「並木秀一」の記事

並木秀一

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根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄はこれらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

お酒の原料を国内生産にこだわるキリンの意図

お酒の原料を国内生産にこだわるキリンの意図

2018.11.14

さまざまな個性を楽しめるクラフトビールが人気

ワイナリー新設を急ぐメルシャンの狙いは?

国内各地に農園保有はCSV活動の側面も

大手飲料メーカー、キリンホールディングス(以下、キリン)から相次いで取材のお誘いがあった。ひとつは岩手県・遠野市、もうひとつが長野県・塩尻市。

お酒好きなら、この2つの地名を聞いてわかる方もいるかもしれない。そう、遠野市はホップ生産が有名なところ。塩尻市はブドウのヴィンヤード(農園)が点在する場所だ。つまり、ビールとワインの原料生産地となる。

まず遠野について。遠野は、作家・柳田國男が記した「遠野物語」でも有名だ。柳田は“民俗学の父”とも呼ばれ、多くの物語を集め、遠野物語を完成させた。なぜ、遠野に多くの物語が伝わったのか。それは、7つの街道が集まる交通の要衝で、旅人や商人が各地の伝承を伝えたといわれているからだ。そして、雪に閉ざされた冬に、民家で地元の方々がその物語を語り合ったため、多くの物語が伝承されたというのが有力な説だ。

さて、遠野物語から離れてビールの話に移ろう。実はビールは苦戦している。昭和期にはもっとも人気のあるお酒として、親しまれた。ただ、今は当時の約3割減の消費量といわれている。

クラフトビールに視線を注ぐビールメーカー

こうした状況のなか、ビールを扱う企業は、新たなジャンルに注目し始めた。それは、いわゆる“地ビール”だ。20年ほど前、地ビールブームが訪れたが、現在はそう呼ばれていない。「クラフトビール」という名前が定着している。

遠野で醸造されているビールもクラフトビールだ。遠野の農園で生産されたホップを、地元のビール工場に運び、そして醸造。そうして生まれたクラフトビールを、キリンが流通させている。

正面奥のこんもりした場所がホップ畑
収穫を待つホップの実
ホップのツルは、約5mまで伸びる。そのためリフト搭載のクルマで収穫する
痛んだホップなどを選別して取り除く

もちろん、「一番搾り」や「ラガー」のような流通量ではない。ほんのわずかの流通量だが、ビール人気の復調のためにもクラフトビールは期待されている。そして、毎年この時期には遠野産ホップを使用した「一番搾り とれたてホップ生ビール」が販売される。遠野産ホップを使ったビールに興味があれば、手にとっていただきたい。

農園の近くにあるレストランで自家製のクラフトビールなどが楽しめるほか、ビールに合うおつまみ、週替わりの数量限定カレーが味わえる
遠野醸造では6種類のビールが用意されている。壁から突き出た6本のレバーとカランが、なかなか壮観

ワイナリーの新設を急ぐメルシャンの動き

一方、長野県・塩尻市ではワインの原料となるブドウが生産されている。塩尻市にある桔梗ヶ原という場所にヴィンヤードを拓き、ブドウ栽培が行われている。なお、ワインに関しては、キリン傘下のメルシャンが事業主体だ。ここで生産されたブドウによる「桔梗ヶ原メルロー」は、リュブリアーナ国際ワインコンクールでグランド・ゴールド・メダルを受賞したことで有名。以来、海外からの引き合いも強くなった。

これまで「シャトー・メルシャン」のワイナリーは甲州市・勝沼町のみだった。それが昨年から大きな動きを見せている。塩尻市・桔梗ヶ原と上田市・椀子にワイナリーを新設するとアナウンスしたのだ。

メルシャンが2カ所もワイナリーを増やすのはなぜか。まず挙げられるのが、日本産ワインの人気が向上したことだろう。和食が世界文化遺産に指定され、海外で和食人気が高まった。そうした食事にはやはり日本産ワインを合わせたいという需要が増えたからだろう。もちろん、国内でも日本産ワインの人気が高まっている。

そして、もうひとつがブドウ生産のヴィンヤードが増えたこと。ワインを醸造したくても、ブドウがなければ叶わない。その課題を解決するために農園を増やし、ブドウの収穫量を上げたことが根底にあるのではないか。

桔梗ヶ原ワイナリーは1938年に建てられた歴史のあるワイナリーだ。ただ一時、醸造をストップ。今回、新設されたワイナリーで約30年ぶりの仕込みが始まった
ワイナリーの敷地には、小さいながらもブドウ畑がある。敷地にこうしたブドウ畑があると、ワイナリーの雰囲気が増す

そして、いよいよ桔梗ヶ原のワイナリーが完成した(椀子はまだ)。その新設された桔梗ヶ原ワイナリーの初仕込み式に招待された。神主さんを呼んで、ワイナリーの安全を祈願したあと、仕込みが始まった。御神酒はもちろんワイン。ワインボトルの前で厳かに大麻(おおぬさ:神事で使われる棒)を振る神主さんの姿は、なかなか見物であった。

初仕込みということもあって、厳かに神事が行われた
御神酒はもちろんワイン。しかも「桔梗ヶ原メルローロゼ」だった

地方の農業を活性化するため国内に農園を拓く

仕込みが済んだということは、もっとも早く出荷される「プリムール」(新酒)が来年の春頃には飲めるのではないか。筆者は大のワイン好きなので、このワイナリーで醸造されたワインをいただくのが楽しみだ。

農園の話に戻ろう。もちろん、国内で生産された原料により醸造されるお酒は、少量となる。ではなぜ、キリンは国内各地に農園を保有しているのか。担当者は、「品質を調整しやすいのは確かですが、地方の農業を活性化する側面もあります」と話す。キリンは「健康」「地域社会」「環境」といった社会課題に、CSVとして取り組んでいる。こうした農園もCSV活動の一環なのだろう。

大手飲料メーカーが相次ぎ参入! “トクホ”のお茶市場で競合が激化

大手飲料メーカーが相次ぎ参入! “トクホ”のお茶市場で競合が激化

2018.11.08

お茶の巨人とは異なる市場を生み出す大手飲料メーカー

特定保健食品に緑茶を投入したサントリーと日本コカ・コーラ

高齢化社会が進めばトクホのお茶の需要アップが見込める

1980年ごろまで、緑茶といえば茶葉を急須に入れ、お湯を注いでそれを湯飲みで飲むのが一般的だった。あるいは、飲食店で無料サービスとして提供されるものだった。つまり、当時は茶葉代のみで済む、またはただで飲むというのが常識。緑茶にお金をかけるという認識は皆無だったといっていいだろう。

ペットボトルのお茶は、今では誰もが認める定番商品に

そんな折、1989年に伊藤園が「お~いお茶」(缶入り)という商品の販売を開始した(缶入り煎茶は以前からあった)。当時、「お金をかけなくても飲めるお茶を、果たして消費者が購入するのか!?」という疑問を、何かの報道番組か雑誌でみたことがある。

ところが「お~いお茶」の語呂の良さを生かしたCMを多用したり、ペットボトルで手軽さを追求したりで、消費者に受け入れられていった。そして業界大手企業も次々にこの市場に参入していった。

ところが、先駆者である伊藤園の牙城はなかなか崩れない。緑茶における伊藤園のシェアは35~40%ともいわれ、圧倒的な強さをみせている。

巨人に真っ向から対抗するのではなく、新たな市場を創出する動きもみられた。雑穀などを原料にした、アサヒ飲料の「十六茶」や日本コカ・コーラの「爽健美茶」といったお茶である。折しも健康ブームに火がつき、健康志向をうたったこれらの商品は順調だ。

「トクホ」のお茶に熱視線

そして、また新たな市場が創られた。特定保健用食品、いわゆる「トクホ」に指定されたお茶の市場が生まれたのだ。この市場の競争が激化しそうな様相をみせている。

トクホの緑茶といえば、サントリー食品インターナショナル「伊右衛門 特茶」や花王の「ヘルシア緑茶」あたりが有名だ。緑茶以外にもサントリー「胡麻麦茶」、日本コカ・コーラ「からだすこやか茶W」、アサヒ飲料の「十六茶W」などがある。

ただ、やはりトクホ飲料でリードしているのはサントリーといえるだろう。特茶はトクホ飲料で4年連続ナンバーワンとなっており、9月からは新しい取り組みも始めた。ヘルスケアとAIを活用したライフサイエンス分野を研究するFiNCと協力。食事・運動・特茶を組み合わせ、日々の健康を管理する「特茶スマートアプリ×FiNC」を提供し始めた。

FiNCと協力し、スマートアプリの提供を始めた特茶

また、緑茶だけではなく「黒烏龍茶」を投入。脂肪を分解する効果を前面に押し出し、多量の広告を打って、健康+サントリー飲料という意識を根付かせた。

一方、清涼飲料水大手の日本コカ・コーラも健康志向というキーワードを強調している。前述した爽健美茶などは、まさにその象徴だろう。

「綾鷹」ブランドでお茶飲料トップを猛追

日本コカ・コーラは他社と比べると、お茶の市場で出遅れた感がある。だが「綾鷹」ブランドで巻き返しを図り、現在ではサントリーと2位争いでデッドヒートを繰り返している。そして、やはり健康を意識したトクホの新製品を投入してきた。それが「綾鷹 特選茶」だ。

そこで、綾鷹 特選茶を主導する日本コカ・コーラ マーケティング部 緑茶グループの成岡誠氏に話をうかがった。覚えている方も多いだろうが、綾鷹のCMはお茶の「濁り」を強調したものが主だった。綾鷹の特徴である、この濁りを生じさせるために、特選茶では相当な研究開発を繰り返したと成岡氏は話す。

確かに急須で入れたお茶には濁りがあるが、ペットボトルのお茶はクリアだ。本格的なお茶を楽しみたい層には違和感があるかもしれない。

特選茶の特徴を説明する日本コカ・コーラの成岡誠氏

実は健康をうたった機能性飲料は、ここ5年で2倍に成長している。この先も高齢化社会や健康志向が進めば、こうした機能性緑茶飲料の需要は伸び続けるだろうと日本コカ・コーラではみている。特選茶の投入はその布石だ。

問題もあった。それは機能性飲料は「あまりおいしくない」というイメージを消費者が抱いている点だ。そこで、消費者に目隠しによるモニタリング(ほかのお茶との飲み比べ)などを徹底的に行い、評価を行った。その結果「これならいける」と確信できるおいしさが実現できたそうだ。

一方で、お茶を含む清涼飲料水の市場変化にも対応しなくてはならない。特に近年、“プレーンな炭酸水”の躍進がめざましい。その炭酸水人気に押されて、健康志向という面では競合する緑茶は、先行きに不安もあるのではと聞くと、成岡氏は「まったくそんなことはありません。むしろ緑茶のマーケットは伸びています」と話す。需要のパイ自体がひろがっていくと見ているようだ。

日本人にとって、緑茶はある意味アイデンティティともいえる。それを考えると需要は普遍的なのかもしれない。機能性をうたう新たな付加価値を持った緑茶の盛り上がりが、この市場をさらに活性化させそうだ。