「清水和夫」の記事

清水和夫

清水和夫(しみずかずお)

モータージャーナリスト

1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある。
自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

レクサスの“末っ子”は小粋な本格派? 今冬発売のコンパクトSUV「UX」に試乗!

レクサスの“末っ子”は小粋な本格派? 今冬発売のコンパクトSUV「UX」に試乗!

2018.10.22

日本では今冬発売予定のコンパクトSUV「UX」に一足早く試乗

魅力のエンジンを搭載、スペック以上の加速を実感

見た目はファミリーカーでも走破性に文句なし

2018年3月のスイス・ジュネーブショーで発表されたレクサスのコンパクトSUV「UX」に試乗する機会に恵まれた。国際試乗会はスウェーデンの首都ストックホルムで開催され、日本からも多くのメディアが参加した。

レクサスのコンパクトSUV「UX」に一足早く試乗。日本では2018年冬頃に発売予定だ。Lexus Internationalによると価格はまだ明かせないとのこと(画像は全てLexus Internationalの提供)

開発したのはレクサス初の女性エンジニア

ステアリングを握る前に、チーフエンジニアを務める加古慈(かこ・ちか)さんのプレゼンテーションを聞いた。レクサスとしては初の女性エンジニアであり、素材の研究者としてのキャリアを持つ加古さんは、欧州に駐在していた時に訪れたストックホルムの街に強い印象を受けたそう。自らが開発リーダーとなった新型車の試乗会をこの地で開催することに、深い思い入れがあったそうだ。

「UX」のコンセプトは「Creative Urban Explorer」(CUE)。新たなライフスタイルを探求するきっかけ(cue)となることを目指すクルマなのだという

加古さんと前にお会いした時はレクサスのコンパクトカーである「CT」の開発主査だったが、今回はUXのチーフエンジニアであり、レクサスカンパニーのナンバー2にまで昇格していた。事実上、レクサスの技術部門のリーダーなのである。

夏は白夜、冬はほとんど太陽が拝めない北欧で暮らす人々は、常に自然の厳しさと隣り合わせであるがゆえに、自然との調和、人とのつながりを大切にする独特なライフスタイルを創りだし、育むことができたのかもしれない。そんな北欧の地で揺すぶられた加古さんの感性は、「新たなライフスタイルを探求するきっかけ」を目指すというUXのコンセプトにも反映されているはずだ。

レクサスの代名詞ともいえるスピンドルグリルにはブロックメッシュ形状を採用。見る角度によって表情が変わる

小粋な末っ子は中身もスゴイ

UXはエンジンを横に置く「GA-Cプラットフォーム」を採用しており、トヨタ自動車のプリウスやカローラ系などの流れを汲む。サイズ的には欧州プレミアムブランドのライバル達よりも少し小ぶりだが、個性的なデザインのおかげで存在感は強い。レクサスファミリーの末っ子として登場するUXは、コンパクトながら小粋なキャラクターといった印象だ。

しかし、その中身は兄貴達にも負けないものを持っていると加古さんは自信をのぞかせる。スタイリングはひと目でクロスオーバーSUVだとわかるが、よく見るとスポーティなハッチバックとも思える。早い話がスペシャリティカーであり、ドライバーズカーなのだと納得した。

外見はクロスオーバーSUVのシルエットだが、コックピットは低いドライビングポジションを実現している

今回、UXが搭載するエンジンは魅力的だ。2リッター直列4気筒の高速燃焼を実現する「ダイナミック・フォース」と呼ばれるもので、ロングストロークのエンジンは吸気バルブにレーザークラッドという技術でバルブシートを溶射し、吸入空気の流れをスムースに制御する。そのおかげで、タンブル(縦渦のこと。エンジンのシリンダー内でタンブルが発生すると、燃焼速度が向上する)を無駄なく生じさせることが可能となった。空気と燃料をよくかき混ぜて、一気にプラグ点火で燃焼させる。その燃焼速度の速さゆえに、エンジンの出力と効率が高まるのだ。この技術はF1のエンジンでも使われている。

ベースモデルのガソリン車は最大出力171ps、最大トルク205Nmを誇るが、AT(オートマチックトランスミッション)は発進用にギアを持つCVT(無段変速機)だ。乗ってみるとスペック以上の加速を感じられる。

乗ってみるとスペック以上の加速を感じた

ハイブリッドも選択可能、燃費と走りでライバルに差

上位グレードにはハイブリッドも用意する。ダイナミック・フォースにモーターを採用するタイプで、トルクはハイブリッドの方が大きい。燃費と走りではライバルを引き離すポテンシャルを持っているわけだ。車体にはレクサスの走りに見合うよう手を加え、ボディ剛性を高めた。ゆえにサスペンションはスムースに動き、しなやかで強靭な走りが可能となる。

局所的に目立つようなキャラクターは感じないものの、全体のバランスは素晴らしいというのがUX評のまとめだ。癖がないので、誰がハンドルを握っても好感が持てるだろう。ボディサイズは全長4,495mm、全幅1,840mm、全高1,520mmで、最小回転半径は5.2mと小回りがきく。キャビンは乗り降りしやすく、タワーパーキングも利用できる。

選ぶべきはスタンダードの17インチタイヤか、スポーティな18インチタイヤか。よきファミリーカーとしては前者、走りを楽しむには後者がおすすめだ。

日本でも取り回しがしやすいサイズ感

森と湖に囲まれたストックホルムの郊外をドライブしていると、地平線の向こうまで走りたくなる。ハイブリッドの燃費はリッター20kmを超えるので、1,000kmくらい先までは行けそうだ。北欧では北緯66度前後を超えると「ラップランド」と呼ばれる厳寒の地に踏み込む。UXにはAWDモデルもあるので、北国でも頼もしい走りが可能だ。見た目は良きファミリーカーであっても、走破性には文句がないと思った。

不易流行の極地…清水和夫のトヨタ新型「センチュリー」試乗レポート

不易流行の極地…清水和夫のトヨタ新型「センチュリー」試乗レポート

2018.08.30

皇室とは切っても切れない日本の高級車開発史

都市と融合する洗練のデザイン、類いまれな重厚感

世界で最も高級? 新型センチュリーの乗り心地やいかに

トヨタ自動車の「センチュリー」が3代目に生まれ変わった。今回の新型は「御料車」(天皇および皇族が使用するクルマ)としても使われるので、開発は入念に行われたはずだ。

トヨタの新型「センチュリー」。初代は1967年に誕生した純国産の高級車だ。この年はトヨタの原点である豊田佐吉の生誕100年にあたり、「世紀」という意味の車名はそれにちなむ

戦後はどの時代もそうだが、日本の最高級車は天皇陛下がお乗りになることを前提につくられた。クルマの開発史と御料車には、無視できない関係があるのだ。まずは、その辺りから話を進めていこう。

御料車としての使用を前提に開発された新型「センチュリー」

御料車をめぐるトヨタと日産の歴史

初代センチュリーが誕生した1967年の日本では、戦後復興の経済成長が著しく、自動車メーカーも世界と戦える技術を身につけ始めていた。偶然にも同じ年、日産自動車のプリンス事業部は、天皇陛下がお乗りになる御料車を完成させ、「プリンス・ロイヤル」という名前で納車した。

それから約40年間、プリンス・ロイヤルは皇室の最高級車であり続けた。一方のセンチュリーは、企業のトップが乗る高級車として使われきた経緯がある。台数の関係からいえば当然だが、一般の方にとってみれば、プリンス・ロイヤルよりもセンチュリーのほうが記憶に残っているはずだ。

「センチュリー」は企業のトップが乗るクルマとしての歴史を歩んできた(画像は新型)

プリンス・ロイヤルは宮内庁からの依頼で日産が開発したもので、一般人が乗るクルマではなかった。設計・開発を担当したのは、プリンス自動車の若きエンジニアだった千野甫(はじめ)さん。彼は、それまでの御料車だった「ロールス・ロイス」を研究してプリンス・ロイヤルを開発した。

プリンス・ロイヤルのサイズは全長6mを超え、重量も3.5トンを上回っていたが、トヨタが開発したセンチュリーは、あくまでも民間企業の社長が乗る高級車だったので、全長は約5.1mの大きさだった。

御料車として、約40年間にわたって活躍したプリンス・ロイヤルにも、そろそろフルモデルチェンジの必要が出てきた2005年頃、日産は大きな高級車の自主開発を断念し、御料車の開発はトヨタが担当することになった。そのとき、トヨタは2代目「センチュリー」をベースに御料車を開発し、「センチュリー・ロイヤル」として納車したのである。

「センチュリー・ロイヤル」のベースとなった2代目「センチュリー」(画像提供:トヨタ自動車)

さて、話を現代に戻すと、トヨタは今回の新型センチュリーが御料車にも使われることを当初から分かっていたので、量産車をベースに新しい「センチュリー・ロイヤル」を開発している。こちらのクルマは性格上、細かいスペックが明かされていない。

風格たっぷりのデザインに群を抜く重厚感

ここからは新型センチュリーに注目していく。

このクルマは決してドライバーズカーではないのだが、その洗練されたスタイルは、退屈なショーファーカー(運転手の存在を想定したクルマ)とは思えないほどデザインが完成されている。その風格は時代を超えた威厳すら感じさせるが、それでいて、高いところから見下ろすような嫌味はない。都市との融合――。そんな言葉が思い浮かぶデザインではないだろうか。

洗練されたスタイルが特徴の新型「センチュリー」

実際にドライバー席に乗り込んでみると、ドアが閉まる時の重厚感はたまらない。きっと、由緒あるお屋敷の扉を閉めた時というのは、こんな感覚が味わえるものなのだろう。パワープラントは先代センチュリーが搭載していたV12気筒が廃止となり、V8エンジンのハイブリッドに変わっている。もちろん、V12よりも走りは静かになった。

パワープラントはV8のハイブリッドとなり、走りも静かだ

後席の雰囲気は、どうみてもショーファーカーだ。レースのカーテンからは、いかにも昭和といった匂いがする。後席に座るVIPを、いかに快適に目的地まで送り届けるか。ショーファー(運転手)には繊細なドライビングが求められる。

昭和な後席にも風情がある

量産型センチュリーは、御料車とはスペックは異なるものの、それでも重厚感は素晴らしい。あえていえば、時速100キロ以下なら世界で最も高級な乗り心地なのではないだろうか。

ステアリングを握ると、トロッとしたハンドリングに加え、「スムースネス」という言葉以外に表現しようがないほどの加速感に感激する。試乗した箱根ターンパイクは、この日だけペルシャ絨毯が敷かれているようだった。

まるでペルシャ絨毯の上を走っているような極上の乗り心地

レクサスとセンチュリーを使い分ける人も

知り合いの大手企業の会長は、センチュリーとレクサス「LS」をTPOで使い分けている。ほかの企業のトップとの会合ではレクサスLSを使い、ゴルフにはセンチュリーに乗って行くそうだ。その理由は、センチュリーの方が乗り心地がよいので、疲れた身体を癒やすことできるからだという。

トヨタの中でもレクサスは高級プレミアムという位置づけだが、ドライバーズカーというキャラクターも与えられているから、その会長さん、LSでは時たま運転を楽しむらしい。新型LSはBMW「7シリーズ」を意識しているが、センチュリーはショーファーカーに徹したクルマなのだ。

トヨタで高級路線といえばレクサスもあるが、センチュリーにはショーファーカーに徹した魅力がある

すでに述べたように、昭和と(もうすぐ終わる)平成の香りが色濃く漂うものの、ハイブリッドや高度な運転支援など、センチュリーの技術はとても先進的だ。まさに「不易」と「流行」(時代とともに変わるべきものと変わらないもの)という言葉がピッタリと当てはまる日の丸高級車は、我らの誇りである。