「大河原克行」の記事

大河原克行

大河原克行(おおかわら かつゆき)

ジャーナリスト

1965年、東京都生まれ。IT業界の専門紙「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年フリーランスジャーナリストとして独立。電機、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を行う。著書に「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)など。
日立製作所が新たな中期経営計画、最大2.5兆円の投資計画の中身とは

日立製作所が新たな中期経営計画、最大2.5兆円の投資計画の中身とは

2019.05.13

積極的な投資姿勢が明確になった日立の「2021 中期経営計画」発表

業績のV字回復を受け、日立の経営は次のステージを目指すことに

OT、IT、プロダクトの蓄積を強みに位置づけ、新たな価値創出に挑む

日立製作所が、2021年度を最終年度とする「2021 中期経営計画」を発表した。

2021年度までの経営指標として掲げたのは、売上収益における年平均成長率で3%以上、調整後営業利益率では10%以上、3年間累計の営業キャッシュフローが2兆5,000億円以上、ROIC(投資資本利益率)では10%以上、海外売上比率では60%以上というものだ。

日立が新たに発表した「2021 中期経営計画」の各目標数値

過去3年間の「2018 中期経営計画」では、売上収益10兆円、営業利益率8%といった形で、売上収益と営業利益の具体的な数値が示される格好だったが、今回の中期経営計画では、それが示されなかった。

日立製作所の東原敏昭社長兼CEOはこれについて、「売上げはあまり重要ではないと考えている。M&Aを行ったり、資本政策を行ったりする上では、売上げにこだわる必要はない。それよりも、SG&Aやグロスマージンの改善を重視したり、M&Aの対象となる領域での利益を意識すればいいと考えている」と説明した。

計算をすれば、2021年度の売上高は約10兆3,500億円、営業利益は1兆円強ということになるが、東原社長兼CEOは、「10兆円になればいいかな、ぐらいに思っているにすぎない」と語る。

いわば、市場環境の変化にあわせて、経営を柔軟に変えていく考え方をもとにした経営指標だといえる。

回復モードに終止符、最大2.5兆円の積極投資へ

日立製作所 代表執行役社長兼CEOの東原敏昭氏

その経営指標の背景には、日立の経営が、次の成長に向けた新たなフェーズに入ったことがあげられるだろう。

日立製作所の2018年度連結業績は、調整後営業利益が7,549億円となり、過去最高を達成し、営業利益率は8.0%になった。東原社長兼CEOはこの数字について、「日立は、2008年度に、7,873億円の赤字を計上した。それ以来、必死になってV字回復に取り組んできた。2018年度の業績を見ても、日立には、『稼ぐ力』がついてきた。とはいえ、ここで、V字回復モードに終止符を打ちたい」と話す。

その上で、「2021 中期経営計画では、新たなステージに立って、やっていくことになる」と宣言した。

回復から成長へと、明確に舵を切ったことの宣言であると同時に、成長路線において、日立の新たな姿を追求することを示したともいえる。

日立が新たなフェーズに入ったことは、今後3年間の積極的な投資戦略にも感じることができる。

2018 中期経営計画では、3年間で5,000億円の投資を行ったが、これを2021 中期経営計画では、3年間で2兆円~2兆5,000億円の投資へと大きく拡大する。

投資計画は一気に引き上げた

「積極投資を実行するために、財務レバレッジを活用し、資本コスト(WACC)を低減するとともに、KPIにROICを導入して資本効率を見ていく」(東原社長兼CEO)と、資本戦略も変更する。なかでも、「インダストリー」と「IT分野」に対して、重点投資をするとした。

事業を再編し、「Lumada」の役割を拡大

日立はこれまで、「電力・エネルギー」、「産業・流通・水」、「アーバン」、「金融・社会・ヘルスケア」という分野で分けて、ぞれぞれの事業を推進してきた。2021 中期経営計画においては、これを、

・ビルシステムおよび鉄道の「モビリティソリューション」
・生活・エコシステムやオートモティブシステム、ヘルスケアの「ライフソリューション」
・産業・流通、インダストリアルプロダクツの「インダストリーソリューション」
・原子力およびエネルギーの「エネルギーソリューション」
・金融、社会、サービス&プラットフォームの「ITソリューション」

の5つの分野に再編した。さらに、「社会価値の向上」、「環境価値の向上」、「経済価値の向上」の3つの価値を引き上げることで、人々のQoL(Quality of Life)の向上や、顧客企業の価値の向上を図ることを掲げた。

事業を5つの分野に再編する

そして、これらの5つの分野に横串を通すのが、日立の先進デジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーの総称「Lumada」だ。Lumadaは、2016年5月に発表以降、すでに860の事例があり、関連する売上げは1兆円を超えているという。

モビリティソリューションでは、Lumadaの活用によって、人々に安全、快適な移動サービスを提供することを目指す。駅で待っている人の数をもとに運行ダイヤを作り、需要に応じた柔軟な運行を行うだけでなく、無人運転などを実現するダイナミックヘッドウェイなどを通じて「2021年度には、世界中で年間延べ185億人に対して、安全、安心、快適で、環境に配慮した鉄道サービスの提供」を目標に掲げる。

ライフソリューションでは、誰もが暮らしやすいまちづくりの実現を目指し、スマートシティやコネクテッドカー、コネクテッド家電の領域でLumadaを活用する。粒子線がん治療システムへの活用では、8万人のがん治療に貢献するという。

インダストリーソリューションでは、顧客の生産やサービス提供の効率化を実現する。上下水道システムや海水淡水化の技術により、世界中で延べ一日7,000万人に安全、安心な水環境を提供する。

エネルギーソリューションでは、安定的で、高効率なエネルギーの提供と管理によって、2021年度には、世界の25%の変電所をマネジメントし、18億人に安定したエネルギーを供給できるようする。

そして、ITソリューションでは、高度なITを活用することで、顧客のイノベーションを加速するとした。例えばベトナム郵便との協業で、公金受給者600万人の利便性向上に貢献する計画があるという。

社内変革にも「Lumada」、日立が目指す「次のステージ」

東原社長兼CEOはLumadaを、「日立が取り組む社会イノベーション事業を加速するドライバーであり、成長の中軸に据えるものになる」と位置づける。

公にした計画資料には、Lumada関連ビジネスの具体的な売上げ目標などは示さなかったが、東原社長兼CEOは、「2021年度のLumada関連ビジネスの売上げ目標は1兆6,000億円。だが、社内には、2018年度の2倍近い、2兆円を目指すように発破をかけている」と語る。

そして、Lumadaに対する過去3年間の投資が約1,000億円であったのに対して、今後3年間では、最低でも1,500億円の投資を行う姿勢も明らかにした。

海外展開の強化や、社内の経営基盤の強化にも、Lumadaを活用したデジタルトランスフォーメーションを行う考えを示した。

なお日立では、今後3年間の新たなスローガンとして、「Hitachi Social Innovation is POWERING GOOD(世界を輝かせよう)」を掲げる。「QoLの向上や、持続可能な社会の実現など、世界の人々が求めているものを、全力を尽くして実現するものになる」と東原社長兼CEOは説明する。

東原社長兼CEOは、2021 中期経営計画で日立がどのような会社になろうとしているのかについて、「社会イノベーション事業を通じて、持続可能な社会を実現する会社になりたい。社会イノベーション事業に求められるのは、デジタル空間の技術力と、リアルな社会での技術力。そして、デジタルとリアルを連携させた新たな価値を作りだし、イノベーションを実現する力。これは日立が得意とする分野である。日立は創業以来100年間に渡るOT(Operational Technology: 制御・運用技術)の実績と、50年に渡るITの実績があり、OTとIT、プロダクトの3つを提供できる企業は世界的にも少ない。この特徴を生かして、社会イノベーションを推進したい」と意気込みを語る。

そして最後に、「顧客がイノベーションを起こしたいと思ったとき、日立を想起してもらうポジションになることが重要である。それが、社会イノベーション事業における、グローバルリーダーとしての条件になる」と結んだ。

トヨタとパナソニックが合弁、国内最大のハウスメーカーをつくる理由

トヨタとパナソニックが合弁、国内最大のハウスメーカーをつくる理由

2019.05.09

トヨタ自動車とパナソニックが住宅事業の統合を発表

本業は自動車と家電、なぜ住宅で組むことになったのか

世界中の誰も真似できない、新時代の住宅会社を目指す

トヨタ自動車とパナソニックは、街づくり事業に関する合弁会社「プライムライフテクノロジーズ」を2020年1月7日に設立する。トヨタグループとパナソニックグループの住宅事業を統合した新会社で、ハウスメーカーとして国内最大手に躍り出る。

出資比率はトヨタ自動車とパナソニックが対等の持分とするほか、三井物産の出資も予定されている。新会社の社長には、パナソニックの北野亮専務執行役員が就任する。

トヨタ自動車とパナソニックが住宅事業を統合する

今回の会社設立に伴い、パナソニックの100%出資会社であるパナソニックホームズは、2019年度第4四半期にパナソニックの連結子会社から外れることになる。また、ミサワホームは、トヨタホームの完全子会社となり、新会社は、ミサワホームの株式を買い取る。

新会社では、トヨタホーム、ミサワホーム、パナソニックホームズ、パナソニック建設エンジニアリング、松村組の5社の事業を統合し、住宅、建設、街づくり事業を推進する。トヨタ自動車が進めるモビリティサービスへの取り組みと、パナソニックが進める「くらしのアップデート」の取り組みを融合させて、街全体での新たな価値の創出を目指すという。

両社では、車載用角形電池事業に関する合弁会社を2020年末までに設立することも発表しており、この会社では車載用角形リチウムイオン電池や全固体電池に関する事業のほか、次世代電池に関する研究、開発、生産などを行う。今回はこれに続く新会社の設立だ。両社の提携範囲が住宅、街づくり分野にまで広がり、新たなビジネスの創出を模索していくことになる。

自動車メーカーと電機メーカーが「街づくり」で組む意味

パナソニック 北野亮専務執行役員

社長に就任するパナソニックの北野氏は、新会社の狙いを「トヨタとパナソニックのノウハウを活用しながら、街全体でのくらしの新たな価値を創出することにある」と話す。提携により「新たなモビリティサービスカンパニーを目指すトヨタと、くらしアップデート業を目指すパナソニックのテクノロジーやノウハウを最大限に活用することで、他に類をみない、街全体での新たな価値を創出する」とし、不動産開発や建物の建設、リアルな空間を構成する製品やシステムなどのデバイス、それらを支えるデータ、サービスなどのテクノロジーを融合して、街全体に対し住宅、建設、街づくりの3つの事業を推進する。また、新会社では「両社の新たなビジネスの実証の場、ショーケースにする」ことにチャレンジするという。

新会社は「街全体でのくらしの新たな価値創出」を目指す

北野氏は新会社の目指す街づくりを「スマートライフタウン」と表現し、「最先端の技術で、高度に最適化され、いつまでも安心、快適、便利なくらしを提供するとともに、日々、アップデートし、住む人に満足を提供し続けることができる街づくりを目指す。戦闘力をあげ、生産性を高めることを両立していくことが大切である」などと述べる。

トヨタ自動車 白柳正義執行役員

トヨタ自動車の白柳正義執行役員は、新会社について「昨日(5月8日)発表した2018年度連結決算の席において、社長の豊田(=豊田章男社長)から、これからは人々のくらしを支えるすべてのモノやサービスが、情報でつながるコネクティッドシティの発想でビジネスを考えていくことになると話した。街づくり事業に関する(今回の)合弁会社の設立は、コネクテッドシティをパナソニックと共同で実現するためのもの。不動産開発や住宅開発、建設に関するデベロップメントとテクノロジーの融合を進めことになる」と語る。その上で、「トヨタは自由で、安心、快適なモビリティ社会を目指し、新たなモビリティサービスの創出に取り組んでいく。パナソニックは、住宅や街などのくらし空間に関するテクノロジーを数多く持つ。トヨタとパナソニックから、モデリティやくらし空間に関するテクノロジーを提供し、街全体で新たなくらし価値を創出できるはずである」と、合弁会社設立の目的を説明した。

新会社の住宅、建設、街づくりという3つの事業の基本方針についても言及した。

住宅事業では、トヨタのトヨタホーム、ミサワホームに、パナソニックのパナソニックホームズという、あわせて3つのハウスメーカーそれぞれのブランドが持つ個性を光らせるとともに、調達、製造、物流、CS、施工、設計、営業支援といったバックヤード部分は共通化することで、戦闘力の強化と、業界トップクラスの競争力を実現するという。

建設事業では、それぞれがメーカーとして培ってきたノウハウを結集、活用し、省人化、自動化による競争力強化を図る。

街づくり事業では、マネジメントサービスの高度化により、不動産価値の既成概念を超えた取り組みを開始する。例えば住宅には不向きとされていた土地や、競争力の低い土地の高付加価値化を実現していく。そして長期的、永続的な街づくりを進め、このノウハウをもとに、将来は海外にも展開していくことになるという。

今でも競争力が低いままになっていた土地の高付加価値化

また北野氏は合弁会社の事業方針について、「街づくりの規模が大きくなるに従って、(今後さらに)ほかの企業との連携も必要になってくるだろう。個別の案件ごとに最適なパートナーと組むなど、エコシステムについては、弾力的に考えるべきである」と話す。

異例のタッグ、実は両社の創業者の意志も影響?

パナソニックとトヨタの住宅事業での組み合わせは、同じ製造業である両社が、長年に渡り、もともとの本業ではない住宅事業を展開してきたことと、近年、その住宅事業で本業との連動が進んでいる中で、両社の住宅事業が同じ方向性を持ち始めていたことが背景にある。

パナソニックの創業者である松下幸之助氏は、「家づくり、街づくりほど大事な仕事をない」と発言していたという。またトヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏は遺訓で、「日本の住まいをよくしたい」としており、こうした2人の創業者の住宅に対する共通的な思いが、今回の新会社設立につながっているともいえる。

パナソニックの北野氏は、「トヨタとパナソニックは、同じ製造業であるが、違う経営スタイルを持っている。だが、トヨタは新たなモビリティ社会を築き、パナソニックは、くらしアップデート業を目指す上で、家や街を重要な要素であると考えている。経営の仕方が異なる企業だが、目指す立地は同じ。合弁会社設立に向けては、極めてスムーズな話し合いができた」とし、対するトヨタ自動車の白柳氏も、「トヨタのトップが、パナソニックと組みたいと思ったことが大きい。パナソニックとは長いつきあいがあり、信頼感がある。モノづくりの会社のなかで、住宅事業を持っている会社同士であり、同じ悩み、同じ方向性の事業戦略を持ち、共感できるものがあった」と語る。

100年に一度の改革が、住宅の世界にも

注目されるのは、新会社の取り組みのポイントが、これまでの「住宅」の価値観を変える挑戦になっているという点だ。

トヨタ自動車では、2020年代前半には、特定地域において自動運転レベル4の実用化を視野に入れた取り組みを行っている。そして2020年代半ばまでには、移動、物流、物販など多目的に利用できるモビリティサービス専用電気自動車、「e-Palette」を活用したMaaS事業を開始する予定である。

自動運転などのテクノロジーの高度化により、人々の移動手段に大きな変化が訪れ、それによって、街そのものが変化しようとしている。トヨタの白柳氏は、「これまでの住宅は、駅や都市には近いが家が狭い、あるいは駅から遠いが、家は広いといったように、快適さと便利のどちらかを犠牲にしなくてはならなかった。だが、テクノロジーと高度化が、快適と便利の両立を可能にする」と展望する。「通信技術の発達によりオフィスに行く必要がなくなり、モビリティサービスの発達で移動が快適になり、近くに店がなくても買い物ができるようになる」などと、大きな変革期が訪れていることを指摘。「自動運転と街づくりを連携することで、新たな価値を創出できる」とした。

また、パナソニックの北野氏は、「パナソニックが持つくらしの接点を、街づくりにフィットさせていくことという手法は、世界中の不動産会社や、住宅会社にはできないこと」と強みを強調する。そして、これからの新たな街は鉄道軸ではなく、クルマの進化に応じたものになるとし、「これはトヨタの領域であり、これも世界中のどの不動産会社、住宅会社にもできないやり方である」とする。

自動車メーカーと家電メーカーが住宅で大改革を目指す

自動車メーカーと家電メーカーとの連携によって、これまでにはない新たな住宅の価値を創出するという異例の挑戦だ。理想の実現には長期的な視野が必要となるだろう。その一歩を、具体的な「街づくり」という形にして踏み出すことができるかが、新会社の最初の成果になるといえそうだ。

パナソニックが宿泊事業に本格参入、独自の「家電」戦略で差別化狙う

パナソニックが宿泊事業に本格参入、独自の「家電」戦略で差別化狙う

2019.05.03

パナソニックが「宿泊」事業への参入を発表

背景に増加するインバウンドや民泊新法

「電機」の特徴を活かした住宅事業の中身とは

パナソニック ホームズは、東京や大阪などの都市部向け土地活用提案のひとつとして、宿泊事業に本格的に参入すると発表した。

同社の宿泊事業の総称を「Vieuno Stay(ビューノステイ)」とし、同社の工業化住宅である「Vieuno(ビューノ)」の重量鉄骨構造などの特徴を生かす。さらにサブリーススキーム「インバウンド・リンク」や、パナソニックの美容家電を常設する「Be-Lounge」との組み合わせによって差別化し、家電メーカーとしての特徴を生かした新たな住宅事業の姿を模索する。

背景に益々旺盛なインバウンド需要

宿泊事業を取り巻く環境が大きく変化している。

2020年に4,000万人の訪日外国人獲得に向けて、インバウンド需要が拡大しているのに加え、2020年の東京オリンピック/パラリンピックの開催時には、都内では、最大1万4,000室の客室が不足すると予測されており、国内では、それに向けた対策が模索されている。

実際、政府によると、2018年度の訪日外国人は3,119万人と、前年の2,869万人から大きく上昇。観光庁の速報値によると、2018年の東京における客室稼働率は、80.3%に達し、大阪でも79.8%という高い水準を維持している。

政府では、2018年6月の民泊新法の成立と同時に、旅館業法も改正。従来に比べて、宿泊事業への新規参入を緩和している。たとえば、一室から旅館業を営むことが可能であるほか、テレビ電話などを活用した本人確認を条件にフロントを設置しないで済むといった緩和策もある。

パナソニック ホームズ 事業推進センターの榎本克彦所長

パナソニック ホームズ 事業推進センターの榎本克彦所長は、「宿泊施設不足に対応するための法律整備が進んでおり、民泊事業を行いやすくなっている。今後10年間は、訪日外国人数は高い水準で維持されるとの見方もある。賃貸物件で運用するよりも民泊で運用したほうが、累積収益は120~150%になると想定されており、土地および物件を持つオーナーにとっては、民泊事業が大きな魅力になっている」と指摘する。

民泊新法の制限を考慮した提案が必要

だが、民泊を運用するには、いくつかの注意点が必要である。

民泊では、年間180日までの住宅への宿泊という日数の制限があることや、居住履歴がない民泊専用の新規投資マンションでの営業は不可としており、リノベーションした既存住宅を見据えた法律となっている点などである。加えて住宅専用地域では、さらに年間営業制限日数が短縮されており、港区では94日、千代田区、中央区、文京区、目黒区では104日などとなっている。

もちろん、こうした点を考慮した運用も可能だ。

たとえば、新築時には1年の定期借家や1カ月契約などによる賃貸事業でスタート。その後、制限日数内で民泊を運用。民泊を運用する際には、7月~12月、1月~6月という形で行えば、年間180日という制限のなかでも、実質的に1年間連続での運用が可能だ。

民泊施設は、利用者が1カ月以上滞在し、部屋の清掃を自ら行うなどの条件を満たせば、民泊新法枠外の賃貸住宅と見なされることから、民泊施設を賃貸住宅として活用することも可能になる。

この際には、賃貸物件として運用できるように建築をしておくのがいい。ホテルや旅館の場合は、窓先空地が不要であったり、居室有効採光が不要であったりといった条件での建築が可能だが、将来、賃貸住宅に転用する場合には、これらの優遇条件に頼った建築をしていては転用が難しい。設計は賃貸住宅として行い、運用はホテルや旅館の仕組みを活用する形にしておけば、将来の賃貸住宅への転用が可能になる。

パナソニックは、こうした宿泊事業を取り巻く市場動向を捉え、都市部における土地活用提案のひとつとして、「Vieuno Stay(ビューノステイ)」を展開する。

パナが提案する都市型コンドミニアム施設の中身

パナソニック ホームズは、住宅メーカーとしては最高となる9階建までの建築が可能な重量鉄骨構造「Vieuno(ビューノ)」を製品化。重量鉄骨構造による強い構造と、土地ぎりぎりまでの建築が可能な15cmピッチの自由な設計ができること、工業化製品ならではの短工期で完成させられる強みを生かす一方、土地や建物をオーナーから一括借り上げして、運営事業者へ貸し出す、独自のサブリーススキームを用意することで、宿泊施設の建設需要に対応しようとしている。

墨田区業平のホテル蒼空(そら)もVieunoで民泊事業を行っている
光触媒のタイルにより耐久性。60年間メンテナンスフリーであるため、外壁メンテナンス時の営業停止を防げる
蒼空の屋上の共用テラスからは、東京スカイツリーが見える

「戸建てや賃貸住宅、商業施設において、培ってきた設計ノウハウを活用。Vieunoの短工期の特徴と、狭小地でも建築可能な工業化住宅のメリットを生かすことで、パナソニック ホームズであれば、いまからでも東京オリンピックの開催前に開業が可能であり、宿泊施設の不足緩和にもつながる」(榎本所長)とする。

同社では、2018年6月から、宿泊事業のテストマーケティングを開始していた。目標としていた10棟の受注を約9カ月で達成するなど、需要性を確認できたことで、宿泊事業に本格的に参入することにしたという。今年の4月25日から、Vieuno Stayの第1号となる建設着工を、東京・蒲田、大阪・日本橋の2カ所で開始しており、8カ月後の2019年12月に竣工する予定だという。2019年度には、13棟の受注を計画し、受注金額は54億円を目指すという。さらに、2021年度には、27棟、100億円の受注を目指す。

パナソニック ホームズ 家づくり事業部の藤井孝事業部長

パナソニック ホームズ 家づくり事業部の藤井孝事業部長は、「パナソニック ホームズは、多層階住宅では40年以上の歴史を持ち、2万棟近い実績を持つ。だが、その多くは、集合住宅や併用住宅であり、宿泊事業は2018年度受注実績で2%に留まっている。業界ナンバーワンのプラン対応力で、非住宅用途にも展開したい。オーナーの資産価値を高め、インバウンド需要に対応していきたい」と語る。

宿泊事業において、パナソニック ホームズが力を注ぐのが、ホテルと民泊、双方のメリットを併せ持つ、都市型コンドミニアムタイプの宿泊施設の提案だ。

同社が、日本人の国内宿泊旅行にも着目した宿泊施設への意識調査を実施した結果、ホテルの利用意向は高いものの、コストの高さを指摘する回答が46.2%、家族や大人数では宿泊できないことへの不満を指摘した回答が22.6%に達したことが明らかになった。その一方で、民泊に対しては、メリットとしてコストパフォーマンスの高さが51.5%で、大人数での利用にも適すると32.0%が回答したが、デメリットとしてセキュリティについて不安があるとした回答が48.0%、設備への不安や不満があるとした回答が44.0%を占めた。

家族や大人数で泊まれないという不満は、訪日外国人の方がさらに顕著だと言っていいだろう。実際、東京都内のホテル1室あたりの宿泊人数は1~2人が中心であり、3人以上で泊まれる部屋数は、全体の1.5%に留まるという。

榎本所長はこれに対し、「Vieuno Stayでは、リビングやキッチンを備えた1LDKタイプを中心とした客室プランを提案している。近くの店で食材を購入してもらって、自分で料理をしてもらい、日本の滞在を楽しんでもらうことができる。ホテル並みの安心感を提供した民泊の実現も可能であり、住まいのように楽しんでもらうこともでき、ホテルと民泊の双方のメリットを持つ宿泊スタイルを提供できる。また、運用においては、サブリーススキームであるインバウンド・リンクを活用することで、委託することが可能。運営事業者は規模が小さいところが多いため、直接契約が不安だという場合にも、オーナーはパナソニックホームズ不動産とマスターリース契約を結び、パナソニックホームズ不動産が運営事業者とサブリース契約を結ぶことで安心して運用サービスを活用できる」としたほか、「将来的にインバウンド需要が減少した場合でも、賃貸住宅への転用が可能であり、用途変更の場合にも、賃貸住宅として運用を受け持つことから、土地オーナーにとって安心の提案プランとなる」とした。

同社の試算によると、4,000円で家族4人が宿泊した場合には、1泊あたり1万6,000円の宿泊費が収入となることを前提に、34室で、稼働率80%の場合には、年間1億5,884万円の収入が得られるという。そのうち、40%を運営経費と算定し、残りの60%の9,530万円から、一括借り上げの運用事業者フィーおよび借上料率を差し引いた、残りの75%となる7,147万円が年間収益になるという。

エヌエイビルの青山順吉社長

Vieunoを活用して、東京・三ノ輪で、2018年4月から、「ホテル セイルズ」としてホテル事業を行っているエヌエイビルの青山順吉社長は、「いまは、集合住宅よりも、ホテルの方が2割ほど儲かる」としながら、「Vieunoは、必要なものを組み合わせていけば、すぐにコストが計算できる。集合住宅に必要な下駄箱、食器棚などを不要とする一方で、24時間対応の受付カウンターの作り込みや照明などの出費は増えるが、トータルの建設費用にはそれほど大きな差はなかった。また、RC工法では2年間かかるが、Vieunoは約半年間で建てることができる。ここまでの速さで建築できるのは、パナソニック ホームズだけだ」と話す。現在、東京オリンピック開催前の稼働に向けて、Vieunoを活用した2つめのホテルを、東京・千束に建設しているところだという。

東京・三ノ輪にあるホテル セイルズは、Vieunoでホテル事業を開始した第1号案件

家電の強みを活かした付加価値で勝負

パナソニックでは、Vieuno Stayの展開において、パナソニックの美容家電やリフレ家電を備えた「Be-Lounge」の提案を新たに開始する。

Be-Loungeでは、パナソニックコンシューマーマーケティングが提案しているセルフエステ空間の提案で、パナソニックの美容家電である「Panasonic Beauty」を活用する。これによって、ヘアケア、フェイスケア、ボディケアなどのセルフエステを行える場を提供しようというものだ。もともとはシェアハウス向けのコンセプトルームとしてスタートしていた。これまでは、エステサロンなどへの提案が中心だったが、今後、宿泊事業においても展開することで、家電メーカーならではの宿泊事業提案につなげる。

パナソニックの美容家電やリフレ家電を備えた「Be-Lounge」の提案

榎本所長は「パナソニックグループの美容、家電設備を設置することで付加価値を提供して、子育て家族などの利用を促したい」としている。

訪日外国人は歩き回る距離が多いため、美容家電を足のケアにも活用してもらいたいという

さらに、Vieuno Stayでは、パナソニックの先進設備や最新家電機器を積極的に採用する。室内には、ナノイーを使った空気清浄機やエアコン、ビエラによる薄型テレビ、テクニクスによるオーディオを設置する提案を行うほか、ネットワークカメラによる顔認証、デジタルサイルーネージやスペースプレーヤーなどの活用により、宿泊施設のサービス向上とセキュリティ強化を実現していく。「リピート宿泊の獲得だけでなく、パナソニックの商品を知って、触れて、体感してもらい、商品の購入にもつなげたい」(榎本所長)。

Vieuno Stayは、他の住宅メーカーにはない、パナソニックならではの提案になる。

藤井事業部長は、Vieuno Stayで、「サポート体制、構造技術、パナソニックの暮らし提案、という3つを特徴として、宿泊事業を加速させる」と語る。

住宅メーカーとしての蓄積と、家電メーカーとしての差別化を兼ね備えることが強みだが、特に現時点では、「いまからでも東京オリンピックに間に合わせて開業ができる」というスピードが、大きな武器になりそうだ。