「海老原昭」の記事

海老原昭

ソフトバンクの働き方改革、当初の懸念と実際

ソフトバンクの働き方改革、当初の懸念と実際

2018.05.25

ソフトバンクが進めている働き方改革では、副業の許可など、かなりアグレッシブな施策が導入されている。斬新な反面、制度がうまく回らなかったり、悪用しようという動きはないのだろうか。実際にどう運用されているのか、問題点はないのかなどをうかがった。

就業時間や場所の自由化は現実に効果がある

ソフトバンクでは、本格的な超過労働対策としては2013年ごろから、また「Smart&Fun!」というキーワードの元、会社全体での業務への取り組み方を一新する目的では2016年10月ごろから、働き方改革について積極的にさまざまな施策を取り入れてきた。

試験的な導入も含めると、在宅勤務やスーパーフレックスタイム制といった仕事時間の短縮・最適化に向けたもの、またSmart&Fun!支援金や副業の許可といった、本人の能力向上や人脈強化などに向けたものの2種類に分けられるが、いずれも「今よりもクリエイティブな働き方になれば仕事が楽しくできるし、成果も出る」というメッセージ性を秘めている。

ソフトバンク働き方改革の具体的取り組み
創造性のアップが目的

こうした取り組みそのものは、ソフトバンクの宮内社長が「Smart&Fun!」というキーワードを打ち出したとき、就業環境の改善意識を持っていた人事部が、そのメッセージに答えるかたちで提案していったものがほとんどだという。とはいえ、かなりアグレッシブな制度だけに、その導入には社内からも戸惑いや不安の声はあったようだ。

特に在宅勤務やスーパーフレックスタイム制などでは、制度を悪用してサボったり、うまく活用できない人が出て来るのではないかという懸念の声があったという。しかし実際の運用では、今の所大きな問題は起きていないという。もちろんサボるなどの悪用は起きうるが、結局は成果が出なければ当人の評価につながってくるので、積極的にサボることは難しいというわけだ。

また、スーパーフレックスタイム制で通勤時間が自由になりすぎると、会議ができなかったり、参加者の時間を合わせるための調整で負担が増えるのではないか、という懸念もあるが、これについても今の所大きな問題は起きていないとのこと。

というのも、スーパーフレックスタイム制を実際に導入してみたところ、もちろん部署によって状況は異なることもあるが、結局お客さんがいればそちらに合わせることになるし、ミーティングがあればそれを優先する人が多く、無法地帯にはなっていないそうだ。どちらかというと、仕事の状況やプライベートな理由によって本当に必要なときに利用できる制度として根付いてきているそうだ。

課題は社員の意識改革

今の所うまく回っているかのように見えるソフトバンクの働き方改革だが、今後の課題としては、これが単に福利厚生の施策であると捕らえられては困るため、社員に正しいメッセージを伝えていくことだという。

仕事を効率化し、働きやすい時間を選べるようにするのも成果を高めるための措置であり、どのように成果を出していくか、そのためにはどう努力していくかは、社員側にも考えてもらわねばならないというわけだ。

「Smart&Fun!」という標語は、同社の宮内社長から全社員宛のメールで通達されているようだが、標語と働き方改革の各施策が社員の中で繋がるようになって、初めてフェーズ2が機能してくことになるだろう。

また、業務の評価についても、改善の余地があるという。上手く効率化して時短につなげたり、新しい知見を得た社員に対して、正しく評価してあげなければ、モチベーションはむしろ低下してしまうわけだ。同様の状況はプログラマーやSEなどの間でもしばしば語られているが、時間をかけて働いているものは評価されやすく、効率のいい仕事ぶりは怠けているように見られてしまっては逆効果だ。現在の評価基準そのものを変える予定はないというが、正しく評価するために必要な評価軸の設定などが要求されていると言えるだろう。

副業は本業に影響しないのか

「Smart&Fun!」の取り組みの中で、もっともアグレッシブな取り組みが副業の許可ではないだろうか。会社に忠誠を尽くし、終業後も業務に専念する日本企業の働き方では、ちょっと考えにくい。就業規則で副業を禁止しているところも多いはずだ。ソフトバンクはこの就業規則そのものを変更してしまったのだ。

2017年11月にスタートしたこの制度、2018年5月末までの約7カ月の間に200件以上の承認が行われた。もともと副業は原則禁止ではあったが、家族の事業を手伝うといった事例は以前にもあったという。

副業解禁の目的も自己成長のため

しかし、制度自体を変更してからは、プログラミング、デザイン、書籍・ウェブサイトへの記事執筆など、社員の専門スキルを活かした活動の割合が倍増したという。

もちろん許可制ということで、なんでもできるわけではない。基本的に本業に影響を与えないこと、本人のスキルアップや成長につながるものである、という許可基準があり、さらに他社との雇用契約を締結したり、本業に影響が出るものは認められず、社会的信用や秩序を乱すもの、同業他社系のもの、公序良俗を乱すもの、といった禁止項目も用意されている。

副業というと心理的に何か悪いことをしているようなイメージになってしまいがちだが、むしろ会社に隠れてやらなくていいぶん、本業に差し支えない範囲で済むよう考えるため、トラブルは減るのかもしれない。副業・兼業を新たな収入源にしたい人などが会社に隠れてバイトをするようなことがなくなれば、むしろモチベーションアップでプラスに働くことも十分期待できる。ソフトバンクでの取り組みは他の企業にとっても大いに参考になるのではないだろうか。

「まずはやってみる」というスピード感のある取り組み

ソフトバンクの人事では、働き方改革の進め方について、最初に議論を尽くして始めるのではなく、とにかくまずはやってみよう、というトライ&エラーの精神で進めているという。一見乱暴そうに見えるが、こうした取り組みは考えて停滞するよりも、素早い意思決定と試行錯誤、現場での修正の繰り返しこそが最適化への近道であることが多い。

もちろんソフトバンクとはさまざまな違いがあって、その施策の全てを参考にすることは難しいケースもあるだろうが、こうしたスピード感だけはどの業種であっても参考にしていいだろう。

ソフトバンクが働き方改革を進める理由

ソフトバンクが働き方改革を進める理由

2018.05.25

政府が労働環境の改善と労働力不足解消のために進めている「働き方改革」。一般に長時間労働の改善や正規・非正規の格差是正などが目的とされているが、ソフトバンクにおけるそれは、こうした取り組みよりもさらに一歩進んだ視点で進められているという。いったいどのような背景があるのだろうか。

SBの働き方改革は魅力ある人材づくりのための施策

「働き方改革」は、安倍内閣が2016年9月に内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置し、高齢化社会で労働力不足が問題になりつつある中、労働力の確保と経済的格差の解消、成長と分配の循環を促す取り組みとして発足した。現時点では、多くの企業で長時間労働対策(いわゆるブラック労働の是正)が働き方改革の骨子のように扱われている。

ソフトバンクの場合、もともとベンチャー企業ということもあって、企業体質的には執念でなんとか成し遂げるといったマインドがあるという。これまではそのがむしゃらさが功を奏してきたとはいえ、それだけでは今後、新しい事業を展開していくに際し、成長曲線を維持できないと判断したという。そこで、働き方改革をきっかけに、企業全体のクリエイティビティとイノベーションを高め、新規事業に転換していくとともに、既存事業をも活性化するという目標が設けられた。

働き方改革をきっかけに、これまでの体育会系の体質から、ITを駆使してよりスマートな仕事ぶりの会社へと体質改善しようという野心的な試みを目指している

横文字だらけになってしまったので、もう少し具体的に改革の内容を見ていこう。ソフトバンクでは働き方改革を2つのフェーズに分けて考えている。フェーズ1は法令遵守、過重労働対策であり、一般的な企業が行なっている働き方改革とさほど大きな違いはなく、ソフトバンク内でもすでに進めてきている。ユニークなのは、フェーズ2として、残業を減らすための取り組みと同時に創造生産性を高める施策を行なっている点だ。

単純に残業時間を減らした場合、単純に業務のアウトプットが減ってしまうだけになる。そうではなく、社員がよりスマートで楽しく仕事をできる環境を作り、よりクリエイティブ、イノベーティブなことに取り組めるような環境づくりを目指すことが大事というわけだ。社員ひとりひとりがレベルアップし、魅力的な人材となれば、会社全体の価値も高まっていく。

これを同社では「Smart&Fun!」というスローガンで表している。「Smart」はITを駆使した業務改善やメリハリのある働き方によって時間を作り出すこと。「Fun」は、そうやってできた時間を自分自身の成長や新しいことへの取り組みに使うことで仕事を楽しくしていくこと。この2つのサイクルを回していくことが、ソフトバンクにおける働き方改革のフェーズ2なのだ。

現在主流である職場環境の改善は、主に労働時間の短縮だけを重視している。確かに労働者にとって理想的である反面、競争力の低下という意味では逆効果だ。ただしこれまでのように安い労働力を使うのではなく、ITでカバーしようという点がSB流となる
少し見づらくて恐縮だが、右下のサイクル図がSBの目指すフェーズ2での正のスパイラルともいえる職場環境の改善効果となる

働きやすさ追求のための思い切った施策も

それではソフトバンクが「Smart&Fun!」で実行している具体的な取り組みについて見ていこう。まずは2017年2月にプレミアムフライデーをいち早く導入。同年4月には既存の在宅勤務制度を拡充し、対象者が週1日から週3日まで利用できるようにしたほか、約1万人を対象に、コアタイムを撤廃した「スーパーフレックスタイム」を導入。より効率的に働けるようにすることで、成果の最大化を図る試みだ。また「Smart&Fun!支援金」として、自己成長機会への投資用として、正社員に毎月1万円を2年間支給することも開始した。

スーパーフレックスタイムの実際の使用例。閑散期と繁忙期で出勤時間を分けるなど、積極的な運用で自分の時間を作るとともに、業務時間内における成果を最大化しようという試みとして受け入れられているようだ

さらに第2弾として、2017年11月からは、ある範囲のエリア内に自由に座れる「グループアドレス制」の導入や、サテライトオフィス利用を段階的に開始。将来的にはWeWorkが展開するコワーキングスペースのサテライトオフィスとしての利用も含めて検討しているという。

これに加え、就業規則を改訂し、社員のスキルアップや成長につながる副業を許可制ながら認める、という大きな変革を実現した。こうしたスキルアップ向けの施策としては、7月から実施している「プレミアムフライデー交流会」に代表される他社との交流会も継続的に実施することで、副業や交流先から得られた知見やノウハウを業務に生かし、イノベーションにつなげたいとしている。

このほか、全社員を対象にスキルアップのためにeラーニングを実施したり、管理職向けにマネジメント意識改革のためのeラーニングや研修を行うなど、社員・管理職の双方に対して意識面からの改革も実施している。

フレックスタイムを柔軟化したり、他社との交流会を実施するまではともかく、自己成長用の資金を提供したり、副業を許可するというのは、国内企業ではかなり珍しい例だろう。ソフトバンクは、以前から留学休職を導入するなど、日本企業離れした施策も取り入れる、労働環境の変革に積極的な組織だ。働き方改革「Smart&Fun!」についても、単に仕事の時間を短くするだけでなく、仕事も、そこで働く人も、ともにレベルアップしていくことで会社の価値を向上していこうという意気込みが伺える。

ソフトバンクの取り組みは他社でもすぐに実施できるものではないだろうが、働き方改革という機会をきっかけに、企業全体のワークフローの見直し、効率の向上へとつなげていくヒントにすることはできるのではないだろうか。

ロマンか投資か? ソフトバンクが変形ロボに取り組む理由

ロマンか投資か? ソフトバンクが変形ロボに取り組む理由

2018.05.02

自動車から人型のロボットへ変形する、まるでアニメのようなロボットが発表された。この開発には、ソフトバンクグループのアスラテックが関わっている。現時点ではロマン以外にこれといった実用性を見出せない変形ロボットだが、なぜアスラテックはこうした活動にもリソースを投じているのだろうか。

子供のころの夢を叶えた「変形ロボ」

ジェイダイト・ライド有限責任事業組合を構成するソフトバンクグループのアスラテック、遊園地などの遊戯機械や舞台装置製造の三精テクノロジーズ、そしてBRAVE ROBOTICSの3社は共同で、乗用人型変形ロボット「J-deite RIDE(ジェイダイト・ライド)」の試作機を発表した。

J-deite RIDEは、自動車型(ビークルモード)から変形して全高約3.7mという大型の人型(ロボットモード)に変形するロボットだ。ものすごく乱暴に言ってしまえば「実物大トランスフォーマー」と言っていいだろう(ちなみに玩具のトランスフォーマーを展開するタカラトミーもこの「J-deite」プロジェクトをトランスフォーマー公式プロジェクトとしてに認定している)。

実際、J-deiteプロジェクト自体が、設計と開発を担当するBRAVE ROBOTICSの石田賢司社長が子供の頃に見たアニメなどから育んだ「ロボットは変形して合体して空を飛ぶもの」というこだわりから生まれたものだという。まさに子供の夢をかなえたプロジェクトなのだ。

ビークルモードではクーペなのだが後部が妙に長めで、ハッチバックというよりはワゴン風にも見える。全幅が約1.9mもあることもあって、前から見た時のインパクトはかなり押しが強い
こちらがロボットモード。ちなみにデザインは「機動戦士ガンダム」など往年のロボットアニメのメカデザインで知られる大河原邦男氏によるもの。写真もいわゆるガワラ立ちを意識してみた

ビークルモードからロボットモード、あるいはその逆の変形にかかる時間は約50秒程度と、オープンカーのリトラクタブルルーフほどではないが、全体が動くことを考えるとかなり高速。ユニークなのは、ビークルモードでは2人が着座できるのだが、搭乗したままの状態で変形し、ロボットモードになっても人が乗ったままで操縦できる点だ。

変形中。ちょっと見えづらいが、首の右側に人の手が見える。中に人がいて手を振っているところだ

ビークルモードではタイヤと電動モーターで、ロボットモードではタイヤまたは両足で歩くことができる。ビークルモードでの最高速度は理論値で60km/h、ロボットモードの最高速度は車輪走行時で30km/h、歩行時で100m/hとなっている。バッテリーは内蔵されており、外部電源なしに最大で3時間の動作が可能だ。ただし現時点では自動車として認可された車両ではないため、基本的に公道を走ることはない。また、歩くと言っても膝を曲げて人間のように歩くのではなく、体全体を傾けてから片方の足を少し上げて前に出す、という玩具のような歩き方になる。

なお、試作機の設計と開発はBRAVE ROBOTICSが、制御ソフトウェアをアスラテックが、それぞれ担当している。また三精テクノロジーズはロボットの変形テクノロジーを活用し、アミューズメントパーク向けの変形ロボット型遊戯機械を開発していくという。

実用性は? 商業として成り立つのか

ロボットアニメ世代(筆者もその一員だが)には非常に「刺さる」プロジェクトではあるが、まだまだ「人が乗って変形できる」という最初の段階をクリアしたばかりであり、日本に新たな電動自動車メーカーが増えたというわけではない。現段階では、実用性という意味ではほぼゼロに近い。そのためか発表会の後に開催された質疑応答では、実用性のない「高価なおもちゃ」という批判があるのでは、といった意地の悪い質問も飛び出たほどだ。

右から、設計・開発担当のBRAVE ROBOTICS・石田賢司社長、制御担当のアスラテック・吉崎航チーフロボットクリエイター、三精テクノロジーズの大志万公博代表取締役副社長

ただ、前述したようにJ-deite RIDEで得られた変形メカニズムなどは三精テクノロジーズがアミューズメント機器に流用するとしており、技術的な側面からは実用化の目処は立っているわけだ。では、制御ソフトウェアのほうはどうだろうか。実際に「車から人型に変形するロボットの制御」というのは、他に流用が利くものなのだろうか。仮にアミューズメント機械に流用できるとしても、台数がそれほど多く出るとは考えにくい。

そんな、素人考えでは採算の取りにくい事業へ参加している理由を、アスラテックの吉崎航チーフロボットクリエイターに伺ったところ、基本的には将来の開発へ向けて経験値を高めているという段階であり、現時点で採算をどうこういうレベルではないとした上で、J-deite RIDEの制御ソフト「V-Sido OS」は、2014年に先行して開発された、全高1.3mの「J-deite Quarter」と同じ制御系を採用しており、たとえばテスト機として小型機を作り、大型化する際にどのように応用するかについて、重要な知見が得られたという。

同社の「V-Sido OS」は小さいものではホビーロボットから、ペッパー、クラタスといった人間大〜超大型サイズの二足歩行ロボットまで、さまざまなサイズの機体を制御してきた蓄積がある。J-deite RIDEについても、全身のセンサー類からのデータをモニタリングしているとのことで、今回のプロジェクトでは、将来の開発において小型機を先に作り、それを大型化したロボットを制御する際のノウハウを得られたわけだ。

また、自動車と人型での変形というのはあまり実用的ではないように感じられるが、変形機構自体は、たとえば何らかの工作ロボットがトラックに乗るように四角く変形するといった、コンパクト化に高価的な機構の開発や制御に応用が利くかもしれない。そもそも将来は「移動・運搬用のロボット」と「それに合体して作業する個別のロボット」というような分業も十分考えられるわけで、変形・合体をアニメっぽい、おもちゃっぽいとバカにする理由はないのだ。

J-deiteプロジェクトは、将来ロボット史をひも解いたとき、実は案外重要な位置付けにおかれることになる可能性もある。一見採算性のない事業にソフトバンクグループが投資しているというのも、案外こういった将来を見据えた先行投資なのかもしれない。