「森口将之」の記事

森口将之

森口将之(もりぐちまさゆき)

モビリティジャーナリスト

1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」「富山から拡がる交通革命」など。
大変革のトヨタを象徴するスポーツカー? 新型「スープラ」に試乗

大変革のトヨタを象徴するスポーツカー? 新型「スープラ」に試乗

2019.01.15

ボリューム感は過去最高? ヴェールを脱いだ新型「スープラ」

エンジンは伝統の6気筒に加え4気筒を用意

滑らかな吹け上がりと重厚なサウンドを堪能

トヨタ自動車は16年ぶりの復活となるスポーツカー「スープラ」を北米国際自動車ショー(デトロイトモーターショー)で発表した。BMWと共同開発した新型は、歴代でもっとも短くて幅広いボディを持つ。エンジンは伝統の直列6気筒に加え、新たに4気筒が登場するとのことだ。プロトタイプに乗った印象を含めて概要をお伝えしよう。

強烈に張り出したリアフェンダー

プロトタイプの試乗会が行われたサーキット「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」のピットに置かれていた新型スープラを見て最初に感じたのは、大柄ではないのに迫力があるということだ。

迫力を感じた新型「スープラ」のデザイン

日本でもスープラを名乗り始めた3代目以降、このクルマの全長が次第に短くなっていったことは、先日掲載となった記事でも触れておいた。新型も、その路線を受け継いでいる。なにしろ、ホイールベースは2,470mmと、車格では下の「86」より100mmも短い。前後のオーバーハングも抑えてあって、4,380mmという全長は歴代スープラで最短だ。一方、1,865mmに達する全幅は歴代でもっともワイドである。

トレッド(左右タイヤ間の距離)はフロント/リアともに1,600mm前後。ホイールベースとの比率は1.6以下で、ライバル車のひとつとなる日産自動車「フェアレディZ」や、リアエンジンであるためホイールベースを短くできるポルシェ「911」などを下回っている。

短いホイールベースと幅広いトレッドが新型「スープラ」の特徴だ

一般的に、ホイールベースが短いほど身のこなしは俊敏になり、トレッドが広いほどコーナーでの踏ん張りが増す。新型スープラが「曲がりやすさ」にこだわったスポーツカーであることは、そのサイズからも分かる。

ワイドなボディを強調するかのように、スタイリングではとにかくリアフェンダーの盛り上がりと張り出しが目立つ。試乗会では2002年まで販売していた旧型と見比べることができたのだが、当時はボリューム感があふれていると感じた旧型のフェンダーラインも、新型と並ぶと平板に思えてしまったほどだ。

盛り上がったリアフェンダーが強烈な印象を与える新型「スープラ」
こちらが先代の4代目「スープラ」

新型スープラがBMWとの共同開発であることは、先述の記事にも書いた通り。具体的には、BMWの新型「Z4」とプラットフォームやパワートレインなどの基本を共用している。基本と書いたのは、細部のチューニングを各社が独自に行っているためだが、2,470mmのホイールベースに加え、エンジンやサスペンションの形式などはほぼ共通だ。

しかし、デザインはまるで違う。日本では2019年春に発表予定の新型Z4はオープンカーであり、ドアの前の「エアブリーザー」と呼ばれるスリットからリアに向けてせり上がるラインで後輪を強調している。一方、伝統のクーペスタイルを引き継ぐ新型スープラは、はるかに大胆で存在感抜群の後輪まわりを特徴とする。

BMWの新型「Z4」。新型「スープラ」と基本を共用するが、見比べるとデザインはまるで違う

もちろん、フロント/リアまわりも違う。新型スープラは複数のレンズを内蔵した大きめのヘッドランプと長めのノーズ、リアゲート一体のスポイラー、横長のリアコンビランプなど、旧型に近いディテールを各所に配してあり、伝統を継承したいというトヨタの気持ちが伝わってくる。

新型「スープラ」はオーストリアで生産

歴代で初めて2人乗りになった新型スープラのインテリアは、シートが低めであるのに対し、プロペラシャフト(エンジンの力を後輪に伝える棒状の部品)が通るセンターコンソールは高く、スポーツカーらしいタイトな空間となっている。展示車両はステアリングやセンターコンソールの一部が赤いレザーで覆われており、鮮烈な雰囲気を醸し出していた。

赤のレザーが鮮烈な新型「スープラ」

それとともに目につくのは、ATのセレクターレバーとエアコンやオーディオなどのスイッチがBMWと共通であることだ。さらに、右ハンドルでありながら、ウインカーのレバーは欧州車のように左側にある。

車内ではBMWとの共通点も目につく

実は、新型スープラは日本ではなくオーストリアで生産される。BMWの新型Z4は、カナダに本拠を置くメガサプライヤー「マグナ・グループ」に属するマグナ・シュタイアがオーストリアの工場で生産するとのこと。トヨタはオーストリアに工場を持っていないから、生産施設も同一になるのだろう。欧米が主要マーケットであるなら、輸送などを考えても妥当な判断だ。

新型スープラを作るにあたり、トヨタは直列6気筒エンジンを積むFR(フロントエンジン・リアドライブ)という伝統を受け継ぐべく、BMWとの共同開発を選んだ。しかし、発表された資料によると、3L直列6気筒ターボエンジンのほかに、チューニングの異なる2種類の2L直列4気筒ターボも用意するとのことだ。

日本仕様のグレードは「SZ」「SZ-R」「RZ」の3タイプ。SZとSZ-Rが4気筒になる。SZは最高出力145kW、最大トルク320Nm、SZ-Rは190kW/400Nmで、6気筒のRZが250kW/500Nmだ。トランスミッションは全車8速ATで、旧型には存在したMT(マニュアル車)は現時点で用意していない。ちなみに、Z4にも2L直列4気筒ターボエンジン搭載車はある。

新型「スープラ」では4気筒エンジンも選べる。MT車の発売は現時点で予定していないようだ

直列6気筒ならではの加速を試乗で体感

ここからは、実際に乗ってみた印象を報告したい。

新型「スープラ」の走りやいかに?(動画提供:トヨタ自動車)

乗り込んでみると、2人乗りなのでシート背後の空間はわずかであるが、身長170cmの筆者がドライビングポジションをとっても、薄いバッグを置けるぐらいのスペースはあった。テールゲートを介してアクセスする荷室との間には、ボディ剛性を確保するための隔壁が存在していた。急ブレーキのときに荷物がキャビンに飛び込んでくるのを防ぐ役目も果たしてくれそうだ。

2人乗りとなった新型「スープラ」。車内はスポーツカーらしくタイトだ

サーキットで乗ったプロトタイプは6気筒で、当時は発表前ということもあり、「A90」という形式名が入ったカモフラージュを施してあった。エンジンスタートボタンを押すと、直後にウーッという低い唸りのアイドリングが始まる。予想以上に音を聞かせる設計になっていた。

ピットロードを出てコースへ。最初のコーナーを回ってアクセルペダルを踏み込む。長くてバランスの取れたクランクシャフトが生み出す、滑らかな吹け上がりと重厚なサウンドとともに、力強く息の長い加速が堪能できる。それでいて、1,600~4,500rpm(エンジンの回転数)という幅広い領域で最大トルクを発生するだけあって、どこから踏んでもドライバーが望むだけの力を味わえる。

試乗では力強く息の長い加速が堪能できた

一方で、コーナーへの進入では、長い直列6気筒エンジンを積んでいるとは思えないほど軽快に向きを変える。前後重量配分を50:50としてある上に、重心高は水平対向エンジンを積むトヨタ「86」より低くなっているなど、こだわりの設計がスープラらしからぬ動きとして伝わってきた。シートのホールド感がタイトであったならば、より一体感が得られたかもしれない。

コーナーの立ち上がりでは、雨の中での試乗ということもあって、アクセルペダルを踏みすぎると後輪がスッスッと唐突に滑りがちだった。トヨタのスポーツカーとしては辛口のチューニングだと思ったが、晴れた日に乗ったジャーナリストは安心して走ることができたと話しているし、市販型では改善される可能性もある。

試乗したプロトタイプ。コーナリングの軽快さには驚いたが、雨のサーキットでは後輪が唐突に滑ることも

ちなみに新型スープラは、TOYOTA GAZOO Racingが立ち上げたスポーツカーシリーズ「GR」で初となるグローバル展開モデルだ。

TOYOTA GAZOO Racingが昨年、ル・マン24時間レースで優勝し、世界ラリー選手権(WRC)のタイトルを獲得したことは記憶に新しい。以前の記事にも書いたように、スープラはル・マンとWRCの両方に出場した経験を持つスポーツカーだ。世界で活躍した経歴を持つからこそ、GR初のグローバルモデルという重責を担うことになったのだろう。

昨年のソフトバンクとの提携が象徴しているように、トヨタは今、100年に一度の大変革の時代に直面して、自らの殻を破りつつあると感じている。新型スープラからも、その意気を感じた。開発や生産のプロセスから実際の走りまで、これまでのトヨタのスポーツカーとはひと味違うクルマだ。

「マツダ3」登場が追い風に? 注目すべきハッチバックの新たな潮流

森口将之のカーデザイン解体新書 第11回

「マツダ3」登場が追い風に? 注目すべきハッチバックの新たな潮流

2019.01.11

ハッチバックのルーツはフランスとイタリアにあり

若者の心をつかんだホットハッチ、革命児「シビック」も登場

もはや経済的な実用車ではない! 変貌を遂げるハッチバック

多くの人の目がSUVに吸い寄せられている昨今だが、その中でハッチバックに新たな流れが生まれつつある。実用性や経済性ばかりを重視するのではなく、カッコいいデザインや楽しい走りを追求する車種が増えてきているのだ。マツダの新車も控える2019年は、ハッチバックが自動車業界のトレンドになるかもしれない。

マツダは今年、ハッチバック(画像)とセダンのボディタイプを持つ新型車「マツダ3」を発売する

ハッチバックのルーツは?

ハッチバックの歴史を語る上で外せない車種が2つある。1961年に発表されたルノー「4」(キャトル)と、その11年後に登場したルノー「5」(サンク)だ。

ルノー初の前輪駆動車でもあった「4」は、量産車初のハッチバックでもあった。コンセプトは「ブルージーンズのようなクルマ」だったそうで、背が高くて後端まで伸びたルーフは、マルチパーパス(多目的)であることを強調していた。

ルノー「4」は量産車初のハッチバックだ

ところが、同じプラットフォームを使って1972年にルノーが送り出した「5」は対照的だった。当初のボディは3ドアだけであり、前後のバンパーは量産車でいち早く樹脂製とするなど、ファッショナブルな面を強調していたのだ。

ファッショナブルに進化したルノー「5」

もうひとつの無視できない流れはイタリアにあった。1964年、フィアットがグループ内のアウトビアンキというブランドから前輪駆動ハッチバック「プリムラ」を登場させると、5年後にはひとまわり小さな「A112」を送り出したのだ。アウトビアンキは同クラスのフィアットより上級という位置づけで、ルノー「5」のように、付加価値を与えられたクルマだった。

「5」が生まれた1972年前後には、アウトビアンキ「A112」とプラットフォームやエンジンなどを共用したフィアット「127」、プジョー「104」、ホンダ「シビック」などが相次いで発売となり、1974年にはフォルクスワーゲン(VW)が「ゴルフ」を送り出すなど、ハッチバックは次第に勢力を増していく。

ホンダの初代「シビック」

その過程においては、前輪駆動ではないハッチバックも生まれた。代表格といえるのがトヨタ自動車の2代目「スターレット」だ。当時のトヨタは前輪駆動車を市販化していなかったこともあって、FR(フロントエンジン・リアドライブ)のままハッチバックを仕立てていたのだ。

FRのスターレットは、室内の広さなどで前輪駆動のライバルには劣っていたものの、前輪駆動のハッチバックが主流になる中で、コンパクトな後輪駆動の実用車という独自のパーソナリティが逆に注目されて、走り好きの人々に愛されることになった。

忘れがたきホットハッチの名車たち

走り好きの人々に愛された車種といえば、「ホットハッチ」と呼ばれたクルマたちを忘れることはできない。ハッチバックをベースとして高性能エンジンを積み、サスペンションを低く固め、ボディやインテリアを精悍に装ったものだ。

この分野のパイオニアといえるのが、1973年発表のアウトビアンキ「A112アバルト」だろう。アバルトは1960年代、フィアットのリアエンジン小型車「600」をベースとした高性能車を製作してレースで大活躍したが、600の生産中止に伴い、同じエンジンをA112に載せた車種を企画したのだ。現在のアバルト「595/695」のルーツになった1台といえるかもしれない。

アウトビアンキ「A112アバルト」

A112アバルトが登場した翌年には「シビック1200RS」、1976年には「5アルピーヌ」と「ゴルフGTI」が登場する。

シビックRSはシビックのスポーツタイプだが、ホンダは大気汚染やオイルショックなどが問題となっていた当時の国内事情を鑑みて開発を行っていた。エンジンは従来から出力を7psアップさせたに過ぎない。もっと早そうな名前も付けられただろうが、「ロード・セーリング」の略である「RS」を選んだのも、当時の情勢を考慮してのことだろう。

昨年はルノーが「アルピーヌ」ブランドを復活させ、新型車「A110」を発表してファンを喜ばせたが、A110にも脈々と流れるスポーツカーのノウハウを注ぎ込んで生み出したのが、ホットハッチの「5アルピーヌ」だった。1.4Lから93psを発生したエンジンは、のちにターボ化されて110psまで力を増した。現在も作り続けられているゴルフGTIの初代は、1.6Lから110psを発生していた。いずれのクルマも、小さな体に大きな力を秘めていたのだ。

VWの初代「ゴルフGTI」
こちらが現行型「ゴルフGTI」

ハッチバックは1980年代に入っても、若者を中心に根強い人気をキープし続ける。その中で、異彩を放っていたのが3代目シビック、通称“ワンダーシビック”だった。

ワンダーシビックは3ドアと5ドアのハッチバック、4ドアセダンという3つのボディ全てが専用設計で、3ドアはスポーツカーのように低く、5ドアは逆に現在のSUVを思わせる背の高いシルエットで、「シャトル」というサブネームが与えられていた。

“ワンダーシビック”と呼ばれたホンダの3代目「シビック」

しかし、その後はバブル景気の到来で、多くのユーザーが高級志向に走ったこともあって、ハッチバックに目を向ける人は少なくなっていく。この時期は、日産自動車が初代「マーチ」をベースにレトロ風デザインを与えた「Be-1」「パオ」「フィガロ」が目立っていたが、バブル崩壊とともにこの流れは消滅している。

日産が初代「マーチ」をベースに作った「パオ」

その頃からハッチバックの主役となっていったのは、1991年発表の2代目「マーチ」、1999年デビューのトヨタ自動車「ヴィッツ」、2001年誕生のホンダ「フィット」といったクルマたち。つまり、実用的かつ経済的な車種だ。「コンパクトカー」という言葉もこの頃に生まれた。一方、かつて一世を風靡したホットハッチは次々に姿を消していった。

元来、欧州でハッチバックは合理性重視の車種として認識されていたのだが、質実剛健なVWのゴルフがベンチマーク的な存在となったことで、その印象が強まっていく。ルノーの「5」も、1990年に後継車の「ルーテシア」(欧州名はクリオ)が登場したあたりから、実用性を重視する方向性にシフトしていった。

2001年にBMWプロデュースの新世代「ミニ」が誕生した後には、VW「ニュービートル」やフィアット「500」など、かつての大衆車のリバイバルが相次いだ。これらのクルマは、パーソナルカーとしてのハッチバックの役目を受け継ぐ存在のようにも見えたのだが、そもそも元ネタがないと生まれなかったわけだし、世界的なブームになるまでには至っていない。

実用車からの脱却が始まった? ハッチバックの今後は

しかし最近、ハッチバックに新たな流れが生まれつつあると感じている。SUVやミニバンの台頭もあってか、実用性追求の姿勢が薄れつつあるのだ。かつてのルノー「5」やワンダーシビックのように、ファッショナブルでスポーティな方向性を目指す車種が増えてきたような気がする。

その流れを象徴しているのが、これまでもハッチバックに革命を起こしてきたシビックではないかと思っている。

かつては日本製ハッチバックの代表格だったシビックだが、2005年発表の9代目から国内生産はセダンのみとなり、ハッチバックは高性能版の「タイプR」を英国から輸入するようになっていた。しかし、10代目となる現行型では、やはり英国からの輸入車ではあるものの、タイプR以外のハッチバックが復活している。

ホンダの現行型「シビック」

ボディサイズはかつてのシビックと比べるとかなり大柄になったが、長さや幅に対してかなり低いプロポーションや、窓が大きくて開放的なインテリアなどは、1980年代のワンダーシビックを思い出させてくれる。

トヨタが2018年夏、12代目カローラのトップバッターとして発売した「カローラ スポーツ」も、これまでカローラが守り続けてきた5ナンバー枠を脱したボディサイズに加え、個性的なフロントマスクもあいまってダイナミックな雰囲気を発散している。

トヨタの「カローラ スポーツ」

そして、今年の注目はマツダの新型「マツダ3」(日本名はアクセラ)だ。長いボンネット、高めのベルトライン、小さなキャビン、スロープしたリアなどに加え、キャラクターラインをほとんど使わず、線ではなく面で形を表現しているところなど、理屈抜きにカッコいい。

マツダの新型車「マツダ3」

新型マツダ3の原型は、2017年の東京モーターショーに「魁(カイ) コンセプト」という名前で登場していた。その時にマツダは、ワンモーションのシンプルなラインでフォルムを描きつつ、繊細な造形で光の移ろいやリフレクション(反射)の動きをクルマに取り込むことで、これまで以上に力強く、味わい深い生命感を作り込んだとアナウンスしていた。でもそれが、ほぼそのまま市販型になるとは思わなかった。

マツダの「魁(カイ) コンセプト」
新型「マツダ3」はコンセプトカーがそのまま市販車になったような印象だ

もちろん、ゴルフに代表される実用的なハッチバックが消えていくとは思っていない。しかし、SUVやミニバンが実用車の役目を担う今、ハッチバックがパーソナル化するというのは理解できる流れだ。今後はこうした車種がいくつも登場してきそうで、長年ハッチバックに乗り続けてきた筆者は嬉しい気持ちになっている。

絶滅させるにはあまりに惜しい! 再考したい2ドアクーペの魅力

森口将之のカーデザイン解体新書 第10回

絶滅させるにはあまりに惜しい! 再考したい2ドアクーペの魅力

2019.01.08

2人乗りが優勢の2ドア勢力図

「ザ・ビートル」終焉にも影響? 海外の2ドア4/5人乗り事情

乗れば忘れがたい魅力、無駄も豊かさと感じさせるクルマ

多くの自動車ブランドがSUVを送り出し、クーペのようにスタイリッシュな4ドアを登場させる一方で、減り続けているボディ形状があることに皆様はお気づきだろうか。それは、4/5人乗りの2ドアクーペだ。このまま絶滅の道を歩ませるにはあまりに惜しいので、このボディを愛する者のひとりとして魅力をつづってみたい。

4/5人乗り2ドアクーペの美しさをあらためて見つめなおしたい(画像は左の青いクルマからいすゞ自動車「117クーペ」、トヨタ自動車「セリカ」、三菱自動車工業「ギャランGTO」)

新型「スープラ」も2人乗りに変身

2019年に復活するトヨタ自動車「スープラ」の事前試乗会でプロトタイプに触れて、残念なことがひとつあった。ボディがリアシートのない2人乗りになっていたことだ。

新型スープラを復活させるにあたりトヨタは、「直列6気筒エンジン」と「後輪駆動」という初代からのパッケージングを守るため、BMWのスポーツカー「Z4」との共同開発という道を選んだ。Z4は2シーターのオープンカーであり、プラットフォームやパワートレインの基本を共有するとなれば、スープラも2人乗りになることは予想できた。

新型「スープラ」プロトタイプ(画像)は2シーターになっていた

しかもスープラは、以前の記事で紹介したように、モデルチェンジのたびにホイールベースと全長を短くしてきた、珍しい車種である。その目的のひとつがスポーツ性能の向上であり、この方向性を推し進めた2シーター化は理解できる。

この結果、日本で販売される日本車の2ドア2人乗りは日産自動車「フェアレディZ」、本田技研工業の「NSX」と「S660」、マツダの「ロードスター」と「ロードスターRF」、ダイハツ工業「コペン」を加えて7車種となる。

一方、同じ2ドアながら4/5人乗りの車種は、トヨタ「86」、スバル「BRZ」、日産「GT-R」、レクサス「RC」「LC」の5車種にとどまる。使い勝手の面では明らかに不便な2人乗りの方が多数派という、異例の状況になったわけだ。

希少な存在になりつつある2ドア4人乗りクーペのレクサス「LC」

昔のことを振り返ると、スープラのベースとなった「セリカ」をはじめ、2ドア4/5人乗りの車種はかなり多かった。逆に、同じ2ドアの2人乗りはフェアレディZやトヨタ「MR2」くらいしかなく、そのZさえ「2by2」という名の4人乗りを用意していたほどである。

日本車にも2ドア4/5人乗りの車種が多い時代はあった(画像はホンダ「プレリュード」)

欧米でも減り続ける2ドア4/5人乗りの車種

実はこれ、日本に限った話はではない。我が国以上に2ドアクーペが根付いていたアメリカでも車種は減っているのだ。日本で輸入しているモデルを見てみると、2人乗りがシボレー「コルベット」のみで、4人乗りは同じくシボレーの「カマロ」しかない。

シボレー「カマロ」

ヨーロッパではスポーツカー専門ブランドや1,000万円以上の高価格車を除くと、ジャガーとアルファ・ロメオではかつてあった4人乗りが消滅して2人乗りの「Fタイプクーペ/コンバーチブル」と「4C/4Cスパイダー」のみになり、プジョーやボルボでは2ドアそのものがなくなった。レンジローバー「イヴォーク」はSUVクーペという姿が鮮烈だったが、新型は5ドアのみとなった。

SUVクーペという姿が鮮烈だったレンジローバー「イヴォーク」

クーペとはいえないかもしれないが、フォルクスワーゲン「ザ・ビートル」が販売を終了するのにも、似たような理由があると思っている。同じように古き良き時代のベーシックカーをリバイバルさせたミニが「クロスオーバー」などを展開し、フィアットは「500」(チンクエチェント)に「500X」という5ドアを追加していく中で、オリジナルの面影を継承した3ドアにこだわったのがザ・ビートルだった。しかし、その点にこそ、このクルマがおよそ80年にも及ぶ歴史に終止符を打つことになった要因があるのではないかという気がするのだ。

ミニ「クロスオーバー」
フォルクスワーゲン「ザ・ビートル」

SUVブームも遠因に? 2ドア4/5シーターが減った理由

2ドア4/5シーターがここまで減ってしまった理由は何か。簡単にいえば、4ドアでもカッコいいクルマが作れるようになったことが大きいだろう。

そのひとつはSUVだ。中でも、それまでスポーツカー専門だったポルシェが2002年に送り出した「カイエン」の影響力は大きかった。

ポルシェ「カイエン」

ポルシェを代表するスポーツカーは「911」だが、この1台で全てをカバーできる人は少ない。ほとんどのユーザーは、別に他社のセダンやワゴンを持っていた。ポルシェは911オーナーの“もう1台需要”を狙うべく、SUVを企画したのではないかと思っている。

ところがカイエンには、それとは異なるユーザーが殺到した。2ドアは生活シーン的に無理という人々が、4ドアのポルシェとしてカイエンを選ぶようになったのだ。以前、あるカイエンオーナーに話を聞いた時、「ポルシェは好きだけれど911には興味がない」と言い切っていたのは印象的だった。

ポルシェの成功が、他の多くのプレミアムブランドをSUV参入になびかせる理由のひとつになったことは間違いない。ジャガー「Eペイス」(E-PACE)のように、セダンの「XE」よりスポーツカーの「Fタイプ」に近いデザインを取り込んで、4ドアのスポーツモデルとしてアピールする例も多い。

ジャガー「Eペイス」

「2ドアは買えない」と考える人のためのスポーツモデルという立ち位置を各社が持たせたことは、SUVがヒットした理由のひとつだと思っている。

4ドアクーペ登場も退潮の要因に

もうひとつの理由は、4ドアクーペの登場だ。こちらは1950年代の米国車に設定された4ドアハードトップをルーツとしており、日本車も1970年代以降、このボディを多数用意した。少数派ではあるが、1960年代の英国車にも4ドアクーペはあった。

もともとハードトップとは、オープンカーに装着する(幌ではなくて)固い屋根のことだったのだが、その後、サイドウインドーの窓枠を持たないクーペをこう呼ぶようになった。セダンと比べるとルーフが低く、前後のウインドーの傾きが強いことが多く、2ドアの流麗さと4ドアの実用性を兼ね備えたような車体だった。

しかし、日本車の4ドアハードトップは「車内が狭い」とか「ボディ剛性が低い」といった理由で21世紀初めに消滅する。すると、入れ替わるように登場したのが2004年発表のメルセデス・ベンツ「CLS」だった。続いてBMWが「6シリーズ・グランクーペ」、アウディが「A7スポーツバック」と、ドイツ勢が相次いで4ドアクーペ(A7はリアゲートがあるので5ドアともいえる)をリリースしてきた。

アウディ「A7スポーツバック」

もっとも、彼らは依然として2ドアのクーペも用意していたのだが、一方で、SUVにも低く流麗なルーフラインを特徴とする「SUVクーペ」を設定していた。こちらには最初から2ドアがなく、4ドアのみだった。このことからも、2ドア4/5人乗りクーペの販売台数が減少していたことは容易に想像できる。

4ドアでは得られない独特の魅力とは

でも筆者は、2ドアクーペには4ドアにはない良さがあると信じている。2人乗りの所有歴はないものの、4/5人乗りクーペは現在の愛車であるルノー「アヴァンタイム」を含め3台と付き合っており、独特の世界観に魅せられているひとりであるからだ。

車内の広さというと、後席のスペースを指すことが多い。逆に前席は、スポーティさを出すべくタイトに仕立てる例が目立つ。しかし、2ドアクーペのドアを開ければ、そうではないことに気づくはず。そこには前席優先の空間が広がっているからだ。この開放感、一度味わってしまうとなかなか離れることができない。

2ドアクーペに乗り込むと、独特の開放感が感じられる(画像はレクサス「LC」)

しかも、ドアを開けると前後どちらの席にもアクセスできる。後席に人が乗る場合は前席の背もたれを倒さなければならないけれど、荷物を置くだけならそのままでいい。狭い場所では長いドアが開け閉めしにくく、乗り降りしにくいという声もある。それに対しては、愛車アヴァンタイムのようにドアヒンジをダブルとして、前方にせり出しながら開く手法があることをお伝えしておこう。

ルノー「アヴァンタイム」のダブルヒンジドア

このパッケージングは、流麗なフォルムを生み出すことにも貢献している。4ドアはどうしても後席の居住性に配慮するから、クーペと名乗っていてもルーフラインはセダンに近くなる。一方、2人乗りのスポーツカーでは走りを突き詰める結果、全長もキャビンも短くなるので、流れるようなラインは描きにくい。

とはいえ、2ドア4/5シータークーペが無駄にあふれたクルマだという事実は、認めざるを得ない。でも、これはクルマに限った話ではないが、無駄こそ豊かさを感じさせてくれるものなのではないだろうか。カッコよさと使いやすさの両立は、多くの人が望むことかもしれない。ただ、その結果として大事なことを置き去りにしているようなら、それは残念なことである。