「大音安弘」の記事

大音安弘(おおとやすひろ)

自動車ライター

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。

価格とサイズが日本にピッタリ? フランスの高級車「DS」が東京に旗艦店

価格とサイズが日本にピッタリ? フランスの高級車「DS」が東京に旗艦店

2018.12.28

フランスの高級車ブランド「DS」が東京・南青山に旗艦店

「DS」とは何者で、どこへ行くのか…デザイン部長を直撃!

ドイツ車が優勢の日本にフレッシュな選択肢が登場

美術館やアパレルショップなどが立ち並ぶ東京・南青山。ジャズ・クラブ「ブルーノート」の隣に、ブティックのような外観の自動車ショールームがオープンした。フランスの高級車ブランド「DS」のフラッグシップショップ「DSストア東京」だ。店舗前には駐車場もなく、ちょっと型破りな印象のショールームではあるが、その佇まいも、独自性の高いフランス車を扱っていると思えば違和感がなくなるのは不思議だ。

2018年11月、フランスの高級車ブランド「DS」のフラッグシップショップ「DSストア東京」が東京の南青山にオープンした

DSってどんなクルマ?

「そもそもDSって、どんなクルマ?」と思われた方も多いかもしれない。DSはシトロエンから派生した高級車ブランドで、「シトロエンDS」として2009年に誕生した。日本への導入開始は2013年。2014年には「DSオートモビルズ」としてシトロエンから独立し、呼び方もシンプルに「DS」となった。

これまで、DSはシトロエン時代に生み出したモデルのみを取り扱っていたのだが、2018年7月には第2世代モデルの第1弾となるフラッグシップSUV「DS7クロスバック」を日本で発売した。DSにとっては、独立後に初めて独自設計したクルマだ。

DS第2世代モデルの第1弾となるフラッグシップSUV「DS7クロスバック」。グレードは「So Chic」「Grand Chic PureTech」「Grand Chic BlueHDi」の3種類で税込み価格は469万円~562万円からだ。サイズは全長4,590mm、全幅1,895mm、全高1,635mm

日本でDSを取り扱っているのは、シトロエン販売店、シトロエン販売店に併設される「DSサロン」、そして、独立店舗である「DSストア」だ。今回は、都心で初のDSストアがオープンした。開店記念パーティーには、フランス本国からDSオートモビルズのデザイン部長を務めるティエリー・メトローズ氏が出席。その機会を捉え、DSの魅力や将来のビジョンなどについて話を聞いてきた。

DSのデザイン部長を務めるティエリー・メトローズ氏

先進技術と職人技が融合したクルマ

DSの日本におけるラインアップは、第1世代のモデルから受け継がれる3ドアコンパクトハッチバック「DS3」とDS7クロスバックの2モデルのみ。極端な選択に見えるが、これもDSがラインアップの再構築を図っているためだ。2019年7月には、「パリサロン」(2018年8月)で世界初公開した小型SUV「DS3クロスバック」を日本に導入する予定。DS自体としては、毎年1台ずつ新型車を投入してラインアップを拡大し、最終的にはDS7クロスバックを含む全6モデルの体制を整えるという。2025年には全てのクルマを電動化するとのことだが、これにはハイブリッドも含まれる。

メトローズ氏にDSとは何かを尋ねると、「アヴァンギャルディズム」「リファイン(洗練)」「テクノロジー」の3つの価値を凝縮したものとの答えが返ってきた。これを成しえていないモデルは、DSにあらず……というわけだ。その実現のために大切にしているのが、先進技術の積極的な採用とフランスの職人技「サヴォアフェール(Savoir-faire)」だ。

「DS7クロスバック」も3つの価値を兼ね備えるクルマだ

最新型DS7クロスバックも先進技術を積極的に採用する。例えば、夜間に赤外線カメラで歩行者や動物を検出し、表示警告を行う「DSナイトビジョン」、カメラで路面をスキャンして、路面の凹凸に合わせてダンパーの減衰力を自動調整し、フラットな乗り心地を実現する「DSアクティブスキャンサスペンション」、渋滞時追従支援機能付きアダクティブクルーズコントロールと車線内維持支援機能を組み合わせた自動運転レベル2相当の運転支援機能「DSコネクテッドパイロット」などだ。

インテリアには職人技が光る。ウォッチストライプのレザーシートは1枚の革から作ったもの。革張りのドアパネルやダッシュボードなどは、実際にハンドメイドで仕上げている。ボタンなどに使う「ギヨシェ彫り」は、フランスの高級時計メーカー「ブレゲ」とのパートナーシップで実現。同じく同国の高級時計メーカーである「B.R.M」(ベルナール・リシャール・マニュファクチュール)のアナログ時計を装着するなど、随所でフランス生まれを主張しているところも特徴的だ。

職人技が光る「DS7クロスバック」のインテリア
「B.R.M」のアナログ時計がこのクルマの出自を物語る

DSで最大の特徴となっているのは、何といってもアヴァンギャルドなデザインだろう。DS7クロスバックとDS3クロスバックの内外装を見れば、かなり前衛的だと誰もが感じるはずだ。

一方で、前衛的であるがゆえに、陳腐化しないだけの鮮度を保てるのかどうかも気になるところ。その点についてメトローズ氏は、DSのデザインは単に奇抜さや目新しさを追ったものではないと語る。例えばボディのフォルムは、とてもシンプルな構成で、飽きのこないデザインにしてある。メトローズ氏いわく、「余計な凹凸はなく、シックなデザイン」に仕上げたとのことだ。

DS7クロスバックのアヴァンギャルディズムを強く印象づけるのは、ライトの意匠だ。回転式のフロントLEDヘッドライトやレーザーカット加工のテールランプなどが、デザイン上のアクセントとなっている。これがフランス流の「ウィンク」、つまり遊び心だとメトローズ氏は説明する。こういったデザイン上の強弱をバランス良く組み合わせることで、個性的でありながら古びないデザインを実現しているということなのだろう。

DSが"アクティブLEDビジョン"と呼ぶ先鋭的なヘッドライトユニットは、左右に3個ずつのLEDモジュールを内臓。リモコンキーで解錠した瞬間、180度回転しながら紫の光を放ってオーナーを迎える
レーザーカット加工のテールランプ

気になる今後のラインアップは?

SUV展開を進めるDSだが、今後のモデルラインアップなど、将来のビジョンにも興味がある。高級車ブランドの王道は象徴的なスポーツカーやクーペなどだが、メトローズ氏が必要と考えているのは意外にも「セダン」だった。具体的には、メルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」なども属する、「Dセグメント」と呼ばれる大きすぎないサイズのものだという。

ただしメトローズ氏は、これを願望というよりも必然だとする。SUVブームに押されてはいるものの、常に一定のニーズが存在することが、セダンを作るべきと考える理由だ。さらに高級車ともなれば、快適性が重視され、運転手付きで後席の利用がメインとなるケースも多い。そのため、後席の乗り心地に優れるセダンは、DSとしてマストな商品だというのだ。

今後のDSに必要な車種は意外にも「セダン」だと語ったメトローズ氏

また同氏は、セダンのニーズは今後、高まっていくだろうとも指摘する。その理由としては、ますます強まる環境規制と将来的に登場する完全自動運転車の存在を挙げた。

車体が高く、重量も重くなりがちなSUVは、空気抵抗が大きく、エネルギー効率では不利となる。そのため、いかに空気抵抗を減らし、効率よく快適なクルマ(自動運転車を含む)を作るかという視点でいけば、セダンの存在が重要になってくる。顧客のニーズに応じるためだけでなく、自動車メーカーが直面する環境問題に対しても、セダンが解決策のひとつとなりうるのだ。現在は確かにSUVブームだが、メトローズ氏は「流行には変化がある」と気にかけない。

ドイツ車が強い日本、DSの優位性とは

DSと日本のマッチングについてメトローズ氏は、日本には洗練されたものと先進技術を好む人が多いとの考えを示した上で、それらをクルマで融合させているDSと日本は相性がよく、必ず支持されるだろうと自信をのぞかせた。日本では今後、認知と販売ネットワークの強化に力を入れていくとのことだ。

新しいブランドであるDSは現在、世界中で販売ネットワークの強化を進めている。日本ではDSストアとDSサロンを含めて8店舗を展開しているが、2019年中には新たに4店舗をオープンする予定だ。さらに、近いタイミングで5~6店舗を追加することを目標に動いているという。

2019年に日本で4店舗を追加するというDS

出店ペースはかなりスローに感じるかもしれないが、日本ではフランス車がニッチな存在であることを考えると、このくらいが着実な動きと捉えることもできる。クルマとしてみると、DSのラインアップは日本でも扱いやすいサイズであり、価格も高級車としては現実的な設定となっている。

あらゆる輸入車が手に入る日本でも、やはり主力はドイツ車だ。いいクルマが多いのは間違いないが、都市部などではドイツ車が国産車同様にあふれていて、人とは異なる選択という輸入車の楽しみは薄れている。その点、ブランド自体が新しく、ラインアップも第2世代へと突入したばかりのDSは、全ての面でフレッシュなところが魅力といえるだろう。

生活に変化をもたらしたいと考える人には、DSに注目してみて欲しいと思う。アヴァンギャルドなDSは、いいエッセンスとなるはずだ。

本当に悪路も走れる? 新型「マカン」登場で気になるポルシェSUVの実力

本当に悪路も走れる? 新型「マカン」登場で気になるポルシェSUVの実力

2018.12.27

「スポーツカーのポルシェ」で存在感を増すSUV

日本では販売台数の3割を占める「マカン」

ポルシェのSUVでオフロード走行を体験! 実力を確かめた

今や軽自動車から高級車まで幅広い車種がそろうSUV。従来では考えられなかった新規参入も多く、最近ではショーファードリブンの王様「ロールス・ロイス」までが大型高級SUV「カナリン」を投入したほどだ。クルマ好きでなくとも知っているドイツのスポーツカーメーカー「ポルシェ」は、このムーブメントの立役者のひとりといえる。

ポルシェのSUVは悪路に強い? 体験イベントに参加

ポルシェは2002年に初のSUV「カイエン」を発表し、世界的な大ヒットを巻き起こした。構造は全く違うが、パワフルなエンジン、スポーツカー顔負けの走行性能、一目でポルシェと気付かせるデザインなどから、「車高を高くした911」と例える人がいたほどだ。

「車高を高くした911」とも例えられた「カイエン」

ポルシェSUVの間口を広げたのが、2014年発売の「マカン」だ。カイエンよりも小さく、よりスポーツカーライクなキャラクターが際立ったマカンは、価格が600万円台に抑えられたことで、「サラリーマンが買えるポルシェ」ともいわれた。今でもその人気は絶大で、ポルシェの日本販売の約3割を占める。

こうしてポルシェの大黒柱へと成長したマカンだが、ワゴンやセダンのように使用されることが多い日本では、主に都市部を走る「アーバンSUV」だと思われがちだ。SUVの真価ともいえる悪路走破性を気にする人は、そこまで多くないだろう。

カイエンも含め、果たしてポルシェのSUVは、本当にSUVらしいたくましさを備えたクルマなのだろうか。その実力を垣間見るのに絶好のイベントがあったので、参加してきた。

ポルシェ・ジャパンは2019年夏、新型「マカン」を日本で発売する。価格は699万円から

ポルシェのSUVは、やはりSUVだった!

「ポルシェ・オフロード・アドベンチャー」と名付けられたイベントは、ポルシェディーラーである「ポルシェセンター目黒」など、國際株式會社グループの5拠点が合同で開催したものだ。会場は山梨県南巨摩郡早川町の早川オートキャンプ場。ここのオフロードコースでポルシェSUVに試乗してもらおうという趣向だ。当日はポルシェユーザーの50組80名が参加。もちろん、それぞれが愛車で走行するわけではなく、ディーラーが用意した試乗車の「カイエン」と「マカン」で一度ずつ、決められたルートを試乗した。

参加者は「カイエン」と「マカン」の両方で試乗を行った

このコースでは普段、オフロード走行の愛好家が走りを楽しんでいる。大きな傾斜や段差があり、日本の日常ではまず遭遇することのない悪路だ。オートキャンプ場より低い場所にオフロードコースがあるため、試乗の様子を俯瞰することができたのだが、予想以上にクルマが上下左右に揺すられていることが分かった。

日本ではまずお目にかかれないでこぼこ道をポルシェで走った

試乗車は全てオートマで、走行中は基本的にアクセルオフ。ブレーキで速度調整を行う。時速8km以下の走行だ。アクセル操作は段差や傾斜を乗り越える際、もう少しパワーを引き出したいシーンに限られる。のろのろ運転に思えるが、道の先を確認して進む悪路は、安全確保のため低速走行が基本だ。実際、速度が上がれば、それだけハンドルやブレーキ操作も手早く行う必要があるため、速度が遅い分、操作にゆとりも生まれる。そのため、速度が遅いと感じることはなかった。

同乗するインストラクターの指示を受けながら、木々に囲まれ、起伏のあるコースを進む。安全は確保されているのだが、運転中はちょっとした冒険気分が味わえ、ワクワクする。当然だが、ポルシェのSUVは悪路を難なく走ってくれた。

マカンとカイエンを比べると、カイエンの方が悪路走破性は高いが、これは性能差というよりも、キャラクターの違いといった方がいいだろう。ポルシェが作ったSUVがカイエンであり、SUVをスポーツカーに仕立てたのがマカンだといえば分かりやすいだろうか。SUV然としたカイエンならまだしも、よりスポーティなキャラクターのマカンがここまで走れることに驚いた参加者は多かったようだ。

スポーティーなキャラクターの「マカン」が悪路を走破する姿に驚いた人も多かったようだ

参加者に話を聞いてみると、当然ながら集まっていたのはクルマ好きばかりだったのだが、オフロードコースはほとんどの人が初体験だった様子。ましてや、愛車のポルシェで走った経験のある人は皆無だった。このため、自身の愛車が、もしもオフロードに乗り出したらどのくらいの性能を発揮するものなのか、強い関心を持っていたようだ。

試乗コースは、初心者でもインストラクターのアドバイスがあれば安全に走れるコースだった。より本格的な走行性能を見せるためか、オフロード走行のエキスパートがカイエンでデモンストレーション走行を実施し、厳しい勾配や傾斜路を難なく走破してみせていた。そのテクニックとカイエンの悪路走破性能の高さに、来場者たちは魅了されていた。私の知る限り“最も遅い”速度域でのポルシェ試乗会は、大成功に終わったようだった。主催者によると、終了後のアンケート結果では、参加者のほとんどが好印象・高評価であったという。

オフロード走行のエキスパートによるデモンストレーション

ポルシェディーラーがSUVを悪路で走らせる意味

驚くべき点は、このイベントがポルシェのインポーターであるポルシェ・ジャパンではなく、ディーラー主催によるものであったことだ。顧客との接点の多い営業マンやサービスマンが、「どうすればポルシェの魅力をより顧客に伝えられるか」と思案した結果が、同イベントの開催へとつながったのだ。また、同グループのポルシェディーラーでは、約半分がSUVの顧客だということも大きく影響しているだろう。

ポルシェのSUVといえば従来、「ポルシェ」である点ばかりがフォーカスされ、話題となるのはスポーツ性能や多用途性ばかりだった。つまり、SUVの美点である悪路走破性について語られるケースはまれだったのだ。そんな中、今回のイベントは、SUVであれスポーツカーであれ、ポルシェを走らせる楽しさや操る喜びは共通しており、大切なのは、その実力を発揮させるシーンであることを実感させてくれた。

会場までの移動に使用したポルシェ「マカン」。2Lターボエンジンを搭載するスタンダードな仕様だが、十分にパワフルでスポーティな走りが楽しめる。まさにSUVのスポーツカーという印象だ。サイズも大きすぎないので、街中から郊外まであらゆるシーンで扱いやすい。車内も前後共に快適な空間が確保されており、これならファミリーカーとして十分に活躍できるだろう

正直、ポルシェといえば911の存在が大きい。「911か、それ以外か」という見方があるのも確かだ。しかし、今回のイベントでポルシェディーラーは、カイエンとマカンのSUVとしての実力に着目し、伝統の水平対向エンジンを搭載しないモデルでも、本物を追求してものづくりを行うポルシェの姿勢をユーザーに訴えた。同イベントはポルシェユーザーの所有欲を高めるためだけでなく、市場にSUVが増え続ける中で、ポルシェSUVの存在感をアピールするためにもよい機会となったはずだ。

ポルシェといえば「911」(画像は「911 タルガ 4 GTS」)という見方は確かにあるが、SUVの存在感もかなり高まってきている

商品の良し悪しもCMではなく、インフルエンサーとなる人物の発言が重視される時代。特に高級車は、ユーザーの紹介で販路が拡大することも多い。ポルシェにもマカンのように、価格は高めだがファミリーカーとしても使用可能なクルマが登場したことで、ユーザー層は広がりを見せている。サーキットでの試乗会を得意とするポルシェでも、今回のようにピクニック感覚で参加できて、クルマの性能を安全に楽しめるイベントのニーズが、今後は高まっていくのかもしれない。