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森口将之

森口将之(もりぐちまさゆき)

モビリティジャーナリスト

1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」「富山から拡がる交通革命」など。
ジープらしさは細部にも宿る? 日本上陸の新型「ラングラー」に試乗

森口将之のカーデザイン解体新書 第7回

ジープらしさは細部にも宿る? 日本上陸の新型「ラングラー」に試乗

2018.10.31

日本で抜群の人気、理由は四角いデザインにあり?

マニアでなくてもそそられる細かな演出に好感

これは「オフロードのスポーツカー」だ! 試乗で走りも確かめた

“元祖クロスカントリーSUV”のジープ「ラングラー」が11年ぶりにモデルチェンジし、日本で発表となった。デザインはひと目でジープと分かるが、ディテールへのこだわりは旧型以上。新たに採用したターボエンジン、定評の悪路走破性も含めて報告しよう。

ひと目でジープと分かる新型「ラングラー」

今年はヘビーデューティSUVの当たり年?

今年は伝統的なヘビーデューティSUVがそろってモデルチェンジするという、異例の年になった。

まず6月にメルセデス・ベンツ「Gクラス」が新型に切り替わると、翌月にはスズキ「ジムニー」がモデルチェンジ。そして10月には、元祖SUVといえるジープ「ラングラー」の新型が日本に上陸した。

ご存知の方も多いと思うが、ラングラーは第2次世界大戦中に軍用車として開発されたウィリス「MB」がルーツ。終戦後、これを民間向けに設計し直した「CJ」(シビリアン・ジープ)から、市販車としての歴史が始まった。

ジムニーが登場したのは1970年、Gクラスは1979年だから、ジープは群を抜いて長いキャリアの持ち主だ。他にヘビーデューティSUVとしては、トヨタ自動車「ランドクルーザー」や英国のランドローバーも思い浮かぶが、これらはジープに範を取った両社が終戦直後に生み出したものだ。

今年はヘビーデューティーSUVの新型が続々と登場した(左はジムニー、右はGクラス)

日本で高い人気、中国を上回る販売台数

ジープCJはウィリスからカイザー、AMC(アメリカン・モーターズ・コーポレーション)とメーカーを変えつつ、「CJ-5」「CJ-7」など、いくつかのバリエーションを生み出しながら長きにわたって作り続けられ、1986年に「ラングラー」(形式名:YJ)に切り替わる。

翌年、ジープ・ブランドはクライスラーの一員となる。その後のラングラーは、車名を受け継ぎながら「TJ」「JK」とモデルチェンジし、今回「JL」になった。

ラングラーについて特筆すべき点は、日本での人気の高さだ。最近まで販売していたJKでいえば、我が国で売れたジープの4割を占める。世界レベルで見れば中国より上、つまり、米国に次ぐ世界第2位の台数をマークしていた。

この連載でも書いたが、日本車に四角いスタイリングのクルマが多く、人気が高いのは、この国独自の文化を反映した結果だと考えている。ラングラーも四角い。これが、我が国で高評価を得ている理由の1つではないだろうか。

グレード別に見た新型「ラングラー」の価格(税込み)は「SPORT」が459万円、「UNLIMITED SPORT」が494万円、「UNLIMITED SAHARA LAUNCH EDITION」が530万円。サイズは2ドアの「SPORT」が全長4,320mm、全幅1,895mm、全高1,825mm、ホイールベース2,460mm、4ドアの「UNLIMITED SPORT」が同4,870mm、1,895mm、1,845mm、3,010mmだ

ジープらしさを高める細部へのこだわり

そんなラングラーの新型JLは、写真を見てお分かりのとおり、クルマに詳しくない人でもジープだと分かる格好をしている。さらに、試乗会のプレゼンテーションでは、基本的なフォルムだけでなく、ディテールにもジープらしさを高める要素をいくつも散りばめてあるとの説明があった。

新型「ラングラー」のフロントグリル

全てのジープは、7本の縦スロットが入ったフロントグリルと台形のホイールアーチを持つ。新型ラングラーも同じだ。その上で新型は、かつてのCJの特徴を復活させた。ヘッドランプが7スロットグリルの両端に食い込んでいるのだ。

ボディサイズを見ると、全幅と全高については旧型とほぼ同じだが、全長は「UNLIMITED」で165mmも伸びた。これまで5速だったATが、新型で一挙に8速になったことに対処するためもある。ラングラーらしい形をキープしながら空力特性の改善も行っており、フロントウインドーは7度傾きを強めた。

エンジンは「UNLIMITED SPORT」が2.0Lターボ(画像)、それ以外が3.6LのV6だ

一方で、サイドウインドーは天地を広げ、リアゲートに装着するスペアタイヤの位置は下げるなど、視界を良くするリファインも実施している。後付けしたようなリアコンビネーションランプもラングラーの伝統となっているが、これは、内部に予防安全用センサーを内蔵するという目的も持たせたデザインだ。

新型ラングラーはジムニーやGクラスなどと同様に、ボディとは別体のラダーフレームを持つ。さらに、キャビンの上半分は樹脂製で、内側の頑丈なロールケージで安全性を確保している。樹脂製のルーフは取り外しが可能。それどころかドアも脱着できて、フロントウインドーは前に倒すことができる。

日本の法律では、ドアを外したりフロントウインドーを倒したりして公道を走行することは禁止されているが、本国では、昔のジープのような雰囲気を楽しむユーザーも想定する。ドアヒンジには脱着に使用する工具の種類まで刻んである。

ドアヒンジに工具の種類を示す記号が刻まれる

さらに、フロントウインドーやアルミホイールには、ジープのイラストがワンポイントで添えてある。ただでさえジープそのものの姿をしているのに、ディテールでさらにジープらしさをアピールする。マニアでなくとも、このデザインにはそそられる人が多いのではないだろうか。

フロントウインドーにジープのイラストが

走りでもモデルチェンジ効果を実感

インテリアもジープらしく力強い造形でまとめてある。メーターは丸いアナログ式で、ATセレクターと副変速機はレバー式。スイッチはタッチパネルに頼りすぎず、確実さを優先した方式を継承している。頭上にはロールケージが露出し、ドアは一部が鉄板のままだ。それがまた、ジープらしい雰囲気を盛り上げている。

力強い造形でまとまったインテリア

では、走りはどうか。今回の試乗では、旧型から受け継がれた3.6LのV型6気筒自然吸気エンジンを積む車種でオンロード(公道)を走行したあと、新搭載の2L直列4気筒ターボエンジンを搭載した車種でオフロードコースを走った。

まず感じたのは、ドライビングポジションが自然になったことだ。旧型はペダルが右寄りでアクセルとブレーキの段差が大きく、ブレーキに合わせてシートをセットするとアクセルが遠かった。ところが、新型は違和感なく扱えるようになった。

走り出すと乗り心地の良さに気づく。ラダーフレームと前後リジッドサスペンションという伝統を受け継ぎつつ、普段使いも違和感なくこなせるようになった。加速はATが8速になったおかげもあり身軽に感じる。旧型より小回りが効くことも日本のユーザーには朗報だろう。ハンドリングはおっとりしているが、コーナーでのロールの出し方は自然で、腰高感は抱かなかった。

加速はトランスミッションの多段化で身軽に。旧型より小回りが効く点も日本で乗るには嬉しい

オフロードコースは、他の多くのSUV試乗会で用意されるそれより一段とハードだった。しかし、ラングラーは平然と走破していく。200mmもの最低地上高が効いていて、床下をぶつける気配はない。強靭なラダーフレームと良く動くリジッドサスペンションが、4つのタイヤを確実に接地させ、車体を前進させる。ローレンジを選べば、急な下り坂でも速度を抑えてくれる。

他の多くのSUVが電子制御の助けを借りて走り切るようなシーンを、ラングラーは伝統的な機械の力で進んでいく。だから、操る楽しさが味わえる。“オフロードのスポーツカー”と呼びたくなるほどだ。

新型「ラングラー」は“オフロードのスポーツカー”とでも呼びたくなるような走りを見せた

ターボエンジンは2,000rpm以上に回転を上げておけば、アクセル操作に対してリニアに力を発揮してくれるので扱いやすかった。日本では税金が2Lクラスで済むので、これまでラングラーを考えなかった人も興味を抱くかもしれない。

前述のように、日本でのラングラー人気は根強いものがあるが、新型はオンロードでの加速性能や快適性能の向上、2Lターボエンジンの追加などにより、さらなる人気を獲得しそうだ。そして、実際にオーナーになった人々にとっては、ジープらしさを深めたデザインが満足感を高めてくれるはずである。

魂動デザインは電動化で変わるのか? VOGUEとコラボするマツダに聞く

森口将之のカーデザイン解体新書 第6回

魂動デザインは電動化で変わるのか? VOGUEとコラボするマツダに聞く

2018.10.25

マツダとVOGUEが東京ミッドタウンでコラボ展示を実施

クルマのデザインも芸術の一部、アート写真との融合で新たな表情

マツダの前田常務に聞く魂動デザインの行方

芸術の秋、東京でもさまざまなアートがらみのイベントが行われる中、マツダがファッション誌「VOGUE JAPAN」と組んで、六本木の東京ミッドタウンで展示を行なっている。カーメーカーらしからぬ雰囲気のイベントをマツダが仕掛けた理由はなぜか。これからのカーデザインが進む方向性を含め、同社常務執行役員でデザイン・ブランドスタイル担当の前田育男氏に会場で聞いた。

マツダとファッション誌のVOGUEがコラボし、東京ミッドタウンで開催中の「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2018」に出展

両者のコラボはイタリアで始まった

東京23区内で、デザインの素晴らしさを体験できる場所はどこか。六本木にある東京ミッドタウンは、そのひとつといえるかもしれない。とりわけ秋には、「デザインを五感で楽しむ」をコンセプトとし、2007年から続いている「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」(デザインタッチ)と、60年以上の歴史を誇る「グッドデザイン賞」の受賞作品を集めた「グッドデザイン・エキシビション」が相次いで開催される。

このうちデザインタッチでは、自動車メーカーのマツダが毎年、東京ミッドタウンのエントランスにあたるキャノピー・スクエアで趣向を凝らした展示を行なっている。今年はVOGUEと組んで、クルマのデザインとアート写真を融合させた世界観を作り出した。実は両者、イタリアのミラノでコラボを行ったことがあり、今回の東京は2度目となる。

両者のコラボは今回で2度目だ

イベント初日の10月19日には、アーカイブフォトディレクターで「VOGUE ITALIA」のゲストエディターも務めるマイケル・ヴァン・ホーン氏が米国から会場に駆けつけ、マツダの前田常務とトークセッションを行った。

クルマのデザインも芸術である

前田常務によれば、両者がコラボするに至ったのは、イタリアのコモ湖畔で1929年から開催されており、自動車業界の3大アートイベントのひとつといわれている「ヴィラ・デステ」(正式名称はConcorso d’Eleganza Villa d’Este)がきっかけだったそうだ。

「今年のヴィラ・デステに、昨年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー『VISION COUPE』(ビジョン・クーペ)を展示することができました。VOGUE ITALIAをはじめ、ファッション業界の方も数多く来ていて、クルマを見て『きれいだね』といってくれました。そこで『コラボできないか?』などと話したことがきっかけで、ミラノで彼らとアートイベントを開くことになったのです」

マツダの前田常務

一方のマイケル・ヴァン・ホーン氏は次のように語った。

「前田さんの(ビジョン・クーペに対する)デザインアプローチは芸術です。多くの人は、アートというと絵画や写真などを思い浮かべがちですが、デザインもまたアートですし、アートとデザインは、どちらも時間や歴史を反映するものです。特に、周囲の風景を映し出すこのクルマ、とりわけ素晴らしいボディサイドは、そこにアートを見ることができます。我々がどこにいるか、我々が歴史の中のどこに存在するかを見ることができるのです」

マイケル・ヴァン・ホーン氏(画像)はニューヨークを拠点とするアーティスト紹介の代理店「アート・アンド・コマース」に所属。VOGUEとは「PHOTOVOGUE」という企画でコラボしているとのことだった

映り込みの移ろいに日本の美意識を見る

ビジョン・クーペについては、昨年の東京モーターショーに展示された際にも報告しているが、基本的なシルエットはオーセンティックなクーペとしつつ、特にボディサイドのリフレクション(反映)に気をつかったフォルムになっているところが特徴だ。単なる映り込みを超えて、周囲の環境をクルマが吸収し、それを反射することにより、環境と一体化していくことを目指したという。

前田常務に聞くと、ビジョン・クーペでこだわった点は、クルマが動いていくにつれ「リフレクションがドラマティックに動いていくところ」だという。一般的に、デザイナーは「ロジカルな面」を作りがちであるため、欧州車でも、ビジョン・クーペようにリフレクションが動いていくことはあまりないという。こうして繊細に光をコントロールすること自体が、四季があり、移ろいがある日本ならではの美意識ではないかと同氏は考えている。そんな部分に、マイケル・ヴァン・ホーン氏も感銘を受けたようだ。

リフレクションによりビジョン・クーペは、周囲の環境をも自らの一部としてしまっているかのようだ

「Car as Art」という言葉を大切にしながら、自らのデザイン哲学である「魂動(こどう)デザイン」を追求するマツダにとって、このようなコラボは「密かに望んでいた」ものだったと前田常務は明かす。意外に思えるかもしれないが、このようなアートイベントは今年が初めてだそうだ。

しかしながら、ヴィラ・デステからミラノに至るまでの道のりは、とんとん拍子だったともいう。「クルマに命を授ける」ことを目指す魂動デザインに対し、マイケル氏は「写真に命を吹き込む」ことが重要と考えていたそう。両者の間では「自動車も写真も同じなんだ」と話がかみ合い、コラボが具体化に向けて動き出したそうだ。

マツダがVOGUE ITALIAとコラボしたミラノの会場は、博物館として使われている伝統的な建造物だった。高い天井に合わせて大きなサイズの写真を並べ、センターにビジョン・クーペを置くことで、「モダン」「アート」「トラッド」を掛け合わせた、素晴らしい展示会場を作れたという。その時に展示した写真を今回、ビジョン・クーペとともに東京ミッドタウンに展示した。

ミラノでのコラボの様子

今回のイベントは、マツダ×アートの始まりを告げるものだ。前田常務は「マツダとしては、このようなアーティスティックなイベントは、この場だけで終わらせないつもりです。活動を続けることでカーデザインにさらに磨きをかけ、『マツダって味わい深いよね』と思ってもらえるブランドを目指したい」と明言。「今回はイタリアから日本という流れで話が展開しましたが、次回は逆に、日本から海外に展開するストーリーで、伝統工芸などの分野で活躍している若き匠とシンクロするなど、全く違うスタイルで展開できれば」とも語っていた。

電動化でロータリーエンジン復活! 魂動デザインに影響は?

いい機会なので、今後の魂動デザインについても前田常務に尋ねてみた。なぜ“いい機会”なのかといえば、マツダが先日、今後の電動化戦略について発表したばかりだからだ。電動化でマツダ車のカタチがどう変わるのかは気になる。

マツダは2018年10月2日に技術説明会を開き、今後の電動化に関する戦略を発表した。その内容は、2030年時点で生産する全ての車両に電動化技術を搭載するというもの。車両の構成比として、2030年時点でPHV(プラグインハイブリッド車)など内燃機関と電動化技術を組み合わせたクルマが95%、純粋なEV(電気自動車)が5%との想定も示した。EVには、マツダが得意とするロータリーエンジン(RE)を使ったレンジエクステンダーも搭載する方針だ。

筆者が記憶する限り、マツダが電動化について明確にアナウンスしたのは、これが初めてではないかと思う。これにより、魂動デザインはどう変わっていくのだろうか。

「パワートレインによってデザインが変わるという方向性については、私はネガティブな立場です。最近『EVらしい』デザインが世の中に蔓延していますが、それはデジタルなデザインになっているだけという見方もできるわけで、そうじゃない生き様もあるんじゃないかと個人的には思っているんです」(前田常務)

自動車が電動化していくからといって、デザインがそれに合わせる必要は必ずしもない、というのが前田常務の考えだ

EVはエンジンと違って、「吸排気」というプロセスを持たない。疾走する肉食動物をモチーフにしてきた魂動デザインとEVは、対照的な立場にあるとも思える。しかし前田常務は、そういった違いにより、カーデザインのヘリテージ的な部分をなくしてしまうのか、あるいは伝統的な魅力をリスペクトして深化させていくのかは、考え方次第ではないかと語る。そして話がロータリーエンジン(RE)の復活に及ぶと、口調が明らかに変わった。

「REならではのカタチへの想いは、個人的にはすごく持っています。現時点では何もコミットできないですが。今回は、EVのレンジエクステンダーという方向で進化させますが、これはロータリーの静粛性やコンパクトネスが最適だったためで、そういう方向性でポテンシャルを生かしていきたいと思っています」

ロータリーエンジンを載せるクルマのカタチについては、かなりの思い入れをもっている様子だった前田常務

マツダとVOGUE JAPANのコラボ展示は、東京ミッドタウンで10月28日まで見ることができる。この会場に足を運べば、次の魂動デザインのヒントを見つけることができるかもしれない。

電気自動車は“和風”なクルマ? 日産に聞くEVデザインの未来

森口将之のカーデザイン解体新書 第5回

電気自動車は“和風”なクルマ? 日産に聞くEVデザインの未来

2018.10.17

電動化時代の自動車デザインを日産のデザイナーに聞く

クルマを何にたとうべき? 動物的だった自動車の今後

日本人の感性とEV、相性はいかに

世界中の自動車ブランドがEV(電気自動車)の開発に注力している。しかし、その多くはエンジン車をリファインし、サブブランドを与えることで済ませているのが現状だ。これが真のEVデザインなのだろうか。この分野のリーディングカンパニーである日産自動車で、これまでに多くのEVを手掛けてきたエグゼクティブ・デザイン・ダイレクターに話を聞いた。

日産のグローバルデザイン本部でエグゼクティブ・デザイン・ダイレクターを務める田井悟(たい・さとる)氏

EVならではのデザインとは?

田井氏の入社は1982年。当然ながら、しばらくはエンジン車に関わっていたのだが、最近はEVに携わることが多いそうで、市販車「リーフ」のほか、過去3回のモーターショーのコンセプトカーも手掛けたという。こうした経歴を持つ田井氏にまず聞きたかったのは、「EVならではのデザインはあるのか」という点だ。

 

インタビューは銀座四丁目の交差点にある「NISSAN CROSSING」で実施。展示してあった「ニッサン IMx KURO」(画像)は、日産が2017年10月の「東京モーターショー」で世界初公開したコンセプトカー「ニッサン IMx」に、“黒”をテーマとするデザインの変更を施した車両だ(画像提供:日産自動車)
こちらが2017年の東京モーターショーで撮影した「ニッサン IMx」

EVはエンジンとガソリンタンクを持たない代わりに、モーターとバッテリーを搭載する。タンクとバッテリーの形状は自由度が高いが、モーターはエンジンに比べて大幅に小さく、トランスミッションも不要だ。ここまで機能的な部分が変われば、それに合わせて形状も変わるべきだろう。「フォルム・フォローズ・ファンクション」(形は機能に従う)という言葉もある。

EV「日産リーフ」(2017年にフルモデルチェンジを受けた2代目)

しかし、市販されているEVの多くは、ハイブリッドを含めたガソリン車やディーゼル車に近いカタチをしており、中には顔つきを変えてサブブランドを名乗っているだけの代物もある。この状況を田井氏はどう考えているのか。

「確かにEVは、エンジン車とはメカニズムの内容も配置も違います。バッテリーは床下に積むことになりますが、逆にエンジンからの排気管を通す必要がないので、フロアを平らに作りやすいですし、モーターはエンジンよりはるかに小さいので、全長に対して広いインテリアが作れます。2015年の東京モーターショーに出展した『TEATRO for DAYZ』など、箱型ボディとの相性も良いと考えています」(以下、発言は田井氏)

箱型ボディの「TEATRO for DAYZ」(画像提供:日産自動車)

さらに田井氏は、EVがシェアを伸ばしつつあるSUVにふさわしいメカニズムであることも指摘した。前述のように、EVではバッテリーを床下に積むので、車高に余裕がある方が広いインテリアを生み出しやすい。それでいて、重心は低くなるので走行安定性はスポイルされない。現状でリーフは前輪駆動だが、ハイパワーな車種では前後にモーターを積む4WDになるとのことだった。

「ニッサン IMx KURO」もSUVのカタチをしている

大変革の自動車業界、過渡期を迎えるクルマのデザイン

ただし、田井氏は同時に、現在がEVデザインにとって過渡期であることも付け加えた。リーフでいえば、旧型はフロントグリルをなくすなど思い切ったデザインを取り入れたが、その試みには賛否両論があったという。この経験から、従来の自動車から離れ過ぎるとユーザーは付いてこないことが分かったそうで、現行型はグリルがあるような意匠を施すなど、トラディショナルなカッコ良さを目指す方向にしたという。

こちらが世界初の量産型EVとなった初代「日産リーフ」(画像提供:日産自動車)

EVの良さは乗れば分かると思うので、まずは乗ってもらうことを心掛けた。それが、新型リーフのデザインアプローチだ。しかし田井氏には、将来的には全く違うデザインにしたいとの考えもあるそう。頭の中はその方向に振り切れているけれど、伝統的なクルマのスタイリングを好む人が多いことも理解しているため、状況を見ながら少しずつ歩みを進めていきたいとのことだった。

現行型「日産リーフ」にはグリルのような意匠を施した

自動運転についての言及もあった。EVと自動運転が制御面で相性が良いことは、筆者もさまざまな開発担当者から聞いているし、高速道路で前車や車線を検知してアクセル、ブレーキ、ステアリングを自動制御するリーフの「プロパイロット」は、きわめて滑らかな制御であることを確認してもいる。

さらに、人間が運転しない完全自動運転の普及が衝突安全性対策を見直すきっかけとなれば、クルマのカタチも大幅に変わるだろうと田井氏は予想する。運転席が後ろ向きになったり、フラットになったりという仕掛けは、自動車会社としては勇気がいるものの、数年先には現実になっているかもしれないという。

「ニッサン IMx KURO」の車内は自動運転を見越した近未来的なものだ

“動物的ではない”ダイナミズムを目指す

エンジン車のスタイリングの中には、動物からインスピレーションを受けたものが多い。そうなった背景には、疾走する様子が動物を連想させるというほかに、エンジンの構造的な理由もあるのではないかと筆者は思っている。

例えば、名車といわれるジャガー「Eタイプ」はこんな格好をしている

エンジンは空気をシリンダー内に吸い込んだところに燃料を噴射して点火させ、ピストンを押し下げて回転運動を生み出し、燃焼によって発生したガスを排出する(直噴方式の場合)。これは人間を含めた動物が呼吸し、活動する様子と似ている。このエンジンがないわけなので、EVのデザインに、動物的なラインは似合わないと筆者は思っていた。これについては田井氏も似たような考えだった。

「EVでは、動物的ではないダイナミズムの表現を目指そうと思っています。昨年の東京モーターショーで世界初公開したコンセプトカー『IMx』はその方向でデザインしました。モーターは、回り始めで最大トルクを発揮しますが、動物の走りではこうはなりません。EVならではのモダンでクールな路線にしたいと思いました。長年クルマと親しんできた方よりも、若い人たちの方が入っていきやすいのではないかと考えています」

動物ではない何かがクルマのデザインをインスパイアする時代になるのだろうか(画像は「ニッサン IMx KURO」)

EVは“和風”自動車!?

取材場所のショールーム「NISSAN CROSSING」には、今年のジュネーブ・モーターショーで日産が公開したコンセプトカー「IMx KURO」が展示してあった。ボディカラーをIMxのパールホワイトから深みのあるダークスモーキーグレーに変更したこともあって、エッジを強調したフロントフェンダーやサイドのキャラクターラインが際立っていた。次世代のクルマであることがひと目で分かる。隣に置かれたリーフとの共通部分が多いことも理解できた。

直線とエッジが際立つ「ニッサン IMx KURO」の側面

IMx KUROは自動運転技術も搭載しているが、合計12個のカメラはルーフ後端など目立たない場所に仕込まれてある。また、グリルやルーフにはイルミネーションが入るが、ここは自動運転時と手動運転時で色が変わる。クールでありながら、周囲とのコミュニケーションを大切にしようという姿勢に筆者は好感を抱いた。

インテリアには一転して和のイメージが漂う。インパネやドアトリムは黒ベースの中にウッドパネルを張り巡らせている。注目は、そのパネルに細かいスリットを何重にも刻み、中にLEDを並べているところ。ここには、外の景色を映し出すことができる。こういった意匠には、安全性を高めるという目的もあるが、障子のように外が透かして見える和の雰囲気も織り込んだとのことだ。

内装は和の雰囲気。自動運転時には、ハンドルはインパネに格納される

お気付きの読者もいるだろうが、黒いパネルは漆器、グレーのフロアは枯山水の砂紋、シートのヘッドレストは組木がモチーフとなっている。

フロアは枯山水がモチーフ
ヘッドレストは組木だ

日産は、1999年にルノーとアライアンスを結成した。それがIMxやIMx KUROのインテリアに展開された「ジャポネスク」につながっているのだろうか。田井氏に尋ねると、筆者の予想は一部あたっていたが、それ以外にも和風を取り入れている理由があった。

「アライアンスを組んでからは、確かに日本ならではの動き方や作法などを意識するようになりました。外国人スタッフも日本をリスペクトしてくれる人が多いですし。ただ、それとは別に、EVは“和風なクルマ”だとも思っています。動物的なデザインは、狩猟民族といいますか、西洋のものだという風に感じますが、日本人は物事をフラットに捉えることができます。この思考は未来的かもしれません」

EVは“日本の伝統的な感性や美意識を表現しやすいクルマ”と語った田井氏

インタビューの中で田井氏は、平らな床だけでなく、非対称のシートや遠くにあるインパネなども「日本の美」を連想させる要素だと話していた。それらはモダンかつクールであり、EVにもつながる雰囲気を漂わせていた。

これからのEVのカタチは、日本が主導していくのかもしれない。日本の美とEVの親和性について語る田井氏の言葉を聞いて、未来のカーデザインが楽しみになった。

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