「佐藤久実」の記事

佐藤久実(さとうくみ)

モータージャーナリスト

テスト
日本では来年発売のBMW「X5」に先行試乗! 横幅2m超でも魅力の走行性能

日本では来年発売のBMW「X5」に先行試乗! 横幅2m超でも魅力の走行性能

2018.10.18

BMWがSUV「X5」をフルモデルチェンジ、アトランタで先行試乗

気にしているのは日本くらい? クルマの大型化は“常識”に

オフロード性能が向上、普段の走りにも好影響?

BMWはSUVの「X5」をフルモデルチェンジし、米国のアトランタで国際試乗会を開催した。

ひと昔前は「オフロード4WD」のイメージが強かったSUVだが、最近はオンロード志向のスポーティなモデルが主流となっており、そのパイオニアともいえるのがX5だ。BMWは同社のSUVラインアップである「X」シリーズを「SAV」(スポーツ・アクティビティ・ヴィークル)と呼び、あえてSUVと差別化を図った。そしてX5は、初代の発売以来、累計70万台以上を販売してきた人気モデルでもある。

アトランタで一足先に新型「X5」を試した

攻めに転じたデザイン、サイズアップはインパクト大

従来は比較的コンサバとも思えるデザインだったX5だが、4代目となる新型は切れ長のヘッドライトや大きなキドニーグリルが印象的なフロントマスクをはじめ、新しさを感じさせる。

だが、デザイン以上にインパクトがあるのはサイズだ。ミラーを含めると全幅は2mを超える。X5に限らず、クルマがモデルチェンジのたびに大きくなっていく昨今だが、この点について開発者に聞くと「コモンセンス」(常識)との答え。確かに、グローバルで見れば、米国や中国の消費者は大きなクルマを好み、当然、ドイツもその志向なのだろう。道路や駐車場に制約があり、サイズを気にするのは狭い日本くらいなのだ。

クルマの大型化は常識とのことだが、横幅2m超はインパクトがある

インパネは最新で使いやすく、スワロフスキーも好印象

エクステリア同様に、インテリアも新しさが際立つ。最も目を引いたのは、シフトノブやスイッチにスワロフスキーのクリスタルが用いられている点だ。透明感があり、キラキラと美しく、室内全体にラグジュアリー感が増している。

スワロフスキーがキラキラするシフトノブが美しい

そして、ドライバーにとって重要なインストルメントパネルも、BMWの最新バージョンへとアップデートを果たしている。楕円形のフルデジタルパネルは、スピードメーターとタコメーターが左右両端から弧を描くようにレイアウトしてあり、センター部でナビなどの情報を確認できる。ヘッドアップディスプレイも含め視認性に優れるため、運転中、ドライバーは目線を大きく動かすことなく、必要な情報を得ることができる。ナビの操作性も向上するなど、見た目のデザインにとどまらず、インフォテイメント全般が快適に、便利に進化している。

視認性の高い運転席

エアサス導入でオフロード性能が向上

一方、「走行性能」の面でドラスティックに変わったのは、4輪に「エアサスペンション」(金属のバネを用いた一般的なサスペンションではなく、圧縮した空気の弾力で衝撃を吸収する)を採用したところ。その最大の理由は、オフロードでのパフォーマンス向上だ。

オフロード性能のニーズは、先代の発売直後から、マーケットリサーチによりすでに課題となっていた。その性能を向上させるためには、エアサスペンションがマスト条件だったのだ。そもそもX5は「オンロード志向のスタイリッシュなSUV」だが、やはりオーナーとしてみれば、せっかくSUVに乗っているのだからオフロード性能も欲しいと思うもの。だが、決して方向転換を図ったわけではなく、走りのレンジを広げたということだ。

エアサスペンションを全てのタイヤに導入し、オフロード性能を向上させた

今回の試乗では、本格的なオフロード&ラフロードを1時間弱にわたって走り、その性能の高さを実感することができた。しかも、タイヤはオフロード専用のものではなく、サマータイヤ「ピレリPゼロ」を装着していたにも関わらずだ。

日本にオフロード仕様は導入せず、一般道での走りはどうか

しかし、日本では、ここまでのオフロード性能を必要とするシチュエーションは極めて稀なので、様々なオプションを装備した「オフロードパッケージ」の導入予定はないという。それじゃ、この恩恵に授かれないのかといえば、そんなことはない。エアサスペンションは、オンロードにおいても多分に奏功するからだ。

エアサスの効果はオンロードでも十分に実感できる

一般道を走り始めて間もなく、その快適な乗り心地に驚かされた。標準装備の18インチに対して21インチのタイヤを装着していたが、スマートで軽快な足さばきなのだ。さらに、上下動では重さを感じさせるようなバタつきもなく、前後左右方向の姿勢変化も少ない。洗練された挙措が印象的だ。初期設定から車高を上下40mm、トータル80mmの幅で変えられるため、例えば高速道路では車高が落ち、空力性能がアップして安定感が増す。ワインディングではクルマが小さくなったかのような軽快な動きを見せる。

エアサスだけでなく、X5はさまざまな電子制御を備えていて、快適性やハンドリング、安定性など、走行性能を高めるために人知れず介入している。そのおかげもあり、「オンロード性能」もスポイルされるどころか、より向上しているのだ。そして、雪道や悪路は、車高を上げることで最低地上高を保ったまま走破できる。

進化した走行性能は、オフロードでも都市でも味わえるはず。新型X5の日本での価格は明らかになっていないが、参考までにいっておくと、現行型は920万円からだ

日本には2019年春、まずはディーゼルエンジンを搭載する「X5 X Drive 30d」から導入予定。広い室内空間を備え、オン/オフどこでも持ち前の走行性能を発揮する安心感の高いX5は、日常はビジネスシーンで活躍、休日にはファミリーで遠出、そんなライフスタイルにおいても高い実用性と満足感が得られるだろう。

大変革の新型「カローラ」に試乗! 激戦のハッチバックに挑むトヨタの事情

大変革の新型「カローラ」に試乗! 激戦のハッチバックに挑むトヨタの事情

2018.08.22

ハッチバックとなった背景に2つの理由

TNGA導入効果で走りは変わったか

コネクティッド機能は充実もスマホ連携に改善の余地

トヨタの「カローラ スポーツ」が発売となった。新型モデルにはさまざまな大変革が見られる。まず、先代モデルはセダンボディの「アクシオ」とワゴンボディの「フィールダー」という車種構成だったのに対し、今回の新型カローラシリーズで先陣を切ったのはハッチバックモデルであった。カローラの歴史を紐解くと、このボディタイプは2006年まで販売された「カローラランクス」以来、実に12年ぶりの復活となる。なぜ今、ハッチバックなのか。その理由は大きく2つ挙げられる。

ハッチバックを選んだ2つの理由

1つ目の理由は「若返り」だ。現在、カローラユーザーの平均年齢は70代で、ワゴンモデルのフィールダーでも60代だという。一昨年に50周年を迎えたカローラは、トヨタの基幹車種として愛され続けてきた反面、ロイヤルティの高いユーザーは高齢化していたのだ。そこで新型車には、次の50年に向けて若い人たちに乗ってもらえるクルマにしたい、という思いを込めた。

2つ目の理由としては「グローバル化」を挙げることができる。カローラは1966年の初代誕生以来、150以上の国と地域で累計4,600万台を販売してきた。世界16拠点の生産工場を持ち、10秒に1台を販売するグローバル商品だ。しかし、「カローラ」の名はつくものの、ボディタイプやプラットフォーム、搭載するエンジンなど、その中身は国や地域により作り分けていた。それを今回は、名実ともに、基本は世界ワンスペックのクルマとして作った。そして、グローバルで見ると、ハッチバックは人気が高い車種なのだ。

中国や米国などのビッグマーケットでも、ハッチバックの販売が伸びている。一足先に発売となったライバルのホンダ「シビック」も、セダンに加えハッチバックモデルをラインナップしているが、米国ではハッチバックが約3割を占めているそうだ。

このような理由から、まずはハッチバックの「カローラスポーツ」が登場することとなった。

新型車「カローラ スポーツ」のボディタイプはハッチバックだった(全ての画像提供:トヨタ自動車)

サーキットで感じた第一印象

カローラ スポーツと最初に出会ったのは、ショートサーキットだった。一言でいうと、存在感はあるけど強烈なクセはない、すんなり受け入れられるデザイン、というのが第一印象だ。切れ長でシャープな眼、ワイド&ローのプロポーションで、特にデザイナーがこだわったというリヤは“カタマリ感”、踏ん張り感で安定性をアピールしながらも、全体的にはスポーティーなシルエットとなっている。

ディテールを見ると、サイドのプレスラインはかなりエッジが効いている。つまり、作る際には鋭角的に鉄板を折り曲げる必要があり、実はこれもかなりチャレンジングだ。先に述べたように、トヨタは今回、グローバルで作るため、各工場の作り手の技術を安定させるという「工場の開発」にまで挑んでいるのだ。

エッジの効いたサイドのプレスライン

走ってみると、クルマの基本性能である「走る・曲がる・止まる」の性能が飛躍的に向上していた。実に気持ち良く走る。しっかりしたシャシーとボディに包まれ、足元のサスペンションはしなやかに動く。ステアリングはしっかり感があって、切れば素直に曲がっていく。従来のクルマと比べ、ドライバーの操作の伝達スピードと確度が格段に上がった印象だ。

サーキットの路面はフラットなので、そもそも安定感が高い。なので、意地悪く縁石を踏んでみたりもしたが、乗り越えの際にも尖った突き上げ感はなく、常にタイヤの接地を失うことなくスマートにいなした。また、限界域まで追い込んでみても、旋回中にブレーキを踏んでも、リヤが破綻することなく安定性を保っていた。DSC(ダイナミックスタビリティコントロール、クルマが曲がりすぎたり、逆に曲がらなかったり、横滑りしたりするのを防ぐ機能)を解除して電子制御なしで走っても唐突な動きはなかったので、トヨタが基本的な素性から作り込んでいることが確認できた。

後日、一般道と高速道路でも試乗した。ハンドリングの良さは納得だが、やはり、荒れた路面やアンジュレーションのある”生きた道”を走ってみないと乗り心地や静粛性といった「快適性」の側面はわからないからだ。しかし、サーキットで受けた印象が覆されることはなく、快適に、気持ち良く走ることができた。エンジンは1.8Lハイブリッドと1.2Lターボのガソリンがある。燃費志向の方にはハイブリッド、気持ち良さや瞬発力を求める方にはガソリンエンジンをオススメしたい。

「HYBRID G」というグレードの内装(色はサドルタン)

「TNGA」導入の効果は明らか

「走り」の進化は、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)プラットフォームの導入によるところが大きい。TNGAは「もっといいクルマをつくろう」という豊田章男社長の号令の下、トヨタが推し進めた開発コンセプト。現行「プリウス」で初採用し、人気の高いコンパクトSUV「C-HR」で走りを磨いたが、第3弾となるカローラ スポーツでは、その能力をさらにブラッシュアップしている。

具体的には、C-HRよりさらにステアリングの剛性がアップしたことで、リニアな操縦性が実現している。摩擦が低く滑らかに動く新開発ダンパーの投入により、動き始めからしなやかさを発揮する。さらには電子制御が良くなっているし、静粛性も向上している。

先代カローラを国内専用モデルとして開発したトヨタだが、プラットフォームはBセグメントの「ヴィッツ」と共用していた。それに対して今回は、Cセグメントで使う新規プラットフォームを採用しているので、動的性能の向上幅が大きい。

スポーティでありながら、スポーツカーほど尖った性格ではないし、パワーに対して高いシャシー性能があるので、初心者でも安心して乗れる。この後、セダンやワゴンも登場するとのことだが、ワゴンよりカッコよく、リヤシートを倒して使えるなどセダンよりフレキシビリティのあるハッチバックは、若い人たちにも受け入れられるのではないだろうか。

6月26日の発売から1カ月で「カローラ スポーツ」の受注台数は約9,200台に達したとのこと。月販目標は2,300台だ

コネクティッド機能が充実、スマホ連携は少し残念

ところで今回、クルマ本来の楽しさに加えて、トヨタが開発に注力したのが「コネクティッド」機能だ。「クラウン」と「カローラ」という基幹車種の同時フルモデルチェンジにも関わらず、メディア向け発表会は開かず、ユーザーを対象とした「コネクティッドデイ」なるイベントを大々的に開催したことからも、その力の入れようは容易にうかがえる。

カローラの全グレードに標準装備となるコネクティッド機能を使えば、例えばオペレーターを介してナビの目的地設定を行ったり、インジケーター点灯時に対処法のアドバイスを受けることができたりするし、エアバッグ作動時には自動でオペレーターに接続し、ドクターヘリの出動判断を行う「D-Call Net」にも対応していたりする。さらに、LINEにマイカーを「友だち」として追加すると、乗車前に目的地登録やガソリン残量の確認などを行うことができる。

安心・安全が格段に上昇するが、一方で、ちょっと残念なのは、スマホアプリを車載ディスプレイで操作する機能が搭載されていない点だ。というのも、トヨタはAppleやGoogleと手を組まず、独自のプラットフォーム「SDL」(スマートデバイスリンク)を介してスマートフォンとナビゲーションシステムを連携させ、スマホアプリを車載ディスプレイで操作する機能を開発しているからだ。

なので現状、Wi-fiがつながる環境は整っているのだが、「Apple CarPlay」や「Android Auto」は使えない。もっとも、これにも理由がある。彼らと提携すればことは簡単なのだが、そのシステムはブラックボックス化されていて、トヨタには管理できない。より安全なものを提供したい、というこだわりがあるゆえの選択なのだ。

とはいえ、若者にとって(いや、若者に限らずかも)スマホはマストアイテムであり、運転中も”つながっていたい”というニーズは高そう。また、スマホと車載ディスプレイの連動は「ながら運転」を抑止するための重要な機能でもある。なので、早急な対応を望みたいところだ。

コネクティッドは面白い機能だが、やはりスマホ連携も充実させて欲しいところだ

カローラ スポーツが位置するCセグメントのハッチバックモデルは、フォルクスワーゲン「ゴルフ」、メルセデス・ベンツ「Aクラス」をはじめ、競合車がひしめく大激戦区だ。しかしながら、グローバルを見据えてトヨタが大きた革新を施した新型カローラ スポーツは、その土俵でも十分に戦える戦闘力があると思わせるクルマに仕上がっていた。
 

ダイハツの新車「ミラ トコット」に試乗、女性目線の“軽”は何が特徴?

ダイハツの新車「ミラ トコット」に試乗、女性目線の“軽”は何が特徴?

2018.08.10

女性社員の専任チーム設立、集めた“女性の声”を反映

盛らないデザインが今っぽい?

軽自動車を知り尽くしたダイハツらしい1台に

ダイハツ工業が新型の軽自動車を発売した。車名は「ミラ トコット」。何ともかわいらしい響きのある名前だ。ダイハツは女性や初めてクルマを購入する若年層をメインターゲットにこのクルマを開発したのだが、中でも興味深いのは、女性社員によるプロジェクトチームを作り、“いまどき”の女性の感性に着目したコンセプトづくりを行ったという点。女性目線のマーケティングを多分に反映させたクルマなのだ。

ダイハツの新型軽自動車「ミラ トコット」。6月26日の発売から1カ月で月販目標の3倍となる約9,000台を受注した

従来も「ミラ ジーノ」や「ミラ ココア」など、デザインコンシャスなモデルを発表してきたダイハツだが、ミラ ココアのモデルチェンジを考えた時、純粋にモデルチェンジするか、別モデルにするかという議論になったそうだ。というのも、若い女性に人気がある反面、「(ココアは)可愛すぎてちょっと……」というネガティブな意見もあることをダイハツは把握していたからだ。そこで、新型車の開発に向け女性社員のプロジェクトチームを発足させた。

軽自動車の本質は外さないクルマづくり

トコットの開発では、「かわいさ」や「カッコよさ」を強調する従来の「盛る」という発想を転換。“素”の魅力を追求し、「シンプルなデザインで肩肘張らずに乗れる軽のベーシック」を作ることにした。このように、デザインだけを見ても考え方が今までとは違う。

かわいく「盛る」のではなく、“素”の魅力を追求したデザイン

プラットフォームは「ミラ イース」と共用する。エンジンは「ムーヴ」と同じで、CVT(無段変速機、歯車ではない機構を用いたトランスミッションのこと)はミラ イースに搭載される最新のものだ。既存のパワートレーンなどを使いつつ、ミラ イースで培った軽自動車の本質的な良さを継承しながら、「ちょっといいモノ」を目指した。

エクステリアデザインは、スクエア調ながら角を落とし、丸みも感じられる愛嬌のあるもの。シンプルでありながら車両感覚をつかみやすく、死角の少ないデザインは乗る人に優しい仕上がりだ。

クルマの先端や幅など、車両感覚がつかみやすいのがスクエア調の利点だ

車内の便利なところ、欲しいもの

ドアを開けると、ほぼ90度近く開くのに驚いた。そもそも、クルマのボディサイズがコンパクトなのだから、開口部そのものの大きさは限られる。が、足つきも良く、これなら老若男女、乗り降りしやすいと感じた。

シートはシートバックがベージュ、座面はブラウンでパイピングを施してある。縦の素材違いの2トーンは良くあるが、座面とシートバックで分けるのは珍しい。これには、座面は汚れやすいから濃いめの色とし、シートバックは明るい色にすることで室内を明るく演出するという狙いがある。インテリアと実用性をディテールに至るまで考慮しているのだ。

座面とシートバックで色づかいが違う

着座姿勢もアップライトすぎないポジションが取れる。ただ、コスト的に厳しいのは承知だが、軽自動車がこれだけポピュラーになっていることを鑑み、また女性のことも考えれば、テレスコピック(ステアリングの位置を前後に調整できる機能)も装備してくれると嬉しい。

ダッシュパネル周りもスイッチ類が少なく、すっきりと極めてシンプルだ。実はトコット、価格を抑えるための努力もしている。抑えるところは抑え、必要なものは装備するというメリハリをつけているのだ。たとえばエアコンはオートではなく、マニュアルのみ。でもこれ、まったく不便は感じないと思う。そもそも、クルマのエアコンって、さほど操作しないんじゃないだろうか。人によるかもしれないが、乗り込んだ時に暑かったり寒かったりして多少の操作をしたとしても、ある程度落ち着いたら、風量や温度を頻繁に調整する必要は感じない。この割り切りはアリでしょう。

すっきりとしたダッシュパネル周り

軽では珍しく2口のUSBソケットが備わっているが、国産の登録車でも、2口が標準装備となっているクルマはまだまだ少ない印象。今や、スマートフォンの充電などにマストなアイテムだけに、ありがたい装備だ。ただ残念なのは、充電中のスマホなどを置くトレイがない……。センターのドリンクホルダーに置く感じか。いや、スマホに限った話ではなく、コンソールボックスも装備されていないので、収納が少ない。ドアポケットやシートアンダートレイ、ショッピングフックなどの装備はあるのだが、運転席から手の届く距離に隠せる収納が欲しいと思った。

女性テストドライバーが評価した走りの実力は?

ところで、トコットはデザインやユーティリティのみならず、走りの面でも、女性のテストドライバーが評価し、セッティングを行ったそうだ。

パワーステアリングの操舵力は、狭い路地や車庫入れがスムーズにできるよう、軽めのセッティング。実際に走ってみたが、街中では軽くて操作しやすく、高速道路でも、不安定な感じや頼りなさといった違和感はなかった。要は、しっかりとした手応えがあれば、操舵力が軽くても問題ないのだ。むしろ、楽に操作できるのは嬉しい。

ステアリングは軽く、操作しやすい

サスペンションチューニングもダイハツがこだわったポイント。ステアリングを切った際、大きくロールすると女性は不安感を持つということがわかり、同社は改善に注力したそうだ。

ここでもコストとの戦いがあった。ロールを抑制する「スタビライザー」(スタビ)を装着すれば話は早いのだが、このパーツ、コストがかさむ。そこで、スタビはつけずに“不安感のないクルマの動き”とした。

通常、スタビがないとスプリングレート(サスペンションのバネの硬さ)が上がることになり、乗り心地とトレードオフの関係になりがちなのだが、トコットの乗り心地は快適で、高速のランプウェイなどでも不安はなかった。ロール量ももちろん関係するが、ロールのスピードを抑えてあるだけでも、体感的には“怖さ”がかなり違う。

長年、ドライビングスクールなどで女性ドライバーと接していて思うことがある。一般的にクルマの専門用語に詳しくない女性は、クルマを運転した感想を専門用語をちりばめて詳細に語ることこそ少ないが、そのセンサーはかなり繊細で、クルマの動きにも敏感だということだ。トコットの開発に加わった女性ドライバーも、同性だからこそ、そんな気持ちを汲み取って、安心して走れるチューニングを施せたのかもしれない。そしてもちろん、トコットは、万一の際の事故被害を軽減する衝突回避支援システム「スマートアシストⅢ」を全グレードで標準装備している。

ソナーセンサーとステレオカメラを用いた衝突回避支援システム「スマートアシストⅢ」を標準装備。衝突回避支援ブレーキ機能や誤発進抑制制御機能などがついている

多様化する軽自動車、ブレないダイハツ

クルマのカタチやカテゴリーはどんどん多様化している。そして、日本のマーケットにおいては今や、軽自動車がクルマの販売全体の4割を占める。となれば、「軽」の中でもニーズに応じてセグメントやヒエラルキーが細分化していくのは当然だろう。そんな中でもダイハツは常に、シンプルで運転しやすく、低価格という「軽の本質」を押さえたモデルをブレずに作り続けている。

トコットも本質に則したクルマだし、女性目線のマーケティングも、あながち間違っていないと思う。女性が使いやすければ、そのクルマは誰にでも使いやすいはず。女性に媚びてはいないが、かゆいところに手が届くトコットは、軽を知り尽くしたダイハツらしい1台だ。