ。他のメーカーは、タブレット市場そのものの開拓を諦めた雰囲気があり、「新しい個人向けコンピュータ」としては、教育市場に向けて、低価格なChromebook(Google)を売る流れがあるのみだ。

ただ、この市場開拓が成功しているか、というと、まだ疑問はある。タブレット市場が年率10%・20%の単位で減少しているなか、アップルとファーウェイだけが数を伸ばしている。積極的な製品展開をしているから市場を維持できているのだが、逆にいえば、他社はすっかりやる気をなくしている。

ハンズオン会場で実機を紹介するティム・クックCEO

そこで、アップルはどう「孤軍奮闘」するのか。スマホ市場がiPhoneとAndroidの競争で伸びてきたように、1社で市場を構築するのは非常に困難だ。ファーウェイはタブレットにおいてはまだ非常に弱く、アップルのライバル、というのは難しい。

ハードだけでは市場はひっくり返らない

10月30日に発表された新iPad Proは素晴らしい製品だ。アップルがいう通り「過去最高のiPad」であり、購入した人の満足度はきっと高いだろう。だが、それだけで市場はひっくり返らない。

アップルは数年をかけて、「新しい個人向けコンピュータ」市場がビジネスとして旨味があることを証明する必要に迫られている。そこに旨味があると思えば、他社ももちろん黙っていないはずだ。アップルは単価の高いiPad Proで旨味の大きなビジネスをしつつ、「こっちの水は甘い」と他社にアピールする必要がある。そうやって、スマホの販売量減少をカバーする製品へと育てていくことが、アップルという会社にとっても急務なのである。

そのためには、iOSをよりPC的な汎用性の高いものに進化させる必要があるし、アプリ市場の活性化も必要だ。まだこの市場については、「ファンが欲しいと思うものを作る」だけで伸びる段階ではない。