「佃義夫」の記事

佃義夫

トヨタが“虎の子”のハイブリッド技術を外部に無償提供する理由

トヨタが“虎の子”のハイブリッド技術を外部に無償提供する理由

2019.04.15

トヨタが2万件以上の特許技術を無償供与へ

環境規制は待ったなし、重要性を増すトヨタの電動化技術

電動化技術の外販・技術支援も実施? トヨタの新たな顔

トヨタ自動車はハイブリッド車(HV)開発で培った車両電動化関連技術を外部に無償で提供することを決めた。具体的には、トヨタが20年以上にわたり、HV開発で蓄積してきたモーターや電力制御装置などの技術について、約2万3,740件の特許実施権を2030年末まで無償供与するというもの。他のメーカーがトヨタの技術を使って電動車両を開発・製造する際には、技術サポートも実施する。

「プリウス」でHVの一時代を築いたトヨタにとって、モーター、バッテリー、PCU(パワー・コントロール・ユニット)、システム制御などの技術は“虎の子”ともいうべき財産だ。それらを外部に開放する理由とは何か。

トヨタは車両電動化技術に関する特許約2万3,740件の実施権を外部に無償提供する

なぜ、トヨタはHV技術の特許を無償提供するのか

トヨタが圧倒的な強みを持つHVの特許実施権を無償で解放するのは、地空温暖化への対応として、世界的に自動車への環境規制が強まり、ゼロエミッション車(排気ガスを出さないクルマ)への移行が迫られているからだ。

HVの実用化で先行したトヨタも、HVからPHV(プラグインハイブリッド車)、ピュアEV(電気自動車)、さらにはFCV(燃料電池車)へと、多様な電動車の開発に取組んでいる。そんな中で、個社の技術開発だけでなく、「電動車が世界に普及してこそ、地球環境への貢献につながるとの強い思い」(寺師茂樹副社長)があり、このオープンな戦略に踏み出したのだという。

トヨタが培ってきたコア技術はさまざまな電動車両に適応可能だ

一方でトヨタは、電動化技術の特許解放と同時に、システムサプライヤーとしてのビジネスにも乗り出すことになる。具体的には、技術支援のためのエンジニア派遣や電動化システムの外販を始めるのだ。トヨタにとっては、新たなビジネスモデルへのチャレンジでもある。

新しい移動サービスの創出に向けて、ソフトバンクと組んだMaaS事業への取組みとともに、新世代技術に対応すべくトヨタが進める「大きな仲間づくり」の戦略が進んでいる。今回の特許開放も、この文脈で捉えるべきだろう。これは「オープン&クローズ戦略」であり、当面の特許解放で仲間をつくり、中長期的には自社を有利な状況に導くものといえよう。

HVでは覇権を握ったが…世界の環境規制は待ったなし

トヨタは1997年、当時の奥田碩(おくだ・ひろし)社長が「赤字を覚悟で市場投入する」と決断し、世界初の量産HV「プリウス」を発売した。以来、HVはトヨタの各車種に広がり、燃費面はもとより、価格面でもガソリン車などに対する競争力を獲得するまでに育ってきた。プリウスにはPHVも用意するまでになった。

日本の自動車市場では、2010年代半ばにHVが大きな存在感を示すようになった。近年では欧州や中国でもHVの販売が伸びている。トヨタは2018年に世界で163万台のHVを販売。1997年以来の電動車の累計販売台数は1,300万台を超えている。

トヨタはこれまでに1,300万台以上の電動車を販売している

この間、ライバルの日産自動車が、トヨタから技術供与を受けてHVを発売したこともあったが、その後の日産は自前でHV技術を開発し、小型車「ノート」などに搭載している電動パワートレイン「e-POWER」に結びつけている。

すでにトヨタグループであるスバルとマツダは、トヨタからPHVを含むシステムの供給を受けている。最近では、2019年3月20日に、トヨタとスズキがHVの展開などで業務提携の拡大を発表。スズキはトヨタからHVシステムの供給を受ける。

世界で強まる燃費規制、自動車メーカーは対応必須

今回、トヨタはグループの枠を外してHVの電動化技術を無償解放すると決めたわけだが、その背景には、深刻な地球環境問題を受け、世界各国で厳しさを増す燃費(CO2)規制がある。

自動車各社は「CAFE」(corporate average fuel efficiency、企業平均燃費)と呼ばれる燃費規制に直面している。メーカーごとに、販売する全てのクルマの平均燃費に規制を受けるもので、米国や欧州、中国に続き、日本でも2020年から適応される見通しだ。

世界的に自動車に対する環境規制が強まっている

米国では、カリフォルニア州の「ZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)規制」が有名だが、この規制を実施するのは同州だけではなく、そのほか9つの州で導入が決まっている。欧州の状況を見ると、欧州委員会は2025年以降のCAFE規制に「ZLEV」(Zero Level Emission vehicle、1キロ走行する際のCO2排出量が50グラム以下の車両)の恩典を付加する。つまり、よりCO2を排出しないクルマを作ったメーカーに対しては、何らかの形で報いようという考え方だ。

中国では「NEV(ニュー・エネルギー・ヴィークル)政策」が2019年から始まっている。自動車メーカーに対し、電動車を一定以上の割合で販売するよう促す政策だが、この政策ではHVが電動車から除外されている。メーカーはPHV、EV、FCVの販売台数を増やす必要があるが、達成すべき電動車の販売比率は2019年で10%、2020年で12%と強化されていく見通し。達成できなければ罰金を支払うか、達成した他のメーカーから「クレジット」を購入しなければならない。

アジアでもインド、インドネシア、タイなどがEV、PHVの普及を後押しする政策の強化を検討中。つまり、世界的に国策としての電動車への移行が進んでいるのだ。

トヨタは20年以上のHV開発を通じ、電動車全般の高性能化、コンパクト化、低コスト化に役立つ特許を蓄えてきた。それらの技術はHVだけでなく、EVやFCVにも応用できるものだ。他の自動車メーカーにとってトヨタの技術は、各国の規制に対応していく上で助けになるだろう。

トヨタにシステムサプライヤーという新たな顔

電動車関連特許を無償解放するトヨタの本音は、モーターやシステム制御などでトヨタがシステムサプライヤーとなり、「仲間を増やす」ことで、電動車競争を優位に進めていきたいということだろう。あえて虎の子の技術を解放することで、電動車の普及を促進することにしたのだ。

「2030年頃を考えると、自動運転、コネクテッド、シェアリングなどにより、いろいろな面で自動車のビジネスが変わっていく。その時、ソフトウェアのバーチャルな世界から(自動車業界に)来た人たちは、自分でクルマを作って(技術的な)擦り合わせをするのではなく、トヨタのクルマを使う方向に行くと見ている。そのためにもトヨタは、モビリティプラットフォームなど、いろいろな準備を進めておく必要がある」と寺師副社長は語る。

トヨタ自身もHVからEVへと向かう準備に余念がない。同社がデンソーおよびマツダと設立したEVの基盤技術開発会社「EV C.A. Spirit」には、ダイハツ工業、日野自動車、スバル、スズキ、いすゞ自動車、ヤマハ発動機らが参画し、いまや“日本連合”の様相を呈している。また、電子化の中核工場だった広瀬工場をデンソーに売却し、主要な電子部品事業をデンソーに集約したという新たな流れもある。

今回の特許無償解放からも、「オープン&クローズ戦略」の一環として電動車の普及促進を図りつつ、仲間づくりを進め、電動化する自動車業界で世界をリードする優位な立場に立とうとするトヨタの狙いが見てとれる。

日産と三菱自動車が“新時代の軽自動車”を発売、両社の姿勢は対照的?

日産と三菱自動車が“新時代の軽自動車”を発売、両社の姿勢は対照的?

2019.04.02

日産「デイズ」と三菱「eK」、両社が“軽”で組んだ経緯

“軽”では画期的な装備、今後は電動化の流れに注目

信頼回復の途上にある両社、新型車にかける思いは

日産自動車と三菱自動車工業は、2019年3月28日に新型軽自動車を発表した。車名は日産自動車が「デイズ」、三菱自動車工業が「eK ワゴン」および「eK クロス」。日産は午前中に横浜本社で新車発表会を開催、三菱自動車は午後に都内ホテルで新車をお披露目したが、両社の姿勢には多少の違いがあった。

日産の新型「デイズ」発表会。中央は同社で国内営業を統括する星野朝子専務

国内自動車市場の4割が“軽”

両社が軽自動車開発で提携し、折半出資合弁の「NMKV」(Nissan Mitsubishi Kei Vehicle)を立ち上げたのは2011年のこと。今回の新型車では、ルノーも含めた3社連合の技術力を結集し、新たな軽自動車としてエンジン、パワートレイン、プラットフォームを含む多くの部分に手を加えた。

新型車について三菱自動車の益子修取締役会長CEOは、「新しい時代に求められる軽自動車としての自信作だ」を胸を張る。日産の星野専務は、「軽自動車初の『プロパイロット』を搭載するなど、間違いなく“すごい軽”となった」と強調。両社首脳が声をそろえて、軽自動車市場に大きな一石を投じるクルマであることをアピールした。

三菱自動車の新型「eK ワゴン」

軽自動車は日本特有の規格で、国内新車市場の約4割を占める。需要は特に地方で底堅い。この市場にはトヨタ自動車をはじめとし、いまや国内8社の乗用車メーカー全てが参入している。

自前の軽自動車が欲しかった日産は、水島工場(岡山県)の稼働率を上げたかった三菱自動車と提携で合意し、NMKVを設立した。2013年には先代(3世代目)「eK ワゴン」と初代「デイズ」を発売。結果的に、この合弁事業が日産と三菱自動車の資本提携に結びついた。

今回の新型車は、日産が初めて開発を主導し、本格的なアライアンス・プロジェクトとして生みだしたクルマだ。三菱自動車の益子会長は、「60年にわたる三菱の軽自動車生産に関するノウハウと、日産の先進技術をいかして合作した」と出来栄えに自信を示す。

三菱自動車の益子会長CEO

デイズの販売目標は月間8,000台、eK ワゴン/クロスは合わせて同4,000台。両社合計で月1万2,000台の販売となると、生産する水島工場はフル稼働体制となる。両社の新型車に対しては、ライバルとなる軽自動車大手の関係者も「脅威の存在となりそうだ」と警戒を隠さない。軽自動車市場への本格参戦を果たした日産・三菱自動車連合は、スズキ、ダイハツ工業、ホンダの対抗軸となりそうだ。

“軽”としてはやや高い? コストアップの理由

両社の新型車に搭載された新開発エンジンは、ルノーと日産が開発した0.8L3気筒エンジンをベースとする。型式は「BR06型」。これに変速制御を新しくしたCVT(無段変速機)を組み合わせ、小型リチウムイオンバッテリーを廃止した新設計のマイルドハイブリッドも採用して動力性能を大きく進化させた。

ルノーと日産が開発した0.8L3気筒エンジンをベースとする「BR06型」(画像は新型「デイズ」)

安全機能としては、カメラとソナーを使う最新の踏み間違え衝突防止アシストなどを搭載。運転支援システムには日産の「プロパイロット」(三菱自動車は「マイパイロット」と呼称)を採用するなど、軽自動車としては画期的な装備となっている。

新型デイズの価格は、最も安い「S」グレードが127万3,320円で、最も高い4WDの「ハイウェイスター G ターボ プロパイロットエディション」が177万8,760円だ。プロパイロット搭載グレードは9万7,200円のコストアップとなる。

新型「デイズ」の価格は127万3,320円~177万8,760円

一方の三菱自動車は、ハイトワゴンタイプのeK ワゴンをフルモデルチェンジするとともに、新たにSUVテイストのクロスオーバーモデルとしてeK クロスを設定した。価格はek ワゴンが129万6,000円~150万6,600円、ek クロスが141万4,800円から176万5,800円となる。

SUVテイストのクロスオーバーモデル「eK クロス」

軽自動車としては、やや高めの価格設定だ。エンジン、パワートレイン、プラットフォームの一新に加え、多くの先進技術を搭載したことによるコストアップではあるが、ユーザーサイドがどう受けとめるかは気になるところだ。

一方で、両社による軽自動車開発の今後としては、日産が開発した電動パワートレイン「eパワー」の導入や、両社が実績を持つ電気自動車(EV)への展開にも結びつきそうなので、そちらにも注目したい。

新型「デイズ」で新しい日産の姿は見せられたのか

日産は新型デイズ発表の前日、「ガバナンス改善特別委員会」による最終報告と提言を受けた記者会見を開いていた。この日は日産がルノーとの資本提携に調印してからちょうど20年という節目の日でもあった。

本来ならば、国際アライアンスの成功例として20周年を祝う日になるはずだったが、皮肉にも同日、ガバナンス改善特別委は、日産の企業統治が機能していなかったことを強い調子で指摘した。ガバナンス改善特別委は、カルロス・ゴーン氏による不正が疑うに足るものだと認定し、典型的な経営者不正だと結論づけたものの、取締役会の監督機能が有効に機能していなかったことにも大きな問題があったとし、西川廣人社長以下、現役の日産幹部の責任にも言及した。

日産としては、ガバナンス改善特別委の最終報告と提言に基づき、脱ゴーンの新たなガバナンス体制を追求していくことになる。新生日産の課題が浮き彫りになった会見の翌日ということで、新型デイズの発表会には多くの報道陣が集まった。

しかし、日産が新型デイズの発表会を開催した横浜本社のショールームに、西川廣人社長の姿はなかった。会場では「なぜ、西川社長が出ないのか。日本国内での新車発表は1年半ぶりなのに」という声も聞こえてきた。

2019年3月12日、ルノー、日産、三菱自動車の3社トップによる会見に登壇した日産の西川廣人社長(右から2人目)

新型デイズのキャッチフレーズは、「日産が軽自動車を変える」「新しい日本の新しい軽」。脱ゴーンで歩みだす新しい日産をアピールする場として、発表会には西川社長も出席して欲しかったというのが、報道関係者のみならず、販売に携わる日産ディーラーの本音でもあるだろう。

一方、同じ日に都内ホテルでeK ワゴン/クロスをお披露目した三菱自動車では、発表会に益子修会長CEOが登壇。「今回の新型車では、開発の主体は日産が担当し、モノづくりと生産技術は三菱自動車が受け持った。三菱自動車にとっては国内販売の54%が軽自動車。激戦区である“軽”市場で三菱らしさを発揮し、信頼回復に注力して国内販売を盛り上げたい」とその意欲を語った。

今回の新型軽自動車は、ルノーも含めたアライアンスによるグローバル展開の中で、日産と三菱自動車が日本国内をどう固めていくのかを見る上で1つの試金石となる。両社トップの姿勢に温度差が見られたことで、発表会はいささか対照的な印象を残した。

ルノー・日産・三菱連合は新時代へ、「ポスト・ゴーン」をリードするのは誰か

ルノー・日産・三菱連合は新時代へ、「ポスト・ゴーン」をリードするのは誰か

2019.03.13

ルノー、日産、三菱自動車のトップが会見

複雑かつ微妙な資本構成、実力では日産がリード?

アライアンスは「ポスト・ゴーン」へ、リーダーは誰か

3月12日、ルノーのジャンドミニク・スナール会長、ティエリー・ボロレCEO、日産自動車の西川廣人社長、三菱自動車工業の益子修会長CEOは、そろって日産の横浜本社で記者会見し、4人で新合議体「アライアンス・オペレーティング・ボード」を設置して、3社連合の維持・発展を目指していくと発表した。

「ポスト・ゴーン」は合議制、アライアンスが再出発

ルノー、日産、三菱自の日仏3社連合を圧倒的なリーダーシップで引っ張ってきたカルロス・ゴーン元会長が逮捕されてから4カ月。ゴーン元会長が保釈されたばかりというこの時期に、ルノーでゴーン氏の後任を務めるスナール会長とボロレCEOが来日し、西川・益子両首脳と会見に臨んだ。この動きは、3社トップによる合議制に移行することで連合を継続・発展させていく姿勢を世間に知らしめたもので、「ポスト・ゴーン」に舵を切ったことを強く印象づけた。

しかし、資本構成で日産がルノーの子会社という位置づけにあることは変わらず、かつ、ルノーのバックにはフランス政府がいる。フランス側は両社の経営統合を望んでいるとも言われている。

そんな状況の中、フランス政府から送り込まれた形のスナール新会長は今回、3社の新合議体の議長には就くものの、「日産の会長になろうとは思っていない」と明言。資本関係の見直しに関しても「今回のポイントではない。フランス政府は株主として尊重するが、3社の将来に向けた検討に集中したい」とし、フランス側の圧力を当面は避けると強調した。

左からルノーのスナール会長、日産の西川取締役社長兼CEO、三菱自動車の益子取締役会長CEO

その背景には、世界の自動車産業が次世代をにらんで激しく揺れ動いているという現状がある。ルノー、日産、三菱自の3社は、国際連合の維持が各社の生き残り策として上策であると判断したのだろう。

3社連合の関係性は微妙かつ複雑だ。資本構成からいくとルノーの子会社が日産、日産の子会社が三菱自という構図だが、売上規模や技術力では日産が優位に立っていて、三菱自は日産主導による再建下にある。ルノーでは、日産の持ち分法利益が全体の業績に大きく寄与している。スナール会長は「力を結束し、3社連合の競争力を高めること」が最優先であるとし、資本構成や主導権などの課題は後回しにしてでも、連合を維持することが大切との考えを示したわけだ。

3社トップ会見の裏で「ゴーン会見」の情報も

日産横浜本社での記者会見は、スナール会長の「今日は、3社連合にとって特別な日だ」という言葉から始まった。明らかに、カルロス・ゴーン前会長の3社連合支配からの脱却を意識した発言という感じである。3社の会長を兼務し、なおかつ連合統括会社の会長にも就任することで、強いリーダーシップを発揮してきたゴーン会長の運営には、功罪相半ばするところがあった。強権・独断のゴーン流は、今回の逮捕につながる“私物化”の容認(?)ともなっていたのだ。

実は、この3社トップ会見と同じ12日に、ゴーン元会長が会見を“ぶつけて”くるとの情報が業界を駆け巡っていた。その日、弁護士事務所で弁護団と協議したゴーン氏は、夕刻にも会見を開き、一連の容疑に対する反論などを提示するのではないかと注目された。だが、結果としてゴーン氏の会見は日延べされた。

スナール会長のいう「特別な日」とは、そのゴーン氏による支配体制に別れを告げた日ということである。スナール会長が議長となり、ボロレ、西川、益子の各社CEOが参加する合議体を立ち上げ、3社連合を4トップによる集団指導体制に移行すると宣言したのだ。これにより、「アライアンスの効率化を進めて体制を再構築し、個々の力を高める。これはいわば、アライアンス発足当初の精神を取り戻すことでもある」とスナール会長は強調した。

会見ではゴーン氏について多くの質問を受けたスナール氏だったが、「推定無罪が私の信念」とし、多くは語らなかった

ちょうど20年前の1999年3月27日に、日産とルノーは資本提携を発表した。『日産とルノー、力強い成長のために』と書かれたボードを背景に行われた両トップの提携会見では、ルノーが日産の自主性を尊重し、両社の相乗効果(シナジー)創出を図る国際連合企業体とすることが強調された。

マスコミは「日産、ルノーに身売り」の見出しで本件を報道したものだが、当時の日産社長でルノーとの提携を決断した塙義一氏は、「日産、ルノーの基本認識は、日産のアイデンティティを従来のまま保つとともに、将来のために互いに利用し合うということ。だから、従来の合併とは異なる、新たな国際企業連合体なんです」と筆者の取材に答えてくれた。

「身売り」と報じられたルノー・日産連合だったが、20年を経過した今では、統合・合併とは異なる国際連合の成功例となり、そこに三菱自も加わった。ゴーン元会長は「世界覇権をとれる3社連合に躍進した」と豪語していたが、個別に見ると、日産565万台、ルノー388万台、三菱自122万台を足し合わせた販売台数(2018年実績)は、世界第2位の規模となっている。ただ、単なる台数の合計では、この激動のモビリティ新時代を生き抜いてはいけないという実態もある。

日産がリーダーに? ガバナンス刷新と業績回復がカギ

ルノーと日産、そして日産と三菱自。この3社連合は、資本構成でそれぞれ複雑に絡み合う。ルノーは日産に43%、対して日産はルノーに15%を出資しており、ルノーは1999年の資本提携以来、日産の筆頭大株主であり続けている。一方、日産はルノーの議決権を持たない。その日産は2016年10月、三菱自に34%を出資して傘下に収め、三菱自は日産主導による再生の途上にある。

その資本関係をベースとする3社連合は、プラットフォームの共用化や部品の購買・物流、研究開発、生産などの協業で相乗効果を追求している。3社のトップは「今の自動車業界ではスピードが重要。権限委譲と責任の明確化、アライアンスの効率化で競争力を高める」と口をそろえた。ポスト・ゴーンの3社連合は、自動車業界の大変革を生き抜くため、スピード感を持って事に当たり、各社の得意分野を活用して相乗効果を高めていくことで一致したということだ。

だが一方で、「ねじれ現象」とも言えるルノーと日産の“宿命的な資本関係”については手を触れず、先送りにした格好だ。今回の会見では、ゴーン元会長に代わり、ルノーから新しい会長が日産に送り込まれることはないということが分かった。西川社長は「従来のように、ルノーの会長が日産の会長になることを求められないのは大変ありがたい」とした。

日産としては、ゴーン長期体制による取締役会の機能不全など、ガバナンスの立て直しが急務であり、本業の業績が低下していることも大きな課題となっている。「今、私が抱えている課題は、アライアンスの安定、ガバナンスの刷新、業績安定の3つだ」というのが西川社長の現状認識だ。4月8日の臨時株主総会では、ゴーン元会長の取締役解任など経営陣の刷新を行う。

日産と三菱自の関係を見ると、日産主導による三菱自の再生は順調に進んでいる。3月14日には、両社トップ臨席のもと、三菱自・水島工場(岡山県倉敷市)で共同開発の新型軽自動車のラインオフ式を実施するとのこと。同28日には、日産の新型「デイズ」と三菱自の新型「ekワゴン」が発表される予定となっている。

ルノーと日産の提携から数えると、20周年を迎えるアライアンスは今、大きな転換点を迎えている。強力なリーダーシップを発揮してきたトップは退場したが、ポスト・ゴーンの3社連合をリードするのは日産であるべきだ。経営統合の道を進めば、日産はルノーに吸収合併されたという印象を拭えないだろう。自立して連合をリードする日産の姿を見たい。