「山口健太」の記事

山口健太

山口健太(やまぐち けんた)

ITジャーナリスト

1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て2012年よりフリーランスのITジャーナリストとして独立。国内外の発表会取材や製品レビューに基づくウェブ/雑誌記事の執筆を中心に活動。著書に『スマホでアップルに負けてるマイクロソフトの業績が絶好調な件』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)。
新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

煽り受けども強気のソフトバンク、4割値下げより「4割人員削減」

煽り受けども強気のソフトバンク、4割値下げより「4割人員削減」

2018.11.06

ソフトバンクが2018年第2四半期決算を実施

渦中のサウジ問題ファンドは現状維持「まずは真相究明から」

通信料は「すでに値下げ済み」、4割減らすのは”人員”

11月5日、ソフトバンクグループが開いた2018年度第2四半期決算の説明会では、サウジアラビア情勢とそれに伴うビジョン・ファンドの行方、携帯料金の値下げ議論などに多くの関心が集まる中、孫社長が熱弁を振るった。

ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏

サウジ情勢などを背景に株価は下落傾向にある一方、営業利益は前年同期比で62% 増を達成。決算説明会に登壇した孫社長は、「来年には日本経済が体験したことのないレベルの営業利益を出せるのではないかと、内心思っている」と強気の姿勢を見せた。

すでに通信事業を上回った投資事業

孫社長は、冒頭でサウジアラビアでのジャーナリスト殺害事件に言及。「決してあってはならない大変な事件だ。強い遺憾の意を示したい」。

一方、サウジ側が約半分を出資する10兆円規模のビジョン・ファンドについて、「サウジ国民から資金を預かって運用しており、投げ出すわけにはいかない。今後の新たなものをどうするかは真相究明の後に考えたい」とも語った。世界が注目する中、「現状路線を維持する」と慎重な言い回しで切り抜けた印象だ。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先は67社規模に

その中で孫社長は記者が殺害されたことから「ジャーナリズムや言論の自由への問題も提起した」と語り、会場に集まった記者たちの心情を代弁する一方、「話は大きく変わるが」と前置きしてソフトバンクホークスの優勝に言及。場の空気を変え、好決算に目を向けさせようとする話術が目立った。

NTTドコモやKDDIが通信以外の収入源を模索する中で、ソフトバンクが注力するのがビジョン・ファンドによる新規事業への投資だ。同社はAIを主体に多くの新興企業に投資する「AI群戦略」を進めており、すでにファンド事業による営業利益の合計額は通信事業を上回っている。

営業利益の内訳でビジョン・ファンドがソフトバンク(通信事業)を上回った

「4割値下げ」には「4割人員削減」で対策

2018年8月の菅義偉官房長官による「携帯料金は4割程度の値下げ余地がある」発言や、ドコモの「通信料を2〜4割程度値下げする」という発表で盛り上がる携帯値下げ議論には、「9月にSoftBankブランドで導入した分離プランで25〜30% 値下げ済みだ」と主張。Y!mobileブランドでも2019年上期に分離プランを導入し、1〜2割の値下げを見込むという。

ドコモが4000億円規模とした還元額に孫社長は触れなかったが、こうした還元を「減益の言い訳にはしたくない」と語り、ドコモを牽制。顧客還元を続けながら増益を狙うため、モバイル事業の人員を4割削減するとの方針を打ち出した。

背景には業務のロボット化がある。ソフトバンクモバイルの社内ではソフトウェア操作を自動化するRPAの導入により、事務作業の自動化を進めることで、これから2~3年をかけて通信事業の人員を4割削減し、ビジョン・ファンドが出資する新規事業に配置転換していくという。

通信事業の人員の4割を新規事業に配置転換

来たる「iPhoneが売れない時代」に向けて

携帯料金について孫社長は、「ギガ単価」の安さをアピールした。月間50GBの「ウルトラギガモンスター+」は、家族割引時に1GBあたりのデータ料金が80円にまで下がっており、「他社の半分か3分の1で、米国や欧州と比べても、世界でもっとも安い」と主張する。

ギガ単価は80円にまで低下しており、「動画SNS放題」でさらに4割安いという

ドコモやKDDIは提供していない、動画やSNSのパケットを無料化するサービスにも触れ、「無料の対象はトラフィックの43% を占めている。ギガ単価はさらに4割引きで比較されるべき」(孫社長)として、「実質4割値下げのインパクトがある」と語った。

一方、消費者からは通信料金が下がっても、分離プランでは端末の割引が受けられず、総支払額は変わらないとの声もあるが、「これまで高い端末を中心に販売してきたが、分離プランなら安いSIMフリー端末を含めて選択肢が広がる。実質的なコストダウンを図りやすくなる」(孫社長)とメリットを挙げた。

端末と回線を分離したプランをY!mobileも導入へ

分離プランでは端末が売れにくくなるが、もともと端末販売に利益はなく、減収となっても減益にはならないと孫社長は説明する。この影響を大きく受けそうなのが、ソフトバンクがこれまで売ってきた高い端末であるiPhoneだ。

かつてのiPhoneはソフトバンクが独占的に取り扱っており、ドコモとKDDIに対する挑戦者としてのソフトバンクを象徴する商品だった。だが、最近では「Pixel 3」の販売やAndroid One端末の展開でグーグルに接近している。もしかすると孫社長の目には、iPhone一強時代の終焉が見えているのかもしれない。

iPhone XRは日本の「新・定番スマホ」になれるか

iPhone XRは日本の「新・定番スマホ」になれるか

2018.11.06

2018年iPhoneシリーズで”本命”の「iPhone XR」が発売

端末割引が減る中、iPhone 7・8と同価格帯な点に注目

販売店も「売れ筋」と判断? ショップの値引き合戦が開始

2018年モデルのiPhoneの中でも「本命」と目される「iPhone XR」が、いよいよ発売された。上位モデル「iPhone XS/XS Max」に近い機能を備えながら、価格を従来モデル並みに抑えた新機種として注目されている。

従来モデル並みの価格で登場した「iPhone XR」

2017年秋の「iPhone X」で大きな進化を遂げたiPhoneだが、実際に売れ筋となってきたのは「iPhone 8」や「iPhone 7」だった。アップルの戦略が大きく変わりつつある中、iPhone XRは新たな定番スマホになれるだろうか。

「iPhone XRこそ本命」の背景に7・8の絶大な人気

11月1日に米アップルが発表した2018年7〜9月期決算は、同四半期で過去最高の業績となった。好業績を牽引するiPhoneは約4689万台を販売したが、今後の決算では販売台数の公表をやめるという。

iPhoneが売れていないから公表しないのか、との見方もあるだろう。実際のところ、7〜9月期のiPhoneの販売台数は前年同期とほぼ変わっていない。だが、売上高は約3割も増えた。これはiPhone1台あたりの単価が大きく上昇しているためだ。アップル自身、台数よりも単価を重視する方向にシフトしている。

サービスやコンテンツの比重を高めたいとの思惑もあるようだ。iPhone XSの発表会では「iPhone 5sを使い続ける選択肢もある」とアピールしたように、Androidに乗り換えるくらいならいまのiPhoneを使い続けてほしいとアップルは考えている。

その中で、デジタルコンテンツやApple Payなどサービス部門の売上高が伸びており、過去最高の100億ドルに達したという。今後はiPhoneのユーザー基盤を活かし、台数が伸びなくなったとしても利益が出せる体制を確保しようというわけだ。

アップルがiPhoneの販売価格を大きく引き上げたのが、2017年に登場した「iPhone X」だ。だが、このXの発売後も日本ではiPhone 7や8が売れ続けており、ランキング上位を独占してきた。日本で最も一般的に普及しているスマホは、これら従来型のiPhoneといえる。

iPhone 6以来、長く続いたこのデザインもいよいよ終わりが見えてきた

9月にはiPhone XSが発売されたものの、価格はXと同じく高い水準にとどまっている。「携帯電話料金はあと4割値下げできる余地がある」といった総務省の指導を受け、キャリア各社は通信料を値下げする一方で端末インセンティブを減らす流れが続いており、なかなか手を出せない人も多いようだ。

その中で登場してきたiPhone XRは、iPhone XSの機能の大部分を受け継ぎながら、iPhone 7や8と同程度の価格帯に投入されるモデルになる。iPhoneが2018年の本命とされる理由がここにある。

使い心地はほぼXS、ショップも値下げ合戦を開始

iPhone XRは、アップル直販の本体価格は8万4800円(税別)からとなっており、決して安くはないものの従来のiPhone並みといえる。iPhone XSとの違いとして、ディスプレイが有機ELではなく液晶で、望遠側のカメラがなく広角側のみとなっているが、プロセッサーは同じものを搭載しているなど、その差は意外なほど小さい。

iPhone XRの画面サイズは6.1インチで、5.8インチのiPhone XSと6.5インチのXS Maxの中間に位置する。本体サイズはiPhone 8と8 Plusの中間でもあり、これまでのiPhoneにはないサイズ感だ。

左からiPhone XS、iPhone XR、iPhone XS Max

有機ELとは異なり、コントラストや彩度の面で弱い印象のある液晶だが、発色はこれまでのiPhoneと同じく十分に綺麗なもので、日常的な利用シーンで不満を感じることは少ないだろう。

背面のカメラは1個のみだが、iPhone XSの広角側カメラと同じものを搭載しており、望遠以外の画質は同等とされる。背景をぼかすポートレート機能はソフトウェア的に実現し、顔認証の「Face ID」を含むインカメラの機能はまったく同等となっているなど、Xシリーズの体験を手軽に得られるのがメリットだ。

iPhone XRのリアカメラは広角側の1基のみ

販売店による値引きも話題となっている。新型iPhoneの登場に伴い、iPhone 8とiPhone Xは「一括0円」をうたうショップも珍しくない。さらにiPhone XRは新製品にも関わらず、発売直後から大きな値引き合戦が始まっているようだ。

iPhone XRの体験は、iPhone XSとの違いがすぐには分からないほど作り込まれており、安売りをうまく利用できればお買い得感は高い。iPhone 7や8を置き換え、日本の新たな定番スマホになる勢いは十分にありそうだ。