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周藤瞳美

DeNAが「MaaSは世界を席巻できる千載一遇のチャンス」と語るワケ

DeNAが「MaaSは世界を席巻できる千載一遇のチャンス」と語るワケ

2018.03.30

タクシーの配車アプリやカーシェアリング、ライドシェアなど、次世代型の交通サービス「MaaS(Mobility as a Service)」の発展が世界的に期待されている。MaaSは「モビリティのサービス化」とも言われ、移動手段を自動車や自転車という"モノ"としてではなく、人やモノを運ぶ"サービス"として提供することを意味する。

既存の業界の枠組みを超えて新たな連携を生み、人やモノの移動手段のあり方を大きく変えるポテンシャルを持つMaaS。日本でも、さまざまな業界の企業がこの市場に参入し始めているが、そのうちのひとつがディー・エヌ・エー(DeNA)だ。現在、次世代物流サービス「ロボネコヤマト」やタクシー配車アプリ「タクベル」などさまざまなモビリティサービスを展開している。

特集4回目の最後では、DeNAオートモーティブ事業本部長 中島宏氏が、MaaS市場の全体感や各国における動向、日本における可能性などについて解説したメディア向けの勉強会の様子をお届けする。

DeNAオートモーティブ事業本部長 中島 宏氏

MaaSの状況は"iモード前夜"

現在のMaaSの状況について中島氏は、携帯電話を中心とする産業が発展してきた歴史になぞらえ、「携帯電話がコネクテッドしはじめ、eメールができるようになった時期に似ている」と語る。

当時は、携帯でeメールができるようになったと言ってもピンとこない人が多いような状況であったが、iモードが登場し、端末と通信の性能が向上したことにより、モバイルコンテンツ産業が勃興。そして現在では、ゲームや音楽も含め携帯電話周辺の産業構造変化が起こっている。

「15年前には、現在活躍しているような企業が業績を伸ばすとは誰も想像できなかった。大きな荒波をどう乗り越え、ユーザーに支持されるものを作るか考えてきた企業が生き残っているだけ。自動車業界はiモード前夜のような状況にあると捉えるとわかりやすいのでは」(中島氏)

例えば、10年前には数十億円程度の規模だったソーシャルゲーム市場は現在、1兆数億円規模にまで急成長している。一方で、既存市場であったテレビゲーム市場がディスラプトされたかというと、そういうわけでもない。まとまった時間が必要なテレビゲームに対し、ソーシャルゲームは細切れの時間を複数回とって進めていくもの。

中島氏はこのソーシャルゲームの特徴が「ユーザーの潜在的なニーズに刺さったのではないか」としたうえで、「同様に、自動車のIT化やシェアリングの導入は、既存市場のディスラプトを前提としていない」と語る。MaaSの領域においては、携帯電話産業がハードウェアからサービスへと変遷していったように、モビリティそのものがサービスとして認知されていくようになることを見込んでいるという。

MaaSの本丸は何か?

MaaSは普及初期の段階であり、なかなかその全体像を的確に捉えられていない人も多いと指摘する中島氏。「業界のなかにも"カーナビの画面にスマートフォンの画面が映ること = MaaS"といったような意見があるが、私はそうは思わない。こうしたインフォテイメントと呼ばれる領域は、MaaSのなかでもかなり枝葉の話」であるとし、MaaSの本丸はあくまで、車というハードウェアを利用した"乗り物のサービス化"であることを強調する。

中島氏によると、MaaSは「車両自体を提供するサービス」「車両とドライバーをセットで提供するサービス」の2種類に大きく分類でき、さらにこれらサービスを利用するのが法人か個人かなどの違いによって、MaaSのカテゴリをさらに細かく分けていくことができるという。

現在のモビリティサービスの分類

例えば、従来からある法人利用のリースやレンタカーなども、BtoBの「車両自体を提供するサービス」としてMaaSの一分野に位置付けることができる。また、車両の個人利用を目的としたCtoCのカーシェアリングサービスは、特にアメリカにおいて急成長している分野だ。DeNAも「Anyca」というサービス名で2015年からスタートさせており、市場規模は世界的に大きくなりつつある。「車両自体を提供するサービスだけでみても、成長産業として定義して良い程度に伸びてきている」(中島氏)。

一方、「車両とドライバーをセットで提供するサービス」の代表例がタクシーだ。こちらも、法人利用か個人利用かによって分類することができ、たとえば韓国最大の配車アプリ「カカオタクシー」は、純粋なBtoCのMaaSとして位置付けられる。これに対し、今や世界的に普及している「Uber」はカテゴリ横断で広く抑えているイメージだ。

しかし中島氏は、こうしたMaaSの分類の仕方は、自動運転時代に入っていくことで意味をなさなくなると説明する。

「自動運転によって、カテゴリが分岐していくのではなく、すべてのサービスに垣根がなくなるというのが正しい理解。これまで自分で運転する必要のあったサービスも、完全自動運転が実現すれば、アプリに行き先を入力するだけで移動できるようになる。それはタクシーと何が違うのか。法律の整備や業界の権力闘争など、サービスの性質の根本とは異なる議論を経て、新たなカテゴリが生まれてくるのではないかと見ている」(中島氏)

完全自動運転時代にはモビリティサービスの分類の垣根がなくなる

中島氏は現在のMaaS市場の構造として、自動車メーカーを中心とした動きと、IT系サービス事業者を中心とした動きがあるとしたうえで、「この2つは決して競合するものではない」と分析する。

自動車メーカーが車両や制御システム、コネクテッドシステムを開発し、コネクテッドされた自動車をAPIを定義して解放することでオープンにしていく一方、ITサービス側はこれを利用して、顧客や別の事業者に対してプラットフォームを提供するという「水平分業」が発生していると解釈できる。

トヨタが提唱する「e-Palette」はその派生タイプであるといえる。中島氏は「車両制御APIを解放し、サードパーティが自動運転のミドルウェアを作っても良いという方針を打ち出したのは、業界にとって非常に大きな一歩。IT系サービス事業者にとっては大きなチャンスとなる」と語る。

モビリティサービスの基本アーキテクチャ

世界的に、2030年までは都市への集中がさらに進むものと考えられており、交通渋滞や土地の有効活用などが課題となる。さらに日本は、高齢化の進行により、買い物弱者・移動弱者の増加や労働人口の減少といった特有の課題も抱えている。一方で、日本ならではの優位性もある。労働人口が減少しているということは、積極的に人とロボットの共存共栄をしていく動きになりやすい状況であるとも捉えることができる。加えて、日本は世界屈指の自動車技術集積エリアだ。

中島氏は、「この優位性を生かすことで、日本独自のMaaSで世界を席巻できる千載一遇のチャンス」と語る。既存の業界構造にとらわれることなく、国をあげてMaaSに取り組みを加速させていく必要があるだろう。DeNAとしては、同社の強みであるITとAI技術によって、日本の交通の仕組みそのものをアップデートしていきたい考えだ。

クルマもAWSの時代、DeNAのMaaSはクラウドの

クルマもAWSの時代、DeNAのMaaSはクラウドの"雄"が支える?

2018.03.29

タクシーの配車アプリや、カーシェアリング、ライドシェアなど、次世代型の交通サービス「MaaS(Mobility as a Service)」の発展が世界的に期待されている。

MaaSは「モビリティのサービス化」とも言われ、移動手段を自動車や自転車という"モノ"としてではなく、人やモノを運ぶ"サービス"として提供することを意味する。MaaSは、既存の業界の枠組みを超えた新たな連携を生み、人やモノの移動手段のあり方を大きく変えるポテンシャルを持っており、日本でも各業界の企業がこの市場に参入し始めている。

MaaSのサービスプロバイダとしての立ち位置を確立すべく、この領域に進出したDeNA。オートモーティブ事業を新たに立ち上げ、次世代物流サービス「ロボネコヤマト」やタクシー配車アプリ「タクベル」などさまざまなサービスを展開している。

特集3回目は、DeNAのオートモーティブ事業にとって必要不可欠なクラウドサービス アマゾン ウェブ サービス(AWS)の日本法人であるアマゾン ウェブ サービス ジャパン 事業開発本部 事業開発部マネージャーの高橋 修平氏と、同 技術統括本部部長 榎並 利晃氏に、オートモーティブ業界に対するAWSの取り組みについて話を聞いた。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 事業開発本部 事業開発部マネージャーの高橋 修平氏(右)と、同 技術統括本部部長 榎並 利晃氏(左)

AWSからみたオートモーティブ事業におけるDeNAの強み

クラウドコンピューティングの代表格であるAWSは今や、IT業界だけでなく製造業やサービス事業など業種・業界を超え、活用の広がりを見せている。もちろん、オートモーティブ業界とて例外ではない。

AWSは特に、コネクテッドビークルや自動運転システムの開発環境、音声認識AIアシスタント「Alexa」を利用したコンシューマー向けサービスなど計6つのエリアにフォーカスし、オートモーティブ業界に対する取り組みを進めている。たとえば独BMWは、自動車のセンサデータを収集し、地図情報を動的にアップデートしていくという新たなコネクテッドカー向けのアプリケーションにAWSを採用している。

小さなサービスを組み合わせて利用するマイクロサービス アーキテクチャのAWSだが、そのサービス数は現在100を優に超える。いかに効率良く、そして使いやすく組み合わせてシステムを構築できるかが肝要になるが、コネクテッドカーなどの複雑なビジネスロジックを考えていくうえでは、どう実現したらよいかわからないという声もあるそうだ。

そこでAWSは、昨年12月からコネクテッドカー向けのクラウド環境を簡単に利用できるコネクテッドカー・リファレンスアーキテクチャの提供も開始している。Fintechやセキュリティといった時流に合わせたものはもちろん、ECサイト運用やログ解析といった従来はIaaSで運用してきたサービス向けまで幅広くリファレンスアーキテクチャを提供しているAWSだが、まだ未熟な領域に対しても迅速に提供しているのはAWSならではといえよう。

こうしたなかでDeNAのオートモーティブ事業部は、各サービスにおける車両情報を集約する基盤に「AWS IoT Core」を採用している。AWS IoT Coreは、さまざまなデバイスをAWSクラウドへ簡単かつ安全に接続するためのIoTプラットフォームで、数十億個という大量のデバイスに対してスケーラブルに利用できるのが特徴だ。

「特にコネクテッドカーなどオートモーティブ領域では、大量のデバイスから接続が想定されます。スケーラビリティがあり、なおかつ安全に相互通信できるAWS IoT Coreの特徴は、重要なポイントになっていると思います」(榎並氏)

オートモーティブ業界全体が今、これからの方向性やマネタイズについて模索している状況のなか、「トライ&エラーでさまざまなビジネスを検討しやすいクラウドの環境は、現在のオートモーティブ業界に適しているのでは」と高橋氏は話す。

特にIT大手であるDeNAは、もともとクラウドの価値に対する理解があり、クラウドを利用してトライ&エラーを繰り返しながらシステムを開発していくための土壌がある。これは、数年単位の時間をかけて製品開発を行う自動車メーカーに対して強みとなる部分だろう。

コネクテッドカーを含め、IoTシステムを実現するためには、モノそのものだけでなく、モノからクラウドへの接続、さらにはクラウド上に収集されたデータを活用するインテリジェンスも含めて考えていかなければならない。IoTにおけるデータ活用について、榎並氏は「課題設定が非常に重要です。今あるデータをどう使うかという発想では、イノベーションは起きにくい」と指摘する。

「たとえば、『気温と湿度のデータを使って何をやるか』と考えるのと、『居心地の良い環境を作るためにはどのようなデータを取るべきか』と考えるのとでは、結果が大きく異なってくると思いませんか。前者では想像の範囲を超えるものは生まれてきません。IoTにおいては特に、何を実現したいのかきちんと課題設定をして、インテリジェンスの部分を設計していくアプローチが適していると思います」(榎並氏)

DeNAも、今後はGPSなどによる経路情報や車載センサーのデータといった、あらゆるソースを活用して、オートモーティブ事業の各サービスを発展させていくとみられる。そこには、MaaSを実現し、日本の交通問題を解決していきたいという目的がある。データから価値を生み出し、目的を達成するという意味でも、やはりクラウドのメリットを生かしてトライ&エラーの精神で取り組んでいくことが重要となる。

AWSとしての今後の取り組み

一方でAWSとしても、車載、ネットワーク、クラウド、アプリケーションという4つのレイヤーにおいて、コネクテッドカー・車載サービスの実現に向けて取り組んでいるが、今後オートモーティブ業界に対してどのようにアプローチしていくのだろうか。高橋氏は次のように語る。

「安心・安全に関わる車の制御の部分は、我々としてはタッチするのが難しい領域ですが、Alexaを用いたインフォテイメントなどコンシューマ向けのサービスは、クラウドとの親和性が非常に高く、早い段階からお客様とともに取り組みを進めています。また、自動運転システムの開発領域においても我々がサポートできる部分は大きいと考えています。一方で、将来的に自動運転の運用に関わる領域については、我々としてはまだ見えない部分が大きいです。お客様のフィードバックをいただきながら、AWSとして価値提供できるのはどこなのか、今まさに検討を始めているところですね」(高橋氏)

単なる

単なる"物流"からの脱却、ヤマト運輸が考える「MaaS」の世界

2018.03.24

タクシーの配車アプリやカーシェアリング、ライドシェアなど、次世代型の交通サービス「MaaS(Mobility as a Service)」の発展が世界的に期待されている。

MaaSは「モビリティのサービス化」とも言われ、移動手段を自動車や自転車という"モノ"としてではなく、人やモノを運ぶ"サービス"として提供することを意味する。MaaSは、既存の業界の枠組みを超えた新たな連携を生み、人やモノの移動手段のあり方を大きく変えるポテンシャルを持っており、日本でも各業界の企業がこの市場に参入し始めている。

自動運転を活用したMaaSのサービスプロバイダとしての立ち位置を確立すべくこの領域に進出したDeNA。彼らが目指すMaaSとはいったいどんなものなのだろうか。特集2回目は、DeNAと提携して次世代物流プロジェクト「ロボネコヤマト」に取り組むヤマト運輸 ネットワーク事業開発部 情報ネットワーク戦略課長の畠山 和生氏に話を聞いた。

ヤマト運輸 ネットワーク事業開発部 情報ネットワーク戦略課長 畠山 和生氏

「荷物の受け取り方」を多様化したい

MaaSを実現するには、人やモノを運ぶ手段に多様性を持たせる必要がある。一方、畠山氏は、「我々の考えとしては、モノを運ぶ手段というよりは、モノの受け取り方の手段の多様化を目指していきたいのです」と語る。

誰もが知るヤマト運輸の「宅急便」は1976年に誕生、40年以上の歴史を誇るサービスだ。しかし最近では、外部環境、そして利用者の環境も含め、劇的に変化しつつある。宅急便は当初、贈りものの配達を想定したCtoCのサービスだった。

しかし近年、生活スタイルの変化により独居世帯や共働き世帯が増加するにつれて、EC市場が拡大し、宅急便の荷物を受け取る利用者の属性も大きく広がった。これによって、従来よりも「サービス時間外に荷物を受け取りたい」や「玄関先で荷物を受け取るのは億劫」といったニーズが急拡大している。

これに対してヤマト運輸は、不在時の集荷・再配達依頼といった利用者とのコミュニケーションの手段を、電話からメール、LINEまで広げた。コミュニケーション以外にも、コンビニやロッカーの受け取りサービスなど、時代にあわせた「荷物の受け取り方の多様化」を進めてきた。そしてその"多様性"の一つが、来たる自動運転時代における新たな荷物の受け取り方である「ロボネコヤマト」だ。

なぜDeNAと組んだのか?

ロボネコヤマトのプロジェクトが始動したのは、2015年11月。DeNAとの共同プロジェクトとしてヤマト運輸が提案を受けた形だ。

「DeNA側の考えは、旅客だけでなく、市場の大きい物流領域でも、モビリティのサービスプロパイダとして事業を展開していきたいというものでした。一方で我々物流会社は、その時点では『自動運転』と『配送』がアイディアとしてまったく結びついていない状態でした。しかし、誰もやっていないのであれば、試しにうちでやってみても良いのではと考えました」(畠山氏)

ヤマト運輸としては当時、BtoB領域の配送サービス強化と、より地域に密着したサービス展開を課題に抱えていた。一方でDeNAから提案されたロボネコヤマトの事業は、特に地域密着型のサービスとしてマッチすると考えた。「MaaSを通して過疎化地域の課題を解決したいというDeNAのビジョンと、我々のビジョンは非常に近いものであると感じました」(畠山氏)。

その後両社は、2017年4月から国家戦略特区の神奈川県藤沢市で実用実験をスタート。ひとつは、希望する場所で宅配便が受け取ることができるオンデマンド配送サービス「ロボネコデリバリー」。もうひとつは、複数の地元商店の商品をインターネット上で一括購入し、まとめてお届けする買物代行サービス「ロボネコストア」だ。いずれも10分刻みで希望する時間の指定ができる。

スマホアプリで受け取り場所を指定し、到着したミニバンの後ろに用意されたロッカーから荷物を受け取る。QRコードをかざすだけの簡単操作で、10分単位という小刻みな受け取り時間で荷物を手元へと運んでくれる

現状では無人走行はできないためドライバーによる有人運転となるが、将来の完全自動運転時代を見据えて、車両に搭載した保管ボックスから利用者が荷物や商品を受け取る際も、商店の店員が商品を預け入れる際も、ドライバーは関与しない仕組みになっている。

意外なニーズと、見えてきた課題

実用実験から約1年が経過するが、実験を通して「意外なニーズと課題が見えてきた」と畠山氏は話す。例えばロボネコデリバリーのリピート率は50%程度と高く、中でもヘビーユーザーは専業主婦が多い30-40代女性だった。

なぜその層なのか。現状では、通常の宅配サービス稼働時間である8-21時のみの提供となることも影響した結果であると考えられるが、家事や子育てをしながら数時間程度の幅がある時間指定で荷物を待機しているのは、主婦にとってかなりのストレスであることがわかってきた。

「当初、お客様自身で荷物を取りに行くというフローは利用者にとってかなりの手間なのではないかという懸念もありましたが、それを差し引いても10分単位で時間指定ができるのは一日のスケジュールが立てやすくなり、ストレスが低減できるという声が多くあります」(畠山氏)

買い物へ行き、子供の送り迎えと主婦は忙しいため、2時間という一般的な配達時間指定の幅は重荷になる。10分単位であれば、時間の融通が効く

一方でロボネコストアは当初、地元商店街の各店舗に加盟してもらって、利用者が一括で加盟店の商品を受け取れるというサービスを想定していたが、実際は個人経営飲食店のフードデリバリーとしての利用方法がメインとなっている。

この理由について畠山氏は、「商店街の方々の高齢化が進んでおり、パソコンや自動音声電話を利用するサービスフローにハードルを感じる方が多いということがわかりました。一方で、個人経営の飲食店からは、お客様が気軽に出前を取れるようになったことでマーケットが広がったという声をいただいています」と話している。いずれも実用実験を行わなければわからなかった結果である。

しかし、いざ事業化となると課題も多くある。

現在宅配の受け取りに関しては、「クロネコメンバーズ」という会員限定のオプションサービスとしてロボネコヤマトのサービスを提供しているが、利用者数を増やしていくためには、より手軽に誰もが利用できる方法を検討していかなれればならない。

さらに、今回の実用実験は藤沢市という比較的人口の多い地域で行われたが、実際に買物困難者が多くロボネコヤマトのようなサービスを必要としている過疎化地域では、また事情が異なってくる。今後、過疎化地域も含めて全国へサービス展開していくためには、各地域の状況にきちんと向き合い、その地域ならではの課題を解決できるレベルにまでサービスを磨き上げていく必要があるだろう。

人材不足の解決策にもなり得るロボネコヤマト

現在、深刻な問題となっている宅配業界の人手不足に対しても、ロボネコヤマトは可能性を秘めたサービスだ。

ヤマト運輸のセールスドライバーには、安全運転技術、在宅時間に合わせて配送コースを組む能力と経験、配達先でのコミュニケーション、荷物を運ぶ体力といった4つの要件が求められる。この要件をすべて満たす人材は決して多いわけではない。これが宅配業界における人材不足の原因のひとつになっているわけだが、ロボネコヤマトのドライバーは全員が新規採用で、そのほとんどが配送経験のない人材だという。

ロボネコヤマトのドライバーは一般的なセールスドライバーのような、20代~30代男性以外でも対応可能になる(ロボネコヤマト現地写真は、ヤマト運輸提供)

「安全運転技術に関しては、今のところロボネコヤマトのドライバーも社内での研修と認定が必要ですが、配送ルート組み、コミュニケーション能力、体力の3つの要件については、ロボネコヤマトのオペレーション上必要ありません。ロボネコヤマトは、利用者が荷物や商品を取り出すという非対面型の受け取り方法を採用しているので、コミュニケーション能力と体力は要件として強く求めていません。また、配送ルートや時間はロボネコヤマトのシステムが決めているので、ドライバーはタブレットに表示されるスケジュールに合わせて作業をしていくだけです」(畠山氏)

このオペレーションであれば、女性や高齢者でも対応できる。またこの先、安全運転技術の要件も自動運転によってカバーできるようになれば、さらに宅配の仕事に携われる人の範囲は広がる。地域密着型のサービス展開を想定して始めたロボネコヤマトプロジェクトだが、これに加えて宅配業界の人材不足という課題解決に対しても適用可能な要素が詰まっていたのだ。