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夏目幸明

チロル、うまい棒――「10円ビジネス」の裏側に迫る!

夏目幸明の"スッキリする"カイシャの話 第11回

チロル、うまい棒――「10円ビジネス」の裏側に迫る!

2017.10.04

経済ジャーナリスト夏目幸明がおくる連載。巷で気になるあの商品、サービスなどの裏側には、企業のどんな事情があるのか。そんな「気になる」に応え、かつタメになる話をお届けしていきます。

うまい棒は伸びたり縮んだりしてきた!?

お馴染みのチロルチョコ

ちょっときいてください。チロルチョコに「ヌガー」が入っている理由は、涙ぐましい企業努力」の結果なんです。

チロルチョコ株式会社は、元々は昭和期に「炭鉱の街」として知られた福岡県田川市の企業です。往時はキャラメルや砂糖菓子を作って、炭鉱で働く人やその家族に安くバラ売りしていたと言います。ところが炭鉱が閉山を迎え、同社は大ピンチに。この時の社長の決断が「10円で買えるチョコをつくろう!」だったと言います。

ところが……チョコの原料となるカカオマスやミルクはけっこう高価。子どもが満足してくれそうな大きさのチョコを作ると、原価が15円になってしまったそうです。どうにかしなきゃ、つくるほど赤字になってしまう! そこで社長は、なかに比較的安価なものを入れようと試行錯誤を繰り返し、行き着いたのがあの完成度の高い「ヌガー」だったんです。現在の原料は、水飴とコーヒーパウダーで、これが「すぐ溶けないから普通のチョコより満足感がある」とさえ言われ、子どもたちから絶大な支持を受けた、というわけ。

ちなみに、今は20円の印象があるかもしれません。しかしこれも、ただ値上げしたわけじゃありません。チロルチョコの社員が言います。

「コンビニやスーパーのレジにバーコードが導入されたんですが、当時の10円のチロルには、パッケージにバーコードを記入するスペースがなかったんです。そこで、チョコが大きく価格が20円の商品を出したら、このほうが売上が伸びてた、というわけです」

ちなみに「うまい棒」にも同じような伝説があります。このお菓子「伸びたり縮んだりしたことがある」ってご存じでしたか?

「うまい棒」のおもな原料はコーンです。農作物を輸入するわけですから、不作になったり、円安になったりすれば値上がりします。でも、うまい棒を11円に、12円にしたら10円玉を握りしめて買いに行った子どもが可愛そうです。

そこで同社は、うまい棒を少し短くして対応したんですね。

企業にとって「価格感」は生命線。仮にいままで200円だった牛乳が300円になったら……? 正当な理由があっても、消費者は「高い」と感じ、敬遠してしまいます。避けられない理由で高い商品を出したチロルチョコと、値上げしなかったうまい棒、いずれも「10円」にこだわる姿勢は伝わってきます。

チロルチョコのミルク味には上下で2種類のチョコが使われていた!

次に商品開発ですが、これも、涙ぐましいものがあります。チロルの人に聞くと「マヨネーズ味」とか「ほうれんそう味」とか、ありとあらゆるものを試していたのです。そして、真顔でこう言いました。

「ビスケットにほうれん草のパウダーを入れて、それをチョコと一緒に食べ「ああ、ちっともおいしくない」とかやってます。ボクの経験上、野菜や調味料とチョコレートはあまり合いません。逆にフルーツとチョコレートは相性がいいですね」

これ、筆者の経験上もそうですが、やっぱり試しているかどうかで言葉の重みが違います。そして、彼はこう言いました。

「でも、カレー味、塩味、センベイ味、ずんだモチ味、しょうゆ味など、いろんなものを試すなかから新しい味が生まれるんです。人気商品に育った『きなこもち』も、我々がきなこチョコや、もちグミを試しているから生まれたものです。しかも、たまには野菜などからおいしいものができたりもするんです」

しかし、たまに「出せない」商品もあるとかで……。

「ココアバターやミルクを一定の割合以上含んでないと、表示できる名称が『チョコレート』でなく『油脂利用食品』になってしまうんです。ここらあたりがまた難しいんですよね……」

しかも、製造するときにも工夫があります。例えばうまい棒。あの穴は、何も材料費を削減するためじゃなかったんです。これはうまい棒の会社の人に非公式に聞いたことですが……まず、うまい棒に穴があるのは、製造する機械がこうなっているからだそう。でも、穴があることによって強度が上がり、さらには食感もよくなったんだそう。なるほど、言われてみれば、口の中でクシャッと崩れる感じ、おいしいですもんね。

ミルククリームを仕込むのにも工夫が……

また、チロルにも様々な工夫があります。例えば、上下で違うチョコを使っている製品がある、って知ってますか? 定番になっているミルク味がそれ。まず、カタに粘度の高いチョコを流し込み、ひっくり返します。するとチョコはほとんど流れ出ますが、カタに残ったチョコはカップ状になりますよね。これを冷やして固めて、ミルククリームを流し込みます。そして再び冷やしたあと、最後にチョコで蓋をするわけですが、このチョコは早く固まってくれないと出荷に時間がかかってしまいます。そこで、味はほぼ変わらないのですが、この工程には固まりやすいチョコを使っているんです。

ちなみにチロルやうまい棒がいまだに売れ続けている理由は、もうひとつあります。コンビニのレジで店員さんがバーコードをピッピとやっているとき、横にチロルがあって、それがまた新しい味だったりして、思わず「これも」と買ったこと、ありませんか? みなさんもこんな経緯でついチロルを買っちゃうこと、ありませんか? そう、レジ横は「衝動買い」をうながせる場所。ここに安い商品を置いておくと、売上が伸ばせるのです。

ようするに「10円、20円のお菓子」という市場は、駄菓子屋がコンビニに変わっても魅力的で、昔の子どもが大人に成長しても、つい手にとっちゃうものでもあるのでしょう。ちなみに「チロル」という商品名は、同社の当時の社長がチョコを作るにあたって訪れたオーストリアのチロル地方からとられたもののようです。この、ボクを含むカネがないガキんちょを楽しませてくれた人物は、今、工場の庭で銅像になっていて、取材に行ったときも商品が全国に出荷されていく様子を眺めていました。

著者略歴

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)
'72年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は「ニッポン「もの物語」--なぜ回転寿司は右からやってくるのか」など多数。
コンビニのレイアウトはなぜ例の感じなの?

夏目幸明の"スッキリする"カイシャの話 第10回

コンビニのレイアウトはなぜ例の感じなの?

2017.08.04

経済ジャーナリスト夏目幸明がおくる連載。巷で気になるあの商品、サービスなどの裏側には、企業のどんな事情があるのか。そんな「気になる」に応え、かつタメになる話をお届けしていきます。

コンビニは立ち読み客を「利用」していた!?

道路に面したコンビニの雑誌・書籍コーナー

コンビニの雑誌・書籍売場って、必ず道路に面していませんか? これじつは、立ち読みにきたお客さんを上手く「活用」していたんです。誰もいないお店って、心理的にちょっと入りにくいですよね? 逆に強盗にとっては狙い目かも。一方、雑誌や書籍を立ち読みするお客さんは、売場の滞在時間が長め。そこで「長居するお客さんには外から見える場所にいてもらおう」と、あのレイアウトになっているんです。

そう、コンビニのレイアウトって、なるべくたくさん買ってもらうため改良に改良を重ね、こうなっているんですね。ところが最近、このレイアウトを変えようという動きも……。そんなわけで今回は「現状なぜこのレイアウトなのか」、さらには「なぜ変わろうとしているか」をお伝えします。

きっと、コンビニ業界の頭の良さに舌を巻くと思いますよ!

レジ横の和菓子が重要な責務を担っていた!

まず、既存のレイアウトについて解説させてください。どのコンビニでも、飲料やお弁当ってわりと奥にありますよね、理由は簡単です。皆さんはコンビニに何を買いに行きますか? 多いのはサンドイッチ、おにぎり、飲料あたり。じゃあお客さんは目的の品だけ買って帰るかといえばそんなことはなく、スイーツを手にとったり、「あ、洗剤なかった」と日用品を買ったりします。一方、お店の売上げは、客数×客単価で求められるもの。すなわち一人お客さんがきたら、お店側はなるべく「ついで買い」「衝動買い」してもらいたいのです。とすると、飲料やお弁当をなるべく奥に置けば、商品を手にとってレジに並ぶまで、いろんな商品を見てもらえるじゃないですか! というわけで、飲料やお弁当はなるべく奥に、がコンビニの鉄則なんです。

実をいうと、コンビニのレイアウトの工夫はほぼこの感じ。例えばビールを買うと、そのすぐ隣か、振り返ったところあたりにおつまみが置いてないですか? これは「お隣の法則」「振り返りの法則」といわれます。近くに置いておくと、ついで買いしてもらいやすいのです。

レジ横にある定番商品

さらには「レジ横」や「レジ近くのエンド(=棚の端)」は衝動買いをしてもらいやすい場所。ここには価格帯が低いお菓子が並ぶことが多いようです。なぜって、レジに並んでいるとき、レジ横のチロルチョコや和菓子、レジ近くのエンドにあるガムを見て「あ、これも」と思ったことありませんか? また「レジ前のジャンブル陳列」も、商品を思わず手にとってしまう仕掛けのひとつ。ゴンドラを出して、わざわざちょっと大雑把に並べると「値引き」「投げ売り」の暗示になるのです。そこで「安いならこれも」と手にとるわけ。

また「ゴールデンラインの法則」も使われます。商品が陳列されている棚を眺めるとき、人は少し伏し目がちに眺めます。だから棚のなかで目立たせたい商品は、人の目の位置より少し下、具体的には床から135センチくらいの場所に置かれます。

さらには「いい場所」にどんな商品があるかで、そのコンビニがどこに力を入れたいかわかりますよ。「コンビニはどこでも同じでしょ?」と思ったら大間違い。仮に女子大の近くならスイーツや女性向けのお弁当を充実させますし、例えば「六本木のコンビニはストッキング売場が充実している」という都市伝説もあります(遊びに行く女性が買っているわけですね)。また、レジ横の和菓子にもお客さんへのメッセージが込められているんですよ。和菓子は比較的高齢のお客さんに好まれます。そこで「コンビニには“若者向け”のイメージがあるかもしれませんが、高齢の方も大切にしてますよ」というメッセージを込め、和菓子を目立たせている場合があるのです。

セブン-イレブン社長が話す店舗レイアウト刷新の理由

しかし、この計算され尽くされたレイアウトが、最近、変わろうとしています。2017年、セブン-イレブンは、店舗レイアウトを刷新する戦略を打ち出しました。ざっくり言えば、レジカウンターが少し長くなり、冷凍食品、チルドケースのスペースも増え、逆に雑誌・書籍のコーナーは縮小されています。そこそこ大きなニュースになったので、ご存じの方も多いかもしれません。

なぜなんでしょう?

答えは「変化への対応」です。コンビニが一気に増えた時代に比べ、雑誌の売上げは下がっています。非公式ですが、コンビニ業界の雑誌系の売上は10年前に比べても半減、逆に冷凍食品系の売上は4倍になった、というデータもあります。また、コーヒーやドーナツなどレジカウンターで扱う商品が増えたから。たしかに、ちょっとむりやり感が出ちゃっている店舗もありますね。

ちなみにセブン-イレブンの井阪隆一社長は、以前、筆者のインタビューに答え「コンビニは変化対応業です」と話したことがあります。そして、この新レイアウトこそ、井阪氏が話した「時代の変化を反映」するもの、というわけ。

余談ですが、筆者の本業は経営者への取材で、企業のトップはまず間違いなく「変化への対応こそが企業経営の要」といいます。そう、すべては過渡期。当たり前だと思っていた「コンビニのいつもの感じの店舗レイアウト」も変化し続け、いつか、現在のコンビニを見た未来の若者が「なんかこのコンビニ、懐かしい感じだね」なんて話す日が来るのかもしれませんね。ちなみに、セブン-イレブンでは、先行テストを行ったお店の売り上げはきっちり増加したそうです。

著者略歴

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)
'72年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は「ニッポン「もの物語」--なぜ回転寿司は右からやってくるのか」など多数。
なぜうちの会社にはよくわからない行事がいろいろあるの?

夏目幸明の"スッキリする"カイシャの話 第9回

なぜうちの会社にはよくわからない行事がいろいろあるの?

2017.06.07

経済ジャーナリスト夏目幸明がおくる連載。巷で気になるあの商品、サービスなどの裏側には、企業のどんな事情があるのか。そんな「気になる」に応え、かつタメになる話をお届けしていきます。

「席替え」で生まれた大ヒット商品があった!?

アサヒビールは悩んでいました。若い人に「スーパードライ」をもっと飲んでもらうにはどうしたらいいだろう――。歴史と伝統ある商品だけに、味を変えたら長年のファンを逃してしまいます。しかし目新しさもなければ新規ファンの獲得ができません。そんななか同社は「スーパードライのシマ」をつくりました。それまで「販促」「開発」など別々の部署の人たちがスーパードライを担当していたのですが、これを改め、スーパードライの担当者だけで席をかためたのです。

そんななかマーケティング担当者は、ビールサーバーの担当者の電話を耳にします。「安定してマイナス2度を保てるサーバーができそう」という内容でした。ビールを、凍る寸前まで冷やすと、飲む人は「苦み」を感じにくくなります。そして若者は生物学的に「苦み」が苦手な人が多いのです。マーケティング担当者は「これだ!」と直感し、マイナス2度のサーバーで注ぐ「エクストラコールド」を開発しました。同じスーパードライだから長年のファンにも喜ばれ、かつ、若いファンの獲得も可能になる、と読んだのです。

「謎行事」から生まれる「謎人間関係」は意外といいもの!?

このように「席」は重要です。そこで、コクヨ、カルビー、コニカミノルタなど様々な企業が「フリーアドレス」(=自由な居場所)制度を導入しています。「デスクトップパソコンが必要」など、特定の部門以外の社員は、まるで図書館や学食のように、決まった席がない。すると隣同士で会話が生まれ、新しい発想が生まれる、というわけ。たしかに「〇〇部がこうしてくれたらいいのに」といった要望があっても、わざわざ言いに行くのはハードルが高いもの。また、他部署の同期から「最近こんなプロジェクトが……」と聞かされ「へえー!」となることも多いはず。他部署の人と話すことにより、いわゆる「社内の風通し」がよくなるのです。

でも「席」だけでいいんでしょうか? ――ここでやっと本題です。そう、会社に様々な行事があるのは、ほとんどが「社内の風通しをよくする」ためにあるんですね。

例えば月に1度「誕生日会」を行う企業があります。3月生まれ、4月生まれ、などで部署横断型の謎の結束が生まれます。部活を推奨する企業も多い。スキーが上手い人、野球が上手い人、といった謎の結束が生まれるでしょう。すると、こんなことが起きます。高級フルーツジャムを製造・販売するセゾンファクトリーの社長は、取材でこんな話をしていました。

「社員同士の関係がいいと“三遊間のヒットゾーンが狭くなる”のです。たとえば初めて直営店を出したとき、ショップマネジメントの部署とデザインの担当部署が『販促ツールやプライスカードはどっちがつくるの?』と譲り合った場面がありました。しかし、お互いが親しいと『じゃあ私が』と、みんなが進んで『抜けそうなゴロを捕りにいく』のです。

スタバがカウンター前でお客様を待たせるわけ

そんなわけで「鬱陶しい飲み会」や「なぜか休日にある部活」などは、経営側からみると、大きな意味があるのです。そしてこれは、職場の人間関係改善にも役立ちます。じつは、会社を辞める理由の多くは「人間関係の悩み」。行事や飲み会で「親しみが湧かなかった上司と家族の話をしたら距離が縮まった」とか「別の部署に相談相手ができた」といったことも起き、社員の定着率向上に効果があるのです。

こういった施策は社員同士にとどまりません。たとえばスターバックスコーヒーをはじめとするシアトル系のカフェに行くと、ドリンクができるまで待たされます。これ、スタバ本部の中の人いわく「店員とお客様の間に会話が生まれる仕掛けでもあるんです。また黒いエプロンの店員は『バリスタ』というコーヒーに関する知識が豊富な人。淹れ方や味をきっかけにお客さまとの会話が弾めば、と考えてやっていることです」と言います。また吉野家に食券がないのも、店員が「ありがとうございました」と挨拶をするためだったりします。

たしかに、平日は会社でギューギュー言わされ休日も行事じゃ、ちょっと気分は下がります。でも会社によっては、慰安旅行のお金を出したり、飲み会に補助金を支給したり、身銭を切っている場合もあるはず。あなたもいつかは若者をマネジメントする立場になるのだから、たまになら乗ってあげてもよいのでは……?

著者略歴

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)
'72年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は「ニッポン「もの物語」--なぜ回転寿司は右からやってくるのか」など多数。