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佐野正弘

佐野正弘

携帯電話ライター

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
ソニーはエレクトロニクス部門の統合でXperiaを立て直せるのか

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第36回

ソニーはエレクトロニクス部門の統合でXperiaを立て直せるのか

2019.04.15

不振のスマホ部門がテレビ・カメラ部門と統合した理由

新型スマホ「Xperia 1」から見えてくる統合の効果

Xperiaが失った魅力を取り戻せる可能性はあるのか

ソニーは2019年4月1日付けで、スマートフォン部門を、カメラやテレビなどを手掛ける部門と統合し、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業としてスタートする。エレクトロニクス関連部門の統合による連携強化で、赤字続きのスマートフォンを立て直せるのだろうか。

テレビ・カメラ主導の事業再編

ソニーは2019年3月26日、ホームエンタテインメント&サウンド(HE&S)、イメージング・プロダクツ&ソリューション(IP&S)、そしてモバイル・コミュニケーション(MC)の3つの事業を統合し、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)事業とすることを発表した。統合は2019年4月1日付けだ。これをもってソニーの持つエレクトロニクス関連3事業が1つに統合されたことになる。

HE&Sはテレビの「BRAVIA」やオーディオ、IP&Sは「CyberShot」「α」などのカメラ、そしてMCはスマートフォン「Xperia」を主に手掛けていた。それら複数のエレクトロニクス事業を統合することで、製品開発や調達などで横の連携を深めるというのが、事業再編の狙いと考えられる。

だが発表内容を細かく見ると、EP&Sを統括するのはIP&Sの石塚茂樹専務で、それを補佐するのはHE&Sの高木一郎専務となっている。つまりIP&SとHE&Sが事業を主導する形となっており、MCが存在感を大きく落としている様子が見えてくる。

もっとも直近の業績を見れば、それはある意味やむを得ない部分もある。ソニーの2018年度第3四半期決算を見ると、HE&Sは475億円、IP&Sは342億円の営業利益を出しており、共に増益を果たしている。一方MCの営業利益はマイナス155億円で、前年同期比でも大幅なマイナスを記録している状況だ。好調が続く他の事業とは対照的に、スマートフォン事業だけが赤字で、その改善の兆しさえ見られない状況が続いている。

今回の統合は不振が続くMCの救済という見方もできるかもしれない。赤字が続くMC事業に関しては、かねてより投資家などから撤退を求める声が挙がっていたし、実際この統合が発表された直後から「スマートフォン事業の赤字隠しではないか」という声も挙がっていた。

ソニーの2018年度第3四半期決算説明会資料より。8つの事業セグメントで唯一、MC事業だけが赤字を記録しているなど、不振が続いている

「Xperia 1」に見る事業再編の効果

だが事業を統合したからといって、スマートフォンにおける市場環境の厳しさが改善する訳ではない。世界的に多くの人にスマートフォンが行き渡り、なおかつコモディティ化と低価格化が急速に進んでいる現在、どのメーカーにとってもスマートフォンの販売を大きく伸ばすのは難しくなっている状況だ。

実際、最近ではアップルがiPhoneなどの販売台数を非公開にしたことが大きな話題となったし、急成長を遂げてきた中国のスマートフォンメーカーも、いくつかが破たんしたり、買収されたりするなど再編が進みつつある。そうした中にあって、スマートフォンの販売を減少させ続けてきたソニーが復活するのは容易ではない。

では、事業統合したソニーはどうやって、この苦戦しているスマートフォン事業を立て直そうとしているのだろうか。そのヒントは、2019年2月に発表されたソニーモバイルコミュニケーションズの新しいスマートフォン「Xperia 1」から見て取ることができる。

Xperiaシリーズはかねてより、イメージセンサーやディスプレイなど、ソニーグループが持つ技術を結集して開発している所に強みがあった。Xperia 1ではそれをさらに推し進め、プロ向けの映像機器開発を手掛ける、ソニーの厚木テクノロジーセンターに協力を依頼している。映画に合わせた21:9比率のディスプレイを搭載したのに加え、プロ用のマスターモニターの発色に近づけた「クリエイターモード」を搭載し、ソニーピクチャーズの映画製作者に評価してもらうなどして、映像に強いこだわりを持つスマートフォンへと仕上げられているのだ。

21:9のディスプレイを搭載したことで注目された「Xperia 1」。プロが使うマスターモニターの発色を実現する「クリエイターモード」を搭載するなど、映像の視聴に強いこだわりを持って作られている

そもそもXperiaシリーズの評価が大きく落ちたのは、2014年に中国メーカーとの低価格競争に敗れスマートフォンの販売が不振となったことを受け、ソニーモバイルが現在ソニーの代表執行役専務CFOを務める十時裕樹氏の体制に代わるなど、大規模な再編がなされて以降のことだ。実際にXperiaシリーズは2016年を境目に、これまでの最先端技術を重視した「Xperia Z」シリーズから、手ごろさや使い勝手を重視した「Xperia X」へと路線を大きく切り替えている。

だがそれ以降、苦戦していた低価格モデルだけでなく、ハイエンドモデルでも急速に製品の魅力を失い、シェアを激減させていった。「明確な理由がない限り複眼カメラは搭載しない」など特定のこだわりを見せるあまり、消費者ニーズやトレンドから離れた端末しか提供できなくなっていたことが、その要因のひとつといえるだろう。

2016年の「Xperia X」シリーズ以降、Xperiaはハイエンドモデルでも市場ニーズとかけ離れた端末が目立つようになり、急速に魅力を失っていった

それだけに、MC単体では難しくなっていたソニー全体の力を生かしたスマートフォン開発ができるようになる今回の統合は、スマートフォン事業を再建する上でメリットに働く可能性が高いといえる。かねてよりソニーはスマートフォンから「撤退しない」と宣言しているだけに、今回の再編によって魅力あるスマートフォンを生み出し、販売改善を図ってくれることを期待したい。

料金引き下げの切り札「プリペイド携帯」に政府もキャリアも消極的な理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第35回

料金引き下げの切り札「プリペイド携帯」に政府もキャリアも消極的な理由

2019.04.02

携帯料金の節約に、海外ではメジャーな「プリペイド方式」

日本でプリペイド方式のサービスが流行らない理由は?

値下げ議論の目的が建前でないなら、プリペイドも再検討すべき

ここ最近、行政主導による携帯電話の料金引き下げがモバイル業界で注目の的となっているが、諸外国では、携帯料金を節約するならプリペイド(前払い)方式のサービスを利用するのが一般的だ。にもかかわらず、日本では料金引き下げのためにプリペイド携帯電話を積極的に利用しようという機運は全く見られない。なぜだろうか。

海外ではとてもメジャーなプリペイド携帯

2018年に菅義偉官房長官が「携帯電話の料金は4割引き下げる余地がある」と発言して以降、携帯電話の料金に関する話題が世間を大きくにぎわせている。最近もNTTドコモが、ユーザーの利用状況に合わせて2~4割値下げになる料金プランを2019年第1四半期に提供すると発表したことから同社の動向に非常に大きな関心が寄せられているし、楽天が2019年10月に参入することによる競争激化も、注目されるところだ。

だが諸外国の動向を見ると、料金を節約しようとした場合、料金を後からクレジットカードや銀行口座などから引き落とす日本で一般的な「ポストペイド」方式より、利用料を先に支払う「プリペイド」方式が一般的だ。

プリペイド方式のサービスは、例えば「1,000円支払うと200分通話できる」といったように、利用する分量の料金だけをあらかじめ支払う仕組みだ。そのためポストペイド方式のように「20GBのプランを契約しているが、毎月2GBしか使っていない」といった無駄が発生しづらく料金を抑えやすいことから、海外では主として低所得者層や若者など、所得が少ないけれど携帯電話を利用したい人達からの支持を集めている。

プリペイド方式の携帯電話サービスは、欧米やアジアなど多くの国や地域で提供されている。写真は欧州を中心にプリペイド方式の低価格サービスを提供している「LEBARA」のSIMを扱うフランスのショップ

また長期間の契約が必要ないことから、海外旅行者や留学生などの一時滞在者などにとってもプリペイド方式のサービスは人気が高い。実際日本でも、インバウンド需要を見越し訪日外国人向けに日本でのデータ通信を安く利用できるプリペイド方式のSIMカードがここ数年で急増している。最近では空港などでプリペイドSIMカードを販売するケースも珍しくなくなってきたようだ。

訪日外国人向けのデータ通信用SIMに関しては、日本でもMVNOを中心として多くの企業が提供している。写真はインターネットイニシアティブの「JAPAN TRAVEL SIM」

そしてもう1つ、プリペイド方式はその仕組み上、囲い込みが難しく乗り換えがしやすいことから、キャリア間の競争を促すという面がある。携帯電話料金を巡るここ最近の議論では、キャリア間の競争停滞が問題視されていただけに、プリペイド方式の積極利用が競争に大きな効果をもたらす可能性は高い。

だがそのプリペイド方式のサービスを、料金引き下げの切り札として日本の消費者向けに積極的に導入しようという機運は全く見られない。料金引き下げに力を入れる行政側も、諸外国では一般的なはずのプリペイド方式の利活用に関しては、議論の俎上にさえ載せようとしていないのが現状だ。

犯罪対策の影響で活用の道が断たれる

なぜ、行政もキャリアもプリペイド方式に消極的なのか。キャリア側の理由として挙げられるのは、ビジネス上のうまみが少ないということだ。

ここ最近、月額制のサブスクリプション方式のビジネスが大きな注目を集めているように、ユーザーが契約している限り毎月確実に料金が支払われるポストペイド方式は、安定した収入が得られるという大きなメリットがある。一方でプリペイド方式は安定した収入につながらないことから、キャリアにとってはあまり提供したくないサービスでもあるのだ。

しかも日本では、多くの人がクレジットカードや銀行口座を持っている。銀行口座を持たない人が多くを占める新興国などの場合、プリペイド方式でないとビジネス自体が難しいが、環境が整っている日本で、キャリアがあえてプリペイド方式のサービスに力を入れる動機づけが弱いのである。

一方、行政側の理由として挙げられるのは、プリペイド方式がもたらす匿名性の問題だ。プリペイド方式は先に料金を支払ってしまえばサービスを利用できてしまうことから匿名性が高く、事前の本人確認を徹底しなければ誰が使っているのか分からないため、犯罪などに悪用されやすい弱点もある。

日本でも、かつてプリペイド方式の携帯電話は本人の身元確認が甘かったことから、2000年初頭にプリペイド方式の携帯電話を特殊詐欺などの犯罪に使うケースが頻発し、社会問題として注目されるに至った。そうした背景から総務省は2005年に、「携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等および携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律」(携帯電話不正利用防止法)を施行、プリペイド方式の契約者の本人確認が大幅に強化されている。

それを受ける形で各社がプリペイド方式の本人確認を強化したのはもちろんだが、NTTドコモなどは安全性重視の観点から、2005年にプリペイド方式サービスの新規契約自体を終了してしまっている。こうした動きによってプリペイド方式のサービスを提供しないことが安全で正しい、という印象を与えてしまったことが、日本でのプリペイド方式の有効活用という道を実質的に断ち切ってしまう要因になったといえるだろう。

もちろん現在も、ソフトバンクの「プリモバイル」のようにプリペイド方式のサービス自体は存在している。だがその知名度の低さからも分かるように、ポストペイド方式と比べ力の入れ具合は極めて弱いというのが正直なところである。今後も日本でプリペイド方式を積極活用しようという動きが起きる可能性は低いだろうが、真に消費者に多様な選択肢を与えて諸外国並みの料金低廉化を目指すというならば、諸外国に並んでプリペイド方式の選択肢を広げることも必要ではないかと筆者は考えている。

突如として盛り上がり始めた「5G」の理想と現実

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第34回

突如として盛り上がり始めた「5G」の理想と現実

2019.03.22

ここ最近、急に「5G」が盛り上がり始めた理由とは?

世界中が5Gに熱視線、背景に「IoT」への期待

日本の5Gへの取り組み、将来を見据えた冷静さが必要

次世代のモバイル通信規格「5G」が、最近になって急に盛り上がり始めている。突如、話題となった理由はどこにあるのだろうか。そして、5Gは日本では2020年に商用サービス開始を予定しているが、多くの人がイメージするような5Gの環境は、果たしてすぐに実現できるものなのだろうか。

ここ1年で急速に盛り上がりを見せる5G

ここ最近、耳にする機会が急速に増えている「5G」。これは現在のスマートフォン向けの通信サービスなどで利用している「4G」に対して、次の世代となるモバイル通信の新しい規格だ。日本では2020年、ちょうど東京五輪が開催される年に商用サービス化を予定している。

だがこの5G、つい最近まではあまり注目を集めた言葉とは言えなかった。例えばNTTドコモは2015年頃から5Gの標準化を進め、5Gを盛り上げるための取り組みを積極的に実施していたのだが、正直、当時から世間の関心が高まる様子は見られなかった。海外に目を向けるとより深刻で、特に欧州などは4Gの商用サービス展開が遅れたこともあり、新たな設備投資が必要な5Gに、通信キャリア側までもが及び腰だったのだ。

当初は5G導入に関する機運が世界的にあまり盛り上がらなかったことから、NTTドコモは2015年より「5G Tokyo Bay Summit」を開催するなど、5Gを盛り上げるための積極的な取り組みをしていた

ところがここ1年で、そうした状況が劇的に変化したように見える。実際、2019年2月にスペイン・バルセロナで開催された携帯電話の総合見本市イベント「MWC 2019 Barcelona」では、ありとあらゆる企業が5Gに関して積極的に展示とアピールを行っていた。かねてより2019年の商用サービス開始を発表していた中国や韓国だけでなく、欧州などのキャリアも相次いで5Gの商用化を2019年に前倒しするなど、多くの企業が前のめりで5Gに取り組む方針を打ち出したのだ。

2019年の「MWC 2019 Barcelona」は多くの企業が「5G」を前面に打ち出した。これまでとは一転し、5Gに熱心に取り組む企業が劇的に増えているのだ

そうしたことから、5Gの商用サービス開始を東京五輪に合わせたばかりに、もともとは5Gで先端を進んでいたはずの日本はこの波に完全に乗り遅れ、現地では「日本は遅れている」という声が多数聞かれたほどだ。こうした話からも、いかに短期間のうちに、5Gに対する世の中の動向が劇的に変化したかを見て取ることができる。

しかしなぜ、そこまで急激に5Gへの関心が高まったのだろう。端的に言えば、要するに「5Gの使い道が見つかったから」である。携帯電話の通信規格は、増大し続ける通信トラフィックに対処するため、10年おきに新世代へとアップデートする傾向にあった。そのため5Gも4Gの延長線上にあるものと捉えられており、スマートフォンを高速化するという以外の使い道を見出しづらく、ここまで関心が高まることはなかった。

ところが近年、「IoT」(Internet of Things)の概念が急速に広まったことで、あらゆる機器がインターネットに接続するという将来像が見え、5GがそのIoTを支えるネットワークとして有力視されるようになってきたのだ。スマートフォンだけでなく、家電や家、工場、車、そして都市などを丸ごとスマート化する社会インフラとして、5Gが有力視されるようになった。そこに大きなビジネスチャンスが生まれると考える企業が増えたからこそ、5Gに対して熱い視線が集まるようになったといえる。

5Gで注目されているのはIoTを支えるネットワークとしての側面だ。MWC 2019 Barcelonaでも、5Gに関連する展示は都市や工場のスマート化など法人向けの展示が主だ

当初の5Gは期待通りのパフォーマンスを発揮できない?

そうした世界情勢の急変ぶりに焦りを感じたのか、日本でもキャリア大手3社が2019年秋のラグビーW杯に合わせる形で5Gのプレ商用サービスを提供すると発表した。今後は我が国においても、各所で5Gへの取り組みが急拡大することは間違いない情勢だ。

だが5Gが、そうした人達の期待通りに広まっていくのか? という疑問も少なからずある。その疑問の理由の1つは「周波数帯」だ。5Gは4Gよりも高速大容量通信を実現する必要があるため、まだあまり利用されておらず、かつ帯域幅が広い、より高い周波数帯を利用することが前提とされている。具体的には3~6GHzの「サブ6」と呼ばれる帯域と、30GHzを超える高い周波数の「ミリ波」と呼ばれる帯域だ。

だが、そもそも電波は周波数が高ければ高いほど、障害物の裏に回り込みにくく減衰も早いため、遠くに飛びにくいという特性を持つ。そうした周波数帯を用いる5Gのパフォーマンスを十分に発揮するには多数の基地局を設置する必要があるし、その恩恵を得られるのも基地局が設置されたエリア周辺に限られてしまう。きちんとインフラ整備をしていかなければ、かなり使い勝手の悪いネットワークとなってしまう可能性もあるのだ。

ソニーモバイルの5Gスマートフォン試作機による、ミリ波での通信速度測定デモ。ミリ波は遮蔽物に非常に弱いためアンテナ設計が難しいという

もう1つの理由は、多くの国で当初導入される5Gが、既に整備されている4Gのネットワークの中で5Gを一体運用する「ノンスタンドアロン」形式であることだ。ノンスタンドアロン型は低コストで導入できる上、4Gとの併用となるため安定した運用が可能というメリットがある。一方、4Gの性能にひきずられるため5Gのポテンシャルをフルに発揮できない弱点がある。5Gのポテンシャルをフルに発揮するには、ネットワーク全体を5G専用の環境で運用する「スタンドアロン」形式が必要で、その導入にはまだ時間がかかるとされているのだ。

そして現状最も懸念されるのは、5Gのそうした課題が理解されないまま、周囲の期待だけが大きく膨らんでいることである。このままの状態で5Gの商用サービスが拙速に始まり、理想と現実のギャップを目の当たりにしてしまえば、5Gへの失望感が一気に広がり関心が薄れ、それが将来的な市場の形成や技術の進展に悪影響をもたらしてしまうことも考えられる訳だ。

5Gに対する機運が大きく盛り上がってきた今だからこそ、その先を見通す上では冷静な目を持つ必要があることを、覚えておきたい。