「カレー沢薫」の記事

カレー沢薫

カレー沢薫(かれーざわかおる)

漫画家・コラムニスト

1982年生まれ。デビュー作は「クレムリン」(2009年)。マイナビニュースでの連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。(Twitterアカウント: rosia29)。

著書は、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~2018年)、コラム集「ブスの本懐」(2017年)、「やらない理由」(2017年)、「カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~」(2018)など多数。切れ味鋭い作品を次々と生み出している。
“夢追い人”が500万人押し寄せた「ZOZO前澤社長のお年玉」

カレー沢薫の時流漂流 第24回

“夢追い人”が500万人押し寄せた「ZOZO前澤社長のお年玉」

2019.01.21

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第24回は、年始のツイッターを騒がせた「ZOZO前澤社長のお年玉」

100万円もらったか?

もらったというなら帰れ、とっとと夢とやらでも叶えに行け。

誰にもらったかというと、前にも当コラムで取り上げたZOZOTOWNの前澤社長である。

先日、前澤社長がお年玉と称し、自らのツイッターで「このアカウントをフォローし、このつぶやきをリツイート(RT)した人から抽選で100名に100万円、総額1億円を個人的にプレゼントする」という企画を行ったのだ。

私もこのキャンペーンに参加した。普通に100万円が欲しかったからだ。

このように何も考えずに参加した者もいれば、苦言を呈する者、前澤社長の真意を探ろうとする者、そもそもツイッターの規約や法律に違反しているのではと指摘する者など、その反応は様々だった。結局、当該のツイートは500万を超えるRTという世界記録を達成。前澤社長のフォロワーも500万人増えたそうだ、

何故、前澤社長がこんなことをしたかというと、「金でケツを拭き飽きたからこのトイレットペーパーを誰かに恵んでやる気になった」という気まぐれかもしれないし、本人の言う通りだとしたら、「人に夢を与え、夢を叶えるきっかけにしてほしい」ということになる。

しかし、「売名」つまり「宣伝効果」を狙ったものだろう、というのが大方の見解で、もし本当にそれが目的だったとしたら大成功といえる。ツイートは世界で一番RTされたし、企画終了後にフォローを外した人も多いと思うが、フォロワーだって企画前よりは確実に増えたはずだ。

企画に参加していない人でも、「ま、俺は参加しないんですけどね?」と、誰にも聞かれていない「謎の不参加表明」をSNSでして、その理由を語ったりしなかっただろうか。前澤社長の企画をダシにした自己アピールのはずが、それ自体が前澤社長の宣伝になってしまっているのだ。

また、すでにこのような「前澤100万円企画について」の記事も乱立してしまっていると思う。もはや何をしても、前澤社長が「計画通り」と八神月の顔になっている図しか思い浮かばない。

「前澤社長」と「人妻」の共通点

このように、新年早々「お前は何と戦っているんだ状態」に突入してしまった人も多いと思うが、それはツイッターの住民として平常運転なので「今年もよろしくお願いします」という感じだ。

ではこの前澤社長の行為は規約違反に当たらないかというと、ツイッター社はすでに「別にいい」と言ってしまっているらしい。

ただ、前澤社長がこの企画を始めるや否や「偽前澤」が多数現れた。徳川家康だってここまで影武者はいなかっただろう。単なる愉快犯もいれば詐欺目的の者もおり、実際に被害が出たかは確認していないが、間接的にこの企画が新しい犯罪を生み出したと言えなくもない。

しかし、ツイッターの治安の悪さは今に始まったことではなく、「ツイッターランドは常に食うか食われるか」という常時マッドがマックスなので、何を今更、という感じはする。

確かに、「このアカウントをフォロー&RTしたら100万あげます」なんて、よく考えれば「今夜旦那がいない人妻です。3000万円もらってください」というスパムメールと大差ない。

それが、「ZOZOTOWNの社長で、剛力彩芽さんとつきあっている人」の名前で発信されているというだけで信用し、何も考えずフォロー&RTしてしまうというのは、「夢はあるけど騙されやすい人」と思われても仕方がない、と何も考えずに参加した私は分析する。

このような、広告代理店を通さず「消費者に直接現ナマを与える」という宣伝方法は実際効果があり、消費者的にもメリットが大きいが、「危険性もある」ということは覚えておいた方がよいだろう。

ちなみに、今回の100万円企画で実際100万当たったのはどういう人かというと、俳優やYoutuber、放送作家など表舞台に立っている人が散見され、主に100万円でどんな夢を叶えるか具体的に書いている人に当たっているため、「明らかに人を選んでいる」「フォロー&RTだけが応募条件じゃないじゃないか」という怒りの声も上がっているようだ。

だが、そもそも前澤社長が私財でやっているとのことなので、抽選に「前澤ルール」を適用されてもあまり文句は言えない。

このように、まさに賛否両論な企画だったのだが、これで前澤社長がどれだけ儲けようとこちらが損をするわけではない。実際、この企画でZOZOの株が上がり前澤社長の資産が大分増えたらしい。

すでに前澤社長は「第2弾」もほのめかしているので、私も今度は「100万円分ガチャを回す」という夢をしっかり書いて参加してみようと思う。

ただ、次回は「それが本当に前澤社長のアカウントなのか」確認してから参加することをお勧めする。

ズルズル後ろ倒しになった「新元号の発表時期」

カレー沢薫の時流漂流 第23回

ズルズル後ろ倒しになった「新元号の発表時期」

2019.01.14

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第23回は、ついに決定した「新元号の発表時期」について

1月4日、「新元号の発表は4月1日」に行うと決定したそうだ。つい最近である。

天皇が生前退位すること自体はもう1年以上前から決まっていたし、当初は「新元号発表は新天皇即位の半年前ごろ」と言われていた。つまり、昨年11月頃には新元号が発表されているはずだったのだが、いつ発表するかさえ、結局は年を越すまで決まらなかったのである。

何故そんなに延びてしまったのか、そこまで新元号を決めるのに揉めたのか。

確かに元号は、これから我々が数十年間も日常生活で使っていく物である。「高輪ゲートウェイ元年」とかでは恥ずかしいし、何より長い。これでは、エクセルで言うと、画面ではちゃんと見えているのに印刷すると「#####」になっているという、事務職を一度は破壊神に変えるあの事故が頻発してしまう。

しかし、今回の新元号発表の大幅な遅れは、それ自体を決めるのに揉めたわけではなく、いつ発表するか、またいつ改元するかで、内閣の中で意見が分かれたのが原因と言われている。「できるだけ早く発表して現場の混乱を抑えよう派」と「伝統を重んじた方が良い派」が割れてしまったのだ。

「前回」と「今回」、「伝統」と「実務」

ところで、元号が昭和から平成に変わった時のことを覚えているだろうか。平成生まれは帰っていい、散れ。

私は当時6歳で、鼻水で袖にパリっとしたノリが効いている保育園児だったのだが、昭和天皇が崩御した時のことはよく覚えている。何故なら、園児が一同に集められ、その時のニュースを見せられたからだ。

今思うと「園長に何らかの思想がある保育園だったのかな」と思わなくもないが、いつもはアニメや人形劇を見せてもらえるのに、突然難しい顔をしたおっさんが難しいことを言っている映像を見せられ、多いに困惑したのをよく覚えている。

そして新元号「平成」が決まった時のことも覚えている。「へいせいだって! へ―せい! 屁だって! 」と笑い転げていた自分を記憶しているからだ。世が世なら不敬罪で斬首だろうが、6歳児の言う事なのでご容赦いただきたい。

このように新元号が何であれ、文句をいう奴は言うし、保育園児は爆笑するのだから、どれだけ時間をかけて考えても、万人を納得させるのは無理なのである。

ここで重要なのは、元号が平成に改められた日付だ。1月7日の早朝、昭和天皇が崩御したとの報があり、同日10時に現天皇が即位。そのあと新元号「平成」の発表があり、1月8日午前0時から「平成」となったのである。

それ以前、天皇が国民の象徴になる前は、元号は天皇が決めるものであり、ひとりの天皇が何回も元号を変えることもあったという。現代だったら、印刷所の社員やシステムエンジニアが一揆を起こしかねない。

何にしても、前例通りに行くなら新天皇が即位してから新元号を発表するのが筋であり、その前に発表しちゃうのは「伝統」を軽んじることになるという、というのが内閣保守派の意見である。

私が今も無職ではなく、事務員をやっていたなら「伝統とかいいから早く決めてくれ」と思うだろうし、事務に使うシステムを作っているエンジニアなら尚更そう思うだろう。

まだコンピューターもろくに普及していなかった昭和から平成に変わる時と今とではワケが違う。「前イケたんだから今回も大丈夫」などということは絶対にないのだ。国民の生活を第一に考えるなら、早めに発表して準備期間を長くとるに越したことはない。

しかし、利便が全てで伝統などどうでもいいとなると、マッドマックスに出てきた武装ババア集団が、ハーレーで土俵に乗り込んでも相撲のルール的にOKとなり、無法地帯化、文化の崩壊につながる恐れもある。伝統が大事という意見も完全に無視はできない。

このように「時代の流れ」と「昔からある伝統」の兼ね合いは非常に難しく、一概に「とっとと新元号発表すればいいのに」とは言えない。だが、ここまで延びてしまったのは、内閣が足並みを揃えられなかったからという「内輪もめ」のせいだ。

そのため、SE界では「俺たちが4月1日から寝なきゃいいんだろ!」という呆れの域に達しているというし、どうがんばってもすでに手遅れなカレンダーや手帳業界は、逆に「もう全社手遅れなんだからいいや」と落ち着きの域に入っているという。

そもそも、現天皇が早めに生前退位を決めたのは、国民の混乱を防ぐ意味が大きかったのではないだろうか。

増税の件といい、もしかしたら、「早めに国民に怒りを通り越させる」というのが最近の政治手法なのかもしれない。

辞める“元気”がない人の代わりに動く「退職代行サービス」

カレー沢薫の時流漂流 第22回

辞める“元気”がない人の代わりに動く「退職代行サービス」

2019.01.07

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第22回は、辞める人と会社の間に入る「退職代行サービス」について

去年、本人に代わって会社退職手続きをしてくれる「退職代行サービス」が話題になった。

このサービスのメリットは、「人生で勇気のいることベスト3」に入るであろう、憂鬱で仕方がない「会社への辞意の連絡」を代わりにやってくれるところにある。その後の退職手続きもすべて間に入ってくれるため、「会社と直接関わらなくて済む」という。

会社で辛い状況にある人間にとって、これは福音とも言えるサービスである。「いざとなったらここに依頼しよう」と思うだけで、かなり気が楽になるのではないだろうか。

このように「良いサービスだ」と評価する声もあるが、「退職手続きぐらい自分でしろ」「非常識」という批判の声もある。しかし、「なぜ自分で言えないのか」と言うのは、性犯罪の被害者に「抵抗すれば防げたはずだ、お前が悪い」と言っているようなものなのだ。

大体、上司などに直接「辞めます」と言うには、元気玉級の元気がいる。それもみんなの元気をちょっとずつ集めたやつではない。みんなからギリギリまで搾り取り、魔人ブウを倒したやつに相当する。

そんな元気、ブラック企業で疲弊している人間にあるはずがない。ましてパワハラやセクハラの被害者は恐怖で支配されている可能性が高いので、もはや面と向かって相手と話すことさえ難しいだろう。

そういう人間に対して「辞表くらい自分で出せばいいのに」などと言うと、本人は「直接言えない自分が悪いのだ」とさらに自分を責めてしまい、ある日、本人の代わりに病院の診断書が出勤してくるか、最悪の場合「退職日と命日の日付が同じ」という事態になりかねない。

疲れ果てている人に「自分で何とかしろ」と言っても、そんなガッツが残っているはずがない。こういう問題は、とにかく間に誰か入ることが重要なのだ。

未だ輝く「黒歴史」と日本の根深い「風習」

この代行サービスはまさに「間に入るサービス」であり、本人にも会社にも関係ない他人が対応するというのがさらに良い。

私も新卒で入った会社が若干ブラック気味でメンをヘラッてしまい、会社を辞めることにはしたのだが、それを自分で会社に伝えることができなかった。

そこでどうしたかというと禁じ手「お母さん」である。さすがにお母さんだけを行かせたわけではなく、「お母さんと診断書と私」という鉄壁の布陣で上司に辞意を伝えたのだ。

しかし、私の3億個ある黒歴史の中でも、この「お母さん同伴退職劇」は未だ輝きを失っていない。二十歳の時のこととはいえ、今でも思い出して顔真っ赤になる。あの時にこの退職代行サービスがあれば、もう少し傷が浅かったはずだし、お母さんにもあんなキツイ仕事をさせずに済んだ。

本人だって、自分で辞意を伝えられず、他人にやってもらうというのは少なからず恥ずかしいと思っているものだ。それを赤の他人に相応の対価を払ってやってもらえるとなれば、少なくとも身内を立てるよりずっと気が楽であり、次へも進みやすい。

このように、とにかく会社の人間と顔を合わせることなく一瞬で会社を辞めたい時、この退職代行サービスは実に有用である。しかし、「辞めるだけでは済まない」時には注意が必要だ。

退職代行サービスはあくまで間に入って退職手続きをするだけなので、弁護士のように「退職交渉」はできない。つまり、サビ残の補填など給料に関する要求や、退職理由を「会社都合」にしてくれといった交渉はサービスの範囲外になる。

というのも、退職代行サービス業者の中には、それらの交渉をして良い資格を持っていないところもあり、対応すると違法になってしまうのだ。現時点でも、この退職代行サービスはグレーだという指摘もある。

追いつめられている時は、とにかく会社を辞められればそれで良いと考えがちだ。だが、それだと自分が不利な形で辞めさせられ、受けられるはずの権利を失うかもしれない。そのため、はっきり白黒つけたいことがある、場合によっては訴訟も辞さないという場合は、弁護士などしかるべき資格を持った者を間に入れる必要がある。

もちろん退職代行サービスより費用も時間もかかるので、ギリギリどころか地球のみんなが死ぬぐらいの元気を集めないと、なかなかそこまで踏み切れないとは思う。とはいえ、職を失った上に泣き寝入りも良くないだろう。

しかし、日本には「退職=会社や周りに迷惑をかけること」と思わせる風潮がある。普通の退職でさえ、「そういえば全然使ってない有給はどうなったんだろう」と思ってはいても、辞める身ではそこまで言い出せず、「夜空に消えたんだな」と飲み込んで、そのまま退職してしまうケースも少なくない。

だいぶ変わってきたとはいえ、日本人には「自分の権利主張するのヘタクソか」という面がある。ただ、もちろんヘタクソにしたのは、権利を主張しにくい環境を作った社会だ。真面目な人ほど辞める時もキレイに辞めたいと思いがちだが、そうしている内に取り返しがつかないほど病んでしまうこともある。

大体、キレイな退職などない。結婚や出産などの慶事で辞めた人間でさえ、「この忙しい時に」と1回は陰口を言われているものである。しかし、もう辞めているんだから、その陰口が本人の耳に入ることはない。つまり、辞めたあと自分が何を言われるかなど考えなくていいのだ。

誰もが、辞表を社長の眉間めがけて矢文で飛ばせる人間というわけではない。いざという時、第三者に頼るのを恥とは思わず、この「退職代行サービス」のことを胸に置いておくといいだろう。