知って納得、ケータイ業界の"なぜ"

ファーウェイを巡る米中摩擦、その背景に5Gの攻防

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第32回

ファーウェイを巡る米中摩擦、その背景に5Gの攻防

2019.02.13

ファーウェイら中国勢排除の流れが米国から日本にも

一般消費者には直接影響ないが、キャリアは深刻

米国が懸念したのは「5G」時代のセキュリティ

2018年末から、米国がファーウェイなど中国の通信機器メーカーを排除する動きを進めている。日本にもその波が及び、5Gでは中国メーカー製の通信設備が導入できなくなるとも言われているが、この問題はいつまで続くのだろうか。

消費者に影響はないがキャリアには大きく影響

2018年12月、ファーウェイの副会長兼CFOである孟晩舟氏がカナダで拘束されたことを期として、ファーウェイを巡る米国と中国との対立が表面化。米国が自国だけでなく、同盟国にもファーウェイなど中国メーカー製の通信設備を導入しないよう要請するなど、国際問題となって通信業界に大きな影響を与えている。

その影響は、米国の同盟国である日本にも及んでいる。日本政府が2018年12月20日に、政府のIT機器調達に関して「IT調達に係る国の物品等又は役務の調達方針及び調達手続に関する申合せ」を公表しているが、具体的な国や企業の名前は記載されていないものの、その内容からこれが事実上、政府調達から中国メーカーの排除を示す指針なのではないかと言われている。

2018年末に連日その動向が報道されたことから、一連の問題に関しては記憶に新しい人も多いことだろう。ただ今回の出来事で、スマートフォンなどコンシューマー向けのファーウェイ製品の販売を政府が禁止した訳ではないし、ファーウェイ製端末からセキュリティ上明確な問題が見つかったという事実もない。今回の問題が一般消費者に直接影響を与えるものではないことは覚えておくべきだ。

ファーウェイは2019年にも新機種「HUAWEI nova lite 3」を発売。一般消費者が手にするスマートフォン関連の事業に大きな影響が起きている訳ではない

ただ通信設備を導入するキャリアとなれば話は別である。例えばソフトバンクは、既にコアネットワークの一部にファーウェイやZTEなどの設備を導入していることから、政府の方針によっては、それら設備を排除しなければならないだろう。もし置き換えをするならば、10億円程度の投資が必要になるとのことだ。

またNTTドコモも、5Gに関する実証実験などを通じてファーウェイと関係を深めようとしていた。だが一連の出来事によって政府から何らかの方針が示されれば、ファーウェイからの機器調達も難しくなる可能性が高い。

ドコモは5Gに関する実証実験を実施するなど、ファーウェイとの関係を深めていた

米国側の懸念は5G時代のセキュリティか

しかしなぜ、米国は関係各国に影響を及ぼすほど、中国メーカーの通信設備を排除することに躍起になっているのだろうか。その背景には次世代通信規格「5G」を巡るセキュリティが大きく影響している。

4Gまでは携帯電話のネットワークの影響する範囲が、フィーチャーフォンやスマートフォンなど“個”のデバイスに限られていた。それゆえセキュリティの脅威が及ぶ範囲も、そうした個のデバイスに限られている。だが5Gになると、IoTの主要なネットワークに5Gが活用されると言われており、その影響範囲は自動運転車や遠隔医療、ドローンやスマートシティなど、今後の社会を構成する非常に多くの場面に及ぶ。

KDDIが愛知県で実施した5Gの自動運転車の実証実験より。5Gのネットワークはスマートフォンだけでなく、自動運転やドローンといった、より幅広い分野に用いられる可能性があるのだ

そうした5Gの時代に、ネットワーク上の機器にセキュリティ上の問題があったとなれば、その影響はスマートフォンから個人情報が盗まれるのとは比較にならない規模になる。それゆえ5Gの基幹ネットワークに、同盟国ではない中国の通信設備が多数入り込むことを米国側は懸念した可能性があるだろう。

ソフトバンクの代表取締役副社長執行役員兼CTOである宮川潤一氏は、同社が上場した時の記者会見で「4Gと5Gでは基地局の仕組みが違う。5Gでは基地局で情報を取るという仕組みはあり得ると思っている」と話している。そうした技術的な要素の変化も、米国側の懸念を高めている要因になっていると考えられる。

とはいえ現状、ファーウェイの製品でセキュリティ上何らかの問題が起きたという明確な事例はない。それだけに米国側は、政治的手段に打って排除に出るという、強引な措置を取る必要に迫られたといえそうだ。

ソフトバンク上場会見に登壇する宮川氏。5Gでは4Gと比べ技術的に変化しており、それがセキュリティ上の脅威となる可能性があると話している

そうしたことから中国メーカーの通信設備を排除する動きが本格化するのは4Gからではなく、5Gからとなる可能性が高いだろう。実際、日本政府が年末に打ち出した先の申合わせは、総務省が公表したキャリアが5Gの電波を獲得する上で求められる条件などが記述されている「第5世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設に関する指針」でも留意が求められている。

2つの大国間に関わる政治的な摩擦が大きく影響しているだけに、この問題が早期に解決する可能性は低いと言わざるを得ない。もし今後も両国間の緊張が高まり、政治的な対抗措置の応酬がなされるようであれば、5Gだけでなく今後の通信技術の発展にも大きな影響が出かねないだけに、一層の懸念がなされるところだ。

SIMを内蔵した「eSIM」対応のスマートフォンがなかなか増えない理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第31回

SIMを内蔵した「eSIM」対応のスマートフォンがなかなか増えない理由

2019.02.05

新型iPhoneで話題になった「eSIM」、普及してない?

実はスマートフォン以外の通信端末で多く採用

ユーザーは便利でも、電話会社はメリットが薄く消極的

スマートフォンなどの本体に直接SIMを組み込んだ「eSIM」を採用する機種が登場してきている。SIMの抜き差しが不要で、スマートフォン上でサービスの契約を完結できるeSIMは非常に便利なものだが、対応する端末がなかなか増えないのはなぜか。

スマートフォン以外の採用機種は増えている

2018年に発売されたiPhoneの最新モデル「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」に、新たな要素として追加され話題になったのが「eSIM」(embedded SIM)である。これら3機種にはいずれも通常のSIMスロットとは別に、本体にもう1つSIMが内蔵されており、見た目には分からないがデュアルSIM構造となっているのだ。

2018年に発売された「iPhone XS」「iPhone XS Max」などには、通常のSIMスロットに加え、内蔵型のSIM「eSIM」も搭載されている

そしてeSIMを用いることで、通常契約しているキャリアとは別の通信サービスの利用が可能になる。例えば、世界中で利用できる海外用のプリペイド通信サービス「GigSky」などは、eSIMに対応したiPhone用のアプリを提供しているので、海外を訪れた際はここからGigSkyのプリペイドのプランを契約して、通常のSIMを挿入した状態のままGigSkyによるデータ通信が利用できる。

eSIMが内蔵されたiPhone XSからGigSkyのアプリを使えば、料金プランを選んでお金を支払うだけで、SIMを差し替えることなく海外で通信ができる

日本ではまだなじみが薄いように見えるeSIMだが、実はスマートフォン以外であれば既にいくつかの端末に採用されている。その代表例となるのが「Apple Watch」で、Series 3以降にはeSIMを搭載したモデルが用意されており、NTTドコモの「ワンナンバーサービス」など携帯大手3社が用意した専用のデータ通信プランを契約することで、iPhoneに接続する必要なくApple Watchだけで通話や通信ができるようになる。

同様に、eSIMを採用した端末として2018年に登場したのが、スマートフォンが近くになくても電話が受けられる、スマートフォンの子機というべきNTTドコモの「ワンナンバーフォン」。こちらもeSIMが採用されており、Apple Watch同様ワンナンバーサービスを契約することで利用可能になる。

スマートフォンの右隣にあるのが、eSIMを搭載したNTTドコモの「ワンナンバーフォン」。スマートフォンに接続する必要なく、単体でスマートフォンにかかってきた電話が受けられる

だが現在、国内ではeSIM端末専用のプランやサービスは用意されていても、スマートフォン向けの通常の料金プランをeSIMで契約することはできない。実際にSIMを抜き差ししたことのある人なら分かると思うが、非常に小さいSIMを本体に挿入する作業には専用のピンが必要になるし、利用を開始するにもさまざまな設定が必要であるなど、面倒な手間がかかる。そうしたユーザーの負担を減らす上でも、eSIMは非常に便利な存在であるはずなのだが、携帯電話会社側が積極的に対応しないのはなぜだろうか。

携帯電話会社にとってeSIMの採用メリットは少ない

それにはeSIMが誕生した経緯が大きく影響している。そもそもSIMカードを内蔵するというニーズが生まれたのは、M2M(機械間通信)、現在でいうところのIoT機器のような、通信機能を備えた機器を開発する法人からの強いニーズがあったためなのだ。

理由はSIMの管理の面倒さにある。例えば通信機能を搭載した自動車を大量に製造して世界各国に輸出し、それぞれの国で通信機能を利用できるようにするには、1台1台にそれぞれの国に対応したSIMを物理的に挿入する必要がある。しかも自動車とは別にSIMの管理もする必要があり、非常に手間がかかってしまう訳だ。

そうした法人の手間を減らすため、製造段階であらかじめSIMを組み込み、輸出後に各国のキャリアの契約情報を遠隔で書き換えるという、現在のeSIMの発想が生まれ標準化が進められていったのである。eSIMであれば必ずしもSIMカードのサイズにこだわる必要はなく、より小型のICチップにして機械に直接はんだ付けすることも可能なことから、機器の小型化や耐久性を高めることにも貢献できるというメリットもある。

eSIMは必ずしもSIMカードの形状をしている必要はなく、機器に内蔵しやすいようより小型のチップ状のものが多く用いられている

だが携帯電話会社の側からしてみた場合、遠隔で契約情報を書き換えるというeSIMの仕組みは、確かに法人のニーズを満たす上では便利なものだが、コンシューマー向けとなるとユーザーが契約だけでなく解約も簡単にできてしまうため、ほとんどメリットがない仕組みでもあるのだ。それゆえ法人向けと比べると、スマートフォンなどのeSIM対応サービスはあまり積極的に進められていないのである。

しかしながらアップルだけでなく、グーグルも「Pixel」シリーズで、海外では既にeSIM搭載モデルを投入している(日本向けの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」では未採用)など、いまメーカー側からeSIMの採用を積極化する動きが進んでいる。最近でも中国のスマートフォンメーカーであるMeizuが、表面だけでなく側面からも端子やボタンを廃止したスマートフォン「Zero」を発表し話題となったが、この端末もSIMスロットを廃止するため、eSIMを採用しているのだ。

日本ではeSIMが搭載されていないグーグルの「Pixel 3」だが、実は海外向けのモデルはeSIMが搭載されている

ユーザーの利便性を高めたり、スマートフォンのデザインをよりよくしたりする上でも、今後メーカー側がeSIMを採用する動きは一層高まってくるだろうし、そうした端末が増えるとともに携帯電話会社側も何らかの対応が迫られることとなるはずだ。海外ではeSIMに対応したサービスを提供する携帯電話会社が徐々に増えてきているが、日本でもeSIMへの積極的な対応に期待したいものだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。