「土屋武之」の記事

土屋武之

土屋武之(つちや・たけゆき)

フリーライター

1965年、大阪府豊中市生まれ。鉄道員だった祖父、伯父の影響や、阪急電鉄の線路近くに住んだ経験などから、幼少時より鉄道に興味を抱く。大阪大学では演劇学を専攻し劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。芸術や評論を学ぶ。出版社勤務を経て1997年にフリーライターとして独立。2004年頃から鉄道を専門とするようになり、社会派鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」のメイン記事を毎号担当するなど、社会の公器としての鉄道を幅広く見つめ続けている。著書は「鉄道員になるには」(ぺりかん社)、「まるまる大阪環状線めぐり」(交通新聞社)、「新きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)、「JR私鉄全線 地図でよくわかる 鉄道大百科」(JTBパブリッシング)など。
JR西日本が「おおさか東線」で目指す“完成形”とは

JR西日本が「おおさか東線」で目指す“完成形”とは

2019.04.25

「おおさか東線」の新大阪~放出間が開通

新大阪へのアクセス強化で新幹線需要アップを!

北梅田駅を建設して、より一層栄える大阪に

JR西日本が整備を進めていた「おおさか東線」の新大阪~放出(はなてん)間、通称「北区間」が2019年3月16日に開業し、これで2008年に営業開始した「南区間」(放出~久宝寺間)と合わせて、当初計画の全区間が完成した。

放出駅付近ですれ違う、奈良行きの「直通快速」(右)とおおさか東線の普通列車(左)

もともと存在していた貨物専用の城東貨物線を複線化し、旅客列車を走らせようという1950年代からの構想に基づき、新駅や新大阪への乗り入れルートを建設。鴫野~放出間で線路を共用していた学研都市線との分離・複々線化などを行ったものだ。

元より大阪市東部や東大阪市といった人口が多い地域を縦貫しているだけに、潜在的な旅客需要は見込まれていた。既存線の改良により、地下鉄のような莫大な建設費をかけることなく、これに応えた形だ。

新駅のうち、南吹田と城北公園通は、これまでバスしか公共交通機関がなかった地域に設けられており、交通の定時性、速達性の改善がおおいに期待される。JR淡路とJR野江は、それぞれ阪急、京阪との接続駅であり、周辺地域はもちろん、両私鉄の沿線と新大阪との間の往来が、混雑する大阪市中心部を経由しなくとも可能となった。ルートによっては乗り換え回数が減った。

城北公園通駅など、鉄道に恵まれなかった地域に設けられた駅もある

広域的にみれば、JR西日本は「直通快速」を新大阪~奈良間に設定し、JR大和路線奈良方面と新大阪との間のアクセス改善をもくろんでいる。新大阪~奈良間の直通列車は、1988年の「なら・シルクロード博覧会」開催の際に、梅田貨物線~大阪環状線経由(現在、関空特急「はるか」などが走るルート)で臨時快速が運転された実績があるが、単線の梅田貨物線や列車本数が多い大阪環状線のダイヤに挿入する苦労があり、その後、定期列車化されることはなかった。それがおおさか東線の全線開業で、毎日4往復の快速列車の設定が可能となったのである。

なぜ、新大阪へのアクセスを改善するのか

新大阪駅は東海道・山陽新幹線のターミナル駅。新大阪へのアクセスを改善するということは、まず第一に新幹線を便利に利用できるようにするということだ。奈良方面の直通快速を例として、沿線地域から発生する広域的な流動の一翼を担い、かつ新幹線の沿線から観光客、ビジネス客を招き入れるというもくろみが、おおさか東線の建設経緯および、今回のダイヤ設定から読み取れる。

沿線地域にとっては、新大阪へ直結されたことが大きい

おおさか東線の沿線は製造業が盛んな、いわゆる「モノづくり」の街だ。独自の技術を持った大小の事業所が多数、立地している。最近の産業構造の変化により、工場跡地に建設されたマンションが目立つようになったが、車窓を眺めていると街の特徴がよくわかる。

これまで、この地域は大阪市中心部へのアクセスこそ便利であったが、新幹線や空港といった、広域的なアクセスの拠点への便は、今ひとつであった。そこへ開業したおおさか東線は、新大阪への直行を可能とした。

終点の久宝寺が位置する八尾市もまた、製造業の街だ。今回の開業にあたり八尾市は、市制施行70周年記念事業と題して、おおさか東線普通列車へのヘッドマーク掲出行い、注目された。もちろん今後の他地域との交流活発化、ひいては産業振興への期待が込められていることだろう。

八尾市がPRのため掲出したヘッドマークをつけて走る普通列車

おおさか東線は、JR東日本の武蔵野線と対比されることもある。都心部から放射状に伸びる各鉄道を環状に結ぶ点が似ているからだが、沿線地域の構造はまったく異なる。武蔵野線も貨物専用線から旅客兼用に変更された路線だが、開業時の沿線は田園地帯。その後の発展により通勤路線となった。それに対し、おおさか東線はもともと過密とさえいえる人口集中地帯に建設されている。沿線の衰退を防ぎ、さらなる発展を促すことが、路線を持つJR西日本にとって重要な課題だ。

新大阪駅周辺の再整備も視野に

新大阪駅の周辺は、1964年の東海道新幹線開業時にはまったくの街外れで、単なる新幹線とほかの鉄道や自動車交通との接続駅でしかなかった。その名残りは、駅の正面出口に直結しているのがタクシー乗り場(現在の利用実態からすれば、まったく不合理)で、周囲の街へ出ようとすると、慣れないと道に迷いかねないぐらい不便な構造ともいえる。

ところが新幹線駅に至近という立地は、やはり企業にとっては魅力的で、オフィス街が形成され、超高層ビルも建設されるようになった。ただ、商業施設はほとんどなく、街は雑然としていて、梅田や難波のような繁華街としての賑わいには乏しい。

新大阪駅の駅名標には現在、隣の駅として西九条が表示されているが、これがいずれ「北梅田」に変わる

2018年8月29日、新大阪駅周辺地域は「都市再生緊急整備地域の候補となる地域」として、内閣府から公表された。将来的な中央リニア新幹線や北陸新幹線の乗り入れをにらんでのことである。これを受けて大阪市は大阪府と連携し、国、経済界、民間事業者などとともに、「新大阪駅周辺地域都市再生緊急整備地域検討協議会」を立ち上げた。都市再生緊急整備地域指定へ向けた準備を始めている。

もちろんJR西日本も新大阪へのアクセスをになう鉄道事業者として、この動きに深く関わることになる。むしろ、新大阪駅周辺整備の必要性は、同社がいちばん強く感じていたのではあるまいか。新大阪の都市核としての発展があれば、関西各地や中国地方からの列車を走らせているJR西日本にとって、自社の発展につながるからだ。

おおさか東線の整備は、むしろJR西日本サイドから新大阪の再開発と発展を促す、ひとつのアイテムと位置づけられ、進められてきたことだろう。もちろん、中央リニア新幹線や北陸新幹線の新大阪乗り入れも、将来的な視野に入れてのことだ。

おおさか東線の「終点」は北梅田

関西圏でも「駅ナンバリング」が進んでおり、あまり目立ってはいないように見受けられたが、おおさか東線の各駅にも付けられている。現在、新大阪がJR‐F02。以下、順に付けられ、久宝寺がJR‐F15となっている。JR‐F01は、乗り入れ予定の「北梅田(仮称)駅」のために空けられている。

北梅田駅は現在、JR大阪駅北側の旧梅田貨物駅跡地に建設中だ。開業は2023年春が予定されている。完成すると、現在、梅田貨物線を経由している関空特急「はるか」や特急「くろしお」などが停車する。そしておおさか東線列車も乗り入れる。

JR大阪駅のすぐ北側、地下に建設中の北梅田駅

現在でも、直通快速は新大阪へ到着した後、そのまま折り返さず、旧梅田貨物駅跡にある梅田信号場(北梅田駅の北西側にある)まで回送されてから折り返す。15分に1本の運転が基本のおおさか東線普通列車の間に割り込む形のダイヤなので、普通が折り返す新大阪駅2番線には入れず、3番線に到着、1番線から発車している。

新大阪駅の在来線乗り場は、おおさか東線の北梅田延伸を睨んで設計されている。1番線は「はるか」「くろしお」などが到着し、京都方面へ直通する。2番線が前述の通り、おおさか東線普通列車の折り返し。3番線が関西空港行き「はるか」と白浜・新宮方面行きの「くろしお」の出発となっている。

おおさか東線専用に使えるのは、事実上、2番線しかない。しかし、北梅田までの延伸が確定事項であるのなら、これは暫定的な使用方法とみて取れる。おおさか東線の列車が、普通、快速を問わず北梅田発着になれば、新大阪での折り返し列車は確実に減るからだ。

北梅田乗り入れがなった時点で、おおさか東線は真の全線開業となる。梅田地区はいうまでもなく大阪でいちばんの商業エリアであり、巨大な大阪駅ビルに代表されるように、JR西日本の経営上、最重要拠点でもある。そこへ、おおさか東線によって、これまで鉄道に恵まれなかった地域からの流動が生まれるとなれば、梅田の地位はさらに向上する。最終的にJR西日本が目指すところは、そこだ。

新快速をより快適にするJR西日本の「Aシート」の存在意義

新快速をより快適にするJR西日本の「Aシート」の存在意義

2019.04.23

プラス500円でより快適な乗車を提供するJR西日本の「Aシート」

京阪神圏を走る新快速は大きな輸送力を持つ

新幹線が通らない区間を新快速がカバー

JR西日本の新快速は、12両という長い編成を組んで、京阪神間を越えた区間に至るまでサービスを提供している

2019年3月16日のダイヤ改正では、JR西日本が注目すべき施策をいくつか打ち出した。そのうちのひとつに、京阪神圏の近郊輸送(アーバンネットワーク)の主力列車である新快速に設けられた、「Aシート」がある。既存の新快速用車両2両を改造し、片側3カ所の扉のうち中間を埋めて、客室内にはリクライニングシートと荷物置場を設置したものだ。

上下各2本、計4往復の新快速でサービスを開始した「Aシート」の車両

利用するには乗車券と別に「500円の乗車整理券」が必要だが、前売りは一切行われず、空席がある場合のみ、着席後に乗務員が下車駅を確認して発売する。こうすることによって着席を保証するもので、昨今、各社に広まっている「着席保証サービス」の一種でもある。その一方で「乗ってみるまで、座れるかどうかわからない」という欠点も指摘されている。

シートの乗車整理券は車内で、下車駅を指定して乗務員から購入する

現在のところ、12両編成中1両、野洲~姫路・網干間に1日2往復だけの設定で、「お試し」という域を出ない。だが、「グレードアップした座席を新快速に設けては」という議論は以前からあり、古くはJR西日本が発足した初期にも、グリーン車連結構想があるとの報道が見受けられた。

Aシートの登場から1カ月あまり。春休みの「青春18きっぷ」利用期間も終わって、試乗も一段落。動向も落ち着いたかと思われるが、利用客には一応の評価を得ているものと思われる。利用率次第で、今後の拡大は視野に入っていることであろう。

Aシート車には独自のロゴを入れて、ほかの車両と区別している

長距離客の需要をつかむか?

こうしたサービスへの潜在的な需要は、JR西日本も十分に把握していたはずだ。新快速用の電車は、2人掛けの「転換式クロスシート」と呼ばれる座席を装備し、普通や快速では一般的なロングシートや4人掛けのボックスシートの車両より快適と言われる。それは間違いではないが、さすがに最新式の特急用リクライニングシートとは比べものにはならない。

実際に乗車してみたが、座り心地がまったく違う。大型テーブルやフリーWi-Fi、電源コンセントも完備されている。それが500円の追加料金で利用できるとあれば、1両46席を埋める程度の需要は、十分にあるものと思われる。

新快速の特徴に長距離運転が挙げられる。最長で、福井県の敦賀発、兵庫県の西端に近い播州赤穂行きというものがある。大阪~姫路間、あるいは大阪~彦根間など、利用が多い区間は営業キロで100km前後となり、130km/h運転が自慢の新快速でも、所要時間は1時間かそれ以上になる。

首都圏で類似した区間としては、上野~水戸間や新宿~甲府間などがある。いずれも全車座席指定の特急が、およそ30分おきに走っており、本来なら特急列車が輸送の主役でもおかしくはない。JR各社が50kmまでの特急料金を設定しているように、もっと短い距離でも速くて快適な特急を利用する客は多いのだ。大阪~京都間(42.8km、新快速で約30分)ぐらいの区間でも、ほかの地方や私鉄では特急、ひいては着席への欲求は高い。非常に盛況で、今後の増強が伝えられる京阪特急の「プレミアムシート」が、よい例だろう。

しかし、JR西日本では特別料金不要の新快速が輸送の主軸を担ってきた。山科~京都~大阪~三ノ宮~姫路間では、12両編成で15分間隔運転という、大きな輸送力を提供しているが、それだけ需要は大きい。裏返して見れば、特別料金という収益源を、これまで逃してきたと言えはしないか。薄利多売と言うが、均一的なサービスよりも値が高くても質が良いものを求め、出費を惜しまない客は、どんな分野においても必ず一定数、存在するはずだ。現に新快速は、運賃がほかの私鉄より高いにもかかわらず、スピードで私鉄特急を圧倒して、顧客を確保してきた。

サービスアップと収益アップの一挙両得をねらう

新快速はもともと、京阪神間における私鉄特急との競争上、快速より上位の列車として誕生した。1970年のデビュー当時の運転区間は京都~西明石間で、日中のみの運転であった。それが国鉄~JR西日本の「安価な高速サービスを関西一円に広げる」という戦略に基づき、東は米原・長浜方面、西は姫路方面まで延長され、朝夕ラッシュ時間帯にも運転されるようになったという経緯がある。JR西日本となってからは収益の柱のひとつと位置づけられ、転換式クロスシートの快速列車は、ほかの線区でも多数、運転されるようになった。

「プレミアムシート」の連結が成功をおさめた京阪特急。新快速のライバルといえる存在だ

現在の新快速の運転区間の大半は、新幹線が並走している。もちろん、スピードでは新幹線が圧倒的ではあるのだが、新大阪駅や新神戸駅あるいは西明石駅が市街地の中心部にない。また、米原~京都間には新幹線駅がないという事情もあって、関西圏内の輸送では新幹線の占める割合は小さく、その分、新快速に人気が集まっている。

そこに存在する特別料金を支払ってでも快適性を求める需要に対して、まったく応えないというのも、今日ではサービス改善という面でマイナス評価につながる。それ以上に収益アップの可能性をみすみす見逃すというのも、一部上場企業の経営上、いかがなものだろうか。

今回のAシート導入の背景としては、やはり京阪のプレミアムシートが、JR西日本の並行路線、しかも大阪市内~京都市内という「短区間」で成功をおさめたことがあるだろう。京阪神間の私鉄の特急列車と、それに対抗する国鉄~JR西日本の新快速は、長年「特別料金不要で快適な座席を提供する」ということが、ひとつのポリシー、あるいは鉄道会社としてのアイデンティティとなっていた。それは、大筋においては今後も続くと思われるが、その一方で、混雑して座れなければ意味がないというジレンマも抱えている。

これまで「着席保証サービス」というものに対して慎重、あるいは懐疑的であった京阪神間の各鉄道会社。しかし「座りたい」という欲求は全国共通のはずだ。首都圏の座席指定制特急の利用客、特に朝夕ラッシュ時間帯に、年配者や小さな子供連れといった交通弱者が目立つのも、立席では移動が厳しいからに他ならない。バリアフリーとは、すなわちどのような人でも移動の自由が保障されるという意味。今日の鉄道会社にとって、最重要課題だといっていい。

お試し期間を終えた後は?

もちろん、Aシートのサービスは現状が完成形であるはずがない。まず供給量の拡大を図るのが先決であろう。片道2本しか連結列車がない今では、わざわざ「Aシートに乗ろう」と運転時刻を調べなければ利用できない。いつでも乗れるよう、すべての新快速への連結されることが理想だ。

同時に、座席指定制つまりは事前予約を可能としなければ、支持は得られないと思う。乗ったが満席で座れない可能性があるという今の制度は、当然ながらJR西日本も不十分と考えているだろう。

ただ、新快速はほかの在来線特急と比べて運転本数が圧倒的に多く、かつ停車駅も多い。車両の改造もさることながら、JRの予約システム「マルス」の改修、ひいてはそのための投資が可能かどうかに今後がかかっている。完全にインターネット予約・チケットレス乗車だけにして、マルスとは切り離した座席予約システムとすることも、あるかもしれない。

北海道を走る観光列車でJRが目指す「方向性」とは?

北海道を走る観光列車でJRが目指す「方向性」とは?

2019.03.29

JR北海道にトロッコ列車と東急車輌が走る

JR東日本が北海道に車両を貸し出す思惑とは?

北海道最大の資源である“自然”をウリにする

2019年2月にJR北海道がJR東日本、東急電鉄、JR貨物と共同で開いた記者会見では、JR東日本が保有するトロッコ列車「びゅうコースター風っこ」と東急が保有し横浜~伊豆急下田間で運転している「THE ROYAL EXPRESS」が、この夏から2020年夏にかけて、北海道を走るというプロジェクトが発表された。

JR北海道へ貸し出されることになった「びゅうコースター風っこ」。写真は水郡線を走ったときのもの(撮影:レイルマンフォトオフィス)

これについては、さまざまな報道がすでになされているので詳細は譲るが、要は、JRのトロッコ列車を道内で運行する試みと、北海道の観光資源に着目した東急が自社所有の列車を走らせて、新しい展開を図ろうという試みである。同じようなプロジェクトではあるが、その性質は異なる。JR貨物は、これらの車両を貨物列車として、北海道までの往復の輸送を担うことで参加する。

JR北海道、JR東日本、東急電鉄、JR北海道の各社の社長が一同に会して、北海道の観光列車についての記者発表が行われた

「びゅうコースター風っこ」は、国鉄が新製し、道内でも運用されているキハ40系ディーゼルカーからの改造車であるため、基本的な構造はJR北海道も熟知している。運行はJR北海道が担い、収益を上げる代わりに車両の借用料をJR東日本に支払う。集客についてもJR北海道が責任を負うこととなる。

JR北海道のキハ40形ディーゼルカー。近い将来の引退が予定されている

「THE ROYAL EXPRESS」は東急が営業の責任を負い、旅行商品を販売する。JR北海道は線路を使用させ、運行に協力するという形である。この場合、線路使用料がJR北海道の収益となる。

「最後のひと花」と「実績づくり」を狙うか

「びゅうコースター風っこ」の改造が完成しデビューしたのは2000年。もう20年近いキャリアを持つベテランである。改造前から数えると、鉄道車両としての寿命ともいえる40年ほどの車齢を重ねている。トロッコ列車として運行された区間は、JR東日本の路線で観光色が強いところなら、ほぼすべてといってよいほど。走れるところは、行き尽くしている。

キハ40系は老朽化が著しいため、JR北海道でもJR東日本でも、あと数年のうちに新型車両へ置き換えられるだろう。そのため、引退が予想されている車両だ。「風っこ」も例外ではない。そうした古参を、あえてかき入れ時である夏季(2019年7~9月の予定)にJR北海道に貸し出す。JR東日本としては、トロッコ列車を北海道で走らせることにより、利用客に新鮮な感覚を味わってもらいたいからだと想像できる。引退間近である車両の最後の活躍の場として、北海道の地を選んだ。JR北海道にとっては扱い慣れた車両を借り入れて実績を積み重ね、今後のほかの車両の借り入れの道筋をつけようという、思惑がありそうだ。

単にトロッコ列車を走らせるだけなら、JR北海道も「ノロッコ号」を保有している。釧路湿原を車窓に眺める釧網本線などを走るが、こちらも国鉄が製造した車両の改造で、「びゅうコースター風っこ」と同時期のデビュー。やはり老朽化が進んでおり、運行を継続するなら、近い将来、新しい車両を投入する必要に迫られている。

窓ガラスがなく、風を感じられるトロッコ列車は、自然に恵まれた北海道では人気があり、観光列車として一定の収益が期待できる。現在、JR北海道は、キハ40系の置き換え用として、JR東日本の新型ディーゼルカーと共通設計にした普通列車用ディーゼルカー(H100形)の投入計画を進めている。その延長線上として、両社共通の観光型ディーゼルカーの新製投入ということも、今回の「風っこ」貸し出しを基礎として、期待できそうだ。例えば「ノロッコ号」は2016年2月まで、「流氷ノロッコ号」として厳冬期に運転されていた。夏季はJR東日本の路線で。冬季は北海道らしい寒さが体験できるJR北海道の路線で運転するという、運用方法も考えられよう。

JR北海道が所有するトロッコ列車「ノロッコ号」。こちらも改造から約20年が経過している

「豪華列車」はどこまで必要か

一方の「THE ROYAL EXPRESS」は、2017年7月に運行を開始したばかりだ。こちらも伊豆急行(東急グループの鉄道会社)2100系電車を改造したものである。水戸岡鋭治氏デザインによる「列車によるクルーズ旅」をコンセプトにしたツアー専用列車であるが、早くも新境地を求めたことになる。

「THE ROYAL EXPRESS」(伊豆急行プレスリリースより)

北海道内で同列車は、ディーゼル機関車が牽引。電源車を連結し冷房や照明などに必要な電力を供給するという。前例がないわけではないが、特殊な運転方法であることは間違いない。「そこまでして、北海道で運転するのか」という見方もできよう。運転期間は2020年5~8月の間で1カ月間。観光シーズンといえる時期で、その間、伊豆を留守にするわけだから、大きなチャレンジである。

好意的に見るなら、東急が同種の列車をJRと協力して全国的に走らせる、その先例にするということであろう。「THE ROYAL EXPRESS」が自力で走行できるのは直流電化区間だけであるから、電化非電化を問わず、走行線区を選ばない車両の新製までにらんでいてもおかしくはない。同種の車両としてはJR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」やJR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」がある。

ただ、この種の列車は「列車自体を楽しむ」ことがコンセプトのひとつでもあり、車窓風景が本州より格段に優れた北海道にふさわしいかという考えもある。印象が相殺されてしまう懸念があるのだ。窓が開く普通列車で北海道を旅した経験があるならば、豪華列車が果たして必要かという思いにもかられる。人間がいかに演出を凝らしても、大自然の前では無力かもしれないのだ。

リピーターが満足する施策とは?

北海道の観光資源の多くは、自然に由来している。風景そのものはもちろん、動植物であったり、海や山の恵みであったりする。人工的なテーマパークなどとは一線を画しており、それで、多くの人に深い魅力を感じさせている。

新宿のJR東日本本社に4社の社長が集まって記者会見を行うような派手なプロジェクトとは対局にあるが、花咲線(釧路~根室間)で2018年6月から取り組まれている利用促進策もまた、北海道の鉄道旅行の魅力を感じさせるための施策。今後の重要な方向性のひとつを示唆している。

北海道には大自然という無二の観光資源がある。写真の釧網本線北浜駅付近の海も、冬は流氷で埋まる

これは定期列車(快速・普通)の一部を対象として「見どころでゆっくり走る」「観光ガイドを音声で行う無料アプリの配布」「ご当地弁当の列車への配達」を柱としたサービスを行うもの。車両自体は特別なものではなく、一般的なJR北海道のディーゼルカーだ。途中駅での乗り降りも、当然、自由である。

初めて北海道を訪れる観光客ならば、確かにお勧めの観光コースを巡ってくれる、団体ツアーが便利であろう。そのコースに観光列車を組み込めばいい。しかし、いずれ飽きて離れる客は必ず出る。ならば、繰り返し北海道を訪れ、鉄道の旅を楽しむ「JR北海道ファン」を、一人でも多く獲得することが肝要になるのではないか。

そうした旅慣れたファンが、レディ・メイドの旅を好むとも考えづらい。広い北海道を「行きたいところへ自由に」「思うがままに」巡りたいと思うはずだ。控えめにその手助けをし、さらに旅を充実させることもまた必要だろう。乗りたい時に列車に乗れ、食べたい時に食べられる自由が大切なのだ。

花咲線の利用促進策のひとつとして、厚岸駅弁の「かきめし」も一部列車へ配達してくれる

国鉄時代には、毎年夏になると北海道ワイド周遊券を手にした若者が、青函連絡船で北海道へと押し寄せた。その頃、人をひき付けたローカル線の多くは廃止されてしまったが、花咲線が健在なのをはじめ、まだ完全に無くなったわけではない。

そこを「観光列車」で旅するのもよいが、なんでもない普通列車で旅をしてもいい。そういう、ひとつの方向性に凝り固まらない考え方を期待したい。

2月14日付けのJR北海道のプレスリリースでは、「多目的特急車両」の新製(2020年秋使用開始予定)が発表された。これはキハ261系特急型ディーゼルカーをベースに、多客期の臨時列車向けとしてリクライニングシートを装備するほか、イベント列車にも用いることができるよう1両をフリースペースにするなどの工夫を施したもの。車両そのものは豪華ではないが、十分な快適性を備え、豊かな観光資源を楽しめるような、走行線区を問わない柔軟な運用が行えるだろう。

宗谷本線の特急として走るキハ261系。これをベースに新しいイベント向け車両が造られる

いたずらに車両そのものをデコライズすることなく、北海道の自然に似合う、ナチュラルな魅力を持つ列車を作り上げる。そして、車窓など自然の恵みを存分に満喫できるアイデアを凝らす。北海道の鉄道旅行の未来を考えるなら、「車両だけに目を向けない」考え方もまた、必須ではなかろうか。