「清水和夫」の記事

清水和夫

清水和夫(しみずかずお)

モータージャーナリスト

1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある。
メルセデス・ベンツ初の市販電気自動車「EQC」とはどんなクルマか

メルセデス・ベンツ初の市販電気自動車「EQC」とはどんなクルマか

2019.03.27

メルセデス・ベンツの電動化戦略、「EQC」で本格化

エンジン車にも通じるクルマづくりの作法

加速はスポーツカー並み! 航続距離は450キロ

メルセデス・ベンツ初の市販電気自動車(EV)「EQC」が今年、いよいよ登場する。2019年半ば頃の日本導入が噂されているが、一体、どんなクルマに仕上がっているのか。モータージャーナリストの清水和夫さんは以下のように解説する。

メルセデス・ベンツのEV「EQC」

メルセデスの電動化を包括する「EQ」ブランド

メルセデス・ベンツは2018年9月、スウェーデンのストックホルムにおいて、バッテリーだけで走る電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)「EQC」を正式に発表した。それまでも、各国の国際的なイベントでは、同社の電動モビリティを包括する「EQ」(イーキュー)というサブ・ブランドを発信してはいたが、いよいよ、本格的なメルセデスの電動車両がEQCから始まるのだ。

ここでは混乱を避けるため、電動車両の定義とメルセデスが採用する「EQ」というサブ・ブランドについて説明しておく。

「EQ」とは「電動化」にフォーカスしたメルセデスのサブ・ブランドであり、バッテリーだけで走るBEVを「EQ」、バッテリーとエンジンを組み合わせるプラグイン・ハイブリッドを「EQ Power」、48Vのサブ電源を使うシステムを「EQ Boost」と呼ぶ。

このように、電動車両といっても、バッテリーとモーターだけで走るBEV、エンジン/バッテリー/モーターを組み合わせるプラグイン・ハイブリッド(PHVあるいはPHEVと略す)、あるいは、48Vを使う車両に見られるマイルド・ハイブリッドなど、クルマの在り方は多様化している。「〇〇社は20XX年までに全てのクルマを電動化する」というヘッドラインのニュースが世界中を駆け巡っているが、電動化の中身をきちっと理解する必要があるだろう。メルセデスの場合は「EQ」「EQ Power」「EQ Boost」の名前で整理している。

「EQ」ブランドのクルマたち

EQCは「GLC」相当のSUVをベースとするクルマだ。「Aクラス」相当のセグメントでBEVが登場すれば、「EQA」と呼ぶことになるだろう。

内燃機関はベンツの代名詞、EVはどう作る?

EQCの日本初公開となったイベントは、桜が咲く前の3月初め、メルセデス・ベンツのブランド発信拠点「Mercedes me」(東京・六本木)にて開催された。注目すべきは、メルセデス・ベンツ日本(MBJ)がEQCと家の電気をつなげる「EQハウス」という斬新なコンセプトで同車を発表したこと。EQCは自宅でも充電できるので、家との相性がよい。そこでMBJは、竹中工務店と組んで「EQハウス」という新しいアイディアを提案したのだ。クルマと家が電気でつながることを「V2H」(Vehicle to Home)と呼ぶ。日本では以前から取り組んできたシステムだ。

MBJと竹中工務店は、モビリティとリビングの未来の姿を具現化すべく、六本木の「Mercedes me」に体験施設「EQハウス」を設置した。ちなみに、「EQC」の展示はすでに終了している

ところで、EQCのカットモデルを見た時、面白いことに気がついた。EQCは「Cクラス」ベースのSUV「GLC」をベースとするが、BEVなのでエンジンとギアボックスが存在しない。そのスペースには、パイプ製のケージが設置されているのだ。パイプの内側にはフロントモーターとデフ(デファレンシャルギア)が置かれ、上部にはインバーターが配置されている。リアも同様にモーターとデフでリアアクスルが構成される。

エンジンがなくなる代わりに、「EQC」にはモーターとデフを納めたパイプ製のケージが入っている

バッテリーは床下のフロア内に格納することで重心を低く設定できる。と、ここまでは常識的なパッケージなのだが、衝突安全の剛体として、このパイプ製ケージにはエンジンと同じ強度を持たせてある。つまり、エンジン車と同じく、モジュールでデザインできるモデルベース開発(MBD)を取り入れているのだ。自動車業界で流行の手法は、EQCにも採用されていた。

EQCのボディサイズは全長4,761mm、全幅1,884mm、全高1,624mm、ホイールベース2,873mmとGLCに近いから、シミュレーションしやすい。性能を見ると、前後2つのモーターは合計で最大出力408PS、最大トルク765Nmを発生する。加速性能はV8ターボのエンジン車並みで、停止状態から時速100キロまでの加速は5.1秒と俊足だ。リチウムイオン・バッテリーの容量は80kWh。気になる航続距離は450キロとのアナウンスがあった。

「EQC」のボディサイズは「GLC」に近い。加速はV8ターボエンジン並みだ

EQCの試乗会は2019年5月に開催されるので、それまでは詳細なインプレッションをお届けできないが、スポーツカー並みの加速性能を誇るEQCは単なるBEVではなさそうだ。何か、もっとすごい仕掛けがありそうに思える。試乗会が楽しみになってきた。

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第14回

自動運転とMaaSが世界の共通言語に? 「CES 2019」で自動車会社は何を語ったか

2019.01.23

テックの祭典に見る自動車業界の現在地

キーワードは自動運転とMaaS? 自動車大手は何を語ったか

日本では産官学の自動走行システム研究が進行中

テックの祭典といわれる「CES 2019」を取材するため、新年早々から米国・ラスベガスに飛んだ。CESはもともと家電ショーの位置づけだったが、最近は自動運転やAIなどのテック系イベントに様変わりしている。

アウディはコネクト技術を披露、日系サプライヤーも健闘

今では自動車産業とIT企業が押し寄せるショーになったが、自動車メーカーがCESに参加するようになったのは2011年頃からだ。当初はドイツのアウディが電気自動車(EV)「e-Tron」のコンセプトカーを発表して話題となった。私が初めてCESを取材したのは2014年だが、その時もアウディが「ヴァーチャルコックピット」という新しいアイディアを提案していた。

今年のCESではアウディだけでなく、メルセデス・ベンツや韓国のヒュンダイにも勢いがあった。さらに、大手サプライヤーも独自の技術を披露していた。CESの常連であるアウディはサーキットを使い、バーチャルリアリティーを体験できるイベントを開催。そこそこのスピードで走る「e-Tron」の後席に座ってヘッドギアを付けると、視界に入ってくるのはサーキットの景色ではなく、異次元のサイバー空間だった。

アウディは電気自動車「e-Tron」を使ってヴァーチャルリアリティー体験を提供

アウディの狙いは、コネクト技術を使うことだ。車内でいろいろなエンターテイメントが楽しめるのに、実際のクルマの動きとサイバー空間で繰り広げられる動きが同期しているから、車酔いを起こさないというのが売りになっている。この映像システムは、ベンチャーのホロライド(holoride)社とコラボして開発したシステムであり、2022年頃には実用化するとのことだった。

日系メーカーではデンソーやアイシン精機がドライバーレスのロボットカーを発表し、自動運転への意欲を見せた。興味深かったのはパナソニックで、電気で走るハーレーのコンセプトモデルをブースに展示していた。実際の事業化はまだ未定とのことだったが、日本のサプライヤーの頑張りは目立っていた。

完全自動運転と安全運転支援を両輪で研究するトヨタ

それでは、自動運転と「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)について、自動車業界の巨人たちは何を語ったのだろうか。ここではトヨタ自動車とメルセデス・ベンツの発表を振り返ってみたい。

昨年のCESでは、移動や物流などの多用途で使えるMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」をお披露目して話題を呼んだトヨタ。今年のCESで熱を込めて語ったのは、同社が「Toyota Guardian高度安全運転支援システム」(ガーディアン)と呼ぶ自動運転技術だった。プレゼンテーションを行ったのは、トヨタが米国に設立した自動運転や人工知能などの研究機関「トヨタ・リサーチ・インスティチュート」(TRI)のギル・プラット所長だ。

TRIが研究を進める自動運転技術「ガーディアン」とは

TRIでは、システムがあらゆる場面でクルマを運転する完全自動運転を「ショーファー」、基本的には人間(ドライバー)がクルマをコントロールし、危険が迫った時などにシステムがドライバーをサポートする技術を「ガーディアン」と呼び、この2つのアプローチで設立当初から研究を進めている。

社会受容性など、乗り越えるべき課題の多い「ショーファー」の実現にはかなりの時間を要する見通しだが、運転支援システムの延長線上にある「ガーディアン」は、交通事故を減らしたり、より多くの人に移動の自由を提供したりするためにも、一刻も早い実用化を期待したい技術だ。CESでガーディアンの説明に時間を割いたところを見ると、トヨタは自動運転技術の社会実装を、可能なところから進めていこうと考えているようで心強い。TRIでは2019年春、レクサス「LS」をベースに開発した新しい自動運転実験車「TRI-P4」を導入し、ガーディアンとショーファーの双方で研究を加速させるという。

レクサス「LS 500h」をベースとする自動運転実験車「TRI-P4」

一方、メルセデス・ベンツがCES 2019に持ち込んだのは、MaaSを見据えたコンセプトカー「Vision URBANETIC」だった。人の移動にもモノの輸送にも使えるこのEVは、「e-Palette Concept」のメルセデス・ベンツ版といったところ。未来のモビリティについて想像を掻き立てるコンセプトカーだが、このクルマが現実社会を走行する場合、自動運転が実用化していることは大前提となる。

メルセデス・ベンツのコンセプトカー「Vision URBANETIC」

自動運転とMaaSが業界共通の課題、日本の取り組みは

ほんの一部ではあるものの、CESで自動車業界の巨頭が発表したことを振り返れば、彼らが自動運転を喫緊の研究課題と捉えていて、将来の自社のビジネスにとって必須の技術だと考えていることが分かる。ちなみに、CES 2019を見て回った筆者の印象では、自動運転にまつわる技術面の課題は、多くがすでに解決済みであるような気がしている。

自動運転とMaaSの社会実装は、自動車産業を基幹産業とする日本にとっても避けては通れない課題だ。日本国内では、内閣府が「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の一環として自動走行システムの実現を後押ししている。

この取り組みでは、産官学が連携して5年にわたる研究・開発を進めてきた。自動車メーカーだけでなく、様々な企業や研究機関が英知を結集し、自動運転の基礎となる技術や、高齢者など交通制約者に優しい公共バスシステムの確立など、移動の利便性向上を目指してきたのである。

SIPにおける自動走行システムの研究成果については、2月6日、7日にTFTホール(東京・有明)で開催される「自動運転のある未来ショーケース~あらゆる人に移動の自由を~」というイベントで触れることができる。筆者も2月6日の「市民ダイアログ」(17時30分から)に参加して、自動運転で交通社会はどこまで安全になるかを議論し、市民の皆さんからも自動運転に対する様々な意見を頂戴する予定だ。この機会に是非、自動運転の最新技術とモビリティの未来像を体感してほしい。

レクサスの“末っ子”は小粋な本格派? 今冬発売のコンパクトSUV「UX」に試乗!

レクサスの“末っ子”は小粋な本格派? 今冬発売のコンパクトSUV「UX」に試乗!

2018.10.22

日本では今冬発売予定のコンパクトSUV「UX」に一足早く試乗

魅力のエンジンを搭載、スペック以上の加速を実感

見た目はファミリーカーでも走破性に文句なし

2018年3月のスイス・ジュネーブショーで発表されたレクサスのコンパクトSUV「UX」に試乗する機会に恵まれた。国際試乗会はスウェーデンの首都ストックホルムで開催され、日本からも多くのメディアが参加した。

レクサスのコンパクトSUV「UX」に一足早く試乗。日本では2018年冬頃に発売予定だ。Lexus Internationalによると価格はまだ明かせないとのこと(画像は全てLexus Internationalの提供)

開発したのはレクサス初の女性エンジニア

ステアリングを握る前に、チーフエンジニアを務める加古慈(かこ・ちか)さんのプレゼンテーションを聞いた。レクサスとしては初の女性エンジニアであり、素材の研究者としてのキャリアを持つ加古さんは、欧州に駐在していた時に訪れたストックホルムの街に強い印象を受けたそう。自らが開発リーダーとなった新型車の試乗会をこの地で開催することに、深い思い入れがあったそうだ。

「UX」のコンセプトは「Creative Urban Explorer」(CUE)。新たなライフスタイルを探求するきっかけ(cue)となることを目指すクルマなのだという

加古さんと前にお会いした時はレクサスのコンパクトカーである「CT」の開発主査だったが、今回はUXのチーフエンジニアであり、レクサスカンパニーのナンバー2にまで昇格していた。事実上、レクサスの技術部門のリーダーなのである。

夏は白夜、冬はほとんど太陽が拝めない北欧で暮らす人々は、常に自然の厳しさと隣り合わせであるがゆえに、自然との調和、人とのつながりを大切にする独特なライフスタイルを創りだし、育むことができたのかもしれない。そんな北欧の地で揺すぶられた加古さんの感性は、「新たなライフスタイルを探求するきっかけ」を目指すというUXのコンセプトにも反映されているはずだ。

レクサスの代名詞ともいえるスピンドルグリルにはブロックメッシュ形状を採用。見る角度によって表情が変わる

小粋な末っ子は中身もスゴイ

UXはエンジンを横に置く「GA-Cプラットフォーム」を採用しており、トヨタ自動車のプリウスやカローラ系などの流れを汲む。サイズ的には欧州プレミアムブランドのライバル達よりも少し小ぶりだが、個性的なデザインのおかげで存在感は強い。レクサスファミリーの末っ子として登場するUXは、コンパクトながら小粋なキャラクターといった印象だ。

しかし、その中身は兄貴達にも負けないものを持っていると加古さんは自信をのぞかせる。スタイリングはひと目でクロスオーバーSUVだとわかるが、よく見るとスポーティなハッチバックとも思える。早い話がスペシャリティカーであり、ドライバーズカーなのだと納得した。

外見はクロスオーバーSUVのシルエットだが、コックピットは低いドライビングポジションを実現している

今回、UXが搭載するエンジンは魅力的だ。2リッター直列4気筒の高速燃焼を実現する「ダイナミック・フォース」と呼ばれるもので、ロングストロークのエンジンは吸気バルブにレーザークラッドという技術でバルブシートを溶射し、吸入空気の流れをスムースに制御する。そのおかげで、タンブル(縦渦のこと。エンジンのシリンダー内でタンブルが発生すると、燃焼速度が向上する)を無駄なく生じさせることが可能となった。空気と燃料をよくかき混ぜて、一気にプラグ点火で燃焼させる。その燃焼速度の速さゆえに、エンジンの出力と効率が高まるのだ。この技術はF1のエンジンでも使われている。

ベースモデルのガソリン車は最大出力171ps、最大トルク205Nmを誇るが、AT(オートマチックトランスミッション)は発進用にギアを持つCVT(無段変速機)だ。乗ってみるとスペック以上の加速を感じられる。

乗ってみるとスペック以上の加速を感じた

ハイブリッドも選択可能、燃費と走りでライバルに差

上位グレードにはハイブリッドも用意する。ダイナミック・フォースにモーターを採用するタイプで、トルクはハイブリッドの方が大きい。燃費と走りではライバルを引き離すポテンシャルを持っているわけだ。車体にはレクサスの走りに見合うよう手を加え、ボディ剛性を高めた。ゆえにサスペンションはスムースに動き、しなやかで強靭な走りが可能となる。

局所的に目立つようなキャラクターは感じないものの、全体のバランスは素晴らしいというのがUX評のまとめだ。癖がないので、誰がハンドルを握っても好感が持てるだろう。ボディサイズは全長4,495mm、全幅1,840mm、全高1,520mmで、最小回転半径は5.2mと小回りがきく。キャビンは乗り降りしやすく、タワーパーキングも利用できる。

選ぶべきはスタンダードの17インチタイヤか、スポーティな18インチタイヤか。よきファミリーカーとしては前者、走りを楽しむには後者がおすすめだ。

日本でも取り回しがしやすいサイズ感

森と湖に囲まれたストックホルムの郊外をドライブしていると、地平線の向こうまで走りたくなる。ハイブリッドの燃費はリッター20kmを超えるので、1,000kmくらい先までは行けそうだ。北欧では北緯66度前後を超えると「ラップランド」と呼ばれる厳寒の地に踏み込む。UXにはAWDモデルもあるので、北国でも頼もしい走りが可能だ。見た目は良きファミリーカーであっても、走破性には文句がないと思った。