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コヤマタカヒロ

ミラノのデザイン展示会で注目を集めた日本企業の新提案

ミラノのデザイン展示会で注目を集めた日本企業の新提案

空気の可視化に挑戦したダイキン

素材の新たな可能性を見せた住友林業とINAX

話題のパナソニック 透過ディスプレイの展示も

4月9日よりイタリア・ミラノで開催された「ミラノサローネ国際家具見本市」と「ミラノデザインウィーク2019」。そこには、数多くの日本企業が出展していた。

ミラノで開かれたこのデザイン系のイベントは、CESやIFA、CEATECなどテック系の展示会のように、最新技術にフォーカスしたものではない。各社の展示では、コンセプチュアルな提案や、企業としての哲学をインストラクションとして発表するものが多く見られた。

今回は、日本企業による代表的な展示をいくつか紹介したい。

多くの日本の企業が出展していたデザインウィークの「SuperDesign Show 2019」

ダイキンは空気を可視化すると言う試みに挑戦

昨年に続き、4年目の「ミラノデザインウィーク」への出展を行ったダイキン。エアコンをはじめとする空調メーカーとして世界的にも知られ、実は年商2兆円のうち、約8割を海外で売り上げている。

欧州や中国など世界各国で事業を展開しているが、その中でも強いのが開催地であるイタリアだ。「ミラノデザインウィーク 2019」では、現地法人のダイキンイタリアが中心となり、同社の哲学を伝えるためにインスタレーションの展示を行っていた。

ダイキンとnendoがコラボしたインスタレーションには、常に行列ができていた

2019年のダイキンは昨年に引き続き、佐藤オオキ氏を中心とするデザインオフィス「nendo」とコラボレーションした展示を行っていた。今年の展示タイトルは「breeze of light」。テーマは「空気」だ。実際に会場となった「TENOHA MILANO」を訪れ、体験してみた。

真っ暗な廊下を抜けた後、目の前に広がったのは約32m×18mの大空間。そこには偏光板で作った約1万7,000本の花が並んでいる。来場者がその中にある小道を進んで行くと、天井にセットされた115灯の照明の光がゆっくりと動く。すると、それを受けた偏光板の花が作り出す光と影も動き出す。

空間内に入ると静寂の中にふわっとした空気を感じた。それは空気を視覚的に感じていたためだと後でわかった

まるで風が吹いているかのような感覚にとらわれるが実際には吹いていない。偏光板という存在を通して光が空気を感じさせてくれているのだ。会場の奥の方には"もや"をかけており、空間の広がりも感じられるようになっていた。

偏光板で作った1万7,000本の花。花が薄くなったり濃くなったり、影ができたりを繰り返す

ダイキンのインスタレーションで試みられていたのは「空気の可視化」だ。実際に空間の中で風は吹いていない。しかし、光と影がそれを感じさせてくれる。今そこに空気があると自然に認知できるのだ。

ダイキンはエアコンや加湿器、空気清浄機などを取り扱い、温度や湿度を調整して、快適な空気を作り出そうとしている会社だ。今回の展示は、空気を可視化し、デザインしていくというダイキンの哲学を表したものだった。

木材を活かす住友林業、水と人の文化をみせたINAX

住宅メーカーの住友林業と、住宅設備を取り扱うLIXILグループのINAXの展示を紹介したい。両者に共通するのは、それぞれ「木材」と「水」という、事業の根幹となる素材をテーマにした展示を行っていたことだ。

今回がミラノデザインウィークへの初出展だったという住友林業は、(以下で挙げる)木材が持つ7つの効能を紹介していた。

(1) 思考力を持続させる
(2) 緊張を和らげ、集中力を持続
(3) 脳を活性化する水平の木目
(4) ストレスを溜まりにくくする
(5) 時の流れを短く感じさせる
(6) 目に優しい反射光
(7) 記憶の想起

会場には、これらの効果・効能を実際に形にした木製プロダクトとして、卓上パーテーションと天蓋を出展していた。住友林業によると、例えば病院の待合室などにこの天蓋を配置することで、待ち時間を短く感じられるようになり、ストレスを下げる効果が期待できるという。

ウォルナット、オーク、チーク、チェリー、スギ材で制作された天蓋。確かにこれが頭上にあると不思議な優しさを感じる

また、パーテーションは木目の方向にも意味があり、縦向きの場合は集中力が増し、横向きの場合はリラックス効果が得られるといい、設置する空間によって使い分けられるとしていた。ともに、木材が持つ可能性を感じさせてくれる展示だった。

様々なサイズ、形状のパーテーションを用意。仕事場でも使えそうだ

一方、バスルームなどを手掛けるINAXのブースは、「The Rituals of Water」(水の文化)をテーマに、同社の歴史的な記録や製品の数々を紹介するとともに、ショートムービーなど様々なアプローチでINAXの考える水の世界観を提案していた。

明治時代に作られた染め付けの便器。トイレへの美意識の歴史がわかる

さらに会場ではアジア各国に販売を予定しているトイレ、浴槽、洗面器、そして金具やタイルなどで構成された新コレクション「S600LINE」と「S400 LINE」のお披露目も行っていた。「日本の美意識を現代のスタイルで取り入れた」というプロダクトになっており、新しさと懐かしさの両方が感じられるものに仕上がっていた。

新作の「S600LINE」のバスタブ。日本的な美しさを感じられた

このほかにも日本の多彩な水の文化を表す展示として、日本の水景をモチーフに様々な仕上げが施された薄型洗面器などのプロダクトも紹介していた。

日本各地をイメージしたカラフルなセラミック製の薄型洗面器「CERAFINE」

パナソニックは透過OLEDをひっそりと公開

今年のミラノサローネにパナソニックは参加していなかったが、スイスの家具メーカー Vitraのブースで、パナソニックが同社と連携して開発した透明ディスプレイを見ることができた。

電源オフでは背景が透けて見え、電源を入れると映像が映るパナソニックの透明テレビ

パナソニックの透明ディスプレイは、今年の3月に中国・上海で開催された「AWE 2019」でお披露目されていたが、ミラノで展示されていたものはデザインが少し異なり、周囲を木の枠に囲まれた姿で登場。注目度は高く、多くの来場者が足をとめて透明ディスプレイに見入っていた。

日本でよく知られた企業の展示を紹介してきたが、いずれも国内の展示会で見せる顔とは一風変わったものばかり。各社のデザイン理念が体験できるものとなっていた。ここで披露された展示や製品が、国内で「逆輸入」的に注目を浴びることもあるため、今後の展開にも期待したい。

ソニーがセンサーで生み出す「ロボットと共生する世界」

ソニーがセンサーで生み出す「ロボットと共生する世界」

ソニーがイタリア・ミラノでユニークな体験を展示

実は「センサーの会社」といえるソニーの見せる未来とは?

センサーで、人とロボットの共生する世界を表現した

イタリア ミラノで4月9日より「ミラノデザインウィーク 2019」が開催された。これはミラノサローネ国際家具見本市の開催に合わせたデザインのイベント。ミラノ市内のいたるところで様々なデザイナーや企業が思い思いの展示を行うものだ。

そこへソニーが、人とロボットが共生していく、これからの社会についてのインスタレーションを出展した。今回は、ソニー株式会社クリエイティブセンターのアートディレクター前坂大吾さんに解説してもらいながら、インスタレーションを拝見した。

最初に理解しておきたいのが、「現在のソニーの主要製品が何であるか」ということだ。それはデジタルカメラであり、スマートフォン、そしてスマートフォンに搭載されている小型のカメラセンサーそのものだ。さらにはセンサーの塊だというペットロボット「aibo」や、自動車に取り付ける車載用センサーも手がけている。

ソニーを代表するプロダクトには様々なセンサーが含まれている。それがこれからのロボットとの共生を実現していく

つまり、今のソニーは「センサーの会社」なのだ。そう考えて「Affinity in Autonomy(自律性における親和性)」を全体のテーマとするインスタレーションの会場に入っていこう。

ソニーがセンサーで見せたかったもの

会場は大きく分けて5つに分かれていた。1つ目のキーワードは「Awakening<意識>だ。入り口からまずは暗い部屋に入り、そのまま暗い廊下を通過すると、壁には僅かに光が映る演出が出迎えてくれる。移動している人を認識して行動を光として表示している。入り口近くはほんのわずかな光だが、出口に近づくにつれて光がだんだん大きくなり、手足の動きに追随してくる意識がよりはっきりしてくるイメージだ。暗闇の中でしっかりと人をセンシングしていく。

2つ目の部屋に入る。部屋には透明の大きな球体が設置してあり、その中を先端が光る振り子が自由に動いている。キーワードは「Autonomous<自律>」。球体の中にある振り子は大きく揺れながら、球体の外にいる人を認識し、追随して動く。センサーが人を認識することにより、振り子はまるで意思を持ったかのように動き始める。多くの人が球体を囲む中で、振り子が自ら意志をもって自分を見つけてくれたように感じたとき、不思議な感覚を体験できた。

大きなかごの中、振り子が人を認識して動いている。そこには振り子の自我すら感じられる

3つ目の部屋では何体もの球体のロボットが床に転がっている。キーワードは「Accordance<協調>」だ。近寄ろうとするとこの球体たちも近づいてきて、そばでふわふわと揺れてくれる。その姿に癒やされ、立ち上がると球体たちは離れていった。球体ロボットそれぞれに異なった個性があり、異なった行動をとる。それでいて集団としてはまとまりのある行動にも感じられる行動を見せる。

ゆらゆらと揺れながら近づいてくる球状のロボット。素早く近づく子、距離を保つ子など、個性の違いにかわいらしさを感じられる

4つ目の部屋では見慣れたロボットに出会った。昨年発売された「aibo」だ。キーワードは「Affiliation<共生>」。aiboには様々なセンサーが内蔵されており、それらを元にaiboは8つの感情を持つようになっている。ここでは、そのときaiboが感じている感情を可視化し、部屋の床面にグラフィックで表示していた。

例えば、多くの人が突然現れたときは恐怖心(Fear)のグラフィックが現れ、優しくなでてもらうと喜ぶ(Joy)。叩かれると怒り(Angry)、びっくりしたり、寂しがったりもする。それらはセンサーが生み出すものではあるが、生き物が表す感情表現と変わらないようにも感じられた。ロボットが感情を表現したときに、人とロボットは自然に共生できるようになっていくのかもしれない。

叩かれる怒りの感情を明らかにしたaibo。新型ではこの感情の履歴により、性格が変わっていくという

さらにこの部屋では、ロボット視点の映像も投影して見せる試みも行っていた。人を認識し、物や街を認識していく様子をロボットの視点から見ることができる。ロボットはaiboだけでなく、さらに小さな昆虫サイズだったり、空に浮かぶドローンだったりする。それらに搭載されたセンサーが、人間とは違う視点で世界を見ているところが楽しめた。

ドローンに搭載されたセンサーが、上空から人を認識しているところ

そして最後に、5つ目の部屋のキーワードは「Association<連帯>」。部屋の中ではキューブ状のロボットが動き回っており、人を認識するとそばに寄ってくる。キューブの天面にはペンが刺さっており、ディスプレイに表示されたアンケートに答えるようお願いしてくる。この部屋ではロボットに役割が与えられ、社会インフラの一部になっていることが示されているのだ。

キューブ状のロボットが近づいてきて、アンケートの記入をお願いしてきた。天面はその人の身長に合わせて自動的に昇降する仕組みだ

ロボットと共生する世界は思ったより近い

前出の前坂さんは、今回のソニーのインタラクションの中心に、あえてロボティクスを選んだ理由として、今年が初代AIBOの発売から20周年の節目であることと、それが昨年「aibo」として復活したことを挙げた。

今年が元年といわれる5G時代は、同時にセンサーの時代でもある。5つの部屋を抜けた出口には、インタラクション会場全体をセンシングした映像が流れていた。さっきまで自分がいた空間がセンサーによって事細かに検知されていることが可視化されていた。

最後に、イベントスペース全体に数多く設置されたセンサーが、人とロボットの動きを捉えているところが見られた

真っ暗な1部屋で目に光を感じ、2部屋目で人間は振り子の周りに並んでセンサーから認知されることを望んだ。さらに3部屋目からは、意思を持ったロボットの動きを見た。様々なセンサーによって生命観を備えたロボットと共生する世界は、もはや未来ではない。そう感じさせるインストラクションだった。