「カレー沢薫」の記事

カレー沢薫

カレー沢薫(かれーざわかおる)

漫画家・コラムニスト

1982年生まれ。デビュー作は「クレムリン」(2009年)。マイナビニュースでの連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。(Twitterアカウント: rosia29)。

著書は、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~2018年)、コラム集「ブスの本懐」(2017年)、「やらない理由」(2017年)、「カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~」(2018)など多数。切れ味鋭い作品を次々と生み出している。
感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

カレー沢薫の時流漂流 第15回

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

2018.11.12

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第15回は、「プリンセス駅伝の四つん這い走行」問題について

今年は「パワハラ」「黒い交際」「殺人タックル」など、スポーツ界が荒れに荒れた。

スポーツにつきまとう「感動」という尺度

というよりは、今までずっと「わかり哲也」の背景ぐらい荒れ続けていたが、関係者専用のプライベートビーチだったため、一般人の目につかなかっただけのような気もする。

その一方、ワールドカップでは予選を批判した奴は全員死んだのかというぐらい本戦の健闘が称えられたり、夏の甲子園では金足農が秋田県勢として103年ぶりに決勝に進出し大きな注目を集めたりと、感動的なこともあった。

しかし、結果だけを言えば、ワールドカップは1回戦敗退だ。金足農も決勝で敗れ準優勝。逆に優勝したのに金足農の陰に隠れた大阪桐蔭が可哀想なぐらいだ。

つまり、見る側はスポーツに対し、時に結果よりも「感動」を求めがちということだ。金足農が仮に優勝していたとしても、その勝利が「地獄甲子園」式で得た物なら讃えられなかっただろう。

スポーツに感動を求めるのは悪いことではない。私のような、床を這っているコードでこけるような先のない中年は、もはや他人の活躍に乗っかって泣いたり笑ったりするしかないのだ。

だが、「感動した! 痛みに耐えてよく頑張った! 」という言葉があるように、スポーツの感動には「選手が無理をする姿」も含まれていることは否定できない。その無理が「43度の風呂」レベルならまだ良いが、選手生命、さらには最悪命を脅かしかねない時もある。

インターネット大相撲では済まない「プリンセス駅伝」問題

そんな、文字通り「選手が痛みに耐えて頑張った」事件が、先日行われた「プリンセス駅伝」で起こった。女子駅伝だからプリンセス駅伝なのだろうが、私が走者だったら相当居心地の悪いネーミングだ。

その駅伝の中で、10代の走者が中継所の直前で走行不能となったが、何と四つん這いの状態で流血しながらタスキをつないだという。四つん這いで移動した距離は約200メートル。私だったら小一時間かかる、結構な距離だ。その選手がリードの外れた柴犬ぐらいのスピードで四つん這い走行した、というなら制止する間もなくタスキは渡されていたかもしれないが、満身創痍の状態なら相当時間がかかっただろう。

当然、その姿には「誰か止めろよ」と批判が噴出した。しかし、批判がある一方で「感動した!」と、流血四つん這いで走る女子の姿にバッチリ感動した勢がいるのも事実だ。それに対し「怪我しながら走る選手を美談にする勢を許さない勢」が現れ、いつものインターネット大相撲に発展しているのはよくあることなのだが、これはかなり複雑な問題なのである。

監督が倒れた選手に「お前棄権したらわかっとるやろな? 」とアイコンタクトをしたり、観客が「俺たちを感動させるために走れや」と選手を後ろからジープで追い立てたりしたと言うなら論外だが、監督はテレビモニターで「二足歩行が厳しい」という致命的な状態の選手を見て、ちゃんと棄権を申し入れている。

だが、その棄権が現場の審判に伝わった時には、すでにタスキ受け渡し地点の20メートル手前に来ていたそうだ。つまり、満身創痍の選手が四つん這いで180メートル移動してしまうまで棄権の申し入れが審判に伝わらなかった、ということだ。ここでまず連絡体制の不備が指摘されている。

そして、審判は棄権の申し入れを知った後も、「あとちょっとだし」と最後まで走らせてしまったと言う。痛みに耐えて頑張る選手、という「感動」に流され、無理をさせてしまった感は否めない。

そもそも棄権の申し入れがあるなしに拘わらず、現場判断で中止させるべきはなかったのか、という声もある。今、試しに家の中を四つん這いで走ってみたが、これで200メートルはなかなかキツイ。何より見た目が痛々しい。

私の場合、無職の中年が昼間に家の中を四つん這いで走っているというただの「イタい」状態だが、走れなくなった若い選手が流血しながら四つん這いで走る姿は、十分制止すべき痛々しさだろう。実際、棄権申し入れがなくても、現場判断で走れなくなった選手を止める権限が審判にはある。

それでも懸命に走る意志を見せる選手に心打たれて止められなかったのかというと、必ずしも感動だけが理由ではないようだ。企業にとって駅伝というのは非常に重要なものであり、それをチームではなく審判の判断で止めるというのは、審判員側と企業側に大きな禍根を残すことになりかねないのだという。よって審判側は「よほど勇気がないと止められない」そうだ。

また、選手にとっても企業の名前を背負っている上、「自分がコケたら皆コケる」という駅伝のルール上、選手には大きなプレッシャーがかかっている。つまり選手も現場も「止まるに止まれないし、止めるに止められない」状況になっていたのかもしれない。

そして結果から言うと、この選手は「全治3~4か月の骨折」となった。あの四つん這いでの200メートルがなかったら、もう少し怪我が軽くなった可能性は大いにある。

このように、無理は早めに止めないと、逆に有望な選手を潰すことになりかねない。

「無茶しやがって…」という展開は漫画などに任せ、ダメな時は「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と早々に打ち切り、次のチャンスに賭けるべきだろう。

ZOZO前澤社長の壮大な「金持ち行動」と成功の所以

カレー沢薫の時流漂流 第14回

ZOZO前澤社長の壮大な「金持ち行動」と成功の所以

2018.11.05

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第15回は、「ZOZO前澤社長の宇宙旅行」について

「前澤社長、月へ行く」

これは「完全にストーリーを消化し終わっているのに惰性で続いている少年漫画の次回予告」ではない。ZOZOTOWNの前澤友作社長が、今度は月へ行くそうである。

「今度は」と言っている通り、前澤社長のスケールのでかい金持ち行動は今に始まったことではなく、2016年にはバスキアの絵画を123億で落札している。1億が123個だ、意味がわからない。

そして、あのレオナルド・ディカプリオも「俺もバスキア好きなんだよ!気が合うじゃん!」ということで、2人はバス友になり、ディカプリオの家に行くほどの仲になったそうだ。123億の絵が買えれば「実はあたしも山崎ハコ好きなんだ」みたいなノリでディカプリオと友達になれるのである。

もちろん持っている高額美術品はこれだけではないし、他にも高級車や高級ワインを愛好しているようだが、このように金を持っている人が金を使うのは実に正しい。むしろ、こういう人が「ダイソーの108円ワインは1000円の価値がある、特にシラーは頭一つ抜けてる」とか言いだしたら、景気はいつまでたっても回復しない。金のない私ですら経済を回すためにソシャゲのガチャを回しているのだから、こういう金持ちの方には、率先して経済を花びら大回転してもらいたいところである。

ZOZOスーツと「福袋」

このようにとんでもない金持ちである前澤社長とは一体何者なのかというと、冒頭言った通り、服の通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOの社長だ。

私は無職ゆえ、服を着る必要がないのでZOZOTOWNを利用したことはないが、私のようにZOZOTOWNを使ったことがない人間でも、「ZOZOスーツ」を見たことがある人は多いのではないだろうか。

ZOZOスーツとは、着ると水玉模様の全身タイツ姿になれるスーツのことである。正確には上下に分かれているズボンとシャツなのだが、両方同じ柄なのでどうしてもそう見える。

もちろん「それが楽しい」というわけでない。そのスーツを着用してスマホアプリと連動させると、正確な体の採寸ができ、そのデータを元に、ZOZOTOWNで自分にぴったりあった服を買うことができるのである。

これにより、通販の弱点である「試着が出来ないため、サイズが合うかどうかわからない」という問題が解消される。何より、ZOZOスーツ自体は無料なので、これを普段使いしてしまってもいいのだ。(編集注: 10月31日、ZOZO前澤社長が将来的にZOZOスーツを廃止し、機械学習による体型予測システムを構築すると発表した)

また、ZOZOTOWNはこれと連動して「おまかせ定期便」というサービスもやっている。ZOZOスーツで計測したデータを元に、ZOZO側がアイテムを何点か選んで送ってきてくれるのだ。まるで福袋だが、利用者はそれを試着し、気に入ったものがあれば買い取り、気に入らないものは返品してよい。もちろん全員に「チェンジ!」と言うことも可能だ。

私のように、もはや自分で服を選ぶことが面倒という人間には大変助かるサービスだし、自分が選ぶより確実にマシなものが送られてくるだろう。もし今度服を着る必要性が出たら、ZOZOTOWNを利用してみようかと思う。

日本人初の「宇宙旅行」

このように画期的なことを次々とやっているZOZOTOWNなので、その社長が金持ちなのは当然という気がする。そんな前澤社長が今度は月に行くことにしたらしいのだが、さすがに自分で宇宙船を作るというわけではなく、アメリカの宇宙企業(初めて聞く業種だ)「スペースX」と契約し、そこが開発したロケットで月の周りを回る予定だそうだ。

旅行期間は約一週間で、2023年に実行予定だという。費用に関しては公表されていないが、おそらく「高い」だろう。しかし驚くべきことに、前澤社長は一人でも相当な値段であろうこの宇宙旅行に、画家やミュージシャンを6~8人つれて行く予定だそうだ。6人か8人かで費用が億単位で変わって来る気がするが、彼にとっては誤差の内なのだろう。

しかし、宇宙というのは、過酷な訓練を積んだ宇宙飛行士が行くもの、というイメージがある。最近の宇宙船は、一般人が旅行感覚で宇宙に行けてしまうほど進化しているのか、それとも前澤社長たちも事前にトレーニングをしたりするのだろうか。

前澤社長はともかく、ミュージシャンや画家たちは大丈夫だろうか。特に画家なんか台所に鏡月を取りに行くときしか動かない(※個人の感想です)人種なので、トレーニング段階で命を落とす可能性がある。もしかしたら6~8人というのは、それを考慮にいれて出した数かも知れない。

今まで「宇宙に行く」と言った日本の金持ちは何人かいたような気がするが、結局まだ実現には至っていない。それがついに実現なるか、というところである。

しかし私が仮に月に行ける金を持っていたとしても「怖いから行かない」気がする。むしろせっかく金持ちになったのに、月なんか行って死んだらどうするんだと思ってしまいそうだ。

このように「誰もやったことがないことに挑戦する」「ビビらない」ところが、前澤社長が成功した所以なのかもしれない。

いまだ世紀末が続く「外国人技能実習制度」

カレー沢薫の時流漂流 第13回

いまだ世紀末が続く「外国人技能実習制度」

2018.10.29

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第13回は、「外国人技能実習制度」について

日立製作所笠戸事業所が、外国人技能実習制度を利用していたフィリピン人実習生20名を「とりあえず解雇」することにしたそうだ。

「解雇」とはそんなビール感覚のものだっただろうか。ちなみに、この「とりあえず解雇」は日立製作所の会長の発言である。

なぜ「とりあえず解雇」をすることになったかというと、グランドメニューをゆっくり見るためではない。実習生のビザが「働いてはダメなやつ」に変更され、このまま雇用すると違法になってしまうため、「とりあえず解雇」することにしたそうだ。このビザがワーキングビザになればすぐ復職させるという。

外国人技能実習制度の「世紀末」な状況

復職させるのは良いが、その前に何故ビザが変更になったか、である。

まず「外国人技能実習制度」というのは、Wikipediaによると『「技能実習」あるいは「研修」の在留資格で日本に在留する外国人が、報酬を伴う技能実習あるいは研修を行う制度』だ。目的は、発展途上地域が発展するための人材の育成、そして、少子高齢化で労働力不足の日本が人材を得るためでもある。

実習生は賃金をもらいながら技能を習得でき、日本企業は労働力が得られる。一見ウィンウィンな制度に見えるが、その実情は世紀末級に荒れている。今回の日立の問題ですら、雑魚キャラがジジイから種モミを奪ったぐらいの「氷山の一角」であり、もっとすごいサウザー級、ラオウ級の問題がこの制度により起こっているという。

この外国人技能実習制度で、実習生は最長3年日本に滞在することができる。しかし、今回「とりあえず解雇」される実習生はまだ1年程度しか働いていない。何故引き続き雇用ができなくなったかというと、国の監督機関「外国人技能実習機構」から、2年目以降の実習計画の認定を受けられなかったためだという。

認定を受けられないということは「技能実習」ビザではなくなるため、雇うと違法になる。よって「とりあえず解雇」となったわけだ。何故認定が受けられなかったかというと「技術習得」が名目なのに、目的の技能を学べない作業をさせている疑いがあったからだ。

つまり「それ初日から出来てたやろ」というような単純作業や、「汚い、くさい、カメムシいない?」というような、日本人がやりたがらない3K作業をさせていたかもしれないということである。ついでに、キツくて危険な仕事もさせていた可能性もある。

日立の真意はわからないが、このように「技能実習」にかこつけて、まったく技能の身につかない作業を低賃金で長時間やってくれる人材を確保しようとする企業がある、というのが、「外国人技能実習制度」の抱える大きな問題だ。ウィキペディアにも「実質的な奴隷労働制度であると批判されている」などと激しいことが書かれている。

最低賃金を割っていた、などまだカワイイ方で、賃金の未払い、異議申し立てをすれば強制帰国、さらには強制帰国を脅し文句に性暴力を働くなど、まさに世紀末の様相である。実習生となった外国人の多くは「日本は安全な国」と思って働きに来ただろうが、全然安全じゃない。少なくとも外国人労働者にとってはモヒカンジープの国だ。

中には、未払い賃金の支払いを免れるため、中国人労働者をだまして中国につれて行き、そのまま中国に置き去りにしたという事例もあるそうだ。ここまで来ると、諸外国から真面目で大人しいと思われている日本人も「なかなかやるじゃないか」という気になって来る。

しかしこの外国人技能実習制度問題は、メロス激怒必至の日本側の邪智暴虐だけが原因ではない。実習に来る外国人側も、最初から技能習得ではなく「出稼ぎ」が目的で外国人技能実習制度を利用している側面があるという。

そういう外国人にとって仕事内容は何でも良く、むしろ定められた仕事を決められた時間しか出来ないとなると、「思ったより稼げない」ということになってしまう。そのため、自ら稼げる目的外作業や、低賃金でいいから時間労働をさせて欲しいという外国人もいるそうである。

日本企業側が真面目に制度内容を守ろうとすると、逆に外国人側が「おい話と違うぞ」となってしまう、韓流ドラマ級のすれ違いが起きているケースもあるのだ。

このように、外国人技能実習制度が本当に「発展途上地域のための人材育成」に使われているかというと、疑問なところがあるのが現状だ。

コンビニの20時閉店、受け入れられる?

ちなみに、都会に行くとコンビニのレジが外国人であることも珍しくない(我が地元だと腰を抜かすレベルの「事件」)。

コンビニは今のところ「技能実習」には当たらないため、「留学」という名目で働いている人が多いという。これに関し、コンビニ業界からは「コンビニも技能が身につくから外国人技能実習制度に入れてほしい」という声が出ている。

それに対しては「人手が足りてへんだけやろ」と総ツッコミが入っているようだが、このままいくと人手不足でコンビニが20時に閉まるようになってしまうかもしれない。果たしてコンビニが20時に閉まる生活に耐えられるだろうか。思うに、そうなったら文句を言う人は多いだろう。

今まで通り、小腹が空いたからと深夜二時に菓子パンを買いに行ける生活を維持するためには、我々は外国人労働力のことを真剣を考えなければいけない。