最近の出会い系アプリは、実によくできている。

「あ、好みかも!」「きっと私と話が合いそう……」。異性の写真とプロフィールを見て気になる相手がいたら、ひとまず「いいね」をタップ。すると「いいね」した自分の情報が相手に届き、もしこちらの写真とプロフィールを気に入ってくれたなら連絡をとりあえたり、直接会えたりできる――。

ようは「あなたに興味あり」の意思表示が気軽でカンタンだから、出会いのチャンスが増えやすい。そのうえで相手のリアクションによってマッチングに至るので、成功率も高くなる。つまりローリスク・ミドルリターン。だからこそ老若男女、未婚既婚を問わず、多くの人々に支持されているのだろう。いや「既婚は問えよ」とは思うけど……。

男女のように、地域と人を結ぶ

「実はこうした“出会い系”の仕組みを、ものすごく研究したんです」と今年6月に「SMOUT」というサービスを起ち上げたカヤックLIVINGの松原佳代さんは言う。「もちろん『SMOUT』が促す出会いは、結婚したい男女じゃない。私たちがマッチングしているのは“地域と人“なんですよ」(松原さん)

カヤックLIVINGの松原佳代代表。面白法人カヤックにて2005年から上場までの10年間、広報をつとめたのち2015年に独立。(株)ハモニアを設立、代表取締役となる。カヤック在籍中に「建築家と家づくりのマッチング事業「HOUSECO」(現SuMiKa)の事業責任者をしていた縁で、2017年、カヤックLiving代表に就く。鎌倉在住。2児の母

「SMOUT」(スマウト)は、地方移住を視野に“地域と人“をつなげるマッチングサービスだ。

地方自治体や企業、NPOなどが“地方”側のプレイヤー。まず彼らが「SMOUT」上で自分たちが実施している事業やイベントなどの「プロジェクト」の詳細をアップする。

『千葉・館山の駅前シャッター通りにホステルを創りたい人募集中』『徳島でお試しサテライトオフィス、してみませんか?』『岩手・花巻でぶどう農業を新しいアイデアでアップデートできる人、副業でも可』といった具合だ。

「SMOUT」のトップ画面。田んぼを前に若者が楽しげだ

また、地方での移住やUターン・Iターンに興味がある“人”たちもエンドユーザーとなる。こちらは、まず自分が興味のあることや仕事のスキル、得意分野などを含めたプロフィールを登録する。

そのうえで出会い系よろしく「SMOUT」上で興味あるプロジェクトを見かけたら「興味ある!」のアイコンをタップ。タップした情報は、プロジェクト主催者である自治体や企業などに届く。そしてユーザーのスキルや得意分野を判断し「ぜひ参画してほしい!」となればユーザーにスカウトメールを送って、マッチング成立! というわけだ。

「すぐに移住! というものばかりではなく、まずは地域のプロジェクトに参加してみよう、というスタイルのものが多くあります。ハードルが下がるし、プロジェクトを通して、実際にその地域やコミュニティとの相性を事前に推し量れる。合う合わないを判断できるわけです。そして段階的に移住へと進む人がいたらいいと思っています」(松原さん)

サイトには各地のプロジェクトが並ぶ。感覚的に「興味ある」あるいは「スカウトされたい」をタップしておくと、それをみた自治体などの運営者からメールが届く、かもしれない

すぐ近くにいるような「身近な人たち」が対象

ここ数年、若い世代を中心に都市部から地方へと移住するムーブメントがあるのは周知のとおり。IT環境が整備されリモートでの仕事が格段にしやすくなってきたこと、スローなライフスタイルが支持されていることがおもなきっかけだ。また「地方創生」という言葉に代表されるように、過疎化などの課題を解決して地方の活性化に貢献したい、と考える層が増えたことが大きな要因である。

もともとウェブサービスやゲームなどのコンテンツ制作企業であるカヤックで広報・PRを担当。その後、代表としてカヤックの子会社のカヤックLIVINGを任され、家を建てたい人と設計士や工務店をつなげるマッチングサービス「SuMiKA」を運営していた松原さんは「移住に対する機運を肌で感じていた」と話す。

「周囲にITエンジニアやエディターが多いんですね。リモートワークしやすい彼らから『移住に興味がある』という声がここ数年ですごく増えていた。またライフスタイルにこだわって家づくりをしたいという『SuMiKa』のユーザーのなかから、実際に移住する人が目立ってきた。ようは移住が特別じゃないものになってきたな、って感じていたんです。実は私自身も海外移住を考えていたころもありましたしね」(松原さん)

ニーズの高まりを反映して、すでに地方自治体はウェブサイトに移住希望者向けの相談窓口を積極的に設置。地域移住のライフスタイルを紹介するウェブメディアもすでに数多く存在する。

ただ、そこには、ちょっとしたミスマッチも見え隠れした。

「移住情報の多くが一方通行だったんですね。コンテンツとしての情報はある。しかし、直接的にマッチングまで促してくれるようなサービス、一歩踏み出すというか、肩を押してくれるようなサービスがまだなかった。しかし、いま求められている地域移住のニーズって、もうすこしおせっかいに『移住、どうですか?』と背中を押すことだと感じていたんです。なぜか? いま地域移住を考えているのが、誰もの周りにいるような“身近な人たち”になってきたからです」(松原さん)

ほしいのは「エイヤ!」をくれるもうひと押し

移住がトレンドワードになってから、すでに数年が経過。そうなるとトレンドに敏感でライフスタイルにこだわりのある人たちは、すでに“行動を起こし終えた”というのが松原さんの見立てだ。

「とがったアーリーアダプターの方々は、すでに移住しちゃっていると思いました。ただユーザーヒアリングすると『移住に興味がある』という人が5割以上いたんですね。つまり『興味はあるけど、エイヤ! 飛び込むのはまだ躊躇している』という方々が相当数いると考えた。いわば現実的な、普通の方々が移住を考えるフェイズに入ってきているのかなと考えたんです」(松原さん)

アーリーアダプター層なら、移住メディアの情報や移住フェアのようなイベントだけでも「エイヤ!」と飛び込めるはずだ。好奇心の強さとフットワークの軽さは、たいてい比例する。しかし普通の人なら、慎重になるのは当然のこと。だからこそ、リスクや不安を解消してくれる誰かの“後押し”をするようなサービスがあれば、潜在的な移住ニーズを持つ人たちの「それなら移住してみよう!」につながる、と思い至ったわけだ。

「だから『出会い系』を参考にしたわけです。出会い系のマッチングアプリのように、やや不精な方でも、カジュアルにリスクなくお互いの扉をノックできるような仕組みをつくれば、移住したいけどちょっと怖いという、多くの人たちのニーズを満たせるかなって……」(松原さん)

既存の出会い系アプリのみならず、スカウト系の転職サイトも大いに参考にし、システムを内製したという。

地域側には、直接営業をかけてアプローチした。移住者や人手を熱望していた自治体や地域の企業、NPOからしても、これまで「能動的に移住希望者にアプローチできる場」がなかったため、歓迎されたという。最初は無料で掲載をスタートし、今は月5万円の掲載料が基本料金。この掲載料が「SMOUT」のマネタイズの柱だ。

こうしてカジュアルに参加して、相性を確かめたうえで地域からアプローチを受けられる「SMOUT」が誕生した。ローンチ直後から多くのユーザーを集めて、半年を待たずに登録者は1000人を越えた。自治体を中心とした掲載プロジェクトも増えて、現在では常時70ほどあるという。

「いま日本には約1800の自治体があるので、まだまだのびしろはあると信じています」(松原さん)

また「SMOUT」は、物理的な移住や移動とは違う形で人と地域を繋げる仕組みづくりにも取り組んでいる。「ネット関係人口」がそれだ。

「SMOUT」がサイトで公開している「ネット関係人口」のスコア

「SMOUT」内での「興味あり」の数やメールのやりとりの数、定住人口。公式Facebookページの「いいね!」の数、インスタでのハッシュタグ投稿……。移住は考えていないが、都市部にいながら地域に何かしら強い興味を持っている、応援したいという感情は、こうしたネット上の言動に現れるものだ。これを「SMOUT」では「ネット関係人口」と定義。スコアを算出してランキングとして発表している。

ネットによって、どこにいても働けるようになったように、地域への貢献もどこにいてもできる。ネット関係人口としてそれを可視化すれば、新しい地域と人、地方と都市とのエンパワーメントが生まれるかもしれない。ゲーム的に『もっとスコアをあげたい!』という地域活性のモチベーションになるつながるかもしれない。そんな期待も持っているんですよ」(松原さん)

ネットで仕事も人とのつながりも、さらには地域とのつながりも持続できる世の中。「SMOUT」は、私たちにそんな「暮らしやすさの選択肢」を提供してくれている優しいサービスなのだ。しかも、未婚も既婚も問わずに……。