「大河原克行」の記事

大河原克行

大河原克行(おおかわら かつゆき)

ジャーナリスト

1965年、東京都生まれ。IT業界の専門紙「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年フリーランスジャーナリストとして独立。電機、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を行う。著書に「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)など。
「家電のパナソニック」に悩み続けた津賀社長、企業価値の核心を刷新する一部始終

「家電のパナソニック」に悩み続けた津賀社長、企業価値の核心を刷新する一部始終

2018.11.20

「家電のパナソニック」とは? 自問自答を続けた津賀一宏社長

「家電業」から「くらしアップデート業」へ、この転換がパナの答え

家電が壁にぶつかった時代だからこそ、チャンスがあると自信

10月末から11月はじめにかけ、東京・有楽町の東京国際フォーラムで、パナソニックが創業100周年を記念して開催した「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」。その開幕の基調講演に登壇したパナソニックの津賀一宏社長は、晴れやかな顔をしていた。

津賀社長は、この日を迎えるまでのしばらくの間、ある悩みを抱えていた。笑顔の理由は、その悩みを解決できたからだ。

「家電のパナソニック」に悩み続けた

晴れやかな顔で講演する津賀社長

津賀社長が悩み続けてきたのは、「パナソニックはなんの会社を目指すのか」ということであった。ずっと、それを自問自答し続けてきたという。

実際、今年がはじまったばかりの1月、業界が新年を迎えるイベントとして毎年恒例となった「CES 2018」(CESは米ラスベガスで開かれる世界最大の家電見本市)の会場で、筆者は「パナソニックはなんの会社を目指すのか」と質問したことがあった。津賀社長はその時、「いま、それを自問自答している」と話していた。

今回の基調講演でも、「私が社長に就任して6年が経過したが、実は、ここしばらくの間、パナソニックという会社がいったい何者なのか、私自身が見えなくなり、自問自答する日々を過ごしていた」と振り返っている。

この日の基調講演のテーマは、『次の100年の「くらし」をつくる ~パナソニックは家電の会社から、何の会社になるのか~』であった。まさに、この時この場所で、その答えを示す決意があったのだ。

パナソニックは「家電のパナソニック」ではない?

津賀社長はなぜ、「何の会社になるのか」という自問自答を続けてきたのだろうか。

「家電のパナソニックという時代は分かりやすかった。しかし、いまのパナソニックは、自動車の車載電池や車載エレクトロニクスにも進出した。さらに、他社の工場ラインにもソリューションを提供し、様々な場面に事業を展開している。気がつくと、パナソニックが何者なのかが見えなくなっていた」(津賀社長)

パナソニックの2017年度業績を見ると、全社の売上高は7兆9,822億円。このうち、家電事業を担当するアプライアンス社の売上高は2兆5,884億円で、売上構成比は32.4%だ。

この全社売上には社内カンパニー制による、各カンパニー間の内部調整等も加味されている。単純に調整前の各カンパニー合計の売上高は、8兆8,106億円と計算できる。ここから逆算すると、アプライアンス社の売上構成比は29.0%で、3割を切る水準になる。車載関連や住宅関連、BtoBソリューションが7割を占める事業体であることからみれば、家電メーカーのパナソニックという表現は、会社の姿を正しく表しているものではない。

全社の売上高は7兆9,822億円。調整前の各カンパニー合計の売上高だと8兆8,106億円。家電のパナソニックにおいて、家電事業を担当するアプライアンス社の売上構成比は30%前後という水準

津賀社長は、「家電という製品が、ひとつの壁にぶつかっているのも事実。この壁をどう乗り越えていくのか。かつて、家電が登場したときには、それによって、生活がぐっとアップデートされた。しかし、世の中に家電が数多く供給され、余った時間が生まれ、その余った時間をどう過ごすのかというところで、テレビやビデオ、ゲームといった、コンテンツを楽しむための家電という時代に入ってきた。では、その次はどうなるのか。自問自答してみると、家電を使っているお客様との距離が開いてきたのではないかと感じた」と話す。

家電自体の在り方が変わり、パナソニックはそこに距離感を感じていたというわけだ。

「家電業」から「くらしアップデート業」へ

こうした背景で自問自答の答えを求めるにあたって、津賀社長は次のような考えに至ったという。

「事業として上手く行っているから良いということではなく、パナソニックという会社が、社会において何の役に立てるのかが大切。私が考え続けたのは、パナソニックという会社が、この世の中に存在している意義とは何なのかということ。その結果、わかったのは、今日よりも明日、明日よりも明後日、一人ひとりのくらしを少しでもより良くしていくこと、少しでもよりくらしやすい社会をつくりあげていくことが、パナソニックの存在意義ということだった」

津賀社長は、「この存在意義は、創業当時も、いまも、これから先の未来も決して変わることはない」と断言する。

その結果として、津賀社長はパナソニックの今後の目指す姿を、「くらしアップデート業」という言葉で表現してみせた。

そして、「100周年というこのタイミングで、私が自問自答に陥ったことは、決して偶然ではないと感じている。いまは、この自問自答のトンネルを完全に抜けることができた」と言い切った。そして、「パナソニックは、もうブレない。『くらしアップデート業』という存在意義を全うするために、強い意志と信念を持って、これから先の100年という未来に向けて、これまで以上に熱く、希望を持って、大胆に事業を展開していく」と宣言した。

「くらしアップデート業」で「くらし」が変わる

パナソニックが目指す「くらしアップデート業」とはなにか。津賀社長の言葉から、その意味を考えてみたい。

従来の家電は、使えば使うほど性能や機能が世代遅れになっていくし、性能や機能が高すぎると、使いこなすのが難しくなっていく。くらしアップデートは、使えば使うほど理想のくらしに近づく?

前提にあるのが、これまでの家電業のように、完成品を提供する時代ではなくなったということだ。

これまでの家電づくりは、生活者をマスとして捉えて、より機能性の高い製品を提供するというものだった。細部に至り完璧とも言えるレベルまで製品で仕上げ切ってから、世の中に提供していた。4つの機能がついた家電よりも、5つの機能がついた家電の方が求められていたりもした。

「機能をたくさんつけることは、技術的にはこれからも可能だ。それによって、価値をあげていくことができる。だが、その一方で、複雑すぎて、多くの機能を使いこなせないといわれる。そこで、もっとシンプルに操作できたり、機能を理解できたりする製品をつくろうとすると、付加価値がない安物家電を作るという間違いを起こすことになる。それは、我々が目指しているものではない。こうしたことをこれまでに繰り返してきた」(津賀社長)

一方で時代は変化し、いまでは、テクノロジーの進化にともなって一人ひとりの価値観が重要視され、一人ひとりに快適なものを提供することも可能になる時代に入った。

「一人ひとりが求めるものが異なる。そして、一人の人でも、昨日と今日では求めるものが異なる。昨日聞きたかった音楽と、今日聞きたい音楽は違う。これまでは多様性といったものに対応することができなかったが、これからは多様性に対応でき、今日という日に合わせて、更新し続けることができる。そこに新たな役割がある」(津賀社長)

言葉としての「くらし」も再定義する。これまでの家電が指していた、家の中でのくらしを指すのではなく、「人が過ごしている、あらゆる時間」を「くらし」と定義する。「くらしアップデート業」が対象とする領域は家電よりも幅広い。住宅関連事業で取り組む住空間全体や、車載事業で関わりがある移動する環境、工場やオフィスなどの働く環境を含めた時間のすべてが、パナソニックの「くらし」となる。

くらしアップデートを実現する「Home X」

そして、先にも触れたように、完成品を提供する時代ではなくなるという点が重要だ。

「アップデートが求められるこれからの時代は、安全面などをクリアできてさえいれば、『あえての未完成品』とも言える段階で世の中に出していくべきだ。これは、不良品ではなく、使ってくれる人の手に渡ってからも、その人向けに成長する余白を持たせた状態のものを指す」(津賀社長)

「あえての未完成品」とは?

その具体例としてあげられるのが、先般パナソニックが発表した「Home X」である。

Home Xは、家そのものをインテリジェントなもう一人の「家族」とし、日々の新しい体験を提供し、より自分らしい生活を創るというコンセプトを掲げる住宅向けソリューション・プラットフォームだ。人それぞれの生活スタイルに合わせて、家電や住宅設備の機能をHome Xに統合することで、一人ひとりに寄り添ったきめ細やかな生活提案を行う。

■ 参考動画:Home Xがあるくらし (パナソニック提供 4分33秒)

そのHome Xのコンセプトによる製品の第一弾が、「Home Display」である。

Home Displayは、無線LANやセンサを搭載したHome Xプラットフォームに対応したタッチスクリーン型ディスプレイだ。家族が集まる場所に配置し、Home X対応機器と連携して、家(=Home X)が家族を理解しながら、住めば住むほど新しい機能が利用できるようになり、一人ひとりのライフスタイルに合わせて、「くらし」をアップデートする。

リビングなどにタッチスクリーン型ディスプレイを配置する「Home Display」

例えば洗濯機と連携し、家族の会話から、泥汚れの子供が帰ってきたことを知ったHome Xが、泥汚れはもみ洗いをしてから洗濯機に入れるといいことや、泥汚れに最適な洗剤はどれなのかを提案したりする。またテレビと連携し、家族がどんなスポーツが好みなのかを知ったHome Xは、そのスポーツの番組放送がまもなく開始という時に、放送が始まることを知らせてくれたりする。電動の雨戸シャッターや蓄電池システムと連携すれば、台風の接近にあわせて、自動でシャッターを閉めて風雨や飛来物に備え、さらに蓄電池への充電を開始し停電に備えてくれたりする。

家や家電が、「それを使っている人に合わせるように進化していく時代になる。サービスも、それを活用している人に合わせて、更新され続けるようになる」というわけだ。

津賀社長は、くらしアップデートが求められる時代が到来することで、「人の気持ちや嗜好性と、そのタイミングとを掛け合わせることで、これまでにない新たな体験価値を提供することができるようになる」と話し、顧客のニーズのあり方の変化が、提供する企業側にとって危機ではなくチャンスであるという認識を示す。また、「せっかく最新の家電を手にしても、新製品が出た途端に、その家電が古くなる。そんな時代は終えなければならない」とも語る。

「家電」の考え方そのものを、パナソニック自らが変えていくことになる。

体験で得られる価値が、パナソニックの本質的価値に

津賀社長は「『くらしアップデート業』という営みこそが、パナソニックの核心に存在する、世の中への”お役立ち”の本質なのだと確信している」と語り、「持てる価値を機能や性能だけでなく、お客様が体験して得られる価値を高めたい。これを実現するためには、もっとお客様にくらしに寄り添う、お客様のくらしと対話するといったことが必要だ。パナソニックは、お客様の理想のくらしに一歩近づけるように、こういう方向性でこれから事業や開発を進めたい」と続ける。パナソニックのこれからは、これまでとは価値の置く場所から大きく変わっていく。

最後に津賀社長は、「人の幸福から離れて、生き残る会社はない」と述べ、次のように語る。

「パナソニックは、その時代に生きる人々にとって、いま、求められていることは何なのか、この先に、必要とされることは何なのかを徹底的に考え、人々のくらしをほんの少しでも良くしたいと心から願ってきた企業である。”ものづくりをしたかった”というより、”人々のくらしを良くしたい”という想いが先にあり、この想いを実現させるために必要だったのが、ものづくりだった」

しかし、家電をつくるだけでくらしを豊かにすることに限界が見えたのが、いまの時代だ。そこに「くらしアップデート業」というパナソニックが目指す新たな姿があった。

くらしアップデート業への第一歩を踏み出したバナソニックから登場する「家電」は、これまでの「家電」とは大きく変わっていくことになりそうだ。

「技術の東芝」は再び“明日”を作れるか、リストラ軸に再建計画

「技術の東芝」は再び“明日”を作れるか、リストラ軸に再建計画

2018.11.09

爪あと残る決算内容も、3年で業界トップの収益体質を宣言

5か年の再建計画、まずは人員削減や拠点削減を含むリストラ

メモリ売却後の成長事業を構築すべく、「技術の東芝」へ立ち返り

東芝が発表した全社変革計画「東芝Nextプラン」は、”つなぎ”の計画ではなく、東芝の完全復活を目標としたものだ。

「3年で業界トップの収益体質」を宣言

東芝 代表執行役会長兼CEO 車谷暢昭氏。銀行出身で、今年4月に東芝へ

中期経営計画を発表した際、車谷暢昭代表執行役会長兼CEOは「2020年度までに赤字事業を撲滅し、すべての事業でROS(売上高経常利益率) 5%以上を目指す。そして、最初の3年(2021年度)で、業界トップレベルの収益体質に移行する」と宣言する。2021年度には、売上高3兆7,000億円、営業利益2,400億円、ROSで6%以上、ROE(自己資本利益率)で約10%を目標に掲げ、2023年度のターゲットとして、売上高4兆円、営業利益率8%以上、ROSで10%、ROEで15%レベルにまで高める計画だ。

現時点の通知表とも言える2018年度通期の業績見通しは、5月15日の前回公表値を修正。売上高は前年比8.8%減の3兆6,000億円と据え置いたものの、営業利益を100億円下方修正し前年比14.3%減の600億円、継続事業税引前利益は1,300億円下方修正し400億円の赤字だ。当期純利益は1,500億円下方修正し前年比14.0%減の9,200億円とした。

2023年度までの業績目標。特に営業利益率は大幅な伸びを目指す

決算内容には、大なたを振った爪痕が残る。最終利益には、メモリ事業売却で得た1兆円を超える売却益が大きく反映されている。一方で、米国での液化天然ガス(LNG)事業をENNエコロジカルホールディングスに売却し、英国で展開していたNuGenを清算して、海外原子力新規建設事業から撤退。この影響で1,000億円規模の損失が発生している。

2018年度業績見通しで1.7%だった営業利益率を、3年で6%以上に、2023年度には8%以上とし、「業界トップレベルの収益体質」を実現することができるのか。車谷会長兼CEOの手腕に注目が集まる。

非注力事業から撤退し、7,000人の人員を削減

東芝Nextプランの柱になるのは、「構造改革」、「調達改革」、「営業改革」、「プロセス改革」の4つの改革だ。

「構造改革」では、先に触れたように、液化天然ガス(LNG)事業をENNエコロジカルホールディングスへ売却し、英国で展開していたNuGenの解消による海外原子力新規建設事業といった非注力事業からの撤退。加えて、今後5年間で7,000人の人員減少を図る。さらに、15%の生産拠点を対象にした閉鎖および再編や、国内外約400社にのぼる子会社の25%削減も実施する。

一部部門での早期退職優遇制度を実施し、2018年度も、1,000人強の人員削減を予定している。

車谷会長兼CEOは、「東芝の将来に向けては、事業および人員の適正化が前提となるが、東芝には、2年、3年かかる足の長いビジネスがあり、人員を一気に適正化することができない。それをすれば、企業価値の損失につながる。これから、年間3,000人~4,000人の(定年退職など)自然減が発生するタイミングに入ってくる。一部部門での早期退職優遇制度を実施するが、基本的には、自然減が中心になると考えている」と人員削減の計画を明らかにした。。

2つめの「調達改革」に関しては、「東芝は、競合他社に比べて原価率が高い。いわば改善余地が存在する」と指摘。素材や電気・電子部品といった直接材と、通信費、オフィス賃料といった間接材の双方にメスを入れ、約650億円の改革効果を見込む。最終の2023年度までには1,000億円の効果に達するという。

3つめの「営業改革」では、価格を含む契約条件の再確認と適正化、低収益製品の棚卸しなどの営業リターン改善により、約300億円の改善機会を追求する。ほか、CRMの活用による営業体制の強化による顧客およびマーケットとの関係強化などを通じて、営業活動の効率化、営業体制の強化、プロジェクト受注時における審査の強化に取り組む。

そして、4つめの「プロセス改革」では、IT基盤の整備に挑む。次世代IT投資計画として、2023年度までに1,100億円の投資を計画しており、老朽化したシステムの80%以上を刷新し、90%以上のサーバーをクラウド化するという。「CPSテクノロジー企業への変革を支えるにふさわしいIT基盤の構築を図り、グループ全体で業務を効率化し、生産性の改善を図る」という。

リチウムイオンなど、メモリ売却後の柱を模索

削減の一方で、成長分野への投資はどうだろうか。

2023年度までに8,100億円の設備投資を行うほか、主要研究開発テーマに対しては、2023年度までに9,300億円を投資する計画だ。

車谷会長兼CEOは、「M&Aへの投資よりも、自らが持つ技術や設備への投資を優先する。これまではメモリ分野への投資が優先され、次の成長が見込める分野に対して投資ができていなかった。10年後、20年後の東芝に向けた投資も行っていく」と話す。

成長領域のひとつに位置づけるのがリチウムイオン二次電池事業。ここでは、東芝が推進するのSCiBの特徴が生かせる市場を開拓。2030年に4,000億円規模の事業に成長させることを目指す。また、パワーエレクトロニクスでは、モビリティと産業システム市場に注力。さらに、精密医療分野では、重粒子線治療をはじめとして、予防から治療までの各フェーズにおける要素技術を保有している強みを生かし、がんの超早期発見と個別医療治療の実現を目指すという。

リチウムイオン二次電池を有望視
パワーエレクトロニクスと精密医療にも注力する

「現在、自社の技術者4万2,000人のうちデジタル技術者は7,000人だが、全員をデジタル技術者にしたい。デジタル文化を組織の隅々まで実装する必要がある」として、技術者のデジタルシフトを推進することに加え、社員全体を巻き込んだデジタルトランスフォーメーションを図る考えを示した。

その一方で、火力、システムLSI、産業モータ、モバイルHDDといったモニタリング対象事業は、事業構造転換により、収益を改善させることを基本方針とした。改善がみられない場合には、一部領域においては撤退を含め検討するという。

「明日をつくる技術の東芝」は戻るのか?

東芝の今後の企業像として、車谷会長兼CEOは、「世界有数のCPS(サイバー・フィジカル・システム)テクノロジー企業になる」と位置づけた。

CPSとは、フィジカル空間である現実世界における多様なデータを、IoTなどを通じてデジタルデータとして収集し、これをサイバー空間で、AIなどを活用して蓄積、分析。その結果を活用して、社会課題の解決や産業の活性化につなげるというコンセプトだ。日本では経済産業省などが、この言葉を積極的に使用しており、先頃開催されたCEATEC JAPANも、「CPS/IoTの総合展示会」を標榜していた。

「GAFAなどの巨大なサイバー企業は、既存の業界を、データの世界にリプレイスし、デジタルの世界のデータを独占し、巨大な事業を生みだしてきた。だが、もはや、サイバー世界だけの事業モデルは限界にきている。フィジカルサイドにいかないとこれ以上のデータは取れない。ここが、これからのサイバー事業の本丸だと思っている。フィジカルのデータを効率的に取得し、社会を最適化する。これを成し遂げた企業が次のフェーズで勝つことになる。東芝はそうした企業になりたい」(車谷会長兼CEO)

これまでの東芝にはない、新たな姿が描かれることになる。

今回の会見の冒頭、東芝の車谷会長兼CEOは、「私は企業にはそれぞれにDNAがあると思っている」と切り出し、次のように話している。

「2018年4月に東芝に入社してから、すべての支社、工場をまわり、数1,000人の従業員と話をしてきた。その活動を通じて、東芝の強さの源泉はなにか、DNAはなにかということを探してきた。その結果、東芝という会社は、人の物真似ではなく、他社の技術をM&Aで取得するということでもなく、革新的な独自の技術開発を基盤としたベンチャー型の事業モデルで発展してきたテクノロジー企業であることに気がつかされた。東芝は、143年間、革新的な技術開発力をテコに、社会に貢献してきた企業である。それが東芝のDNAである。東芝には、からくり儀右衛門といわれた田中久重、日本のエジソンといわれた藤岡市助という2人の創業者によるベンチャースピリットがある。これを復活させて、多くの社会課題の解決に取り組み、社会に貢献したい」

今こそ2人の創業者、田中久重と藤岡市助のスピリットを蘇らせたいと話す

かつて東芝が1社提供していた日曜夕方の国民的アニメ「サザエさん」では、毎回、「明日をつくる技術の東芝がお送りいたします」とサザエさんが語り、横にいるタラちゃんが「いたしまーす」と言って、番組が始まっていた。

東芝はテクノロジー企業であり、それを成長基盤として社会貢献をするのが東芝の存在意義とすれば、まさに、このサザエさんの言葉が、東芝Nextプランの方向性をひとことで表現するキーワードなのではないだろうか。

かつてのパナソニック電工が挑む「くらし」のデジタル化

かつてのパナソニック電工が挑む「くらし」のデジタル化

2018.11.06

グループ名門企業が挑む次の100年の姿

住宅の先行き不透明な中、デジタルが重要な役割

未知のニーズを如何にかたちにできるか

パナソニックは、東京・有楽町の東京国際フォーラムで創業100周年記念イベント「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」を開催した。この中で、パナソニック エコソリューションズ社の北野亮社長が、「次の100年における人々の『くらし』の変化とパナソニックのお役立ち」と題したビジネスセッションを行った。

パナソニック エコソリューションズ社の北野亮社長

「アタッチメントプラグ」を手掛けるエコソリューションズ社

エコソリューションズ社は、かつてのパナソニック電工(旧松下電工)の流れを汲み住宅関連事業を手がける、パナソニックの社内カンパニーだ。ちなみに、パナソニックの創業商品として有名なアタッチメントプラグは同社が担当しており、現在でも漁船向けや屋台向けなど、年間10万個の出荷実績があるという。

アタッチメントプラグ」は1918年の松下創設時の商品

北野社長はエコソリューションズ社について、「練り物樹脂の製造技術をコアにスタートした配線器具や照明器具などの電設資材や、雨樋でスタートした住設機器のほか、空気質設備、ソーラー、蓄電池など、住宅分野および非住宅分野にひろく事業を展開している。近年は高齢者向け介護サービス事業、自転車によるモビリティに加えて、さらに街づくりにまで事業を広げている」と説明。同社を「24時間、人々が生活しているあらゆる場面で役に立てるカンパニーだ」と位置づける。

セッションには北野社長のほか、小学館 サライ編集室の小坂眞吾編集長、スキーマ建築計画の長坂常代表、東京大学大学院 工学系研究科 先端学際工学専攻の森川博之教授が参加し、人々の「くらし」の変化についてのパネルディスカッションを行った。このモデレータを務めたのは、フリーキャスターであり千葉大学の客員教授でもある木場弘子氏だ。

フリーキャスターの木場弘子氏

今後の住宅ビジネス、デジタルで成長させたい

まず北野社長は、「住宅着工件数をみると、先行きは明るくない」という見通しを示す。パナソニックは、住宅着工数が上昇し続けていた数十年前の成長期には、豊かなくらしを実現するためとして『電気の1、2、3運動』を展開し、1部屋に2つの灯りと3つのコンセントを提案するなどしてきた。その後も省エネで明るいインバーター技術や、LEDの普及にも力を注ぎ、人々のくらしを変えてきた。そして、「これからはデジタルが重要な役割を果たすことになる」と展望を述べる。

40年ほど前、住宅着工数が減ってきた時期には、増改築キャンペーンを展開し、既存住宅向けの新ビジネスとして増改築需要を掘り起こしたことも

北野社長はパナソニックの強みを、「リアルなくらしのタッチポイントを持っている」ことだと話す。その強みを活かし、「デジタルが、さりげなくより良いくらしやより良い社会をサポートしてくれることに期待している。デジタルを活用することで、掃除、洗濯中であったり、午後からはホームパーティーを開いていたであったり、一日の中でその時間に何をしていたのかといった、これまではわからなかった、その人のくらしぶりがわかるようになる。実際のくらしぶりにあわせて、本人すら気がつかなかった新たな価値やサービスを提供できるようになる」と今後を語る。

パナソニックは直近、住宅向けIoT家電導入を包括的に提供する新ビジネス「Home X」を発表している。北野社長はHome Xを、利用者とくらしをデジタルでつなぐ「くらしの総合プラットフォーム」だといい、「Home Xでは、賢くて押しつけがましくない奥ゆかしいサービスを、さりげなく提供する」と説明した。

エコソリューションズ社の方針は今後も変わらず、「家、街、社会を、人起点で、より良く、快適にすることだ」と話す。ただし、「やり方は、いま流のやり方になる」という。変えるべきは変え、「IoTとAIを組み合わせた家電の知能化によるくらしのアップデートを通じて、人に寄り添った変化を提供したい。より良いくらし・社会のために、果敢に取り組み、変わり続けるカンパニーでありたい」と述べる。

未知のニーズを如何にかたちにできるか

スキーマ建築計画の長坂常代表

ここで、スキーマ建築計画の代表で建築家でもある長坂常氏が、京都・南禅寺のブルーボトルや、東京・表参道のHAY TOKYOなど、自らが設計した店舗での経験をもとに、「ブルーボトルの店舗は京町家を改装したものであり、景観を守りながら、和の様式のなかに洋を取り入れた。また、HAY TOKYOでは、一晩で、すべての什器を取り外すことができる仕組みとなっている。パリでは、午前中にはマルシェだったところが、午後は通路になったり、広場になったりし、道にある緑もリフターで動かすことができる。散々、建物を作ったなかで、人がアクティビティになっていないという課題に気づいた。いまは、ある程度、街のなかに建物が整ってきて、そのなかをどうしていくかということが重要になっている。これからはリノベーションが重要になる」という気づきを語る。

長坂代表はさらに、「今後は、建物や部屋を所有するというだけでなく、時間単位で空間をシェアするようなことが増える」という見解を示す。そして、「空間を作る上でデジタル技術は必要になる。それによって、もっと豊かな空間を作れるだろう」と、デジタル技術とくらしが繋がることへの期待を語った。

東京大学 大学院工学系研究科先端学際工学専攻の森川博之教授

東京大学 大学院の森川教授は、「隠れた顧客のニーズを探し出すことが大切であり、これを実現するのがデジタルである」と発言する。過去の例としてハードディスクレコーダーの登場を挙げ、「ハードディスクレコーダーにすべての番組を録画しておき、見ないものは消すという、それまでにないTV体験を実現した。こうしたものを探さなくてはならない」と、発言の背景を説明する。

今後さらに期待することとして、「AIやIoT、ビッグデータを使ったデジタルが、さりげなく裏側に入って使われる世界を期待している。たとえば、建物や地面などにセンサーを埋めることで、事前に地滑りなどの危険を検知するといった使い方が可能であり、命を救うことにつながる。こうした活動が地道に行われ、私たちをさりげなく守ってくれる世界が訪れてほしい」と、新しいデジタル活用の可能性を語った。

ハードディスクレコーダーの全録で、テレビの視聴スタイルが大きく変わったという人は多いはず
小学館 サライ編集室の小坂眞吾編集長

サライの小坂編集長は、家電を取り巻く現状を、「便利な家電が世の中に数多く溢れていても、デジタルが進み、すぐにそれ以上に便利な家電が生まれる。これが今後もずっと繰り返えされるだろう。一方で、モノを買っても、すぐ売ったりシェアリングしたりするような若い世代が増えている」と分析する。そして、「全体がこうした(若い世代の変化の)流れに対応していく必要がある」と語る。「モノとモノがつながるだけでなく、人と人がつながるものを出してもらいたい」と、パナソニックのデジタル活用への期待を寄せて締めくくった。