もうすぐ新型が登場! トヨタの「スープラ」とはどんなクルマなのか

もうすぐ新型が登場! トヨタの「スープラ」とはどんなクルマなのか

2018.12.12

トヨタが新型「スープラ」プロトタイプの試乗会を開催

「セリカXX」が原点、新型「スープラ」は5世代目

伝統の直列6気筒・後輪駆動を継承

トヨタ自動車の高性能スポーツカー「スープラ」が、実に16年ぶりに復活する。来年1月の北米でのデビューを前に、トヨタがプロトタイプの報道向け試乗会を開催したので参加してきた。気になるデザイン、スペック、走りを紹介する前に、スープラとはどんなクルマなのかについて、歴代の系譜を紹介しながらつづっていこう。

トヨタの新型「スープラ」プロトタイプ試乗会に参加した

日米で車名が違っていた理由

来年デビューする新型スープラは、グローバルでは通算5代目、日本では3代目になる。ここではグローバル基準で書いていくことにするが、なぜ日米で世代が異なるかというと、日本では初代と2代目が別の名前で呼ばれていたからだ。

もともとスープラは、トヨタのコンパクトなスポーツクーペ「セリカ」の上級車種として1978年に生まれた。そのためもあり、日本では「セリカXX」という名前だったのだ。

セリカにはトランク付きのクーペとリアゲートを持つリフトバックの2種類のボディがあったが、XXのベースとなったのはリフトバックだ。1.6~2Lの直列4気筒エンジンを積んでいたセリカに対し、XXは2~2.6Lの直列6気筒を搭載。5ナンバー枠内でホイールベースと全長を伸ばし、顔つきも変えていた。

当時、北米では日産自動車のスポーツカー「フェアレディZ」が人気で、Zの対抗馬として、同じ直列6気筒エンジンを積むクーペをトヨタが開発したのだった。ボディサイズは全長4,600mm、全幅1,650mm、全高1,310mmで、ホイールベースは2,630mmだった。

初代「セリカXX」から数えてグローバルでは5代目となる新型「スープラ」(画像)

もともと4気筒を積んでいたクルマのノーズを伸ばし、6気筒を積むことで高性能車に仕立てるという手法は、当時はプリンスというメーカーが販売していた「スカイライン」が1964年に実践するなど、いくつかの車種が行なっていた。

では、これがなぜ北米ではスープラという車名になったのかというと、当時のアメリカでは「X」の列記が映画の成人指定度合いを示していたため。トヨタはラテン語で「超えて」を意味する「スープラ」という車名をセリカXXに与えた。ちなみに、トヨタはラテン語を車名に起用することが多く、現行車種では「プリウス」「アクア」などが該当する。

2年後にはマイナーチェンジを行い、形式名が「A40型」から「A50型」に切り替わる。この形式名は4気筒のセリカと共通だ。最大の特徴は2.6Lエンジンから2.8Lへと排気量が増えたことと、リアサスペンションがリジッドアクスルから独立懸架になって、乗り心地とハンドリングがレベルアップしたことだった。

新型「スープラ」プロトタイプに書かれた「A90」の文字は、このクルマの型式名を表している

あの「ロータス」が開発に絡んだことも

このA50型をトヨタが販売していたのはわずか1年間で、続く1981年には4気筒セリカともどもモデルチェンジし、「A60型」となる。

セリカ・リフトバックをベースにノーズを伸ばし、直列6気筒エンジンを積むという成り立ちは初代と同一だったが、直線基調のスタイリングにリトラクタブル式ヘッドランプを組み合わせたこともあって、A60型はかなりスポーティな雰囲気になっていた。ボディサイズはやや大型化したが、まだ5ナンバー枠内だった。

2代目のニュースとしては、英国のスポーツカーブランド「ロータス」にサスペンションのチューニングを依頼したことが挙げられるだろう。そのことをアピールすべく、CMにはロータスの創始者コーリン・チャップマン氏を起用していた。

このコラボが契機となり、トヨタとロータスは翌年に資本提携を締結。ロータスが得意とするFRP(繊維強化プラスティック)技術をトヨタがSUVの車体に投入したり、トヨタのパーツを当時のロータスが使用したりという関係が生まれた。

エンジンが2Lと2.8Lであることは初代と同じだったものの、2.8LはDOHC(ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト)となり、「GT」を名乗ることになる。2Lには途中でターボとDOHCが追加されている。5ナンバー枠が存在しない海外向けには、オーバーフェンダーを備えたグレードも存在していた。

3代目「スープラ」は高性能スポーツカーを志向

日本でもスープラと名乗るようになったのは、1986年に発表された3代目からだ。その理由としては、セリカが前年のモデルチェンジで、後輪駆動から前輪駆動に切り替わっていたことが大きかった。セリカの形式名は当時の前輪駆動セダン「コロナ」「カリーナ」(現在の「プレミオ」「アリオン」の前身)と同じ「T160型」となり、「A70型」はスープラが受け継ぐことになった。

3代目「スープラ」。この名前を日本でも名乗り始めたクルマだ

3代目スープラのプラットフォームは、同じ年にモデルチェンジしたラグジュアリークーペ「ソアラ」と共通になっていた。サスペンションはスポーツカーやレーシングカーの定番と言える「四輪ダブルウィッシュボーン」に変わった。初代は“セリカの6気筒版”という位置づけだったスープラだが、3代目からは高性能スポーツカーへスイッチしようとする意気込みがうかがえた。

エンジンは2L、2Lツインターボ、3Lターボというラインアップ。キャッチコピーの「トヨタ3000GT」は、1960年代の名車「2000GT」を思わせるものだった。レースやラリーへの参戦も始め、アフリカで開催された世界ラリー選手権のひとつ「サファリラリー」では総合3位に入ったこともある。

しかし、3Lターボエンジンの基本設計は1960年代に行われたものであり、旧態化が目立ち始めていたこともあって、1990年には新世代の2.5Lツインターボに切り替わった。排気量が500cc小さくなったにもかかわらず、最高出力は当時の日本車の自主規制値だった280psに達した。

リトラクタブル式ヘッドランプを受け継いだスタイリングは、2代目より落ち着いたものとなった。サイズは全長とホイールベースがやや短く、全幅はやや広くなった上に、3Lは日本仕様もフェンダーがワイドになり、3ナンバー幅になった。このワイドフェンダー仕様は後に、2Lツインターボでも選べるようになる。

スポーツ性を高めるべくダウンサイジング

4代目「A80型」は1993年に発表となった。ボディは全幅1,810mmという北米市場を重視したサイズになり、それに合わせてエンジンは自然吸気、ターボともに新世代の3Lのみになった。マニュアルトランスミッション(MT)がこれまでの5速から6速にバージョンアップしていたことも特徴だ。

さらに特筆すべきは、ホイールベースが2,550mm、全長が4,520mmと短くなっていたこと。どちらも歴代で最短だった。リトラクタブル式ヘッドランプを廃し、前後のフェンダーを豊かに盛り上げたグラマラスなスタイリングは、ほぼルーフの高さまでそびえるリアウイングがアイキャッチになっていた。

4代目「スープラ」はグラマラスなスタイリングに

そのキャラクターを証明するように、4代目スープラはレースへの参戦も多かった。国内の「スーパーGT」ではGT500クラスにエントリーして何度もチャンピオンに輝き、「ル・マン24時間」や「ニュルブルクリンク24時間」にも挑戦。北海道で開催された「十勝24時間レース」では、ハイブリッド仕様に改造されたマシンが総合優勝した。トヨタのハイブリッドカーとして、初めてレースに勝ったのが4代目スープラだったのだ。

こうした系譜を受け継ぐ5代目(新型)スープラについては、現時点ではまだ多くの情報が不明だが、直列6気筒の後輪駆動車という伝統を継承するため、トヨタはBMWとの共同開発という道を選んだ。ホイールベースはさらに短くなり、リアシートのない2人乗りになる。

トヨタとBMWが共同開発した5代目「スープラ」のプロトタイプ。2019年1月のデトロイトモーターショーで世界初公開となる

新型がどんなデザインでどんな乗り味だったかは次回、あらためて報告するけれど、歴代でもっとも走りに振ったモデルであることは間違いない。

ライザップと大塚家具に見た、組織のために大事なたった1つのこと

藤田朋宏の必殺仕分け人 第2回

ライザップと大塚家具に見た、組織のために大事なたった1つのこと

2018.12.11

ライザップに大塚家具、どうして経営不振に?

組織のために大事なことを見誤ってはいないか

仕事には「なぜ自分たちが」が絶対に必要

「この仕事、自分がやらないとダメなんだっけ?」

これを読んでいる皆さんも、そう思ったことはないだろうか。僕の場合は本質的に労働にはまったく向かないタイプの人間なので、1時間ごとにそんなこと考えていたりする。

さて、僕は極端な例かもしれないけど、多くの人にとって「これって、なんでやらないとダメなんだっけ?」という所が明確じゃない仕事は、やっていて面白くないし、捗らないことだろうと思う。

今回は、つまるところ、組織運営を考える上で重要なことは、この「なんのために」というところを、その場で働く一人ひとりがしっかり認識できるようにすることだと言っても良いのではないかと、偉そうに書いてみることにした。

ライザップは「結果にコミット」を貫けばいい

少し前の話だが、ライザップの経営状態が結構な話題になった。僕といえば、世の中、計画ほどうまく行ってない会社なんていくらでもあるというか、計画ほどうまくいかないことの方が多いわけだし、日本中の話題になるほどの規模の会社でもないのに、みんながライザップ、ライザップと言ってるのを見て、ライザップってずいぶんと人気があるんだなぁと思っていた。

印象的なテレビCMで世間に広く知られることになったライザップ

世の中の議論の中心は、「本業にシナジーがない会社を買いすぎてまとめられていない」というもの。中には「負ののれんの仕組みを使って不当に利益をカサ増ししている」なんて報道や、「三顧の礼で招聘したプロ経営者と古参の経営者の仲が上手くいっていない」なんてものまであったりする。そこまでいくと、経済ニュースの形をしているが、もはやただのゴシップニュースだと僕は思う。

実際にライザップの中の人がどう思っているのかは知らないけれど、僕から見えるライザップの本業は「褒めてやる気にさせて結果を得てもらうこと」だ。ライザップの最初の成功は、「糖質制限」という継続的に頑張るにはなかなか根性が必要なダイエットの方法論を、ライザップのスタッフが顧客の一人ひとりを褒めてやる気にさせて結果を出してきたことにある。

そんなライザップが、糖質制限に始まり英会話やゴルフだけでなく多くの「個人」をやる気にさせる事業から、さらに大きく「会社」をやる気にさせて、今よりも良い会社になってもらうことを次の事業に選んだのは、自然なことだと感じている。本業とのシナジーがないとかじゃなくて、本業の延長戦上のまさにど真ん中で戦うことにしたんだなと。

ライザップゴルフも、ジーンズメイトの買収も、やる気に火をつけ、「結果にコミット」させる、という点では同じだ

そしてライザップが、糖質制限に変わる「変えるための手段」として選んだのが、“三顧の礼”で迎え入れたという「プロ経営者」松本晃氏の経営の方法論なんだと僕は思う。同氏の人となりは僕は全く知らないけれど、実績もしっかりある松本氏を迎え入れて、ライザップは素晴らしい「方法論」を手に入れたんだなと思ったのだ。(僕もイチ経営者として羨ましい限りです。)

本業のど真ん中の上で着実に事業の範囲を広げようとした結果、買収した会社の健全化が少々遅れて、当初思ったほどのスピード感では利益が上がらないなんてことは、彼らがやりたいことの壮大さと比べたら些細なことだ。

なのに、どうして社会はみんなでライザップの経営方針を「ホラ見たことか」と叩く方向に回ってしまうのだろうか。そりゃもちろんライザップの株主だったら、買収した各社の再建のタイミングがずれていることを批判する権利もある。しかし、我々のようなライザップの株主でもなんでもない人が寄って集って叩いているのは、なんだか滑稽に見えてしまう。

ライザップがこれまで多くの人の結果にコミットして痩せさせてきたように、同社はこれからも多くの会社の経営を健全化していって欲しいな、とまったくの第三者としての僕はシンプルに願っている。

もちろん全員が糖質制限に成功して痩せられたわけではないのと同様に、買収した会社のすべてが成功するわけはないと思うけれど、結果にコミットするライザップに褒められて、いくつかの会社が蘇ったら、ただそれだけで単純に社会のために良いことだ。世間はもう少し長い目で見て応援してあげれば良いのではないか。

僕も20年ほどコンサルタントや中小企業の経営者やらをしてきたが、つくづく感じているのは、どんな規模の組織でも、一人一人が「自分たちは何を社会に提供することに長けているのか」「今は長けていなくても、将来何に長けたいと思っているのか」という認識を統一するのが、組織のパフォーマンスを最大化させるためにもっとも大事ということだ。

少なくともライザップという組織は、「顧客を応援することで結果を出させる」ことには誰よりも自信があるはずで、実際にそれで成功してきた。つまらない外野の雑音に惑わされず、その自信を保ち続けるような経営をしてもらいたいと切に思う。

まぁ、そんな外野の一人である僕がこんなところで応援しなくても、そんなことはわかってるよって言われそうですけどね。

「この分野で1番」を貫けなかった大塚家具

ところで、もう1つよく話題になった企業に大塚家具がある。

数年前、社長の娘さんを擁するコンサル屋さんたちがつくった大塚家具の再建案を見る機会があった。僕は、「もし、この再建案で進んだら、間違いなく数年以内にヤバいことになる。賭けてもいいですよ」と周りの人に言っていたのだけれど、当時は「お前は相変わらず極端なこと言うなぁ」という反応ばかりだった。

大塚家具 新宿ショールーム(編集部撮影)

IKEAやニトリのようなカジュアルな家具が急速に台頭する環境に合わせて、大塚家具は高級家具とカジュアル家具の真ん中のボリュームゾーンを狙う~という案だ。僕は端的に言うと「こりゃダメだ」と感じた。

当時、なぜか世間ではわからず屋の老害役にされてしまっていた創業者の大塚勝久氏は「自分たちが売っている家具の良いところを丁寧に説明する」というコンセプトであれだけの企業を作ってきた方だ。

だからこそ、僕のような経営者の端くれでもわかるような、「この再建案では、組織をまとめる事は出来ないし、あっという間に会社はバラバラになってしまうだろう」ということは、心の底からわかっていたんだと思う。

その後の数年で大塚家具がどうなったかは皆さんご存知の通り。娘さんを擁するチームに経営権がうつり、大変なことになっていると報道されている。経営状態に関する報道なんていつもだいたいあてにならないが、残念ながら本当なのだろう。

IKEAやニトリが急速に台頭する中で、横軸に値段、縦軸に品質を置いた見栄えの良い絵を見せられながら、高級とカジュアルは他社に任せて、自分たちは真ん中のもっともボリュームがあるゾーンを狙えば大塚家具はまた勝てると聞けば、少しでも早くその戦略を進めるべきだって思う人が多いのもよく分かる。

新宿ショールームにて(編集部撮影)

でも、会社の戦略を考える上で重視しなければいけないポイントは数え切れないほどたくさんあるけれど、一番大事なのは「その戦略の下で人は生き生きと働くことができるか」に違いないのだ。

極端なことを言えば、企業戦略なんていくらでも“正解”があるわけで、一番大事なのは戦略の中身そのものよりも、社長から新入社員に至るまでの全員が「少なくとも自分たちは何に長けた会社であると社会に言いたいのか」をしっかり理解し、共有していることではないかと思うのだ。

特に、巡航状態の会社ではなく、創業時期や、再建時期などの修羅場においては、戦略そのものよりも、全社員の意識が統一されているのが何よりも大事になる。この視点で考えると、高級とカジュアルの間を狙うという絵だけでは、組織の一人ひとりの心を1つにはできないはずだ。少なくとも「我々はこの軸で1番になろう」と明確に言われる方が、よほどやる気が出る。

選択を迫られる辛さ

再建案はどうすればよかったのか。“品質や値段の軸とはまったく違う軸”を考えて、その軸の上では「大塚家具こそが一番である」と思えるような戦略を立てればよかっただけなんじゃないかと思う。すごく単純な話だ。

で、それはもともと勝久氏がやっていたことなのだから、あのタイミングで「どこよりも説明をしっかりしてくれる家具屋さん」を改めて徹底するという戦略でも良かっただろうし、他に何かいい軸があればそっちにふっても良かった。

どの戦略をとっても、結局は高級家具とカジュアル家具の間のボリュームゾーンを狙うことになったかもしれない。でも、それをそのまま口に出すようでは経営戦略として成立してないでしょ、ということだ。

軸を工夫することによって、自分たちの会社を「一番右上」にプロットすることはできたはずで、その軸を考えることが「経営戦略を考える」ことなんだと僕は思う。娘さんチームの中には、本当の意味で「経営」をしたことがある人が1人も居なかったんだろうと、僕は思うのだ。

起業家という辛いことばかりの職業を選んでしまった人間にとって、自分が作り上げてきた会社や従業員たちは、実の子供のように、もしかしたらそれ以上に大切なものなのだ。

当時の勝久氏は、その子供のように大切な会社や従業員達と実の娘のどちらかを選ぶことを娘に強要されて、しかもその苦悩の中で、なぜかマスコミからは頭の固い老害扱いされ、そして結局どちらも手放すことになった。当時の同氏の苦悩を想像すると、なんだか僕もすごい辛い気持ちになる。

その後、勝久氏が始めた会社の方は順調に地固めが進んでいるようだ。娘さんの会社の方も「自分たちはなんのために家具を売っているのか」を、組織としてしっかり取り戻して欲しいと切に願う。まぁ大塚家具の顧客でも株主でもない僕が、こんなところで応援しても、あんまり意味はないよなぁと思いつつも、応援しています。

企業のトップが選択を迫られるのは、とても辛いものだ
「白くまくん」の日立アプライアンスが再生医療に参入、日本橋に拠点開設

「白くまくん」の日立アプライアンスが再生医療に参入、日本橋に拠点開設

2018.12.11

日立製作所の家電子会社が再生医療分野に進出

会社の第2の柱として積極的に投資を進める

新拠点のキーワードは製薬会社や大学との「協創」

日立アプライアンスは、再生医療分野向けに、クリーンルーム総合ソリューションの提供を開始する。これにあわせて、セントラル化した過酸化水素滅菌装置などを導入した再生医療技術支援施設を東京・日本橋に開設した。

日立グループで家電事業を手掛ける日立アプライアンスが、再生医療市場に参入する。2014年11月の再生医療法の施行によって、この分野に対する民間企業の参入障壁が低くなったことが参入のきっかけとなった。再生医療分野という特定領域における事業での成長を目指しており、再生医療分野における構造設備の市場規模は2021年度には約200億円を想定し、そのうち30億円超の事業規模を見込んでいる。

東京・日本橋に開設した日立アプライアンスの再生医療技術支援施設

今回の再生医療技術支援施設では、米STERIS製の過酸化水素滅菌装置をセントラル化して、滅菌のグレードが高い調製室、脱衣室、着衣室、AL室の4つの部屋の一度に無菌化。調製室では、日立産機システムの再生医療用キャビネットを導入したほか、遠隔監視による予兆診断システムにより、空調システム全般の異常を検知するサービスを提供。加えて、空調機の保守点検や保全メンテナンスのトータルサポートなども提供する。

さらに、クリーンルーム内の壁には日軽パネルシテムが開発したフラットパネルを採用。一般的なパネルは目地幅が7mmであるのに対して1mmとし、ホコリや汚れが溜まりにくい構造にした。床と壁のつなぎ目も丸みを持たせたり、ガラス窓のつなぎ目もフラットにしたりといった工夫も施されており、清掃しやすさを追求している。

こうした設備全体とサービスを組み合わせて、同社は「クリーンルーム総合ソリューション」と位置づける。それを体験できるのが、今回解説した再生医療技術支援施設というわけだ。

家電の会社からソリューションの会社へ

日立アプライアンスは日立製作所の100%子会社で、2019年4月には日立コンシューマ・マーケティングと合併し、新会社を発足する予定だ。新会社は売上高5,000億円以上、従業員1万人以上の企業となり、家電、照明・住宅設備機器の開発、製造、販売、エンジニアリングおよび保守サービス、冷凍・空調機器の販売および保守サービスを展開することになる。

現在の日立アプライアンスの主力事業は白物家電であり、新会社になっても家電事業が売上高の約5割強を占める見込み。一方で空調システムの販売、保守などが4割強を占め、その多くがBtoBといえる店舗・オフィス向けエアコン、設備用パッケージエアコン、ビル用マルチエアコン、チラーユニットをはじめとする業務用冷凍・空調設備など。BtoBの空調システムでは、すでに多くの実績がある企業ともいえるのだ。

同社には、家庭向けルームエアコン「白くまくん」をはじめとする空調製品の開発、生産を、グループの日立ジョンソンコントロールズ空調に移管した経緯もある。2015年10月に設立した日立ジョンソンコントロールズ空調は、ジョンソンコントロールズが60%、日立アプライアンスが40%の株式を保有しており、ルームエアコンのほか業務用冷凍・空調設備、大型冷熱システム、圧縮機などの事業に取り組んでいる。

日立アプライアンスは、日立ジョンソンコントロールズ空調が開発、生産した空調関連製品の販売を行っており、今回の再生医療技術支援施設でも日立ジョンソンコントロールズ空調の冷凍機を使っている。

記事初出時、日立アプライアンスの会見での説明に従い、日立ジョンソンコントロールズ空調の製品をまったく使用していないと記載していましたが、その後、新晃工業の空調機の熱源に日立ジョンソンコントロールズ空調製の冷凍機を使用していることがわかり、本文を修正をしました。(2018年12月11日18時)

今回のクリーンルーム総合ソリューションは、前述のように米STERISや日軽パネルステムをはじめとする様々な企業の設備機器を導入し、再生医療用キャビネット、セルソーターといった調製に必要とされる各社の機器、さらには、日立ジョンソンコントロールズ空調の技術、日立アプライアンスのIoTソリューションであるExiidaによる監視サービス、そして、設備の施工までを組み合わせた提案となっている。同社が単なる機器販売から、ソリューション販売としての事業展開を開始するきっかけになる。

新会社の新たな柱に、単品売りからの脱却を目指す

今回のクリーンルーム総合ソリューションおよび再生医療技術支援施設では、注目すべきポイントを3つ挙げることができる。

1つは、2019年4月からスタートする新会社で、第2の柱にすると宣言していた「ソリューション事業の創生」における最初の製品として、このクリーンルーム総合ソリューションが位置づけられたことだ。

この「ソリューション事業の創生」では当初、具体的な取り組み項目としてスマートライフ事業の創生、スマートシティおよびスマートホーム事業の立ち上げを掲げていたが、新たに、今回のような再生医療分野向け製品が加わったことになる。

日立製作所 生活・エコシステム事業統括本部長 兼 日立アプライアンス社長の徳永俊昭氏

日立アプライアンス社長(日立製作所 生活・エコシステム事業統括本部長を兼任)の徳永俊昭氏は、「日立グループでは、世界中の人々のQoL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させる取り組みを重視している。それは家電事業もソリューション事業も同じ」と前置きし、「スマートシティやスマートホームも、直接的な取引相手は企業だが、その先にいる人々の生活を豊かにするビジネス。再生医療分野も製薬会社や病院、研究所などが対象のビジネスになるが、その先には人がいて、人々の健康に貢献できる。つまり、QoLを高めるために重要な取り組み」と説明している。

2つめは、単品売りからの脱却という、新会社が目指す方向性に則ったビジネスであるという点だ。

プロダクト事業の強化および拡大は、新会社でも引き続き重視はするものの、目指すビジョンは「生活ソリューションカンパニー」だ。サービスとの組み合わせや、日立グループの企業、外部企業との連携による新たなソリューションの創出によって、これを実現しようとしている。

クリーンルーム総合ソリューションは、日立アプライアンスや日立グループの企業が開発、生産した製品を販売するというよりも、他社製品を組み合わせた提案や、日立アプライアンスが持つ遠隔監視サービスなどを組み合わせた運用および保守などの提案が柱になっている。実際、再生医療技術支援施設では、「HITACHI」のロゴが入った機器をほとんど見かけない。

米STERIS製の過酸化水素滅菌装置
新晃工業製の空気調和機
調製室には、非接触型の生体認証システムを採用
滅菌グレードに応じて部屋を色分け。扉も確実にロックできる構造を採用
作業を行う日立産機システムの再生医療用キャビネット
ソニー製のセルソーターを導入

「細胞操作や培養などの作業品質の安定化と、安全性を追求した環境を、ソリューションとして提供することになる」(日立アプライアンス 空調サービスシステムエンジニアリング本部 東日本システムエンジニアリング部の佐藤祐一担当部長)とし、機器販売のビジネスではなく、ソリューション型ビジネスであることを強調する。

これも、日立アプライアンスにとっては、これまでにあまり例がなかった新しいビジネスの形だといえる。

キーワードは「協創」、施設の立地にも意味がある

最後の3つめは、「協創」を重視した拠点づくりをしているという点だ。

今回の再生医療技術支援施設は、236平方メートルの面積を持ち、最新設備の導入などに約2億円を投資した。それを製薬会社のほか、大学や研究所などのアカデミア分野、関連学会や団体などが無料で利用できるようにしている。東京・日本橋という立地を選んだのも、製薬会社が集中しているエリアだからだ。

すでにアカデミア関係で約20社、製薬会社で約5社、学会による見学申し込みが2件あるなど、あわせて30件程度の問い合わせがあるという。

日立アプライアンス 空調サービスシステムエンジニアリング本部 東日本システムエンジニアリング部の佐藤祐一担当部長

「利用はすべて無料。再生医療に必要な環境を確認したいという導入見込み顧客の利用だけでなく、空いていれば、実際に培養などの作業を行いたいという要望に対しても、無料で貸し出すことを考えている」(日立アプライアンスの佐藤担当部長)としている。

最新の設備が整っている施設だけに、製薬会社や研究機関に、有料で貸し出すことも可能だといえるが、あくまでも、「儲けない施設」というのが基本方針だ。

「顧客の声を収集して、それを製品やサービスの創出に反映。さらに、実験を繰り返すことで、最適な除菌のサイクルを導き出したり、国内外のメーカーの機器との組み合わせやサービスとの組み合わせなどによって、新たなソリューションを生み出すための協創の場として、積極的に活用したい」(同)と語る。

総合すると相当な規模の投資になっており、再生医療分野における「協創」にかける日立アプライアンスの本気ぶりが伝わってくる。

再生医療分野への取り組みは、「生活ソリューションカンパニー」を目指すとした日立アプライアンスにとって、その枠から離れているように見えるが、ストライクゾーンのひとつに位置づけた。再生医療技術支援施設への積極的な投資姿勢からもそれは明らかだ。

日立の家電会社が目指すソリューションビジネスの新たな姿のひとつが、公けになったといえる。