「大音安弘」の記事

大音安弘(おおとやすひろ)

自動車ライター

単なる“お安いベンツ”ではない! 試乗で確かめた新型「Aクラス」のコスパ

単なる“お安いベンツ”ではない! 試乗で確かめた新型「Aクラス」のコスパ

2019.03.18

最新のデザイン哲学を採用、見た目の鮮度は抜群

若々しさはそのまま、質感と乗り心地は大幅に向上

Cセグのコンパクトではイチ押し! 気になる今後の派生モデル

メルセデス・ベンツのエントリーモデル「Aクラス」。4代目となる新型は先代からコンセプトを引き継ぎ、若い世代を意識したコンパクトな5ドアハッチバックとして登場したが、乗ると進化は歴然としていた。この新型でAクラスは、単なる“お安いメルセデス”という殻を打ち破ってきたように感じる。

日本では2018年10月に発売となったメルセデス・ベンツの新型「Aクラス」

「Aクラス」の来歴と新型の立ち位置

まず、Aクラスの歴史を振り返ってみよう。このクルマは1997年、メルセデス・ベンツで初めてのコンパクトカーとして登場した。初代はメルセデス・ベンツ初の前輪駆動(FF)車で、実用性を重視したトールワゴンスタイルを採用していたが、これは電気自動車(EV)への発展性も考慮した設計だった。将来的に、キャビン下に電池などを搭載する想定だったのだ。しかしながら、技術およびインフラが共に発展途上であったため、実現はしなかった。

2代目はトールワゴンスタイルを踏襲したが、3代目では大幅なイメチェンを図り、コンパクトな5ドアハッチバックへと転身した。それまでのファミリーカー路線から、スポーティーかつ若々しいキャラクターへと発展を遂げたのだ。これが成功し、人気モデルとなった。

4代目となる新型は、プラットフォームから一新したオールニューモデルで、先代のキャラクターを受け継ぎつつも、メルセデスの末っ子に相応しい質感や先進性を獲得しているのが特徴だ。歴代モデルの進化が示すように、メルセデスの先駆者的な役割も担う。

新型「Aクラス」は先代と比べ質感が大幅に向上している。ボディサイズは全長4,420mm(+65mm)×全幅1,800mm(+20mm)×全高1,420mm(±0)と従来型より少しサイズアップしているが、それでも日本で扱いやすいサイズであることには変わりない

使い手にベストな選択肢を提示する「MBUX」

新型Aクラスは、見た目の鮮度も抜群だ。日本には昨年登場した大型4ドアクーペ「CLS」から、メルセデス・ベンツでは新しいデザイン哲学「Sensual Purity」(官能的純粋)を採用しているが、新型Aクラスもその哲学を共有する。CLSそっくりな迫力のフロントマスクは、サメをモチーフとした「シャークノーズ」と呼ばれる造形。正直、かなりスポーティーでカッコいいと思うし、上級コンパクトにふさわしい風格だ。「ただのコンパクトカーだと思うなよ」という気迫すら感じさせる。

迫力のフロントマスク。撮影車の「A180 Style AMGライン」は、内外装にスポーティーな演出がプラスされ、Aクラスの若々しさも強調されている

インテリアも同様に鮮度がいい。液晶モニターを2枚並べたダッシュボードはかなり未来的な印象で、デスク上に設置されたタブレット端末のようだ。それぞれの主な役割は、運転席側がメーターパネル、中央側がインフォテインメントシステム。よくあるモニターを覆うメーターフードもなく、すっきりとした印象を与える。

未来的な印象のダッシュボード。メーターパネルは表示のカスタマイズが可能だ。中央側のモニターはタッチスクリーンとなっていて、画面上でも操作できる

新型Aクラスでは、インフォテインメントシステム「MBUX」も話題となっている。目玉機能は対話型音声認識機能だ。CMでもお馴染みの、「ハイ! メルセデス」で起動するアレである。

音声認識による操作は他のクルマにもすでに存在しているが、既存のシステムが固定文の命令調言葉による操作であるのに対し、MBUXの場合、ユーザーは細かいことを気にせず、ただ語り掛ければよい。例えば「ちょっと熱いんだけど」と言えば、エアコンの温度調整をしてくれるといった感じだ。

ただ、MBUXが優れているのは、メカスイッチ、タッチスクリーン、タッチパッド、ステアリングスイッチ、音声認識と多彩な操作方法に対応していて、ユーザーがベストな方法を選択できる点にある。誰にでも使いやすいシステムを目指しているのだ。便利さを高めるためにユーザーの行動パターンを予測し、オススメ機能として表示も行う。話題のAIは、この予測を行う学習機能のみに使われている。後にも述べるが、AI機能はかなり限定的なものなのだ。

MBUXはユーザーにベストな選択肢を提供するインフォテインメントシステムといえる

次にキャビンを見ていくと、プラットフォームの一新やボディのサイズアップなどの恩恵もあり、前後席とも空間にゆとりがある。特に後席は、従来型よりも圧倒的に広さを感じる。死角は減らされていて、視認性も向上した。デザインの犠牲になりがちなラゲッジルームも開口部を広げ、容量は29L増の370Lに拡大。後席を倒せば、1,210Lのスペースが生まれる。ファミリーカーとしても使える実用性にはこだわった様子だ。

前後席とも空間にはゆとりがある。シフトレバーはウィンカーなどと同様、ステアリングコラムに装着されている。代わりにセンターコンソールには、MBUXの操作用のタッチパッドが収まる

新開発のパワートレインは、1.33Lの4気筒ターボエンジンに7速DCTが組み合わさる。従来型「A180」に搭載されていた1.6Lターボからは更なるダウンサイズだが、最高出力は136ps、最大トルクは200Nmと性能は向上している。燃費消費率も15.0km/L(WLTCモード)と低燃費だ。バリエーションは増えていくと思われるが、現状で選べるのは、このパワートレインの前輪駆動車のみである。

1.33Lの4気筒ターボエンジン。新開発のエンジンでAクラスが初搭載となる。トランスミッションはAT同様の扱いができる7速DCTを組み合わせる

標準装備も充実しており、前後のLEDランプ、本革巻きステアリング、自動防眩ミラー、MBUX、ワイヤレスチャージング(Qi規格対応の携帯電話)、テレマティクスサービス「Mercedes Connect」などが備わる。オプションの「レーダーセーフティパッケージ」を装着すると、メルセデスのフラッグシップセダン「Sクラス」と同等の先進安全運転支援機能にアップデートできる点もポイントだ。

乗って分かった完成度の高さ

試乗したのは、「A180 Style」と「A180 Style AMGライン」の2台。「AMGライン」の方には、AMGのエアロパーツと18インチのアルミホイール、スポーツレザーシートなどが追加となるが、メカニズムは同様だ。

乗ってみて最初に感じたのは、質感の高さと乗り心地のよさだ。従来型Aクラスでは、若々しさやスポーティーという言葉を盾にして、乗り心地や質感などは全体的に粗削りな仕上がりにしてある部分も見られた。価格差があるとはいえ、メルセデスの鉄板モデル「Cクラス」との明確な格差を感じたものだ。ところが新型は、若々しいAクラスのキャラクターを受け継ぎながらも、快適性や質感などをグンと向上させている。特に静粛性に優れ、車内の会話は前後席間でも明瞭に聞き取れた。

液晶メーターは見やすく、運転もしやすい。高速道路に入ると新エンジンが実力を発揮し、不満のないスムーズな加速を見せてくれた。エンジン回転数を高めるとスポーティーな排気音を奏でるが、それでも車内は十分以上に静かだ。運転する楽しみを演出すべく、開発時には排気音にもこだわったのだろう。

若々しいキャラクターはそのままに、乗り心地や静粛性などで完成度の高さを感じさせた新型「Aクラス」

試乗前に、メルセデス・ベンツ日本の広報担当者から「ぜひ試してみてほしい」と言われたので、後席にも収まってみた。その広さにはゆとりがあり、体格のいい男である私が座って長距離を移動しても、問題がないのではと感じるほどだった。

後席の方が不利となる静粛性についても、排気音を含め決してうるさくはなく、そのレベルは高かった。さらには、MBUXの音声操作を後席から行えることも確認できた。何処に座っていても、車載機能を音声で操れるのはMBUXの魅力だ。

後席にはゆとりがあるので、体格のいい男性でも楽に長距離を移動できそう

正直、MBUXの音声認識はまだまだ発展途上の段階で、うまく理解してもらえず、がっかりするシーンもあった。しかしながら、車載ソフトとクラウドの両方でカバーする仕組みなので、今後、言葉の理解度もどんどん上がってくるはずだ。メーカー側も、幅広い層が使うコンパクトカーから同機能を導入し、積極的に使ってもらうことで、ブラッシュアップを図っていくつもりなのだろう。

最後にタイヤサイズの違いだが、前後席ともに、乗り心地でいえば標準の16インチの方が上だった。しかし、AMGラインの18インチも悪くはない。ここは、見た目の好みだけで決めていいだろう。

乗り心地をとるかカッコよさをとるか…タイヤサイズは好みで決めていいだろう(画像はAMGラインの18インチ)

新型「Aクラス」はメルセデスらしい仕上がり

従来型で理想像を模索してきた積み重ねもあってか、新型Aクラスは「プレミアムコンパクトカー」と呼ぶにふさわしい内容に仕上がっている。Cセグメントのコンパクトカーの中では、このクルマがイチ押しだ。ただ、322万円のエントリーグレード「A180」では、Aクラスの魅力の全てを味わえないことは忘れてはならない。「A180 Style」の方は快適装備がプラスされ、メーターの液晶パネルは表示が大きくなる。

例えば、「A180」でもMBUXは標準装備だが、カーナビ機能はオプションとなっている。さらに、先進安全運転支援機能の「レーダーセーフティパッケージ」も外せない。この2つを組み合わせると、約43万円のプラスになる。エントリーといえども、やはり価格はメルセデスだ。

「A180」の車両本体価格は328万円、「A180 Style」は同369万円。「A180 Style」にオプションのレーダーセーフティパッケージとナビゲーションパッケージを付けると419万2,440円になる。画像の新型「Aクラス」は「AMGライン」というオプション(25万5,000円)を装着している

しかしながら、以前のAクラスよりも、新型の方が断然、コスパは良好だ。格上であるCクラスとのギャップに悩む必要もないだろう。Cクラスにステップアップしたければ、すればいい。それだけ、新型Aクラスはメルセデスらしさを十分に備えていて、しかも新鮮さに溢れている。中身をしっかりと磨き上げてきた姿勢は、キャラクターこそ違うが、日本人を魅了し、“小ベンツ”の愛称で親しまれた「190E」を彷彿させる。

また、個人的には、Aクラスとベースを共有するスペシャルティカー「CLA」や「GLA」の次期モデルにも注目している。どちらも小型上級車だが、既存モデルに対しては、もう少し上を見せてほしいという思いがあった。その点、次のCLAおよびGLAは新型Aクラスをベースとするので、それを叶えてくれることだろう。そういう意味では、小さくともメルセデスの贅沢さを存分に味わいたいと考える人ならば、これら派生モデルの登場を待つべきなのかもしれない。

損なのか得なのか? ユーザー目線で考えるトヨタのサブスク「KINTO」

損なのか得なのか? ユーザー目線で考えるトヨタのサブスク「KINTO」

2019.02.20

トヨタがクルマの月額定額サービス「KINTO」を開始

「カローラ スポーツ」が3年で192万円強

このサービスをトヨタが始めることの意義

トヨタが提案する新しいクルマとの関係、それが愛車サブスクリプションサービス「KINTO」(キント)だ。簡単にいえば3年契約の自動車購入プランだが、最大の魅力は“明朗会計”とでもいうべき月額負担のみで、クルマのある生活を手にすることができるところ。この新たな販売形態は、我々にどんなメリットをもたらすのだろうか。ユーザー目線で考えてみた。

トヨタがクルマのサブスクリプションサービス「KINTO」を始める

「プリウス」が月々4万9,788円から乗れる新サービス

トヨタは2019年2月5日、愛車サブスクリプションサービスの運営会社として株式会社KINTOを設立すると発表した。新サービス「KINTO」の名称は、西遊記に登場する「筋斗雲」からインスパイアされたもの。必要な時にすぐに現れ、思いのままに移動できる便利さや自由さを表しているとのことだ。

KINTOの愛車サブスクリプションサービスは3年契約で、毎月定額料金を支払えば、クルマを期間限定で所有できる。単に車両代が定額なのではなく、月々の料金には、登録時の諸費用および税金、メンテナンス費、任意保険、毎年の自動車税までが含まれている。このほかの負担といえば、ガソリン代や洗車代、必要な人には駐車場代くらいで済んでしまう。複雑なクルマのコストをシンプル化したことは同サービスの特筆すべき点といえるだろう。

サービスメニューは、トヨタ車対応の「KINTO ONE」とレクサス車対応の「KINTO SELECT」の2つが用意されている。

KINTO ONEで選べるのは、「プリウス」「カローラ スポーツ」「アルファード」「ヴェルファイア」「クラウン」の5車種。全てハイブリッド仕様となる。選択できるグレードは制限されるが、ボディカラーは自由に選べる(有償色は追加料金)。オプションはパッケージされたものから選択することになるようだ。サービス開始が3月1日からなので、詳しい仕様やオプションパッケージの追加料金などは明かされていないが、最も安いプリウスの場合、月額(税込み)4万9,788円~5万9,832円で手にすることができる。ボーナス併用払いを利用すれば、月々の負担を減らすことが可能だ。

KINTO ONEは「プリウス」(画像)などトヨタ車5車種からクルマを選べる。月額料金は4万9,788円~5万9,832円

KINTO SELECTでは「ES」「IS」「RC」「UX」「RX」「NX」から1台を選ぶ。車種はセダン、クーペ、SUVと豊富だ。選べるのはハイブリッドモデルのみとなる。3年契約であることに変わりはないが、KINTO ONEと違うのは、これら6車種のうち、1台に3年乗るわけではなく、6か月ごとに乗り換えができるところ。月額料金は194,400円と高めだが、こちらも全ての費用が“コミコミ”となっている。

KINTO SELECTは「UX」(画像)などレクサス車6車種からクルマを選べる。月額料金は19万4,400円だ

新車に半年ごとに乗り換えられるのはかなり贅沢といえるが、残念なのは、グレードとカラー、装着オプションまでが完全指定となってしまうこと。これは、納期などの事情を考慮した結果だという。ちなみに、KINTO SELECTは2月6日に始まったばかりだが、2月13日の時点で、すでに契約者が現れているというのには少し驚いた。

なぜハイブリッド車だけのラインアップなのか

車両のラインアップを見て気になったのは、全てがハイブリッド車である点だ。トヨタが先頃、KINTOについての説明会を東京で開催したので、この点について質問してみると、株式会社KINTOの小寺信也社長からは、「DCM(車載通信機)搭載車のみに限定した」との回答が得られた。もちろん、人気や需要を踏まえた点もあるだろう。しかし、リアルなところでは、エコカーに適用される減税の恩恵を考慮したという事情があるのかもしれない。

ただ、トヨタはKINTOがDCM搭載車のみであることを、ユーザーメリットとして還元する手立てについても検討している。それが運転のポイント化だ。通信機能を用いた運転の評価を行い、安全運転やエコ運転など、その乗り手がクルマを大切に扱っていると判断できれば、それを利用料金の値引きという形で還元する手法である。さらに、このデータを、KINTO利用車両の中古車販売時の品質保証にも役立てるようだ。

このほか、KINTOでは販売や追加サービスについても様々な構想を検討している模様。小寺社長によれば、中古車版のKINTOも将来的には検討してみたいアイデアだそうだ。また、地域によっては、冬期のマストアイテムであるスタッドレスタイヤについても、オプションとして対応できるように考えているとのことだった。

KINTOにラインアップされたのは、「クラウン」(画像)などDCMを搭載する車両のみ。いわゆる「コネクティッド技術」を利用すれば、ドライバーの運転を評価し、その評価に合わせたポイントを付与することができる 

KINTO ONEとKINTO SELECTのどちらのサービスも、まずは東京地区から試験的に始めて、今年の夏以降には全国に展開し、秋口にはサービス対象車を拡大していく計画だという。サービス拡大に合わせて、それぞれの車種や仕様など選択肢も増えていくようだ。

KINTOのユーザーメリットとしては、3年間の車両代および維持費というコストを明確化できる点に加え、購入プロセスを簡素化できる点が挙げられる。最終的な契約では販売店に出向く必要があるが、車両のセレクトや見積もりなどはWEBで済ますことが可能だ。ワンプライスのため、値引きを引き出す営業マンとの駆け引きも不要となる。

注目すべきは、自動車任意保険が料金に含まれていることだろう。基本的な対物・対人だけでなく、フルカバーの車両保険である点にも言及しておきたい。また、全年齢に対応しているので、保険料が高くなる若い人ほど大きなメリットが享受できる。車両保険の免責は5万円なので、もしもの際、負担が最小限で済むのも嬉しい。

KINTO ONEで「アルファード」(画像)を選んだ場合の月額料金は8万5,320円~9万9,360円。これは登録時の諸費用や任意保険などを含む価格だ

気になる“お得度”を「カローラ スポーツ」で考える

ただ、やはり気になるのは、同サービスの“お得度”だろう。そこで、今回はグレード構成が分かりやすい「カローラ スポーツ」を例にとって考えてみたい。

対象車である「カローラ スポーツ」のエントリーグレードである「ハイブリッドG“X”」の車両価格は241万9,200円。これに対し、「KINTO ONE」の月額料金の下限は5万3,460円なので、年間で64万1,520円、3年間の総額は192万4,560円とそれなりの金額になる。

比較対象としやすいのが、車両価格の一部を据え置く残価設定型ローンだ。とあるトヨタ販売店のWEBサイトを訪れ、車両本体のみで「カローラ スポーツ」を購入した場合の残価設定ローン(3年契約)を試算してみると、頭金なし、金利4.5%で月々4万7,400円となった。残価設定ローンの場合、一定額を据え置くので、最終回に据え置き額を支払わなければ、クルマは返却しなくてはならないので条件は似ている。これにメンテナンス代、自動車任意保険、2年目以降の自動車税などが加わることを考えると、もしかしたら、KINTOはお得なのかもと思えてきた。

ただし、普通にクルマを購入する際には、値引きや付属品のサービスがある(可能性がある)ことは、忘れてはいけないポイントだ。金利だって、キャンペーンなどでもっと条件が良いこともある。とはいえ、自動車保険のことを考えると、少なくとも若者は、KINTOをトヨタからの魅力的な提案と受け取るかもしれない。

KINTO ONEで「カローラ スポーツ」(画像)を3年間乗る場合、料金は“コミコミ”で192万4,560円だ

トヨタがわざわざ自社でサブスクリプションサービスを展開する狙いは、新たな自動車ユーザーの掘り起こしだけでなく、販売店のネットワーク維持と収益確保にもある。仮にトヨタのクルマを使ったサービスであったとしても、他社のサブスクリプションサービスやリースなどでは、必ずしもトヨタの販売店を利用するとは限らないからだ。

また、KINTOは定額販売なので、販売に必要な人件費が削減できるし、販売後もメンテナンスによる定期的な入庫がある。これがメンテナンスによる収益を生み出し、KINTOユーザーとの関係を築く時間ともなる。その販売店をKINTOユーザーが気に入れば、3年後、次のクルマを選ぶ際、新車購入かKINTOの新契約になるのかなど選択肢は色々あるものの、とにかく同店の顧客となる可能性があるのだ。

また、KINTOは値引きなしのワンプライス販売なので、同サービスが普及すれば、トヨタの収益率向上に寄与するのはもちろんのこと、3年後の中古車価格の向上にもつながるかもしれない。

クルマの月額定額サービスは損なのか得なのか

結局のところ、KINTOは得なのか、損なのか。高級車をコロコロ乗り換えるKINTO SELECTは別格として、KINTO ONEの詳しいメニューが明かされるまで明言しづらい点はあるが、トヨタ自身も手探り状態であり、割高と思われないような価格設定に苦心していることは感じられた。

まだまだテスト段階ともいえるKINTOだが、購入プロセスの簡素化、完全月額定額による分かりやすい価格設定などにより、本来であればまとまった資金が必要となる愛車購入を検討してもらいやすくする上で、トヨタにとって新たなオプションとなるのは間違いなさそうだ。また、3年契約なので、ユーザーはライフスタイルに合わせてクルマを選べるという利点もある。

ただ、自動車自体の完成度は年々高まっており、ユーザーの平均保有期間と自動車の寿命は長くなっているのが現実でもある。コスト面で考えれば、1台を長期保有した方がトータルで安く済むのは間違いない。また、KINTOは定額サービスであるがゆえに、目先のコストだけに捕らわれた結果、身の丈に合わないクルマを選んでしまう危険性もあるだろう。

とはいえ、KINTOというサービスの登場が、とりあえず一度、クルマを持ってみようと考えるきっかけになるケースはあるはずだ。“所有”にこだわらない時代に、まずはクルマと向き合ってみるという機会を作り出すだけでも、トヨタがKINTOを始める意味は大きいのかもしれない。

これが“メイド・イン・ホンダ”の真髄! 「NSX」の2019年モデルに試乗

これが“メイド・イン・ホンダ”の真髄! 「NSX」の2019年モデルに試乗

2019.02.08

ホンダのスーパーカー「NSX」に改良モデル、試乗で感じた実力

見た目で判断するのは早計! 高性能でも間口の広い新型NSX

開発者が日本人になっても変わらない? NSXが継承するもの

日本を代表するスーパーカーであるホンダ「NSX」が復活を果たしたのは、2016年8月のこと。2シーター、ミッドシップレイアウト、アルミボディ構造など、従来型と共通する特徴を備えつつも、ハイブリッドシステムによる4WD車という現代的なハイテクスーパーカーへと進化を遂げていた。

さらに、クルマづくりの指揮をとる開発責任者(ホンダではラージプロジェクトリーダー=LPLと呼ぶ)が米国人となり、生産も米国の新工場に移るなど、NSXが“メイド・イン・USA”となったことも話題となった。

そんな2代目NSXだが、復活から約2年となる2018年10月に、初の改良型となる「2019年モデル」が発表となった。主な改良点は、内外装のリファインと走行性能の向上である。また、このモデルではLPLが日本人となった。発売は2019年5月で、価格は据え置きの2,370万円。今回はNSXの2019年モデルに試乗し、新世代ジャパニーズ・スーパーカーの今に迫った。

ホンダ「NSX」の2019年モデル。色は新色のサーマルオレンジ・パール。外観上の変更は、フロントグリルをボディ同色にするなど限定的だ

ホンダの技術の集大成として誕生した初代「NSX」

試乗の感想をお伝えする前に、まずはNSXの歴史を振り返っておきたい。このクルマの初代は、日本がバブル期にあった1990年、世界に通用するホンダのフラッグシップスポーツとして誕生した。ホンダは同じV型8気筒(V8)エンジンを搭載するミッドシップのスーパーカー、フェラーリ「328」をライバルと想定してNSXを開発したといわれる。あのアイルトン・セナも開発テストに関わるなど、多くの逸話を持つクルマだ。

初代「NSX」。ホンダはフェラーリ「328」をライバルと想定して開発を進めたといわれる。生産台数の多くが、写真の初期型だった。スーパーカーのお約束アイテムであるリトラクタブルヘッドライト(格納式ヘッドライト)も採用。ただし、最終型のみ固定式ヘッドライトに改められた

もちろん、初代NSXはクルマとしても魅力的で、スポーツカーらしい流麗なスタイル、オールアルミ製ボディ、ミッドシップレイアウト、高回転型自然吸気エンジンなど、F1参戦などでホンダが培った技術の集大成というべきモデルであった。事実上、日本初の量産スーパーカーであった点も注目され、国産車としては異例の約1,000万円という価格ながら、発売と共に大人気となる。その後、ホンダは改良を加えながらNSXを作り続けたが、2006年には惜しまれつつも生産を終了。それから10年の歳月を経て復活したのが、2代目となる現行型NSXというわけだ。

新型「NSX」は3つのモーターを駆使する高性能な4WD

現行型NSXのスペックを簡単に紹介しておくと、ボディサイズは全長4,490mm、全幅1,940mm、全高1,215mm。低重心を連想させる抑えられた全高とワイドで伸びやかなスタイリングは、まさにスーパーカーそのものといった感じだ。キャビンは2名乗車仕様で、後方にエンジンを搭載するミッドシップレイアウトを採用する。

2019年モデルの内装。こちらも変更点は最小限。シートはホールド性を高めたセミバケットタイプだが、大柄の人間が乗っても快適なものだ

そのパワートレインは3.5LのV6ツインターボに9速DCTを組み合わせ、更にハイブリッドシステム「スポーツハイブリッドSH-AWD」を装備する。これはホンダの最上級に位置するハイブリッドシステムで、搭載すると環境性能が高まるだけでなく、スポーツ走行にも活用できる。

3.5LのV6ツインターボエンジン。ガラス越しにインテリアが見える。このように、乗員のすぐ背面にエンジンを搭載するのがミッドシップレイアウトだ

搭載するのは3機のモーターだ。エンジンに直結させる後輪用駆動モーターに加え、前輪左右それぞれに駆動モーターを備える。前輪は完全に電動化されていて、左右に与えるパワーを自在にコントロールすることが可能。すなわち、高性能な4WD車なのである。

エンジン単体の性能は、最高出力507ps、最大トルク550Nmと申し分ないが、ここにモーターが加わる。モーターそれぞれの性能は前輪用が37ps/73Nm(1モーターあたり)、後輪用が48ps/148Nmを発揮する。エンジンとモーターを合わせたシステム全体では、581ps/646Nmとかなりパワフルだ。

キャビンは2名乗車のみだが、ゆったりとしたスペースを確保してある。車内の収納は限られているが、エンジン後方にはコンパクトながらトランクも備わるので、ちょっとした旅行の荷物くらいなら飲み込んでくれる。

軽量かつ低重心なつくりとなっていることもあって、トランクはコンパクトで内部にでっぱりがあったりもするが、それらも全て性能のためだ

このNSXには、走りのキャラクターを変化させられる「インテグレード・ダイナミクス・システム」というドライブモードセレクトが付いている。操作はセンターコンソールに配置された大型のダイヤルで行う。標準の「スポーツ」、運転をより楽しめる「スポーツ+」、サーキット向けの「トラック」、そして、ハイブリッドらしい静かな走りを可能とする「クワイエット」の4つのモードがあり、状況に応じた最適な走りが選択可能だ。

オールマイティ仕様の「スポーツ」は、停車時のアイドリングストップやEV走行モードにまで対応する。もちろん、アクセルを踏めば、パワフルな加速と俊敏な走りが楽しめることはいうまでもない。「スポーツ+」はエンジンパワーを積極的に使う走行モードであるため、かなり刺激的な走りが楽しめる。このモードでは低いギアを多用するので、回転数が高めとなり、ホンダ自慢のエンジンサウンドもより堪能できる。

クワイエットモードではアイドリングストップとEV走行を優先してくれるので、スーパーカーであるNSXを静かに走らせることが可能になる。楽しさは薄れるが、早朝や深夜の静かな住宅地などで重宝する。いわゆる気配りモードだ。

スーパーカー然とした「NSX」だが、「クワイエット」モードを選べば静かに走らせることも可能だ

手強いかと思いきや…「NSX」の2019年モデルに試乗!

ここからは2019年モデルに試乗した印象をお伝えしたい。

国産車とはいえ、やはりスーパーカー。NSXも独特の迫力を放っており、手強さを予感させたが、少し緊張しながらシートに収まると、その先入観は良い意味で裏切られた。この手のスーパーカーとしては、かなり視界が良好なのである。ミラーまで含めると2mを超える車幅だが、運転席からフロントの鼻先が見え、先端やタイヤ位置もつかみやすい。ミラーも左右と後方をしっかり目視できるので、取り回しについての不安も感じなかった。スーパーカーというよりも大型クーペのような感覚だ。もちろん、車高が低い点だけはしっかりと考慮しなくてはいけないが……。

乗ってみると思ったよりも視界は良好。取り回しについての不安も感じなかった

シフトはATなので、操作も基本的にはイージー。ステアリングとペダル操作に集中すればOKだ。見た目よりも、ずっとユーザーフレンドリーなクルマといえる。その印象は、走り出しても変わらない。市街地、峠道、高速道路を試したが、どのシチュエーションでも本当に乗りやすい。峠道では、SH-AWDによる前輪の左右独立駆動システムが、鋭く、かつ安定したコーナリングを楽しませてくれる。その感覚は、まるでNSXが道路に吸い付いているようだった。これなら、雨天など路面状況が悪い時でも安心して走行が楽しめるだろう。

市街地走行のみ「クワイエット」モードを選んだが、スーパーカーのNSXがするすると静かに動き出すのも、ちょっと面白かった。ただ刺激もカットされるので、オーナーなら限定的に使いたくなる機能かもしれない。

また、乗り心地に優れている点にも忘れずに言及しておきたい。このクルマであれば、助手席からのクレームもないはずだ。高速道路でも、AWDによる安定性の高い走りと快適な乗り心地が確認できた。これなら、ロングドライブも楽々とこなせるだろう。ぜひ一度、トライしてみたいと思う。

性能の高さもさることながら、乗り心地のよさも見逃せないポイントだ

乗りやすくて快適。誰に対しても間口の広いスーパーカーに仕上がっているNSXだが、いうまでもなく限界ははるかに高い。腕に自信のあるドライバーを喜ばせるクルマとしても、その出来栄えは上々だ。

開発責任者に聞く2019年モデルの進化と真価

乗って楽しい新型NSXだが、具体的に、2019年モデルとなってどのような進化を遂げているのか。新たにLPLに就任した本田技術研究所の水上聡氏に聞くと、「ドライバーとクルマの一体感を高め、日常と同じようにサーキットで運転しやすく、かつ速く走れる。しかしながら、乗り心地などの快適性も犠牲にしないよう、全面的に進化させた」とのことだった。

水上氏はダイナミクス性能、つまりはクルマの運動性能の方向性を決める立場にあり、2代目NSXの開発にも携わった人だ。現行型NSXを熟知していて、改良の鍵となるダイナミクス性能の専門家でもあったことが、LPLに指名された要因だったという。

水上LPLが開発責任者を務めた「NSX」の2019年モデル

2019年モデルから、NSXの開発拠点は日本に移っている。ただし水上氏は、「NSXは先代同様、世界共通仕様で開発したモデルであり、効率を重視した開発・生産体制をとっている。アメリカ製だったからといって、アメリカ重視のクルマ作りをしていたわけでない」と強調する。あくまで、最適な人物を開発主査に任命し、最適な場所で開発を進めるというのがホンダの方針のようだ。「ホンダに入社する人は、ホンダに思い入れがある人ばかり。ホンダ車への思いは共通する」とも水上氏は付け加えた。

ちなみに、NSXを2代目として復活させたテッド・クラウスLPL(水上氏の前任)は、初代NSXに惚れ込んでホンダに入社した人物であり、日本での駐在経験を持つなど、日本の事情にも精通している。つまり、2代目NSXもホンダマンが作り上げたスーパースポーツであることに変わりはなく、“メイド・イン・USA”というよりも“メイド・イン・ホンダ”と呼ぶべきクルマなのだ。

扱いやすく実用性にも気を配ってあるが、性能はスーパーカーそのもの。そのオールマイティな性格は、まさに日本車らしい心配りが作り出したものといえる。実は、迫力に満ちていた初代NSXも、乗ってみると運転しやすいクルマであった。NSXの伝統はしっかりと受け継がれているのである。