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御堀直嗣

初のSUV「ステルヴィオ」が日本に! アルファロメオ専売店が手に入れた強力な武器

初のSUV「ステルヴィオ」が日本に! アルファロメオ専売店が手に入れた強力な武器

2018.08.07

背の高い「ジュリア」ではない! アルファ初のSUVが登場

峠の名を冠するイタリア車は走りもだてじゃない

アルファ専売店に2つ目の強力な武器

アルファロメオのSUV「ステルヴィオ」がいよいよ日本に登場した。開発の基本になったのは、後輪駆動車として専用開発された「ジュリア」だ。「ステルヴィオの開発には、30歳代以下の若い技術者たちが情熱を傾けた」とは、来日したチーフエンジニアのアンドレア・ジザック氏が語った言葉。このクルマはアルファロメオにとって、同社初のSUVとして期待がかかるだけでなく、次代を担う重要車種という位置づけであることをうかがわせた。

アルファロメオ初のSUV「ステルヴィオ」(画像は全てFCAジャパンの提供)

アルファロメオはジュリア導入と同時に、日本市場でアルファロメオ専門の販売店を展開し始めていたが、ここにステルヴィオという新たな商品が追加となったことは大きい。これまではジュリア1台で食いつないできた専売店が、いま流行のSUVという強力な武器を獲得することになるからだ。

背の高い「ジュリア」ではない

ジュリアをベースにしているとはいえ、アルファロメオは背の高いSUVにふさわしい走行性能をステルヴィオで実現すべく、路面と床下の間に20cmのゆとりを持たせている。それにより重心が高くはなるが、左右タイヤ間の距離(トレッド)を若干広げるなど、安定性を高める調整も施してある。単にジュリアの車高を上げ、車体をハッチバックのSUV風にしたというだけではない本腰の入れ方が、基本設計からも感じられた。

後輪駆動のジュリアの特徴をいかし、4輪駆動のステルヴィオも通常は後輪を中心に駆動し、路面状況に応じて前輪側へ最大50%の駆動力配分を行う制御となっている。初期に導入するグレード「ファーストエディション」のエンジンは、排気量2.0Lの直列4気筒ガソリンターボ。最高出力は280馬力だ。これに8速オートマチック変速機を組み合わせる。

また前後の重量配分も、ジュリア同様に50:50を基本とする。試乗した「ファーストエディション」は、前輪側910kg、後輪側900kgの配分に仕上がっていた。

前後の重量配分は50:50に限りなく近い

アルファらしい独特な見た目

外観はアルファロメオ独特の縦に長いラジエーターグリルにより、メッキ類などの加飾をそれほど使っていないにもかかわらず、一目でその存在に気づかされる個性にあふれている。全体的に簡素ですっきりした印象がありながら、独自性を存分に発揮した姿に強い印象を受けた。この外観デザインだけでステルヴィオを選ぶ人がいてもおかしくない。

室内の造形も比較的簡素にまとまっているが、革や木目などの素材と色遣いに、同じ欧州でも他の国とは違うイタリアらしい柔らかさと優雅さが込もっていて、その空間にいる心地よさを覚えさせた。イタリア料理と同じように、カジュアルな親近感を持ちながらも、心地よさをもたらすデザインは非常に印象深い。

内装は優雅でもありカジュアルでもある

峠を走る楽しさを体現

試乗に出るためエンジンを始動する際に、まずは運転を楽しませようとするアルファロメオの遊び心を感じた。エンジン始動ボタンがハンドルのスポーク部に設けられているのだ。エンジンの始動は、クルマで出掛ける際の最初の操作であり、各自動車メーカーそれぞれに工夫を凝らす部分でもある。ハンドルの右側や左側に設けられていたり、シフトレバー近くのコンソールにあったり、逆にテスラの電気自動車(EV)ではスイッチそのものが無く、個人認証を済ませたクルマに乗り込み、ブレーキペダルを踏めばスイッチが自動的に入る仕掛けになっていたりする。

「ステルヴィオ」という車名はイタリアの「ステルヴィオ峠」に由来する。山岳路での運転を楽しませるハンドルにスイッチを配置したのは、アルファロメオのこだわりだろう。

エンジン始動ボタンはハンドルのスポークに。エンブレムの左下あたりだ

走り出して感じたのは、そのハンドル操作がかなり敏感であることだ。少しハンドルを回しただけで、クルマが素早く向きを変える。先に述べたように、ハンドルさばきで楽しませるステルヴィオの特徴をさっそく体感した。

その動きは、やや敏感すぎるとも感じたが、運転を続けるうちに慣れていった。前後重量配分を50:50とした車体の調和が、ハンドルの敏感さと適応し、人の感覚をなじませるのだろう。

排気量2.0Lのガソリンターボエンジンに通常の運転モードで乗っている際には、アクセルペダルの踏み込みに対し、やや遅れて反応する点が気になった。これをスポーツモードに切り替えると、素早い応答になる。だが、スポーツモードではエンジン回転を高めに維持する変速機のギア選択となるため、燃費の悪化が気になった。エコモードではない標準モードでのアクセルの応答性をもう少し改良してくれれば、運転がより楽しくなり、俊敏なハンドル操作とも一致してくるだろう。

スポーツモードだとアクセルペダルに対する応答性は向上するが、燃費は気になった

後席の快適性も印象深いものだった。きちんと着座できる座席のつくりで、着座姿勢も保ちやすい。競合他車のSUVでは、後席の快適性が犠牲になっている例もある。運転を楽しませるSUVとはいいながら、ステルヴィオには、前後の席に座った乗員全員が快適に移動できる心づかいがあることが嬉しい。

アルファロメオ専売店の強力な武器に

試乗を終えて感じたのは、SUVであるため視線が高くはなるものの、4ドアセダンのジュリアを運転しているときに通じる乗用車的な乗り味があることだった。全体的に落ち着きのある運転感覚が、安心をもたらしているのだろう。

今回の試乗は、日本での販売開始に合わせて導入となる400台限定のファーストエディションだった。内外装は特別装備となり、タイヤは標準仕様よりも大径で偏平な寸法となっていたが、タイヤに関しては標準寸法の方が、よりしなやかな乗り味をえられるのではないかと想像する。素性のよさに親近感を覚えるステルヴィオであったので、標準仕様の導入が楽しみである。

日本の輸入車市場はドイツ車一色の人気ぶりだが、SUV人気の後押しをえながら、デザインや運転感覚で雰囲気の異なるイタリア車が徐々に増えていくと、街を走るクルマの彩りもより華やかに変わっていくのではないだろうか。外観の車体色だけでなく、室内の色合いの豊かさも、ステルヴィオを選ぶ楽しみになってくるだろう。アルファロメオ専売店の商品力強化につながるSUVだと感じた。

歌舞伎との共通点は温故知新? 定番「Cクラス」に6,500カ所の改良を加えるメルセデス

歌舞伎との共通点は温故知新? 定番「Cクラス」に6,500カ所の改良を加えるメルセデス

2018.08.03

「Cクラス」のマイナーチェンジを新橋演舞場で発表

歌舞伎とベンツに共通する“温故知新”

6,500カ所を改良、注目すべきポイントは?

メルセデス・ベンツ日本(MBJ)は最量販車種「Cクラス」のマイナーチェンジに際し、新橋演舞場を使っての大々的な発表会を開催した。挨拶に立った上野金太郎社長によれば、この会場を使ったのは「自動車会社で初」とのこと。なぜ、このような大々的な発表会となったのだろうか。

MBJの上野社長

ベンツと歌舞伎の共通点は「伝統と革新」

発表会で、まず舞台を飾ったのは歌舞伎俳優・尾上右近さんによる歌舞伎舞踊「石橋」であった。舞い終わるとともに舞台が転換し、Cクラスが現れた。こうした演出のあとで、上野社長と尾上右近さんが語ったのは、「伝統と革新」という両者の共通性だった。

派手な衣装をまとった独特の踊りにルーツを持つといわれる歌舞伎は、その草創期から現代にいたるまで、伝統的な部分を継承しつつも常に新しい演出を採り入れ、発展してきた。新橋演舞場は、歌舞伎の斬新な面を象徴する「スーパー歌舞伎」を三代目市川猿之助さんが始めた舞台でもある。最新作「スーパー歌舞伎Ⅱワンピース」には、尾上右近さんも出演している。

歌舞伎舞踊「石橋」を披露した尾上右近さん

メルセデス・ベンツは、ドイツのカール・ベンツが1886年にガソリンエンジン自動車を発明したことにより始まった。その後、同じドイツのゴットリープ・ダイムラーの自動車メーカーと合併し、ダイムラー・ベンツ社が誕生する。ガソリンエンジン車そのものの歴史ともいえるメルセデス・ベンツの歩みだが、伝統を誇るだけでなく、技術革新にも意欲的な挑戦を続けているのが同社の特色でもある。「伝統と革新」は、歌舞伎と共通するキーワードとして納得できるものだった。

この新橋演舞場での発表会には、歌舞伎ファン、尾上右近ファンも招待されていて、集まった記者と共にCクラスの新たな商品性を目の当たりにすることになった。そこに、もう1つの狙いがあったと推測できる。

歌舞伎ファンも改良版「Cクラス」を目にすることとなった

ベンツとの接点を広げる販売戦略

今回の発表会でMBJは、Cクラスそのものの商品性だけでなく、新しい販売戦略も紹介した。その1つが、NTTドコモと一緒に8月10日から開始する期間限定のサービス「Tap! Mercedes!」(タップ! メルセデス!)だ。

同サービスの内容を説明すると、利用者はNTTドコモの総合カーシェアプラットフォーム「dカーシェア」を通じてメルセデス・ベンツの試乗予約ができる。乗れるのはCクラス、「Vクラス」(東京のみ)、「スマート」といった車種で、時間は最大2時間。料金は無料だ。試乗の場所は東京および大阪のブランド情報発信拠点「メルセデス・ミー」に限られる。試乗に係員は同乗しない。

上野社長によれば、「まだまだメルセデス・ベンツを知らなかったり、乗ったことのなかったりするお客様が多くいらっしゃる」とのこと。「Tap! Mercedes!」では必ずしも購入を前提としない気軽なメルセデス・ベンツ体験を提供する。

新車が届くまで現行型に乗れる新サービスも

販売戦略の2つ目は、新車への乗り換えを支援する「サティスファクション・プラス」である。これは最新の車種へ乗り換える際の下取りやファイナンス契約の精算を、担当販売店が支援する内容だ。対象はメルセデス・ベンツとスマートの新車を購入して9~13カ月目となる顧客。上野社長は例として次のように語る。

「新しいCクラスは9月からの納車開始となるため、それまでは現行のCクラスをお求め頂いて乗って頂き、後日、新しいCクラスにスムーズに乗り換えて頂くことも可能になる」

「Cクラス」のマイナーチェンジと同時に新たな販売戦略も明らかになった

先にボルボがはじめた「ブリッジ・スマボ」に似たサービスといえるだろう。短期間での乗り換えを支援することで、納車を待つ間に他のメーカーへ顧客を逃さない戦略とも捉えることができる。

新橋演舞場での発表会に歌舞伎ファンを招待したことをはじめ、「Tap! Mercedes!」や「サティスファクション・プラス」などの取り組みからは、新しい顧客との接点を増やそうとするMBJの考えが見てとれる。それは、メルセデス・ベンツを自由に見て、触れて、そしてカフェやレストランを利用できるメルセデス・ミー(元メルセデス・ベンツ・コネクション)から始まった戦略と一脈を通じる活動でもある。

改良点は6,500カ所!

発表となったCクラスは、モデルチェンジによる新型ではない。マツダであれば「大幅改良車」と表現したところだろう。しかしながら、発表会のために来日したチーフエンジニアのクリスチャン・フリュー氏によれば、使う部品の半分近くにあたる6,500点を刷新したという。

左からフリュー氏、尾上さん、上野社長

外観では、フロントとリアのバンパーを刷新した。ヘッドライトには、ハイビームの照射で前走車や対向車の運転者を眩惑しないよう制御する新機能を搭載。これは「Eクラス」および「Sクラス」と同等の機能だ。室内では、高精細の液晶メーターやSクラスと同じデザインのハンドルなどを採用した。そのハンドルには、運転支援機能「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」(自動再発進機能付)のスイッチなどを設定し、Sクラス同様に操作のしやすさを向上させている。

エンジンとモーター駆動の組み合わせが大きな変更点

最も大きな変更点の1つとなるのはガソリンエンジンだ。排気量1.5Lの直列4気筒エンジンは、先にSクラスで導入した直列6気筒エンジン+ISGと同じように、モーター駆動を用いた48ボルト電気システムを採用している。モーターの扱いはSクラスと異なり、直列4気筒エンジン用にベルト駆動となっているようだが、いずれにしても、高効率と動力性能の向上を両立させる新技術といえる。

メルセデス・ベンツは先進技術をSクラスで先に導入し、順次Cクラスにも展開した格好だ。そのCクラスが449万円から購入できることを知ってもらい、その最先端の機能を体験してもらうには、なにより新規顧客との接点を増やすことが不可欠である。

 

Cクラスの価格設定はご覧の通り

輸入車販売で国内市場トップを維持し続けるメルセデス・ベンツであるとはいえ、国内新車市場の10%に至らない輸入車業界には、まだその魅力が消費者に浸透していないとの意識が強い。そうした中、メルセデス・ベンツの積極的な取り組みは、催しの斬新さを含め、ほかの輸入車に比べ群を抜いているのではないだろうか。

全くの新型ではないCクラスの進化した姿を、あえて新橋演舞場で歌舞伎の舞踊と合体させて演出し、広く話題を提供しようとするメルセデス・ベンツの姿勢は、国内輸入車販売ナンバーワンであり続ける理由を強く印象づけたのである。

“開拓者”スバルは輝きを取り戻せるか? 中期経営ビジョンを検証

“開拓者”スバルは輝きを取り戻せるか? 中期経営ビジョンを検証

2018.07.20

完成車検査問題などで窮地に立たされ、社長交代を経たSUBARU(スバル)が新たな中期経営ビジョン「STEP」を発表した。水平対向エンジン、4輪駆動、アイサイトなど、際立つ個性で“Different”な存在感を発揮してきたスバルだが、この経営ビジョンのもと再び輝くことはできるのだろうか。

新しい中期経営ビジョンを発表するスバルの中村知美社長

気になった言葉遣い

スバルは2018年から2025年までを対象とする新たな中期ビジョンに「STEP」と名を付けた。「S」はSpeed(スピード感を持った取り組み)、「T」はTrust(信頼を取り戻す)、「E」はEngagement(お客様に共感していただける)、「P」はPeace of mind & enjoyment(安心と愉しさという価値の提供)の頭文字。社会の変化を乗り越えるための「JUMP」に備え、着実に、力強く、歩みを進める意志を込めたという。

だが、2014年の新中期経営ビジョン「際立とう2020」に比べると、STEPは印象に残りにくく、アルファベットを1文字ずつ説明しなければ意味が通じないところに、強い意思統一を促す力の弱さを感じた。

スバルが「STEP」で取り組む3つのこと

言葉遣いの話ではあるけれど、人は言葉によって心を動かされ、価値を共有することのできる生き物である。したがって、物事を前へ進める上で言葉はとても重要だ。同じ視点でいえば「JUMP」も、「飛ぶ」という単語の意味は分かっても、何をするのかが分かりにくい。さらに、「お客様にとって『Differentな存在になる』」との言葉遣いもまた、ほかと異なる存在と聞こえるだけで、何をどうしてスバルの個性を磨き上げるのか、スバル社員の成すべきことが見えてこない。

新中期経営ビジョンの個々の中身以前に、「STEP」「JUMP」「Different」という英単語の羅列が、目指す内容を曖昧にしているというのが、記者会見を聞いていての率直な感想である。

実際、新中期経営ビジョン「STEP」は具体的内容に乏しかった。

「正しい会社」になることが急務

今回の新中期経営ビジョンの柱となるのは、市場の信頼回復にあったのは間違いないだろう。完成車検査や排ガス問題による市場の不信と、顧客への背信という現状から一刻も早く脱却し、スバルのものづくり本来の姿を取り戻すことは急務である。

中期経営ビジョンの時系列

だが、それは社内の問題であって、「お客様第一」の経営理念をいかに全社員に浸透させるかに掛かっている。同時に、社会や時代の要請に対し、どのように商品を構築していくかという未来への展望や目標も、経営ビジョンには欠かすことができないのではないか。

正しい会社を作るためとして、膿を出し切るため、コンプライアンス、ガバナンス、マネジメントの3つを「STEP」では取り上げている。だが、同じことを「法令の尊守」「統治」(統制や監査)、「経営管理」という日本語で語らなければ、やろうしていることへの理解や重みに欠ける。スバルの全社員が日常的に英語に長けているなら別だが、必ずしもそうではないだろう。そこにカタカナの横文字が並んでも、右から左へ抜けていくだけだ。

「正しい会社」を作る取り組み

社内で一体、何が起きているのか。どうすれば課題を解決し、次の新しい体制や挑戦へつなげていけるのか。短時間の記者会見では説明しきれないところもあるだろう。しかし、そうであるからこそ、言葉1つで記者はもちろん、スバルの社員一人一人の腑に落ちる語り掛けをしなければ、何も改善できないし、改革できない。スバルの経営陣が本当にそこを胆に銘じているのかが伝わらない記者会見でもあった。

言葉は、話せば相手に伝わるものではない。相手が理解し、腑に落ちるように語らなければ、話したことにはならないのである。社長が、役員が、一方的にこうすると喋っても、社員一人一人の心に響き、瞬時に自分たちが成すべきことを思い浮かべられる言葉遣いをしなければ、スバルは再生しないだろう。

SUBARUづくりの刷新とは

そのことは、未来への目標や展望についても同様であった。

「SUBARUづくりの刷新」との言葉も語られたが、どのような商品(クルマ)を市場へ投入し、顧客の選択肢に加えてもらうかという具体像に乏しかった。

「2030年に死亡交通事故ゼロを目指す」とも語るが、それを何によって実現するのかが述べられていない。好評の「アイサイト」を基本とする「レベル2」の運転支援技術を磨くというが、それによって交通社会がどうなるのかとの見通しが欠けている。レベル2を磨けば事故ゼロになるのか。自動化ありきではないといいながら、ではなぜ事故ゼロを実現できるのかが不明だ。

また、高価な無人運転車ではなく、誰でもより運転を愉しむことができるアフォーダブル(ここも横文字)な自動運転技術を開発するとは、いかなる意味なのか。その違いが分からない。

主力車種のフルモデルチェンジを毎年実施し、SUVとスポーツモデルを強化していくというスバル

「電気自動車は過渡期」

自動車メーカーが対応を迫られている電動化についてはどうか。記者の質問を受けて中村社長は、個人的な見解として「電気自動車(EV)はまだ過渡期にある」と述べ、「当面の電動化には、水平対向エンジンを主体とする」と答えた。

日産自動車やフォルクスワーゲン、BMWが1回の充電あたり300~400キロの走行距離を実現したEVを市場投入するなかで、何をもって過渡期というのか。どういうEVであれば本格的であり、主流になると考えるのか。回答が中途半端だ。

EVに限らず、電動化に際して当面は水平対向エンジンを主体とするとのことだが、先ごろ発表した新型「フォレスター」で採用している「e-BOXER」は、電動化車両ではあるものの完成度は低い。燃費も特に優れているわけではなく、運転特性に改良の余地を残す。

スバルの新型「フォレスター」

単に電動化することと、魅力的な電動車両とは違う。完成度を高めるには時間を要するからだ。世の中が過渡期であるのではなく、スバル自らが遅れていることへの認識の欠如を思わせる。

EVはまだ市場が十分に形成されていないとの意見も世の中にはあるが、世の中に舗装路での4輪駆動車や、ステレオカメラを使った運転支援が存在しない、すなわち市場が形成されていない時にそれらを投入し、市場を切り拓いたのはスバルだ。なぜ、EVだけに後ろ向きであるのか理解しがたい。それはダブルスタンダードではないか。

もちろん、EV市場がまだ大きくないとはいえ、パリ協定に調印した各国は、1日も早いゼロエミッション(二酸化炭素などを排出しない)社会を望んでいる。中村社長も記者会見の冒頭で触れたように、西日本には気候変動により豪雨が降り、大きな災害が起きた。海水温度が上昇した今、ゼロエミッション社会の実現は喫緊の課題となっているのである。

電動化でも独自性を発揮できるのでは

過去、スバルが独自性を発揮できたのは、水平対向エンジンを縦置きで搭載し、4輪駆動を駆使することにより、低重心をいかし、4輪駆動制御による安定した走行性能を実現したからであるはずだ。

それであるなら、EVは床下にバッテリーを搭載すると低重心になり、モーター駆動の電力を電子制御すればエンジン以上に緻密な4輪駆動力制御を実現できる。エンジン車に比べはるかに効率的で安全で、楽しいEV4輪駆動を生み出すことができる。それこそスバルが目指す究極の「安心と愉しさ」なのではないか。

電動車ラインアップの拡充は明記してあるが、中村社長は「EVは過渡期」との見解を示した

この期に及んで、なぜ燃費の良くならない水平対向エンジンにこだわるのかが分からない。もちろん、社長も言及した通り、これは地元・群馬の部品メーカーらの事業や、従業員の生活に関わる話であり、一朝一夕に転換するわけにはいかないのかもしれない。しかし、だからといって、将来への具体像を語らないまま、ある日突然「もうエンジンは止めます」とはいえないはずだ。

アイサイトの進化においても、例えば新型フォレスターの「アダプティブドライビングビーム」(ハイビームを主体とし、前車や対向車の防眩を行う)がメーカーオプション扱いの車種がある。しかし、これを全車で標準装備とすれば、アイサイトを夜間にも積極的に活用し、安心をより高められるのではないか。

「安心と愉しさ」を掲げながら、安全装備でグレード差を設ける商品体系に平気でいるところに、社長の言葉を借りれば「Differentな存在」になれていない現実がある。

安全装備を全車標準装備とすることもスバルが「Differentな存在」となる1つの方法では

中期経営ビジョンは手順が逆?

以上の事例は、理念や標語の言葉を文字通りものづくりにつなげられていないスバルの実態を明らかにする。そこに実は、スバルが抱える問題もあるのではないだろうか。そして、英単語を並べた新中期計画の内容にも、上滑りな印象を受けてしまう。ものづくりをし、それを顧客に買ってもらって成り立つ製造業であることが、忘れられているのではないかという懸念すら抱いたほどだ。

ブランドとは、自らがブランドであろうとするのではなく、愚直に顧客満足の高い製品を作り続け、それを永年、ひたすら続けることではじめて、顧客がブランドと認識するものである。ブランドを作ろうとか、ブランドであろうというのは、おこがましいことであり、何よりまず、顧客第一の真摯な商品を、時代に適合させながらひたすらに作ることがスバルには求められている。そこに、おのずと顧客を尊重する真摯なものづくり精神も宿るはずだ。

今回の新中期ビジョンは手順が逆であることにより、曖昧でわかりにくい内容になったのではないだろうか。