「佃義夫」の記事

佃義夫

ルノー・日産・三菱連合は新時代へ、「ポスト・ゴーン」をリードするのは誰か

ルノー・日産・三菱連合は新時代へ、「ポスト・ゴーン」をリードするのは誰か

2019.03.13

ルノー、日産、三菱自動車のトップが会見

複雑かつ微妙な資本構成、実力では日産がリード?

アライアンスは「ポスト・ゴーン」へ、リーダーは誰か

3月12日、ルノーのジャンドミニク・スナール会長、ティエリー・ボロレCEO、日産自動車の西川廣人社長、三菱自動車工業の益子修会長CEOは、そろって日産の横浜本社で記者会見し、4人で新合議体「アライアンス・オペレーティング・ボード」を設置して、3社連合の維持・発展を目指していくと発表した。

「ポスト・ゴーン」は合議制、アライアンスが再出発

ルノー、日産、三菱自の日仏3社連合を圧倒的なリーダーシップで引っ張ってきたカルロス・ゴーン元会長が逮捕されてから4カ月。ゴーン元会長が保釈されたばかりというこの時期に、ルノーでゴーン氏の後任を務めるスナール会長とボロレCEOが来日し、西川・益子両首脳と会見に臨んだ。この動きは、3社トップによる合議制に移行することで連合を継続・発展させていく姿勢を世間に知らしめたもので、「ポスト・ゴーン」に舵を切ったことを強く印象づけた。

しかし、資本構成で日産がルノーの子会社という位置づけにあることは変わらず、かつ、ルノーのバックにはフランス政府がいる。フランス側は両社の経営統合を望んでいるとも言われている。

そんな状況の中、フランス政府から送り込まれた形のスナール新会長は今回、3社の新合議体の議長には就くものの、「日産の会長になろうとは思っていない」と明言。資本関係の見直しに関しても「今回のポイントではない。フランス政府は株主として尊重するが、3社の将来に向けた検討に集中したい」とし、フランス側の圧力を当面は避けると強調した。

左からルノーのスナール会長、日産の西川取締役社長兼CEO、三菱自動車の益子取締役会長CEO

その背景には、世界の自動車産業が次世代をにらんで激しく揺れ動いているという現状がある。ルノー、日産、三菱自の3社は、国際連合の維持が各社の生き残り策として上策であると判断したのだろう。

3社連合の関係性は微妙かつ複雑だ。資本構成からいくとルノーの子会社が日産、日産の子会社が三菱自という構図だが、売上規模や技術力では日産が優位に立っていて、三菱自は日産主導による再建下にある。ルノーでは、日産の持ち分法利益が全体の業績に大きく寄与している。スナール会長は「力を結束し、3社連合の競争力を高めること」が最優先であるとし、資本構成や主導権などの課題は後回しにしてでも、連合を維持することが大切との考えを示したわけだ。

3社トップ会見の裏で「ゴーン会見」の情報も

日産横浜本社での記者会見は、スナール会長の「今日は、3社連合にとって特別な日だ」という言葉から始まった。明らかに、カルロス・ゴーン前会長の3社連合支配からの脱却を意識した発言という感じである。3社の会長を兼務し、なおかつ連合統括会社の会長にも就任することで、強いリーダーシップを発揮してきたゴーン会長の運営には、功罪相半ばするところがあった。強権・独断のゴーン流は、今回の逮捕につながる“私物化”の容認(?)ともなっていたのだ。

実は、この3社トップ会見と同じ12日に、ゴーン元会長が会見を“ぶつけて”くるとの情報が業界を駆け巡っていた。その日、弁護士事務所で弁護団と協議したゴーン氏は、夕刻にも会見を開き、一連の容疑に対する反論などを提示するのではないかと注目された。だが、結果としてゴーン氏の会見は日延べされた。

スナール会長のいう「特別な日」とは、そのゴーン氏による支配体制に別れを告げた日ということである。スナール会長が議長となり、ボロレ、西川、益子の各社CEOが参加する合議体を立ち上げ、3社連合を4トップによる集団指導体制に移行すると宣言したのだ。これにより、「アライアンスの効率化を進めて体制を再構築し、個々の力を高める。これはいわば、アライアンス発足当初の精神を取り戻すことでもある」とスナール会長は強調した。

会見ではゴーン氏について多くの質問を受けたスナール氏だったが、「推定無罪が私の信念」とし、多くは語らなかった

ちょうど20年前の1999年3月27日に、日産とルノーは資本提携を発表した。『日産とルノー、力強い成長のために』と書かれたボードを背景に行われた両トップの提携会見では、ルノーが日産の自主性を尊重し、両社の相乗効果(シナジー)創出を図る国際連合企業体とすることが強調された。

マスコミは「日産、ルノーに身売り」の見出しで本件を報道したものだが、当時の日産社長でルノーとの提携を決断した塙義一氏は、「日産、ルノーの基本認識は、日産のアイデンティティを従来のまま保つとともに、将来のために互いに利用し合うということ。だから、従来の合併とは異なる、新たな国際企業連合体なんです」と筆者の取材に答えてくれた。

「身売り」と報じられたルノー・日産連合だったが、20年を経過した今では、統合・合併とは異なる国際連合の成功例となり、そこに三菱自も加わった。ゴーン元会長は「世界覇権をとれる3社連合に躍進した」と豪語していたが、個別に見ると、日産565万台、ルノー388万台、三菱自122万台を足し合わせた販売台数(2018年実績)は、世界第2位の規模となっている。ただ、単なる台数の合計では、この激動のモビリティ新時代を生き抜いてはいけないという実態もある。

日産がリーダーに? ガバナンス刷新と業績回復がカギ

ルノーと日産、そして日産と三菱自。この3社連合は、資本構成でそれぞれ複雑に絡み合う。ルノーは日産に43%、対して日産はルノーに15%を出資しており、ルノーは1999年の資本提携以来、日産の筆頭大株主であり続けている。一方、日産はルノーの議決権を持たない。その日産は2016年10月、三菱自に34%を出資して傘下に収め、三菱自は日産主導による再生の途上にある。

その資本関係をベースとする3社連合は、プラットフォームの共用化や部品の購買・物流、研究開発、生産などの協業で相乗効果を追求している。3社のトップは「今の自動車業界ではスピードが重要。権限委譲と責任の明確化、アライアンスの効率化で競争力を高める」と口をそろえた。ポスト・ゴーンの3社連合は、自動車業界の大変革を生き抜くため、スピード感を持って事に当たり、各社の得意分野を活用して相乗効果を高めていくことで一致したということだ。

だが一方で、「ねじれ現象」とも言えるルノーと日産の“宿命的な資本関係”については手を触れず、先送りにした格好だ。今回の会見では、ゴーン元会長に代わり、ルノーから新しい会長が日産に送り込まれることはないということが分かった。西川社長は「従来のように、ルノーの会長が日産の会長になることを求められないのは大変ありがたい」とした。

日産としては、ゴーン長期体制による取締役会の機能不全など、ガバナンスの立て直しが急務であり、本業の業績が低下していることも大きな課題となっている。「今、私が抱えている課題は、アライアンスの安定、ガバナンスの刷新、業績安定の3つだ」というのが西川社長の現状認識だ。4月8日の臨時株主総会では、ゴーン元会長の取締役解任など経営陣の刷新を行う。

日産と三菱自の関係を見ると、日産主導による三菱自の再生は順調に進んでいる。3月14日には、両社トップ臨席のもと、三菱自・水島工場(岡山県倉敷市)で共同開発の新型軽自動車のラインオフ式を実施するとのこと。同28日には、日産の新型「デイズ」と三菱自の新型「ekワゴン」が発表される予定となっている。

ルノーと日産の提携から数えると、20周年を迎えるアライアンスは今、大きな転換点を迎えている。強力なリーダーシップを発揮してきたトップは退場したが、ポスト・ゴーンの3社連合をリードするのは日産であるべきだ。経営統合の道を進めば、日産はルノーに吸収合併されたという印象を拭えないだろう。自立して連合をリードする日産の姿を見たい。

抜本改革で安くなるのか!? 税制改正大綱で考える自動車税制の行方

抜本改革で安くなるのか!? 税制改正大綱で考える自動車税制の行方

2018.12.20

「自動車取得税」は廃止、「自動車税」は減税に

「保有から利用へ」の大変革に合わせた抜本改革へ

走行距離への課税は不公平? 課題も見える将来の税制

自民党と公明党は、2019年度の与党税制改正大綱をまとめた。今回の改正では、2019年10月の消費増税への対策とともに、社会・経済の変化に対応した税制の抜本改革の動向が注目されていた。

自動車関連の税制については、消費増税後に景気が冷え込むことを防ぐため、2019年度単年度で530億円の減税措置がなされた。これは従来、クルマを購入する時に消費税との二重課税となっていた「自動車取得税」を廃止し、保有段階で課税する「自動車税」を年間1,000~4,500円の幅で引き下げるものだ。

小型車を中心に「自動車税」が減税となる(画像はトヨタ自動車の小型車「ヴィッツ」)

自動車税制の抜本改革を明言

一方で、今回の改正では、クルマの電動化やカーシェアリングの普及など、自動車を取り巻く環境の変化に応じて、自動車関連税制の抜本改革に着手する方針も示した。「『保有から利用へ』の変化などを踏まえて、課税のあり方について中長期的な視点に立って検討を行う」ことを明記したのだ。

つまり、従来は排気量で金額を決めていた「保有」に対する課税から、走行距離など「利用」に応じた課税に軸足を移すとの方針を打ち出したわけだ。こちらは2020年度以降に具体化を目指す方針という。

かねてから、複雑かつ苛重な日本の自動車関連税制を簡素化し、軽減するというのは自動車業界の念願だった。今回の税制改正は、その抜本改革に向けて一歩踏み込んだものとして評価できる。

保有段階で税金を支払う自動車税は、排気量別に税率が引き下げとなる。特に小型車ほど減税幅が大きく、最大で年間4,500円の減税となる。この自動車税は1950年(昭和25年)の創設以来、増税が繰り返されてきた歴史があり、今回は小幅な減税ではあるものの、「創設から70年近く経過した自動車税に初めて風穴が開いた」(豊田章男自工会会長)ことになる。

トヨタ自動車の豊田章男社長は日本自動車工業会(自工会)会長に就任して以来、一貫して自動車関連税見直しの必要性を訴え続けている

だが一方で、エコカー減税の見直しやグリーン化特例の縮小、環境性能別の燃費課税基準見直しなど、実質的な増税となる決定も今回の改正には盛り込まれている。これには、地方税減収対応の財源確保という意味合いがある。これからクルマを買う人は、自動車税の減税とエコカー減税などの見直しをしっかりと把握し、購入車種を選ぶことが必要になるだろう。

ダウンサイズの小型車に手厚い自動車税の減税

2019年度税制改正大綱の本文を見ると、自動車に関する措置については「消費税率10%への引き上げにあわせ、自動車の保有に係る税負担を恒久的に引き下げることにより、自動車ユーザーの負担を軽減し、需要を平準化するとともに、国内自動車市場の活性化と新車代替の促進による燃費性能の優れた自動車や先進安全技術搭載車の普及等を図る」とある。具体的には、2019年10月以降に購入するクルマについては、小型車を中心に全ての区分で自動車税の税率を下げる。減税幅は以下の通りだ。

・660cc~1,000cc:29,500円(現状)-4,500円(減税幅)=25,000円(新たな税額)
・1,000cc~1,500cc:34,500円-4,000円=30,500円
・1,500cc~2,000cc:39,500円-3,000円=36,000円
・2,000cc~2,500cc:45,000円-1,500円=43,000円
※2,500cc超は一律1,000円減税、軽自動車税は据え置きで10,800円

これを見ると、排気量を落としてターボで馬力を向上させる「ダウンサイジングターボ」のトレンドに対応し、小型車の減税を手厚くしたものとなっている。いわゆる「リッターカー」が4,500円と最大の減税幅だ。さらに、二重課税だった自動車取得税も廃止となる。

これだけなら、購入時と保有時で自動車関連税は減税になるわけだが、一方で、今回の改正では、燃費に応じて取得価格の0~3%の税率で課税する「環境性能割」を導入するとの方針も打ち出している。これには環境性能に応じた「燃費課税」としての側面がある。税率は増税後の1年間限定で一律1%を引き下げるが、2年後からは元に戻すとのことだ。

さらに、自動車重量税に適用しているエコカー減税については、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの他、2020年度の燃費性能を40%以上上回るガソリン車を免税対象とし、それよりも環境性能の低いクルマでは減税幅を縮小する。エコカー減税は、2019年10月の消費増税時に廃止する自動車取得税にも適用しているが、廃止までの半年間は、自動車取得税に対する減税も縮小する。つまり、エコカー減税では減税幅を縮小するという話なので、実質的には増税になる。

さらに、2021年10月からは、自動車税と軽自動車税の「グリーン化特例」をEVなどに限定する。税率を軽減する対象車種を絞る措置なので、これも実質的な増税だ。

つまり、自動車取得税を廃止し、自動車税を排気量別で減税する代わりに、燃費課税を新設し、エコカー減税とグリーン化特例を限定・縮小するという方向性が打ち出されたわけだ。これまで対象車種が緩やかだったエコカー減税も、EVやPHVなどに絞られることになる。自動車関連の税金が、単純に減税となるわけではないのだ。

「保有から使用へ」でクルマと税金の関係はどうなる

今回の税制改正で、与党税制調査会において最も議論が白熱したのが自動車関連税制の減税についてだった。クルマの保有や取得などにかかる税負担を単年度で減らす(自動車税の減税)だけでなく、自動車関連税の抜本的見直しを中期的な課題と明確に位置づけ、「保有」に対する課税から「利用」に応じた課税へと軸足を移していく姿勢を明確にした格好だ。

日本の自動車関連税制は従来、いかにも複雑かつ苛重なものであった。クルマの購入、保有、利用の3段階で、消費税を含め9つもの税金が課せられていたこと自体、世界的に見ても珍しいケースだったのだ。

そもそも、日本におけるクルマへの課税は、クルマを「ぜいたく品」とみなし、戦費調達のための「奢侈税」として課税したことからスタートしていて、その感覚は基本的に変わっていない。「クルマは税金がとりやすい」ということで、ここまできたというのが実情といえる。

日本ではクルマを「ぜいたく品」とみなして課税を始めた経緯がある(画像は日産自動車の「ヘリテージコレクション」にて撮影)

フランスのマクロン政権が「燃料税増税」を発端とする激しいデモで揺れているが、日本国民は、自動車税を黙って納税し続けてきた“優等生”だったわけだ。

しかし今回は、自動車関係21団体で構成する「自動車税制改革フォーラム」が7,800万ユーザーの声を全国47都道府県知事に届けるなど、自動車関連税の負担軽減に向けた要望が高まっていた。こういった動きなどを受けて、自動車税の減税論議が白熱した結果、与党税制調査会は、抜本的な税制体系の見直しを中期的な課題として明確に位置づけることとなったのだ。

自動車税体系の抜本的な見直しは、自動車業界が大転換期を迎え、クルマと人との関係が「保有から利用へ」と変化している状況に対応しているものとして、高く評価したい。だが、実際に重要なのは、その税負担の構造をどう変えていくかである。安易に走行距離だけで課税すると、地方に住む自動車ユーザーや運送業者などが負担増で苦しむことにならないだろうか。プライバシー保護の観点からも、走行距離に応じた課税には課題が多い。

また、自動車関連税全体の減少を防ぐため、どこかの税率を下げつつどこかでは税率を上げるという観点が先行するようでは元の木阿弥となろう。購入から保有、利用までの段階で税体系をしっかりと精査し、「保有から利用へ」という大きな流れを確実に捉えた上で、グローバルレベルの抜本改革に結びつけて欲しいものである。

ゴーン失脚で今後はどうなる? 日産20年史の“光と影”

ゴーン失脚で今後はどうなる? 日産20年史の“光と影”

2018.11.28

ゴーン流経営の功罪を振り返る

自動車大再編で日産とルノーが組んだ理由

ゴーン不在で気になる日産/ルノー/三菱自連合の舵取り

11月19日の午後、一般紙が流した「ゴーン日産会長、逮捕へ」の号外に「えー! 何で」と驚いたのが始まりだった。同日夕刻、羽田空港に日産自動車のビジネスジェット機で降り立ったカルロス・ゴーン氏を東京地検特捜部が逮捕。容疑は金融商品取引法違反だった。

ルノー/日産/三菱自連合の総帥に何があったのか?

日産自動車の西川廣人社長は同日夜10時、単独で記者会見に臨み、「高額報酬の虚偽記載など、ゴーン会長による業務上の不正が内部調査でわかった」ことを明らかにした。

11月19日の夜10時から始まった日産の記者会見

3日後の11月22日には日産が臨時取締役会を開催。有価証券報告書の虚偽記載で逮捕されたゴーン容疑者の会長職を解任し、代表権を外すことを全会一致で決めた。

日本ばかりか世界中に衝撃を与えたゴーン逮捕という仰天ニュース。日産の救世主であり、ルノー、日産、三菱自動車工業による国際企業連合体のトップに君臨する「経営のプロ」が突然、失脚する事態となった。

ゴーン氏の日産における不正は、まさに公私混同であり、高額な報酬を実際は倍以上も受け取り、それを隠していたことで世間をあぜんとさせた。

カルロス・ゴーン氏と日産に何があったのか。筆者はゴーン体制に移行する前から日産を取材し、同社の“光と影”をウォッチしてきた。

日産で何が起こっているのか

「プロ経営者」としてのゴーン氏に対する評価はまぎれのないものであるが、約20年もの間、トップに君臨し続けたことによる権力の集中は、日産のガバナンス(企業統治)に機能不全を引き起こしていた。

一方、ルノーと日産の関係に目を移してみると、日産はルノーに救済を求め、同社の傘下に入った経緯があるわけだが、ルノーのバックにフランス政府がいることからも、いつ「ルノーと日産が統合」されるのかという懸念がくすぶり続けていたのである。

2016年末には、日産が三菱自に34%を出資し、「ルノー・日産・三菱自」の3社連合という新たな枠組みが始動した。世界覇権を視野に3社連合を主導したゴーン氏だったが、同氏がトップの座に居座り続け、権力を振り回していることに対する排除の論理が、一気に噴出したというのが今回の動乱だろう。

ゴーン長期政権、その功罪

1999年3月27日、日産は東銀座にあった当時の本社で臨時取締役会を開き、ルノーとの資本提携を決定。日産の塙義一社長とルノーのルイ・シュバイツァー会長(当時の両社トップ)が直ちに提携調印を行った。「日産とルノー、力強い成長のために。」という文字を背にして両トップが握手してみせた提携会見には、筆者も出席していた。

当時、経営危機にあった日産は、再建の助けを外資に求めた。ダイムラー・クライスラーやフォードとも水面下で交渉していたのだが、ルノーとの資本提携に踏み切ったのは、ルノーが日産の自主性を尊重し、両社のシナジー(相乗)効果を推進するとしたことが決め手だった。

1990年代末、世界的に進んだ自動車業界の大再編では、GMやフォードのように、他社を吸収統合したり、完全にグループ傘下に収めたりする手法が主流だった。そんな中、ルノーは日産の独自性を尊重するとの配慮を示したのである。

実際は、経営破綻寸前に追い込まれていた日産が、再生の望みをかけたのがルノーだったのであり、当時のマスコミも一斉に「日産、ルノーに身売り」と報じた。しかし、ルノーとの提携を決断した当時の塙社長は、「日産、ルノーの基本認識は、日産のアイデンティティを従来のまま保つとともに、将来のために利用し合うこと。だから、従来の合併とは異なる、新たな国際企業連合体なんです」と筆者の取材に答えてくれたのを思い出す。

両社が提携した1999年の6月に、ルノーが日産に送り込んだのがカルロス・ゴーン氏だ。当時は弱冠45歳だった。

ブラジル・ミシュラン社長から北米ミュシュラン社長を歴任し、ヘッドハンティングされたルノーでは上級副社長として辣腕を振るったゴーン氏。「コストカッター」の触れ込みで来日すると、直ちに日産のCOO(最高執行責任者)に就任し、「日産リバイバルプラン」(NRP)を策定して企業再生に乗り出した。

その後の日産は、NRPを2年前倒しで達成し、約2兆円あった有利子負債を4年で完済するなどの「V字回復」を成し遂げた。ゴーン流の経営術は、自動車業界のみならず経済界全体で高い評価を受けた。

ゴーン氏の手腕で日産は「V字回復」を成し遂げた

ゴーン経営を特徴づけるのが「コミットメント(目標必達)経営」だ。分かりやすい公約を掲げ、その達成に向けて全社でまい進していく。旧・日産の組合問題や官僚体質のしがらみを断ち切り、国内工場の閉鎖や大量リストラも断行したゴーン氏だが、タテ割りだった日産の体質を読み切り、縦横を連係させるためのクロスファンクショナルチームを各部門で展開するなど、その手際は鮮やかだった。

日産COOに着任した当初のゴーン氏は現場も大事にする人で、「カーガイ」を自称し、「フェアレディZ」を復活させて日産ファンを感激させたりもした。「私はルノーのためではなく、日産のために来た。全力で日産を再建する」との言葉通りに職務を遂行していたのだ。

ゴーン氏が復活させた「フェアレディZ」

ゴーン流経営の陰りと三菱自の救済

ゴーン氏が最も輝いていた時期は、2005年頃ではなかろうか。NRPを推進し、日産の業績とグローバル販売を成長させた経営者としての手腕は、世界中で評判となっていた。ルノーがシュバイツァー会長の後継にゴーン氏を指名したことで、2005年にゴーン氏は、日産社長とルノー会長兼CEOを兼務することになる。名実ともに両社のトップに立った同氏は、「ルノー・日産連合は、世界で巻き起こった自動車業界の大再編以降、最も成功した国際連合となった」と胸を張った。

だが、その後の日産は2008年のリーマンショックで赤字転落し、1年で黒字には回復したものの、ゴーン流「コミットメント経営」には陰りが見られるようになっていった。ゴーン氏が日産社長として最後に打ち出した中期経営計画「パワー88」は、世界シェア8%と売上高営業利益率8%の2つの「8」を目指すものだったが、2016年3月の終了時で未達に終わったのだ。この頃には、内外から「ゴーン流経営も色あせてきた」との声が聞かれるようになっていた。

そういった声を掻き消すかのように、ゴーン氏は大胆な一手を繰り出す。三菱自動車を日産の傘下に収めたのだ。

日産と軽自動車の開発で提携していた三菱自は2016年春、「燃費不正問題」で一気に業績を悪化させた。これに手を差し伸べたのがゴーン氏率いる日産であり、その年の12月には日産が三菱自に34%を出資した。これにより、ルノー・日産連合に三菱自が加わり、ゴーン氏は三菱自の会長も兼務して、3社連合で世界覇権を狙うというパフォーマンスを改めて打ち出したのである。

ゴーンの変節とトップの座への執着

しかし、日産のトップとして19年、ルノーのトップとしても13年を経たゴーン氏の長期政権を不安視する声は、日産のみならず、ルノーやフランス政府などからも上がってきていた。その不安は、日産とルノーの「ねじれ現象」を背景とする。

日産とルノーの資本構成には、ひずみがあった。ルノーが日産に43.4%を出資している一方で、日産のルノーに対する出資比率は15%であり、日産はルノーの議決権を持っていなかったのだ。そんな状況の中、企業としての体力では、日産が生産、販売、売上規模、時価総額の全てではるかにルノーを上回っていた。こうした「ねじれ現象」を内包するアライアンスを、ゴーン支配でまとめていること自体への懸念が、不安の声となって噴出したのだ。

ルノーの後ろ盾となっているフランス政府は、同国の雇用や経済に好影響を与える「ルノー・日産の統合」を望んでいた。しかし3年前、ルノーおよびフランス政府との交渉に臨んだ際に日産サイドは、「フランス政府は、日産の経営に関与しないことで合意した」と発表。これは「日産の経営判断に不当な干渉を受けた場合、ルノーへの出資を引き上げる権利を持つ」ことを確認したもので、日産にとっては“伝家の宝刀”を得たといってもよかった。

ゴーン社長と西川副会長兼CCO(チーフコンペティティブオフィサー、両者とも当時の肩書き)のコンビで、フランス政府による日産への関与を防いだというのが当時の図式だった。しかし、2018年に入り、ゴーン氏のルノートップ再任(2022年まで)が決まったとき、再任条件としてフランス政府が「ルノー・日産の統合」を突きつけたことが、ゴーン氏に変節を促したとの見方がある。

ルノーのトップに再任されたゴーン氏は、ルノーと日産の資本構成の「不可逆的な見直しを」と発言するようになった。当然、日産ではルノーとの統合、すなわち「ルノーへの吸収合併」に対する不安が再燃した。これが、内部通報のトリガーとなったというシナリオが推測されているのである。

痛手を負った日産/ルノー/三菱自アライアンスの今後は

今回、日産で起こった動乱は、「ゴーン失脚」というスキャンダルの側面だけを見るべき事象ではない。日産が今後、どのような方向で生き抜いていくのかということが大きなポイントだ。

100年に1度の大転換期を迎えている自動車産業では、自動運転や電動化、コネクティッドカー、カーシェアリングなど、新世代の技術や新たなモビリティサービスが重要性を増している。自動車業界の中では、IT企業との連係やAIへの取り組み加速などにより、新たな競合関係が生まれた。1990年代末の経営危機をルノーとの連合で乗り切った日産としては、今や三菱自も加わった3社連合という枠組みをリーダーとして牽引し、激動の時代を生き抜いていくのが賢明な判断になるだろう。

今回のゴーン問題は、日産にとって1990年代末以来の難局だ。これを乗り越えられるかどうか、当面は西川社長の手腕にかかっている。