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中山智

パナソニック会長が語った、社会のあり方が変わる「Society 5.0」とは何か?

パナソニック会長が語った、社会のあり方が変わる「Society 5.0」とは何か?

2017.10.13

電子情報技術産業協会(JEITA) 会長 長榮周作氏

2016年に脱・家電見本市を宣言し、IoTをメインとした展示会へと衣替えをした「CEATEC」。今年度もそのコンセプトは変わらず「日本の成長戦略や未来を世界に向けて発信する"Society 5.0"の展示会」をテーマに据えている。

パナソニックの取締役会長で、CEATECを運営する電子情報技術産業協会(JEITA)の会長でもある長榮 周作氏の基調講演も「スマート社会『Society 5.0』に向けて」と題し、CEATECやパナソニックの取り組みを元に、日本の目指す新しい社会コンセプトを提案していた。

長榮氏は、気候変動と資源不足・人口構造の変化・主要国の低成長など、さまざまな社会問題が世界潮流として覆っていると説明。社会問題が複雑化するなかで、その解決の糸口となるのが「さまざまなもののデジタル化」だという。現在世界ではIoTや5G、AIとった技術を背景とした第4次産業革命が進行している。特に消費市場ではシェアリングエコノミーが到来しており、今までと違った社会コンセプトの市場「Society 5.0」が形成されつつある。

長榮氏は「情報化社会の次に来る超スマート社会は、必要なものやサービスを必要な人に、必要なとき、必要なだけ届けることが重要となる」という。日本政府もこの流れを加速させるべく、6月に「未来投資戦略 2017 」を閣議決定しており、その表題にも「Society 5.0の実現に向けた改革」と記している。

世界各国で第4次産業革命が進行しており、シェアリングエコノミーが普及しはじめている
日本も超スマート社会「Society 5.0」に向けた取り組みがはじまっている

IoTの普及によってさまざまな機器が繋がっていくが、この繋がるという意識が異業種企業とのコラボレーションを促進しているのも特徴の一つだろう。長榮氏はこうした時流に合わせて「JEITAの会員、会費制度を見なおし、異業種参画を促進している」と語る。実際、かつては参加資格外だったトヨタ自動車やソフトバンクといった企業が会員として加わっている。

またCEATEC JAPAN 2017では、インドパビリオンを初めて設置。海外のスタートアップ企業に日本への市場参入やパートナー発掘の場を提供している。そのため会場を回っていても、数年前までの「大手家電メーカーの新製品お披露目会」といった様相から、大きく変わっていると感じ取れた。

CEATEC会場内のインドパビリオン

「Society 5.0」をいち早く実現したFujisawa SST

変化しているのはJEITAやCEATECだけではない。長榮氏はパナソニックも大きく変わっていることをアピールした。パナソニックと聞くと家電メーカーのイメージが強い。来年で創業100周年となる世界でも有数の老舗家電メーカーだが、現在では家電と住宅、車載、B2Bと大きく4つの事業領域に分かれており、家電の売り上げは20数%しかないという。

なかでも注目なのが住宅事業だ。単に住宅を建てたり売るだけでなく、家電や住宅サービスの融合で新たな暮らし方を提案。家電を住宅のつながりで生まれる新たな価値を創造しようとしている。

その一例が神奈川県藤沢市の「Fujisawa SST(サスティナブル・スマートタウン)」。パナソニックの藤沢工場跡地6万坪(東京ドーム4個ぶん)を利用してつくられた街づくりのプロジェクトで、戸建て400戸、集合住宅600戸、合わせて1000戸、3000人が暮らしている。

パナソニックは現在4つの事業領域で展開
住宅だけでなく街全体をデザインしたFujisawa SST

商業施設も併設されており、学研と提携した「ウェルネスSQUARE」として、病院やクリニック、薬局などがあり、高齢者と家族が安心して暮らせる空間を提供している。ほかに、エコカーシェアリングやレンタカーサービスもすぐ利用できる環境を用意している。

また、ヤマト運輸と提携した「ネクストデリバリーSQUARE」では、宅配から届く荷物を集約。タウン内は台車や電動アシストで配達するため、化石燃料を使ったトラックをあちこち走らせる必要がない。また、配達予定時刻もスマートテレビでチェック、あるいは再配達の依頼も可能だという。

必要なものやサービスを必要な人に、必要なとき、必要なだけ届ける、「Society 5.0」をいち早く実現している環境がFujisawa SSTというわけだ。

Fujisawa SSTでの取り組みでもわかるとおり、学研やヤマト運輸など、これまでのJEITAやCEATECでは到底名前の挙がらなかった企業と連携していることがわかる。IoTの効果は単に機械どうしが連携するのではなく、人と人、企業と企業もつなげられることだ。

Fujisawa SSTでは共有サーバーを使ったヘルスケアサービスや、宅配のオンデマンド配送サービスにも対応
あらゆるものがつながることで付加価値が生まれる

長榮氏は、「IoTなどの技術は二股ソケットの現代版」だという。二股ソケットはパナソニック創業時の主力商品で「世の中を便利にするもの」だった。IoTや5G、AIによってつなげる、つながることで付加価値が生まれ世の中が便利になる。CEATECは発信型の展示から課題解決型の共創へとシフトしたが、「世の中を便利にするなにか」が得られる場であることは変わっていないと強く感じた。

産業ロボットのファナックがIoTプラットフォームを作った理由

産業ロボットのファナックがIoTプラットフォームを作った理由

2017.10.06

ファナック 代表取締役会長 兼 CEO 稲葉 善治氏

10月3日より幕張メッセで開催している「CEATEC JAPAN 2017」で、ファナック 代表取締役会長 兼 CEOの稲葉 善治氏が講演。製造工場のIoT、AI導入の重要性とともに、発表したばかりの造業向けIoTオープンプラットフォーム「FIELD system」について解説した。

ファナックは工作機械用CNC装置や多関節ロボットのメーカーで、世界でもトップクラスのロボットメーカーのひとつ。現在2つの工場で月産6000~7000台の工作機械やロボットを生産しているが、「それでも世界における需要が伸びていて(工場が)足りない」(稲葉氏)。そのため、来年度末までに第3工場を設立して月産1万1000台を目指しているという。

ファナックの自社工場内でも、同社が製造した工作機械やロボットが約3600台稼働。稲葉氏は「ファナックのスローガンは『壊れない』『壊れる前に知らせる』『壊れてもすぐ直せる』。これが、工場にとって一番重要な『止めない』ことにつながっている」と話す。

工作機器やロボットがファナックの主力製品
製造業として自社でも工場を運営しており、3つのスローガンを重要視している

マシンの最適化はネットワークから

技術革新によってこの数十年、工場はコストダウンなどの最適化を進めてきたものの、稲葉氏によれば「限界に来ている」という。例えば省人化を目指したスタンドアローンで動く機器の性能向上などについても限界に近いそうだ。そこでファナックがフォーカスしたポイントは「工作機械やロボットをネットワークでつなげることでデータを収集し、システムや工場全体での最適化」だという。そこには当然ながら、IoTやAIの急激な進化が関係している。

稲葉氏はAIについて「"熟練の技"をデジタル化できる技術」として注目。少子化によって労働者の確保が難しくなり、熟練工の技術伝承が社会問題化しているが、これをAIで解決できるというのがファナックの目算だ。例えば、最新の工作機械にはカメラセンサー以外に「振動」や「臭い」の検知が可能なセンサーも搭載。これらのデータを元にAIが最適な加工条件を見つけ出し、熟練工と同じレベルの作業を自動で行なえるようになるという。

またAIは、人間が技術を覚えるよりも早く学習が可能で、乱雑に積まれた物体から特定の物体を取り出す作業では、熟練者が2日程度かかる学習時間が、8時間ほどで熟練者並にチューニングでき、さらに複数台のロボットを並列に学習させることで、学習スピードをアップさせられる。理論的には4台のロボットが同時に学習を始めれば、8時間の学習時間を2時間まで短縮できることになると稲葉氏は話す。

工場の機械やロボットから収集されるデータは膨大な量となる
クラウド側にすべてを任せると、レイテンシーやセキュリティーの問題が発生する

ここでポイントとなるのが、こういった学習や判断をクラウドで処理せず、エッジで処理すること。工作機器やロボット1台であれば問題ないが、工場全体のデータ量となればかなりの量となる。つまり、それをクラウドへ送信・処理するには大容量の高速回線やストレージが必要となってしまうわけだ。

それに加えて問題となるのが「レイテンシー」。稲葉氏は「何か異常を検知し、それをクラウド側に送って判断するのに数秒かかってしまったら、工作機械の刃物がお釈迦になってしまうかもしれない」と話し、瞬時の判断の遅れが工場を止めてしまい、生産性の低下を招くと指摘する。

このエッジ処理の考え方は、セキュリティの懸念も同時に解決できる。可能な限り多くの情報をエッジ側で処理してクラウドには最低限のデータを送る方法であれば、攻撃者の目に触れる機会が減るベストな状態というわけだ。

こうしたファナックの考えを反映したシステムが、10月2日より運用が始まった製造業向けIoTオープンプラットフォーム「FIELD system」だ。工場内にメインのシステムを配置し、工作機械やロボットなどをネットワークでつなげることで、各種データの収集と解析、制御が行なえる。

オープンプラットフォームでメーカーなどの垣根を越えて使用できるFIELD system
ネットワークスイッチを使い各工場やインターネットと連携するFIELD systemの構築例

接続可能な工作機械やロボットは最新モデルである必要がないのも「FIELD system」の特徴だ。「イーサポートがあればカンタンだが、20~30年前のRS-232CやI/Oポートしかない機械でも接続可能。FIELD systemを使えば、スペック的限界はあるものの、最新機械と同じようなコントロールも可能になる」(稲葉氏)。

システムはインターネットにも繋がっており、各種クラウドと連携できるほか、工場外からの遠隔操作にも対応する。稲葉氏は「工作機械やロボットがつながることの最大のメリットは『見える化』である」とし、「現地に行かなくても情報が取れ、見えたものを考えて分析し、よりよい機能を開発していくことができる」とアピールした。

FIELD systemで接続した機械やロボットをコントロール
ポートの種類などメーカーの壁を越えてまとめて接続可能

また、収集したデータをAIで解析すれば、さまざまな工作機械やロボットがいつ、どのように壊れるかということまで判断できるようになるという。これによって突発的な修理が発生せず、保守点検のタイミングで対応できるため、ファナックのスローガンにある「壊れない」「壊れる前に知らせる」「壊れてもすぐ直せる」を実践できるようになる。

稲葉氏は、FIELD systemが「メーカーのえり好みをせず、世代とメーカーの壁を越えてつながる」(稲葉氏)オープンプラットフォームであることも大きなポイントであると強調する。ファナック以外の工作機械やロボットに対応する上、デバイスパートナーやサードパーティー、アプリ開発などもフィールドシステムパートナーズとして広く募集する。

アプリをインストールするだけで、既存の工作機械やロボットが最新モデルのように使える
深層学習自体の実証実験はすでにスタートしている

生産性の向上は日本の産業界でもっとも問題視されている分野であり、少子化による生産年齢人口の減少といった問題も、日本の主要産業である製造業の担い手を助けるこのシステムが大きく寄与できるはずだ。未来予想図だけでなく、どこまで現場の奥底までサポートできるのか、ファナックの新たな挑戦に注目だろう。