「大音安弘」の記事

大音安弘(おおとやすひろ)

自動車ライター

三菱自動車の新型「eK」に試乗! 日産が開発も光る“三菱らしさ”

三菱自動車の新型「eK」に試乗! 日産が開発も光る“三菱らしさ”

2019.05.13

三菱自動車の軽ハイトワゴン「eK」シリーズに試乗

日産「デイズ」とはキャラが違う! 「eKクロス」に注目

1クラス上のコンパクトカーとも勝負できる完成度

三菱自動車工業は2019年3月28日、軽ハイトワゴン「eK」シリーズをフルモデルチェンジした。eKシリーズは4世代目となるが、三菱自動車と日産自動車が提携したことにより、先代から「デイズ」という姉妹車を持つことになった。最新型の「eK」と「デイズ」も姉妹車であることは同様で、同じタイミングで新型へとシフトしている。今回は新しいeKに試乗し、日産デイズでは味わえない“三菱らしさ”を感じてきた。

三菱自動車の新型「eK」シリーズ

日産が開発、三菱が生産する姉妹車

まず、この軽自動車の成り立ちを簡単に説明しよう。三菱自動車と日産は、軽自動車の共同開発を決め、2011年に合弁会社「NMKV」を設立。新会社のNMKVを中心とした共同開発体制を敷き、先代のeK/デイズを2013年に誕生させた。

共同開発モデルの第1世代(eKとしては第3世代、デイズは初代)は、三菱自動車が開発・生産を一手に引き受け、同社の50年以上にわたる軽自動車開発のノウハウをつぎ込んだ。しかし、2代目(eKとしては4代目、デイズは2代目)となる今回の新型車では、この体制を変更。企画・開発を日産、生産を三菱自動車、マネージメントをNMKVと、それぞれの強みをいかした分業体制をとった。

今回のデイズは、日産にとって初の軽自動車開発となった。同社はプラットフォーム、エンジン、トランスミッションを刷新し、自動運転レベル2相当の安全運転支援機能を採用するなど、デイズ/eKを全面的に進化させた。

今回の主役である三菱の新型eKシリーズには、標準車の「eKワゴン」とクロスオーバーモデルの「eKクロス」の2タイプがある。標準車「eKワゴン」は、フロントグリルや一部の装備など異なる点もあるが、基本的には「デイズ」の標準車と同じクルマだ。エンジンが自然吸気仕様のみである点も同様。価格は129万6,000円~150万6,600円となっている。

標準車の「eKワゴン」。基本的には日産「デイズ」と同じクルマだと思っていい

一方の「eKクロス」は、三菱独自仕様の外観を持つモデルだ。「パジェロ」や「アウトランダー」など、同社のSUVと通低するエッセンスを備えたモデルだといえる。こちらのクルマには自然吸気エンジンに加え、ターボエンジンの設定もある。どちらもマイルドハイブリッド仕様となるのも特徴だ。価格は141万4,800円~176万5,800円。

三菱独自仕様の外観を持つ「eKクロス」。SUV風味の全く異なるフロントマスクを採用しており、ヘッドライトはLEDとなる。さらに、オプション設定のルーフレールも専用アイテムだ

ボディサイズはシリーズ共通で、全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,640mm(2WD車)となる。先代比だと全高が20mm高くなっているが、変化はそれだけでなく、ホイールベースが+65mmの2,495mmまで伸びている。これは、エンジンルームのコンパクト化による変更点で、その分を全てキャビンの拡張に使うことにより、先代よりも広々とした車内空間を実現した。また、不足が指摘されていた小物入れを充実させるなど、機能性も高めた。

新型「eK」シリーズはホイールベースが伸びた分、車内空間が先代よりも広々としている

パワートレインも新しくなった。新開発の660㏄3気筒DOHCエンジンを搭載しており、自然吸気仕様とターボ仕様の設定がある。自然吸気仕様は最高出力52ps/6,400rpm、最大トルク60Nm/3,600rpmを、ターボ仕様は同64ps/5,600rpm、100Nm/2,400~4,000rpmをそれぞれ発生する。

eKクロスが搭載するマイルドハイブリッドは、2.0kW/40Nmの小型モーターとリチウムイオン電池を組み合わせたもの。減速時にエネルギーを回生し、加速時には最大30秒間、モーターでアシストを行う。トランスミッションは全車CVTとなるが、こちらも新開発。変速のステップ制御を加えることで、加速時のエンジン音を抑え、静粛性を高めている。シリーズ全車で4WDを選べることもお伝えしておきたい。燃費消費率は標準車が1リッターあたり21.2~18.2キロ、eKクロス・ハイブリッドが21.2~18.8キロ、eKクロス・ハイブリッドターボが19.2~16.8キロ(全てWLTCモード値)となる。

「eKクロス」ターボ仕様のパワートレイン。ターボは力強い加速が魅力だが、モーターアシストを組み合わせることで効率も高められている

軽でもニーズの高まる先進の安全運転支援機能も充実した。衝突被害軽減ブレーキ、踏み間違い衝突防止アシスト、車線逸脱警告および車線逸脱防止支援機能、オートマチックハイビームを含む「e-Assist」は、全車が標準装備。さらに、高速道路同一車線運転支援技術「MI-PILOT」(マイパイロット)をオプションとして設定(エントリーグレードを除く)している。これは、全車速対応ACCと車線中央維持ステアリングアシスト機能を組み合わせた自動運転レベル2の機能で、日産の「プロパイロット」と同等のシステムだ。

フロントガラスの中央上部には、マイパイロットで使う単眼カメラが付いている

試乗では、eKワゴンの上級グレード「G」(2WD車)とeKクロスの「G」(自然吸気エンジン・4WD)および「T」(ターボエンジン・4WD)の3台が用意された。つまり、eKシリーズの主要な仕様に全て触れることができたわけだ。

後席は大人が足を組める広さに

まずはスタンダードなeKワゴンから。すっきりとしたフロントマスクに象徴されるように、万人受けを狙った仕様だ。抑揚あるボディサイドパネルやガラスエリアなど、デザインを工夫することで、シャープさと安定感のある雰囲気に仕上げている。軽自動車の持つチープさが薄まった印象だ。

「eKワゴン」のフロントマスクはすっきりとした印象。ヘッドライトはハロゲン式だ

インテリアはライトグレーを基調とした明るいもの。ダッシュボードは2段式かつ立体的な造形で、見た目の質感も高まっている。シートにはペラペラ感がなく、しっかりとした腰がある。座った時、見た目以上に細部まで気配りをしているなと感じた。

「eKワゴン」のインテリア。ダッシュボードは立体的な造形となっている。中央のナビゲーションシステム(オプション)は9インチのものを装着。軽自動車でもナビの大型化への対応が進むのはイマドキだ

次は、三菱色が強い「eKクロス」の外観を見てみる。新世代の三菱車が取り入れる「ダイナミックシールド」デザインのフロントマスクは、新型「デリカ D:5」と似ているが、よりコンパクトにまとまっている。SUVのような躍動感とスポーティさをより強まった感じだ。見た目は結構カッコよく、そして若々しい。eKワゴンだと全7色のエクステリアカラーも、eKクロスだと2トーンを含む全11色に増える。

「ダイナミックシールド」デザインを取り入れた「eKクロス」のフロントマスク。上部の細長い部分はLEDポジションランプで、中央の縦長の部分がLEDヘッドライト。下部はフォグランプとなる
ちなみに、これが「デリカ D:5」のフロントマスクだ。グリルとライトの配置が共通していることが分かるだろう

車内空間は、ホイールベースが65mm伸びたことにより、後席が格段に広くなった。シートにはリクライニングとスライド機構が備わる。最後方まで席をスライドさせると、前席と後席の間の距離は710mmまで拡大する。なんと、足が組めるくらいの空間が生まれるのだ。この広さは日産の大型セダン「フーガ」に匹敵すると聞いて納得した。しかも、床面がフラットなので、定員の大人2人が座っても十分に快適だ。

後席には、ゆったりとしたスペースが広がっていた(写真はシート位置を最後方までスライドさせてある)

後席を最後方までスライドさせると、ラゲッジスペースはコンパクトになってしまうが、それでも奥行きは385mmあり、2Lのペットボトルが入った段ボールを収めることができる。さらに2WD車であれば、ラゲッジスペースの下に収納が確保されているので、床板を外せば、ベビーカーを収めることが可能だ。ファミリーカーとしての使い勝手も十分に考慮されている。

ラゲッジスペースは後席を後方にスライドさせるとコンパクトになるが、ファミリーカーとしての使い勝手は十分に考慮されている。(写真のシート位置は最後方)。また、スライドは左右座面一体となるが、左右の背もたれは独立して倒すことができる

結局のところ、日産のクルマなのか?

皆さんにとって気になるのは、新型eK/デイズでは、企画開発と製造で明確に役割が分かれているところだろう。

開発を担った日産が全てにおいて主導権を持ち、三菱はクルマを製造しただけ。そう考えるのは、実は早合点といえる。日産と三菱は、企画段階で新型車の目標についてじっくりと話し合った上、開発中もさまざまなステップで、三菱サイドが確認を行ったという。三菱では、新型車の開発に充当するはずの人員・コストを抑制できた分、新しいeKのキャラクターやデザインを追求することができた。その中で生まれたのが、全く新しいeKクロスだったのである。

三菱自動車がeKクロスを生み出せたのは、先代eKの経験を踏まえた結果でもあった。先代eKを発売した時に三菱は、軽自動車で人気の高いエアロパーツを装着したカスタム仕様「eKカスタム」を展開。これは日産の「デイズ ハイウェイスター」に相当するモデルだったのだが、ハイウェイスターの人気とは裏腹に、eKカスタムはあまり支持されなかったという経緯がある。そこで三菱は今回、同社らしいデザインのバリエーションを開発しようと考え、SUV風のeKクロスを作り出したのだ。

「eKクロス」からは、日産風のカスタム車ではなく、自分たちらしいクルマを作り出そうとした三菱の意図を感じる

三菱は、ただ単にデザインの異なるeKを投入したのではない。バンパーやグリルに加え、コストの掛かるヘッドライトもeKクロスは専用設計なのだ。特に、大型の縦型LEDヘッドライトの開発には、搭載位置のスペースの関係で苦労したという。ただ、その努力は報われており、新型車の受注の約6割がeKクロスだそうだ。

「ワゴン」と「クロス」、どっちを選ぶ?

実際に「eKワゴン」と「eKクロス」を乗り比べてみると、eKワゴンからは素性のよさを感じた。何より、ボディがしっかりしているのだ。乗り心地もよく、静粛性も高かった。ホンダの新型「N-BOX」のように、イマドキの軽自動車は一皮むけて、リッタークラスのコンパクトカーの脅威となっているが、ekも明らかに、そのラインを狙っているようだ。

次に、モーターアシスト付きの自然吸気エンジンとターボエンジンのeKクロスを比較してみたが、ターボ車でなくとも十分、リッタークラスのコンパクトカーと勝負できそうに思えた。街中で時速60キロくらいまで加速するなら、自然吸気エンジンで十分。ekクロスにはモーターアシストが付いているが、これが割といい仕事をしているようで、加速力には若干の余裕を感じた。

この加速力には、新しいCVTも大いに貢献している。新CVTでは、加速時のエンジン音の抑制を目的に、無段変速のCVTでありながら、わざとATのようなステップ変速制御を行う。つまり、エンジンパワーを最も効率よく引き出すというCVTの魅力を最大限に発揮することをあえてやめているのだが、それは、フルにエンジンパワーを引き出す時に限った話。実は、市街地走行で使う時速60キロくらいの領域であれば、新CVTの方がエンジン回転数をより高くまで使えるので、加速はよくなるというのだ。

もちろん、加速のよさや高速巡行時の静粛性はターボが1枚上手だが、自然吸気エンジンも十分に作り込まれている。軽自動車の特性をしっかりと押さえたクルマ作りだ。最も魅力的なのは、真っすぐ走らせやすいところだろう。これは、新開発の骨格によりボディ剛性が高まった恩恵といえる。さらに、電動パワーステアリングには、センター位置に戻る制御などの改良を加えてあるそうだ。

ボディ剛性の向上や電動パワーステアリングの改良などにより、「eK」はまっすぐ走らせやすいクルマに仕上がっている(画像は「eKクロス」)

もちろん、先進運転支援機能のマイパイロットも高速道路で試した。この機能を起動すると、クルマは同一車線内を設定した速度内で走行し、前走車に合わせて、加減速および停車まで行ってくれる。軽自動車には贅沢な装備といえるが、ボディから鍛えてあることもあり車線内の中央維持走行は安定していて、試乗区間で機能が停止したのも、大きなカーブの1カ所だけ。しかも、機能停止から復帰まではスムーズだった。これなら、緩いカーブと直線を中心とする高速道路であれば活躍してくれそうだ。もちろん、速度の低い渋滞時なら、問題なく前車を追従してくれるだろう。軽自動車でも、たまに遠出をする人なら選ぶ価値はありそうだ。

eKシリーズの全体的な評価としては、軽自動車を開発したことのない日産が、かえって軽自動車の常識にとらわれず、1クラス上のコンパクトカーまで意識した作り込みを行った恩恵が、随所に感じられるクルマに仕上がっていた。軽ハイトワゴンを検討するなら、候補に入れたくなる1台だ。

オススメは、やはりeKクロス。SUV風で、最低地上高もeKワゴンと変わらず、「なんちゃって」ではあるものの遊び心があるアクティブなスタイルは、乗る人を元気にしてくれ、所有欲も満たしてくれるだろう。基本的な安全運転支援機能は標準装備として付いてくる。あとは先進のマイパイロットを付けるかどうかだが、そこは自身の乗り方を念頭に置いて検討すべきだろう。

ターボエンジン車が新登場! 多様化したホンダ「ヴェゼル」の選び方

ターボエンジン車が新登場! 多様化したホンダ「ヴェゼル」の選び方

2019.03.29

ホンダが人気SUV「ヴェゼル」に新グレードを設定

新たにターボエンジンを搭載、走りはどう変わったか

3種類に増えた「ヴェゼル」、選択の基準は?

ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレード「ツーリング」が追加となった。この仕様は最上級グレードで、パワフルな1.5Lターボエンジンを新搭載しているのが大きな特徴だ。新たなパワートレインでヴェゼルはどう変わったのだろうか。既存モデルと乗り比べた。

新たなパワートレインを搭載したホンダの「ヴェゼル ツーリング」

ヴェゼルが発売されたのは2013年12月のこと。街乗りを基本とした全く新しい小型SUVとして注目を集め、発売と共に大人気となった。2018年12月までの5年間で、国内累計販売台数は約36万7,000台を記録。6年目を迎えた現在も安定して売れているホンダのヒットモデルだ。

2018年2月のマイナーチェンジでは、先進の安全運転支援システム「Honda SENSING」(ホンダ センシング)の全車標準化をはじめ、ハイブリッドシステムの改良、静粛性や燃費性能の向上、内外装の小幅な変更などを実施してブラッシュアップを図った。そして今回、マイナーチェンジ車をベースとする新エンジン専用グレード「ツーリング」が登場した。価格はシリーズで最も高価な290万3,040円となる。

前回のマイナーチェンジ車にターボエンジンを搭載し、各部に専用の改良を加えたのが「ヴェゼル ツーリング」だ。リヤスタイルの大きな違いとしては、左右出しとなるマフラーが挙げられる

最大の違いはエンジン! 排気量据え置きでパワーアップ

ホンダが「ツーリング」を投入した狙いは、ヴェゼルの走行性能を強化することだ。

ヴェゼルでは従来、2種類のエンジン(ガソリン仕様)が選べた。1つは1.5Lの4気筒エンジンで、最高出力は131ps、最大トルクは155Nm。もう1つはハイブリッド車で、132ps/156Nmを発揮する1.5Lの4気筒エンジンに、29.5ps/160Nmの駆動用モーターを組み合わせたものだ。エンジン単体の出力がさほど大きくないので、走りを重視するならモーターアシストが得られるハイブリッド一択だった。

特に、最新型のヴェゼルが搭載するハイブリッドシステム「i-DCD」は、燃費最重視だった同システムが、走りの良さと燃費を両立させた「乗って楽しいハイブリッド」へと進化したこともあって、その傾向が強まっていた。ところが、「ツーリング」が搭載する新しい1.5Lターボエンジンは、既存のエンジンと同じ排気量でありながら、ガソリン仕様との比較で最高出力が41ps増の172ps、最大トルクが65Nm増の220Nmと、大幅にパワーアップしている。

さらにホンダは、CVT(無段変速機)のプログラムやボディ補強といった専用チューニングを加えるなど、「ツーリング」の開発に徹底したこだわりを見せている。内外装でも差別化を図り、専用仕様とすることで質感を高めた。

専用仕様となり質感が高まった「ヴェゼル ツーリング」の内装。撮影車はオプションの本革シート仕様だが、標準ではウルトラスエードとフェイクレザーによるコンビシートを装着。シート地の色を専用の組み合わせとし、他グレードとの差別化を図っている

得意領域が異なる2台に試乗

今回の試乗では、ハイブリッド車の「ハイブリッド RS」とターボ車の「ツーリング」の2台を乗り比べた。

ハイブリッド RSは走りの楽しさを意識したグレードで、18インチタイヤ、専用サスペンション、パフォーマンスダンパー、可変ステアリングギアレシオ(VGR)などを装備する。「ツーリング」は同モデルをベースとしながら、パワーアップに合わせた専用仕様となっている。どちらのグレードも、前輪駆動車しか選べない点は共通だ。

「ハイブリッド RS」の価格は281万円で、ツーリングよりも約9万3,000円安い。なお、ガソリン車にも「RS」が設定されているが、こちらは247万5,000円だ

最初に試乗したのは赤の「ハイブリッドRS」だ。マイナーチェンジ後のハイブリッド車には初めて乗ったが、i-DCDの制御システムの改良は、すぐに体感できた。

ハイブリッドには無段変速トランスミッションを組み合わせるのが一般的だが、i-DCDは7速の有段変速トランスミッションを備えているのが大きな特徴だ。このため、変速による力強い加速やエンジンブレーキ効果が得られるのがメリットといえる。普通のAT(オートマチックトランスミッション)車から乗り換えても、違和感が少ないハイブリッドカーだ。

「ハイブリッド RS」の運転席。基本的なデザインは共通だが、メーターパネル内の表示やシフトレバーがハイブリッド車専用となるなど違いがある

ところが、デビュー当初はハイブリッドカーらしく燃費を最重視していたため、走りの気持ちよさはスポイルされている感があった。そこでホンダは、前回のマイナーチェンジで低燃費と走りの良さのバランスを狙ったセッティングを施し、そのキャラクターを立たせたのだ。その結果、ハイブリッドRSは、市街地や峠道などで求められるキビキビした走りを得意とし、スポーツカーライクな運転感覚が楽しめるクルマとなった。これならクルマ好きにも刺さる味付けといえる。

当初はハイブリッドカーらしく燃費を最重視していたが、前回のマイナーチェンジにより、ハイブリッドの良さをいかしたスポーツカーライクな走りを獲得。その走りを最も楽しめるグレードが「ハイブリッド RS」だ

一方、「ツーリング」はターボエンジンを搭載するので、スペックでは断然、こちらの方が上だ。しかしながら、そのキャラクターはハイブリッドRSとはやや異なる。こちらはスポーツカー的ではなく、快適なロングドライブに重きを置いたグランドツーリングカーに仕上がっているのだ。

もちろん、街中や峠道の走りも悪くはない。ただ、トランスミッションがCVTだということもあり、加速がスムーズな反面、モーターアシストと変速のあるハイブリッドと比べると加減速にメリハリがない。低速走行が中心となる街中の走行では、ターボパワーがいかしづらい分、ヴェゼルらしいキビキビした走りが薄まった印象を受けた。これだと、ストップ&ゴーが多いシーンでは、大人しいクルマに感じてしまうだろう。

「ヴェゼル ツーリング」(画像)の価格は290万3,040円から。ちなみに、「ヴェゼル」で最も価格の安いガソリン車「G Honda SENSING」(前輪駆動車)というグレードは207万5,000円からだ(※全車に先進安全運転支援機能「Honda SENSING」が標準装備されるが、一部仕様ではレスオプションが選べる)

その強みを発揮するのは、高速道路だ。合流や追い越しなど、一気に加速する必要があるシーンでは、変速ショックのないスムーズで伸びやかな加速が得られる。ギア比も最適化されているので、高速巡行の静粛性にも優れている。もっとサイズの大きい上級車を運転しているような走りのゆとりが感じられた。

「ヴェゼル」に何を求めるかで選択を

パワートレインが3種類となり、選択肢が増えたヴェゼル。新グレード「ツーリング」が、ヴェゼルでは見られなかった世界を見せてくれたことは間違いない。週末に高速道路を使ったロングドライブを楽しむ人、人と荷物をたくさん載せて趣味を楽しみに出かける人には、魅力的なチョイスとなりそうだ。ただ、ヴェゼルのアーバンSUVとしてのキャラクターを考えると、個人的には、キビキビした走りが光るハイブリッド RSの方が魅力的に感じた。

誤解のないようにいっておくと、「ツーリング」の要となるターボエンジンのポテンシャルが高いのは確かだ。同じエンジンを積む「シビック」では、力強くスポーティな走りを楽しむための良いアクセントとなっている。ただ、私が「ツーリング」を選ばないのは、その完成度のためではなく、クルマのキャラクターを考えた上での判断だ。

大人っぽい上級SUVの要素を求めるなら、ホンダ車では1クラス上に位置する「CR-V EX」の前輪駆動車という選択肢も見えてくる。こちらも同じく1.5Lターボを搭載する。確かに価格とサイズに差はあるが、荷物はたくさん積めるし、より車内も広く、快適なクルマだ。価格の差も、CR-Vの標準装備が充実していることを考えると十分、比較対象になる。

上級SUVをホンダ車で探すなら、「CR-V」(画像)のターボエンジン搭載車も選択肢に入ってくる。確かに価格は高いが、ナビやETC2.0車載機などが標準化されており、「ヴェゼル ツーリング」との価格差は思ったより圧縮される

ヴェゼル同士で比較する場合は、価格が有利なガソリン車、燃費と走りをバランスさせたハイブリッド、圧倒的なパワーのターボから、どれを重視して選ぶかという話になる。個人的にはハイブリッドを推したい。ターボとヴェゼルの組み合わせがより魅力的なものにならないかぎり、最上級グレードの「ツーリング」にはちょっと食指が動かないというのが、正直なところだ。

単なる“お安いベンツ”ではない! 試乗で確かめた新型「Aクラス」のコスパ

単なる“お安いベンツ”ではない! 試乗で確かめた新型「Aクラス」のコスパ

2019.03.18

最新のデザイン哲学を採用、見た目の鮮度は抜群

若々しさはそのまま、質感と乗り心地は大幅に向上

Cセグのコンパクトではイチ押し! 気になる今後の派生モデル

メルセデス・ベンツのエントリーモデル「Aクラス」。4代目となる新型は先代からコンセプトを引き継ぎ、若い世代を意識したコンパクトな5ドアハッチバックとして登場したが、乗ると進化は歴然としていた。この新型でAクラスは、単なる“お安いメルセデス”という殻を打ち破ってきたように感じる。

日本では2018年10月に発売となったメルセデス・ベンツの新型「Aクラス」

「Aクラス」の来歴と新型の立ち位置

まず、Aクラスの歴史を振り返ってみよう。このクルマは1997年、メルセデス・ベンツで初めてのコンパクトカーとして登場した。初代はメルセデス・ベンツ初の前輪駆動(FF)車で、実用性を重視したトールワゴンスタイルを採用していたが、これは電気自動車(EV)への発展性も考慮した設計だった。将来的に、キャビン下に電池などを搭載する想定だったのだ。しかしながら、技術およびインフラが共に発展途上であったため、実現はしなかった。

2代目はトールワゴンスタイルを踏襲したが、3代目では大幅なイメチェンを図り、コンパクトな5ドアハッチバックへと転身した。それまでのファミリーカー路線から、スポーティーかつ若々しいキャラクターへと発展を遂げたのだ。これが成功し、人気モデルとなった。

4代目となる新型は、プラットフォームから一新したオールニューモデルで、先代のキャラクターを受け継ぎつつも、メルセデスの末っ子に相応しい質感や先進性を獲得しているのが特徴だ。歴代モデルの進化が示すように、メルセデスの先駆者的な役割も担う。

新型「Aクラス」は先代と比べ質感が大幅に向上している。ボディサイズは全長4,420mm(+65mm)×全幅1,800mm(+20mm)×全高1,420mm(±0)と従来型より少しサイズアップしているが、それでも日本で扱いやすいサイズであることには変わりない

使い手にベストな選択肢を提示する「MBUX」

新型Aクラスは、見た目の鮮度も抜群だ。日本には昨年登場した大型4ドアクーペ「CLS」から、メルセデス・ベンツでは新しいデザイン哲学「Sensual Purity」(官能的純粋)を採用しているが、新型Aクラスもその哲学を共有する。CLSそっくりな迫力のフロントマスクは、サメをモチーフとした「シャークノーズ」と呼ばれる造形。正直、かなりスポーティーでカッコいいと思うし、上級コンパクトにふさわしい風格だ。「ただのコンパクトカーだと思うなよ」という気迫すら感じさせる。

迫力のフロントマスク。撮影車の「A180 Style AMGライン」は、内外装にスポーティーな演出がプラスされ、Aクラスの若々しさも強調されている

インテリアも同様に鮮度がいい。液晶モニターを2枚並べたダッシュボードはかなり未来的な印象で、デスク上に設置されたタブレット端末のようだ。それぞれの主な役割は、運転席側がメーターパネル、中央側がインフォテインメントシステム。よくあるモニターを覆うメーターフードもなく、すっきりとした印象を与える。

未来的な印象のダッシュボード。メーターパネルは表示のカスタマイズが可能だ。中央側のモニターはタッチスクリーンとなっていて、画面上でも操作できる

新型Aクラスでは、インフォテインメントシステム「MBUX」も話題となっている。目玉機能は対話型音声認識機能だ。CMでもお馴染みの、「ハイ! メルセデス」で起動するアレである。

音声認識による操作は他のクルマにもすでに存在しているが、既存のシステムが固定文の命令調言葉による操作であるのに対し、MBUXの場合、ユーザーは細かいことを気にせず、ただ語り掛ければよい。例えば「ちょっと熱いんだけど」と言えば、エアコンの温度調整をしてくれるといった感じだ。

ただ、MBUXが優れているのは、メカスイッチ、タッチスクリーン、タッチパッド、ステアリングスイッチ、音声認識と多彩な操作方法に対応していて、ユーザーがベストな方法を選択できる点にある。誰にでも使いやすいシステムを目指しているのだ。便利さを高めるためにユーザーの行動パターンを予測し、オススメ機能として表示も行う。話題のAIは、この予測を行う学習機能のみに使われている。後にも述べるが、AI機能はかなり限定的なものなのだ。

MBUXはユーザーにベストな選択肢を提供するインフォテインメントシステムといえる

次にキャビンを見ていくと、プラットフォームの一新やボディのサイズアップなどの恩恵もあり、前後席とも空間にゆとりがある。特に後席は、従来型よりも圧倒的に広さを感じる。死角は減らされていて、視認性も向上した。デザインの犠牲になりがちなラゲッジルームも開口部を広げ、容量は29L増の370Lに拡大。後席を倒せば、1,210Lのスペースが生まれる。ファミリーカーとしても使える実用性にはこだわった様子だ。

前後席とも空間にはゆとりがある。シフトレバーはウィンカーなどと同様、ステアリングコラムに装着されている。代わりにセンターコンソールには、MBUXの操作用のタッチパッドが収まる

新開発のパワートレインは、1.33Lの4気筒ターボエンジンに7速DCTが組み合わさる。従来型「A180」に搭載されていた1.6Lターボからは更なるダウンサイズだが、最高出力は136ps、最大トルクは200Nmと性能は向上している。燃費消費率も15.0km/L(WLTCモード)と低燃費だ。バリエーションは増えていくと思われるが、現状で選べるのは、このパワートレインの前輪駆動車のみである。

1.33Lの4気筒ターボエンジン。新開発のエンジンでAクラスが初搭載となる。トランスミッションはAT同様の扱いができる7速DCTを組み合わせる

標準装備も充実しており、前後のLEDランプ、本革巻きステアリング、自動防眩ミラー、MBUX、ワイヤレスチャージング(Qi規格対応の携帯電話)、テレマティクスサービス「Mercedes Connect」などが備わる。オプションの「レーダーセーフティパッケージ」を装着すると、メルセデスのフラッグシップセダン「Sクラス」と同等の先進安全運転支援機能にアップデートできる点もポイントだ。

乗って分かった完成度の高さ

試乗したのは、「A180 Style」と「A180 Style AMGライン」の2台。「AMGライン」の方には、AMGのエアロパーツと18インチのアルミホイール、スポーツレザーシートなどが追加となるが、メカニズムは同様だ。

乗ってみて最初に感じたのは、質感の高さと乗り心地のよさだ。従来型Aクラスでは、若々しさやスポーティーという言葉を盾にして、乗り心地や質感などは全体的に粗削りな仕上がりにしてある部分も見られた。価格差があるとはいえ、メルセデスの鉄板モデル「Cクラス」との明確な格差を感じたものだ。ところが新型は、若々しいAクラスのキャラクターを受け継ぎながらも、快適性や質感などをグンと向上させている。特に静粛性に優れ、車内の会話は前後席間でも明瞭に聞き取れた。

液晶メーターは見やすく、運転もしやすい。高速道路に入ると新エンジンが実力を発揮し、不満のないスムーズな加速を見せてくれた。エンジン回転数を高めるとスポーティーな排気音を奏でるが、それでも車内は十分以上に静かだ。運転する楽しみを演出すべく、開発時には排気音にもこだわったのだろう。

若々しいキャラクターはそのままに、乗り心地や静粛性などで完成度の高さを感じさせた新型「Aクラス」

試乗前に、メルセデス・ベンツ日本の広報担当者から「ぜひ試してみてほしい」と言われたので、後席にも収まってみた。その広さにはゆとりがあり、体格のいい男である私が座って長距離を移動しても、問題がないのではと感じるほどだった。

後席の方が不利となる静粛性についても、排気音を含め決してうるさくはなく、そのレベルは高かった。さらには、MBUXの音声操作を後席から行えることも確認できた。何処に座っていても、車載機能を音声で操れるのはMBUXの魅力だ。

後席にはゆとりがあるので、体格のいい男性でも楽に長距離を移動できそう

正直、MBUXの音声認識はまだまだ発展途上の段階で、うまく理解してもらえず、がっかりするシーンもあった。しかしながら、車載ソフトとクラウドの両方でカバーする仕組みなので、今後、言葉の理解度もどんどん上がってくるはずだ。メーカー側も、幅広い層が使うコンパクトカーから同機能を導入し、積極的に使ってもらうことで、ブラッシュアップを図っていくつもりなのだろう。

最後にタイヤサイズの違いだが、前後席ともに、乗り心地でいえば標準の16インチの方が上だった。しかし、AMGラインの18インチも悪くはない。ここは、見た目の好みだけで決めていいだろう。

乗り心地をとるかカッコよさをとるか…タイヤサイズは好みで決めていいだろう(画像はAMGラインの18インチ)

新型「Aクラス」はメルセデスらしい仕上がり

従来型で理想像を模索してきた積み重ねもあってか、新型Aクラスは「プレミアムコンパクトカー」と呼ぶにふさわしい内容に仕上がっている。Cセグメントのコンパクトカーの中では、このクルマがイチ押しだ。ただ、322万円のエントリーグレード「A180」では、Aクラスの魅力の全てを味わえないことは忘れてはならない。「A180 Style」の方は快適装備がプラスされ、メーターの液晶パネルは表示が大きくなる。

例えば、「A180」でもMBUXは標準装備だが、カーナビ機能はオプションとなっている。さらに、先進安全運転支援機能の「レーダーセーフティパッケージ」も外せない。この2つを組み合わせると、約43万円のプラスになる。エントリーといえども、やはり価格はメルセデスだ。

「A180」の車両本体価格は328万円、「A180 Style」は同369万円。「A180 Style」にオプションのレーダーセーフティパッケージとナビゲーションパッケージを付けると419万2,440円になる。画像の新型「Aクラス」は「AMGライン」というオプション(25万5,000円)を装着している

しかしながら、以前のAクラスよりも、新型の方が断然、コスパは良好だ。格上であるCクラスとのギャップに悩む必要もないだろう。Cクラスにステップアップしたければ、すればいい。それだけ、新型Aクラスはメルセデスらしさを十分に備えていて、しかも新鮮さに溢れている。中身をしっかりと磨き上げてきた姿勢は、キャラクターこそ違うが、日本人を魅了し、“小ベンツ”の愛称で親しまれた「190E」を彷彿させる。

また、個人的には、Aクラスとベースを共有するスペシャルティカー「CLA」や「GLA」の次期モデルにも注目している。どちらも小型上級車だが、既存モデルに対しては、もう少し上を見せてほしいという思いがあった。その点、次のCLAおよびGLAは新型Aクラスをベースとするので、それを叶えてくれることだろう。そういう意味では、小さくともメルセデスの贅沢さを存分に味わいたいと考える人ならば、これら派生モデルの登場を待つべきなのかもしれない。