「杉浦里多」の記事

杉浦里多

急成長企業だからこそ?! 楽天が抱える女性活躍の課題とは

急成長企業だからこそ?! 楽天が抱える女性活躍の課題とは

2016.11.04

「女性活躍推進法」が施行され、ますます女性が活躍する社会が期待されている。しかし企業によってその進捗度合いはまちまち。主役となる女性も現場で様々な悩みを抱えている。そこで本連載は、自身も子育てをしながら企業に勤めた経験を持ち、現在は「女性のリーダーシップ」育成研修など、企業の女性活躍推進のサポートを行う杉浦里多が、企業が乗り越えてきた課題と、そこで働き続ける女性社員の生の声を通じてビジネスの現場で起こり得る課題を提示、解決のヒントを提示する。今回で連載は3回目となる。

第一回「P&Gの経営戦略に女性活躍が必要だった理由」
第二回「創業135年のOKIが短期間で女性活躍に舵を切れた理由」

1997年創業の楽天は、ECモールを中心としたベンチャー企業から、金融やスポーツの分野までそのすそ野を広げる大企業へ変貌した。企業の急激な成長とともに、社員のグローバル化、多様化が進む中、女性管理職の登用にはまだ課題が残る。活躍の機会は公平なのになぜ……? 急成長企業だからこその課題に迫る。

楽天本社

職場復帰後の女性に「活躍」を支援

楽天は、「男女関係なく、能力のある人がキャリアアップする」という考え方のもと、活躍の機会は男女公平に与えられている。女性活躍に関しても、「『長く休みスローダウンするよりも、活躍して欲しい』という意図から、敢えて法定以上の制度は取り入れない(育児休暇は1歳まで。時短勤務は3歳まで)」と明確なポリシーを持つ。

育児休暇や時短勤務の期間を延ばす、正反対の施策を充実させる企業も多いが、長く休みすぎるとかえって復職しづらくなるという“復職の壁”を考えると、女性の「活躍」という観点では至極、理に適った方針だ。同社の復職率は97%と数字もそれを物語る。

【楽天のダイバーシティの歩み】

(グローバル化によるダイバーシティ)
2010年、社内公用語英語化への移行開始

(女性活躍取り組み強化)
2014年、社員のボランティアによるワーキングマザーのコミュニティが発足
2015年、人事部内に専任組織「ダイバーシティ推進課」を設置
女性活躍推進法で2019年までに女性幹部社員比率を22%にすると設定(現在18%)
・意識醸成:ダイバーシティに関する社内情報サイト開設、セミナー実施
・成長支援:上司とともに、キャリアやアクションプランのセッションの実施
・早期復職戦力化:託児所、搾乳室(マザーズルーム)、休職前・復職前セミナー実施

三木谷浩史氏が創業した楽天は、わずか20年で売上収益7000億円超えの企業に成長。「楽天経済圏」と名付けたビジネスモデルは、今やオンラインだけ、日本だけにとどまらず、リアルへもグローバルにも突き進む。2010年、社内の公用語を英語にするとの宣言が記憶にある人も多いだろう。その時代を読むスピード感をもって、社員の多国籍化(60か国以上)など、積極的にダイバーシティに取り組む様子がみえる。女性活躍については、社内に託児所を設置したり、制度の拡充などで両立支援を講じたりしている。しかし、数字で見える現実は、新入社員の男女割合が半数なのに対し管理職以上の女性の割合が18%であり、課題もある。

楽天が女性活躍推進に本格的に取り組み始めたのは2015年。人事部内に専任組織「ダイバーシティ推進課」を設置、2019年までに女性の管理職以上の割合を22%にすることを掲げた。理想は、「女性が性別やライフステージにかかわらず、自分の能力を生かしたキャリア形成ができている状態」だという。

公平なキャリアのチャンスがあるとはいえ、女性は出産などといったライフイベントがあり、配慮すべきことが多い。これまでは、必要性を感じた社員が声を上げ、経営者層が動くというボトムアップにより、託児所や搾乳室の設置など、女性の活躍のサポートが実現されてきた。その成果もありワーキングマザーの人数も急激に増加しているため、会社が経営戦略として、体系的に女性活躍を進める時期に来たと考えているのだ。

「今までは、社員が声をあげるボトムアップで物事が進んできた。大企業となった今、これまでの多様化から次のステージに来ている」(ダイバーシティ推進課担当者)と、会社の組織規模の変化による文化変容の視点でもその必要性を示唆する。

そこで求められるのが、楽天の考える“女性活躍”を体現する「ロールモデルの存在」だ。

林亜紀子さん

ママ管理職としてのロールモデルの存在

ロールモデルとして、期待されている社員の一人にECカンパニーサービス管理部の林亜紀子さんがいる。現在、7歳と3歳の男の子を育てながら、企画グループのマネージャーとして、楽天市場のバックオフィス業務オペレーション改善のマネジメント業務に携わっている。

新卒で2003年に入社。ECコンサルタントという店舗をサポートする、いわゆる営業職に就いた。まだ楽天がベンチャー色の濃かった時代、就職先としての選択に、周囲からは「もっと安定したところに行ってほしい」と反対する声もあった。しかし、WEBデザイナーなどインターネットに関わる仕事に就きたいという思いから、楽天を選んだ。職種採用ではなかったため、望んだ職種とは違う営業へ配属されたが、「苦手なことを早く経験しておいた方が成長できるかもしれない」と受けいれた。

林さんのキャリアの転機は、3回ある。

1回目は入社して3年目、一緒にワインジャンルの出店者サポートの部署の立ち上げからやってきた上司が異動となったとき。それまでは、指示通り100%返すことを心掛けていたが、全てを自分で考えてやらなければいけない、過酷なチャレンジを経験した。「最初の4年間で10年分くらいの濃い時代を過ごした」と自身で振り返る日々は、彼女をタフにした。そんな彼女は、ワイン・アルコール事業部を軌道に乗せるという本来マネージャー職(係長級)で担うレベルの業務を任され、結果を出していたことから、同期の中でも出世は早く、入社4年でマネージャーに昇進した。

2回目は、その後結婚、出産を経て、1年後に復職した際、営業企画のリーダーとしてチーム作りに携わったとき。営業という最前線の現場から、今までとは勝手が違う未知の分野で、中長期ビジョンの設定、仕組みづくり、委託先の教育など、全く違う職種をにおけるチャレンジを経験した。しかも育児休暇復帰後という不安を抱えながら。「今までと同じ働き方はできないな」と思い時短勤務を選択したため、自身としては管理職ではなく一般社員として働く覚悟で復職したが、結果的に復職後3ヶ月でリーダーとして新たなチームの立ち上げを任され、順調に組織も拡大していき結果的に復職前よりも規模の大きいチームのマネジメントを経験することになった。

楽天では、時短勤務でも、管理職につけ、一定の格付け以上は給与の減額はない。著者が驚いたこの制度は、“公平な機会提供”として楽天が進める、裁量労働制、評価制度で、時間で働くのではなく、能力・成果主義という考えからだ。ゆえに、時短で働くことが昇進の足かせになることもなく、林さんは、2014年に第2子を出産、復職をしたのち、2015年に、時短のままマネージャー職へ復帰した。

3回目は、昨年マネージャーに復帰したとき。職位があがり、マネジメントするグループや範囲が広がった、新たな管理職としてのチャレンジだ。これまでのゼロから作りだすプロジェクトやチーム管理の経験とは違い、すでに出来上がっているチームをリードすることにプレッシャーを感じていっぱいいっぱいになったこともあった。しかも、2人の育児を1人で行うという、プライベート側の危機もあった(昇進と同時に、夫は海外赴任)。時短で育児と両立を図りながらマネージャー職を担うというチャレンジは、途方もなく大きく感じたのだ。しかし今となっては、そんな困難な転機も「チームと一緒に自身も成長できた」と、好意的に振り返る。

「時短という働き方においては、管理職の方が実はできることが多いと感じる。ビジョンの設定といった中長期的に物事を考えたり進めたりすることが多いから」と管理職になったメリットも大いに感じている。

育児がタスクとして増えた時、どうしたか

そんな何でも卒なくこなすように見える林さんも、第1子出産後の復帰1年目はペースがつかめず、苦労したという。「なぜか遠慮してしまった」と夫に家事や育児の手伝いを頼むことができず、すべてを1人で抱え込んだことを明かした。ついにはストレスが爆発し、夫にエクセルで全てのタスクと頻度と時間をまとめて見せ、現状を訴えたという。

「かなり引いていました」という夫は特別、非協力的な人物というわけではなく、「言わないと気づかない、やらない」そういうものなのだとその時気づいたのだという。その後は、夫と家事や育児を分業し、会社の福利厚生で使える家事手伝いサービスや病児保育支援なども活用しながら、時短勤務の管理職との両立を図る。

考える前にやってみる、経験が自信になる

現在の自分については、「1人目でいっぱいいっぱいだった時よりも、各段に仕事のスピードが上がり、幅が広がっている」と成長を感じている。「不安もあったけれど、考える前にやってみたら、なんとかなるもの。慣れというか、それまでの経験が学びとなって身につき、やり方やスキルも向上している。だから、子どもが2人になりタスク量は増えても、アウトプットが上がり、成長している。」

これまでのキャリアと子育てを振り返ると、「自分の能力が求められるなら、その期待に応えたい。きっとそこには意味がある」「子育て中は、制約条件はあるが、その中でできることを精一杯する、最大限する」気持ちで、果敢に新しいことを受け入れてきた。その結果が、“成長”として自身に還ってきていると思う。そんな林さん。同じ働く女性として「考える前に、不安に思う前に、やってみよう」と女性にエールを送った。

社員の声から改革が進む社風

入社間もなくから活躍している林さんのように、同社は社員一人一人が戦力となることを期待し、その機会を公平に与えることを大事にしている。

林さんも自身が活躍できた背景を、実例から制度ができる柔軟な会社の対応にあったと感じている。実例からとは、現場の声から制度ができるということ。楽天は、復職前後のセミナーや、託児所、搾乳室の設置など様々な両立支援が行われているが、それらすべては、社員たちが自発的に始めたり、上層部に声をあげたことで実現してきた。

これを可能にしているのは、社員が声をあげやすい、社員の声を吸い上げやすい機会(朝礼やメールによる相談窓口、ヒアリングの場など)を会社側が意識的につくり、それをスピーディに実現してきた実績だ。会社が応えてくれたという信頼が、また社員が声をあげやすくする。こういった働きかけが好循環を生んできたのだろう。

社員の声から実現。楽天の女性活躍がボトムアップで進められてきた背景には、同社の公平性、オープン、実現のスピードという社風があるといっていいだろう。

「もっと活躍」のために

ベンチャーから大会社へと、会社も人も大きく変貌してきた楽天。会社の成長と並走するように歩んできた林さんも「会社っぽい会社になった」と話す今、ベンチャー時代の自走する社員とは違い、“大会社”が引きつける人材は様変わりしている。楽天の抱える多様化の課題は、国籍や性別などの違いというよりも、人の性質や文化の違いにある。 これからの成長を加速させるために、「ボトムアップ」を大切にしつつ、会社としてのメッセージの発信も強化していく。トップのコミットメントを高くし、経営戦略の1つなのだと社員に伝えていきながら、女性活躍のためのソフト面ハード面のサポートを体系立ててやっていかなければいけない。

新たなチャレンジをスタートさせたばかりであるが、スピーディにベンチャーから大企業に大成した同社であるから、「女性活躍の目標達成も実現していける」とダイバーシティ推進課担当者は自信をのぞかせた。

【楽天の女性活躍のポイント】

1:早期戦力化のサポート
2:ロールモデル提示による意識醸成
3:会社のメッセージ発信と体系化

杉浦里多(すぎうらりた)
人材育成の研修などを行う株式会社DELICE(デリィス)代表取締役社長。P&Gジャパンでのマーケティング・広報渉外部での経験をベースに、マーケティングや経営戦略の教鞭をとる傍ら、最近は特に女性のリーダーシップについての研修、講演に力をいれる。著書に「1年で成果を出すP&G式10の習慣」、「がんばりが評価される女性の仕事術」などがある。杉浦里多ブログ会社HP

創業135年のOKIが短期間で女性活躍に舵を切れた理由

創業135年のOKIが短期間で女性活躍に舵を切れた理由

2016.10.24

「女性活躍推進法」が施行され、ますます女性が活躍する社会が期待されている。しかし企業によってその進捗度合いはまちまち。主役となる女性も現場で様々な悩みを抱えている。そこで本連載は、自身も子育てをしながら企あ業に勤めた経験を持ち、現在は「女性のリーダーシップ」育成研修など、企業の女性活躍推進のサポートを行う杉浦里多が、企業が乗り越えてきた課題と、そこで働き続ける女性社員の生の声を通じてビジネスの現場で起こり得る課題を提示、解決のヒントを提示する。今回が2回目となる。

・第一回「P&Gの経営戦略に女性活躍が必要だった理由はこちら

著者が相談を受ける企業の中には、社会の流れに乗って「ダイバーシティ室」は作ったが、上層部が本気で考えておらず丸投げされている、と嘆く担当者も少なくない。そんな中、沖電気工業はトップダウンで力強く改革を進めている企業の1つだ。

「働き続けやすい」と「活躍しやすい」は別

日本の大企業は手厚く、働き続けやすい。だから、中にいる社員は男女問わず、「特に問題がないのではないか、今までのままで良いのではないか」、と思ってしまいがちで、なかなか意識改革が進まない・・・と頭を抱える企業も多い。

135年の歴史を誇る沖電気工業(以下、OKI)は、日本で最初に電話機を作った通信機器のメーカーだ。模範的な大企業らしく、早くから両立支援制度を充実させてきた(時短勤務、産休育休、在宅勤務、子育てや介護のための目的別休暇など)。平均勤続年数は男性が20.5年、女性が20.4年とほぼ同じ。育児休暇取得率は100%、育児休暇復帰率98%という驚異的な数字になっている。

【【OKIの女性活躍の歩み】

(女性活躍取り組みスタート)2013年10月
人事部内に専任組織「ダイバーシティ 推進チーム」を設置

(トップダウンからの発信)2014年
社長による女性活躍推進宣言
部門ごとに幹部への説明会、女性向けキャリアセミナーの実施

(幹部の意識統一のための改革)2015年
全幹部社員向け「ダイバーシティ・マネジメントセミナー」の実施
女性活躍推進法で2020年までに女性幹部社員比率を現在の2倍(2%から4%)に設定

「男性も女性も、働きやすいと言い、業績も悪くはない。なぜ変わる必要があるのか。」 OKIが女性活躍推進に本格的に取り組み始めたのは、2013年10月。中期経営計画の人材強化策に「女性活躍推進」を掲げ、人事部内に専任組織「ダイバーシティ推進チーム」を設置した。

「早くから両立支援制度の充実など『働き続けやすいしくみ』は整えてきましたが、幹部社員まで昇進する女性は少なかった。『活躍できるしくみ』が充分ではなかったということです。」(ダイバーシティ推進チームの川井茂子さん)。

社会環境の変化に対応し、持続的に発展し続けていくためには、多様な人材がそれぞれの能力を最大限発揮することが不可欠と考えてはいたものの、現在の同社は、正社員の女性比率は9.8%、女性幹部社員比率2.4%にとどまっている。

OKIは、2020年までに女性幹部社員比率を4%へ倍増する目標を掲げる。今まさに「活躍」に舵を切ったところだ。

菅野恵美子さん

数少ない女性幹部社員はどのようにして誕生したか

そんな中“女性幹部社員”として活躍するのが、金融ソリューション事業部営業店ソリューション開発部で、担当部長を務める菅野恵美子さんだ。3人の子どもの母でもある彼女は「菅野ママ」の愛称で社内でも取引先でも親しまれている。

87年に入社し、文系出身だがSEとして働いてきた菅野さん。男女雇用機会均等法第一世代である彼女が同社を選んだ理由は、以前から女性社員の採用歴があり、産育休などの制度の整備や活用の実績がある同社は、女性にとって働きやすい職場ではないかと魅力的に映ったからだ。実際、これまで女性だから働きづらい、と感じたことは全くなく、「気持ちよく働き続けてきた」と語る。

子育ての経験がキャリアにも。「我慢強くなった点で生きているのかも」と笑う。「部下に対してキツイ言い方をしてしまう、我慢の足りない人だったので」。

現在、100人体制のシステム開発プロジェクトを率いる彼女のマネジメント手法は、一人一人を見つめて、特性を見て、任せる。「見つめて(見守って)」という表現に、彼女のママの目を感じる。

「一人で出来ることは限界がある」「皆で支え合っていくもの」とチーム力を大切にする。

「子供も言うことは聞かない、別の生き物だから。始めは全部自分でやろうとして辛い思いもしたけれど、自分を責めるより、上手くやるには?と考え方を変えた。」と子育てとマネジメントを重ねる。

30代で結婚、2児を出産し半年ほどの育児休暇をとった。職場復帰後も育児を両立するため、時短勤務を希望し、職務も主に後方支援を担当する役割に変更した。

出世意欲があるタイプではなく、目の前にある仕事をきちんと自分の力を活かして会社に貢献できればいい、という考えだったので、裏方の仕事も「質のいい仕事をして、私に聞いてくれれば大丈夫という風になりたい」と前向きに取り組んだ。

手を挙げることの大切さ

彼女のキャリアの転機は、2人目の育児復帰から1年後。変化のきっかけは、目の前に現れた新しいプロジェクトだった。その内容を知った際「私がやりたい」と思い立候補した。 すごく魅力的で「やりたい」と、初めて自分の中に起こった“仕事への欲”に突き動かされたのだという。

「正直、残業ができない状況や、能力的にも『任せて大丈夫か』とみられたとも思う。しかし、仕事はみんなで支えあって進めていくものだとの考えを自分自身で持っていたし、上司も『できないことは助けてやろう』という気概をもって任せてくれたのだと思う」。“言いやすい雰囲気”と“やりたいことをやらせる”社風が、彼女のキャリアをかえるきっかけを作った。

幹部に抜擢! もっと仕事が面白くなる。

自身が中心になって仕事を回す、という前線に戻ると、「やはりこの働き方楽しい。」と仕事の中身に欲が出た菅野さん。1年ほどして第3子を妊娠・出産したが、「仕事が面白くて、自分がやりたくて」、今度は2カ月で復帰した。しばらくは時短勤務で後方支援業務をおこなったが、第3子が、2~3歳のころ、新しいシステム開発のプロジェクトに声をかけられ、プロジェクトマネージャーとして再度、前線に復帰した。

以降、課長、担当部長に昇格。「仕事の内容への欲はあったが、管理職への欲はなかった」という彼女だったが、昇進への打診があったとき、「取引先が金融機関だったので、密にやるには役職が大事そうだなと、少し昇進の欲が出始めたいいタイミングだった」と振り返る。管理職になったことで業務を俯瞰する視点が上がり、動かせる範囲や、変えていける事柄が増したことなどに、「仕事がもっと面白くなった」とも語る。

上層部が変われば、社員が変わる

菅野さんは、自身がキャリアで培ってきた知見とともに、母としての経験を「結婚・出産してもできるよ」と伝えていきたいと、後輩女性の育成にも意欲的だ。

著者は15年から女性のリーダーシップ研修を通じて、同社の女性活躍推進の取り組みに参加しているが、外部の視点から見ても「大きな変化」を感じる。当初は「上司に薦められて」と半ば強制的な意識や、「なぜ今さら活躍?」とキャリアの長い女性の反発、「私なんて・・」と自信のない女性にあふれていた。しかし今は研修に定員を大きく超える応募があり、開催回数を増やすなど急遽対応を迫られるほどだ。参加者の意識も「もっと活躍したい」「ロールモデルになりたい」と前向きに変化している。

(右)菅野さんの上司・宇田川則幸部長

短期間のうちに、これほど女性の意識が変わった理由は、改革を「トップの肝入り」で進めたコミットメントだと筆者は分析する。同社は時間や予算、人員を優先的にしっかりと割いて、女性活躍推進はやったほうがいいではなく、やらなければならないこと、という圧倒的なコミットメントの高さで取り組んだ。その一例として、上層部の理解を共通にし、推進のキーマンとしての自覚を促すことを狙った「ダイバーシティ・マネジメントセミナー」を幹部社員全員を対象に実施。「最後の1人まで追いかけて受けてもらっています」(ダイバーシティ推進チームの川井茂子さん)と徹底した。前述の菅野さんも「会社の本気度が通じた」と評価する。

「もっと活躍」のために上司ができること

「ダイバーシティ・マネジメントセミナー」に参加した菅野さんの上司・宇田川則幸部長は、セミナーでも伝えられた「コミュニケーションの重要性」を認識し、日ごろから実践している。

「菅野さんはすごく頼りになる方。女性だからとは意識していないが、3人のお子さんのお母さんでもあるので、家庭のことは考慮してあげないといけない。」と一人ひとりの個性や考え方、働き方を尊重する。そのために上司として環境作りに心を砕いているという。

そのために心がけているのは、一人ひとりの違いを自分の目で見ること。

例えば、言いたいことが言える人も言えない人もいる。課長クラスから上がってくる報告だけを参考にするのではなく、通りがかりのあいさつの延長、席に行って会話、ランチや飲み会など、かしこまらない形で直接コミュニケーションをとることを意識して行い、本音を引き出す。もちろん、長期的なキャリアデザインや、年間の成果へのフィードバックなど規定の評価制度も活用し、成果主義を基にしたその人にあった仕事の配置や配分を行っている。

特に、今課題である「活躍しやすさ」を進めるために、若い頃から敢えて部下をつけて、面倒をみる経験をさせるなどさせているという。またマネジメント研修にも積極的に参加する後押しをする。そうやって上に立つことの意識や興味の醸成が肝であると考えているのだ。

今年第1子が成人になる菅野さんは、「女性が働く際に目指すところはいろいろ。サポートする仕事に回っても、戻りたい、もっとやりたいと思ったら、そのように言うといい。」子供はずっと小さいわけではないから「自分の欲に忠実に。」とこれから活躍する後輩にエールを送る。

【OKIの女性活躍のポイント】

1:トップダウンの発信
2:「言いやすい雰囲気」「やりたいことをやらせる社風」醸成
3:幹部・女性に向けた意識改革

杉浦里多(すぎうらりた)
人材育成の研修などを行う株式会社DELICE(デリィス)代表取締役社長。P&Gジャパンでのマーケティング・広報渉外部での経験をベースに、マーケティングや経営戦略の教鞭をとる傍ら、最近は特に女性のリーダーシップについての研修、講演に力をいれる。著書に「1年で成果を出すP&G式10の習慣」、「がんばりが評価される女性の仕事術」などがある。杉浦里多ブログ会社HP

 P&Gの経営戦略に女性活躍が必要だった理由

P&Gの経営戦略に女性活躍が必要だった理由

2016.10.19

「女性活躍推進法」が施行され、ますます女性が活躍する社会が期待されている。しかし企業によってその進捗度合いはまちまち。主役となる女性も現場で様々な悩みを抱えている。そこで本連載は、自身も子育てをしながら企業に勤めた経験を持ち、現在は「女性のリーダーシップ」育成研修など、企業の女性活躍推進のコンサルタントを行う杉浦里多が、企業が乗り越えてきた課題と、そこで働き続ける女性社員の生の声を通じてビジネスの現場で起こり得る課題を提示、解決のヒントを提示する。

P&Gが展開する商品

「暮らし感じる、変えていく」というCMのキャッチフレーズでおなじみ、洗剤や、消臭剤などの生活雑貨、SK-IIといった化粧品ブランドのメーカーP&G。同社は、女性が活躍できる企業として取り上げられることが多く、女性の働きやすさには定評がある。事実現在では、管理職の32%を女性が占めている。まさに女性活躍のトップランナーであり、同社が歩んできた道中で乗り越えてきた課題や解決方法は、これからという企業にとって、大いに参考になるだろう。

女性活躍は経営戦略という発想

P&Gは世界約70カ国に拠点を持つアメリカの企業だ。日本法人は本社を兵庫に構え、国内だけでも、19の国籍の社員が働いている。多様な文化、宗教等の背景を持つ人々が1つの組織で、共通する目標に向かって意識をあわせる、それは容易なことではない。互いを理解し、尊重していく。それをどうやって実現するか。多国籍企業にとって避けて通れないテーマだろう。だから同社にとって、多種多様な個性を尊重し、能力を100%生かすダイバーシティ&インクルージョンは当然の流れだった。

また、洗剤や消臭剤といった日常生活に密接に関わる商品を取り扱う同社。老若男女の多様性にとんだニーズを多角的に理解し、新しい発想の商品が生むために、ダイバーシティの推進は企業の成長につながる重要な戦略と考えているのだ。そしてそれは結果にも現れている。日本国内でダイバーシティの推進を掲げて来年で25年。スタートから売上高は約2倍、持続的な成長を続けている。なにより、生活様式の変化などに合わせて、誰でも知っているヒット商品を世に多く出し続けていることこそが、ダイバーシティ推進結果といっていいのではないだろうか。

そんな同社が、1990年代に日本においてダイバーシティを推進するにあたり、最も大きな課題だったのが、「女性」だった。

【P&Gのダイバーシティの歩み】

(1:女性活躍推進) 1992年~97年
社員主導で女性同士の情報交換ができる「ウーマンズネットワーク」を各部門で発足

(2:ダイバーシティ)98年~07年
00年、在宅勤務を育児、介護などの事情を抱えた社員対象に開始

(3:ダイバーシティ&インクルージョン)08年~現在
ビジネスへどうやって生かすかという戦略的視点からダイバーシティを進化
管理職向けインクルージョン・スキルトレーニングの強化

92年からスタートしたダイバーシティ推進の取組みだが、第1フェーズは、女性の活躍に焦点を当てた。女性管理職比率が少し増えてきた時期ということもあり、社内では、女性社員の自発的なはたらきかけにより、女性同士が気軽に情報交換ができるようにすることを目的とした「ウーマンズネットワーク」が発足。

99年からの第2フェーズには、人事部にダイバーシティ担当を設置。女性の働きやすさだけでなく、全社員を対象とした広義のダイバーシティ推進へ移行。性別を超えた個々の多様性を理解するための社内向け教育をスタートさせた。さらに00年には、在宅勤務を開始。

第3フェーズと位置づける08年からは、ダイバーシティをより”活かす“ことに注力。組織の中の多様な背景を持つ一人ひとりを深く理解し、互いを受け入れ、活かしあう「インクルージョン・スキル」の強化に努めた。

そして今年、同社は、今まで進めてきた「ダイバーシティ」推進の知見を無償で社会に提供する活動をスタートさせた。

女性営業職の職場復帰

今回話を聞いたのは、一般的に女性活躍推進が難しいといわれている営業職の堀小真由美さん(41)。妻として、3児の母親としての役割を果たしながら、仕事では、10人のチームのサブリーダーという顔を持つ。入社以来、営業一筋の女性だ。P&Gにおいて彼女のような営業職は、基本的に直行直帰。会社へは、会議の際などに来る以外は、家と取引先を往復するようなスタイルの日々の業務を行っている。

堀小真由美さん

「人と話をしたり、会ったりするのが好きなので、営業職になりたいと思った」と笑顔を見せる堀小さんは、仕事や昇進に貪欲に外資営業として突っ走ってきたというイメージとは真逆の、柔和な笑顔が素敵な女性だ。P&Gを選んだ理由は、働いている女性の生き生きした姿を見て、「こんな風に働きたい、自分自身が成長できる会社なのでは」と思ったからだという。

そんな憧れを持って入社した堀小さんだが、初めは子どもを産んでも仕事を続けていくとは考えていなかった。「入社当時は子供が生まれたら仕事は辞めるのだろうなと、当たり前のように考えていました」。幼い頃、母親がパートに出ており、寂しく感じたこともあったので、子どもには同じような思いをさせたくないと考えていた堀小さん。そんな考えを変えたのは、3つの「姿」があったからだという。

1つは、育児をしながら仕事を継続する女性の先輩社員の姿。「出産後、育児と仕事を両立させる自信はなかったのですが、前例があったので、まずは育児休業を取って、復帰してみようと考えました」。

2つ目は、周りのママ友の姿。「辞めるのはすぐにやめられるが、続ける環境は多くないということを、他のお母さんと話していく中で実感していました。中には、仕事を続けたくても続けられない職場環境の友人もいたので」。

そして、3つ目は企業の姿勢。「会社は『ぜひ戻ってきて』と、言ってくれているし、サポートする体制があったので、不安はありましたが、やってみようと思いました」

周囲が彼女に見せた姿、そして彼女自身の「やってみよう」という前向きさがなかったら、彼女は今ここにいなかった。

育休復帰率90%以上

育休取得率が高くても復帰率の低さに課題を抱える日本企業は多い。現在育休復帰率90%以上というP&Gは、ここをどうやって乗り越えたのか。

P&Gでダイバーシティ推進を担当する小川琴音さんはその理由について、「一番の理由は、復帰してからの仕事が不透明である」と分析。P&Gでは、産休に入る前と、育休中に、復帰後に希望する働き方を話し合う機会を設けている。さらには復帰した女性がキャリアを継続しやすいように柔軟な働き方ができる制度を充実させている。

ただ、それだけでは利用が進まないため、利用しやすい風土作りが大事だという。「新しい制度を導入しても、根付くまでが大変」(小川さん)とP&Gは「制度を生かす」ことに注力してきた。制度を作ったら、経営陣や管理職がまず使ってみせて、ロールモデルを示す。それを社内で話したり、社内報で取り上げたりして使いやすい空気を作り出すというのだ。

さらに部下と直属の上司との話し合いの中では、上司から「どんな働き方をしたいのか」を確認し、それを実現するために必要な制度を紹介しているのだという。さらに、こういった話し合いのためには、管理職が多様な部下を活かすためのインクルージョン・スキルが重要であるため、管理職対象(社長や執行役員を含む)の研修を定期的に行っている。

出産からの仕事復帰は生き方を考えなおす好機

「自分の中の理想の子育てとは違っていました。もっと、ちゃんと子育てしたいし、もっともっと仕事もちゃんとしたいと思っていました」と話す堀小さん。1人目の出産では約1年の育休後に復帰した。その時に彼女を救ったのは、先輩女性の言葉だったという。

「『両方100%を求めていると続かないので、時には80%で納得するようにしたら気持ちが楽になるよ』とのアドバイスを受け、気持ちが楽になりました」。

その後も、仕事の忙しい時期に夫に育児を任せきりになり、夫や、子どもに対して申し訳ない気持ちになったり、家族のための仕事なのに、家族を犠牲にしている罪悪感にも苛まれたこともあったが、第2子の入院を機に1~2週間仕事を休んだ経験から割り切れたという。

「自分がすべて完璧にしなければという思いが強かった。でも、いざという時は上司やチームメンバーがフルにサポートしてくれて、取引先も状況を理解し、サポートしてくださった。しつけとか教育にもっと時間をかけなくては、と考えることもあったが、子どもが元気ならそれでいいのではないかと思った」。

営業職における両立のポイント

営業分野で女性の活躍推進が難しいといわれる理由は、取引先の付き合いや商慣習など、自分たちだけではマネジメントできない要素が多いというのが大きな理由だ。

堀小さんは現在、上司をはじめとする職場のサポート、そして取引先の理解を得ることができているが、ここにP&Gのダイバーシティ推進の成果と、堀小さんの工夫がある。

堀小さんは新しい取引先の担当になったらまず、取引先に子供のいるワーキングママであることを伝えているという。なぜか。言い訳をするためではなく、堀小さん自身が誠意をもって仕事をすることを伝えるためと、いざという時に理解と協力を得るためだという。しかしそれによってクレームが起きたことは今まで一度もなく、むしろ担当を終えるときはいつも「堀小さんが担当で良かった」という言葉をもらうそうだ。子供を抱える母だから営業が難しいということはない、と断言する堀小さん。しかしその前提として「上司にしっかり自分の希望する働き方を伝えています。だから担当する取引先も会社が配慮してくれているのだろうと思います。」できることも、できないことも、正直に、誠実に伝えるのが彼女のスタイルだ。

頼りになる仲間づくりの重要性

保育園の迎えは夫と分担しているが、どうしても迎えに行けない時は、保育園のママ友など周囲のサポートに助けられた場面は多い。社内外のネットワークが、選択肢を拡げリスクを軽減する、「リスク管理」にもなると考えている。

どのようにネットワークを構築するのかを尋ねると、社内でのコミュニケーションについては、普段直行直帰のため、会社に行く機会があれば、積極的に声をかけたり、ランチに誘うなどしているという。特にワーキングママとは週末子連れランチをするなど「意識して」行動している。保育園のママにも同様に、「自分から誘って飲みに行ったり、お家に来てもらったりするうちに自然に仲良くなる」と、互いに助け合う関係性を築いた。

P&Gの評価制度

P&Gの評価制度は、個人が成果に責任をもつ「自律」が基本だ。昇進の機会は「女性だから」あるのではなく、公平に個人の達成度で測られ、部下を育成し引き上げる責任が上司にあるという文化だ。3人の子どもの出産、育休を経て仕事を継続している堀小さんにもそれはいえる。

2年前、難しいプロジェクトを任されたが、見事達成できたことや、これまでの業績が評価され、係長級に昇進した。係長級への昇進は、同期と比較すると最大10年遅れてのことだった。

「とても嬉しかったです。育児休業はマイナス評価にはならないものの、その分ブランクも長かったですし、このまま上がれないだろうなあとも考えていました。認めてもらえて嬉しかった」。成果を正当に評価する。それもP&Gがダイバーシティ&インクルージョンを実現できている大きな理由だ。

さまざまな課題を1つずつ乗り越えてきた堀小さん。働き方については、こんな信条をもっているという。「平日起きている時間の大半は仕事に費やしますよね、だから気持ちは家族優先と常に意識しています」。時間は仕事、思いは家族と自分に言い聞かせている。

子育てしながら仕事で実績を上げるために、ベビーシッター補助や、子どもの看護休暇、介護育児補助制度など会社の制度は積極的に利用している。「使えるサポートは積極的に活用し、頼る。周囲からもサポートを得ようと思うなら、積極的に日々コミュニケーションを」。と働く女性にエールを送った。

【P&Gの成功要因】

1:経営陣や管理職が制度を利用、ロールモデルになる
2:上司と女性社員が働き方について定期的に面談。制度利用についても話す
3:管理職向けインクルージョン・スキルの研修
段階的に開催し理解度を同じレベルに引き上げる

杉浦里多(すぎうらりた)
人材育成の研修などを行う株式会社DELICE(デリィス)代表取締役社長。P&Gジャパンでのマーケティング・広報渉外部での経験をベースに、マーケティングや経営戦略の教鞭をとる傍ら、最近は特に女性のリーダーシップについての研修、講演に力をいれる。著書に「1年で成果を出すP&G式10の習慣」、「がんばりが評価される女性の仕事術」などがある。杉浦里多ブログ会社HP