「御堀直嗣」の記事

御堀直嗣

御堀直嗣(みほりなおつぐ)

モータージャーナリスト

1955年東京東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレースに参戦し、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。
マツダが直列6気筒エンジンの導入を決定! 電動化時代に独自路線の勝算

マツダが直列6気筒エンジンの導入を決定! 電動化時代に独自路線の勝算

2019.05.16

マツダが中期経営方針、直列6気筒エンジンの導入を表明

高性能エンジンでプレミアムブランド化を推進

加速するクルマの電動化、独自路線のマツダは大丈夫?

マツダは5月9日の記者会見で、2019年3月期の決算と今後6年間を対象期間とする「中期経営方針」を発表した。その中で同社は、ブランド価値の向上に向け、新たに直列6気筒のエンジンを開発すると宣言。高価格商品の充実、ひいてはマツダのプレミアムブランド化につながりそうな施策だが、クルマの電動化が進む世界において、高性能エンジンの導入に踏み切る同社の決断は吉とでるか、凶とでるか。

中期経営方針を打ち出したマツダの丸本明社長

電動化への対応が不可欠な自動車業界

マツダは2020年に創立100周年を迎える。中期経営方針では「次なる100年」に向け、「人と共に創るマツダの独自性」を追求すると打ち出した。そのために、まずは何をするのか。同社では2025年までに「新世代商品群の完遂」を目指すという。

マツダの「第6世代商品群」は2012年のSUV「CX-5」から始まった。今年発売の「マツダ3」(画像)から、同社の商品群は新世代(第7世代)に突入する

近年、プレミアム性を高めつつある商品群はマツダの強みとなっているが、そのブランド価値をさらに高めようというのが同社の考えのようだ。具体的には、これまで弱みとなっていたパワートレインの電動化を推進することと、エンジンに新しく直列6気筒を加えることが、その施策である。

マツダはかつて、V型6気筒エンジンを採用したことがあるものの、上級車種にはロータリーエンジンを搭載してきた歴史があるので、直列6気筒エンジンの投入は今回が初めてとなるはずだ。一方で、世界的に厳しくなる環境規制をクリアするためには、パワートレインの電動化を並行して進めることが不可欠となる。

マツダの上級車種といえば、同社の代名詞でもあるロータリーエンジン(画像)を積むクルマが多かった。直列6気筒エンジンを積むクルマを市場投入するのは、今回が初めてとなるはずだ

米国や中国は今後、メーカーに電気自動車(EV)の導入を促す政策をさらに強化する。欧州もCO2削減に向けた規制を厳格化していく方針で、2021年には走行距離1キロあたりのCO2排出量を95グラム以内、2030年には同60グラム以内とするよう、自動車メーカーに求めていく考えを打ち出している。走行距離1キロあたりのCO2排出量が60グラムとは、燃費に換算すると、1リッターあたりの走行距離が約39キロということになる。

欧州のCO2排出規制は企業平均値で計算するため、車両1台ごとにこの燃費を達成する必要があるわけではない。ただ、プレミアム性を売りとしていたり、車両重量が重いSUVを主力商品としていたりする自動車メーカーは、規制をクリアするため、EVを積極的に導入する必要があるだろう。

SUVのラインアップを拡充しているプレミアムブランドのジャガーは先頃、SUVのEV「I-PACE」を発売した

つまり、11年後の欧州において自動車メーカーは、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)による電動化だけでは規制をクリアできないという事態に陥る。メーカーに一定数のEVを導入するよう求める米国と中国も、当初はPHEVをその台数に含める方針だが、年を追うごとに、その割合を変えていく方針だ。すなわち、PHEVの割合を減らし、EVの割合を増やす方向に進むということである。

新たに直列6気筒のエンジンを投入すると打ち出したマツダも、世界でクルマを販売していく以上、パワートレインの電動化は避けられない。おそらく同社は、トヨタ自動車との協業を強化することで、電動化への対応を進めていくつもりなのだろう。その中心的な役割は、トヨタ、マツダ、デンソーなどが参加する合弁会社「EV C.A.スピリット」が担うことになるはずだ。

プレミアムなクルマに不可欠? 直列6気筒の特徴

では、エンジンに関してマツダは今後、どんな手を打つのだろうか。まず、同社では2019年5月に発売する新型車「マツダ3」に、新開発のエンジン「SKYACTIV-X」を搭載する。このエンジンは、「予混合圧縮着火」(HCCI)を目指したマツダ独自の技術である「火花点火制御圧縮着火」(SPCCI)を取り入れているところが画期的だ。そして、新たな施策として明らかになったのが、直列6気筒エンジンの導入である。直列6気筒は、SKYACTIV-Xとディーゼルの2本立てとなるようだ。

直列6気筒エンジンは振動が少なく快適で、滑らかな回転により胸のすく加速をもたらす珠玉のエンジンとして、高級車を中心に愛用されてきた。その発展形ともいえるが、直列6気筒をV字型に組み合わせたV型12気筒は最高のエンジンとされている。

しかしながら直列6気筒エンジンは、6つのシリンダーを直列に並べるため全長が長くなるので、前面衝突の際、衝撃を吸収する構造を車体に採り入れなければならなくなって以降、姿を消した。代わって登場したのが、直列3気筒をV字型に組み合わせたV型6気筒エンジンであり、これが上級車種に搭載されるようになった。ただ、同じ6気筒とはいえ、直列6気筒には上質さではるかに及ばない。

そんな中、メルセデス・ベンツは先頃、新時代の直列6気筒エンジンを開発し、上級モデル「Sクラス」に搭載した。直列6気筒エンジンが備える快適性や加速の滑らかさに加え、モーター駆動による電動化を組み合わせることで、エンジン全長を短くし、直列6気筒の復活を実現したのである。BMWも、限られた車種とはいえ、直列6気筒エンジンを生き残らせている。やはり、プレミアムな商品性を保つには、上質なエンジンが不可欠であるからだ。

直列6気筒エンジンを積むメルセデス・ベンツの「S 450」

そして、エンジンにこだわってきたマツダも、ここへきて直列6気筒を新登場させることになる。前述の通り、このエンジンは全長が長くなるので、前輪駆動車用ではないことが分かる。2012年の「CX-5」以降、新世代商品群でラインアップを充実させてきたマツダのクルマはいずれも、前輪駆動を基本としている。それとは別に、改めて後輪駆動の商品を登場させ、ドイツ勢のように、商品のプレミアム性をさらに高めていこうということなのだろう。それによって利益率を高め、経営を安定させる目論見なのではないだろうか。

2017年の東京モーターショーで初公開となったマツダのコンセプトカー「VISION COUPE」(ビジョン・クーペ)。前後方向に長いフロントノーズは、まるで直列6気筒エンジンの登場を予見していたかのようだ

一方で、英国のジャガーは、EVでありSUVでもある「I-PACE」という新たなクルマで、電動高級車の世界に1つの未来像を提示した。このクルマは、日本国内においてはすでに、年内に販売予定の台数がすでに予約済みになっているという。この状況を見て思うのは、クルマのプレミアム性も今後は電動化抜きで語れないということである。富裕層の人たちの間でも、これまでのディーゼルターボから、EVへと関心が移行し始めているのではないだろうか。

メルセデス・ベンツの新しい直列6気筒エンジンは、モーター駆動のほかにスーパーチャージャーとターボチャージャーを併用する。その加速感覚は、あたかもモーターのようだ。つまり、EVへの移行を視野に入れた直列6気筒エンジンなのだと想像できる。欧州のCO2排出規制が厳しさを増す2030年を前に、消費者に対し、モーター駆動の魅力を疑似体験させるエンジンという位置づけだと私は直感した。

メルセデスの直列6気筒がモーターへの移行を視野に入れたものであるならば、その寿命は、ほぼ10年だろう。だとすれば、マツダの直列6気筒エンジンも、商品性を保持できるのはせいぜい10年だ。その短い期間中にマツダは、どれだけプレミアムブランドとしての存在感を高められるだろうか。

マツダが直列6気筒エンジンを搭載するクルマとして思い浮かぶのは、フラッグシップセダンの「アテンザ」(画像)だ

エンジン開発には、多大な投資と労力を必要とする。メーカーは完成したエンジンを少なくとも10年、あるいはそれ以上の期間、商品に搭載することを視野に入れて開発するのが、これまでの通例だった。直列6気筒エンジンを積むマツダ車が、多くの台数を販売するのが難しいプレミアム価格帯の商品になるとすれば、エンジン開発に要した投資を同社が無事に回収できるかどうかについては少し、懸念が残る。

近年、マツダのブランド力が高まっているのは間違いない。同社にプレミアム性を求める消費者も、以前よりは増えているはずだ。それでも、トヨタのレクサスは、米国市場を除けば、今日の地位を築くまでに30年近い歳月を要している。新たに後輪駆動のプレミアム車種を追加するマツダに、それだけの間、辛抱できる体力はあるのだろうか。あるいは、新たに投入する上級エンジンは、米国市場で成功すれば十分だと判断しているのだろうか。

プレミアムブランドを目指したレクサスは、今の地位を築くのに30年近い歳月を要した(画像はレクサス「UX」)

この直列6気筒エンジンは、後輪駆動用となるだろう。だから、マツダの主力商品であるSUVへの展開は考えにくい。そして、ジャガーの例を見ても分かるように、SUVも電動化するという流れが、すでに始まっている。

世界的に人気のSUVは、重くて燃料消費が多いので、積極的な電動化が待たれるクルマだといえる。それと同時に、そろそろ、SUVは大きすぎるとか、乗り降りが不便だとかといった声が、消費者の間でも聞こえ始めている。SUVの中でもコンパクトなモデルに人気が集まりつつあるし、SUV人気の影響で車種が減っていたステーションワゴンやセダンに、消費者の関心が戻る可能性もなくはない。

したがって、SUVに販売台数の半数近くを依存するマツダが、SUV人気の陰りと共に、危機を迎える可能性も考えられる。その対応策として、後輪駆動のプレミアムセダンやステーションワゴンを作るため、直列6気筒エンジンを用意しようと考えたのかもしれない。

魂動デザインやSKYACTIV技術、あるいは、操縦安定性を高める「G-ベクタリング コントロール」など、マツダのクルマづくりには明らかな独自性があり、そこに魅力を感じるファンがいる。クルマづくりに対する真摯な姿勢が、消費者の間に信頼感を醸成してきた。ただ、同社の将来に対する備えは手薄で、2030年~2040年あたりの「ありたい姿」についても、いまだ具体像が語られていない。具体的な目標設定がないままに、開発者たちは何を目指して進んで行くのだろうか。また消費者は、将来像の見えにくいマツダに対し、今後も信頼を寄せて、安心してクルマを購入することができるのだろうか。

確証のないことについて明言することを避けるのが日本人の特質なのかもしれない。だが、クルマの商品価値が短期間に目まぐるしく移ろっていく現代にあっては、ある理想を掲げながら、具体的な未来像へ向かって邁進する姿をみせることが、自動車メーカーにとって、最大のブランド強化になるのではないか。もちろん、そこに技術的な裏付けは不可欠だが、ただ、石橋を叩いて技術を磨いているだけでは、消費者は付いて行きにくいと思う。

エンジンかモーターかといった些末な勝敗論議ではなく、マツダのクルマと共にある生活が今後、どのような未来につながっていくのか、そこを教えてほしいのである。

トヨタの新型「RAV4」に雪上試乗! “三車三様”の四輪駆動システムを体感

トヨタの新型「RAV4」に雪上試乗! “三車三様”の四輪駆動システムを体感

2019.04.11

トヨタの新型「RAV4」が雪上で示した軽快さ

狙い通りに曲がる! 新採用の四輪駆動システムが実力を発揮

クルマの電動化にも必須となる四輪駆動技術

新型「RAV4」の国内への打ち出しは、冬の北海道から始まった。トヨタ自動車の士別試験場(士別市)内の雪道で、メディア向けの試乗会が開催されたのである。試乗コースは道幅の広いサーキットコースと、道幅が狭く上り下りのあるワインディングコースの2つであった。

トヨタの新型「RAV4」に雪上でじっくり乗ってきた

走りの良さにTNGA効果を実感

試乗車は、RAV4が採用する3種類の四輪駆動システムを体験することができるラインアップだった。具体的には「X」「Adventure」「HYBRID G」という3つのグレードだ。

新型「RAV4」のグレードは「X」「G」「G “Z package”」「Adventure」「HYBRID X」「HYBRID G」の6種類で、価格は260万8,200円~381万7,800円だ。最も安いのは「X」の二輪駆動(FF)車

まず、新型RAV4の全体的な印象としては、軽快で的確な操縦安定性を示すところに気づかされた。これは「TNGA」というプラットフォームを採用した成果だと思う。

例えば、「プリウス」のプラットフォームを基に開発されたSUV「CH-R」は、プリウスを大きく上回る操縦安定性を獲得していた。このことは、プリウス自身も今後の開発により、いっそうの進化を遂げる可能性を秘めていることを示している。

同じように、カムリを基に開発された新型RAV4は、CH-R以上の車両重量ではあるものの、運転し始めてすぐ、軽やかな走りを強く印象づけた。ハンドル操作に対しては的確に進路を定める。もちろん、直進安定性も高い。圧雪路の直線では、スタッドレスタイヤを装着して時速80キロ以上まで加速したが、全く不安なく疾走してみせた。

新型RAV4のボディサイズは全長4,600mm、全幅1,855mm、全高1,685mm、ホイールベース2,690mm。「Adventure」は全長と全幅が+10mm、全高が+5mmとなる。車両総重量はグレードによって異なるが1,775キロ~1,965キロ。オプションによっても多少は増加する

室内は前席、後席ともに精緻な造形でまとめられている。ガソリンエンジン車もハイブリッド車も静粛性に優れ、前後の席で快適に会話を交わせた。上級車の感覚があり、仕立てのよいSUVとして好感がもてる。国内では販売されなかった前型のRAV4(4世代目、新型は5世代目)は、米国で乗用車販売のナンバーワンを獲得したというが、そのわけをおのずと想像できる出来栄えである。

3種類の四輪駆動システム、それぞれの特徴とは

新型RAV4の特徴の1つは、3種類の四輪駆動システムを採用しているところだ。ここで、それぞれのシステムについて説明しておきたい。

新型「RAV4」が採用する3つの四輪駆動システム。タイヤへのトルク配分の比率がシステムによって変わる

まず、ガソリンエンジン車には2つの四輪駆動システムがある。1つは従来と同じく、前後の駆動力配分を行う「ダイナミックトルクコントロールAWD」方式。もう1つは前後の駆動力配分とともに、後輪側の左右の駆動力配分も走行状況に応じて変更する「ダイナミックトルクベクタリングAWD」だ。左右の駆動力配分は、カーブをより曲がりやすくさせる仕組みである。

3つ目はハイブリッド車用の電気式四輪駆動システムだ。後輪駆動用にモーターを使い、前輪駆動車を四輪駆動化する。基本方式は、初代「エスティマ ハイブリッド」で2001年に採用された「E-Four」である。

現行プリウスにも、同じく電気式を採用した四輪駆動車がある。ただし新型RAV4では、後輪用モーターのトルクを増大し、より力強く後輪を駆動させることができるようにしてある。これにより、あたかも後輪駆動車のような運転感覚を味わえるという。

「E-Four」では後輪用モーターのトルクを増大することで、後輪駆動車のような運転感覚を実現したという

試乗順は、基本となる「ダイナミックトルクコントロールAWD」を搭載する「X」というグレードから始まった。ごく普通の四輪駆動といった感じで、何か特徴的なことは感じにくいシステムだったが、後輪へのトルク配分により、登り坂では勢いよく駆け上がる手ごたえを得られた。「エコ」と「スポーツ」のモード切り替えを行うと、エコモードでは発進が穏やかになり、滑りやすい雪道でも安心感を与えてくれた。スポーツモードではエンジン回転の高まりとともにエンジン音も高鳴って、胸躍らせる走りとなる。

次に乗ったのは、「ダイナミックトルクベクタリングAWD」を搭載する「Adventure」というグレードだ。カーブが曲がりやすく、旋回中も狙い通りのラインを安定して走れるので、あたかも線路の上を走っているような印象を受けた。その走行感覚は、誰にでも体感できるだろう。また、路面のうねりなどに対し、後輪の駆動力を左右で最適に調整するため、直進の安定性がより高まるようでもあった。

「ダイナミックトルクベクタリングAWD」の優れた走行安定性は誰にでも体感できるだろう

最後に乗った「HYBRID G」の四輪駆動システム「E-Four」は、後輪モーターのトルクが大きくなったことにより、カーブでアクセルペダルを踏み込むとグッとクルマが前へ押し出され、まさしく後輪駆動のクルマを運転しているかのような感覚を味わえた。また、ハイブリッドシステムを搭載しているため、車体の前側がエンジン車より重くなるので、前輪の手応えが増し、ハンドル操作への応答や、進路の的確さが向上したようにも感じられた。

「RAV4」も参戦! 日本の四輪駆動車は多士済々

四輪駆動システムの乗り味は、まさに“三車三様”といった感じだった。それは優劣の問題ではなく、どのような運転をしたいかという、消費者の好みで選べる選択肢が用意されたことを意味する。一方で、どれを選ぶべきか迷ってしまう人もいるかもしれない。それも含め、新型RAV4は、1つの決まった走り味ではなく、複数の走り味を備えたSUVとして、ほかにはない商品性を得たといえるのではないだろうか。

新型「RAV4」の四輪駆動システムは“三車三様”といった感じ。どのような運転をしたいかに合わせて選べるが、どれを買うか迷ってしまう人もいそうだ

四輪駆動であることの優位性を訴えてきた自動車メーカーといえば、スバルが思い浮かぶ。同社は長年にわたる継続的な開発により、消費者からの高い信頼を得るようになった。昨今ではマツダが四輪駆動技術を磨き、スバルに迫る勢いだ。それに刺激を受け、スバルがさらに技術を進化させるという好循環も見られる。

トヨタは「ランドクルーザー」で、圧倒的な悪路走破性を世界に認知されている。三菱自動車の「パジェロ」もまた、悪路走破では世界指折りのクルマであり、それが同社のSUV「アウトランダー」やミニバン「デリカ D:5」へも波及した。今や四輪駆動は、三菱自動車の柱の1つとなっている。

そうした四輪駆動の多彩な世界に、新型RAV4は改めて参入することになる。今後、クルマの電動化が進んでいけば、3種類の四輪駆動システムは、1つの優れた四輪駆動システムへと集約されていくのではないだろうか。そのために、今は様々なシステムに挑戦し、消費者の評価を待っているかのようだ。

「RAV4」が日本に再登場! 路線変更でトヨタにとって「挑戦の1台」に

「RAV4」が日本に再登場! 路線変更でトヨタにとって「挑戦の1台」に

2019.04.10

トヨタが新型「RAV4」発売、その来歴とは

先代は米国ナンバーワンの人気車種、新型が日本市場に

思い切った路線変更の理由は? 開発責任者が語る

“RVブーム”の真っ只中に誕生し、“気軽に乗れる四輪駆動車”という新たな価値を提示したトヨタ自動車の「RAV4」。その後はボディサイズが大きくなり、米国市場では乗用車販売でナンバーワンを獲得するなど人気を博したが、日本では一時的に販売を休止していた。日本市場に再登場する新型「RAV4」は、トヨタにとって挑戦の1台となる。

トヨタの新型「RAV4」。グレードは「X」「G」「G “Z package”」「Adventure」「HYBRID X」「HYBRID G」の6種類で、価格は260万8,200円~381万7,800円だ

SUVブームの火付け役? トヨタ「RAV4」の来歴

トヨタ「RAV4」は1994年に誕生したSUV(スポーツ多目的車)だ。風変わりな車名は、「リクリエイショナル・アクティブ・ヴィークル・4ホイールドライブ」(Recreational Active Vehicle 4Wheel Drive)の頭文字をとっている。

当時、三菱自動車工業「パジェロ」やいすゞ自動車「ビッグホーン」など、悪路走破性を売りとした各車は「RV」(レクリエイショナル・ヴィークル)と呼ばれたが、それらに比べRAV4は、より身近で運転しやすく、気軽に乗れる四輪駆動車という価値を生み出した。今日のSUVの先駆けといえるクルマだったのだ。当初は2ドアハッチバックの3ドア車として登場したが、翌1995年にはホイールベースと車体を延長して4ドアハッチバックとした5ドア車を追加し、販売を伸ばした。

三菱自動車「パジェロ」(画像は1991年発売の2世代目)が牽引した“RVブーム”の中で、初代「RAV4」は誕生した

今日のクロスオーバーSUV的な乗用車感覚ではなかったが、それでも、パジェロやビッグホーンのような本格的で悪路走破性に富むRVと比べると、RAV4は市街地での利用にも適した四輪駆動車だったのである。

同じ頃、ホンダ「CR-V」(1995年)やスバル「フォレスター」(1997年)なども誕生する。少し遅れて、日産自動車「エクストレイル」(2000年)も登場した。CR-VはRAV4とほぼ同時期に着想されたと想像できるが、フォレスターとエクストレイルは、先達たちの影響を受けてメーカーが開発に着手したものとみられる。

しかし、米国市場での人気の高まりとともに、車体を大きくしていったRAV4とCR-Vは、2016年に日本国内での販売を一時中止としてしまった。日本市場では先駆者だっただけに、皮肉なものだ。一方、後発といえたフォレスターやエクストレイルは、その間も国内販売を続けたのである。

そんな経緯はあったものの、CR-Vは2018年に国内販売を再開。RAV4も、今度の5世代目で日本市場に再登場することになった。

5世代目となる新型「RAV4」。外板色はアーバンカーキとアッシュグレーメタリックのツートーンカラーで、この組み合わせは「Adventure」というグレードで選択できる

現在のSUVブームが始まったのは米国市場だった。日本ではフォレスターやエクストレイルなどが生き残っていたものの、今日のSUV人気に火をつけたのは、2012年発売のマツダ「CX-5」であっただろう。次いで、ホンダから「ヴェゼル」が登場する。また、欧州から続々と上陸した輸入車も、国内のSUV人気を盛り上げたといえる。運転の楽しさを何より大事にするBMWや、スポーツカーメーカーのポルシェでさえSUVを開発するようになった。

開発責任者に聞く新型「RAV4」の立ち位置

欧米では販売されていた4代目の空白期間を経て、トヨタは今回、5代目RAV4を再び日本で販売することを決めた。開発責任者を務めた同社の佐伯禎一チーフエンジニア(CE)は、新型RAV4について次のように語る。

「新しい『RAV4』の車名の意味は、『ロバスト・アキュレイト・ヴィークル・4ホイールドライブ』(Robust Accurate Vehicle 4Wheel Drive)としました。よりたくましく、頼もしく、かつ洗練された精緻さを備える四輪駆動車という意味です。走行性能はもちろん、内外のデザインにも、そうした方向性を持たせています」

たくましくも洗練されたデザインを目指したという新型「RAV4」。外板色はシルバーメタリック

実は、佐伯CEはトヨタのSUV「ハリアー」の開発も担当している。クロスオーバー車として、より乗用車感覚の強いハリアーに対し、RAV4には、しっかりとした悪路走破性を実現する技術の裏付けを求めたのである。その考えには、社内で異論もあったと話す。

「4代目RAV4は米国で人気が高く、2017年には乗用車部門で『カムリ』(トヨタのセダン)を抜いて1位となりました。その流れを継承するモデルチェンジを求める声が、特に営業側から強くありました」

それでも佐伯CEは、「キーンルック」とよばれるフロントの造形を持った4代目のクロスオーバー的な姿ではなく、よりSUV的なたくましさを備える造形にRAV4を作り変える決断を下した。

「4代目RAV4は、おかげさまで米国では乗用車ナンバーワンの売れ行きとなりましたが、そのままの価値観では、いずれ下降線をたどることになるでしょう。好調な売れ行きという余裕がある中で次の挑戦をしなければ、将来的な伸び代が得られないと考え、あえてクロスオーバー的で乗用車的なSUVを超えていくことを決めました。当時の副社長も、私の考えに同意してくれました」

SUVとしてのタフさを押し出した新型「RAV4」

新型RAV4で取り組んだ挑戦の1つに、新開発の四輪駆動システムがある。従来からの「トルクコントロールAWD」のほか、新開発の「ダイナミックトルクベクタリングAWD」と、後輪用のモータートルクをより高めた新開発の「E-Four」(イー・フォー)をそろえたのである。「新技術のすごさを見せるというよりも、そういう新しい技術を盛り込むことで、お客様に再び振り向いてもらいたいという思いもあります」と佐伯CEは語る。

わずか3年前、販売台数が尻すぼみとなる状況で、国内での販売を一度は終えたRAV4に、消費者が再び関心を寄せることはあるのか。そうした不安や心配は、佐伯CE自身にもある。しかし、挑戦せずには次への一歩を踏み出せないのもまた現実であろう。

SUVブームの日本で新型「RAV4」は存在感を発揮できるのか

新型RAV4のプラットフォームは、「カムリ」から採用が始まった「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)であり、「プリウス」を発端とするTNGAとは別系統だ。

TNGAとは、基本となる技術をまずは徹底的に磨き上げ、それを基に車種ごとの商品性を築き上げる開発手法のこと。その取り組みはプリウス以降、「CH-R」や「カローラスポーツ」などで車種ごとの飛躍的な進歩を実証している。カムリを発端とするTNGAの成果として、新型RAV4がいかなる商品力の高さを見せるのか。国内市場への復帰にとどまらず、TNGAの成果が試されるのが新型RAV4というクルマなのだ。