「三浦優子」の記事

三浦優子

新コンセプト店で1杯数千円のコーヒーも!? わが道を行くスタバのなぜ

新コンセプト店で1杯数千円のコーヒーも!? わが道を行くスタバのなぜ

2016.11.10

スターバックス コーヒー ジャパンは2018年、東京・中目黒に「スターバックス リザーブ ロースタリー」(以下、ロースタリー)をオープンする。ロースタリーは、創業の地である米・シアトルに1号店がある新しいタイプの店舗。店舗の核となるのはコーヒー豆を焙煎するロースターで、店舗を訪れた客は焙煎の様子を見ながらコーヒーを楽しめる、“体験型”の店舗となる。そんな中行われたロースタリーの記者会見には、米本社のCEOであるハワード・シュルツ氏も登場。日本での新展開。スターバックスが力を入れる事情はなにか。

スターバックス・コーポレーションCEOハワード・シュルツ氏

スターバックスは現在、世界で2万5000店舗を運営、来店者数は一日あたり330万人とコーヒーチェーン店として世界で大きな存在感を示している。日本だけでも現在の店舗数1200店を、2020年を目処に1500店舗まで拡大するという目標を示しており、年100店舗ペースで新店オープンが続くことになる。拡大するコーヒーチェーン店のトップとして、シュルツCEOがどんなビジネスビジョンを示すのか注目が集まった。

通常店舗と差別化、プレミアム性を追及した店舗

新たにオープンするロースタリーについては、「ロマンチックな経験を作ることができるコーヒーショップを作りたいと、2年前、シアトルに1号店をオープンした。ほとんどの方が、コーヒーがローストされているところを見たことがない。シアトルの店舗は、コーヒーをローストするところを自分の目で見ることができる、アトラクションのような状況になっている。今まで見たことがない体験をできる場所だ」と説明。

新しく店を開くロースタリーは、その場で焙煎している様子を見ながらコーヒーが飲める“体験”も売る

日本以外にも中国・上海、米・ニューヨークに同じコンセプトの新店をオープンすることを公表しているものの、次々にロースタリーを増やしていくというよりは、他の店舗とは異なる特別な店舗と位置づけている。

開店が2018年ということで、店舗の詳細は明らかになっていないものの、提供する商品は通常のスターバックスとは異なり、店舗内でローストした豆を使ってコーヒーを提供する。価格帯も通常店舗とは異なり、希少性の高い豆を使うこともあるため、高額商品が登場する可能性もあるという。

米国ではシアトルの店舗によって、通常店舗では打ち出せない価値をアピールすることにつながった側面もあるというから、中目黒にできる店舗で狙うのも同様の効果だろう。

群雄割拠のコーヒー市場で新展開の狙いは

今年で日本進出20周年となるスターバックスは、新しいタイプのコーヒー文化を日本に持ち込んだ企業であることは間違いない。しかし、同様のコンセプトを持った競合店が増えていることに加え、コンビニエンスストアの低価格コーヒー、ブルーボトルコーヒーに代表されるサードウェーブと呼ばれる新たな競合店の登場と、スターバックスを取り巻く環境は厳しいものとなっている。

日本上陸20周年を迎えるスターバックスも、うかうかはしていられない市場状況

しかし、記者会見の中でシュルツ氏自身からビジネス的な狙いが言及されることはほとんどなかった。

むしろ、ビジネス的な観点を否定するような次のようなエピソードが本人の口から語られた。

“日本では成功しない”専門家の分析から約20年

「1996年に日本にスターバックスをオープンする1年前の1995年、まだスターバックスの店舗が北米以外には存在していなかった頃の話です。『どうすれば日本市場で成功することができるのか?』をテーマに、日本の有名なコンサルティング会社に調査をお願いしました。どんな市場調査の結果が出るのか、どうすれば成功することができるのか? 私はその答えを大変楽しみにしていました。ワクワクしながらコンサルティング会社のプレゼンを聞くと、彼らはこう言ったのです。『シュルツさん、大変申し訳ありません。日本ではあなたの会社は成功しません』。彼らが成功しないとした理由は大きくは次の二つでした。一つは当時の日本ではコーヒーを飲む店で禁煙は馴染まないということ。もう一つは、『シュルツさん、日本人はコーヒーを飲みながら歩きませんよ』ということでした。現在は、何百万人の人がスターバックスの白いコーヒーカップを持って、歩きながら飲んでいます。しかし、1995年時点では、『日本人には馴染みません。別のマーケットを探した方がいい』と有名なコンサルティング会社に宣言されたのです」

コンサルタントからの絶望的な指摘に、シュルツ氏は逆に奮起したようだ。

「それでも日本に進出し、成功することができれば我々のコーヒーの質の良さを証明できると思ったのです。マネージャーには、『お客様に応えることができるような店を作ろう』と言いました。美しい店を作り、お客様の期待に応えることで、コンサルタントが言っていたことが間違いだと証明したかったのです」

実は会見の冒頭でシュルツ氏は、日本で1号店を開店した当日のことをこう振り返っていた。

開店当日は真夏の暑い日。暖かいコーヒーを提供する店舗の開店日としては必ずしも好条件とはいえないお天気だったという。「朝、6時に準備をして第一号店の銀座店に向かうと、そこには店を取り囲むほどたくさんのお客様が並んでいました。私は通訳の人に、エキストラを雇ったのか? と尋ねたほどです。一番先頭に並んでいた男性のお客様がダブルトールラテを買われているのを見て、我々には成功のチャンスがあると確信しました」

この発言、コンサルティング会社の調査で日本市場での成功を全否定されたことを念頭に置くと、多くの人が並んでいる様子を見てシュルツ氏は心の底から喜び、ホッとしたのだろうと想像できる。

そしてコンサルタントによる市場分析よりも、自分達が信じる訴求ポイントを、ユーザーに全面にアピールすることの方が日本市場開拓につながると考えたのではないだろうか?

「 客=マーケティングではない」との信条

この日の記者会見でシュルツ氏は、「お客様=マーケティング施策ではない」と言い切った。「我々がやってきたことは全てカップの中にある」と提供するコーヒーこそ、自社の戦略そのものだと説明した。

もちろん、スターバックスが市場を全く分析していないわけではないだろう。彼らのビジネスはエンドユーザーに直接接している。自分達の戦略が顧客に受け入れられたか、否かは即売上に跳ね返ってくる。提供するコーヒー、その販売状況こそが自分達の施策そのものとシュルツ氏は言いたかったのではないか。

2018年にオープンする中目黒店。周辺にはライバルが……

そう考えると、新たに開店する中目黒のロースタリーはまさにスターバックスのコーヒーがどれだけ消費者に受け入れられるのかが試される店舗だといえる。同じ中目黒にはサードウェーブでの代表選手であるブルーボトルコーヒーが先に店舗をオープンし、ドトールコーヒーも新業態店をオープンするなど、コーヒーショップは過当競争といえる環境となる。

その意味でシュルツ氏の「カップの中にある」戦略が顧客に届くのか否か、スターバックスの今後の日本での展開を左右することにもなる重要な新しい布石となりそうだ。

13年かけて製品化、ロボット掃除機に後発参入する日立の自信

13年かけて製品化、ロボット掃除機に後発参入する日立の自信

2016.10.26

日立アプライアンスは、ロボット掃除機「minimaru(ミニマル)」を発表した。日立にとっては初めてのロボット掃除機となるが、すでに競合各社が製品を投入しており、この分野では後発となる。それだけに会見でも、「後発であることを承知で、この段階で参入した理由は?」という質問が飛んだ。果たして日立アプライアンスがこだわったのはどこだったのだろうか。

13年かけたクオリティ

「我々は掃除機のプロ。中途半端な製品を発売するわけにはいかなかったのです」。10月17日に行われた日立アプライアンスのminimaruの記者会見。意外な事実が明らかになった。

ロボット掃除機「minimaru」

minimaruは、日立アプライアンスにとって初めてのロボット掃除機製品だ。だが、ロボット掃除機を記者会見で取り上げたのは初めてではなかった。「実は2003年にもロボット掃除機に関する説明を行ったことがあります。しかし、その時点では技術開発を行っただけでした。実際に発売する製品を発表するのは今回が初めてになります」(日立アプライアンス・商品戦略本部ユーティリティ商品企画部 部長代理 白河浩二氏)。

今回の製品発表をさかのぼること13年前に技術発表を行っていたのだ。しかも、「13年前の時点でも、今回と同じコンセプトである狭い場所で掃除をするという説明をしていました」という。

なぜ、技術発表から製品を実際に発売するまでに13年の時間を要したのか。

会見終了後、日立アプライアンスに確認すると、返ってきたのが「我々は掃除機のプロです。中途半端な製品を発売するわけにはいかなかったのです。満足できる掃除機を開発するために、部品から開発を行い、満足できるクオリティとなったことで発売に踏み切ったのです」という発言だった。

確かにminimaruの製品発表の中でも、掃除機としての性能がたびたびアピールされた。本体につけられたサイドブラシによってゴミを集め、換気の流れでゴミを吸込み口へ送る。前面にはダブルかき取りブラシがついていて、ついた回転ブラシでゴミをかき上げ、その前についているかきとりブラシでカーペット上の綿ぼこりもすっきりとかき取る。取ったゴミを吸引するパワーを支えるのが、この製品のために新たに開発された「小型ハイパワーファンモーターR」だ。

minimaruの裏面

狭い場所を満足に掃除するために

minimaruの特徴は製品名とおり、小型であることだ。サイズは幅25センチ、高さ9.2センチ。製品が小型になると吸引力を支えるモーターのサイズは当然小型になる。吸引力もそれにともなって落ちてしまうことにならないために、今回、新しいファンモーターが開発された。小型、軽量でありながら高効率という新しいモーターで、「モーターの日立」とアピール。モーターの開発力に強い自信を持っていることがうかがえる。

他社製品との大きさの比較をすると、小さいことで狭いところに届きやすいのがわかる!

今回、製品を発売するにあたり、日立アプライアンスではロボット掃除機購入を検討している人、すでにロボット掃除機を持っている人の両方にアンケート調査を行った。そこで明らかになったのが、購入前の人にとっても、購入後の人にとっても掃除機としての機能への不安だった。

購入前の人へのアンケートで最も多かったのが、「どの程度ごみが取れるのか」だった。複数回答であるが78%の人がこの点を不安に思っている。吸引力を強化したのは、まさにこの部分の不安を払拭することを狙ったものだ。

購入後の不満としては、同じ掃除への不満でも、「部屋の隅の掃除」が2番目に、「イスの脚周りなどの狭い場所の掃除」が3番目に、「壁際の掃除」が5番目の不満としてあがっている。購入後は、より具体的な場所への不満としてあがっている。

「小さい」からこその機能を備えている

この具体的な場所への掃除の不満を解消するために、minimaruは小さなきょう体を実現した。直径サイズが小さいことで、これまでのロボット掃除機では届きにくかった部屋の隅に届きやすくなる。テーブルやイスの脚周りに対しても、検知機能を搭載し、その周りを周る制御機能を搭載。ロボット掃除機は掃除しにくく、ホコリもたまりやすい脚周りを掃除する。きょう体を小さくしてイスの下など狭い部分を掃除することができる上、細い脚周りを回る制御機能によってこれまでロボット掃除機には掃除することが難しかった、家具周りも掃除する機能を搭載した。

狭いところでも入れる

掃除をする際の動きについても、きょう体が小さい分、掃除ができる範囲が小さくなるという弱点を、素早い動きで通過回数を増やすことでカバーする。さらに毎秒250回の高速センシングによって状況を判断するminimaru AIを搭載し、周囲の状況を判断して、状況に合わせた100以上の行動パターンから最適な掃除パターンを選択する。最初はゴミのたまりやすい隅や壁際からスタートし、部屋全体を素早く、丁寧に掃除するプログラムを搭載した。

ゴミがきちんと取れていることを実感するために、ダストケースはゴミが見えやすい透明のケースを採用。充電時、自動的にダストケース内でゴミを圧縮する機能も搭載。約2週間分のゴミをためることができ、圧縮している分、ゴミがまとまっていて捨てやすいというメリットにもなっている。

ゴミが見えやすくて、圧縮しているから捨てやすい

ロボット掃除機に対する期待としては、「外出中に掃除が終わっていれば便利なので」、「掃除機をかける時間が少ない」、「体力的に掃除をすることがおっくうになってきた」など、掃除にかける手間を減らすことだ。ところが実際にロボット掃除機を導入した人は、「床に置いてあるものを片付ける」、「イスをテーブルの上にあげておく」など、ロボット掃除機を使うための準備をしているとアンケートで回答している。

minimaruが小さいきょう体で、掃除能力にこだわった開発を行ったのは、この「ロボット掃除機を使うための準備をしないでも使える」を狙ったものとなる。

ロボット掃除機市場は形成段階

果たしてこうした狙い、そして部品から新たに開発して作った掃除機としての機能がどれだけ伝わるのかがminimaruが成功するか、否かの鍵となる。イスや家具の下にも入っていって掃除することができることを狙ったきょう体の小ささは、見た目だけで伝わるが、掃除機としての強力さについては見ただけでは伝わらない。日立アプライアンスでは、「CMと店頭でのアピールを大々的に行っていくことで、機能の特性を知って貰う予定」と話している。

「ロボット掃除機の市場規模は5年前に比べれば2.3倍に拡大している。今後もこの市場規模は伸びていくだろう」(日立アプライアンス 取締役 家電・環境機器事業部長 松田美智也氏)。日立アプライアンスの調べでは2015年度の市場規模は20万4000台。掃除機全体の中でロボット掃除機が占める割合は4%とまだ小さいものの、次回購入したい掃除機のタイプとしてはサイクロンタイプ、スティックタイプに次ぐ3位となっている。

こうした市場調査の声を見ると、ロボット掃除機は、買ってみたいと考える人が増えている段階で、買ってみたいと考える人の懸念、買ったものの不満に感じている機能的懸念をどれだけ解消することができるのかによって、ロボット掃除機の市場規模拡大がかかっているといえるのではないか。

ロボット掃除機市場は現段階では市場形成段階であるという実情を考えると、日立アプライアンスは競合企業からシェアを奪うことよりも、これまで機能面を検討した結果ロボット掃除機購入を思いとどまっていた人、以前、購入したことがあるが機能に満足しなかった人をどれだけ獲得できるのかがポイントとなってくる。

同社では月産5000台、市場でのシェア10%を目標として掲げている。これを実現するか否かは、機能面の特性をどれだけ多くの人に伝えていけるかにかかっているのではないだろうか。さらに、実際に利用した人が、「ロボット掃除機に感じていた不安、不満が解消できた」と納得できる製品に仕上がっているのか、まさに機能が評価されるかの勝負である。

先の先まで読んだ富士通、IT使ったスポーツ支援が一挙両得なワケ

先の先まで読んだ富士通、IT使ったスポーツ支援が一挙両得なワケ

2016.10.12

スポーツの世界でIT利用によるデータ分析が盛んに取り入れられるようになってきている。東京五輪に向け企業はどのように自社ビジネスを関連させていけるだろうか、五輪の先を見据えたチャンスを探している中、富士通は自社の強みを生かした支援をスタート。その先にはなにを見据えているのか。

富士通がバスケットをICTで支援

富士通は、日本バスケットボール協会(JBA)、プロリーグを開幕したばかりのジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)とパートナー契約を締結し、バスケットをICTでサポートする。最近ではICTによってスポーツを支援することは決して珍しいことではない。だが、同社の狙いそれだけにとどまらない。

9月、富士通と日本バスケットボール協会、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグとのパートナー契約締結式

9月に行われた会見の席上、富士通の山本正已会長は、「安倍首相が掲げるGDP600兆円の実現に向け、スポーツ産業の市場規模を現在の5.5兆円から15兆円に増やすという目標が掲げられている。富士通もそれを実現するお手伝いをすることを想定したパートナー契約」と宣言。実は2020年の東京五輪のゴールドパートナーである富士通は、以前からスポーツ担当の役員を置いて、スポーツ支援に取り組んでいるのだ。

今回、JBA、B.LEAGUEと結ばれたパートナー契約で、富士通は次の3つを提供する。

1.デジタルマーケティングプラットフォームの提供

2.スポーツIoTの実現

3.スマートアリーナの実現

1のデジタルマーケティングプラットフォームとは、これまでチームごとに個別管理されていたプレイヤーの戦歴、キャリアなどの情報を一元管理し、強化選手や日本代表選手の選出のために活用することを目的として掲げている。

2のスポーツIoTは、選手の動き計測することで、選手の動きを可視化し、計測したデータを選手育成などに活用していくものだ。海外でも同様の育成方法が取り入れられているが、「リアルタイムの3Dセンシング技術は世界でも例をみない技術。バスケットボール以外の競技にも有効で、体操競技では採点でも活用できる世界でも注目されている技術」だと同社の山本会長は会見でアピールした。

3のスマートアリーナは、バスケットの試合を行う会場にWi-Fiを導入、多言語対応などの強化をはかり、会場でストリーミングなどのサービスを楽しむことができる環境作りを支援していく。

1、2はデータ収集・分析を目指したものであり、3はマーケティング活用を狙ったものだ。まさにスポーツとICTとの関わりによって生まれる王道といえる効果を目指した施策だといえる。同社にとってはこれまで培ってきたICTのノウハウをスポーツ分野に活かす機会となる。

ただ、同社の狙いはこの王道の効果の先にある。どんな効果を生み出すのか。

ICTのスポーツ利用は世界的トレンド

スポーツのICT活用は、世界的なトレンドとなっている。主な活用方法としてあがるのが、データを活用することによる「選手育成」と、顧客を呼び込むための「マーケティング」での利用である。

「選手育成」のためのデータの収集・分析は、成果も上がっている。例えば、日本の女子バレーボールチームの躍進はデジタルデータとそれを分析するアナリストの存在によってもたらされたことは、広く知られている。ドイツではナショナルチームが選手の身体にセンサーを取り付けて計測しており、ワールドカップでのドイツの強さの要因の一つとなったと言われている。

ビジネスの世界では、ビッグデータ、ディープラーニング、AIによるデータの収集・分析がトレンドとなっているがスポーツの世界でも同様のトレンドが起こっているといえよう。

また、Twitter、Facebookなどソーシャルメディアを活用したファンへのアピールは野球、米国のプロバスケットリーグなどですでに行なわれているが、新たな顧客を呼び込むための「マーケティング」にICTを活用することもスポーツ界のトレンドである。

ICTの活用によって競技場を訪れるファンの満足度をあげるとともに、会場に足を運んでいない見込み顧客の獲得、それまでそのスポーツに触れた経験がない新規顧客を獲得するような施策にICTを活用できないのかという期待の声がスポーツ界からあがっている。

会見に臨む富士通の山本会長

富士通の視線の先にあるものは五輪

ただし、同社の狙いはこういった王道の施策にとどまらない。同社が狙うのが2020年に開催される東京五輪に向けてのスポーツ分野での実績である。先に述べたように会見の際、同社の山本会長は「地域創生とからめながら、スポーツ市場を現在の5.5兆円から15兆円へと拡大する安倍総理の戦略に協力したい」と政府が進めている施策と連携する意向を強くアピールした。

同社がゴールドパートナーとして行うこととして掲げているのが、大会運営のサポートと選手の育成である。今回のJBA、B.LEAGUEとの提携によって目指す方向と重なる部分も多く、同社が今回の提携を東京五輪とからめた戦略的なものと捉えていることがよくわかる。

通常、ITベンダーがスポーツ支援を行う場合、実際のビジネスとして見込めるというよりも宣伝などを目的とした場合が多い。しかし、2020年の東京五輪というゴールがはっきりしており、政府も力を入れている。スポーツがひとつのビジネスになる可能性が高いのだ。

自治体へのビジネスチャンスが広がる

先に述べたスマートアリーナの実現では、B.LEAGUEに参加するチームの拠点となる体育館の整備を行うことになる。体育館はチーム所有、チームの所在地の自治体所有など状況は異なるものの、日本全国に立地する。同社は日本の全都道府県に拠点を持ち、各自治体向けのビジネスを行っている。現地での対応が必要な体育館の整備を行う企業として、適したパートナーなのである。

しかも、体育館は地震、台風などの災害が起こった際には住民が避難する拠点ともなる場所で、「Wi-Fi導入といった整備を行うことは災害の際も有効」と会見の際、富士通側はアピールした。

体育館はバスケットボールチームの所有、自治体の所有など形態はそれぞれだというものの、災害時の避難拠点としての活用を想定するとなれば、所在地である自治体との協議が不可欠となる。

つまり、スマートアリーナの実現は、所在地である自治体との接点を増やすことにつながるのである。これはまさに「地域創生と共にスポーツ振興の実現」にかなったものであり、自治体向けビジネスの強化につながることとなるのではないか。元々、自治体向けITでは強い同社だが、その強い分野でビジネスを伸ばしていくきっかけにすることも可能なのだ。

工場作業における事故防止への糸口にも

技術面では3Dレーザーポインターを活用し、プレイ中の選手の動きを数値化する3Dセンシング技術は、「世界的に見てもトップクラス」と同社はアピールしている。

3Dセンシング技術は、先に述べたように人間の動きを数値が出来るため、より効率的な動きとはどんなものか、見直しを行う際や、事故防止などを考える際にも有効活用できるとしてすでに活用が進められている。そのため、これまでIT化されてこなかった工場での作業の動きなどを見直すことにも活用できると言われている。スポーツの世界での実績は、こうした工場など現場作業の改善を行う際の糸口として活用することも可能なのだ。

日本のバスケットボールで、女子はリオ五輪に出場し、好成績を残した。ところが男子チームは40年間五輪への出場機会がないという状況にある。今回、B.LEAGUE誕生、同社が提供した支援策によってチームが強化され、3Dセンシングによる選手の状況把握によって選手の強化、日本チームの強化が実現すれば、同社にとっては大きな成果となるだろう。

日本だけでなく、世界にアピールできる実績となる可能性もある。日本のバスケットボールが強化され、世界でもアピールできるような強豪チームへと成長していけば、富士通にとっても世界でのビジネスにつなげる大きな武器となるのではないだろうか。