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栗原景

同じ駅弁が2種類ずつ? 東京駅「チキン弁当」「深川めし」の秘密

同じ駅弁が2種類ずつ? 東京駅「チキン弁当」「深川めし」の秘密

2018.03.16

100種類を超える駅弁が販売されている東京駅。売り上げナンバーワンは「30品目バランス弁当」(900円)

鉄道旅の楽しみのひとつと言えば、駅弁。中でも、日本の玄関・東京駅には、時刻表に掲載されているものだけでも80種類以上の駅弁が販売されている。東京駅改札内の駅弁売店「祭」などでは、全国の有名駅弁を購入することもできる。

そんな東京駅に、不思議な駅弁がある。それは、「チキン弁当」と「深川めし」。どちらも、長年東京駅の駅弁として親しまれてきた駅弁だが、値段もレシピも異なる商品が2種類ずつあるのだ。

東京駅の駅弁は、JR東海の敷地とJR東日本の敷地で業者が異なる。こちらは、東海道新幹線のホームにあるJR東海パッセンジャーズの売店(写真提供:JR東海)

タネを明かせば、これは東京駅に、JR東日本系列のNRE大増と、JR東海系列のJR東海パッセンジャーズという2つの駅弁業者があるため。在来線および東北・上越・北陸新幹線の構内はNRE大増が、東海道新幹線の改札内はJR東海パッセンジャーズが営業を行っている。どちらも、ルーツは国鉄時代に駅弁や食堂車の営業を行っていた日本食堂で、民営化後間もない1988(昭和63)年にJR旅客会社の営業エリアに合わせて分社化された。「チキン弁当」も「深川めし」も、その時に両社に引き継がれたものだ。

東海道新幹線とともに誕生した「チキン弁当」

「チキン弁当」が発売されたのは、東海道新幹線が開業した1964(昭和39)年10月のことだ。当時の日本食堂品川営業所で、新幹線食堂車(当時はビュフェ)の洋食コックが乗務前に調製し、駅弁として販売したのが始まりだ。当時は二段重ねの豪華な駅弁で、チキンライスと唐揚げのほか、ポテトチップスやガリ(生姜)、調味用の塩が入っていた。1974(昭和49)年から、現在の一段ボックスに変わり、その後はほとんどレシピを変えることなく現在に至っている。

国鉄分割民営化後の1988年、日本食堂が地域ごとに分社化されると、チキン弁当は日本食堂(現・NRE大増)の「チキン弁当」と、Jダイナー東海(現・JR東海パッセンジャーズ)の「チキンバスケット」に分かれた。その後、「チキンバスケット」は一時期販売が終了していたが、2009(平成21)年に「チキン弁当」として復活。付け合わせなどのリニューアルを経て現在に至っている。

2つの「チキン弁当」を食べ比べてみよう。なお、以下ではNRE大増を「NRE」、JR東海パッセンジャーズを「JRCP」と略している。

2つの会社から販売されている「チキン弁当」(上:JRCP、下:NRE)。NRE版は国鉄時代からほとんどパッケージが変わっていない

どちらもボックスタイプで、左にチキンライス、右にチキンがあるのは同じ。NRE版は、ライスにグリーンピースとともに卵そぼろが乗っているが、JRCP版は柔らかいスクランブルエッグ。チキンは、NRE版の4つに対しJRCP版は5つだが、全体の量はあまり変わらない。大きく異なるのは付け合わせで、NRE版がスモークチーズとマカロニサラダにレモン果汁、JRCP版はナポリタンとプチトマト、ピーマン、そしてタルタルソースだ。

チキンライスのテイストにも違い

チキンを食べてみよう。NRE版は、筆者が小学生の頃から慣れ親しんだ昔ながらの唐揚げだ。衣が厚めでしっとりとしており、少し粉っぽさを感じる。鶏肉には歯ごたえがあり、味付けはスパイシーながら控えめ。ライスにもビールにも合う、万人受けする味わいだ。NRE大増の担当者は、「独特の味付けをした唐揚げ粉を使い、揚げ方はもちろん、粉の付け方やはらい方にもノウハウがあります」と語った。

対するJRCP版のチキンは、やや現代風で若い人向けのテイスト。鶏肉は柔らかめで、JR東海パッセンジャーズによれば「こだわりの香辛料を複数ブレンドした独自の唐揚げ粉で揚げています」と言う。ファストフード店のフライドチキンに近い、パンチの効いた味付けと感じた。

左:NRE版の「チキン弁当」900円。個別包装のスモークチーズは、以前はドライフルーツだった。唐揚げとレモン果汁だけをパッケージした「チキン弁当のからあげ」もある。右:トロトロの卵とタルタルソースで個性を出すJRCP版の「チキン弁当」880円。ナポリタンが、懐かしの洋食を演出している

チキンライスにも違いがある。NRE版は、やはり昔から変わらぬ優しい味わいで、ケチャップの主張が強すぎずほのかな甘みを感じる。JRCP版はケチャップの風味を楽しめる味付けで、さわやかな酸味が印象的だ。

歴史ある駅弁だけに、レシピを変更することはほとんどない。

「辛い料理が流行った時など、何度か味付けをリニューアルしてみたことはあります。しかし、昔からのお客様のご要望もあり、最終的には元の味に戻っています」(NRE)

「昔懐かしいチキンライスと唐揚げの味を求める50~60歳代の男性のお客様やお子様連れのお客様などに人気で、リピーターも多いため大きな商品変更は基本的にありません」(JRCP)

筆者の感想も加味すると、歴史と伝統を守るNRE版と、現代風のテイストと懐かしさを両立させたJRCP版、と表現することができそうだ。

パッケージのサイズはほぼ同じながら、デザインは大きく異なる「深川めし」。JRCPの駅弁は、ビニールで梱包されている点も異なる(右のパッケージ)

「深川めし」は、あさりをネギなどとともに煮込んでご飯にかけたり、炊き込んだりした東京の伝統料理。そのルーツは、江戸時代の漁師飯と言われている。駅弁の「深川めし」は「東京駅を代表するご当地駅弁」(JRCP)だが、発売はJR発足後の1987(昭和62)年と意外に新しい。

「東京名物にふさわしい駅弁を模索していたところ、たまたま深川めしを知っている人がいて、研究の末に商品化された」(NRE大増)という。それから1年もたたないうちに日本食堂からJダイナー東海が分社化され、「深川めし」は両社に引き継がれた。当時は新参者だった「深川めし」だが、ご当地駅弁として相当期待されていたのだろう。

ぶっかけ飯vs炊き込みご飯

NREは、2013(平成25)年に「深川めし」を全面リニューアル。それまで入っていたハゼの甘露煮をやめ、あさりの炊き込みご飯も、あさりと牛蒡の生姜煮を茶飯に乗せるタイプに変更した。

「深川めしのルーツである、漁師のぶっかけ飯を再現したリニューアルです。ハゼは価格が高騰していたことと、見た目が良くないというご意見をいただいていたことから取りやめました」(NRE)

一方のJRCP版は、1987年の発売当時からレシピをほとんど変えていない。

「あさりの出汁がきいた炊き込みご飯と、穴子の蒲焼き、ハゼの甘露煮など魚介の味で統一しています」(JRCP)

左:NRE版「深川めし」900円。あさりは茶飯とは別に炊き込まれ、ネギなどと一緒にご飯に「ぶっかけ」てある。玉子焼きやにんじんなど、箸休めになる付け合わせが嬉しい。右:JRCP版「深川めし」980円。あさりが一カ所にまとめられているが、ごはんと一緒に炊き込んだあさり飯となっている。値段が高めなのは、ハゼの甘露煮が今も入っているからかもしれない
2010年当時の「深川めし」。左がリニューアル前のNRE大増版、右がJR東海パッセンジャーズ版。この頃は、2つの「深川めし」に違いはほとんどなく、パッケージもよく似ていた

深川めしは、もともと貝汁をご飯にぶっかけるタイプと、炊き込みご飯にするタイプの2種類があるが、NRE版のリニューアルによって、両方を手軽に食べ比べることができるようになった。

2つの「深川めし」は、味わいも異なる。NRE版はあっさりとした味付けで、茶飯には甘みを感じる。老舗料亭「日本ばし大増」を営むNRE大増らしい味わいだ。穴子もしょっぱすぎず、穴子の風味を味わえる焼き加減。

JRCP版は、やはりハゼの甘露煮が目立つ。江戸前らしい濃いめの味付けでご飯が進む。蒲焼きらしい色の穴子は香ばしく焼き上げられ、お酒にも合う。全体に、駅弁らしいしっかりした味付けという印象だ。

同じ名称、同じルーツを持つ2つの「チキン弁当」&「深川めし」。別々の道を歩み始めてから30年が経過した今、それぞれの駅弁は盛り付けも味付けも大きく変わった。グループで出かける際など、食べ比べて駅弁の歴史を体感するのも面白い。

全国唯一の明知鉄道「食堂車」がリピーター続出のワケ

全国唯一の明知鉄道「食堂車」がリピーター続出のワケ

2018.03.13

寝台特急「北斗星」「カシオペア」の廃止によって、日本の定期列車から姿を消した食堂車……と思われがちだが、食堂車を営業している列車は今もほぼ毎日運行されている。

それが、岐阜県の明知(あけち)鉄道で運行されている急行「大正ロマン号」だ。明知鉄道は、国鉄明知線から転換された第3セクター鉄道で、中央本線の恵那駅から明智駅まで、25.1kmを結んでいる。「大正ロマン号」は月曜を除く毎日運行されている、料金不要の急行列車で、下りの「1号」は、全国で唯一「食堂車」を営業している。

実はこの「食堂車」、ロングシートの気動車に長テーブルを置いただけの簡易食堂車で、利用には5日前までに予約が必要。実態は、各地で運行されているグルメツアー列車とほぼ同じだ。

左:地元の食材を使った多彩なメニューを用意している明知鉄道急行「大正ロマン号」。右:乗降口の横には、「食堂車」と書かれたサボ(サイドボード)も。このマークは戦前まで時刻表で使われていた「和食堂」のマーク

明知鉄道は、1987年から地元の食材をふんだんに使った郷土料理の弁当を車内でいただく「グルメ列車」を運行してきた。「大正ロマン号」は、それを定期列車化したもの。以前はツアー専用列車だったため一般の乗客が乗車できず、日中に2時間以上も時間が空いてしまっていた。そこで、グルメ列車を定期列車併結とし、さらに「第3セクター鉄道唯一の食堂車を連結する急行列車」とすることで、話題作りをはかったのである。時刻表には食堂車のマークが掲載され、特にJTB時刻表には戦前まで使われていた「和食堂」のマークが復刻掲載された。

ほぼ毎日運行するのが食堂車の利点

明知鉄道の伊藤温子氏によれば食堂車の利用者は現在年間約1万人。「食堂車」に衣替えしてからは、運行時刻が時刻表や乗り換え案内アプリなどで確認できるようになり、案内がしやすくなって認知度も高まったという。

「人口減少・少子化に対する経営努力には限界があり、いかに観光客を呼び込めるかが重要です。当社の食堂車は定期列車なので、お客様のご都合に合わせて参加していただけます。料金も2,500円から5,500円と比較的リーズナブルなので、気軽に参加できることも利点です」(伊藤氏)

いわゆるグルメツアー列車は、週末・ハイシーズン限定のことが多いが、明知鉄道は月曜を除く毎日、通年運行していることが特筆される。それが、唯一の食堂車と呼べる所以だ。5日前の時点で予約が7人に満たない場合は原則として営業休止となるが、平日でも2週間後くらいまでは、かなり予約が埋まっている。名古屋から1時間という地の利もあるが、ポイントはリピート率の高さだ。

「近年はリピーターのお客様が増えていて、全メニューの制覇にチャレンジするお客様もいらっしゃいます。特に3月までの土曜限定となる枡酒列車は顔見知りの方も多く、今シーズンはすでにほぼ全列車満席です」(伊藤氏)

2月の土曜日、現地を訪れた。メニューは季節ごとに変わり、この日は地元産の自然薯が食べ放題となる「じねんじょ列車」と、沿線の酒蔵・岩村醸造の銘酒「女城主」が飲み放題の「枡酒列車」の二本立て。列車は3両編成で、一般用、「じねんじょ列車」、「枡酒列車」がそれぞれ1両ずつ割り当てられている。1両の定員は30人で、この日の予約は「じねんじょ列車」が24人、「枡酒列車」は満席の30人と盛況だ。4月になると、看板列車の「寒天列車」と、手軽に参加できる「おばあちゃんのお花見弁当列車」の運行が始まる。

左:枡はそのまま一日乗車券となる。運転士や改札口で枡を見せて乗り降りする光景はなんとも粋? 右:枡酒列車は、「ゑなのほまれ」「女城主にごり酒」「女城主新米一番搾り」などが飲み放題

早朝から提供料理の仕込み

食堂車の準備は、明智駅発恵那行き急行「大正ロマン2号」の車内で行われる。料理は山岡駅併設のレストランと明智のゴルフクラブ、恵那峡の観光ホテルの3社が交代で提供。土曜限定の「枡酒列車」は、花白温泉駅前にある花白温泉の担当だ。複数の業者が担当することで毎日運転を実現し、それぞれが自慢の料理を競うなど緩やかな競争原理が働いている。同じ「寒天列車」でも業者が異なれば細かい献立や味付けが変わり、これもリピーターを増やす要因となっている。

この日「じねんじょ列車」を担当するのは、山岡駅併設のレストラン「山岡かんてんかん」の原田さんと古田さん。朝8時から、店舗で仕込みを行い、山岡駅から食材を積み込んだ。多客時には、早朝6時から準備することもあるという。

「メニューは、みんなで試行錯誤しながら作っています。今日のポイントは、自然薯以外では山岡名物の寒天寿司ですね。こちらの原田さんは寿司名人なんですよ。具が真ん中に来るようにきれいに作ってくださいます」(古田さん)

左:早朝から調理された料理は、ほぼできあがった状態で積み込まれる。山岡駅で積み込まれる「じねんじょ列車」の料理。右:鮎の甘露煮、自然薯の磯辺揚げ、寒天寿司、いなごの佃煮、地元で採れたイチゴなど沿線の味が揃う

すべての食材がきれいに並べられた頃、列車は恵那駅に到着。一般の乗客とともに60人近い「食堂車」利用者が乗り込む。折り返し時間は10分しかないが、何人かがヘッドマークをつけた先頭車両で記念写真を撮り、それぞれ決められた席に座ると、ちょうど発車時刻となる。

「本日は、じねんじょ列車、そして枡酒列車にご乗車くださり、ありがとうございます。お互い、お隣が気になりますよね」

車内では、アテンダントが料理や車窓風景について案内してくれる。一人しかいないので、マイクを使いながら2両の食堂車を行ったり来たり。マイクを通じて賑やかな空気が伝わってくる。「次回はあっちも試してみよう」という気になり、これもリピーターを増やす要因になっているようだ。

左:恵那駅発車の1分前にもう乾杯。この時点ではまだどことなくよそよそしさが残るが……。右:料理と車窓風景を案内するのは、明知鉄道ただ一人のアテンダント、小崎聡美さん。ユーモアを交えて、沿線の魅力を紹介していく

乗客は、愛知・岐阜などの近県からの人が多いが、東京など遠方から来た人もいる。中間点の岩村駅に着く頃には、たまたま乗り合わせた乗客同士、すっかり打ち解け、会話が弾んでいた。これは料理やお酒の力だけではなく、ロングシートに秘密がありそうだ。普段は旅人から敬遠されがちなロングシートだが、長テーブルを挟むと絶妙な距離感で、ある程度プライバシーを守りつつ気軽に会話できる。

「食堂車」をきっかけに地域をPR

急行「大正ロマン1号」は、普通列車よりも4分遅い、53分で終着・明智駅に到着。時刻は13時過ぎで、食堂車の利用者には一日乗車券が配布されているので、この後は自由に明知鉄道の旅を楽しめる。特に枡酒列車は、枡が乗車券になっているのが楽しい。ただし、「酔っ払って忘れてしまう方が多い」(伊藤氏)のだとか。

「食堂車は、普段のレストランよりもお客さんとの会話を楽しめるのが良いですね。色々な方と出会えて、お客さんにも明知鉄道のことが知られていくのが嬉しいです」

「珍しいローカル鉄道の食堂車」という話題性から人が集まり、それをきっかけに町を知り特産品を味わい、沿線を歩いてくれる。様々な業者が、メニューと味を競うことで、1度ならず何度も訪れてくれる……。明知鉄道が30年育ててきた「大正ロマン号」の食堂車は、地域をPRする最適なメディアとなっていると言えそうだ。

左:30分もたてばすっかり打ち解ける。全幅3mほどの車体にロングシートという、絶妙の距離感が心地よい。右:自然薯のとろろは車内で摺る。制限の多い列車内で美味しい料理を提供できるよう工夫が光る
青春18きっぷで海外旅行? 乗り鉄が生んだ隠れた人気商品

青春18きっぷで海外旅行? 乗り鉄が生んだ隠れた人気商品

2017.12.15

青春18きっぷがあれば、格安で海外に行くことができる−−。そんなユニークなキャンペーンを行っているのが、山口県の下関港と韓国の釜山港を結ぶ関釜フェリーだ。下関港を毎日19時45分に出港し、翌朝8時に到着する定期船で、2013年から毎年春夏冬の3回、「青春18きっぷ旅大応援キャンペーン」を開催している。

これは、電話予約のうえ青春18きっぷを下関港の窓口で提示すると、2等運賃が半額の4500円(通常9000円)になるというものだ。往復で購入すればわずか9000円+港湾使用料で海外旅行ができる。正規運賃での差額を支払えば、一等や特等も利用可能だ。提示する青春18きっぷは、そのシーズンに有効なきっぷであれば良く、すでに5回分使い切っていても構わない。

青春18きっぷと海外旅行。一見、無関係に思える組み合わせだが、発売の意図はどこにあるのだろうか。関釜フェリー旅客営業課の中野洋平氏は、「私自身が、学生時代からずっと使い続けてきた青春18きっぷのヘビーユーザーだからです」と語る。意外にも、レールファン寄りの発想から生まれた商品だという。

左:下関~釜山間を毎日1便運航している関釜フェリー「はまゆう」。韓国籍の「星希」と交互に運航されている。右:下関駅には、115系などの国鉄型電車が健在。懐かしい汽車旅を楽しんで、そのまま格安で海外に足を伸ばせる

「大阪を朝8時頃に出発すると、山陽本線の普通列車を1日乗り継いで、関釜フェリーに乗り継げるんです。そこで、18きっぷを1日分使い切って、当社のフェリーに乗っていただこうという発想が出ました」。

欧亜連絡ルートの名残

下関港国際フェリーターミナルはJR下関駅から徒歩7分。満席の恐れがあるため事前の電話予約が必須だが、窓口で18きっぷを見せれば即半額になる

もちろん、それだけではない。下関~釜山航路は、戦前には日本とヨーロッパを結ぶ欧亜連絡ルートの一部だった。第二次世界大戦勃発までは、東京駅などの主要駅で、日本から釜山、ハルビン、モスクワを経由してパリまでの「欧亜連絡乗車券」を購入することができたという歴史がある。東京~パリ間は最短16日かかったが、45日かかる船よりも圧倒的に速かった。

「飛行機ではなく、昔ながらの列車と船で海外に出かけるという”旅”を、商品化したいという思いがありました」。列車と船を乗り継いで韓国へ出かける商品といえば、JR発足直後に発売された「日韓共同きっぷ」があった。しかし、格安航空券の普及によって相対的に割高となり、商品力を喪失。販売区間が縮小され、2015年に廃止されている。一方で、列車と船を乗り継ぐ旅には独得の旅情があり、一定のニーズがある。JRとの共同商品の開発には大規模な手続きが必要だが、自社のみの割引キャンペーンなら、比較的容易に実施できる。

2隻あるフェリーは460~562人と十分な収容力があり、思い切った割引が可能だった。こうして2013年春期から「青春18きっぷ旅大応援キャンペーン」がスタートした。

学生時代から20冊以上、延べ100回以上、青春18きっぷを使ってきたという関釜フェリーの中野洋平氏

キャンペーンは、ほぼ自社サイトでのみ宣伝されており、時刻表にも一切掲載されていない。それでも、毎シーズン数百人規模の利用があり、年々増加しているという。

「最初は関西圏からのご利用をイメージしていましたが、実際には首都圏の方のご利用が多いです。東京〜大垣間の夜行快速”ムーンライトながら”でもギリギリ間に合いますが、実際には岡山や尾道で一泊される方が多いようですね」(中野氏)。

利用者の年代は20代、40代、60代が多く、30代、50代はやや少ない。大学生など、比較的休みが自由に取れる20代、仕事や立場が落ち着き休みも取れる40代、退職して時間ができた60代に好まれるということ のようだ。

多彩な使われ方がされる18きっぷ

男女比は、若干男性が多め。カップルや夫婦での利用も多い。韓国好きの女性が、鉄道好きの恋人や夫を誘って利用するというケースもあるそうだ。「アンケートによって、お客様のご利用の仕方を調査しているのですが、最近はリピーターの方が増えて、青春18きっぷの利用の仕方も多彩になっています。例えば、サンライズ出雲で出雲市まで来て、しばらく観光したあと、青春18きっぷを使って山陰本線を下関まで来るとか」。

ほかにも、広島まで夜行バスで来て、広島・山口のJR線に乗ってから来るケース、大分や熊本に飛行機で入り、青春18きっぷで九州を旅してから下関に来るケースなど、様々な使われ方をしている。中には、北海道から青春18きっぷ5回分を使い切って下関まで来た人もいたという。18時頃までに下関駅に着けば、あとは寝る場所も食事も心配ない。往復、つまり2泊で9000円なので、宿代わりに使う人もいるだろう。

左:「はまゆう」の桟敷席。日本式のコンセントが取り合いになること以外は快適だ。大浴場も無料で利用できる。右:差額を支払えば、一等船室も利用できる。二人で利用すれば、1人当たり片道8000円(通常1万2500円)

青春18きっぷ愛好家が生んだ、「青春18きっぷ旅大応援キャンペーン」。視点を変えると、日韓航路が抱える問題が生んだ商品とも言える。ここ数年、日韓航路は韓国人利用者が全体の8割を占める状況が続く。国土交通省九州運輸局の2016年度上半期統計によれば、関釜航路は韓国人乗客6万5075人に対し、日本人乗客は1万2057人。日本人の利用が多い博~釜山間の高速船「ビートル」も、6割以上を韓国人が占めている。

焼肉やチゲを食べるのを目的にしても良い

釜山港から釜山駅までは徒歩10分。電車でわずか40分ほどで、こんなのどかな景色が待っている(京釜線院洞駅)

訪韓日本人旅行者は回復基調にあるが、まだまだ絶対数は少ない。訪韓日本人旅行者の比率をいかに上げるかが日韓航路共通の課題だが、ただ「安くて近い韓国」をアピールしても、最近はなかなか難しい。そこで、年間約70万枚を売り上げ、抜群の知名度を誇る青春18きっぷを“勝手に応援”するキャンペーンの登場となる。国内の旅に、ちょっとプラスするだけで海外に足を伸ばせ、昔の青函連絡船のように宿代わりとしても使える。極端な話、焼肉やチゲだけ食べて帰ってきても良い。なかなか、目の付けどころがうまいと商品と言えそうだ。

「青春18きっぷは、とても自由なきっぷです。必ずしも、大阪や東京から普通列車を乗り継いで来る必要はありません。日本の鉄道ファンの方にも、ちょっと足を伸ばしていただいて、韓国の電車や高速鉄道に乗ってみていただきたいですね。なかなか韓国の鉄道も良いものですよ」。この冬は、乗り鉄の旅に海外旅行をプラスしてみてはいかが。