「森口将之」の記事

森口将之

森口将之(もりぐちまさゆき)

モビリティジャーナリスト

1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」「富山から拡がる交通革命」など。
日本のライダーにオススメ! これから乗りたい“ナイスミドル”なマシンたち

日本のライダーにオススメ! これから乗りたい“ナイスミドル”なマシンたち

2019.05.08

輸入バイクの試乗会で出会った4台を紹介

日本のライダーにも扱いやすい「ミドルクラス」に注目

手頃な価格で楽しめる欧州のデザインと走り

これから梅雨入りまでの時期は、秋とともにモーターサイクルがもっとも心地よい季節。そこで、4月に開催された日本自動車輸入組合(JAIA)の輸入二輪車試乗会で乗った中から、この季節に乗りたい“ナイスミドル”なマシンたちを紹介しよう。

欧州メーカーが提示する充実の「ミドルクラス」

今は死語扱いされているであろう“ナイスミドル”という言葉を使ったのは、今回紹介するマシン選びに、この言葉から連想される2つの意味を込めたからだ。

ひとつは本来の意味でもある“カッコいいミドルエイジ”に乗ってほしいモーターサイクルであるということ。もうひとつは、私たち日本人でも持て余さない“ナイス”なボディサイズに、輸入車ならではの個性的なデザインや走りを秘めた車種であることだ。

欧州のモーターサイクルは、日本人より基礎体力のある彼の地のライダー像を反映してか、モデルチェンジのたびに排気量を拡大する車種が多い。ただ、それはフラッグシップモデルについていえること。合理主義が根付いた欧州では、扱いやすい車体に600~900ccあたりのエンジンを積んだミドルクラスが注目を集めている。

というわけで今回は、試乗会に用意された数多くの車両の中から、このクラスにターゲットを絞り、デザインや走りが魅力的に感じた4台を紹介する。

ドゥカティ「スーパースポーツS」

ドゥカティはイタリアンバイクの代表格。我が国での販売台数も米国のハーレーダビッドソン、ドイツのBMWに次ぐ3位に付ける。最近はレトロデザインの「スクランブラー」が車種を増やしているが、ドゥカティと言えばフルカウルのスポーツモデルを思い浮かべる人が多いだろう。

頂点に位置するのはドゥカティ唯一のV型4気筒エンジンを積む「パニガーレ」。しかし、伝統のL型2気筒を搭載する「スーパースポーツ」の人気も根強い。性能は控えめだが、そのぶん力を使い切れる上、価格が約100万円も安いからだ。

ドゥカティの「スーパースポーツ S」。価格は 183万9,000円

もうひとつ、パニガーレと違うのはライディングポジションだ。見た目とは裏腹に前傾はほどほどで、ステップとの位置関係は身長170cmで胴長の自分にもしっくりくる。おかげで一体感も感じる。日本人にあったポジションだ。

試乗車は装備が充実した「スーパースポーツ S」。900ccのLツインエンジンは81kWを発生する。重量は183キロだからダッシュは強力で、回せばその名にふさわしい速さを発揮。Lツインらしい弾けるようなサウンドがその気にさせる。それでいて、細いパイプを溶接で組み上げた伝統のパイプフレームは、硬すぎない乗り心地と素直なハンドリングを届けてくれる。

スーパースポーツはデザインも魅力だ。ツインマフラーの出し方、リアサスペンションの見せ方、「S」に用意される日本限定カラーのマットチタニウムグレーなど、さすがはイタリア、見せ方を熟知している。

見せ方を熟知したイタリアメーカーらしいバイクに仕上がっている「スーパースポーツ S」

BMW「F750GS」

販売台数でドゥカティの上を行くBMWは、下は310cc単気筒から上は1600cc並列6気筒まで、クルマのBMWに負けないワイドバリエーションを誇る。イメージリーダーは1923年以来の伝統を持つ水平対向2気筒エンジン搭載車だ。

今回紹介する「F750GS」は、「F850GS」とともに、この水平対向エンジンのひとつ下を受け持つ車種だ。どちらも850cc水冷並列2気筒エンジンを積む。F850GSはエンジンが高性能になるオフロードタイプ。自分が駆るなら57kWのF750GSで十分だし、シートが同クラスの日本車より低いほどなので、こちらを選んだ。

BMWの「F750GS」。価格は129万6,000円

試乗車はリアに3つのケースを装着していて、このままツーリングに行きたくなるような姿だ。またがると液晶メーターはカラーで、左右のグリップまわりにはヒーターやクルーズコントロールなど、多彩な装備が用意してあって至れり尽くせりだった。

昔のBMWモーターサイクルは質実剛健といった感じで、クルマでいえばかつてのメルセデス・ベンツに近い雰囲気だったのだが、F750GSのエンジンは2気筒らしいパルスを伝えながら、軽快なレスポンスとともに吹け上がっていく。

しかし、それ以外の部分は昔から変わらぬBMWテイストだ。乗ってすぐにコーナリングを楽しもうという気にさせる絶大な安心感は、毎度のことながら「どうしてなんだろう?」と思う。乗り心地も快適で、走りについてはとにかく模範的だ。モーターサイクルでの移動をいかに疲れず、ピュアに楽しめるか。その点を真摯に追求する姿勢がジワジワ伝わってくる。

絶大な安心感を得られる昔ながらのBMWテイストを味わうことができた「F750GS」

モト・グッツィ「V85TT」

イタリアには日本以上に多くの二輪車ブランドがある。その中での最古参は、1921年創業のモト・グッツィだ。現在はスクーターの「ベスパ」などとともに、ピアッジオグループの一員になっている。特徴は空冷V型2気筒エンジンを縦置きし、チェーンではなくシャフトで後輪を駆動するというメカニズムで、こちらは1965年から使い続けている。

ここで紹介するのは、今年発売されたばかりの「V85TT」だ。クルマでいえばSUVに相当する人気のアドベンチャーツアラーに属するが、伝統をいかしたクラシックな造形を取り入れ、イタリアらしい鮮烈なカラーコーディネートが施されているおかげで、孤高の存在になっている。車体は大柄だが、片足なら問題なく地面に届く。カラー液晶メーターやクルーズコントロールが付くなど、装備は旅バイクらしく充実している。

モト・グッツィの「V85TT」。価格は142万5,600円

850ccのVツインに火を入れてスロットルを捻ると、車体が右に倒れようとする。シャフトドライブなので、エンジントルクの反力で車体を動かすのだ。最初は驚くかもしれないが、かつて1981年式の「850 ル・マンⅢ」というモト・グッツィを所有していた自分は、昔のしぐさが残っていることに嬉しくなった。

その後の走りは、Vツインらしいパルスとパンチを感じさせつつ、回り方は滑らかで、デュアルヘッドランプ上のスクリーンは首から下の風を効果的に逃してくれる。乗り心地はかなり快適な部類。重心が高めであることを頭に入れればハンドリングは素直だ。個性と洗練を絶妙に両立した走りに老舗の技を感じた。

個性と洗練が絶妙なバランスを見せる「V85TT」

ハスクバーナ「ヴィットピレン701」

昨年の日本上陸以来、モーターサイクルファンの注目を集めているのがこのバイクである。ハスクバーナは100年以上の歴史を持つスウェーデンのブランドで、オフロードに強い。そのノウハウを活用したシンプルなロードモデルが「ヴィットピレン」だ。

実車を目の前にして、モーターサイクルは見た目が9割かもしれないと思ってしまった。無駄を徹底的に省いて機能美を突き詰めたフォルムは、北欧だから実現できたのかもしれない。タンクとマフラーの色分けのラインを合わせるなど、細部も手抜きなし。丸いヘッドランプがクラシックな雰囲気を醸し出すが、同じ丸型のメーターはモダンでクール。とにかく見ていて飽きない。

ハスクバーナの「ヴィットピレン701」。価格は135万5,000円

低くて幅広いハンドルと高めで角ばったシートによるライディングポジションは、それなりに前傾となる。キツイと思う人にはハンドルが高めの「スヴァルトピレン」という車種もある。

エンジンはオフロードマシンにも積まれている700cc単気筒。クルマにはあり得ない形式だ。アイドリングはジェントルだが、加速に移るとダダダッと路面を蹴り上げながら進むような感触に、思わず笑みがこぼれる。それでいて、3,000回転から上はむしろスムーズで、回して乗りたくなるシングルでもあった。

車両重量は250cc並みの157キロ。でも、ヒラヒラしすぎることはなく、700ccらしい落ち着きも感じる。高速道路の直進性も満足できるものだった。美しいからと飾っておくだけではもったいないマシンだと実感した。

「ヴィットピレン701」は700ccという排気量にしては軽量なモデルだが、ヒラヒラしすぎることはない

明示しておいた価格からもお分かりの通り、今回取り上げた4台はさほど高価なバイクではない。これも、ミドルクラスならではのメリットだ。軽自動車とさほど変わらないプライスで、欧州の個性的なデザインと走りが、多くの日本人に扱いやすい車格とともに手に入る。初めて二輪車に乗る人にもオススメしたいマシンたちだ。

トヨタの新型「RAV4」が“ゴツく”なった理由

森口将之のカーデザイン解体新書 第15回

トヨタの新型「RAV4」が“ゴツく”なった理由

2019.04.10

トヨタ「RAV4」が日本に復帰、デザインは大きく変貌

都市型SUVが増える世の中に新型「RAV4」がもたらす新鮮味

オフロード試乗で体感! 見た目に負けない乗り味

トヨタ自動車のSUV「RAV4」が3年ぶりに日本市場に復活した。昔のRAV4を知っている人は「ずいぶんゴツくなったな」と感じているかもしれない。実はデザインの変貌には明確な理由がある。走りの印象を含めて報告しよう。

トヨタの新型「RAV4」

RAV4が日本市場に復活した経緯とは

前輪駆動乗用車のエンジンやサスペンションを活用してSUVを作る。今日では当たり前になっている手法をいち早く実現したのが、1994年にデビューしたトヨタ「RAV4」だった。CMキャラクターには、当時はデビューして間もなかったSMAPの木村拓哉を起用。ポップなデザインとともに、新たなジャンルのクルマであることを多くの人に印象付けた。

初代RAV4は、翌年に登場するホンダ「CR-V」をはじめ、スバル「フォレスター」、日産自動車「エクストレイル」など多くのライバルを生み出し、欧州からもフォルクスワーゲン「ティグアン」、プジョー「3008」などの競合車種が登場する要因となった。まさに、エポックメーカーだ。

ところが、生まれ故郷の日本では、初代では5ナンバー枠内に収まっていたボディ全幅が3代目で1.8mを超え、2Lだった直列4気筒エンジンが2.4Lになったこともあり、販売台数が落ち込んでいった。新型RAV4にとって先代モデルとなる4代目は、日本では販売すらされなかった。

ボディとエンジンの大型化は、主として米国市場での人気を受けたものだった。米国では、4代目の販売中にハイブリッド車を追加したことで、販売台数を大いに伸ばした。その結果、4代目RAV4はセダンの「カムリ」を抜き、トヨタのベストセラーカーになるほどの人気を獲得。この勢いを受けてトヨタは、2018年にニューヨークモーターショーで新型RAV4を発表した。

この間、日本では、レクサス「RX」の日本版として登場したSUV「ハリアー」が国内専用車として独立。現行「プリウス」と同じく新世代の「TNGAプラットフォーム」を採用するSUV「C-HR」も誕生した。他のブランドなら、SUVラインアップはこれで十分と思うだろう。

にもかかわらず、トヨタがRAV4を日本市場で復活させるのは、RAV4そのもののコンセプト転換によるところが大きかったのではないかと考えている。

コンセプトを転換し、日本市場に復帰する新型「RAV4」

新型RAV4のテレビCMを見た人は、オフロードシーンが多いことに気づいたかもしれない。最近のSUVでは珍しい演出だ。山梨県で行われた試乗会のプレゼンテーションでは、この点についての説明があった。

デザインのベースは2つの8角形

近年、さまざまなブランドから多くのSUVが登場しており、オンロード重視で快適性を重視したクルマ作りがトレンドとなっている。この流れの中で、SUVならではの「ワクドキ感」が薄れていると感じたトヨタは、新型RAV4を作るにあたり、ロバスト(robust、逞しい)であることとアキュレート(accurate、きめ細かい)であることの両立を目指したという。この造形により、ユーザー層の若返りも狙っているそうだ。

ロバストな印象になった新型「RAV4」

それを象徴するのがスタイリングだ。2つの8角形を90度ずらして組み合わせた「クロスオクタゴン」と呼ばれる手法を取り入れ、力強い造形と視界の良さを両立した。多くのクルマは真上から見ると四角形に見えるが、新型RAV4は機動性を向上させる意味もあり、四隅をカットしている。キャビン後端はオフロードの走破性を考慮してリアバンパーを斜めにせり上げた。

新型「RAV4」は2つの8角形を組み合わせた「クロスオクタゴン」というスタイリングを採用している

この方向性を明確にしているグレードが「アドベンチャー」だ。フロントのグリルとバンパー、スキッドプレート、ヘッドランプを専用とすることで、同じトヨタのピックアップや大型SUVに似た、力強い顔つきになっている。セダンやクーペに近いエモーショナルなSUVが増えつつある中では、かなり個性的に映る。

力強い顔つきの「アドベンチャー」

室内も多角形イメージをドアハンドルやエアコンのルーバーなどに取り入れており、デザインとしての統一感がある。滑り止めのゴムを施したエアコンやドライブモードセレクターなどのダイヤルを含め、独自の空間を作り上げようという気持ちが伝わってくる。

「アドベンチャー」の室内。デザインにはエクステリアとの統一感がある

しかも、スクエアなキャビンは室内が広い。新型RAV4のボディサイズは全長4,610mm、全幅1,865mm、全高1,690mm(アドベンチャーの数値)と、幅は広いものの長さはこのクラスの平均値である。ところが、後席は身長170cmの筆者が座ると足が組めるほど広い。荷室も580Lという数字を実感する。機能に裏付けられた造形である。

「アドベンチャー」のシート。全長は同クラスで平均的な数値だが、乗ってみると室内は広い

ここまで広いと、ライバルにはある3列シートを選べてもよいのではないかと思ったのだが、トヨタは北米向けに「ハイランダー」というひとまわり大柄な3列シートSUVを販売しているので、RAV4では2列シートにこだわったそうだ。

3列シートを設定する予定はないようだ

インテリアカラーは全グレードにブラックを用意したうえで、アドベンチャーにはライトブラウン、それ以外のグレードにはライトグレーを設定している。印象的なのはインパネやセンターコンソールに配されるアクセントカラーで、アドベンチャーはオレンジ、別のグレードではブラウンとしており、細部のコーディネートにまで気を配っていた。

ハイブリッド車の室内

トヨタが試乗会でオフロードを用意した意味

メカニズムでは、日本向けのRAV4では初となるハイブリッド車の投入がニュースだ。2.5L直列4気筒とモーターの組み合わせで、2Lのガソリン車と排気量が異なる。メインマーケットの北米ではガソリン車も同じ2.5Lだが、日本および欧州市場向けは税制などを考えて2Lを搭載したという。

どちらも2WD(前輪駆動)と4WDが用意されるが、ハイブリッド車は後輪を専用モーターで回す「E-Four」という仕組みであるのに対し、ガソリン車はプロペラシャフトで駆動するタイプになる。試乗会ではハイブリッド車「G」グレードの4WDと、ガソリン車の4WDのみとなる「アドベンチャー」に乗った。

「アドベンチャー」(画像)とハイブリッド車の「G」グレードに試乗

加速はもちろん、排気量で上回るうえにモーターのアシストもあるハイブリッド車の方が上だ。ガソリンエンジンのアドベンチャーは、3,000回転あたりまでエンジンを回すことが多く、エンジン音がそれなりにキャビンに響く。ただ、その音はハイブリッド車の2.5Lより滑らかで、回すことが気持ちいいと感じた。

新世代プラットフォームの剛性感、しっとりと動くサスペンション、移動距離の長い北米市場を見据えたような厚みのあるシートなどのおかげで、乗り心地は快適だった。ホイール/タイヤをインチアップしたアドベンチャーのほうが、しゃきっとした乗り味で好感を抱いた。ハンドリングも、パワートレインが軽いアドベンチャーの自然な身のこなしが好印象だった。

実は、新型RAV4のTNGAプラットフォームは、C-HRではなく、ひとクラス上のカムリと同じものを使っている。クルマ作りの過程では、オフロード走行を想定し、あの「ランドクルーザー」の開発スタッフからアドバイスを受けたそうだ。懐の深さを感じた乗り味はこうした理由によるものだった。

試乗会ではフラットなダートとモーグルなどからなるオフロードコースも用意されていた。こういった環境をトヨタが用意したのは、新型RAV4のキャラクターを強く印象付けるためだったのだろう。

試乗会ではオフロードコースも試すことができた

フラットなダートでは、E-Fourの進化にまず驚いた。これまでのE-Fourは、滑りやすい路面の発進時などに限り後輪を駆動する、エマージェンシー的な性格だった。新型RAV4のE-Fourはリアモーターが強力になり、後輪の駆動を感じながらのコーナリングを味わえるようになっていた。

一方、アドベンチャーを含む一部のガソリン車には、リアのトルクベクタリングが備わっていた。コーナーでは積極的に外輪のトルクを増やし、旋回を強めていく。また、ガソリン車は「マッド&サンド」「ノーマル」「ロック&ダート」の3モードの切り替えが可能で、200mmの最低地上高と合わせてかなりの凹凸を余裕でクリアできた。

初代RAV4を知っている人は新型の激変ぶりに驚くだろうが、初代RAV4が確立した乗用車テイストのSUVがあふれるほど増えた今だからこそ、逞しさにこだわった新型のデザインと走りが新鮮に感じた。

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スズキ「カタナ」が復活! 「ネオヒストリック」というバイクの新潮流

スズキ「カタナ」が復活! 「ネオヒストリック」というバイクの新潮流

2019.04.01

大阪・東京モーターショーにスズキの新型「カタナ」が登場

鮮烈なデザインはいかにして商品化に結びついたか

ホンダ「CB」も潮流に乗る? ヤマハとカワサキは独自路線

毎年春に大阪と東京で開催されるモーターサイクルショーは、ニューモデルが数多く展示されることもあって、その年の二輪車のトレンドを感じ取れる場となっている。ライダー歴約40年の筆者が今年のショーで感じたのは、「ネオヒストリック」の勢いが目立っているということだった。

ストーリーまで似ている新・旧「カタナ」

モーターサイクルは季節感をはっきり味わえる乗り物のひとつだ。冬は寒く、夏は暑く、風や湿気の程度も分かる。だから、春が来ると急に気になる存在になる。その気持ちを察するかのように毎年3月、大阪と東京でモーターサイクルショーが開催され、多くのニューモデルが発表される。

ただ、今年の場合は、ある車種への注目度が並外れていた。スズキの新型「カタナ」(KATANA)だ。初代「カタナ」は1980年、西ドイツ(当時)のケルンで開催された二輪車ショーに初登場すると、日本刀をイメージした前衛的なスタイリングで、世界のモーターサイクルファンから注目を集めた。その復活版である「カタナ」が今回、ついに日本で初公開となった。

スズキの新型「カタナ」

新・旧の2台に共通するのは名前だけではない。鍛錬を重ねた日本刀を思わせる、切れ味の鋭いタンクやカウルのフォルムは、モダンにアレンジされつつも継承されている。時代に合わせてLED化されたとはいえ、角型のヘッドランプも新・旧のカタナが共有する特徴だ。それだけではない。この2台、誕生までのストーリーも驚くほど似ているのだ。

こちらが旧型「カタナ」(2000年モデル)

初代カタナが誕生したきっかけは、ドイツの二輪専門誌が企画した、未来のモーターサイクルをテーマにしたデザインコンペだった。ここで注目されたのが元BMWのデザイナー、ハンス・ムート率いる「ターゲットデザイン」というスタジオの作品。スズキはその姿に衝撃を受け、次期大型モーターサイクルのデザインを依頼した。

ムートらはその意向を受け、日本刀の雰囲気を取り入れたスタイリングをスズキに提案した。これが製品化され、「ケルンの衝撃」とまでいわれた初代カタナに結実したのだ。

日本刀の雰囲気を取り入れたスタイリングが特徴の「カタナ」(画像は旧型)

一方の新型は2017年、イタリアの二輪専門誌がデザイナーのロドルフォ・フラスコーリ、技術開発企業のエンジンズ・エンジニアリングとともに、未来のカタナを形にした「カタナ3.0」を製作したことがきっかけだ。

カタナ3.0は、ミラノの二輪車ショーに前触れもなく登場したので、会場は騒然となった。それ以上に刺激を受けたのがスズキ自身だ。同社はすぐに市販化に向けて動き出し、新型カタナを2018年10月にケルンの二輪車ショーでデビューさせた。ケルンは再び、衝撃に包まれたのである。

新型「カタナ」(画像)の登場により、ケルンに再び衝撃が走った

フレームやエンジンは当時の他車種と同一で、ボディのみ異なる点も新・旧カタナに共通する。エンジンはどちらも4気筒だが、旧型は空冷の1,074cc、新型は日本でも販売している「GSX-S1000」と共通の水冷999ccとなる。ただし、トラクションコントロールやABSなどの安全デバイスは新型ならではの装備。ライディングポジションの前傾姿勢が緩くなっているのは、時代の変化を反映してのことだろう。

「東京モーターサイクルショー2019」の会場では2台の新型カタナに跨がることができたが、そこには長い行列ができており、筆者は触れることができなかった。日本での発売時期は未定だが、市販が始まれば、かなりの人気が出そうだ。

「東京モーターサイクルショー2019」では新型「カタナ」の試乗(といっても跨るだけ)に長い行列ができていた

このカタナの復活を目にして、筆者はモーターサイクルのデザインに新しい潮流が生まれていることを感じた。「ネオヒストリック」だ。

ホンダ「CB」もネオヒストリック路線に?

1950~60年代のヒストリックモデルの復刻版は、クルマでは少し前のコラムで取り上げた「ミニ」やフィアット「500」が有名で、モーターサイクルでも筆者が所有しているトライアンフ「ボンネビル」やドゥカティ「スクランブラー」などがある。いずれも丸型ヘッドランプ、ティアドロップ(涙滴)型タンク、テールカウルのないシートなどが特徴といえるだろう。

エッジを効かせたカタナの形は、それらよりも確実に新しい。初代カタナは来年、デビューから40年を迎えるが、立派に趣味の対象になっていることは、中古車の相場をチェックすれば一目瞭然だ。初代カタナが登場した時代に運転免許を取った自分のような人間にはピンとこない部分もあるけれど、気がつけばネオヒストリックバイクの代表作になっており、復活させる価値がある車種になっていたのである。

スズキが「カタナ」(画像は新型)を復活させたのも、このバイクが復活に値する魅力を持っていたからだろう

そう思って会場を見渡してみると、他にもネオヒストリック的なスタイリングの車種はあった。例えば、本田技研工業(ホンダ)の「CB」シリーズだ。

ホンダが「CB」という名前を初めて使ったのは、今からちょうど60年前の1959年にデビューした「ベンリイCB92スーパースポーツ」(125cc)だった。10年後の1969年には、最高時速200キロをマークして世界に衝撃を与えた4気筒エンジンの「CB750フォア」を発表。その後も「CB」からは、流麗なフォルムの「CB750F」など、エポックメイキングなモデルが生まれている。ホンダ・モーターサイクルの幹に相当するシリーズといえるだろう。

そのCBが生まれ変わったのは2018年3月のこと。一挙に登場した「CB125R」「CB250R」「CB1000R」の3台はスタイリングのイメージを共有しており、ヘッドランプは懐かしさを感じる丸型としつつLEDを採用し、車体はシンプルな構成ながら凝縮感のあるフォルムとするなど、新しさをアピールした。

ホンダの「CB250R」

2019年1月には250と1000の間を埋める4車種目の「CB650R」が登場。今回のモーターサイクルショーは、多くの人にとって同車を初めて目にする場となった。長年にわたりCBの核であり続けてきた4気筒エンジンを積みつつ、CB1000Rよりコンパクトで取り回しがききそうな車体には、個人的に好感を抱いた。

ホンダの「CB650R」

 

我が道を行く? ヤマハとカワサキ

ヤマハ発動機(ヤマハ)にも、この新しいCBシリーズに近いテイストの車種として「XSR700」と「XSR900」がある。ヤマハでは「ネオレトロ」と称しており、「スーパースポーツ」「ネイキッド」といった従来のカテゴリーを超え、レトロな外観や背景にあるストーリーを感じさせながら、先進技術によるエキサイティングな走りも楽しませるモデルとして販売している。

さらにヤマハには、レトロかモダンかといった二元論を超えた車種もある。1978年発表の「SR400」と1985年デビューの「セロー」だ。セローは2005年に一度モデルチェンジを行なっているが、SR400の基本設計は41年前のまま。ともに空冷の単気筒エンジンを積むので、排出ガス規制の影響で販売終了となったこともあるが、根強い人気にこたえ昨年、復活した。これらのバイクは、ユーザーがタイムレスな存在に押し上げたともいえる。

ヤマハの「SR400」

残る川崎重工業(カワサキ)は、レトロに強いという印象がある。2017年の東京モーターサイクルショーで同社が世界初公開した「Z900RS」はその代表だが、今回のモーターサイクルショーでは、ヤマハSR400と同じように排出ガス対策で販売終了となっていた「W800」を復活させた。

カワサキの「W800 STREET」

ちなみに、Z900RSは1972年に発表され、ホンダCB750フォアから最速の座を奪取した「Z1」のイメージを継承した車種だ。W800は、CB750フォアが登場するまで国産最速マシンだった1960年代の人気車種「W1」の復刻版である。

しかし、この2台には新しい提案もある。「ビキニカウル」と呼ばれる小柄なカウルを備え、ハンドルをやや低めにセットした「Z900RSカフェ」「W800カフェ」を用意しているからだ。

カワサキの「W800 CAFE」

車名にある「カフェ」とは「カフェレーサー」をイメージしたもの。1960年代の英国で、レーシングバイク風にカスタムした愛機でカフェに乗り付けるという文化を反映したものとされている。

モダンなフォルムにはついていけない。でも、レトロにこだわるほど枯れてはいない。いつの時代も、ちょっとだけカッコをつけていたいライダーたちにとって、昨今のネオヒストリックブームは願ってもない流れかもしれない。