「土屋武之」の記事

土屋武之

土屋武之(つちや・たけゆき)

フリーライター

1965年、大阪府豊中市生まれ。鉄道員だった祖父、伯父の影響や、阪急電鉄の線路近くに住んだ経験などから、幼少時より鉄道に興味を抱く。大阪大学では演劇学を専攻し劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。芸術や評論を学ぶ。出版社勤務を経て1997年にフリーライターとして独立。2004年頃から鉄道を専門とするようになり、社会派鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」のメイン記事を毎号担当するなど、社会の公器としての鉄道を幅広く見つめ続けている。著書は「鉄道員になるには」(ぺりかん社)、「まるまる大阪環状線めぐり」(交通新聞社)、「新きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)、「JR私鉄全線 地図でよくわかる 鉄道大百科」(JTBパブリッシング)など。
少子高齢化と東京膨張の狭間で、東京メトロが輸送力増強「総仕上げ」へ

少子高齢化と東京膨張の狭間で、東京メトロが輸送力増強「総仕上げ」へ

2019.01.15

巨大な鉄道網、東京メトロの大規模開発は一段落

方南町駅を6両編成に対応させ都心直結を便利に

10両編成の乗り入れで利用客増を見込む北綾瀬駅

東京メトロは巨大都市東京の大動脈であり、1日平均の輸送人員数は約742万人(2017年度)にも達している。これは、埼玉県の総人口に匹敵する。そのため、電車の編成も長大で、JR・大手私鉄の路線と相互直通運転を実施している路線の多くでは、20m級車両の10両編成で朝夕の混雑に対応している。保有車両数は、JR各社を除く私鉄では日本最多となる2,728両にも及ぶ。

西武線内を走る10000系。東京メトロは東京近郊のJR、私鉄の多くと相互直通運転も実施し、莫大な数の利用客を日々輸送している

ただし、2013年に副都心線と東急東横線の相互直通運転が始まり、2016年に有楽町線小竹向原~千川間の連絡線建設というビッグプロジェクトが完成して以来、新線の建設や編成の長大化といった、大規模な施設改良は一段落した。輸送人員数はまだ増加傾向だが、高度経済成長期のような急激な増加はもはや昔語り。むしろ「安定期」に入った感もある。 

今後、少子高齢化が進むことは間違いない状況にあって、いまだ膨張を続ける東京とはいえ、長期的には人口減少、ひいては輸送人員が減少へ転じることを見据えた経営計画が必要となるだろう。朝夕の混雑緩和を図る、ホーム増設などの工事は随所で続いているが、一方で新線建設の要望や構想は存在するものの、しばらくは具体的な着工に至ることもないと思われる。

方南町駅の改良工事が完成間近

全長200mにも達する電車が地下を行き交い、どの時間帯に乗っても混雑しているような印象がある東京メトロだが、実はわずか3両編成で運転されている線区もある。丸ノ内線中野坂上~方南町間の支線(以下、方南町支線)と、千代田線の末端区間、綾瀬~北綾瀬間(以下、北綾瀬支線)だ。

これらの線区は長年、短い編成での折り返し運転が行われてきた。東京都内であるから、決して利用客数は少なくないものの、池袋~荻窪間や綾瀬~代々木上原間(以下:本線)と比べれば、のんびりとした雰囲気がある。

しかし現在、この2線区においても本線と同じ長い編成で運転できるよう、改良工事が進捗しており、2019年に完成予定となっている。東京メトロとしては、輸送力増強のための駅改良工事は、これで当面一段落するといえよう。

方南町支線には、中野坂上・中野新橋・中野富士見町・方南町の4駅があるが、前者3駅は丸の内線本線と同じ6両編成列車の発着が可能。問題は終点となる方南町駅で、3両編成しか発着できないホームとなっている。そのため、都心部へ向かうには中野坂上駅での乗り換えが必要だった。ただ、中野富士見町~方南町の間には、東京メトロの中野車両基地が存在しており、丸ノ内線用車両の拠点となっている。この拠点を生かし、朝夕のラッシュ時のみ、中野富士見町駅発着の新宿・池袋方面直通列車を設定していた。

丸ノ内線の「本線」と方南町支線が接続する中野坂上駅。支線から本線列車にホーム対面で乗り換えでき利便性は高いが、直通列車には敵わない

方南町駅も3両編成がぎりぎりという訳ではなく、現在より多少の延長をすれば6両編成が発着できそうなホームの長さであった。そのため、方南町駅の改良工事を行い、完了すれば終点駅(方南町)から新宿、赤坂見附、銀座といった都心部へ乗り換え不要でアクセスできるようになる。

ホーム延伸が完成間近の方南町駅。1月26日までは2本の線路のうち1本を閉鎖して工事が行われている

新型車両の投入が方南町駅改良の契機

そして、方南町駅改良には新型車両2000系の投入が大きく関係していると思われる。2000系は既存の02系(1988~1996年製)をすべて置き換える新製車で、2018年度中の営業運転開始が予定されている。

方南町支線専用の3両編成も02系であるが、6両編成とは仕様が若干異なり、2本連結して本線で使うという訳にはいかない。そのため、定期検査や故障などに備えた予備車も3両編成、6両編成それぞれに準備する必要がある。方南町支線専用の3両編成は6本あり、これは1996年製の最終増備車。そのため、廃車時期はまだ先とも考えられるが、新型車両の投入が本線と支線の編成を統一する最良のタイミング。これにともない、6両編成に対応した駅に改修され、支線専用の3両編成は廃止となる。

3両から10両へ「増結」される北綾瀬支線

一方、北綾瀬支線は、わずか2駅2.1kmの路線。もとは綾瀬車両基地へ出入りする引き込み線を旅客線へ転用したもので、1979年に開業した。末端区間であるため、本線区間のような需要が見込めないとのことで、こちらも3両の専用編成(現在は東西線から改造転用された05系4本)が用意され、綾瀬~北綾瀬間の折り返し運転にだけ使われている。

綾瀬駅に停車中の北綾瀬行き。東西線から転用された3両編成によるワンマン運転が実施されている

広大な車両基地用地のため、北綾瀬駅開業当初、駅周辺は都市化がさほど進んでいなかった。だが、それだけ開発余地が残っていたということになり、しかも支線のもう一方の起点、綾瀬駅は千代田線の始発列車が多いこともあって、次第に大規模マンションなどが建った。それにともない、北綾瀬支線の利用客も右肩上がりで増えていった。

この利用客増に対応するため、本線用の10両編成列車に北綾瀬~綾瀬間の輸送も担ってもらおうという着想で、北綾瀬駅の10両編成対応工事が開始された。3月16日の千代田線ダイヤ改正と同時に10両編成運転が始まる予定だ。

10両編成への対応工事が進む北綾瀬駅。一部の改装は完了している
ホーム延伸のほか、改札口の増設工事も行われている。ホームが長くなることへの対応だ

ただ、綾瀬駅を始発終着にしている10両編成列車がすべて北綾瀬駅発着になるわけではない。現在、朝のラッシュ時間帯(7~8時台)の綾瀬駅始発は13本あるが、そのうち5本が北綾瀬駅始発に変更されるとのことだ。なお、もっとも通勤需要が高い平日朝の7時台には、北綾瀬駅始発が7本設定されている。北綾瀬支線は複線なので、もう少し本数を増やせそうだが、車両基地から綾瀬駅始発として回送される列車と共用となるため、ままならないという側面もある。

また、方南町支線とは異なり3両編成列車が廃止されるわけではない。こちらは従来通り3両での北綾瀬~綾瀬間の折り返しがそのままとなる。車両面では、新型製造といった大きな変更はなさそうである。

ただ、将来的には輸送力を強化する必要性はあるだろう。北綾瀬周辺は住宅地としての人気が高まっていているし、都心方面への始発駅として北綾瀬駅の価値は上がることになる。JR常磐線亀有駅、つくばエクスプレス青井駅、六町駅を利用している層の一部が北綾瀬へ流れる可能性も考えられる。都市開発の面でも、注目のエリアとなることは間違いなさそうだ。

花盛りの「着席保証列車」が短期的なマーケティングになる可能性

花盛りの「着席保証列車」が短期的なマーケティングになる可能性

2018.12.12

大手私鉄が着席保証列車の運用を次々に開始

着席保証列車ならではのデメリットが存在する

将来的に座席指定特急に取って代わられるのでは?

おもに朝夕の通勤時間帯を走る、座席指定制または定員制の列車(以下、着席保証列車と総称)が今、花盛りだ。12月14日には東急電鉄(東急)大井町線~田園都市線の急行に「Q SEAT」が登場し、7両編成中1両だけながら、混雑が大変激しい田園都市線に「必ず座れる」列車が走り始めると話題になった。また、九州の西日本鉄道(西鉄)も、座席指定制の列車を導入すると表明している。

東急大井町・田園都市線を走り始めた「Q SEAT」。本格運用は12月14日からだが、すでに編成に組み込まれている。ただし、本格サービス開始までは、ロングシートでのみの運用

これで、大手私鉄のうち、「運賃以外の特別料金を支払って座席を確保する列車」がないのは、現時点で相模鉄道(相鉄)、阪急電鉄(阪急)、阪神電気鉄道(阪神)だけとなった。JR各社も、定員制の通称「ライナー」を各線で運転している。それだけ、着席へのニーズが高く、鉄道各社の沿線価値向上への取り組みが熱心であるということだ。

近年の傾向としては、終日にわたって運転される観光・ビジネス向けの「特急」とは異なり、リクライニングシート装備の座席指定特急専用車両ではなく、着席保証列車運用時のクロスシートと、そのほかの一般的に運用される時のロングシートとの転換が可能な座席を装備した車両が増えていることがある。量産された車両としては、1996年デビューの近鉄「L/Cカー」が嚆矢といえるが、これは着席保証列車用ではなく、日中は居住性向上のためクロスシート、ラッシュ時は収容力アップのためロングシートとして、両立させることが目的であった。

この座席に目をつけたのが東武鉄道(東武)だ。2008年に運転を開始した東上線の「TJライナー」は、近畿日本鉄道(近鉄)とは反対にラッシュ時にクロスシート状態とし、座席の数だけ発売される着席整理券(区間により310円または410円)を購入すれば、着席を確実に保証するというものである。この「TJライナー」が成功を収め、同種の列車として京王電鉄(京王)「京王ライナー」や、西武鉄道(西武)・東京地下鉄(東京メトロ)・東急・横浜高速鉄道を乗り入れる「S-TRAIN」、西武「拝島ライナー」、冒頭の東急「Q SEAT」と、着席保証列車を採用する会社が続いた。これらは、東武や小田急電鉄(小田急)などが実施している、座席指定特急を通勤時間帯にも運転するという方向性とは別な経営戦略として、広まりをみせている。

通勤客の人気が非常に高い東武東上線の「TJ ライナー」。首都圏大手私鉄の着席保証列車として、先陣を切った
「京王ライナー」は京王で初めて、特別料金を収受する列車。最近では高尾山への観光輸送にも活用されている
左がクロスシート、右がロングシート(ともにイメージ、京王電鉄プレスリリースから)

着席保証列車の弱点は?

実は、着席保証列車ならではのデメリットが存在する。これらの着席保証列車用の車両には、座席以外にも会社を問わない共通点が多い。各社とも通勤型車両を基本として設計されており、ロングシートでの運用時を考慮して、扉の数は片側4カ所。つり革や荷物棚も、通勤型車両と大きな違いはない形で取り付けられている。乗降扉部分と客室も壁で分けられてはいないため、車内の環境としては通勤型車両に近い。

また、転換式座席自体にも設計の苦労が垣間見られる。まず、背ずり。クロスシート状態ならよいが、ロングシート状態の時は、背ずりが窓を背にする状態となる。つまり、あまり高くしすぎると窓をふさぐ形になってしまうため、むやみに高くはできない。一般的に列車の窓は、空調が完備している現在では、明るさや眺望などの点から大きい方が好まれるものだ。

ロングシート状態を考えると、背ずりを傾ける「リクライニング機構」は取り付けづらい。必然的にクロスシートであってもリクライニングシートではないということになる。通勤時の30分程度の乗車ならよいとしても、それ以上となると、やはりリクライニングシートの座席指定特急の方が好ましいということになろう。両者が併存している例としては西武池袋・秩父線があるが、料金の差が小さいこともあり、やはり秩父まで行くとなると「S-TRAIN」よりもリクライニング可能な特急の方が人気がある。「S-TRAIN」は東京メトロや東急東横線へ直通することで、秩父方面に向かう座席指定特急と“運行範囲”という面で差別化を図っている。

土休日のみ東急東横線内を走る、西武40000系「S-TRAIN」。埼玉県と神奈川県を結ぶ足だ

そしてロングシート状態では、一般的な通勤型車両のロングシートより、座席そのものの座り心地は優れているとしても座席定員自体は少ない。通路幅も狭くなるため、立ち乗り客が多くなり混雑し出すと、乗降扉付近に人が溜まりがちになるという傾向にある。

みなとみらい線・東急東横線・東京メトロ副都心線・西武池袋線・東武東上線を結ぶロングシートの「Fライナー」も運行されている。こちらは通常の乗車券で利用可能だ。左が西武池袋線に乗り入れる車両、右が東武東上線に乗り入れる車両。東武東上線の「Fライナー」は通勤型車両50070系で、「TJライナー」用の50090系も、座席以外はこの車両がベースとなっている

「効率」の面で着席保証列車はどうか?

着席保証列車は、非常に高い需要をつかんでいることは事実だが、鉄道会社の収益への貢献という面ではどうだろうか。むろん、それまで「運賃のみ」を支払って乗車していた客が追加料金も支払うことになり、経済的な効果はある。さらに、着席保証列車そのものにも誘客効果があるだろうから、増収につながっていることは予測できる。

ただ問題なのは、高い需要がありながら、それを効果的に取り込んでいるかどうかだ。

例えば西武の「S-TRAIN」「拝島ライナー」用の西武40000系の座席数は、10両編成で440席となっている。車椅子やベビーカーや大型トランク用のスペース「パートナーゾーン」、身障者対応の大型トイレが設置されているとはいえ、1両あたりにすると44席しかない。片側4カ所の乗降扉部分に、通勤型車両と同じだけ立席スペースが取られているため、座席に割り当てられる床面積が狭いのだ。

これに対し、同じ西武の座席指定特急用車両10000系の座席数は、7両編成で406席だ。1両あたり58席で、全席リクライニングシートなど、設備面では「S-TRAIN」に勝る。収受できる料金面での差がないのなら、10000系の方が経営効率としては優れているし、利用客の「受け」もよいのは明白だ。仮に「S-TRAIN」の運用を10000系「ニューレッドアロー」タイプの10両編成に置き換えると30%以上座席数を増やせる計算になる。さらに、2019年春に新型特急001系「Laview」が投入されると、さらに差は広まるだろう。

2019年春にデビューが予定される、西武001系「Laview」。近未来的なスタイルと高い居住性を誇る

着席保証列車用の車両は、急行などほかの列車にも兼用できるので、運用効率を高めれば初期投資の回収が早くなる。しかしながら、人気を得て利用客が増えれば、座席指定特急の方が、需要側も供給側も好ましいということにはなりはしないか。西武や東武(東上線以外の主要路線では座席指定特急を運転している)のように比較の対象がある会社はもちろん。京王や東急のように着席保証列車のみを運転している会社であっても、座席指定特急に投資して十分な利益が見込まれるのなら、そちらの方が好ましいと考えてもおかしくはない。

また、着席保証列車用の車両が片側4扉になっている理由としては、地下鉄への乗り入れやホームドアへの対応もある。しかし、京王新宿駅や東急渋谷駅のように、ホームドア設置済みの駅でも、着席保証列車発着時は一部の扉のみ開閉して、利用客を整理している例もある。

今年になって小田急「GSE」や西武「Laview」のように、乗降扉の位置を工夫してホームドアに対応する座席指定特急用車両が現れた。柵そのものが上下する昇降式ホーム柵も実用化の域に達している。昇降式の柵ならば、扉の位置が異なる車両にも対応可能なので、片側4扉が決定的な条件ではなくなる。小田急「MSE」は1カ所の扉ながら、地下鉄千代田線への乗り入れで、2008年以来10年の実績を持っている。

着席保証列車の将来は?

こうしたことを考え合わせると、当面、着席保証列車は京王、東急、西鉄のように“それまで着席を保証する列車がなかった”鉄道会社では、まだ広まりをみせると思われる。相鉄は東急、JR東日本との相互直通運転を開始する時点が、ひとつのきっかけになるのではないか。「S-TRAIN」のように他社との直通運転で“販路”を広げ、活路を見出す例も増えていくことだろう。

ただ、実績を重ね需要がさらに高まるにつれて“グレードアップ”、つまり座席指定特急への”格上げ”を求める声も高まり、その方向へ進むことも視野に入れたい。そちらの方が、鉄道会社の収益面でも効率的であるからだ。

西武、東武のように、同じ会社内で着席保証列車と座席指定特急の両方を運転している会社では、その傾向が早く現れるのではないかと予想している。地下鉄への乗り入れも、ホームドアへの対応も、すでに大きな課題ではなくなっている。西武の新型特急001系「Laview」は、地下鉄有楽町線、副都心線への乗り入れも考慮した設計であると、西武サイドも認めている。そう考えると着席保証列車は、座席指定特急に取って代わられ、その寿命は比較的短いかもしれない。

現在の着席保証列車用車両も、車体構造自体が通勤型車両と同じであり、もし完全な通勤型車両へ改造するとしても座席の交換程度で済むだろう。着席保証列車は「短期的なマーケティングである」と割り切り、本格的なリクライニングシート車への取り替えを図る会社が出てくることも十分に考えられるのだ。

西武鉄道の斬新な新型特急に課せられた役割

西武鉄道の斬新な新型特急に課せられた役割

2018.11.27

老朽化する西武の既存特急車両置き換えが目的か?

ほかの鉄道企業との連携で広域をカバーする東武

秩父という西武の“エリア”で存在感を示せるか?

西武鉄道は、2018年10月29日に新型特急電車001系「Laview」の概要を発表した。このニュースは、すでに多くのマスコミによって速報され、ご存じの方も多いことだろう。

この車両は西武池袋・秩父線(池袋~西武秩父間)への投入が予告された。列車としての愛称がどうなるかは未発表だが、現在の特急「ちちぶ」と「むさし」(池袋~飯能間)が、001系に置き換えられる。

001系の新製予定は2018年度に8両編成×2本、2019年度に8両編成×5本の、計7本である。これは現在、「ちちぶ」「むさし」に使用されている、池袋線配置の10000系特急電車の本数(7両編成×7本)に付合する。両列車の001系への完全な置き換えが予想されるところだ。

斬新なエクステリア、インテリアデザインで話題となった西武「Laview」。2019年春に営業運転を開始する(提供:西武鉄道)

 新宿線の10000系はどうなる?

西武10000系電車は、1993年に登場。新製後25年が経過したことで、新型特急電車の投入が計画された。法令により、電車はおよそ8年ごとに全般検査(全検)と呼ばれる、徹底的な検査が鉄道会社に義務づけられている。この検査費用は大きく、塗装の塗り替えや老朽化した部分の取り換えなども含めると、一説には1両1000万円ともそれ以上に及ぶとも言われている。10000系はおそらく、3回目の全検を施すことなく、検査期限ギリギリまで使用された上で除籍されることであろう。

10000系は完全な新製車ではなく、制御機器、モーター、台車などの機器を旧型車両から流用している(最終増備車1本を除く)。鉄道など、公共性の強い企業の近年の社会的な使命でもある「省エネ」「省資源」にも適合しないことから、一般的な鉄道車両の寿命である30~50年を待たずに消えることになるであろう。中古車として、中小私鉄への譲渡も考えられなくはないが、今のところ情報はない。

ところで、10000系は池袋・秩父線だけで使用されているものではない。新宿線の特急「小江戸」(西武新宿~本川越間)にも、まったくの同型車が7両編成×5本、使われている。前述の最終増備車が2003年製であることを除いて、これも1993~1996年製であり、当面は製造年次が比較的新しい編成が集められると思われるが、前述の事情から、早晩、置き換えが計画されるかもしれない。

西武の特急は、池袋~西武秩父間の所要時間が1時間18分、西武新宿~本川越間の所要時間は45分と差があり、前者が観光客の利用を意識した列車なのに対し、後者がビジネス・通勤客の利用が多い列車という違いがある。「小江戸」を、観光利用を主に考えた001系で置き換えることは考えづらい。

10000系が使用されている西武新宿線の特急「小江戸」。こちらの動向が、今後、注目される

気になる? 東武鉄道の動き

東京~川越間の鉄道としては、西武のほかに、JR埼京線と東武東上線もある。このうち埼京線は大宮を経由するため、多少、遠回り(新宿~川越間は快速で54分)ではあるが、埼玉県の県庁所在地であるさいたま市と川越市との間の旅客輸送を一輸客手に引き受けている。または渋谷やりんかい線に乗り入れてお台場方面へも直通できるという、アドバンテージもある。

りんかい線に乗り入れた埼京線の列車。JR東日本ならではの、広範囲なネットワークが活かせるのが強みだ

東武東上線は、ほぼ直線状に池袋と川越を結んでおり、新宿をターミナルとしていない不利はあるが、所要時間ではもっとも有利だ。池袋~川越間は急行に乗れば30分である。

この東上線で通勤客の人気を博しているのが、追加料金(現在310円~)で座席が確保(指定席ではなく着席整理券による)される、「TJライナー」だ。2008年に夕~夜の時間帯の6本(平日)で運転を開始。その後、増発を繰り返し、2016年には平日朝の池袋行きも登場。平日の本数で下り13本(池袋~森林公園・小川町間)、上り2本(森林公園~池袋間)が運転されるまでに成長した。下りは土休日の夕刻以降にも運転がある。

東武東上線の通勤客向け「着席保証列車」である「TJライナー」。安定した需要に支えられ、拡充が繰り返されてきた

さて、東武鉄道は2018年2月に、「東武川越特急」「東武川越ライナー」など、東上線における、特別料金を必要とする列車向けと思われる名称の商標登録を出願。2018年11月24日現在、審査中となっている。商標登録については、当然ながら広く一般に公開されるので、これによって鉄道会社の車両や列車運転の計画が知れることもある。

東武では、「特急」という種別は特急料金を必要とする座席指定制列車にのみに与えられている。類推にはなるが、近い将来の東上線への特急設定の計画を想定した上での出願であると見てよいだろう。現時点での情報公開はまったくないが、「TJライナー」の好調、観光地としての川越の認知度向上、西武などライバル企業の動向をにらんで、「先手を打っておいた」とも考えらよう。

東武は、2017年に新型特急電車500系「Revaty」を日光・伊勢崎線系統に投入した。この電車は、3両編成を1単位としての運用が可能で、アーバンパークライン(野田線)や野岩鉄道・会津鉄道への直通といった、特急への大きな需要が見込めないルートであっても運転を可能とした。東上線特急が実現するのなら、このタイプの電車がもってこいといえる。「TJライナー」の日中時間帯への運転拡大も考えられるが、その場合は、10両固定編成という「器」の大きさが問題になるかもしれないからだ。

東武鉄道の最新特急型電車500系「Revaty」。現在は浅草、大宮発着の特急列車への充当のみだが、汎用性は高い

武蔵野西側の輸送力を強化する東武、迎え撃つ西武

こういう東武鉄道の動向は、当然、西武も把握していることだろう。10000系自体の老朽化、陳腐化もある。001系と走行システムなどは共用化するとしても、新宿線向けにふさわしい車体、車内設備を持った新型特急電車の登場が望まれる。

一方で、東武の営業エリアは池袋~川越間に限らない。東上線は寄居まで通じており、秩父鉄道とも接続している。1992年までは、池袋~長瀞~三峰口間といった秩父鉄道直通列車も運転されていた。需要動向次第では、有料特急での復活が構想されてもおかしくはない。秩父鉄道が採用している保安装置を搭載した「Revaty」を増備すれば、すぐにでも可能だろう。なお、秩父鉄道の筆頭株主は大平洋セメントであり、西武、東武とは、旅客運送上は密接な関係にあるものの、どちらとも資本関係はない。

秩父鉄道はSL列車の運転などで、人気が高い。西武のみならず、東武にとっても沿線は魅力あるエリアだ

西武にしてみれば、川越のみならず、「自社エリア」と認識している秩父にまで、東武の陰が見え隠れしてくるとなると、手をこまねいているわけにはいかない。「Laview」の投入は、そのテコ入れの第一歩と見られる。

ただ、利用客からすれば、競争によるサービス向上は望むところであり、夢のある話だ。積極的な投資を期待したい。