「御堀直嗣」の記事

御堀直嗣

御堀直嗣(みほりなおつぐ)

モータージャーナリスト

1955年東京東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレースに参戦し、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。
トヨタの新型「RAV4」に雪上試乗! “三車三様”の四輪駆動システムを体感

トヨタの新型「RAV4」に雪上試乗! “三車三様”の四輪駆動システムを体感

2019.04.11

トヨタの新型「RAV4」が雪上で示した軽快さ

狙い通りに曲がる! 新採用の四輪駆動システムが実力を発揮

クルマの電動化にも必須となる四輪駆動技術

新型「RAV4」(1つ前の記事にリンクさせます)の国内への打ち出しは、冬の北海道から始まった。トヨタ自動車の士別試験場(士別市)内の雪道で、メディア向けの試乗会が開催されたのである。試乗コースは道幅の広いサーキットコースと、道幅が狭く上り下りのあるワインディングコースの2つであった。

トヨタの新型「RAV4」に雪上でじっくり乗ってきた

走りの良さにTNGA効果を実感

試乗車は、RAV4が採用する3種類の四輪駆動システムを体験することができるラインアップだった。具体的には「X」「Adventure」「HYBRID G」という3つのグレードだ。

新型「RAV4」のグレードは「X」「G」「G “Z package”」「Adventure」「HYBRID X」「HYBRID G」の6種類で、価格は260万8,200円~381万7,800円だ。最も安いのは「X」の二輪駆動(FF)車

まず、新型RAV4の全体的な印象としては、軽快で的確な操縦安定性を示すところに気づかされた。これは「TNGA」というプラットフォームを採用した成果だと思う。

例えば、「プリウス」のプラットフォームを基に開発されたSUV「CH-R」は、プリウスを大きく上回る操縦安定性を獲得していた。このことは、プリウス自身も今後の開発により、いっそうの進化を遂げる可能性を秘めていることを示している。

同じように、カムリを基に開発された新型RAV4は、CH-R以上の車両重量ではあるものの、運転し始めてすぐ、軽やかな走りを強く印象づけた。ハンドル操作に対しては的確に進路を定める。もちろん、直進安定性も高い。圧雪路の直線では、スタッドレスタイヤを装着して時速80キロ以上まで加速したが、全く不安なく疾走してみせた。

新型RAV4のボディサイズは全長4,600mm、全幅1,855mm、全高1,685mm、ホイールベース2,690mm。「Adventure」は全長と全幅が+10mm、全高が+5mmとなる。車両総重量はグレードによって異なるが1,775キロ~1,965キロ。オプションによっても多少は増加する

室内は前席、後席ともに精緻な造形でまとめられている。ガソリンエンジン車もハイブリッド車も静粛性に優れ、前後の席で快適に会話を交わせた。上級車の感覚があり、仕立てのよいSUVとして好感がもてる。国内では販売されなかった前型のRAV4(4世代目、新型は5世代目)は、米国で乗用車販売のナンバーワンを獲得したというが、そのわけをおのずと想像できる出来栄えである。

3種類の四輪駆動システム、それぞれの特徴とは

新型RAV4の特徴の1つは、3種類の四輪駆動システムを採用しているところだ。ここで、それぞれのシステムについて説明しておきたい。

新型「RAV4」が採用する3つの四輪駆動システム。タイヤへのトルク配分の比率がシステムによって変わる

まず、ガソリンエンジン車には2つの四輪駆動システムがある。1つは従来と同じく、前後の駆動力配分を行う「ダイナミックトルクコントロールAWD」方式。もう1つは前後の駆動力配分とともに、後輪側の左右の駆動力配分も走行状況に応じて変更する「ダイナミックトルクベクタリングAWD」だ。左右の駆動力配分は、カーブをより曲がりやすくさせる仕組みである。

3つ目はハイブリッド車用の電気式四輪駆動システムだ。後輪駆動用にモーターを使い、前輪駆動車を四輪駆動化する。基本方式は、初代「エスティマ ハイブリッド」で2001年に採用された「E-Four」である。

現行プリウスにも、同じく電気式を採用した四輪駆動車がある。ただし新型RAV4では、後輪用モーターのトルクを増大し、より力強く後輪を駆動させることができるようにしてある。これにより、あたかも後輪駆動車のような運転感覚を味わえるという。

「E-Four」では後輪用モーターのトルクを増大することで、後輪駆動車のような運転感覚を実現したという

試乗順は、基本となる「ダイナミックトルクコントロールAWD」を搭載する「X」というグレードから始まった。ごく普通の四輪駆動といった感じで、何か特徴的なことは感じにくいシステムだったが、後輪へのトルク配分により、登り坂では勢いよく駆け上がる手ごたえを得られた。「エコ」と「スポーツ」のモード切り替えを行うと、エコモードでは発進が穏やかになり、滑りやすい雪道でも安心感を与えてくれた。スポーツモードではエンジン回転の高まりとともにエンジン音も高鳴って、胸躍らせる走りとなる。

次に乗ったのは、「ダイナミックトルクベクタリングAWD」を搭載する「Adventure」というグレードだ。カーブが曲がりやすく、旋回中も狙い通りのラインを安定して走れるので、あたかも線路の上を走っているような印象を受けた。その走行感覚は、誰にでも体感できるだろう。また、路面のうねりなどに対し、後輪の駆動力を左右で最適に調整するため、直進の安定性がより高まるようでもあった。

「ダイナミックトルクベクタリングAWD」の優れた走行安定性は誰にでも体感できるだろう

最後に乗った「HYBRID G」の四輪駆動システム「E-Four」は、後輪モーターのトルクが大きくなったことにより、カーブでアクセルペダルを踏み込むとグッとクルマが前へ押し出され、まさしく後輪駆動のクルマを運転しているかのような感覚を味わえた。また、ハイブリッドシステムを搭載しているため、車体の前側がエンジン車より重くなるので、前輪の手応えが増し、ハンドル操作への応答や、進路の的確さが向上したようにも感じられた。

「RAV4」も参戦! 日本の四輪駆動車は多士済々

四輪駆動システムの乗り味は、まさに“三車三様”といった感じだった。それは優劣の問題ではなく、どのような運転をしたいかという、消費者の好みで選べる選択肢が用意されたことを意味する。一方で、どれを選ぶべきか迷ってしまう人もいるかもしれない。それも含め、新型RAV4は、1つの決まった走り味ではなく、複数の走り味を備えたSUVとして、ほかにはない商品性を得たといえるのではないだろうか。

新型「RAV4」の四輪駆動システムは“三車三様”といった感じ。どのような運転をしたいかに合わせて選べるが、どれを買うか迷ってしまう人もいそうだ

四輪駆動であることの優位性を訴えてきた自動車メーカーといえば、スバルが思い浮かぶ。同社は長年にわたる継続的な開発により、消費者からの高い信頼を得るようになった。昨今ではマツダが四輪駆動技術を磨き、スバルに迫る勢いだ。それに刺激を受け、スバルがさらに技術を進化させるという好循環も見られる。

トヨタは「ランドクルーザー」で、圧倒的な悪路走破性を世界に認知されている。三菱自動車の「パジェロ」もまた、悪路走破では世界指折りのクルマであり、それが同社のSUV「アウトランダー」やミニバン「デリカ D:5」へも波及した。今や四輪駆動は、三菱自動車の柱の1つとなっている。

そうした四輪駆動の多彩な世界に、新型RAV4は改めて参入することになる。今後、クルマの電動化が進んでいけば、3種類の四輪駆動システムは、1つの優れた四輪駆動システムへと集約されていくのではないだろうか。そのために、今は様々なシステムに挑戦し、消費者の評価を待っているかのようだ。

「RAV4」が日本に再登場! 路線変更でトヨタにとって「挑戦の1台」に

「RAV4」が日本に再登場! 路線変更でトヨタにとって「挑戦の1台」に

2019.04.10

トヨタが新型「RAV4」発売、その来歴とは

先代は米国ナンバーワンの人気車種、新型が日本市場に

思い切った路線変更の理由は? 開発責任者が語る

“RVブーム”の真っ只中に誕生し、“気軽に乗れる四輪駆動車”という新たな価値を提示したトヨタ自動車の「RAV4」。その後はボディサイズが大きくなり、米国市場では乗用車販売でナンバーワンを獲得するなど人気を博したが、日本では一時的に販売を休止していた。日本市場に再登場する新型「RAV4」は、トヨタにとって挑戦の1台となる。

トヨタの新型「RAV4」。グレードは「X」「G」「G “Z package”」「Adventure」「HYBRID X」「HYBRID G」の6種類で、価格は260万8,200円~381万7,800円だ

SUVブームの火付け役? トヨタ「RAV4」の来歴

トヨタ「RAV4」は1994年に誕生したSUV(スポーツ多目的車)だ。風変わりな車名は、「リクリエイショナル・アクティブ・ヴィークル・4ホイールドライブ」(Recreational Active Vehicle 4Wheel Drive)の頭文字をとっている。

当時、三菱自動車工業「パジェロ」やいすゞ自動車「ビッグホーン」など、悪路走破性を売りとした各車は「RV」(レクリエイショナル・ヴィークル)と呼ばれたが、それらに比べRAV4は、より身近で運転しやすく、気軽に乗れる四輪駆動車という価値を生み出した。今日のSUVの先駆けといえるクルマだったのだ。当初は2ドアハッチバックの3ドア車として登場したが、翌1995年にはホイールベースと車体を延長して4ドアハッチバックとした5ドア車を追加し、販売を伸ばした。

三菱自動車「パジェロ」(画像は1991年発売の2世代目)が牽引した“RVブーム”の中で、初代「RAV4」は誕生した

今日のクロスオーバーSUV的な乗用車感覚ではなかったが、それでも、パジェロやビッグホーンのような本格的で悪路走破性に富むRVと比べると、RAV4は市街地での利用にも適した四輪駆動車だったのである。

同じ頃、ホンダ「CR-V」(1995年)やスバル「フォレスター」(1997年)なども誕生する。少し遅れて、日産自動車「エクストレイル」(2000年)も登場した。CR-VはRAV4とほぼ同時期に着想されたと想像できるが、フォレスターとエクストレイルは、先達たちの影響を受けてメーカーが開発に着手したものとみられる。

しかし、米国市場での人気の高まりとともに、車体を大きくしていったRAV4とCR-Vは、2016年に日本国内での販売を一時中止としてしまった。日本市場では先駆者だっただけに、皮肉なものだ。一方、後発といえたフォレスターやエクストレイルは、その間も国内販売を続けたのである。

そんな経緯はあったものの、CR-Vは2018年に国内販売を再開。RAV4も、今度の5世代目で日本市場に再登場することになった。

5世代目となる新型「RAV4」。外板色はアーバンカーキとアッシュグレーメタリックのツートーンカラーで、この組み合わせは「Adventure」というグレードで選択できる

現在のSUVブームが始まったのは米国市場だった。日本ではフォレスターやエクストレイルなどが生き残っていたものの、今日のSUV人気に火をつけたのは、2012年発売のマツダ「CX-5」であっただろう。次いで、ホンダから「ヴェゼル」が登場する。また、欧州から続々と上陸した輸入車も、国内のSUV人気を盛り上げたといえる。運転の楽しさを何より大事にするBMWや、スポーツカーメーカーのポルシェでさえSUVを開発するようになった。

開発責任者に聞く新型「RAV4」の立ち位置

欧米では販売されていた4代目の空白期間を経て、トヨタは今回、5代目RAV4を再び日本で販売することを決めた。開発責任者を務めた同社の佐伯禎一チーフエンジニア(CE)は、新型RAV4について次のように語る。

「新しい『RAV4』の車名の意味は、『ロバスト・アキュレイト・ヴィークル・4ホイールドライブ』(Robust Accurate Vehicle 4Wheel Drive)としました。よりたくましく、頼もしく、かつ洗練された精緻さを備える四輪駆動車という意味です。走行性能はもちろん、内外のデザインにも、そうした方向性を持たせています」

たくましくも洗練されたデザインを目指したという新型「RAV4」。外板色はシルバーメタリック

実は、佐伯CEはトヨタのSUV「ハリアー」の開発も担当している。クロスオーバー車として、より乗用車感覚の強いハリアーに対し、RAV4には、しっかりとした悪路走破性を実現する技術の裏付けを求めたのである。その考えには、社内で異論もあったと話す。

「4代目RAV4は米国で人気が高く、2017年には乗用車部門で『カムリ』(トヨタのセダン)を抜いて1位となりました。その流れを継承するモデルチェンジを求める声が、特に営業側から強くありました」

それでも佐伯CEは、「キーンルック」とよばれるフロントの造形を持った4代目のクロスオーバー的な姿ではなく、よりSUV的なたくましさを備える造形にRAV4を作り変える決断を下した。

「4代目RAV4は、おかげさまで米国では乗用車ナンバーワンの売れ行きとなりましたが、そのままの価値観では、いずれ下降線をたどることになるでしょう。好調な売れ行きという余裕がある中で次の挑戦をしなければ、将来的な伸び代が得られないと考え、あえてクロスオーバー的で乗用車的なSUVを超えていくことを決めました。当時の副社長も、私の考えに同意してくれました」

SUVとしてのタフさを押し出した新型「RAV4」

新型RAV4で取り組んだ挑戦の1つに、新開発の四輪駆動システムがある。従来からの「トルクコントロールAWD」のほか、新開発の「ダイナミックトルクベクタリングAWD」と、後輪用のモータートルクをより高めた新開発の「E-Four」(イー・フォー)をそろえたのである。「新技術のすごさを見せるというよりも、そういう新しい技術を盛り込むことで、お客様に再び振り向いてもらいたいという思いもあります」と佐伯CEは語る。

わずか3年前、販売台数が尻すぼみとなる状況で、国内での販売を一度は終えたRAV4に、消費者が再び関心を寄せることはあるのか。そうした不安や心配は、佐伯CE自身にもある。しかし、挑戦せずには次への一歩を踏み出せないのもまた現実であろう。

SUVブームの日本で新型「RAV4」は存在感を発揮できるのか

新型RAV4のプラットフォームは、「カムリ」から採用が始まった「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)であり、「プリウス」を発端とするTNGAとは別系統だ。

TNGAとは、基本となる技術をまずは徹底的に磨き上げ、それを基に車種ごとの商品性を築き上げる開発手法のこと。その取り組みはプリウス以降、「CH-R」や「カローラスポーツ」などで車種ごとの飛躍的な進歩を実証している。カムリを発端とするTNGAの成果として、新型RAV4がいかなる商品力の高さを見せるのか。国内市場への復帰にとどまらず、TNGAの成果が試されるのが新型RAV4というクルマなのだ。

ジャガーの理想がEVで現実に? 試乗で感じた「I-PACE」の到達点

ジャガーの理想がEVで現実に? 試乗で感じた「I-PACE」の到達点

2019.04.04

ジャガー初の電気自動車「I-PACE」に試乗

すでに年内分は完売? プレミアムEVは出足好調

静けさと高性能な走りを両立、“電気ジャガー”の完成度は高い

ジャガー初の電気自動車(EV)である「I-PACE」(アイペイス)にようやく試乗することができた。ジャガー・ランドローバー・ジャパンはI-PACEを2018年9月に発表し、すでに受注を開始している。詳細な台数は明かしていないが、発売を記念して設定した「FIRST EDITION」のみならず、通常の販売車種を含め、年内に日本国内で販売する予定だった台数は完売しているということだ。顧客は他社からの流入や、同じグループに属するレンジローバーからの乗り換えなどが多いという。

米国のテスラが切り拓いたプレミアムEVの世界が次第に広がる中、それに合わせたように、英国のジャガーが新商品を投入してきた。同社のSUVラインアップでは最も高価なクルマとなるI-PACEだが、出足は順調なようだ。

ジャガー初のEVで同社SUVラインアップの中では最も高価なモデルとなる「I-PACE」。グレードは「S」「SE」「HSE」の3種類で、価格は959万円~1,162万円からだ。「FIRST EDITION」は1,312万円。試乗したのは「SE」だった

EV化でクルマはどう変わる? ジャガーの回答とは

I-PACEはジャガーがEV専用に開発したクルマで、その特徴は外観にも表れている。

昨今、クルマをよりスポーティに見せ、速さを視覚的に訴えかけるため、フロントウィンドウを後ろ寄りとし、フロントフードを長く見せる造形が流行している。特にプレミアムカーに顕著な傾向だ。これに対しI-PACEは、「キャビンフォワード」と呼ばれるスタイリングを採用。つまり、フロントウィンドウを前方へ伸ばした姿としているのだ。この造形には、ボンネットフードの下にエンジンがないことを示す意味がある。

「キャビンフォワード」な外観が特徴。ボディサイズは全長4,695mm、全幅1,895mm、全高1,565mm、ホイールベース2,990mm

ボンネットフードを開けてみると、そこにあるのはエンジンではなく、小物入れだった。クルマを走らせるためのモーターは、前輪と後輪それぞれに付いていて、車軸のところに配置されている。それによって、キャビンフォワードの造形を成りたせるとともに、前後タイヤ間の距離(ホイールベース)を長くとり、室内後席に高級セダン並みの広々としたゆとりをもたせた。

ボンネットフードを開けてみると、そこは小物入れになっていた

それだけでなく、前後の床もほぼ平らになっていて、余計な出っ張りがない。エンジンで走るクルマであれば後席下に燃料タンクを設置する必要があるが、I-PACEはそのスペースを小物入れとして活用する。リチウムイオンバッテリーは、床下に収納されている。

EV専用に開発すると、いかにクルマの外観が変わり、また室内や荷室などの有効利用が進むかを、I-PACEは明らかにしているのである。

EV化するとクルマの室内空間も変わる。例えば燃料タンクのなくなった後席したのスペースは、収納として活用できたりする

運転席に座ると、そこにも新鮮さがあった。目線の位置が、SUVのように高くもなく、かといってセダンのように低いわけでもなくて、その中間的な独特の高さにある。これによって、前方の見通しは確保できるし、高すぎないことで安定感を感じ、安心して運転できる。

ミニバンが象徴的だが、高い視線は遠くを見通せる一方で、カーブなどではクルマがふらつかないかとの懸念を覚えさせる。セダンは目線が低いため、安定感はあっても、遠くを見通しにくい場合がある。I-PACEの運転席に座った時の目線は、それらの“いいとこ取り”といった感じだ。

「I-PACE」の目線の高さはSUVとセダンの“いいとこ取り”といった感じ

もう1つ目線に関していうと、外観のキャビンフォワードな造形により、フロントウィンドウが前寄りとなったことで、視界の左端に、窓の左の支柱(Aピラー)を常に捉えることができた。これにより、クルマの車幅感覚はつかみやすくなる。例えば、ガードレールでこすってしまわないかといったように、クルマの左端の状況を心配せずに運転できたのだ。

I-PACEの車幅は1.9m近くある。これだけ幅があると、通常は車線から左側がはみ出していないか気に掛けながら運転することになる。だが、I-PACEを試乗している間は、ほとんど左側の心配をすることなく、運転に集中することができた。

逆に、近年のプレミアムカーは、フロントウィンドウを運転席に近づけ、フロントフードを長く見せる造形を採用することで、クルマの左端を認識しにくくしている。そういうクルマでは、車線の左側へ車体がはみ出していないか、心配しながら運転することになる。これは大きな違いだ。

全幅が1.9m近くある「I-PACE」だが、車幅感覚がつかみやすいので、常に「左側をこすりそう」と心配しながら運転することにはならない。ちなみに、画像では車体側面のドアハンドルが出っ張っているが、走行中は格納し、空気抵抗を低減する

運転席に座った話が長くなったが、いよいよ走り出すと、そこはEVの常だが、モーターの発進は実に力強くかつ滑らかで、快適だった。わずかにアクセルペダルを踏み込むだけで穏やかに走り出し、そこから速度を上げていく間も変速ショックがないから心地よい。そして、すぐに交通の流れに乗ることができる。もちろん、室内はきわめて静かだ。

高性能なモーターを搭載しているI-PACEは、停止状態から時速100キロまで、わずか4.8秒で加速することができる。美しく、かつ速いクルマを提供し続けるジャガーにとっては、そこが自慢であるけれど、この性能は日常の運転シーンでも役に立つ。例えば、都市高速の短い加速車線でも、少しアクセルペダルを踏み増すだけで高速の流れに乗れてしまう。必死に車間を見計らい、猛然と加速させなくても、静かに滑らかに、狙い通りの間合いで本線に合流できるのだ。

高性能なモーターを搭載する「I-PACE」は、停止状態から時速100キロまで4.8秒で加速することが可能。高速道路の合流などで加速のよさを体感できるはずだ

減速時のエネルギーを電力として回収する回生ブレーキは、効きの強さを2段階で選べる。効きの強い方のモードを選べば、例えば市街地を走っている時、アクセルのみのワンペダルで発進、加速、減速、停止の全てを行うことができる。ことに渋滞など、発進・停止を繰り返すような場面では、アクセルからブレーキへのペダルの踏み替えを減らすことができるので、移動は楽になる。ペダル踏み間違い事故の懸念も減らすことができそうだ。

日産自動車の「e-Pedal」など、EVならではのワンペダル運転はこれまでにも紹介されているが、中には「走りがギクシャクしてよくない」といった評もある。しかしそれは、ペダル操作が急すぎることが原因であることが多い。おだやかに踏み込み、戻す際もゆっくりとペダルを操作する感覚を身につければ、ワンペダルほど楽で安全な操作はない。このアクセル操作を体得すれば、エンジン車でも燃費を向上させることができるはずだ。

「I-PACE」の回生ブレーキは、強さを「high」と「low」の2段階で設定できる。強い方のモードを選べば、市街地の走行などで、かなり多くのシーンをワンペダルで走行することが可能だ

I-PACEは、同乗者にも快適なEVである。車内の空間的な広さは紹介済みだが、静かで振動の少ない走りは、後席の乗り心地に効いている。後ろの座席はたっぷりとした大きさがあり、前席とのゆとりも十分だ。座面と床との高さもきちんととられているので、足を下ろして座れることが走行中の体の安定感をもたらす。ひとつ気になったのは、後席の背もたれの形がやや平板に感じられ、背中が背もたれから浮いているような気がしたことだ。

荷室はSUVとして十分な広さがあるといえるだろう。先にも紹介したが、フロントボンネットフード下にも小物入れがあるので、日常の小物と、遠出の荷物との置き分けもできるのではないだろうか。

荷室容量は656Lで、リアシートを折りたたんでフラットにすれば1,453Lまで増加する。リアシートの下にはタブレットやラップトップPCなどが収納できるスペースもある

ジャガーはI-PACEの開発中、200台もの試作車を作り、地球60周分に相当する150万キロを走り込んだという。その間には、摂氏40度から氷点下40度までの気象の変化も経験してきたとのことだ。徹底した走り込みを実施し、ジャガーが満を持して世に出したI-PACEの完成度は、非常に高いと感じた。さらに加えるなら、ジャガーの伝統であるしなやかな走りが加わると、ドイツ勢とは違ったジャガーの味をもっと実感できるかもしれない。

ジャガーはかつて、直列6気筒エンジンやV型12気筒エンジンを搭載するクルマを作り、滑らかで高性能な走りはもちろんのこと、静粛性にもこだわってきた自動車メーカーだ。彼らが目指してきたものは、モーター駆動のEVであれば簡単に手に入る。ジャガーの魅力を存分に発揮できるクルマはEVであることを、I-PACEは実証したといえるだろう。

「美しく、速いクルマ」を追求してきたジャガー。その理想は、電気自動車で現実になるのかもしれない

EVのSUVとしては、先にテスラが「モデルX」を販売している。その外観や機能、持ち味には、I-PACEとは別の趣がある。テスラは「モデルS」にしても、今後の「モデル3」にしても、EV専用であるのはもちろんのこと、新時代を切り拓く価値を見た目にも持たせることに注力している。

SUVのプレミアムEVとしてはテスラ「モデルX」(画像)が先に世に出ている。こちらも独自の魅力を持ったクルマだ

一方のI-PACEには、1922年創業で100年近い歴史を積み上げてきた自動車メーカーが、伝統的な価値を継承させつつ、EVのよさを作りこんだクルマとしての味がある。テスラの人気が上がっているのと同じく、I-PACEが年内に販売予定の台数を売り切ったのも、彼らが持ち味をいかしたクルマづくりをしているからだ。どちらも魅力あるEV専用SUVである。