「笠原一輝」の記事

笠原一輝

笠原一輝(かさはらかずき)

テクニカルライター

コンピューティング、半導体業界の取材経験が豊富で、多くのIT誌やビジネス誌に記事を寄稿。クラウドからエッジまで幅広い視点で世界中のITの今を追いかけるとともに、JMS(日本モータースポーツ記者会)の会員でもある。
全業界に迫る「デジタル化」の波―― 救世主はAdobe?

全業界に迫る「デジタル化」の波―― 救世主はAdobe?

2019.03.27

ラスベガスで開催された「Adobe Summit」で語られたこと

なぜ今「デジタルマーケティング」の必要性が増しているのか

企業は「デジタルトランスフォーメーション」を避けられない

米Adobeは、米ネバダ州・ラスベガスで3月26日~28日(現地時間)の3日間に渡り、同社のデジタルマーケティングプラットフォーム「Adobe Experience Cloud」に関するプライベートイベント「Summit」を開催している。

「Summit」基調講演時の様子

開幕日の26日には、Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏による基調講演が行なわれ、「Adobe Experience Platform(AXP)」の一般提供を開始することを明らかにした。

AXPは、Adobe Experience Cloudを支える基盤であり、複数のサービス(Creative Cloud for Enterprise、Analytics Cloud、Advertising Cloud、Marketing Cloud、Document Cloud for Enterprise)間でユーザーIDやプロフィールやデータ、コンテンツなどを共有するための仕組み。

従来は同じAdobe Experience Cloudの傘の下で提供されてきたサービスであっても、別々のサービスとして独立していたが、AXPによって各サービスが本当の意味で1つに統合される。

基調講演の中でAdobeは、家電小売企業のBest Buy、およびSunTrust銀行の事例を紹介し、これまでデジタルマーケティングと無縁だった企業であっても、Adobe Experience Cloudを活用すれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)を成し遂げることができ、顧客に各種のデジタルサービスといった新しいユーザー体験を提供できるようになると強調した。

デジタルマーケティングの成長は加速する

Adobe Summitで講演するAdobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏

今、世界的に非常に熱いマーケティング手法として注目を集めているのが、インターネットを活用した「デジタルマーケティング」と呼ばれる手法だ。

CRM(顧客関係管理)、eコマース(電子商取引)、デジタルキャンペーン、ソーシャルメディアの利用など複数の手段を用いて、インターネットやクラウドを活用して顧客に対して各種のマーケティング活動を行うことで、企業の売り上げなどを伸ばす手法のことを指している。

例えば、電子メールアドレスに対してその電子メールの所有者が興味を持つような内容のメールを送って販売につなげたり、わかりやすいところではAmazonのようなECサイトで購入履歴からユーザーが欲しいと思われる商品をレコメンドしたりする。その裏側で動いているのがデジタルマーケティングの支援ソフトウェアということになる。

そうしたデジタルマーケティングは、IT系の企業で利用されてきた手法で、一般の企業ではあまり注目されてこなかった。しかし、この10年で状況は一変した。スマートフォンの普及率があがり、ほとんどの人がスマートフォンを持っているという状況が到来したのだ。今では、従来型の企業にとってもデジタルマーケティングは大きな効果があると考えられるようになってきている。

日本でもそれは同様で、IDC Japanによれば、2017年の日本でのデジタルマーケティングを支援するソフトウェアの市場規模は97億6,600万円。2017年~2022年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は5.5% になる見通しで、2022年には127憶7,700万円の市場規模に成長する見通しだという。

また、このうちクラウドサービスの形で提供されるものの成長率が高く、年間平均成長率24% で推移し、2022年の市場構成比43% に達すると予想されている。

Adobe Experience Cloudがもっと便利に

そうしたデジタルマーケティングのクラウドサービスは複数の企業から提供されている。その中でも代表的なのがSalesforceとAdobeだ。

CRMに強いSalesforceがデジタルマーケティング向けのツールへと発展するのは自然な流れだが、Adobeは元々、クリエイター向けツールをリリースする企業だった。そのAdobeがこうしたデジタルマーケティングの市場へと参入するのは意外に思われるかもしれない。

その背景には、デジタルマーケティング向けに利用するアセット(静止画や動画など)を編集するツールとして、AdobeのCreative Cloudが利用されていることがある。また、Adobe Experience Cloudはそうしたクリエイターツールと親和性が高いツールとして発展して採用されているという事情もある。

Adobeは年々Adobe Experience Cloudを拡張し続けており、さらに競合となる企業の買収などによりサービスのポートフォリオ(製品ラインナップ)を増やしつつある。昨年はMagento(マジェント)とMarketo(マルケト)の二社を買収し、それぞれの製品である「Magento Commerce」と「Marketo Engage」をAdobe Experience Cloudに統合している。

Adobe Experience Cloudの仕組み、一番下のレイヤーにAdobe Experience Platform(AXP)がある。ここにMagentoも今年から加わっている
昨年Adobeが買収を発表したMarketoもAdobe Experience Cloudに統合された

Adobe Experience Platform(AXP)の構想は、昨年のAdobe Summitで明らかになったものだ。このAXPが基礎となり、Adobe Experience Cloudが統合する複数サービスで、顧客のID、プロフィール、データ、コンテンツなどを共通化する。

Adobe Experience Platform(AXP)が一般提供開始へ

Adobe Experience Cloudでは古くからあるサービスと買収などで得た新サービスなどを徐々に統合してきたため、これまでは共通化が十分でなく、同じ傘の下で動くサービスであっても、統合したメリットのすべてを得ることができていなかったのだ。

そのAXPが今年のSummitにて、ついにベータ版から抜け、正式に一般提供を開始することが明らかになったわけだ(提供開始時期はリージョンにより異なり、まずは米国で開始予定)。これにより、AdobeがAdobe Experience Cloudで本当に実現したかった、真に統合された利便性の高いサービスが展開できるようになる。

破綻寸前だった家電小売を救い、銀行のDXを推進

今回、AdobeはAdobe Experience Cloudを利用したユーザー企業の事例をいくつか紹介した。その中でも印象的だったのはBestBuyとSunTrust銀行の事例だ。

BestBuyは米国の家電小売企業で、米国でのヤマダ電機やヨドバシカメラであると言えば理解しやすいだろうか。以前は家電の販売で全米1位の企業だったが、近年はAmazonなどに押されて、実店舗に展示している商品がeコマースのショールームとなる「ショールーミング」という現象に悩まされ、一時は経営難がささやかれたほどだった。

「その当時は本当に厳しかったよ」と苦笑しながら登場したBest Buy CEO ヒューバート・ジョリー氏は、Adobe CEOのサンタヌ・ナラヤン氏と一緒にBest BuyがExperience Cloudでどう変わったかを説明した。

例えばExperience Cloudの導入により、年間200ドルで家電の設定などを行なうサポートサービスを効果的に提供できるようになり、顧客との結びつきが強化できた。ショールーミングで破綻寸前だった同社がデジタル変革で大きく変わったことをアピールし、今後は、AXPをBest Buyのデジタルマーケティングの基盤として使っていく意向も述べた。

Best Buy CEO ヒューバート・ジョリー氏(左)とAdobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏(右)

一方のSunTrust銀行は、米国の中東部で支店を展開している銀行で、デジタルマーケティングにExperience Cloudを利用している。PC向けのWebサイトだけでなく、モバイルアプリでもExperience Cloudを利用して効率よく提供しているという。

SunTrust銀行ではデジタルマーケティングにAdobe Experience Cloudを採用
モバイルアプリにも対応している

伝統的大企業でさえデジタルマーケティング、況や――

SunTrust銀行のCMO(最高マーケティング責任者)のスーザン・ジョンソン氏は、実はかつてはエンジニアで、ITに深く関わっていたという。

この事が示していることは、既に伝統的な企業のマーケティング担当者でさえ、デジタルに精通していなければ、売り上げを伸ばすことはできない。徐々にそうした世界になってきているということだろう。

SunTrust銀行 CMO(最高マーケティング責任者) スーザン・ジョンソン氏(左)とAdobe CTO(最高技術責任者)のアベイ・パラスニス氏(右)

今後、音楽業界や動画業界が経験してきたようなデジタル化が、従来のITがターゲットにしたような世界から、新聞、テレビ、そして自動車といったこれまではデジタルとは無縁だったような企業にも広がっていくと考えられている。

そうした時が来てからデジタルマーケティングに取り組んで行くのか、それともまだ始まりの段階で積極的に取り組んで行くのか。2社の事例は、そうした問いを否応なく伝統的な企業に突きつけている、そう言えるのではないだろうか。

ナラヤン氏は「すべての組織にとって顧客のユーザー体験を管理していくことは必須になっていくだろう」と述べ、同社のAdobe Experience Cloudがその助けになるとまとめて講演を終えた。

「スマホ時代」の終焉、ポストAppleはIoT企業から誕生するという実感

「スマホ時代」の終焉、ポストAppleはIoT企業から誕生するという実感

2019.03.12

5G時代の主役は「スマホ」ではなく「IoT」

スマホはパソコンの歴史を繰り返している

IoTで主導権を握る企業はどこになるのか

毎年、2月下旬に開催される世界最大級のモバイル関連展示会「MWC 19 Barcelona(以下MWC 19)」を取材してきた。

これまでMWCはMobile World Congressの頭文字をとった縮小名だとされてきたが、今回のMWC 19からそれは廃止され、単にMWCというブランド名としてイベントが行なわれることになった。CESがConsumer Electronics Showの略称であることを廃止して単にCESというイベント名を採用したのと同じような取り組みになる。

その背景には、通信業界がこれから迎える大きな変革の波がある。これまでの通信キャリアが提供するセルラー回線は、3G以前はフィーチャーフォンと呼ばれる携帯電話に、そして4GではiPhoneの登場以降急速に普及したスマホ向けの回線として活用されてきた。

5Gでは引き続きスマホの回線として利用されるのはもちろんだが、コネクテッドカーなどのIoT向けの回線とも位置づけられており、今後はそちらが主役になっていく可能性が高い。

今回は多くのブースで5Gのソリューションを展示してアピールするMWCになった

スマホは成長が止まったという認識が強まる

MWCの主催者であるGSMAが設定した今回のスローガンは「Intelligent Connectivity」であった。

MWC 19 Barcelonaのスローガンは「Intelligent Connectivity」

このスローガンが意味するのは、IoTや自動車といった従来は処理能力やネット接続機能をもたないデバイスに、クラウドへの接続を実現して、クラウドの処理能力でAIのような機能をワイヤレスを介して提供していく、ということだ。

実際、今回のMWCでは昨年よりもIoTやコネクテッドカーといったテーマの展示が目立っていた。ドイツの3メーカー(VW、BMW、ダイムラー)はいずれもブースを出して展示していたし、昨年に引き続きトヨタもコネクテッドサービスの展示を行なっていた。

トヨタはAmazon AlexaとSDLとの共存をアピール
BMWブース
メルセデスブース

一方、通信キャリアのブースではほとんどがIoTやそれに付随するソリューションになっており、スマホの展示は年々減っていっている印象だった。

そうなっているのにはスマホ市場が既に成熟し、成長が止まった市場だという認識が共有されていることが影響している。

年や調査により変動はあるものの、トップシェアのサムスン、2位のアップル、そして3位は中国勢が入れ替わり立ち替わりという状況で、現在アップルを抜いて2位になったと考えられているファーウェイも、米中の経済戦争の中で今後どうなっていくかが不透明なぐらいで、基本的に大きな変動はない。市場の配分はほぼ固定されつつある。

パソコンの歴史を繰り返すスマホ市場

製品としてもスマホは既に成熟し、コモディティ化が進んでいる。今回の新製品の目玉が、右へならえのように2画面スマホであったことが、それを象徴する。

考えることはどこのメーカーも同じで、新しいデバイスが登場すると皆が同じような実装をする。これはつまり、新しい「ネタ」がなくなってきており、他社との差別化が年々難しくなっていることを示している。ちなみに昨年のMWCでは多くのメーカーがカメラを訴求していた。

Samsung Electronicsの2画面スマホ、ディスプレイが折れ曲がる仕組み
LG Electronicsの2画面スマホは最初から2つのディスプレイになっている

こうした状況はかつてPCが通ってきた道そのものだ。PCが普及していく段階で、どの製品も同じようなクラムシェル型に集約されていき、他社との差別化が難しくなってくる。すると、2画面を搭載した製品が登場したり、キーボードの代わりにタッチキーボードを採用した製品が登場したりする。

結局製品が成熟していくと、だんだんと重箱の隅をつくようなアップデートを各社とも取り組むが、結局あまり普及しない――、それがPCが経てきた歴史だ。スマホもまさにその歴史を経ようとしている、まさに「歴史は繰り返す」のだ。

14~15億台で頭打ちのスマホ、よりスケールするIoT

スマホ市場では市場の配分(言い換えればマーケットシェアの配分)も終わっており、今後よっぽどの事が無い限りこれが大きく変わることはないだろう。まさにPCの歴史がそれを証明している。

BMWが展示したコネクテッドカー。昨年のショーで発表されたコンセプトカーが展示された

このため、業界の目は次の成長へと向いている。そのタネがIoTであり、コネクテッドカーだ。なぜかと言えば、その市場規模がIoTやコネクテッドカーなどにより広がると考えられているからだ。

IDCが発表した2018年の通期でのグローバルのスマホ出荷台数は14億49万台、前年(2017年)には14億655万台となっていたため若干減っているが、概ねここ数年は年産14~15億台で一定している。おそらくこの数字は今後も大きくは減らないし、大きくは増えないだろう。多少の増減はあるが、年産14~15億台で今後も固定されていくだろう。

それに対して、通信業界が期待しているIoTや自動車などのコネクテッドデバイスの市場規模は、調査会社やアナリストなどによって異なっているが、おそらく桁が1つ違ってくると考えられている。つまり100億台を超える市場にまで成長する可能性があるということだ。

なぜかと言えば、スマホが1人1台までであるのに対してIoTは1人1台は言うまでもなく、今家庭にある家電がみなIoTになる可能性がある。冷蔵庫、洗濯機、掃除機、コーヒーメーカー…すべてのデバイスが今後IoTになっていく可能性は非常に大きい。

だからこそ、通信キャリアは競ってIoTをアピールするし、自動車メーカーとの提携を進めてコネクテッドカーのソリューションを拡充していく、そうした状況を反映しているのが今回のMWC 19だった。

これまでの4Gの10年が「スマホの時代」だったのに対して、5Gでは「IoTの時代」に突入していくことになる。だから、今回のMWC 19は「スマホ時代の終わり」の始まりなのだ。

IoT時代の「アップル」はどこ?

このようにスマホは5Gでは主役の座を降りることになるが、かといってスマホが今後減っていくとかそういうことではない。90年から00年代にデジタルの主役だったPCは、スマホにその座を譲った後も、年産3億台という市場規模は維持して増えもしないが減りもしないという状況になっている。それと同じように、スマホも年産14~15億台という市場規模は今後も変わらず増えもしないが減りもしないという状況になるだろう。

つまり今後も今までとは何も変わらないが、もはや成長市場ではなくなったが、今日の状況が固定されるそういうことだ。

ドイツの通信キャリアT-Mobileのブース
フランスの通信キャリアOrangeではロボットをアピール、今年のMWCではロボットの展示が多かった

それに対してIoTはこれから市場が成長していく。誰がそこで主導権をとるのか、まだ見えていない状況だ。だからこそ、通信キャリアも、アマゾン、グーグル、マイクロソフトのようなプラットフォーマーも競うように投資しており、そこで主導権を握った企業が次の時代のアップルになっていくのではないだろうか。

スーパークリエイターが佐賀県で挑む スマート農業とAI無人店舗の中身

スーパークリエイターが佐賀県で挑む スマート農業とAI無人店舗の中身

2019.03.06

佐賀県でAIを活かしたスマート農業と無人店舗に取り組む

スマート農場の実証実験で得られた成果は?

小売店の現実により近づけたAI無人店舗の展開

株式会社オプティム(以下OPTiM)は、株式会社日本HP(以下HP)が2月に東京都内で開催したプライベートイベント「HP Reinvent World 2019」に出展。同社 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏の講演を行った。

講演の中で、OPTiMが佐賀県で展開しているドローンとAIを利用したスマートアグリカルチャー(スマート農業と)、AIを利用した無人店舗の取り組みを説明した。

OPTiMが進めるドローンを利用したスマートアグリカルチャー(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

AIとIoTソリューションを活用し、佐賀県の農場で実証実験

株式会社オプティム 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏

OPTiMは2000年に創業したIT企業だ。日本国内でPC向け、スマートフォン向けのソフトウェアや、IoT向けのソリューションなどを提供している。2014年10月に東京証券取引所 マザース市場に上場し、2015年10月に東京証券取引所 市場第一部へ市場変更した。

同社は00年代にはPC向けのソフトウェアなどに力を入れていたが、10年代前半にはそれをスマートフォンに拡大し、10年代後半にAIやIoT関連のビジネスに力を入れるようになった。山本氏が率いるOPTiM Cloud IoT OS事業では、そうしたAIやIoTのソリューションを展開している。同社は多数のエンジニアを抱えるエンジニアリングファーストの企業として知られていて、山本氏自身も、過去にはIPAが行なっていた「IPA未踏ユース2005年度スーパークリエイター」に選出されるなどの実績を残しているエンジニア出身だ。

その山本氏が話したのは、OPTiMが佐賀県で行なっている2つのユニークな事業。1つがドローンとAIを活用して作付けしている作物を自動判別するソリューション、もう1つがAIを活用した無人店舗だ。

作付けをドローンの空撮映像とAIで判別するソリューション(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

まず1つめのドローンとAIを利用した作付けのチェックは、カメラを搭載した固定翼型ドローンで農地を撮影するとともに、AIで作付けされている作物を自動で判別するというソリューションだ。

このようにAIが作付けしている作物を自動で判別していく(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

そもそも「なぜこんなことが必要なのか」と言うと、国や県が農家に補助金を出す際に「特定の作物を作付けしていること」が条件に含まれるためである。山本氏は「従来は県の担当者らが、作物をいちいち目視で確認していて膨大な時間がかかっていた。それを大きく削減できると考えてプロジェクトをスタートした」と、事業の意義を説明する。

具体的に今回の佐賀県の例では、目視調査の場合、実にのべ約1,360時間と、県の担当者にとって大きな負担になっていた。仮にその時間を別の業務に割くことができれば、新たな住民サービスを生み出せるかもしれない。県民にとっても大きなメリットがある取り組みだ。まずは佐賀県の白石町で始めており、現在は佐賀県全土へと対象を広げつつある状況という。

講演会場で配られたスマート米。これは今回の佐賀とは別に、同社のAI技術を活用することで減農薬栽培を実現した千葉県の農場で生産された

ロス率0を実現した無人店舗、モノタロウ・佐賀大学との共同プロジェクト

2つめの無人店舗に関しては、実際に取り組みが行われている佐賀大学の構内店舗を例として紹介。これは佐賀大学のほか、”現場系”に強い通販サービスを運営するモノタロウと共同で取り組んでいるプロジェクトだ。

モノタロウと佐賀大学との共同プロジェクトによる無人店舗(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

この無人店舗では、Amazonが米国で運営している無人店舗「Amazon Go」のような、大量のカメラを店舗内に設置して、客が何を取ったかをAIの画像認識で判別して決済までを自動化するのではなく、購入決済は来店客のスマートフォンで商品バーコードを読み取る形にしている。

山本氏は、「Amazon Goのような方式だと100台程度のカメラが必要になるし、それと同じぐらい大規模な処理用ワークステーションも必要になる。これは小売店にとっては現実ではないと判断した。そこで、カメラはセキュリティとマーケティング用に5台だけ用意して、決済は客のスマートフォンで行う形にした」と、より現実の小売店のニーズに即した方式を採用したと説明する。

店舗内の全景(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

AIが店舗のカメラや入退店ゲート、各種センサーなどを制御・分析することで、防犯などのセキュリティ面を担っているほか、来店客の行動分析によるマーケティング面での店舗運営支援もできるようにしている。

カメラは5台でセキュリティとマーケティング観点でのモニタリングを行なっている(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

気になるロス率(有り体に言えば万引きされる商品の率)は、驚くべき事に始めて半年の実績で「0」だったという。小売店では商品の消滅などのロス率をある程度見込んで運営がされている。もちろん大学の構内という比較的治安が良い場所ということを差し引く必要はあるが、小売店の利益に直結するロス率0という数字は注目に値する。

AIソリューション、現状ではクラウドよりもエッジが現実的

OPTiMのエッジワークステーション(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

こうしたOPTiMのAIソリューションを裏で支えたのは、HPのエッジAIソリューションだったという。山本氏は、「ディープラーニング(深層学習)の学習と推論を、GPUを搭載するHPのワークステーションで行なっている。ワークステーションにHPを選択した理由は、こちらが必要としている量を確実に供給してくれる体制とサポート体制がしっかりと整っていたため」と、様々なベンダから検討した結果、HPを選択するに至った決め手を説明した。山本氏によれば、パブリッククラウドで提供されるGPUなども利用してみているが、現状では、「エッジにワークステーションを置く方が使い勝手が良い」と評価しているそうだ。

OPTiMのエッジワークステーションのラインアップ(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)
株式会社日本HP 専務執行役員 パーソナルシステムズ 事業統括 九嶋俊一氏(左)と株式会社オプティム 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏(右)

なお、山本氏は、3月20日に書籍『成功に導くためのAIプロジェクト実践読本』を発売する予定という。どうやってAIのソフトウェアを書くのか、という従来のAI関連の書籍とは異なり、AIをどうやって自社のビジネスに投入していくかについてフォーカスした内容だそうだ。

「AIを使ったサービスは、従来のソフトウェア開発とはモデルが異なる。それを契約としてどのようにクロージングしていくかが重要になる。ソフトウェアの開発契約をどうしたらいいのか、ソフトウェアの知財をどうしたらいいのか、そのソフトウェアを使ったビジネスが拡大したときにレベニューシェアをどうしたらいいのか、そうした時に参考になる書籍にした」(山本氏)といい、社内ノウハウも惜しげ無く盛り込んだとのことなので、AI活用ビジネスを始めようという人は注目しておくといいだろう。

3月20日に販売予定の「成功に導くためのAIプロジェクト実践読本」(マイナビ刊 出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)