「杉浦志保」の記事

杉浦志保

杉浦志保(すぎうらしほ)

NewsInsight 編集・記者

うんこミュージアムで一躍話題に、「アソビル」は横浜の新名所となるか

うんこミュージアムで一躍話題に、「アソビル」は横浜の新名所となるか

2019.03.15

「うんこミュージアム」で話題になった横浜の新スポット「アソビル」

体験型コンテンツ、飲食店、クラフト教室など多種多様な内容を展開

目指すは年間200万人来場、コンテンツの試金石として運営

“うんこミュージアム”という強烈なインパクトを持つキーワードが一時SNSを騒がしたが、これは横浜駅東口に3月15日より開業する複合施設「アソビル」の一角にある期間限定コンテンツ「うんこミュージアム YOKOHAMA」のことだ。

内覧会でも一番の賑わいを見せていた「うんこミュージアム YOKOHAMA」

実はこのインパクト大な催し以外にも、「アソビル」では数多くの店舗・エンタメコンテンツに触れることができる。百貨店やショッピングモールが目立つ横浜駅東口エリアには、これまでなかったタイプの施設だ。その開業の狙いについて、施設内の様子を交えてお伝えしたい。

「アソビル」外観

「うんこ」だけではない、エンタメ複合施設

「(うんこミュージアムに関して)ここまでの反響があるとは予想外でした」

「アソビル」を運営するアカツキライブエンタテインメント(ALE) 代表取締役 CEO 香田哲朗氏は、SNSでの盛り上がりについてそう語った。強烈なインパクトの「うんこミュージアム」に注目が集まっているが、「アソビル」は複合型エンターテインメントビルを謳っており、さまざまなコンテンツを提供しているため、そちらも楽しんでほしいともコメントした。

古い歴史を持つ日本郵便別館ビルをリノベーションして作られた「アソビル」。B1F~屋上(5F)の6フロア構成だが、3月15日の開業段階では、以下の4フロアを中心とした営業となる。

■1F:横浜の有名店や都内の人気店が集結

1Fの名称は「横浜駅東口 POST STREET」、飲食店と常設アートのフロアだ。

1店舗ごとのスペースは小ぶりで、軒を連ねる屋台のようなレイアウト

出店ラインアップはシウマイで知られる「崎陽軒」のバル業態をはじめ、「横浜らーめん 壱六家」、「丿貫(へちかん)」といった人気ラーメン店、 「野毛焼きそばセンターまるき」、ピンチョス専門店「Spinx」など、横浜にゆかりを持つ店が集う。

蒸したての崎陽軒のシウマイ盛り合わせが食べられる
ひとつ150円~のピンチョスとワインなどをペアリングして楽しむ「Spinx」

一方で、横浜初出店となる都内の人気店も。麻布十番の人気ドーナツ店「DUMBO Doughnuts and Coffee(ダンボ ドーナツ&コーヒー)」や新宿はじめ都内中心に展開している「もうやんカレー」のほか、青山のチーズ専門店の別業態「DAIGOMI BURGER」など、合計18店舗がオープンする(※一部店舗は3月下旬~4月以降に開業)。

「DUMBO Doughnuts and Coffee」は、シドニー発の「テラボールシェイク」風にドリンクの上にドーナツを載せてInstagramに投稿されることでも知られる人気店。ドーナツは大きさに反して軽い食べ応え
チーズのシズル感が目をひく「DAIGOMI BURGER」

■2F:「うんこミュージアム」ほか体験型コンテンツを提供

2Fは「ALE-BOX」、映画館のシアターのような扉が複数立ち並ぶフロアで、各部屋で異なる体験型コンテンツを楽しむことができる。「うんこミュージアム」があるのもこの階だ。コンテンツは定期的に入れ替わる。

「ALE-BOX」フロアは体験型コンテンツの集合シアターのような趣
インスタ映えならぬ「うんスタジェニック」を狙う一角。このコンテンツは面白法人カヤックがALEと共同で企画。会期は7月15日まで

話題の「うんこミュージアム」、“ミュージアム”と銘打っているが、内覧した感触としては、スタッフのアテンドの仕方や設置内容などが、池袋のナンジャタウンなどの施設に近い雰囲気。「インスタ映え」するスポットも多く、グループや親子連れでの来館向きとなっていた。

オープン時は、SCRAPが提供する脱出ゲームや、キングコング・西野亮廣氏の絵本「えんとつ町のプペル」の世界を表現したVRコンテンツ、体験型ショートフィルム「THE STORY HOTEL」が展開される。

「リアル脱出ゲーム」を提供する「横浜ヒミツキチオブスクラップ」。オープン時には2つのコンテンツが展開される
「えんとつ町のプペル」VRコンテンツは、VRが得意な「奥行き」と「浮遊感」が活かされた構成。脅かす要素はないのでVR初心者でも安心して楽しめる

■3F:作家からレクチャーを受けハンドメイドを体験

3Fは「MONOTORY」、「ものづくりワークショップ」のためのハンドメイド体験フロアだ。

他のフロアと比べゆったりとしたレイアウトとなっており、多数の講師が一度にレクチャーを行える
アクセサリーや彫金加工、陶芸、レザークラフト、食品サンプルなどさまざまなジャンルの手仕事を体験できる

手仕事のレクチャーのほか、3DプリンタやUVプリンタ、レーザーカッターなどの機材も設置。20ジャンル、200種類以上の「ものづくりワークショップ」を展開予定となっている。

UVプリンタなどの機器も設置されており、ハンドクラフトのみならず、デジタルファブリケーションにも触れられる
内覧会当日は、好みの施設のマスコットキャラと枠を選び、名入れをしてUVプリンタでオリジナルキーホルダーを作るコーナーが展開されていた

■RF:元プロ選手に教わるスポーツ教室を実施

屋上は「マルチスポーツコート」として、フットサル・バスケットのコートを1面ずつとれる広さのコートを用意し、3月1日より運営をすでに開始している。この2競技に限らず野球から最新アクティビティなどの実施も予定する。

駅至近にありながらスポーツを楽しめる

このほか、B1Fにバーラウンジ「PITCH CLUB」(3月15日はプレオープン、グランドオープンは4月5日)、4Fに子供向け施設「Puchu!」(5月初旬オープン)がある。

バーラウンジ「PITCH CLUB」

東口のあらたな目的地となれるか

1つのビルにこれだけ多数の要素の「アソビ」を盛り込んだこの施設だが、横浜東口の開発想定エリア内に位置しており、期間限定の運営を前提として開業する。説明会では「最低3年は営業する」と明言されたが、再開発の動向を見て営業期間を判断するという。

駅出口からアプローチした場合アソビルそのものは見えないため、横浜中央郵便局を目印に、向かって右手にある「みなみ東口通路」を進むことになる

横浜駅東口エリアに隣接するみなとみらいエリアには、資生堂など大企業の本社機能が移転される。そういった意味でも今後、同エリアの人の流れは増加することが予想される。

同施設の各コンテンツに対する予約動向も明かされた。年齢は30代を中心に前後10歳がボリュームゾーンとなっており、男女比率はやや女性が多くなっていたという。予約者の住所は、7割の人が神奈川県、次いで都内が2割、そのほかは日本各地、海外の合計で1割となる。まずは地元民の心をどれだけつかめるかということになりそうだが、ALE香田社長はそのフェーズを越えて「今後はインバウンド含め、旅行の目的地としてより多くの人に来てほしい」と展望を語っていた。

こうした背景を受けてか、初年度の目標は「200万人来館」と大きな数字を掲げる。今後5年以内に日本では主要都市を中心に展開、海外展開も意欲的に行う。「アソビル」は館全体でもフロア単位でも横展開が可能であるとし、この施設での反応を見て、多店舗展開の内容を決めていくという。各コンテンツの反響を見る試金石としての役割を重要視しているようだ。

その一方で、横浜観光という視点でみれば、横浜駅東口エリアはショッピング目的の来訪であれば利便性に長けているものの、観光面での魅力は多いとは言えなかった。

また、同施設ほど近くに大きなレストランを運営している崎陽軒を例にとっても、価格帯が高めであったり、混雑するため予約なしに立ち寄るのは難しかったりと、横浜ならではの飲食店を気軽に利用するのは意外に難しい。そのため、アソビル内の多様な体験コンテンツや飲食店は、観光客にとっても見どころのあるものになっていると感じた。

「アソビル」は「うんこミュージアム」を起爆剤に横浜駅東口の新しいにぎわいを創出できるか、オープン以降の動きに注目していきたい。

東京メトロが「働く親のための託児所」をオープンした狙いとは

東京メトロが「働く親のための託児所」をオープンした狙いとは

2019.03.14

東京メトロが託児機能つきワーキングスペースを開設

働く親のための「会社でも家でもない」第3のスペースに

ニーズがあれば都心部での増設も検討

3月初旬、都心の交通を支える東京メトロ(企業名:東京地下鉄)が、沿線の駅近に一般利用向けのキッズルームを2箇所(東陽町・門前仲町)開設した。

施設名称は「room EXPLACE(ルームエクスプレイス)」。特徴は、ワーキングスペースを併設しており、親が子供のそばにいながらにして仕事に取り組めるところにある。

都市部における保育施設の不足は社会問題として顕在化しているが、そこに東京メトロが「託児機能つきコワーキングスペース」の運営で参入した理由はどこにあったのだろうか。発起人となった同社社員に開設経緯を聞いた。

「room EXPLACE」は現在2箇所運営されており、メディア向けの内覧会は東陽町の施設で行われた
プレゼンテーションは、施設内で一番大きな部屋であるキッズルームで行われた
キッズルームの運営は保育サービスを提供している「ジョイサポ」に委託。英語など教育プログラムも用意している

働く親の苦悩を解消するために

「roomEXPLACE」が生まれたきっかけは、出産を経験した同社社員の発案だったという。内覧会でプレゼンを行った東京メトロ 桶田麻衣子氏と、育児休業中のもうひとりの社員がこのプロジェクトを推し進めた。

東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業推進担当 課長補佐 桶田麻衣子氏

「『子供との時間を大事にしたい』と言うと、『仕事をしたくないのか』と言われる」。桶田氏はワーキングマザーの置かれた厳しい状況をそう吐露した。

育児と仕事は平日日中というおなじ時間的リソースを取り合う関係にあるためか対立軸で語られることが多い。そのため、育児の主たる担い手となっている女性社員への厳しい風当たりを生んでしまっている。

また、都心部での「保活」(子供を保育園に預けるための活動)は需給のバランスが崩れたなかで保育枠の争奪戦となっている。桶田氏自身、「保活の成否など復職にまつわる心配で、子供との時間を楽しみきれない」悩みを持っていたという。

仕事も育児も両立したい。そのために一時保育へ子供を連れて行くなどの状況も生まれるが、「自分の仕事の都合で申し訳ない」と思う親心がつきまとう。そこでたどりついた答えが、「『親の都合で申し訳ない』と考えないで済む場所づくり」だった。

会社でも家でもない、「育てながら働く場所」

コンセプトは「家・保育園・会社の『中間』にある育てながら働く場所」。

「roomEXPLACE」は、2つの施設それぞれで空間構成が異なるが、コワーキングスペースにキッズルームを併設している点は共通だ。キッズルームには専門スタッフが常駐する。土日祝も含め、8時~20時まで営業しており、当日でも空き状況によって利用可能なシステムで運営。ワーキングスペースの利用を前提として、キッズルームの利用を受け付ける。

ワークスペースの利用料金
月利用:2万円(税別)
時間利用:400円/30分(税別)

キッズルームの利用料金
時間利用:600円/30分(税別)

例)「時間利用:1時間」の合計料金:2000円
(ワーキングスペースの利用800円+キッズ
ルームの利用1200円)

※いずれも入会金は無料
※キッズルームのみの利用は不可
2019/3/31までワークスペース料金が無料となるキャンペーン実施
 詳細、および最新情報は施設Webサイトを参照のこと

決済は事前登録のクレジットカードで行うほか、鍵はスマートロックで、会員情報と結びついた交通系ICカードで開閉可能だ

事前予約に数十人の応募があったとのこと。利用形態は、今後ユーザーからの意見をうけて柔軟に改善していく方針だ。

まずは「ナンバーワン路線」に2施設を開所

同施設は東陽町と門前仲町の駅前にオープンした。いずれも東京メトロ東西線の沿線だが、東西線は首都圏の通勤ラッシュのなかでも混雑率はナンバーワンだ。

「抜本的な解決策ではないものの、この施設を活用したリモートワークによる時差通勤などで、わずかでも混雑解消に寄与していきたいです」(桶田氏)

設計は、鉄道関係の施設を中心にコンサルティングから建築設計まで総合的に対応する企業「リライト」が担当。物件の特徴からフォーマットを2パターン作成し、今後の増設もこのフォーマットを活用していく方針

物件の広さをベースに、異なるコンセプトの空間を2種類展開。門前仲町は親同士のオープンなネットワークづくりに重きを置き、子供の様子も見やすい開放的な空間構成だ。 

門前仲町の施設は、オープンな雰囲気で親同士のネットワーキングを生み出せるような設計

一方、内覧会で披露された東陽町の施設は、防音仕様のキッズルームにコワーキングスペースと個人ブースのワークスペースを併設した、仕事に集中するための空間となっている。 

一方、東陽町は仕事にフォーカスするための設計
「子育てしながら働くママへのインタビュー結果」(2017.4/2018.4)

想定ユーザーである働く親たちへのヒアリングでは、「職場外での就業を認めてもらったからには、集中して仕事をしたい」という声が多く、それを反映した設計となった。

当面はより多くの人に活用してもらうべく「個人利用のみ」で運営し、認知度向上を図る。

とはいえ、平日日中にこの施設を利用するには、勤め先がリモートワークに対応していないと難しい部分がある。そうした企業との提携については「拠点が増え、ネットワークが広がれば法人契約も検討」するという。

開所の裏には「沿線価値」向上への期待

働く親子には朗報、といったところだが、気になるのは東京メトロが事業として取り組んだ背景だ。東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部長 佐藤晃氏は、3年かけてこのプロジェクトを実行に移した理由について、保育環境の向上はもちろんのこと、「沿線価値」の向上にあると語った。

桶田氏のプレゼンテーションの中でも、同社の課題解決にこの施設で貢献したい旨が示されていた

「沿線の住民に路線と駅への親しみをもっと持っていただき、特に若い方に長く住んでいただけるような沿線にしていければ」(佐藤氏)保育所を使うような30~40代の路線ユーザーにとって有用な施設を運営することで、沿線一帯に愛着をもって長く定住してもらうという狙いが、この施設の実現を後押ししたといえる。

また、今後の開設の予定について尋ねると、「この2施設の稼働状況を踏まえながら、都心も含めた沿線地域への拡大を検討していきたいです。」と語った。

メトロならではのネットワークに期待

託児機能を持つコワーキングスペースは東京近郊に散見されるが、東京メトロが持つ通勤動態のデータや出店地域へのアドバンテージは見逃せない。都市部の通勤ラッシュ問題に直接かかわる企業だけに、こうした試みにより働き方改革の推進に取り組んでいることは、企業イメージの向上にもつながるだろう。

都心の一等地にリーチ可能な大手事業者の参入は、働く親に対する援助に一歩踏み込む可能性を感じさせる。とはいえ、このような施設の増加と両輪で、リモートワークに対応可能な企業が増えないことには、新たな働き方の普及は実現しない。

当面は一般利用で認知度の向上や沿線住民の利便を図るということだが、ゆくゆくは施設の増加、および企業との提携による利用促進に期待したい。

左から、リライト 代表取締役 籾山真人氏、東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部長 佐藤晃氏、東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業推進担当 課長補佐 桶田麻衣子氏、ジョイサポ 代表取締役 山田加代子氏
乳児用の「液体ミルク」国内販売へ 震災きっかけに開発

乳児用の「液体ミルク」国内販売へ 震災きっかけに開発

2019.03.11

赤ちゃん用「液体ミルク」の国内販売が解禁

先陣を切った江崎グリコ、開発のきっかけは熊本地震

使い勝手は良好、今後の課題は「価格」か

飲用水の確保が難しい災害時にも、赤ちゃんに与えられる「乳児用液体ミルク」(以下、液体ミルク)。育児にかかる労力の簡便化のいち選択肢としても注目されているが、その国産製品の発売が今日、3月11日から始まった。

3月11日より一般発売された江崎グリコ「アイクレオ 赤ちゃんミルク」

粉ミルクよりも簡単に与えられる新たな選択肢として、注目されている液体ミルク。発売同日に都内(ベビーザらス錦糸町店)で開催された「アイクレオ 赤ちゃんミルク(乳児用液体ミルク)」体験会で、ユーザーと開発者の生の声を聞いた。

被災地トラブルで注目された液体ミルク、一般発売へ

「液体ミルク」は、長年市場に流通している乳児用の「粉ミルク」と対比された言葉。2018年9月、北海道胆振東部地震の被災地に支援物資として送られた輸入品の液体ミルクに、「国内での使用例がない」として使用を自粛するような文書が添付されたと報道され議論を呼んだ。

このトラブルの背景にあったのは、液体ミルクの認知度の低さ。そもそも、ごく最近まで日本国内では液体ミルクの販売自体が認められておらず、輸入品を利用することもできなかった。2018年8月に厚生労働省が液体ミルクの国内販売を解禁する改正省令を施行したことで、複数の国内メーカーが開発に乗り出した。

発売に関して、先陣を切ったのが江崎グリコ。今夏発売予定だったところを前倒しする格好で、このたび「アイクレオ 赤ちゃんミルク」が発売された。

開発のきっかけは熊本地震

同製品の開発リーダーを務めた江崎グリコ 商品開発研究所 ベビー・育児グループの永富宏氏によれば、開発のきっかけは2016年4月の熊本地震だった。

被災時には母親の母乳が出なくなることもある、飲用水が確保しにくいなどの理由から、「災害でもっとも弱者となるのが赤ちゃん」だと強く認識。フィンランド産の液体ミルクが被災地で活用されたこともあり、「ミルクを扱う企業の一員として液体ミルクを国産で届けられないか」と開発を決意した。

開発には2年を費やし、製品は2018年段階で完成。厚生労働省の承認を受けた特別用途食品の表示を許可され、発売に至った。

江崎グリコ「乳児用液体ミルクに関する調査」(2018年10月)

昨年10月に同社が行った調査では、子育て中の親における液体ミルクの認知度は半数を割っていた。しかし、その存在を知った上で「使いたい」と回答した人は半数を超えたことから、開発の追い風となった

「常温で飲める」液体ミルク、粉ミルクとの違いは

液体ミルクの特徴

液体ミルクと粉ミルクでは対象年齢は変わらず、新生児から飲むことができる。一方、異なるのは飲むときの「温度」だ。

粉ミルクは人肌にさまして与えるよう指導されているが、これはユーザーが扱う工程で70度以上の湯による殺菌が必要となり、それを赤ちゃんが飲める温度まで冷ますめやすとして示されていたもの。そのため、無菌充填された液体ミルクは常温で飲ませることができる。

保存に関しても、常温・未開封で保存期間は半年となっており、緊急時向けの備蓄品としての利用も行える。また、「アイクレオ 赤ちゃんミルク」は濃縮タイプではないため、お湯などで薄める必要はない。成分としては粉ミルクタイプのアイクレオ製品と同等とのことだ。

使う際は、付属の移し替え用ストローで哺乳瓶に移し替え、赤ちゃんに与える。温度や濃度の調整がいらないため、調乳に不慣れな同居家族・親族でも育児に参加できるツールとして有用に思われた。

粉ミルクは熱湯を使うため一度赤ちゃんから手を離す必要があるが、膝に赤ちゃんを抱えたままでも、液体ミルクの準備はできる。与えたい時にすぐ用意できるメリットは大きい
「アイクレオ 赤ちゃんミルク」には、容器移し替え用のストローが付属。飲用向けではない短いもので、後端に液だれ防止のかえしがついている

飲みのこし問題の一方、「足りない」との声も

1日に頻回、昼夜問わず行う授乳。液体ミルクを導入することで、母乳を中心にした育児であれば母親の睡眠不足、粉ミルクであれば頻回作る手間が解消されるメリットがある。

液体ミルクの発売にあたり、冒頭の災害時対応に加え、こうした育児の負荷軽減に期待する声は大きい。その一方、いわゆる「コスパ」の面でいえば、既存の手段に比べやや分が悪い。

「アイクレオ 赤ちゃんミルク」の容量は125mlで、1本200円(税抜き)。同シリーズの粉ミルク「アイクレオ バランスミルク」スティックタイプは1本あたり100mlのミルクになるためほぼ同様の内容量となるが、スティックは1本あたり約50円前後。液体ミルクの値段はそれと比較すると約4倍だ。出産直後は1日10回近くは授乳することを考えると、粉ミルクを飲める状態にする手間と、4倍の価格のどちらをとるかという話になるだろう。

体験会に子供と参加した彌重江理さんは、「液体ミルクを授乳室に置いた自販機で販売する予定は?」など、江崎グリコ側に意欲的に問いを投げかけていた。だが、すでに使用している粉ミルクと比較して値段が高いことを挙げ、「使うのは緊急時やお出かけの時だけになると思います」とも語った。

体験会で使われたのは、殺菌済みの使い捨て哺乳瓶。液体ミルクそのものが割高な状況では、日常の授乳に毎度用いるのはあまり現実的ではなく、緊急時・外出時の利用が現状ではスタンダードなのかもしれない

解禁の報せを受け、SNSなどでは「もったいないからと飲み残しを再度与えることになりかねないのでは」と憂う声もあった。江崎グリコの製品説明では「飲み残しは廃棄」とされている。やはり抵抗力の低い新生児には雑菌感染のリスクがあるため非推奨という。

飲み残しと言っても、赤ちゃんが口をつけてない、パックに残ったものであれば、牛乳のように冷蔵庫に入れて…ということも考えられるかもしれないが、パックに残ったものについても再利用は非推奨となる。

「冷蔵庫の中にも菌は存在します。紙パックはキャップがないので、一度開栓したら残りも保存せず使い切るようお願いいたします」(江崎グリコ 永富氏)

一方、体験会に足を運んだ、いわゆる「首のすわった」赤ちゃんを育てている母親・父親からは、「125mlでは足りないかもしれない」「1パック200mlくらいあれば」という声もあった。

成長すれば飲む量も増えるため、個包装の量についてはメーカーも試行錯誤が必要と思われるが、永富氏からは「不足する場合は粉ミルクなどを追加であげるか、液体ミルクを2本開封してあげてください」という説明がなされていた。

今後、別の容器で販売する可能性は?

諸外国の液体ミルクには、ペット容器入りで飲み口を付けてそのまま与えられるタイプも多くあるが、今回発売された「アイクレオ 赤ちゃんミルク」は哺乳瓶への移し替えを前提とした紙パックタイプ。この形態になったのは、「世界的に一番実績があり、ゴミの処理がしやすい」(江崎グリコ 永富氏)ためという。

被災地等での利用にはニップル(吸い口)つきでそのまま使える容器がより便利と思われるが、先述の飲み残しを与えてしまうリスクから、その形態は見送ったということだ。今後、液体ミルクの認知度が国内で上昇し、当たり前になってからであれば、こうした容器の新製品が出てくるのかもしれない。

体験会の場に展示されていた売り場の設営イメージ。地方自治体の被災時向け物資としては、10パックがまとまった箱(棚上段左側)での納入がされているという

また、今回の小容量タイプだけでなく、諸外国にはもっと大きな容量でパッキングされた再栓可能な製品もあり、一定時間であれば蓋をして冷蔵保存、再利用ができるものもあるという。そうした形態の製品は今後拡充するかと尋ねたところ、「保育園や病院など、一度に大量に用いる施設でそういったニーズがあるのは把握しており、社内で検討している」(江崎グリコ 永富氏)とのことだった。

「完母」信仰の強い日本、液体ミルクは広がるか

近年、母乳のもつ赤ちゃんへの効能が注目され、一切市販のミルクを使用しない「完全母乳育児(通称:完母)」が推奨される風潮が加速している。しかしながら、体質や体調、就労状況など、さまざまな要因で母乳だけでの育児が難しい人もおり、そうした人に「完母」を強いるのは強いストレスとなることが問題視されている。つい最近、厚労省が母乳の効果を再検討し、アレルギー疾患予防効果は「なかった」と指針を更新。ミルクを選択する保護者を尊重すべきとの方針を示した。

液体ミルクに関して言えば、昼夜問わず行う授乳の手間を簡便化するメリットは非常に大きい。価格面と認知度の低さがネックになっているものの、後者の解決は徐々に進んで行きそうだ。価格面についても、ニーズが確立し、流通量が増えれば、値段が低下する可能性も見えてくるかもしれない。

個人差を尊重した多様な育児環境の醸成に、液体ミルクが一役買うのか。その動向を注視していきたい。