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平澤寿康

Googleのお仕事。【第3回】スマートスピーカー「Google Home」を支える、0歳児の母

Googleのお仕事。【第3回】スマートスピーカー「Google Home」を支える、0歳児の母

2018.04.04

特集「Googleのお仕事」の第3回は、Google APAC パートナーオペレーションマネージャーの津田 恵理子氏に話を聞いた。津田氏は、約7年半前にグーグルの日本法人へ入社、現在は Google の検索関連のプロダクトに関するパートナー企業への技術的な支援を担う。

【特集】Googleのお仕事。

スマートフォンを通して、多くのユーザーが Google のサービスを利用している。Google 検索はもちろん、Google マップや Gmail、果ては YouTube とさまざまな Google 製品が人々の生活に浸透しているはずだ。一方で、その製品を提供するグーグルの正体を知らぬ人も多い。
アメリカのネット企業は日本で働いていない……なんてことはなく、もちろんさまざまなグーグル社員が、さまざまな職種で六本木ヒルズに居を構える日本法人で働いている。この特集では、その彼ら、彼女らが日本法人でどんな仕事を、どういうモチベーションで、どうやってこなしているのか、問うた。

昨年10月に発売されたGoogle Homeでは、話しかけるだけで音声で様々な回答をくれる。その製品の裏には、スマートフォン向けに提供している「Google アシスタント」があるが、サードパーティが連携アプリを開発できる「Actions on Google」に関する、パートナー企業への技術的な支援を津田氏は行っている。その立場の醍醐味、仕事の中身について話を聞いた。

Google Homeを手に持つGoogle APAC パートナーオペレーションマネージャー 津田 恵理子氏

「効率よく仕事」「上下関係がフランク」というGoogle の社風

もともとは、金融系のシステムエンジニア(SE)をやっていたという津田氏。SEの仕事も楽しかったそうだが、その一方でさまざまなビジネスに携われる仕事に就きたいと思っていたという。「日本や世界にはいろいろな仕事がありますよね。それまで金融の世界しか知らなかったので、そこから離れていろいろな仕事に触れて、自分の知見を広げたいと思っていました」(津田氏)。

そう考えていた時に、グーグルに勤めている大学時代の友人から「ぜひ Google を受けてみないか」という誘いを受けたのが、Google に入社するきっかけ。津田氏が入社後に受けたカルチャーショックは「非常に効率良く仕事ができる」という点だった。

「社内では、メールのやりとりは Gmail ですし、スケジュール管理は Google カレンダーですし、社内エンジニアによって最適化されていて、非常に効率良く仕事ができる。昔の働き方は、今と比較していろいろな無駄があったと気づかされました」(津田氏)

また、ダイバーシティへの取り組みについても、Googleは非常に先進的だと話す。津田氏は現在、日本人のみならず、中国人やイタリア人、フランス人などさまざまな国の人が所属するチームで働いているそうだが、女性でそれも子育て中の管理職が非常に多いと言う。

Google は若い企業で、社員の年齢も若く、出産・子育てを経験する社員も多い。子供を産んだ社員がその後も気持ちよく働き続けられるようさまざまな工夫がされて、社員の意識もそういった社員に寛容で男性社員でも育休を取る社員が多いという。なかでも津田氏が驚いたことは、津田氏が2017年に出産のため産休に入った直後の昇進だったという。

「自分でもまさか産休に入った直後に昇進させてもらえるとは思っていなかったです。純粋にこれまでの仕事を評価してもらえて本当に嬉しかった」と津田氏は実感を込めて語ったが、その言葉からも、職場環境がいかに従業員にとって心地いいものか、ひしひしと伝わってくる。

品質の良いアプリを作ってもらうためにパートナーを支援

冒頭で紹介したように、津田氏がグーグルに入社したのは今からおよそ7年半前。当初は広告を担当し、入社2年半後に現在のチームに移動したという。現在所属するチームでは、これまでに「Google Now」や、アプリを検索に組み入れられる「App Indexing」などを担当した。

また、「Google アシスタント」の日本語化に際しては、社内でテストした結果をアメリカ本社や日本に常駐していたエンジニアにフィードバックするといったこともやっていたという。そして現在は、「Google アシスタント」の上で動くアプリ「Actions on Google」の、パートナー企業への技術的支援を主に行っている。

「ボイスユーザーインタフェース(VUI)は、誰もが初めて触るものなので、これまでWebアプリや Android アプリは作り慣れていても、(Actions on Google アプリは)企業にも知見がない。(VUIの)デザインをどうするかといった部分から一緒に作り上げていくということをやっています」(津田氏)

Actions on Google の技術支援においては、実装の手助けが主な内容となるが、最も大きな目的は「品質のいいアプリを作ってもらう」という部分にあるそうで、技術的に可能かどうかということだけでなく、VUIのデザインなどもアドバイスしているという。

「VUIデザインにはセオリーがありまして、ある程度セオリーにそったものにするだけで、ユーザーの使いやすさや印象が全然違ってくるんです。いかにシンプルに、人間の会話のような自然さを再現するかというところは非常に重要になってきます」(津田氏)

例えば、ユーザーがアプリを終わらせたい時に、ある人は「しゅうりょう」と言い、別の人は「おわり」と言うかもしれないし「やめる」と言うかもしれない。しかし、アプリ制作者が、終わりは「しゅうりょう」としか考えずに実装したとしたら、「おわり」では終われなくなってしまう。

「簡単な例ですが、終わりたいのに終われないのは非常にストレスに感じるんです。この部分は、終了に相当するフレーズをたくさん追加するだけなので実装は簡単なんです。そういった気づきをアドバイスすることで、品質を高めてもらうようにお願いしています」(津田氏)

また、Actions on Google にも Android アプリなどと同じようにポリシーが設定されているが、そのポリシーはやや厳しめになっているという。そこで、ポリシーをクリアするためのVUIのアドバイスも行っているそうだ。

「Actions on Google は基本的に会話でやりとりするので、アプリは "問いかけをした状態でなければマイクをオープンにし続けてはいけない"というポリシーがあるんです。そのポリシーに沿いながら、スムーズにやりとりを続けるために、例えば『お調べしました』で止めるのではなく、『お調べしましたが、どれがいいですか』とすれば、問いかけになってそのまま会話が続くようにマイクをオープンにできる、といった感じです。こういった部分をアドバイスしたりしています」(津田氏)

現在、Actions on Google をはじめとしたボイスアシスタントの分野は、非常に注目を集めている。

そのため津田氏は、「本当に急激に伸びているプロダクトで、未来があって、業界が盛り上がり始めたところですので、業界を牽引していく Google でそのプロダクトに携われているのは個人的に嬉しいですし、いい経験になっていると思います」と、非常にやりがいを感じているようだ。

もちろん、調整が難しい部分もある。例えばActions on Google の品質として、Google 側が考えるレベルと、パートナーが考えるレベルに差がある場合があり、改善の調整が難しいという。そして、品質改善には、継続して開発するモチベーションも不可欠となるが、そのモチベーションをどこまで維持できるか、という部分も課題と津田氏は指摘する。

ボイスアシスタント分野の注目度の高さから、Actions on Googleに興味を示すパートナーも非常に多い。しかし現状では、Android アプリなどと違い、Actions on Google では収益化の要素が現状は存在しないため、開発モチベーションの維持が難しいのだ。

「新しいものにいち早く取り組むという部分をモチベーションとしてやっていただいています。しかし、我々としてはユーザーにとっていいものを出さないと使われなくなってしまうので、いいものを出した方がパートナー側にもいいと思っています。本来は、アプリのロンチ後も改善し続ける必要があるのですが、そこまでモチベーションを維持できるかという部分は難しいと思います」(津田氏)

新しいプラットフォームということもあり、まだまだ開発途上でActions on Google のプラットフォーム側にもバグがあるのも事実。

ただ、VUIという最先端のテクノロジー開発である以上、早急に対処が必要な重大なバグはともかく、とにかく世に放ってフィードバックを元に改善していくという手法が、Googleに限らず近年のVUIの目覚ましい発展に寄与している側面もある。一方で担当者の津田氏にとっては「パートナーからのバグの修正依頼との間で板挟みになることも多々ある」と苦労が耐えない様子だ。

そういった中でも、やりがいは非常にあると津田氏。

「日本のマーケットはこれだけ盛り上がっていて、Google としても日本には注力していますが、アメリカ本社の人たちは日本語がしゃべれないので、我々に頼ってもらわざるを得ないんです。我々がいなければこのプロダクトは日本で広がっていかないな、という気持ちはあるので、一人のメンバーとして貢献できているのは高いモチベーションになっています」(津田氏)

人々の生活の一部になり、当たり前に使われるように

津田氏に、Actions on Google を今後どのように使って欲しいか聞いたところ、「個人的なものですが」という前置きをしつつ、育児をしている人に使って欲しいとのことだった。

津田氏自身も、2017年に出産を経験しており、子供を抱っこしたり、授乳したりという育児の場面では、携帯やスマートフォンを操作出来ないと話す。そうした場面でも、Google Home であれば、声でテレビを付け、音楽を再生できる。「育児しているお父さんやお母さんにとって、Google Home は非常に便利なプロダクトと感じています」(津田氏)。

Google Home

また、現在0歳児の子供の育児を行っている津田氏らしい提案もあった。

「Actions on Google アプリに『育児ノート』というものがあります。おむつを取り替えたり、授乳したりというそれぞれの時間を声で記録できるアプリです。ノートに記録するにしても携帯に記録するにしても、とても面倒なんですが、声で記録できるのはとても便利だと思います。ぜひ使ってもらって、便利さをわかってもらえると嬉しいなと思います」(津田氏)

Google Home などのボイスアシスタントが今後どう進化していくのか。津田氏は、人々の生活の一部になり、当たり前に使うようになってほしいと願う。

「Android やiOSが登場したときには、一部の人が"なんだこれは、面白いな"と言って使っている感じでしたが、今は多くの人が当たり前のようにアプリを使ってショッピングしたり、チャットをしたりする世界に急激になっています。それと同じように、ボイスアシスタントが生活にナチュラルに溶け込んで、生活の一部になるぐらいまで持っていきたいと思っています。それにはパートナーさんがとても重要で、レストランや美容院を予約したいといったことをボイスでできるようにならないと、人々の生活をサポートするといったところまで持って行けません。パートナーさんには重要な役割があると思いますので、我々としてはパートナーさんをサポートして、質の高いアプリを出してもらって、人々の生活を豊かにするというところを一緒にやっていきたいと思います」(津田氏)

Google Home を代表とするボイスアシスタントは、昨年登場したときのような盛り上がりから比べるとやや一服した感がある。いわゆるアーリーアダプタへのアプローチが一巡したと言ってもいいだろう。

今後は、スマートフォンが普及したのと同じように、一般の人たちへどこまで普及させられるかが課題となるはずで、それには津田氏も指摘するように、Google だけでなくパートナー企業の取り組みも重要となってくる。しかし、津田氏のような考えで取り組む人がGoogle にいる限り、前途は明るいと言えるだろう。

Googleのお仕事。【第2回】Androidの「安心・安全」を守るために、アドボケイトが学んだこと

Googleのお仕事。【第2回】Androidの「安心・安全」を守るために、アドボケイトが学んだこと

2018.04.03

特集「Googleのお仕事」の第2回は、グーグルの日本法人で Google Play のセキュリティ対策などに携わっている、同社デベロッパーアドボケイトの松内 良介氏に話を聞いた。

【特集】Googleのお仕事。

スマートフォンを通して、多くのユーザーが Google のサービスを利用している。Google 検索はもちろん、Google マップや Gmail、果ては YouTube とさまざまな Google 製品が人々の生活に浸透しているはずだ。一方で、その製品を提供するグーグルの正体を知らぬ人も多い。
アメリカのネット企業は日本で働いていない……なんてことはなく、もちろんさまざまなグーグル社員が、さまざまな職種で六本木ヒルズに居を構える日本法人で働いている。この特集では、その彼ら、彼女らが日本法人でどんな仕事を、どういうモチベーションで、どうやってこなしているのか、問うた。

元々はソフトウェアエンジニアとして働いていた経験を持つ松内氏だが、Google入社後は提携企業や技術者への技術的なコンサルティングやサポートを中心に、従事する業務が大きく変わった。そんな松内氏は、Google での業務についてどういった考えで取り組んでいるのか、尋ねた。

グーグル デベロッパーアドボケイト 松内 良介氏

Google での役割は「サポート役」

松内氏は、大学卒業後にソフトウェアエンジニアとして2社ほどの企業での勤務を経て、2011年6月にグーグルの日本法人へ入社した。ソフトウェアエンジニア時代の業務は、「自分が担当しているプロダクトが形になるのを見られるのが面白いし、やりがいもあった」と話すが、一方で「もっと視野を広げたい」とも考えていたことから転職したと語る。

「そういった中で、もう少し業界全体や使っているユーザーの人たち、それに関わっている多くの企業のことを勉強してみたいと思っていた時に、Google の募集を見かけて、今自分が思っている興味に沿っている、と考えて応募したのがきっかけです」(松内氏)

現在松内氏がグーグルで担当している業務は、大きく3種類ある。

1つは、個別企業や開発者への技術的なコンサルティング。Google Play や Android、開発者向けの製品など、開発者向けのテクノロジーを使って製品を作ろうとしている企業やエンジニアにアドバイスや技術支援を提供するというもの。2つ目は、外部の開発者から上がってくるさまざまな要望を社内の製品開発チームへフィードバックして、より良い開発者向け製品の開発へと繋げるというもの。そして3つ目が、技術的に専門的な話題を多くの人にわかりやすく説明・解説するというものだ。

例えば、直接プログラミングに関わるAPIの使い方や、不正対策のやり方、UIの品質をどう向上させればいいのか、といった技術的なアドバイスをパートナー企業に向けて日々提案している。

「世の中でトップブランドでもあるにも関わらず、品質の面で残念なアプリを提供しているところが過去に多く見られました。そういった企業に、注意喚起といいますか、より良いアプリに改善しましょうというメッセージをお伝えしています。高品質なアプリを作るにはコストや時間がかかりますが、過去には低予算で時間をかけずに軽い気持ちでアプリを作ってしまう大企業もありました。そういった行為はブランド価値を毀損することに繋がりますので、さまざまなアドバイスを提供してきました。現在ではそういった例は減ってきて、総じて品質は高まっていると思います」(松内氏)

Google Play のセキュリティ対策は3本柱?

そういった中で、松内氏が特に尽力しているのが「Google Play のセキュリティ対策」だ。Google Play は、Google にとって非常に重要な位置付けの製品であるとともに、開発者にとっても重要な製品となっている。そのため、Google Play に関連するセキュリティの問題がなるべく発生しないよう、提携企業や開発者にさまざまなアドバイスを行っているという。

ただ、中にはセキュリティに対する投資は余分なコストだと見てしまう企業もあるようだ。例えば、松内氏が「こんな不正対策をしておいたほうがいいですよ、理想的にはこういったシステムのほうがユーザーの安全を守れます、売上げの不正を防げます」といったアドバイスをしても、手間やコストがかかるという理由で軽く見られてしまうということが今でもあるという。そのため、「それが無駄な投資ではないということをどのように伝えるか」(松内氏)ということにかなり苦心しているとのこと。

過去に松内氏は、UIやユーザー体験が洗練されていないアプリのことを、敢えて"ゴミアプリ"と呼び、アプリの品質改善を呼びかけたことがあった。そして、Google Play でのセキュリティ対策についても、それと同じような構図が見られるという。

「ゴミアプリという言葉でお伝えしたかったのは、UIに関する品質やユーザー体験が洗練されていないことが問題です、ということでした。セキュリティに関しても同じような構図がありまして、安易にマーケティング目的で、端末の情報を抜き出すといった発想のアプリを作るというのは、現在でもちらほらと見かけます。そういった余分な情報にアクセスしようとするアプリが、第三者に乗っ取られて非常に危険な状況になってしまうということも実際に起こっているようです」(松内氏)

松内氏が Google Play のセキュリティ対策として最も重要視しているのは、「ユーザーが安心してアプリを使える」というものだ。そして、そうではない(使っていてわずかでも不安を感じる)ものは全てなんとかしなければならないと考え、特に3つのカテゴリーについて厳しく取り締まりを行っているという。

その3つとは、「著作権違反のアプリ」と「不適切な内容のアプリ」「危害を加える可能性のあるアプリ(いわゆるマルウェア)」だ。実際に、著作権違反のアプリに関しては2017年に25万件以上の削除を行ったという。

「セキュリティという言葉がダイレクトに指すのは、危害を加える可能性のあるアプリに対する対策という部分だと思います。そちらについては、攻撃側の進化に対抗できるように技術開発を続けています。そして、著作権違反のアプリは本来の著作権者に不利益をもたらしますし、不適切コンテンツはユーザーに不安を与えます。ですので、この3つがGoogle Play でのセキュリティ対策の大きな柱となっています」(松内氏)

そういったアプリの検出には、機械学習による自動検知と、人間の目視による検知を合わせて実施している。そういった中で、機械学習で対応出来なかった部分でも、人間による検知をベースに改良を加えて、機械学習での検知能力も高めている。例えば、初めはまともなアプリとして公開して、数ヶ月後のアップデートでマルウェア化するという巧妙な手口で Google とユーザーを欺くアプリも出てきた。これも、自動検出でブロックできるように改善を続けている。

また、2017年7月には「Google Play プロテクト」という機能も提供が始まっている。それ以前も、端末上のアプリの確認やクラウド側での継続的なスキャンは行われていたが、Google Play プロテクトでは、ユーザーがよりわかりやすい形で見せるようになっている。

例えば、クラウド側でいつスキャンが行われたのかをユーザーがわかりやすいように表示した。また、不正なアプリとして検出された場合には、ユーザーがインストールできないように対策が施される。そして、ユーザーがインストールした後に問題が見つかったアプリについては、起動時に警告ダイアログを表示するほか、特に問題が大きいと判断された場合には、非常に稀な処置ではあるが、強制的に削除が行われるという。

ただ、システム側で対処できるとは言っても、ユーザー自身がリテラシーを高め、アプリインストール時や実行時に表示される「パーミッション権限」や、アプリ提供元についてしっかり確認してほしいと松内氏は指摘する。

「このアプリはカメラ機能を使わないはずなのにカメラ機能を使おうとしている、といったように要求されるパーミッションが理にかなっているかどうかという部分は非常に大事だと思います。Google としても、より注意をしやすいようにUIの改善は続けていますし、パーミッションの案内も以前よりわかりやすいものにする努力を続けています。合わせて、利用者の方には、アプリをダウンロードするときに、提供元が信頼できるかどうか確認することをお勧めします。例えば、Google Play ストアのダウンロード画面には、アプリ提供元のWebサイトや住所、他のユーザーのレビューなどの情報が表示されますが、最低限それを見て信頼できるかどうか判断して、無防備にインストールすることだけは避けてほしいと思います」(松内氏)

そのために Google でも、Google Play で各種情報が見やすいようにUIを改善するといった努力を続けているという。

「Android は非常に多くの方に使っていただいていますので、すべての方にメッセージを伝えるのは大変なことです。それでも、UIを絶えずわかりやすいように更新し、メッセージとして繰り返し伝えるなど、ブログを含めてさまざまなコミュニケーション手段を使って情報をお伝えすることで、ユーザーの皆さんがリテラシーを高められるように努めたいと思います」(松内氏)

グーグルで、コミュニケーションの重要さに気づけた

このように、Google Play でのセキュリティ対策という、非常に重要かつ難しい問題をはじめ、様々な取り組みに携わっている松内氏。

先に紹介したように、松内氏は Google 入社前はソフトウェアエンジニアとしてコードを書き、製品を生み出す立場だったのに対し、Google 入社後は開発者をサポートする立場へと業務内容が大きく変化したが、ソフトウェアエンジニア時代とは違う、やりがいや充足感を感じているという。

例えば、セキュリティに関する事例としては、最新の攻撃事例などを提携企業とコミュニケーションすることによって、被害を防げた事があったそうだ。

「ゲームアプリなどの課金まわりの不正に関して、今起こっている被害のパターンの情報をゲーム会社さんに共有することで、あらかじめ防御手段を用意することで手を打つことができて被害を防げたことがあります。攻撃事例の情報を公にすると、攻撃側を利することにもなりますので、コミュニケーションは慎重に行う必要もありますが、そういったときには、コミュニケーションを取っていて良かったと思います」(松内氏)

また、提携企業や開発者への支援を通じて、その人達の物作りや製品開発に携わっているという意識が強くなるとともに、世の中の時代の動きやテクノロジーの進化に触れ、そのテクノロジーの進化が世の中に普及していく境界線がどこにあるのか、といったことを身近に感じられるため、非常にやりがいがあると語る。

「現在、非常に広い範囲でイノベーションが起こっていますが、そのイノベーションを生身で体験するというか、自分が関われることはとても面白い仕事だと思います」(松内氏)

また、自身が今後のキャリアを考える上では「日本に寄り添って日本の価値を再発見し、グローバルなデジタル技術をベースとして、その恩恵が地域の発展に繋がるようになれば面白い」と話す。その上で重要なのは、やはり「コミュニケーション」と松内氏。

「Google 入社前のエンジニア時代には、コミュニケーションにエネルギーを割くことに価値があることとは思っていませんでした。しかし、Google に入社してからは、立場の違う人とコラボレーションできるのはすごいことだと思うようになりました。立場が違うと言葉も違ってきますので、最初のコミュニケーションでは激しい議論になることもあります。しかし、そういう摩擦もポジティブに捉えて、まったく違う立場、違う職種、国境、地域を越えて理解し合う。それが世界を1つの色に染めてしまうわけではなくて、それぞれの地域の特色を活かした形でいろいろなコラボレーションができるのではないか、という可能性に気づけたのは、自分にとって重要だったと思います」(松内氏)

おもちゃではなく

おもちゃではなく"遊び"、SAPだからこそ誕生した「toio」の存在

2018.01.10

子供たち自らの創意工夫でおもちゃで遊ぶ楽しさが広がる"体感型トイ・プラットフォーム"という独特のコンセプトや、ソニーが手がけるおもちゃ、ということで大いに注目を集めている「toio(トイオ)」。このtoioは、どういった経緯で生まれたのか、プロジェクトリーダーのソニー 新規事業創出部 toio事業室 統括課長の田中 章愛氏に話を聞いた。

ソニー 新規事業創出部 toio事業室 統括課長 田中 章愛氏

【特集】
ソニー変革の一丁目一番地、SAPのいま

2018年3月期の通期決算予想で、過去最高益となる6300億円が見込まれるソニー。イメージセンサーやテレビなど、既存製品の収益力向上、シェア増がモメンタムを作り出している。一方で、かつてのソニーファンが口を揃えて話す「ソニーらしさ」とは、ウォークマンやプレイステーションを生み出したソニーの社訓「自由闊達にして愉快なる理想工場」の賜物だ。世界中の大企業が新機軸のイノベーションを生み出す苦しみに陥るなか、ソニーは「SAP」でそれを乗り越えようとしている。スタートから4年目に突入するSAPの今を見た。

5年の開発期間を経て製品化、「ソニーだから実現」

田中氏はソニーに入社後、ロボット技術の基礎研究や開発を長年続けていた。その過程で考案したtoioは、自主研究の期間も含めて、およそ5年の歴史を持つ。

ソニーコンピュータサイエンス研究所に所属し、ゲームなどの研究を行っていたアンドレ・アレクシー氏などとともに、ソニーらしい新しい遊びを提供できないかとアイデアを温めていた。当初こそ、自分たちが楽しむ目的でtoioの原型となるおもちゃを開発していたが、「知り合いの子供などに遊んでもらうと好評で、『これを世に出したい』という気持ちが強くなっていった」と話す。

toioのコントローラーとなる「toio リング」と本体の「toio コンソール」

一方、本来の業務ではtoio事業化前から、SAPを担当する新規事業創出部に所属し、SAPの仕組み化と運営に携わっていた。そして、ちょうど携わっていた仕事が一段落した2016年にSAPのオーディションで選考を通過、2016年6月から製品化に着手したという。

5年の歳月をかけたtoioだが、「当初から既存のおもちゃと組み合わせて楽しむというコンセプトは変わっていない」(田中氏)。一方でアソビを実現するための技術も、本体の小型化など、当初解決できなかった問題を解決できたという。

例えば、toioの本体となる「toioコア キューブ」にはさまざまなセンサーが搭載されているが、その中に「絶対位置センサー」と呼ばれているものがある。toioで遊ぶときに利用する「マット」には、toioが現在いる場所を検知できる目に見えない特殊な情報が印刷されている。それを絶対位置センサーが読み取ることで、今いる場所や動いている向きなどを把握し、正確な動きを実現している。

マットは一見、ソニーとは程遠い「ただの紙」。だが、子どもたちが遊ぶ上で重要な役割を果たす

また、外部から加わる衝撃などを検知し、それに反応するような動きや、動いているtoioコア キューブを手で取り上げて違う場所に移動させても、本来の場所に自動で復帰し、元通り動作するという機能も搭載されている。

こういった動きは、テレビゲームでこそプログラムで簡単に実現できるが、現実の世界ではさまざまなセンシング、そしてモノづくりの技術を必要とする。超小型のモーターなど、これまでソニーが培ってきた小型化技術も製品化に大きく役立っているとのことで、田中氏は「ソニーだからこそ実現できた」と自信を示す。

こだわったのは"直感的な遊び"

toioコア キューブを操作できるリング状のコントローラ「toioリング」にも、さまざまなこだわりが詰め込まれている。まず、コントローラは片手で操作することを前提に設計されているが、これはもう一方の手でtoioコア キューブを触って遊べるようにするためだという。

リング状にしたのは、使わないときは腕に通すことで両手が空くようにするため。テーブルなどに置いて使う場合に使いやすいよう、操作ボタンをリングの上下両方に配置。形状こそ特徴的だが、そこには子供たちが遊びやすい工夫が数多く詰め込まれている。

特徴的な形状の「toio リング」

そして、こういった特徴は、"直感的な遊び"を実現するためのこだわりだという。「自分が作ったものが動き出すと、子供はすごく感動して夢中になるんです」と田中氏は語ったが、特別な知識を必要とせずに自分の手で作りたいものを作り、それが動き出す。「その時に感じる感動を体験してもらいたい」という想いを田中氏はtoioに込めた。

ところでtoioは、単体で遊ぶのはもちろん、既存のおもちゃのブロックや人形などと組み合わせて遊べる点が大きな特徴となっている。しかし、現在ソニーが力を入れているネットワーク関連機能は備えていない。これは、子供たちが、複雑な設定など不要に、家ですぐに楽しめるというところを重視してのものだそうだ。

筆者などは、「Xperiaなどと連携できれば、より遊びの幅が広がるのでは」とも感じる。この点について田中氏も、ネットワーク関連機能が不要と断言はしておらず、今後の展開にも含みを持たせてはいた。ただ、小学生低学年以下の子供が遊ぶおもちゃにとって、ネットワーク関連機能は複雑すぎるのも事実。

また、開発中に体験した子供の親から「おもちゃ単体で完結するものの方がありがたい」という声もあったという。親が安心して子供に与え、子供たちだけで遊べるおもちゃと考えると、複雑なネットワーク関連機能が不要というのも当然で、そういった声を受けて、ひとつのパッケージで閉じるようなものにした。

このように、toioは単なるおもちゃの枠を超えて、さまざまなこだわりを詰め込んだ、ある意味でソニーらしい製品だ。一方で、「ソニー製」を掲げる商品としてはかなり特異な存在であり、SAPという仕組みがあるからこそ世に放たれた商品と言える。

SAPとしては、toio以外に電子ペーパーを利用した学習リモコン「HUIS REMOTE CONTROLLER」や、バンド部分にスマートウォッチの機構を内蔵させた「wena wrist」など、特徴的な製品が登場しているが、これが「SAPならではの魅力」と田中氏は指摘する。

SAPでは、同じ考えを持つ比較的小さなチームが一丸となって取り組むため、これまでにない特徴的な製品が生み出されやすい環境が整えられている。

SAPのプロジェクトでは、企画から開発、営業まで、一気通貫でプロジェクトリーダーを始めとするチームが担うことになる。起業家精神を養い、ビジネスに対する見識を深めるための研修プログラムなども用意されており、「『ビジネスとは何か』『顧客価値とは何か』『自分は何を顧客に提供したいのか』といったことを深く考えさせられた」(田中氏)。

社外パートナーとの取り組みや、実際に触ってもらった人からのフィードバックに触れつつ製品を研ぎ澄ませていく過程、以前は関わる機会のほとんどなかった営業などのビジネスに関する業務への取り組みは、ソニーという大企業における分業制が確立する中で、SAPが果たす大きな意義だと田中氏は強調する。

SAPがソニー社内を活性化

さらにSAPは、新規事業創出部の枠にとどまらない効果を生んでいると田中氏は指摘する。「担当部署の垣根を超えて何かに取り組むことがもともとなかったわけではない。ただ、開発者がさまざまなディスカッションを行うケースが増え、日常的に行われるようになった実感はあるし、大きな刺激になっている」(田中氏)。

そうした波及効果が認められることもあり、SAPへの理解度が社内でも非常に高いという。SAPに応募する開発精神旺盛な開発者は、それまでに携わっているプロジェクトでも重要な立場を担っている場合が少なくない。ただ、プログラム採択後は、1週間のうち1日はプログラムに携わるケースもあり、支障なくSAPに取り組めるようになっているようだ(オーディション次第では最初からフルタイムで新規事業創出部へ異動するケースもある)。

ソニーには、以前から変わることなく、新しいことへの取り組みに寛容な企業文化がある。他が真似のできないイノベイティブな製品が多数登場してきたのも、そのおかげだ。そういった意味では、ソニーにとってSAPという仕組みは必ずしも必要ではないのかもしれない。

一方で、大企業として縦割り組織に陥り、イノベーションを起こしづらいジレンマもあった。それを乗り越えるため、SAPのような仕組みを用意するということそのものが、ある意味で「ソニーらしさ」を体現した事象と言える。

田中氏自身は、「おもちゃ」という分野に強い思い入れがあるわけではなかった。既存のおもちゃとテクノロジーを組み合わせることで、これまでとは異なる楽しさが生まれる。「それによって、子供たちに新しい遊びを提供したかった」というのがtoio開発の最大の理由だそうだ。事実、おもちゃ業界に食い込みたいという考えは持っておらず、開発協力としてレゴとパートナーになるなど、オープンに協創する姿勢を見せている。

社内に開かれたプログラムを通して、社会とも協創する製品作り。その過程で新たなイノベーション創出へと繋がることが、ソニー、そして田中氏の考える理想の姿と言える。私たちユーザーにとっても、新たな価値を体験できるようになるという意味で、SAPは見逃せない存在になりつつある。