「松原好秀」の記事

松原好秀

海外勢上陸ラッシュで地位向上? 日本のハンバーガー業界に起こった歴史的な出来事

海外勢上陸ラッシュで地位向上? 日本のハンバーガー業界に起こった歴史的な出来事

2018.12.10

ターゲットを明確にしたカールスジュニアの出店戦略

グルメバーガーの地位向上を如実に示すブラザースの快挙

もはや「安物」ではない……ハンバーガーにパラダイムシフト

数年前、日本に相次いで上陸した外資系ハンバーガーレストラン。各店の“その後”を追跡中の“ハンバーガー探求家“松原好秀さんは、「カールスジュニア」(Carl's Jr.)の日本展開に「ローカライズ」の妙味を見出したそうだ。黒船バーガーが続々と来航したことで活気づいた本邦ハンバーガー業界では、日本勢による“歴史的な出来事”も起こったという。以下、松原さんからの報告だ。

あえて一等地を外した? カールスジュニアの独特な出店術

「シェイクシャック」(Shake Shack)と「ウマミバーガー」(UMAMI BURGER)の動向は前回の記事でお伝えしたとおりだが、今回は独特の奇妙な店舗展開を見せている米国カリフォルニア発のハンバーガーレストラン「カールスジュニア」に注目したい。

世界に194店のシェイクシャック、20店余のウマミバーガーとは桁違いの3,700店を展開する大手バーガーチェーン、それがカールスジュニアだ。日本上陸は2016年3月。その一風変わった出店場所が毎度話題を呼んでいる。

カールスジュニアは東京・秋葉原を日本上陸の地に選んだ。次いで神奈川県の「ららぽーと湘南平塚」に2号店、東京・自由が丘に3号店を続けてオープン。銀座、青山、六本木など、都内でも一等地の、ブランド力の高いエリアに1店目を出すのが海外企業の定石だが、カールスジュニアはそんな決まりごとなどお構いなしに、独自の打ち出し方をしてくる。まさに「我が道をゆく」ハンバーガーチェーンだ。

2016年3月4日にオープンしたカールスジュニア秋葉原店。中央通りに面した路面店で、AKB劇場まで徒歩1分。周囲にはフィギュアを売る店やメイドカフェなども多い

一見すると奇妙な1号店だが、しかし、近年の秋葉原はオタク文化の聖地にして、外国人観光客がこぞって訪ねる世界的な観光スポットでもある。銀座や青山などとはまた別種の情報・文化の発信地だ。そんな世界の“Akiba”への出店は狙い通りの成果を上げた。以降も「秋葉原は男性客」「平塚はファミリー」「自由が丘は女性客」と、それぞれ異なる層へ訴えかけて、いずれも確かな手ごたえをつかんでいる。「各店のターゲットは狙ったとおりになっている」とカールスジュニアジャパンのスーパーバイザー森一樹さんは自信をのぞかせる。

地域のイベントにも積極的に参加。オープン初年にはAKBグループのメンバー2名がカールスジュニアの「ブランド大使」に就任してPR活動をおこなった

そしてこの秋、カールスジュニアは立て続けに2店舗をオープンした。注目は神奈川県の横須賀市に出した4号店だ。都内に十分な店舗数がない中で、なぜまた神奈川なのか? そして横須賀だったのか?

横須賀店が日本攻略の海岸堡に?

横須賀は海上自衛隊と米海軍、2つの基地がある軍港の街である。米軍基地がある関係から「出店して欲しい」というリクエストは以前から多く、ゆえに「ずっと物件をチェックしていた」と森さん。2018年10月にオープンした横須賀中央店は「三笠ゲート」という米軍横須賀基地の通用口から徒歩3分の場所にある。オープン当初の客の実に9割以上が米国人だったそうだ。

看板メニュー「スーパースター」(税込み940円)。自慢の直火焼き100gパティを2枚重ねたダブルチーズバーガーだ

そして、横須賀市はここ10年、「ヨコスカネイビーバーガー」という観光事業に市を挙げて取り組んでいる。同事業は2008年11月、当時の在日米海軍司令官から横須賀市長へ、両者の「友好の象徴」としてハンバーガーの「レシピ」が贈呈されたことに始まる。以後10年、市内の飲食店、地元行政、米海軍が協力し合って活動を続け、今では首都圏において一定の知名度を得るブランドにまで成長した。カールスジュニアが出店したのは、そんな「ハンバーガーの街」なのである。ネイビーバーガーとカールスジュニアがどんな化学反応を引き起こすのか。今後が楽しみな出店だ。

ウマミバーガーやシェイクシャックと違い、カールスジュニアには日本限定の独自メニューは存在しないが、代わりに、店づくりに関する「ローカルな工夫」がさまざまに見られる。例えば、湘南平塚店は大型商業施設に入る店舗のため、施設側から「キッズスペースの確保」と「動線を大きくとって欲しい」という要望があり、それに対応している。

今度の横須賀中央店はドルでの支払いに対応している。しかし、いざフタを開けてみると、米国人客は現金よりも「クレジットカード」で支払うケースがほとんど。だから、レジには常に決済機が出してある状況だ。また、カウンター席には、さまざまな形状のソケットに対応可能なコンセントを設置している。

ドルが使える店は米海軍横須賀基地の周辺エリアに90店以上ある
カウンター席のコンセントは、さまざまな形状のソケットに対応している

横須賀店が日本展開のモデルケースに

さらに、この横須賀中央店そのものが、今後の国内展開を見越して「ローカライズ」された造りになっている点にも注目したい。

これまでの3店はどこも店舗面積40坪以上で、自由が丘店に至っては120席を誇る「大箱」だったが、今度の横須賀中央店は面積30坪、席数45席のコンパクトな造りだ。厨房機器も数を整理し、これまで米国製ばかりだった機器の調達を国内製に切り替えた。「この店舗のカタチを丸々そのまま増やしていける」という「ローカライズ」を、横須賀出店を機に実現した格好だ。

「さいか屋 横須賀店」となりにオープンしたカールスジュニア横須賀中央店。米軍基地のそばとあって、昼どきは米兵で大にぎわいだ

11月30日にはお台場に5号店がオープン。こちらは「ダイバーシティ東京 プラザ」内の800席からなる巨大フードコートの一角を占める店舗だ。ところ変われば客層も店構えも変わる。似たような店舗を重ねず、各店それぞれに異なる目標やターゲットを持たせた出店をカールスジュニアは心がけているように思われる。名より実をとった展開だ。

「ブラザーズ」がハンバーガー業界に起こした革命

最後に、米国からの上陸組ではなく、国内のハンバーガー専門店がこの秋に起こした、日本のハンバーガー史上における「大事件」について触れておこう。

日本橋人形町の「ブラザーズ」(BROZERS')のことを知っている人も多いだろう。まだ都内にハンバーガー専門店が数えるほどしかなかった2000年、グルメバーガーの草創期にオープンした店である。人形町にレストランとデリバリー店の計2店、銀座の新富町に1店、江東区の東雲に1店と、これまで計4店を展開。また、ハンバーガーの優秀な人材を多数輩出していることでも知られ、ブラザーズでの就業経験をいかして独立したハンバーガー店の例が全国に20以上もある。カールスジュニアジャパンの森さんも実はブラザーズの出身だ。

そんなブラザーズがさる9月25日、5店目となる店舗を「日本橋高島屋 S.C.」新館7階のレストラン街にオープンした。これはすごい事件だ。日本を代表する百貨店のレストランフロアに「ハンバーガー」の専門店が入ったのである。それも大企業の経営でなく、個人経営からスタートした町場の小さな店が、ついに一流百貨店に店を構えるまでになったのだ。

2018年9月25日、日本橋高島屋S.C.グランドオープンに合わせて、S.C.新館7階にブラザーズ日本橋店がオープンした
店内は人形町本店と同じ、高貴でビビッドな「赤」で統一。本店と同じ全35品のバーガーメニューが本店と同じ値段で食べられる

「人形町今半」「すきやばし次郎」「レ・カーヴ・ド・タイユヴァン」「帝国ホテル」など、そうそうたる店が名を連ねる中に「ハンバーガー」が並んでいることの意味。ついこの間まで1個100円の「おやつ」程度にしか思われていなかった「ハンバーガー」が、高級料理と肩を並べるに至ったこの事態は、まさに時代の変わり目、ものの価値観と既成概念が大きく変わった歴史的な瞬間である。

「高島屋」出店でハンバーガーは別次元に

高島屋ブラザーズの入り口にあるショーケースをのぞいてみると、「チーズバーガー」が1,300円(税抜き)、看板メニューの「ロットバーガー」は1,850円(同)とある。これは人形町の本店と全く同じ値段で、高島屋だからと言って特別高くしているワケではないのだが、いずれにせよ、こうした専門店のハンバーガーを一度も食べたことがない人からすると、ビックリするような値段に違いない。そこで、「高島屋」という名前が効いてくる……高島屋が選んだ店のハンバーガーなのだ、これぐらいの値段がするのはむしろ当たり前のことなのだ、と。

ショーケースにはブラザーズのハンバーガーを忠実に再現した食品サンプルが並ぶ

「高島屋」という名前が持つ信用と信頼が、その値付けの正しさを保証してくれる。1個千数百円するハンバーガーの存在を肯定してくれる。後押ししてくれる。そういうステージに、ハンバーガーとブラザーズはついに上がったのである。

フード、ドリンクを通じて唯一の日本橋店限定メニューである「バーガーサイド」(税抜き750円)はジンベースのオリジナルカクテルだ

今まで「高い」と思われていたものが、そう思われなくなる瞬間。今まで「安物」と思われていたものが、そうばかりではないと認識された瞬間。2018年の9月25日に起きたのは、そういう歴史的な出来事だった。これを機に、日本におけるハンバーガーの存在と位置は、今後ますます幅のあるものとなり、そして真の意味で、普段の生活や食事の中に浸み込んでいくだろう。日本のハンバーガーが、ブームから定着へと確実に向かっていることを示す出来事だと思う。

ハンバーガー探求家が追跡! 相次いで上陸した黒船バーガーの“その後”

ハンバーガー探求家が追跡! 相次いで上陸した黒船バーガーの“その後”

2018.12.05

一気に増えた外資系ハンバーガー、その後の展開は?

ウマミバーガーは最も「化けそうな」お店に

シェイクシャックは日本攻略の最終兵器を獲得!?

シェイクシャック(Shake Shack)、カールスジュニア(Carl's Jr.)、ウマミバーガー(UMAMI BURGER)……。ここ数年、日本では外資系ハンバーガーレストランの出店が相次いでいるが、気になるのは各店の“その後”だ。日本唯一の“ハンバーガー探求家”である松原好秀さんから追跡レポートが届いたので、2回に分けてお伝えしたい。まずはウマミバーガーとシェイクシャックだ。

シェイクシャックのランディ・ガルッティCEOにも話を聞いた

「うま味」で日本凱旋のウマミバーガーは2店舗に

この秋、ウマミバーガーが動いた――。

ウマミバーガーはロサンゼルス生まれのハンバーガーレストランである。第5の味覚(The Fifth Taste)といわれる「うま味」に着目したバーガー店で、創業者である米国人が独自に開発した「UMAMI ダスト」「UMAMI マスターソース」なる調味料を使ったハンバーガーを提供している。2018年11月現在、全米に20店を展開する。

ウマミバーガーの日本1号店がある東京・青山の「Portofino」

日本上陸は2017年の3月。場所は東京・青山。表参道の交差点からやや入ったところにある。一見するとわかりづらい、奥まった場所のようだが、しかし、ミニサイズのバーガーがセットになった「スライダートリオ」や、クッキーや綿菓子で派手に飾った「ファンシーミルクシェイク」など、インスタ映えするメニューを次々と繰り出し、20代の若い女性などを中心に大きな人気を呼んでいる。

そしてこの秋、初上陸から1年半の時を経て、ついにウマミバーガーが国内2号店の出店を決めた。場所は都内ではなく、横浜だ。なぜ、このような立地となったのか。ウマミバーガージャパンの海保達洋社長に出店に対する考え方を聞いた。

まず、「店舗のイメージにマッチするような場所・物件」というのが、ウマミバーガー出店の第一条件だ。店舗のデザインは米国側と一緒に考える。そして、考えたイメージに合う場所や建物を探す。「1号店は人が多く集まる場所、話題になる場所を選んだ」と海保社長。次なる2号店は「海に面したところに出したい」との希望が米国側にあったため、東京湾のベイサイドをさまざま当たり、横浜のみなとみらいに絞り込んだという。

今年9月22日にオープンしたウマミバーガーのみなとみらい店(横浜)
みなとみらい店の前には中庭が広がり、昼休みにはランチを楽しむOLやサラリーマンの姿が多く見られる。この広い空間も出店の決め手になった

ウマミバーガーの日本2号店は「みなとみらいセンタービル」の1階にある。この建物は21階建てのオフィスビルで、本来ならコーヒーショップでも入っていそうな1階エントランスホールの一角に、ウマミバーガーが収まっているのが今どきな感じだ。平日は上階のオフィスに勤めるサラリーマン、週末は観光客、さらに近所に建ち並ぶ高層マンションの住民たちも利用する。キラキラまばゆい非日常空間を演出した青山店と比べ、もっと日常的で実用的・実際的な店構えだ。

「うま味」の本場で独自の取り組みも

日本のウマミバーガーを語る上でもうひとつ欠かせないのが、日本独自のメニュー開発だ。

日本限定メニュー「UMAMINOKO」(1,580円、以下すべて税抜価格)。店で毎朝挽いているUSアンガスビーフ85gパティが2枚。上からゴルゴンゾーラチーズとキノコのソテーがこぼれんばかり

ウマミバーガーには現在、日本限定のバーガーメニューが5品、さらに、みなとみらい店限定のバーガーが1品ある。これは、同時期に日本に上陸したシェイクシャック、カールスジュニア、THE COUNTERなどでは見られない取り組みだ。ウマミバーガーはどこよりも自由に、かつ盛んに独自メニューの開発を行っている。テリヤキソースを使った「テリヤキサムライ」のように、本国でも販売された「逆輸入」的なバーガーメニューまである。

みなとみらい店限定メニュー「THE DIP」(ザ・ディップ、1,580円)。USアンガスビーフ85gパティ2枚とマッシュルーム、オニオンなどを挟んだバーガーを、グリーンペッパーコーンディップに「浸けて」食べる一品

これらのメニューの生みの親は、ウマミバーガージャパンのシェフである吉田ナワーフさん。日本人とクウェート人のハーフである吉田さんは、その独自の感性・感覚をいかした新商品の開発に意欲的だ。

日本人が提唱した「うま味」に影響を受け、米国で誕生したハンバーガーレストランが、「うま味」の本場・日本に里帰りし、何十倍にもパワーアップしてまた米国へと帰ってゆく――。そういう展開も今後、十分に考えられる。日本で最も「化けそうな」バーガー店、それがウマミバーガーだ。

今後については、あくまで「店のイメージにマッチする場所」という条件ありきで動くと海保社長。それでも来年には、さらに何店舗かの出店の動きが見られそうだ。「いい場所があれば首都圏以外にも出していきたい」と、地方への展開にも前向きである。

こども用の食器セットは、みなとみらい店オープンにあわせて初登場した

シェイクシャックは大阪進出! 出店ペースは悠々せまらず?

ウマミバーガー2号店がオープンする1年前、同じ横浜・みなとみらいに国内5号店を出したハンバーガーレストランがある。ニューヨークから来たシェイクシャックだ。

2015年11月13日にオープンしたシェイクシャック1号店。神宮外苑いちょう並木の中ほど、建設中の新国立競技場の近くにある

2018年6月に国内10号店を大阪・梅田に出して話題になったシェイクシャックだが、記念すべき日本1号店がオープンしたのは2015年11月のこと。場所は東京・青山の神宮外苑いちょう並木。次いで恵比寿、有楽町の東京国際フォーラム、新宿サザンテラスと、都内の主要スポットをきっちり押さえた後、5号店では初めて都内を離れ、神奈川県横浜市に勢力を拡げた。

この出店について、国内のシェイクシャックを運営するサザビーリーグの角田良太社長は、「上陸当初は首都圏での店舗展開を考えていたが、その中で横浜は、東京に次いでマーケットの感度が高く、ポテンシャルがあって、優先順位の高い場所であり、絶対に外せないと考えていた」と語る。「海外からの観光客が多く訪れ、シェイクシャックの世界観を表現できる広い敷地を確保できる」ことも決め手のひとつだった。

2017年9月オープンのみなとみらい店。買い物客や観光客が非常に多い好立地に、店内110席、テラス48席の大きな店を開いた

シェイクシャックはその後、同じ神奈川県の湘南・辻堂に9号店を出した。「テラスモール湘南」という複合商業施設内の店だが、ここへの出店も「シェイクシャックの世界観を十分に表現できる”広い敷地”」という条件がやはりキーワードになっている。

日本上陸3周年で新たな「コアメニュー」

そしてこの秋、シェイクシャックは日本上陸3周年を迎えた。

1周年にはミシュラン1つ星の日本料理店と、2周年には神田の人気ラーメン店とそれぞれコラボレーションし、1日限定・個数限定のスペシャルバーガーを外苑いちょう並木店のみで販売したが、3周年は国内10店全店で新グランドメニュー「Chick'n Shack」(チキンシャック)を一斉発売した。

11月16日、国内10店のシェイクシャックで同時発売された「チキンシャック」(760円)。オーダーが入ってから衣をつけて揚げるフライドチキンにハーブマヨソースを合わせる

「チキンシャック」はフライドチキンを挟んだサンドイッチで、世界に194店あるシェイクシェイクのどこへ行っても食べられる「コアメニュー」だ。一方、出店する地域性に合わせた「ローカルメニュー」については、バーガーでなく、同店名物のオリジナルアイス「コンクリート」がその役を一手に担っている。「コンクリート」とは、卵黄を多めに加えて作ったフレッシュアイスクリーム「フローズンカスタード」を使ったデザートのことで、トッピングの違いにより、各店それぞれに限定のコンクリートが存在する。

みなとみらい店限定のコンクリートのひとつ「レッドビーンパンケーキ」(Small490円)は、横浜元町の和菓子店「香炉庵」の黒糖どら焼きをトッピングしている

ありそうでなかった定番商品がついに登場!

シェイクシャックのこれまでの地域限定メニュー・店舗限定メニューの傾向は、大きくは以上のようであった。そこへこの秋、新たなローカルメニューが加わったのである。「ホットコーヒー」と「ホットラテ」が登場したのだ!

実は、どちらも今までのメニューにはなかった。そもそも、これといったホットドリンク自体がシェイクシャックにはなく、冬場にテラス席を利用する客たちは、北風に吹かれてずいぶんと寒い思いをしたものである。ハンバーガーと一緒に温かい飲み物が飲みたい……。ところが、そう思うのは、どうも日本人特有の欲求らしく、東京より寒いはずのニューヨークのシェイクシャックですら、ホットコーヒーをはじめとするホットドリンク類は一切メニューにない。米国にはハンバーガーをホットコーヒーと一緒に食べる習慣がないのだ。

10月1日発売の「ホットコーヒー」(380円)と「ホットラテ」(480円)は、実は待望のメニューだった

そういう意味で、今度のホットコーヒーは地域性に合わせたメニューの最たるものといえる。この3年、多くの日本人がシェイクシャックに待ち望んだメニューの第1位は、実はこのホットコーヒーだったのである。

新たなコアメニューとローカルメニューが同時に加わり、ますます充実のシェイクシャック。3年ぶりに来日したCEOのランディ・ガルッティ氏に「日本におけるライバルは?」と尋ねたところ、ラーメン、そば、うどん、トンカツなどの具体的な食べ物の名前を挙げた上で、「『今日はハンバーガーが食べたいな』と思った時に選ばれる店でありたい」との答えが返ってきた。飲食店の数がただでさえ多く、慢性的な過当競争状態にある東京の外食市場をよく理解した言葉である。

ハンバーガーの敵はハンバーガーに非ず。常に他の食べ物と昼食・夕食の機会を争っている。ホットコーヒーの導入も、その競争を勝ち抜くための手段といえるだろう。日本のシェイクシャックは実にいいキーアイテムを手に入れた。

シェイクシャックが大阪上陸! 本格化するハンバーガー“夏の陣”

シェイクシャックが大阪上陸! 本格化するハンバーガー“夏の陣”

2018.06.06

「Shake Shack」(シェイクシャック)が日本で10カ所目となる新たな店舗をオープンした。場所は大阪・梅田。“黒船来航”にも例えられた日本進出で成功を収めたシェイクシャックが、満を持して関西に上陸する構図だが、それは何を意味するのか。

シェイクシャックの大阪上陸は何を意味するのか

国内10店目のシェイクシャックは大阪

6月1日のオープンに先立つこと1週間前の5月25日、「Shake Shack 梅田阪神店」の内覧会が開かれた。席数136席の広い店内には大阪・関西の報道関係者が集まったが、筆者が予想したほどには“ごった返す”感じではなかった。大阪のメディアは、まだ事の重大さに気づいていないようだ。

関西初のシェイクシャック。場所は第一期棟の建て替えが竣工したばかりの阪神百貨店梅田本店1階

シェイクシャックは米国・ニューヨーク発祥のハンバーガーレストランである。マディソンスクエアパークに慈善活動で出したホットドッグのカート(屋台)が評判を呼んで、創業者のダニー・マイヤー氏が2004年に常設店をオープンした。今では世界13カ国に176店を展開する。

日本のシェイクシャックは大阪の梅田阪神店で10店目。海外店舗数トップである中東・アラブ首長国連邦の11店まであと1店、2位のサウジアラビアと並ぶ10店の店を持つ日本は、世界でも「シェイクシャックが多い国」ということになる。

梅田阪神店のデザインコンセプトは「Through the Window」。御堂筋に向いた大きな窓の外にはテラス席が44席。「HEP FIVE」の赤い観覧車も見える

日本上陸は大成功? 運営会社社長の見解は

2015年11月の日本上陸以来、2年と7カ月で10店と、着実に店舗数を伸ばしてきたシェイクシャック。今や日本のハンバーガーシーンを力強く牽引している感さえある。これはもう、十分な「成功」と言えるのではないか――。

国内のシェイクシャックを運営するサザビーリーグの角田良太社長に聞いてみると、「まだ成功だとは言い切れない」とあくまで慎重な構えだ。「本当に成功だったかどうかは、あと2、3年してわかること。いま望むのは、日常生活の中で月に1度でも『やっぱり食べたいね』と思っていただけること。そして、その中できちんと店が回っていること」と、段階を踏んだ確かな成功を目指す。

5月25日に開催されたプレス向け内覧会で挨拶する角田社長

シェイクシャックが日本に上陸した2015年は、個人経営を主とするハンバーガーの「専門店」が、地道な努力の時期を経て、人気と実力をようやく確かなものとしていった、そんなタイミングと重なる。専門店が根づかせ、コツコツと築き上げていった「食事として十分に成立するような本格的なハンバーガー」の土台の上に、ちょうど折よくシェイクシャックが乗ってきた恰好だ。

シェイクシャックの「シュルームバーガー」(960円、以下すべて税抜価格)はポートベローマッシュルームとチーズ3種をコロッケのように揚げたものがビーフパティの代わりに挟まった「ベジバーガー」。これがベジタリアン向けとは思えぬおいしさで、筆者もおすすめの1品!

結果として、シェイクシャックは2年半で9店を順調にオープンさせ、都内・首都圏のハンバーガー市場はそれを"追い風"に、いよいよ活気づいた。さて、今度の大阪ではどんな化学反応を引き起こすのか。

迎え撃つ大阪の各店の反応は

大阪・関西の状況を見ると、増えては減ってを繰り返す、なかなか定着しない時期が続いたのちに、2016年辺りから2店目、3店目をオープンする個人店の動きが目立ちだした。今は東京同様、ちょっとした「開店ラッシュ」が続いている。そこへやって来た"黒船"シェイクシャック――。関西の専門店各店の反応は以下の通りだ。

シェイクシャック名物のオリジナルアイス「コンクリート」は全部で3品。写真は黒ごまピューレをトッピングした大阪限定のコンクリート「セサミオシャカ」(Small:490円)

「楽しみに待ってました」と語る北垣勝彦さんは、関西バーガー店の草分けのひとつ、兵庫・西宮「エスケール」(2003年創業)の中心メンバーだった人物だ。「東京に上陸しても関西まで来ない海外の店が多い中、2年半という早さで来たことに勢いを感じます」と高評価だ。

大阪・高槻の本店をはじめ、2店のバーガー店と2台の移動販売車を展開する「ティーズ・スターダイナー」の寺川裕之さんは「嬉しいですよ、東京行かんでいいから」と開口一番。「こうした1個1,000円近くするハンバーガーを新たに知ってもらえる機会ができて、ありがたいです。業界が盛り上がると思います」と歓迎ムードだ。

ポテトは波型にカットした「クリンクルカットフライ」(Small:300円、写真は内覧会用のミニサイズ)。オリジナルビール「シャックマイスターエール」のアテにぴったり

値段にシビアな土地柄

心斎橋、本町、梅田に「リッチガーデン」3店を構える安藤啓示さんは、「怖さもあるが、楽しみと3:7ぐらい。いい影響を及ぼしてくれそう」とした上で、「値付けが絶妙だと思う。1個1,000円を超えるハンバーガーが半ば当たり前なところへ、その"下をくぐる"感じで出してきている」とその価格設定を評価した。

人気店「バーガリオン」をはじめ、バーガー店3店のオーナー西村周平さんは「やっと来てくれた」と喜ぶ一方で、「正直、東京ほど盛り上がるのかな? 大阪で伸びる要素があるのかな?」と不安も覗かせる。「『いきなりステーキ』が大阪ではそれほど売れていない。それぐらい値段にシビアな土地柄」というのがその理由だ。

大阪限定Tシャツをはじめ、オリジナルグッズも販売している

商品と価格、そして大阪特有の気風・土地柄について、サザビーリーグの角田社長は「大阪の方々は前向きで元気。シェイクシャックもまさに、そんな元気な店なので、私は相性はいいと思っています」と店舗同様に前向きだ。「まずは体験していただいて、ジャッジしていただけたら。それでも十分に楽しんでいただけると思っております」と、「体験」という言葉を使ってアピールした。

ファストフードとグルメバーガーのあいだ

そうはいっても気になるお値段。シェイクシャックのハンバーガーは全部で5品ある。看板メニューの「シャックバーガー」(710円)はチーズバーガーがその正体だ。最低額のバーガーは、バンズにパティを挟んだだけの「ハンバーガー」(610円)。これにはトマト、レタスなどの野菜とソースが無料でトッピングできる。

看板メニューの「シャックバーガー」はチーズバーガー。パティはホルモン剤を一切使わず飼育された豪州産アンガスビーフ100%。バンズは生地にジャガイモを練り込んだポテトバンズを使っている

これを他店の商品と比較してみると、例えばマクドナルドで近い内容の「グラン クラブハウス」は490円。バーガーキングの「ワッパーチーズ」は570円。クアアイナの「チーズバーガー」(1/3LB=肉の量が約150g)は927円。大阪では梅田と万博公園に2店を展開するJ.S. バーガーズカフェの「チェダーチーズバーガー」はレギュラーで1,110円。西村さんの店バーガリオンの「チーズバーガー」は1,000円……そして、「シャックバーガー」は710円だ。

「リッチガーデン」の安藤さんがいうところの、1個1,000円超えの「下をくぐる」価格帯というのがこのこと。ファストフードといわゆる「グルメバーガー」の間、それがシェイクシャックの立ち位置だ。

大阪名物「岩おこし」を乗せた梅田阪神店限定のコンクリート「ツウテンシャック」(Small:490円)。コンクリートとは、"卵黄多め"で"空気の含有量が少ない"「フローズンカスタード」と呼ばれるフレッシュアイスを使ったスイーツのこと。通常のアイスクリームよりもしっとりとクリーミーに仕上がる

ハンバーガーを測る新たな物差し

他にも、創業のきっかけになったホットドッグやシェイク、名物のオリジナルアイス「コンクリート」、さらにオリジナルブランドのワインやドラフトビール「シャックマイスターエール」などもあって、シェイクシャックのメニューは目移りしてやまない。それこそ角田社長のいう「まずは体験して」というところだが、ここで筆者の体験に基づくアドバイスをひとつ……。

珍しさから、ついついアレもコレもと一気に注文しがちだが、あまりいっぺんに頼むと案外な高値になるので、欲張らず、何度も足を運んで、少しずつ試して行くのが長く楽しむコツに思う。

「店舗数ありきでなく、場所にこだわりを持ちたい」と話す角田社長。今後は「できればこの2、3年のうちにプラス10店、合計20店」を目標に挙げる

大阪のハンバーガーシーンに大きな影響をもたらす可能性を秘めたシェイクシャック。その噂を聞いて、大阪の人たちがシェイクシャックのハンバーガーを次々と口にしていったなら、従来、ファストフード店を基準に測っていたハンバーガーという食べ物の「物差し」が、徐々にシェイクシャックへと移っていく可能性があると、筆者は見ている。つまり、シェイクシャックは日本のハンバーガーの「新たな物差し」になりうる存在なのだ。

「まだまだブランドをご存知ない方もたくさんいらっしゃる」と角田社長は話すが、それはハンバーガーという食べ物そのものについてもいえること。これを機に、ファストフードからグルメバーガーの専門店、高級ホテルやレストランのものまで幅広く「体験」して、ハンバーガーについてよく知るきっかけになればと願っている。