ルノーが「メガーヌ R.S.」をモデルチェンジし、日本に導入した。メガーヌ R.S.はルノーのモータースポーツ活動などを担う「ルノースポール」(車名のR.S.はルノースポールのイニシャル)が、実用的な5ドアハッチバックである「メガーヌ」の動力性能を高めたスペシャルモデルだ。

ルノースポールが手掛けた「メガーヌ R.S.」が日本上陸。2018年8月30日に全国のルノー正規販売店で発売となった

通常のメガーヌが最高出力205ps/6,000rpm、最大トルク28.6kgm/2,400rpmを発する1.6リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載するのに対し、R.S.は同279ps/6,000rpm、39.8kgm/2,400rpmを発する1.8リッター直4ターボエンジンを積む。そのパワーは実に、出力で74ps、トルクで11.2kgmの大幅アップを果たしている。ここまで違うと、もう別のクルマだ。

通常、クルマのカタログは、表紙をめくってから数ページはたいてい、そのクルマが最も美しく見える写真を掲載しているもの。だが、メガーヌ R.S.のカタログは違う。1つ目の見開きこそ2台のメガーヌ R.S.がサーキットを走行している写真だが、2つ目の見開きにはもう文字がびっしり。115年を超えるルノーのモータースポーツにおける活躍を事細かに説明しつつ、2008年に8分16秒9、11年に8分7秒97、14年に7分54秒36と、歴代のメガーヌ R.S.がニュルブルクリンク(ドイツにあるサーキット)北コースで記録したラップタイムを写真と共に掲載している。まるで、モータースポーツ専門誌のルノースポーツ特集のようだ。カタログがこのクルマ(を好む層)のマニアックさを物語っている。

カタログを開いて2つ目の見開き(3、4ページ)。モータースポーツ専門誌さながらの文章量だ

ところが、新型メガーヌ R.S.は、これまでになく“売れる”ことを意識したクルマとして登場した。従来のメガーヌ R.S.は3ドアモデルが中心だったのに対し、新型はより実用的な5ドアハッチバックのみの設定となったのだ。

先代は「3ドアモデル」(人が乗り降りするドアは2枚)が中心だったが、新型は「5ドアモデル」(同4枚)のみの設定となった

もはやマニアだけが注目すべきクルマではない

ルノー・ジャポンによれば、日本の輸入車市場におけるCセグメントスポーツ(メガーヌ R.S.、フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」および「ゴルフ R」、プジョー「308 GTI」などが属する)市場は91%が5ドア。メガーヌ R.S.のみが3ドアで孤軍奮闘していた状況だったという。これを5ドアに切り替えたことで、メガーヌ R.S.は「91%」の方に入った。より多くの人に購入を検討してもらおうというわけだ。メガーヌ R.S.が5ドアとなったことで、国内のCセグスポーツはほぼ100%、5ドアの市場となった。

新型「メガーヌ R.S.」は先代よりも圧倒的に大きな市場で勝負する

また、従来のメガーヌ R.S.はMT(マニュアル・トランスミッション)のみの設定だったが、新型は6AT(デュアルクラッチ・トランスミッション)のみの設定となった。メガーヌ R.S.がATを設定すること自体が初めての試みだが、この点でも、国内で購入を検討する層の間口が飛躍的に広がったのではないだろうか。

かつて、欧州ではMTが圧倒的な主流で、ATは設定しても売れなかったものなのだが、今ではAT比率がどんどん高まっているという。まぁ、ひとくちにATといっても、10年前と今では隔世の感がある。多段化して効率(燃費)も上がった。とはいえ、3ペダルのMTが、スポーツ走行には欠かせないという保守的なクルマ好きが存在するのも確か。彼らのために、ルノーも追ってMTを設定するようだ。

日本市場で売れるためにはATが必須だろう

「メガーヌ R.S.」は普通のクルマになってしまったか

右ハンドル、ATの5ドアハッチバックといえば、日本における圧倒的主流のパッケージだ。トヨタ自動車「プリウス」がそうだし、ホンダ「フィット」もそう。日本で最もメジャーな輸入車である「ゴルフ」もそうだ(ただし、海外仕様としては3ドアも存在する)。もう、メガーヌ R.S.の購入を検討する上で、障壁はほぼなくなった。

では、乗った感じはどうなのか。乗り味までその辺によくあるクルマと同じになってしまっては本末転倒だが、それは杞憂だった。5ドアのATになっても、メガーヌ R.S.はメガーヌ R.S.だったのだ。

実用性を獲得した「メガーヌ R.S.」だが、決してひよっていないことは乗れば分かる

冒頭に書いた通り、新型は1.8リッター直4ターボエンジンを搭載する。先代は2リッター直4ターボだったので排気量は200cc減ったが、最高出力、最大トルクともに先代を超えている。新型が積むエンジンは、ルノーのスポーツカー専門ブランドとしてこのほど復活したアルピーヌ「A110」と同じもの。ベースは日産自動車のエンジンだ。

ルノーというのは、かつて自然吸気エンジンが主流だったF1の世界にターボエンジンを最初に持ち込み、大暴れしたメーカーとしても知られる。市販車にも、早くからターボエンジンを採用してきた。つまり、ターボエンジンを深く理解するメーカーなのだ。

実際、新型メガーヌ R.S.が搭載するエンジンは、1.8リッターターボでありながら、ライバルのフォルクスワーゲンやプジョーがスポーツモデルに採用する2リッターターボに全くひけをとらないスペックを獲得しているし、体感上も速い。発進から、これ以上出すと危ないという領域のスピードまで一気に吹け上がっていく。

箱根ターンパイクで「メガーヌ R.S.」の走りを堪能

その怒涛のエンジンパワーを受け止めるボディと足まわりはどうかというと、ノーマルのメガーヌに対し各部が強度を増していて、太いハイグリップの19インチタイヤを収めるべく、前後のフェンダーも広く大きくなっている。車両の状態にかかわらず、タイヤを常に路面に押し付ける効果を持つ特別な機構のサスペンションも採用しているし、ダンパーは専用のものだ。

さらには、近頃は各社がこぞって採用している4輪操舵システムも装備した。前輪だけでなく後輪も操舵するシステムで、時速60キロを境に、低速走行時は前輪とは逆位相、高速走行時には同位相に後輪の向きを変える。山道で体感した4コントロールの効果は抜群。コーナーでは、クルマがとにかく曲がりたがるような印象を受けた。慣れるまではステアリングを切った以上に曲がる感覚に戸惑ったが、こういうものと知ってからは、気持ちよく走らせることができるようになった。

「メガーヌ R.S.」が搭載する4輪操舵システム「4コントロール」は、コーナリングの時、車速に合わせて後輪を操舵する。具体的には、時速60キロ以下の低速走行時には後輪が前輪とは逆の方向を向き(最大2.7度)、同60キロ以上の高速走行時は前輪と同じ方向を向く(最大1度)

動力性能の差をどう考えるかで変わる価格の印象

歴代メガーヌ R.S.がラップタイムにこだわってきたニュルブルクリンク北コースは1周約20kmで、200前後のコーナーをもつ。曲がりくねっているだけでなく、約300mの高低差もあるジェットコースター的なコースで、エンジンにもサスペンションにも高い負荷がかかる。おまけに舗装が古いため滑りやすく、タイヤにも過酷なコースだ。クルマの総合力が試されるサーキットといえる。

同コースで開発されたメガーヌ R.S.は、ライバルのホンダ「シビックタイプR」とタイムを競い合っている。先代メガーヌ R.S.が記録した7分54秒36というタイムは、7分43秒80を記録したシビックタイプRに破られた。新型メガーヌ R.S.がいつの段階でこの記録に挑むのかは分からないが、戦いは続いている。

ちなみにルノースポールは、試乗会が開催された箱根周辺の山道にも新型メガーヌ R.S.の開発車両を持ち込み、テストを重ねたという。箱根を走らせて気持ちよいのは当然のことだったのだ。

ホンダの「シビックタイプR」と速さを競い合う「メガーヌ R.S.」

過去最高にパワフルでありながら、実用的な右ハンドル5ドアハッチバックのATとして生まれ変わったメガーヌ R.S.は、マニアの要求に応えつつ、幅広い層にも訴求可能なスポーツハッチとなった。価格は440万円。絶対的に安くはないが、では、この価格のほかのクルマが、主に動力性能の面でどの程度の実力を持っているのかを調べれば、不当に高いわけではないことが分かるはずだ。