「瀧澤信秋」の記事

瀧澤信秋

瀧澤信秋(たきざわのぶあき)

ホテル評論家

ホテル評論家として、国内のホテルを精力的に取材。利用者目線でホテル業界全般や、サービス、ホスピタリティ、クレーム対応、ホテルグルメなどについて、ホテル経営者やスタッフなどへの綿密な取材の上、各種媒体を通じて情報を発信している。また旅行作家としても、ホテルや旅のエッセイなど多数発表している。
ドーミーインのお風呂は「筋金入り」だった 多様化するビジネスホテルの今

瀧澤信秋のいろはにホテル 第2回

ドーミーインのお風呂は「筋金入り」だった 多様化するビジネスホテルの今

2018.12.06

ホテル評論家・瀧澤信秋氏による連載!

「多様化」が進むビジネスホテルの現状は?

ドーミーインが「風呂好き出張族」に好かれる理由

ここ数年、急速にビジネスホテルの「多様化」が進んでいることをご存知だろうか。本稿では、「料金変動」の面を中心にお伝えした前回に引き続き、「各ホテルの差別化への取り組み」というテーマで、多様化が進むビジネスホテルの現状を探っていきたい。

全国チェーンが席巻してきたビジネスホテル業界

筆者はホテル評論家としての仕事の傍ら、ホテルプロジェクトへの参画といった仕事もこなしている。持ち込まれる案件は宿泊主体型ホテル(ビジネスホテル)が多い。近年のホテル開発の多くは宿泊主体型ホテルで占められているから当然といえば当然だが、それにしても実に多くのビジネスホテルが誕生している。

いたるところでビジネスホテルを見るようになった

手もとにある2019年のホテル開業予定一覧には、320軒超の開業予定施設が列挙されているが、ザッと見ただけでも宿泊主体型ホテルがその多くを占める。活況を呈する宿泊業自体が注目されているうえに、ビジネスホテルの需要が高いことは周知の事実。当然、ビジネスとして成立すると見込まれるから開業するという思惑はいずこも同じだ。

プロジェクトがスタートしてから開業に至るまではさまざまな過程を経るが、期間は2~3年は要する。この間には、所有者をはじめ、投資家や建築家、オペレーター、コンサルタントなど、さまざまな人がかかわるうえに、巨額の資金も投入される。かような状況下で、一度ゴーしたプロジェクトが引き返されることはほとんどない(というより、そんなことはとてもできない)。

コンセプトを打ち出す“進化系ビジネスホテル”

筆者は以前から、ビジネスホテルは「ハイクラス型」と「ローコスト型」に分けられると指摘しているが、この傾向はますます際立っている。

一般的にローコスト型は標準化された客室を大量供給する傾向にあるが、ハイクラス型では独自コンセプトの打ち出しが目立つ。開業を控えたホテルから届く大量のリリースを見ると、最近のビジネスホテルはハイクラス型が多くを占めていることがわかる。

筆者の造語で恐縮だが、ハイクラス型は“進化系ビジネスホテル”と表すことができるだろう。「ビジネスホテルなのに豪華」「ビジネスホテルなのに高品質ベッド」「ビジネスホテルなのに食事が素晴らしい」……など、“ビジネスホテルなのに○○”、というのが進化系に共通する特徴だ。

これはビジネスホテルのシティホテル化(シティホテル=料飲やバンケットなど宿泊以外にも多くの用途があるホテル)とも言えるが、リミテッドサービスであれば、やはりビジネスホテルなのである。

質感の高い客室では24時間滞在プランも人気だ(画像は立川ワシントンホテル)

多彩なサービスが提供できるシティホテルと比較し、宿泊に特化しているビジネスホテルはコンセプト化の方向性が画一的になる傾向があり、続々誕生するビジネスホテルブランドの中には、コンセプト化に注力しつつも同工異曲といったものも見られる。ただし、差別化とコモディティ化によって、特異な尖ったサービスも散見するようになったのも事実だ。

実際の差別化の取り組みや傾向について、いくつか例を紹介しよう。

混戦極める快眠コンセプト

“ホテル”という名の通り、ビジネスホテルが「眠り」にフィーチャーするのは自然なこと。しかし、昨今はビジネスホテルなのに高級ホテルのような快眠ホテルが増加している。

スーパーホテルやコンフォートホテルなど、快眠への取り組みをアピールするビジネスホテルは多い。中でも、スーパーホテルの取り組みは特筆すべきものがある。スーパーホテルは、言わずと知れた“選べる枕”のパイオニアでもあるが、同様のサービスを行うビジネスホテルが増えてきたのも事実で、“よく見るサービス”になりつつある。

スーパーホテルの選べる枕

また、オリジナルマットレスで知られるのが「アパホテル」と「レム」だ。専門メーカーとの共同開発は高級ホテルで見られる傾向にあったが、今後はビジネスホテルでも一般的になるかもしれない。また、既に一般化しているのが羽毛布団を使った“デュベスタイル”のベッドメイクだ。

長くなってしまうので詳述は避けるが、筆者は評論家としての活動を始めた4~5年ほど前から、自著や各種媒体、講演などでデュベスタイルを推奨してきた。当時は高級ホテルで多く見られたが、いまやビジネスホテルでも定番化している。

朝⾷の有料・無料の⼆分化は「⼆極化」へ

ゲストの中には、「朝食でホテルを選ぶ」という人もいる。

無料とは思えない充実の内容(ホテル ココ・グラン上野不忍にて)

従前より、朝食のクオリティを堅持したい(宿泊料金の高い)ハイクラス型が有料、ローコスト型が無料というある種の逆転現象を指摘してきたが、有料朝食/無料朝食は、ここにきてそれぞれに際立つ進化を遂げている(「無料」とはいえ、宿泊料金に転嫁されていることはいうまでもない)。

無料朝食といえば、パンにコーヒーといった簡易的なスタイルから始まったが、今やブッフェスタイルが当たり前。煮物・焼き物・揚げ物といった充実メニューからパン・ご飯、サラダバーまで用意されているケースもある。

無料でこうなのだから有料朝食の充実は言わずもがな。特に最近驚いたのが「ホテルフォルツァ長崎」(長崎市)だ。ご当地メニューをかなりフォローしたラインアップにはじまり実演メニューまで、前回訪問時より大きく進化していたのが印象的だった。朝食による差別化はどこまで進むのだろうか。

もはや定番「お持ち帰りスリッパ」

かつてはビジネスホテルの差別化アイテムに思えたが、もはや定番な存在になったのが「お持ち帰りスリッパ」である。

ウォッシャブルスリッパを導入するホテルもあるが、筆者は前述のデュベスタイルと共に良いビジネスホテルを見分けるアイテムとして推奨してきた。これもいまや定番のアイテムに。さらには高級ホテルのお持ち帰りスリッパのような、質感まで追求する施設も登場した。

ビジネスホテルでもすっかりおなじみのお持ち帰りスリッパ

差別化アイテムといえば、最近気になったのが、テレビ画面でランドリーやレストランの空き状況などがわかるシステムだ。当初は「ここまでやるか」と驚いたが、すでに定番のサービスになりつつある。また、いつのまにか定番になったものといえば、自動精算機がある。ホテル・利用者双方に効率化をもたらすように見えるが、他方では、ゲストが操作に難儀しているシーンを時々見かける。

異業態からのアイデア取り込みも

ビジネスホテルのテレビといえば、画面でアメニティなどリクエストできるシステムもみられるようになったのをご存知だろうか。

実は、こうしたシステムはレジャー(ラブ)ホテルの十八番だ。筆者はラグジュアリーから、ビジネス、カプセル、レジャーホテルといった横断的視座で評論しているが、レジャーホテルのサービスが一般ホテルへ波及するケースを何度か見てきた。

レジャーホテルには学ぶべきサービスが多い

前述の自動精算機も、ロビーに設置/客室に設置と形態は違うが、多くのレジャーホテルで見られるシステム。自動精算機の開発を手がける業界大手の株式会社アルメックスは、レジャーホテルのシステム開発でも高名な会社だ。

レジャーホテルが先駆けだったシャンプーバイキングも旅館やビジネスホテルで見かけるようになった。また、全客室への電子レンジ導入をとあるビジネスホテルでみかけたが、これもレジャーホテルでは定番のアイテムである。

レジャーホテルは“顔を出せない”“接触できない”という業態だけに、あらゆるゲストの多様な好みを充足できるよう、さまざまなシーンを想定してサービスを準備、提供している。CS(顧客満足)は当然として、匿名的な業態にしてある意味でPS(個人満足)追求が勝負の鍵。それゆえに、きめ細かなサービス・システムが他業態に先駆けて誕生しているというわけだ。

温泉大浴場で抜きん出る「ドーミーイン」

「大浴場」もビジネスホテルの魅力の1つ。中には天然温泉を楽しめる施設もあり、ファンの心を掴んでいる。

ビジネスホテルと温泉で知られるのが「ドーミーイン」だろう。ほとんどの施設で大浴場が楽しめてその多くが天然温泉だ。露天風呂、サウナや冷水浴も標準装備で、お風呂好きの出張族にファンが多い。

ドーミーインでは露天風呂も定番

経営会社の株式会社共立メンテナンスは、ホテルの売上高ランキングでもプリンスホテル、東横イン、東急ホテルズに次ぐ第4位で、前年度比伸び率もダントツ(日経MJ2018年11月14日)。ビジネスホテルの温泉大浴場といえばドーミーインというイメージは定着しているが、これはもちろん一朝一夕に評価を得たわけではない。

同社はもともと、大浴場施設のある寮の運営を主幹事業としていた企業であった。そこから、社員寮入居者の「出張先でも寮みたいなホテルがあったら」という要望があり、1993年にビジネスホテルへ進出。当時としては珍しい大浴場付きのビジネスホテルを展開していくことに。ドーミーインは、当初から天然温泉にも注力している“筋金入り”のホテルなのだ。

***

以上、ビジネスホテルの差別化についてみてきた。

ホテル評論家として、旅行者が急増した人気沸騰エリアは常に注目している。旅行先としての魅力分析というよりも、2~3年すればここもビジネスホテルの開業ラッシュになるのだろうというような需給予測的着目だ。そして一気に開業が重なる。需要に供給が追いつくのは世の常であるが、限られたマーケットでの差別化は至上命題といえる。

コンセプトは“作り”“打ち出し”“当てはめる”という面がある一方で、長年かけて一貫したスタンスを徹底した結果、揺るぎないコンセプトとなり、オンリーワンの確固たる地位を築くホテルもある。徐々にコンセプトが築かれていくような地に足の付いたホテルはゲストの信頼も厚いのである。 

次回は本記事でも触れたレジャー(ラブ)ホテル、その驚異的なサービスと一般ホテルの業際化について取り上げます。 

連載バックナンバーはコチラから

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

瀧澤信秋のいろはにホテル 第1回

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

2018.11.16

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏による新連載!

第1回は、「多様化するビジネスホテルの今」について

料金変動「するホテル」と「しないホテル」 それぞれの狙いは?

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏が、意外と知らないホテルビジネスを語る新連載。第1回は、瀧澤氏が“注目度の高いカテゴリー”と説明する「ビジネスホテル」について。ここ数年で急速に「多様化」が進んでいるビジネスホテルのこと、どれだけ知っていますか?

ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?