「御堀直嗣」の記事

御堀直嗣

御堀直嗣(みほりなおつぐ)

モータージャーナリスト

1955年東京東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレースに参戦し、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。
初のEV「I-PACE」を日本に導入するジャガー、日本法人社長に意気込みを聞く

初のEV「I-PACE」を日本に導入するジャガー、日本法人社長に意気込みを聞く

2018.10.16

ジャガー・ランドローバー・ジャパン社長にインタビュー

クルマの完成度に「妥協なし」

充電の不安にジャガーはどう答えるのか

日本導入を素早く決断した背景とは

ジャガー・ランドローバー・ジャパンは、ジャガー初の電気自動車(EV)である「I-PACE」を日本市場に導入し、受注を開始した。日本でも徐々に増えている印象のEVだが、この分野に高級SUVを投入する同社の意気込みは。社長のマグナス・ハンソン氏に聞いた。

ジャガー・ランドローバー・ジャパン代表取締役のマグナス・ハンソン氏

まず気になったのは、欧州での発表・発売から間もない今のタイミングで、I-PACEの日本市場導入を明らかにした理由だ。ハンソン社長は「技術面で、ジャガーの1台として満足のいく仕上がりに到達したことが大きいです。デザイン、性能はもちろん、1回の充電で470kmという航続距離を実現しており、欧州での評判が高かったので、日本のお客様へもできるだけ早く届けたいと思いました」と説明する。

「輸入車を選ばれるお客様が気に入る車種(筆者注:SUVのこと)での導入であり、性能や取り扱いにおいて高性能であるだけでなく、日常的な用途においても便利なクルマです。選択肢を増やすことができて、日本のお客様に喜んでいただけるに違いないと思いました」(以下、発言はハンソン社長)

ジャガー「I-PACE」。SUVは近年、人気が急激に上昇している車種だが、この分野のEVというのは、まだまだ珍しい存在だ

確かに、SUVは世界的な人気車種だ。そのSUVで、欧州車メーカーのジャガーがEV導入の先陣を切った背景には、米国の電気自動車メーカーであるテスラが手掛けるSUV「モデルX」の動向が、何らかの影響を与えたのだろうか。

「答えはイエスです。EVで初めてのSUVとして、モデルXは、お客様にとってもメディアにとってもベンチマークとなる存在でしょう。モデルXの販売により、お客様がSUVのEVに関心を高めていることが証明されました」

これがテスラの「モデルX」だ

「I-PACEは、欧州勢として初めてとなるSUVのEVであり、モデルXと比べても、性能や装備などにおいて後れを取るところはありません。ジャガーは、これまでも性能や商品性に妥協せず新車を開発し、市場へ導入してきました。商品だけでなく、販売網やサービス網もしっかり構築しています。伝統と歴史のある自動車メーカーのEVとして、テスラとはまた違った価値を持つI-PACEは、お客様にとって魅力的な選択肢になると思っています」

電気ジャガーに妥協なし

発表会の前日には、都内のホテルで顧客向けI-PACEをお披露目したジャガー・ランドローバー・ジャパン。招待客はパーティを楽しみながら、時間を忘れるほどクルマに見入っていた。では、I-PACEは単にEVというだけでなく、ジャガーの1台として、どのような魅力を備えているのだろうか。

「外観は一目でジャガーと分かり、見ていて非常に美しい造形に仕上がっています。発表会でご覧いただいた赤い車体色も大変、魅力的だと思います。室内は運転者を中心としたコクピット感覚で、運転に関わる操作関係は人間工学に基づいた配置となっているので、運転中に下を向いて操作を確認する必要がありません。同時に室内は優雅であり、豪華で、かつ快適性に富み、全ての乗員の方が満足していただける作りであるところが、ジャガーらしさでもあります」

コクピットの操作関係は人間工学に基づいた配置となっている

「走行性能についてはジャガーの技術を全て投入し、躍動感ある走りを実現しています。ジャガーの1台として、I-PACEは全てにおいて一切の妥協がありません」

チャデモ充電に不安なし?

納車は2019年となるが、販売へ向けた準備はどのように進んでいるのだろうか。

「お客様はきっと好きになって下さるだろうという思いを持ち、その期待に応えるべく準備をしています。まず、これまでのジャガーと変わらぬ妥協のない仕上がりにクルマが到達しているので、マーケティング、販売、サービスについては従来同様の姿勢で臨みます」

「ただ、我々が従来よりも努力しなければならない点もあります。販売店への教育という観点では、『エンジン車に比べEVの優位性がどこにあるか』『充電の仕方は』など、新しい内容について、時間を割いて学んでもらっています。お客様に対しては、ジャガー認定の充電器を設置できるよう準備しました。もちろん、日本全国7,000カ所以上の急速充電器を問題なく利用していただくためのサービスも行います」

安心して簡単に充電できるかどうかは、EVの購入を考える上で大事なポイントだ

I-PACEは「CHAdeMO」(チャデモ、EVの急速充電方法)規格に準拠している。このチャデモについては数年前、充電できる施設とできない施設があるとして、フォルクスワーゲンがEVの発売を遅らせるという事態が発生。急速充電器は複数のメーカーが製造しているため、同じチャデモ規格でも、個々の充電器との相性により、クルマによっては充電できないケースがあるのだ。そこで、各自動車メーカーは日本全国の急速充電器で充電できるかどうかを確認している。

「そのことは、承知しています。そこで、全国どこの急速充電器でもI-PACEに充電できるよう、英国の技術者が各方式に対応し、ケーブルやアダプター、接点、天候などの条件によって、どんなことが起きるかを確認しています。日本でも、英国の技術者と組んで確認を進めているので、確信をもってお客様にI-PACEをお届けする準備ができています」

集合住宅で充電設備の導入は進むか

もう1点、日本市場へのI-PACE導入に際して懸念すべき点がある。それは、集合住宅で普通充電(家庭用など)の設備を設置できない状況があることだ。集合住宅の駐車場は、住民全ての共用の場となっているので、充電設備の設置は管理組合の議題となる。そこで合意が得られないと、充電コンセント1つ設置できないというケースが実際に発生しているのだ。

「我々がすぐにできることとしては、まず、公共の充電設備を問題なく使えるようにします。次に、戸建て住宅にお住まいの方には、ジャガー認定の充電器を設置できますし、充電インフラに関するご相談にも対応します」

戸建て住宅に済んでいれば、充電についてそこまで心配はいらないのだが……

「そして、問題の集合住宅に関しては、複雑な背景があることを理解しています。ですが、時間が経過するにつれ、お客様のEVへの要望が高まることにより、社会の多くの方に、充電設備設置の必要性を理解していただける日が来るだろうと考えています。また、マンション建設を行う事業者の方も、充電器の設置が求められている状況は認識してくださると思います」

この夏の猛暑や台風の影響を考えれば、気候変動が起きていないと主張することは誰にとっても難しいはずだ。排ガスを出さないEVの普及は、所有者だけでなく、社会の要請としても喫緊の課題となっている。

日本での「I-PACE」発表会にはプロテニスプレイヤーの錦織圭選手も登場。中央がハンソン社長

最後に、I-PACEは受注が始まったばかりだが、その手応えはどうなのだろうか。ハンソン社長は「とてもハッピーであり、誇りにも感じ、日本のお客様にとって最良の選択肢であると確信しています。ジャガー全体の印象としても、企業にとって、また所有される方にとっても、最高の価値を与えてくれるでしょう。欧州同様、日本でも良好な販売が可能だと思っています」と話していた。

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2018.10.16

ジャガーが日本で電気自動車「I-PACE」の受注を開始

造形は間違いなくジャガー、その走りやいかに?

航続距離は470km! 唯一の弱点を克服したEVの可能性

英国のジャガーが手掛けた電気自動車(EV)「I-PACE」が日本上陸を果たした。すでに注文を受け付けていて、納車開始は年明け2019年の予定となっている。

ジャガー・ランドローバー・ジャパンはジャガー初の電気自動車「I-PACE」の受注を開始した。グレードは「S」「SE」「HSE」の3つで価格は959万円~1,162万円(税込み)。「FIRST EDITION」は1,312万円だ

EVならではのクルマづくりで広い室内を実現

I-PACEはジャガーのエンジン車である「F-PACE」や「E-PACE」と同様に、SUV(スポーツ多目的車)のスタイルをとったEVである。ただし、エンジン車とは全く異なる仕立てで、EV専用にジャガーがゼロから開発した。とはいえ、近年のジャガーに通じる造形は一目でジャガーだと気づかせてくれる。見間違うことはないはずだ。

関連記事:「E-PACE」を日本で発売! ジャガーがSUVを作る2つの理由とは何か

車体はエンジン車のF-PACEに近い大きさだが、前後タイヤ間の距離であるホイールベースは2.99mあり、F-PACEより10cm以上長い。これはI-PACEが前後にモーターを持ち、いわゆるエンジンルーム内には従来のエンジンやトランスミッションなどを持たないため、客室を前輪に近いところまで広げることができたことによる。

サイズは全高1,565mm、全長4,682mm、全幅2,011mm。リアシート後方のラゲッジスペースは容量656Lで、シートを倒せば最大1,453Lまで広くなる

正面にはラジエーターグリルがあるが、もちろんエンジンを冷やすための設備ではない。そこから入った空気は、ボンネットフード上のエアダクトから排出されて、その空気の流れが滑らかな流線を描き、空気抵抗を減らす役目を果たす。前後タイヤのオーバーハング(タイヤよりも外型に出ている部分)は共に極めて短く、エンジン車とは全く異なる姿である。従来と異なる新しさ、先進性を発散する外見は、独特の存在感を感じさせる。それでも、全体を見れば間違いなくジャガーだと分かる造形なのである。

ラジエーターグリルを備えるが、それはエンジン冷却用ではない

室内は、運転者中心の空間を基本とし、エンジン回転計が不要なメーターは、カーナビゲーションの地図のほか、様々な情報を表示する機能を持つ。同時にヘッドアップディスプレイも装備するため、運転中に大きく目線をそらさずに済む。より安全性が高く、安心の運転席周りといえるだろう。シフト操作は単純なボタンスイッチだ。

長いホイールベースをいかした室内は広く、同乗者にも快適な空間をもたらしている。バッテリーを床下に収納しているため、室内の床は平らで足元も広い。

EV専用にゼロから開発した意義

I-PACEは、EVが単に環境に適したクルマであるだけでなく、運転のしやすさや室内の快適さをも格段に飛躍させる素養を備えることを、改めて実感させるクルマだ。そういった商品性をジャガーは、EV専用にI-PACEをゼロから開発することで実現した。それは、テスラのクルマやBMWのEV「i3」も同様で、これらのクルマはEVならではの良さを引き立たせている。

東京ミッドタウン日比谷で開催された「I-PACE」の発表会には、自身もジャガーに乗っているというプロテニスプレイヤーの錦織圭選手が駆けつけた

逆に、エンジン車とEVの使い勝手を変えないのが、フォルクスワーゲンの「e-GOLF」だ。その点、エンジン車からの乗り換えには不自由しないが、あえてEVを選ぼうという人に対し、その魅力を存分に伝え切れているかどうかは疑問でもある。

このように、クルマの電動化に対する自動車メーカーの考え方は様々だが、ジャガーは電動化の時代を前に、EVの魅力を最大限に引き出すことに挑戦し、その考えをI-PACEとして結実させた。

EVでジャガーの走りは追求できるか

ジャガーといえばスポーツカーに始まり、高級乗用車として英国を代表するに至ったクルマである。したがって、I-PACEに込められた性能は、競合他社やエンジン車に引けを取らない水準に達しているというのが同社の説明だ。

ジャガー「I-PACE」のコックピット

前後のモーターを合わせたI-PACEの最高出力400PSは、直列4気筒の2.0リッターガソリンターボエンジンを積む「F-PACE R-SPORT」の300PSを超えているどころか、ジャガーのスポーツカーである「F-TYPE」が搭載するV型6気筒エンジンの340PSをも上回っている(ただしV型8気筒エンジンは550PS)。その上、最大トルクは696Nmで、この数字はF-TYPEが積むV8エンジンの680Nmを凌駕する。このトルクの強大さは、モーターならではの特性だ。それにより、停止状態から時速100kmまでの加速時間は4.8秒と、F-TYPEの4.1秒に迫る俊足ぶりである。

こうした速さは、例えば三菱自動車工業の軽自動車である「i-MiEV」も同様に持つEVの特性だ。エンジン車に比べ、はるかに加速は強く滑らかで、車体をぐいぐい引っ張っていく感触がある。ゴルフ場の電気カートを見て「EVは遅いのでは?」と想像していた人は、まさに目から鱗が落ちる思いをするだろう。

EVが遅いものと想像して「I-PACE」に乗る人は、大いに驚くはずだ

EVの走りの特質は、その加速のよさだけではない。重いバッテリーを床下に搭載する例がほとんどであるため、重心が低く、より安定した走りになるのだ。さらにI-PACEは、ジャガー伝統のしなやかなサスペンションを備えているので、低重心をいかした思い通りのコーナリングを体験できるのではないだろうか。

いずれにしても、EVはEVであること自体が高性能の証であり、その走りは高性能車に乗り慣れている人をも納得させる域に達する。

EVであることは、それ自体が性能の高さを意味する

もちろん、排気音のないEVは静粛性にも優れる。静けさは、高級車が求める究極の室内環境だ。滑らかで快適な乗り心地と静けさ、そして俊足の走りは、新次元の移動体験を運転者にも同乗者にももたらすだろう。

ジャガーをはじめ、これまでの上級車種が追い求めてきた高次元の走りを簡単に実現してしまうのがモーターだ。例えば直列6気筒やV型12気筒は、エンジンとして最高のバランスといわれ、振動が少なく、滑らかで快い加速をもたらすことで知られているが、そういった特性はモーターも共有している。EVが究極のクルマとさえ考えられている理由がそこにある。

静かな走りはEVの特徴。“咆哮”なきジャガーを物足りないと思う人もいるかもしれないが、静かに走る電気ジャガーに、ネコ科の猛獣らしさを感じることだってできるはずだ(画像は「I-PACE」の前席)

一方、バッテリー性能によって長距離を走れないというのが、EVにとって唯一の弱点といってよかった。しかし、I-PACEは1回の充電で470kmという航続距離を実現している。エンジン車でさえ、出発して一度の休みもなく400km以上を運転し続けることは、まれではないか。途中で休憩するなら、その時に急速充電すれば、さらに足を伸ばせる。

もはや欠点を克服したEVが、エンジン車に対する優位性を強調する時代は訪れている。そうした中、1,000万円前後する上級SUVに、I-PACEというEVの選択肢が登場したのだ。テスラ「モデルX」と同じく、時代を牽引する人たちからの注目を集めるクルマだといえるだろう。

ボルボの新型「V60」に試乗! 人気のSUVでは味わえないステーションワゴンの魅力とは

ボルボの新型「V60」に試乗! 人気のSUVでは味わえないステーションワゴンの魅力とは

2018.09.25

ボルボがステーションワゴン「V60」をフルモデルチェンジ

日本車では減りつつある車種だが、SUVにはない魅力がたくさんある

輸入車のステーションワゴン市場は激戦区! V60の持ち味は?

ボルボがステーションワゴンの「V60」をフルモデルチェンジした。最近は「XC60」や「XC40」といったSUVで評判のボルボだが、同社といえばワゴンというイメージも根強いので、その本丸ともいえる「V60」の新型は、やはり気になるところ。今回は新しい「V60」に試乗した感想も踏まえつつ、SUVブームの世の中で、あえてステーションワゴンを選ぶ意義についても考えてみたい。

フルモデルチェンジしたボルボの「V60」。本稿では、東京クラシックキャンプ(千葉県)を拠点に開催された試乗会で撮影した新型「V60」の画像も紹介していく

実用性に原点回帰? 新型「V60」はリアに注目

ボルボの「V60」は、今回のフルモデルチェンジで2世代目となった。2010年に誕生した初代V60は、「V70」など従来のステーションワゴンに比べると、後ろのハッチバック部分がクーペのように傾斜していて、その商品性は“スポーツワゴン”という位置づけだった。同じ傾向は2016年に登場した「V90」にも見えて、デザイナーは「もはやステーションワゴンに大きな家具などを積み込み、自分で家へ運ぶような時代ではなくなっている」との言葉で、格好よさ優先の外観であることを説明していた。

しかし新型V60は、かつてのV70のように、ハッチバック部分が前型に比べ直立し、荷室容量も初代に比べ100リッター近く増えている。この変更からは、V70の販売が終了した今、その利用者をV60で補完したいというボルボの考えがうかがえる。

また、いくら買った家具を自分で持ち帰ることが少なくなったとはいえ、子供のいる家族連れなど、多くの荷物を持ち歩く必要がある自動車ユーザーはいまだに存在する。さらには旅先での買い物などを考えると、ステーションワゴンの荷室容量に期待する消費者は一定数いるはずだ。

ハッチバック部分が初代に比べ直立した新型「V60」

国産ステーションワゴンは減少傾向、輸入車は充実

需要は根強いはずだが、国産車ではステーションワゴンの車種構成が消えていきつつあり、SUVへと移行する動きが顕著だ。国産車でステーションワゴンを残すのは、トヨタ自動車「カローラ フィールダー」、マツダ「アテンザ」、スバル「レヴォーグ」くらいだろうか。スバルが“リゾートエクスプレス”と銘打って発売し、ステーションワゴン時代を築いた「レガシィ」も、現在ではSUVのように車高の高い「アウトバック」こそ残っているが、一世風靡したツーリングワゴンはラインアップから消えてしまった。

米国でもステーションワゴン人気は下がり、SUV志向が顕著であるという。それに対し、欧州ではステーションワゴン需要が健在だ。日本市場においても、メルセデス・ベンツが「Cクラス」と「Eクラス」にワゴンを設定しているし、BMWは「3シリーズ」および「5シリーズ」、アウディは「A4」と「A6」、フォルクスワーゲンは「ゴルフ」と「パサート」、そしてプジョーは「308」という具合にステーションワゴンをラインアップしている。そして、それらは着実に売れている。

そんな中、日本車からステーションワゴンが消えて、SUVが車種を増やし続けているのはなぜだろうか。

ボディカラーは「バーチライトメタリック」だ

ステーションワゴン誕生の背景とSUV勃興の兆し

ステーションワゴンは、鉄道旅行が盛んな時代に、駅から人と荷物を一緒に運べるクルマとして誕生した。だから、「ステーション ‐ ワゴン」であるということらしい。飛行機で移動する時代となっても空港まで、あるいは空港から目的地へと、人と荷物を一緒に運ぶのに便利なクルマであった。米国では、日常的な通勤にはセダンやクーペを使い、家庭にはステーションワゴンが1台あるといった複数台所有が長く続いてきた。

そこにミニバンが登場し、続いてSUVの品ぞろえが充実してくると、ステーションワゴンからミニバンやSUVへと購買意欲が移っていった。

新型「V60」のフロントビュー。クルマの寸法は全長4,760mm、全幅1,850mm、全高1,435mm

米国では大都市であっても、クルマで少し走ると郊外の趣を持つ風景となり、主要道路の脇は未舗装路であることが多くなる。駐車場も、市街地はコンクリートで舗装されているが、郊外では未舗装のままであったりする。それほど、米国とは広大な国なのだ。

そこでは、いわゆる未開の悪路というほど凹凸の激しい路面でなくても、セダンやステーションワゴンよりも路面と車体との間隔が広く、床下を打つ心配のないSUVの人気が高まる。この事情は納得しやすい。

新型「V60」のリアビュー

4輪駆動車は「ジープ」などで戦後から存在したが、それは悪路走破を主体とした武骨なクルマであり、郊外では威力を発揮するだろうが、日常的に市街地で乗るには使い勝手がよくなかった。英国には、そうした本格的4輪駆動車として「ランドローバー」があり、より上級な車種としては「レンジローバー」がある。このレンジローバーにハリウッドで乗る人が現れ、セダンの高級車より目立つ存在となった。そこに、米国におけるSUV人気の萌芽を見ることができる。

また、ジープが「チェロキー」というやや小型で乗用車感覚を備えた4輪駆動車を発売し、これが人気を呼んだ。その様子を見て、トヨタが「ハリアー」を生み出した。こうして、SUV志向が盛んになり始めるのである。

ヘッドライトに横にした「T」字型の意匠が見えるのは、ボルボの特徴だ。北欧神話の雷神トールが持つハンマー「トールハンマー」をモチーフとしている。念のためにいっておくと、ボルボはスウェーデンの企業である

欧州のステーションワゴン人気を支える要因とは?

日米のSUV人気をよそに静観していた欧州にも変化が訪れる。メルセデス・ベンツは米国でSUV「Mクラス」を生産するようになり、あのポルシェでさえも、サーキット走行が可能なSUVという新たな価値を掲げ、「カイエン」を誕生させることとなった。こうして、世界的なSUV人気に火が点くのである。しかし欧州では、ステーションワゴンが根強い存在感を発揮し続けた。

荷室容量は先代が430L、新型が529L

欧州のステーションワゴン人気を考える前提としては、クルマの走行速度を押さえておく必要がある。欧州では全体的に、クルマが速く走るのだ。

日本は一般道で時速40キロ制限、高速道路で同100キロ制限が基本。米国は州によって違うが、フリーウェイは時速65マイル(約104キロ)制限である。それらに対し欧州では、一般公道であっても80キロ制限(市街中心部は50キロ制限)で、多くの高速道路は130キロ制限となっている。ドイツのアウトバーンには無制限区間すらある。

ポルシェやBMWのように、サーキット走行も視野に入れたSUVを作る勢力があるとはいえ、一般的に車高の高いSUVは重心が高く、セダンを基にしたステーションワゴンに比べれば操縦安定性で劣る傾向がある。となると、クルマを高速で走らせるシーンの多い欧州に、SUVよりもステーションワゴンを好む消費者がいるのは当然のことだ。また、ステーションワゴンであれば、セダンとワゴンが分有する走りの良さ、利便性などといった利点を1台で享受できるという合理性もある。

新型「V60」の価格は499万円から。スライドの右上に見えているが、2019年3月にはプラグインハイブリッド(PHV)モデルも発売予定だ

乗ると視界が高くなるSUVは、市街地で運転しやすいとの声があり、日本でも人気が高まっている。とはいえ、高速道路などで頻繁に長距離移動をする人にとっては、ステーションワゴンの方が走りはより安定し、疲れにくいだろう。また、車高の高いSUVは、乗り降りがしにくいのも事実である。そういう人々の選択肢として、輸入車のステーションワゴンが好まれている。

米国市場を優先する日本メーカーが、SUVに車種を絞り込むという状況はあるものの、消費者には今なお、ステーションワゴンに期待するところがあるのだ。

こちらは「デニムブルーメタリック」というボディカラーの新型「V60」

競合の多いステーションワゴン市場、「V60」の強みは

ボルボのV60は、そうした輸入ステーションワゴンの激戦区に、Cクラス、3シリーズ、A4の競合として挑戦する。実際に新型V60に乗ってみると、前型より車幅を1.5センチメートル縮めたという車体寸法は運転中に車幅感覚をつかみやすく、ガソリンターボエンジンは走り出しから十分な力で滑らかに動き出し、室内は静粛、後席の乗り心地もよいなど、いいことづくめであった。標準寸法の18インチ径タイヤも、ちょうどよい適合を見せる。そして、ことにドイツ車ではあまり見られない明るい色の内装も、開放的でおしゃれな雰囲気を室内にもたらす。

今回は、前輪駆動で2リッターガソリンターボエンジンを搭載する「V60 T5 INSCRIPTION」のみの試乗だった。この内装は競合ドイツ車に対する1つの特色になるだろう

競合に負けない走行性能と、競合にはない魅力を持ち合わせている新型V60。試乗してみて思ったのは、爽快な気持ちにさせるステーションワゴンであるということだ。