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加賀章喜

急拡大するe-Sports市場 - 日本のゲームシーンは新たな興行を呼び起こすか?【後編】

急拡大するe-Sports市場 - 日本のゲームシーンは新たな興行を呼び起こすか?【後編】

2016.03.02

e-Sportの興行は、まさにスポーツ興行そのものといえるだろう。収益として、観戦チケットや放送による売り上げ、スポンサーからの収入、関連グッズ販売の利益などが見込まれる。「e-sports SQUARE」を運営する株式会社SANKOの鈴木文雄氏は、e-Sportsをモータースポーツに例える。モータースポーツは、自動車産業や周辺産業の実験の場所としても機能しており、この業態がe-Sportsに近いと捉えているそうだ。ゲームやPC、デバイスやメディア、メガネや食品に至るまで、あらゆる産業の実験の場になっていくことを望むという。

現在、新たなスポーツ興行の形態としてe-Sportsが話題に上がるごとにプロゲーマーやチームの利益は増し、さらなるファンと顧客を呼ぶという好循環の真っただ中にある。e-Sportsの主役ともいうべきこのプロゲーミングチームは、現在どのような状況にあるのだろうか。

「フルタイム勤務・給料制」を実現したDetonatioN Gaming

DetonatioN Gaming 代表/株式会社Sun-Gence 代表取締役社長 梅崎伸幸氏

元々は一部上場企業で会社員をしつつ、チームを運営していた梅崎氏。始めは、1プレイヤーとして世界大会で勝利したいという一心でチームを結成したと語る。当時からスポンサーを獲得しており、2015年1月には法人化も達成。同時にチームメンバーが共同生活を行う「ゲーミングハウス」の設立や日本のプロチームとして初の「フルタイム勤務・給料制」などを実現し話題となるものの、先行投資感は否めなかった。

状況が大きく変わったのは2015年2月。「東京アニメ・声優専門学校」がアニメ総合制作科に「e-Sports プロフェッショナルゲーマーワールド」として4つのe-Sports専攻学科を発表してからだ。e-Sports専攻が存在する以上、その修了後の受け皿に誰しもが興味を持つ。そこで、DetonatioN Gamingが一躍脚光を浴びることとなる。

DetonatioN Gamingのチームメンバーが共同生活を行っている「ゲーミングハウス」。近日移転予定とのこと
「e-Sports プロフェッショナルゲーマーワールド」としてe-Sports専攻学科を始める東京アニメ・声優専門学校

プロゲーミングチームの形態とそれを支える収益構造

プロゲーミングチームの収益となるものは大きく4つあると梅崎氏は語る。大会の賞金、スポンサー料、イベント出演料、そして動画配信ビジネスだ。従来のスポーツと大きく異なる点が、このインターネットを利用した動画配信にあるという。プロゲーマーが日夜、試合の模様を配信することができ、またユーザーと直接コミュニケーションをとることができるというこの形態は、安定した収益を得ることができる柱となるそうだ。

なおDetonatioN Gamingで「League of Legends」をプレイするチーム「Focus Me」は、プロゲーマー7名のほか、コーチ、戦術アナリスト、通訳2名の計11名で構成されている。このほか、運営の株式会社Sun-Genceの従業員としてWeb制作、メンタル管理、広報、映像配信スタッフが勤務。プロゲーマーは個人事業主という立場にあるため、会社には属していない。法人化されて間もないプロゲーミングチームながらも、すでに収益化は見込めており、今後さらに多様なプロチームの拡充を目指しているという。

プロゲーマーの定義と今後の目標

プロゲーマーという職業は、日本ではまだ馴染みがない。既存のスポーツ選手と比較して、まだ地位が確立されておらず、定義は曖昧なところにある。プロゲーミングチームの代表を務める梅崎氏は、プロゲーマーという職業をどのように考えているのだろうか。

日夜ゲームを練習するとともに、そのプレイ動画をインターネットで配信するプロゲーマー

「チームに所属して収入を得たり、スポンサーから機材をいただいたりした時点で“プロ”であることは間違いないでしょう。弊社所属選手ですと、何人かは現在すでに同年代の一流企業社員を大きく上回る収入を得ています。そのほかの選手は大卒同等から高卒程度、またお小遣い程度のインセンティブ収入までさまざまです」と、プロゲーマーの収入面について梅崎氏は語る。

また、こうも指摘する。「しかし近年の日本のプロゲーマーの実態はといえば、ゲームで収入を得られていない選手が大半で、アルバイトなどをしなければ食べていくことができません。プロゲーマーはスターであり、その人気に応じた収入が無くては、だれもその職業を目指さなくなってしまいます。日本においてプロゲーマーを定義づけるためには、まず地位とブランドの確立と向上が必要となるでしょう。弊社が『フルタイム勤務・給料制』を打ち出したのも、その一環です。ただし、具体的にはまだいえませんが、2016年は大きな転機を迎えることになるでしょう」(梅崎氏)。

日本国内で屈指の実力を誇るDetonatioN Gamingだが、世界の選手層は厚く、いまだその頂は遥か遠くにある。世界と肩を並べるため、日本のプロゲーミングチームが今後クリアしていかなくてはならない課題とは、どのようなものだろうか。

世界のプロゲーミングチームと日本の違い

梅崎氏は世界で戦うためのチーム作りについて、以下のように解説する。

「プロゲーミングチームの運営には、選手のマネージメント、チームの自己分析、売り込む営業力の3つが欠かせません。DetonatioN Gamingが日本有数のチームとなれたのは、ほかのチームよりもこの3つをしっかりと意識して運営してきたからだと思っています」。

「今後、日本のプロゲーミングチームには明確なビジョンが求められることになるでしょう。私のビジョンは、DetonatioN Gamingが世界の表舞台で優勝することにあるのですが、そこからブレイクダウンして必要なものを考えるんですよ。達成するためには次に何が必要なのか、お金なのか、環境なのか。お金が必要なのであれば、スポンサーが必要で、そのためには営業が、そのためには実績が……と将来に繋げるための施策を考えているわけですね。『勝ちたい、では練習しよう』、それは当たり前の話で、日本のチームはもっと先のことを考えてマネージメントしていかなくてはいけません」(梅崎氏)。

ゲーミングハウスには専属の調理スタッフも常駐。選手の食事を管理している

「またプロゲーマーの意識向上も必要となってきます。正直にいって、これまでは選手の意識が非常に低く、寝坊やサボりも目立ちました。しかし対価を貰ってプレイする以上、プロゲーマーには社会人としての責務があると考えます。練習や生活に責任を持っていただかなくてはいけません。弊社のゲーミングハウスでは、ゲームの腕を磨くだけでなく、こういった面の教育も行っています」(梅崎氏)。

「プロゲーマーはファンあってこその職業です。スポンサーは、選手やチームに広告塔として価値があるからこそ投資しているわけですから、そのブランドイメージを崩さないよう、スポーツマンシップに則った行動やファンサービスが求められることになります。プロとしての自分を支えている存在を意識した見せ方が、今後必要になっていくことでしょう」(梅崎氏)。

このように、単にゲームの腕を上げるだけでなく、社会人としての規範も重要だと梅崎氏は指摘した。

e-Sportsがメディアで大きく取り扱われる起爆剤となった、東京アニメ・声優専門学校のアニメ総合制作科「e-Sports プロフェッショナルゲーマーワールド」にも触れておきたい。プロゲーマーというセンセーショナルな職業が印象深いが、この学科には「総合プロゲーマー専攻」のほか、「ゲーム実況・MC&声優専攻」「イベント&テクニカルスタッフ専攻」「ビジネス&宣伝プロモーション専攻」と計4つの専攻が用意されている。

e-Sportsに特化したクリーンな専用教室で、アスリートとしてのプロゲーマーを育成する
ハイスペックなPCやゲーミングデバイス、ゲーム向け液晶ディスプレイなどを完備
プロゲーマーだけでなく、ゲーム実況やテクニカルスタッフの育成も行うため、授業ではレコーディングルームも使用される

以前より同校では、ゲームに関わる数々のイベントが開催されていた。これまで同校が培ってきたノウハウと、現役でe-Sportsに関わっている講師陣を生かし、これからのe-Sportsシーンを支える人材を総合的に育成するのが狙いだ。学校側は開校の意図について「アニメや声優といったビジネスを志す学生に、少しでも多くの出口を用意してあげたかった」と語る。

開校にあたっての反響は非常に大きく、資料請求の要望は1万を超えたという。また実際に学科を希望した生徒の数も、想定の5倍に達していると述べる。e-Sportsという市場への渇望と注目の高さが如実に現れた結果といえるだろう。この学科より輩出された卒業生が、e-Sportsをさらに広める役割を担っていくことを期待したい。

日本のe-Sports市場、今後の課題とは

草の根から始まり、多種多様な業種に影響を与えながら、ついに拡大を始めた日本のe-Sports市場。ファミリーコンピュータなどで初めてゲームに触れた世代も、いまや40代。国民の多くがゲームに親しんでいるだけに、ビデオゲーム競技を観戦することに抵抗のない人は多いと思われる。ほかのスポーツ同様、現役でプレイすることは難しくなっても、観戦という形でゲームを楽しむことができるのだ。一文化として根付いたビデオゲームの魅力をより広げ、また新たな興行の形を生み出すe-Sportsの存在は、ゲームに慣れ親しんだ世代にとって歓迎すべきものだろう。

一方で、その急拡大のスピードに対して、市場の構築が追い付いていない側面もみられる。ユーザーの熱意とチームやスポンサーの思惑、そして運営やメーカーの展望が複雑に絡み合った衝突がたびたび起こる現状は、期待が強いがゆえに発生している悲しいすれ違いといえるだろう。今後は、さらに明確なルールの確立や公正な組織作り、意識の向上などによってe-Sportsの基盤を安定させることが望まれる。日本にe-Sports文化が根付く日を心待ちに、まずはその動向をしっかりと見守っていきたい。

移ろいゆく日本のレジャー産業

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急拡大するe-Sports市場 - 日本のゲームシーンは新たな興行を呼び起こすか?【前編】

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2016.03.01

日本でのサービス開始が予定されるMOBA(Multiplayer online battle arena)ゲーム「League of Legends」。2月にはすでにクローズベータテストも実施済みで、3月1日からオープンベータテストがスタートする© 2014 Riot Games, Inc. All rights reserved.

近年、新しいスポーツエンタテインメントとして脚光を浴びるe-Sports(エレクトロニックスポーツ/イースポーツ)。このe-Sports市場は、北米や欧州はもちろんのこと、特にアジア圏において著しく増大した。SuperData Research社がまとめた2015年のレポートを見ると、e-Sportsは今や世界で7億4000万ドルを超える市場に成長しており、海外ではすでに“競技としてビデオゲームを観戦する”というエンターテインメントが形成されている。さらに2018年までには、19億ドルもの巨大な市場へと成長を遂げると予測されており、企業や投資家による投資活動も盛んに行われるようになった。

e-Sports専用施設「e-sports SQUARE」誕生のきっかけ

日本においての広義のe-Sportsには、古くはハドソン社のファミコンキャラバンなどがある。しかしそれはあくまで販促イベントの延長にあるものであって、ユーザー同士がしのぎを削るイベントの先駆けは、格闘ゲームといってよいだろう。一方で海外では、PCの普及にともない、FPS(First Person shooter)やRTS(Real-Time Strategy)といったジャンルが隆盛する。特に韓国では、PC房(バン)という一種のネットカフェの誕生により「STARCRAFT」などのRTSを中心に人気が爆発、e-Sportsの概念がいち早く浸透することとなる。

こういった海外のe-Sports文化に触れ、日本でのe-Sports導入を決意したのが、株式会社SANKOの鈴木文雄氏だ。鈴木氏は2011年に、千葉県市川市に国内初のe-Sports施設「e-sports SQUARE」を開店した。日本でのネットカフェと異なり、e-sports SQUAREはPC房にならってオープンスペースを重視。ゲームをプレイするユーザー同士が交流できる作りを旨とした。e-Sports文化の日本導入を決意した経緯について、鈴木氏はこう話す。

株式会社SANKO 代表取締役 鈴木文雄氏

「2009年にアメリカのe-Sports市場の特番を視聴したことがきっかけですね。FPSのプロゲーマーの生活を追うという内容だったのですが、『ゲーマー=アスリート』と当たり前のように捉えてる姿に衝撃を受けました。当社は広告代理店でありスポーツ関係のマーケティングにも携わっていますので、自分たちの強みを活かして、まだ日本に浸透していない新しい市場を創り出すことができるのではないかと考えたのです」。

「しかし最終的な目標はあっても、主役となる国内ゲーマーの素顔や実態がわかりませんでした。そこでまず韓国の物まねをしてみようということで、プレイヤーが“部室”のように集まれる場所を目指し、e-sports SQUAREを立ち上げたのです。e-Sportsを志すあらゆる人たちを繋げる場所、メーカーにもスポンサーにもメディアにもチームにも属さないフラットなスペースです」と鈴木氏は続けた。

さらに「e-Sportsがほかの競技と違うところは、健常者と障碍者が同等に競える点にあるのではないかと考えています。フィジカルスポーツにおけるオリンピックとパラリンピックの扱いはまったく性質の違うもので、それぞれに出場する選手を互いに競争させることはできません。しかしe-Sportsであれば、ある程度の肉体的ハンデを負っていても健常者と同じ舞台に立つことができるのではないでしょうか」(鈴木氏)と指摘する。

e-Sportsの広がりと「League of Legends」国内リーグ設立

「e-sports SQUARE」は、オープンスペースを重視した店舗設計が行われている

e-sports SQUARE開店当初のPCはわずか20台。営業開始後2週間はまったく客足が無く、スタッフがゲームで遊んでいる状態だったという。しかし1年後には毎週のようにイベントや大会を開くまでに成長。この空間に集まったユーザーから、現在の日本のe-Sportsシーンを支えている人材が輩出されていくこととなる。

この盛り上がりを分析し、名乗りを上げたスポンサーのうちのひとつが、ライフカード「∨プリカ」だ。これは、「League of Legends」プレイヤーの中で「∨プリカ」の愛用者が多かったためだという。またe-sports SQUAREの動画配信において、「League of Legends」の視聴者数はほかのゲームと比べても格段に多かった。こういった状況を踏まえ、鈴木氏は「League of Legends」が日本のe-Sports文化誕生のきっかけに成り得ると感じたという。

秋葉原にある-Sports専用施設「e-sports SQUARE AKIHABARA」

2013年、鈴木氏はついに渡米。RIOT Gamesにビジネスの打診を行い、承諾を得、ここに「League of Legends」国内リーグの設立が決定した。そして2014年1月、PCゲームの中心地ともいえる東京・秋葉原に「e-sports SQUARE AKIHABARA」が開店された。現在、イベントプロデューサーやディレクター、技術スタッフ、そしてアルバイトなどが業務に携わっており、またSANKOの営業や広報など多種多様なスタッフが店舗経営を支える形となっている。しかし、鈴木氏は「まだ日本にはe-Sportsを支える人材が足りていない」と語る。

「イベントの経験がありますというだけでは、e-Sportsの大会は開催できないでしょう。イベント運営、配信技術、多重化映像技術、ゲーム管理、選手管理、顧客対応、審判、実況、解説など、その業務は多岐にわたります。将来、日本でも1万人を超えるビッグイベントは必ず開かれます。その時に備え、e-Sportsの舞台を創れる人材を育成していきたいと思っています」と、人材育成がe-Sports普及のカギになると、鈴木氏は語る。

では、肝心の“選手”育成についてはどうか……後編でレポートする。

移ろいゆく日本のレジャー産業

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