知って納得、ケータイ業界の"なぜ"

なぜ総務省は「分離プラン」の導入に強くこだわるのか

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第27回

なぜ総務省は「分離プラン」の導入に強くこだわるのか

2018.12.07

総務省が携帯料金の「分離プラン」導入を強く提言

実は10年前にも分離プランは議論、導入されていた

再び「官製不況」の悪夢? 同じ轍を踏む可能性も

総務省の有識者会議で、携帯電話のキャリア各社に分離プランの導入を求めることなどを盛り込んだ緊急提言案が公表された。菅義偉官房長官の発言に端を発した、料金値下げの切り札とされる分離プランの導入だが、なぜ行政はこれほどまで熱心なのだろうか。

総務省が緊急提言案で分離プラン導入を要請

2018年8月に、菅官房長官が携帯電話料金の値下げに言及して以降、料金に関する大きな動きが相次いでいる携帯電話業界。その発言を受けて新たに実施されたと見られる総務省の有識者会議「モバイル市場の競争環境に関する研究会」で、2018年11月26日に「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」という緊急提言案が公表された。

この緊急提言案で言及している要素はいくつかあるのだが、中でも注目されているのは通信料金と端末代金の完全分離、俗にいう「分離プラン」の導入をキャリアに要求していることにある。

総務省が2018年10月より実施している「モバイル市場の競争環境に関する研究会」。11月には分離プランの導入などを求める緊急提言案を打ち出している

これまで携帯電話の料金は、通信料金と端末代を一体にし、毎月の通信料金に端末代の値引き分を上乗せすることで、「実質0円」など端末価格を大幅に値引いて販売してきた。この仕組みによって日本では高性能の携帯電話やスマートフォンがいち早く普及し、多くの人たちが最先端のネットワークやサービスを利用できるというメリットをもたらしたのだが、一方でいくつかの問題点も生み出していた。

その1つは、端末を頻繁に買い替える人は大幅値引きの恩恵を受けて得をするが、同じ端末を長く使う人は値引きの恩恵が受けられず損をするという、不公平感があること。そしてもう1つは、端末の割賦や長期契約を前提とした割引が複雑に絡み合っているため、料金の仕組みが分かりづらく、解約や他社への乗り換えがしづらいことである。

そこで通信料金と端末代を完全に分離し、通信料金への端末代の上乗せを禁止することで、毎月の通信料金を安くし、シンプルで公平な料金を実現したいというのが、緊急提言案の背景にある総務省の考えだ。分離プランの導入だけでなく、KDDI(au)の「アップグレードプログラムEX」に代表される、4年間の割賦を前提とした買い方プログラムに関しても、機種変更が値引きの条件となることで契約を強く縛るとして、抜本的な改善を求めている。

分離プラン自体は既にauとソフトバンクが導入しており、NTTドコモが2019年春の導入を発表している。だがこの提言案が通れば、キャリアは通信料金を原資とした端末の値引きが一切できなくなるため、最新のネットワークやサービスを利用できる高性能な端末を、自ら安価に販売して広める手段を完全に失うこととなる。ビジネスの大幅な転換を迫られるのは必至だろう。

NTTドコモは分離プランを軸とした新しい料金プランを2019年春に導入すると発表している

しかしなぜ、総務省はそれほどまでに分離プランの導入を強く要求しているのだろうか。その理由は、分離プランの導入が総務省、ひいては行政にとって“10年越しの悲願”だからである。

10年前からなされていた分離プラン導入の議論

実は総務省が分離プランに言及したのは2007年のこと。当時開かれた有識者会議「モバイルビジネス研究会」で、既に分離プランの導入に関する議論がなされていたのだ。

2007年といえば、iPhoneが日本で発売される直前の“スマートフォン前夜”で、「iモード」に代表されるように、キャリアがネットワークだけでなく端末、サービスの全てを用意する、垂直統合型のビジネスを展開していた頃だ。そのため携帯電話市場におけるキャリアの影響力が非常に強く、市場構造が硬直化し寡占が進んでいたことを総務省が問題視していた。より多様なビジネスができるよう、MVNOの参入や分離プランの導入、SIMロックの解除などについて議論がなされていたのだ。

さらに言うと、このモバイルビジネス研究会ではキャリアが分離プランを導入するべきという結論に至っており、それを受けて大手キャリアは一度、分離プランを本格的に導入したことがあるのだ。実際2007~2008年にかけての、NTTドコモの「バリュープラン」やauの「シンプルプラン」などで、分離プランの本格導入がなされている。

だがその後、分離プランの存在は薄くなり、再び通信料金と端末代の一体化が進んでいく。その理由の1つは、分離プランの導入によって端末代の値引きがなくなり、携帯電話の販売台数が激減したことだ。

実際、電子情報技術産業協会(JEITA)の発表によると、分離プランの導入が本格化した2008年度の国内携帯電話の出荷台数は3,585万と、2007年度の出荷台数(5,167万)からたった1年で3割以上減少している。このことが国内の携帯電話メーカーの弱体化につながる一因となっただけでなく、分離プランが「官製不況」と呼ばれ、総務省が批判されることにもなった。

そしてもう1つは、その後スマートフォンが爆発的に普及したこと。大手キャリアがスマートフォンの販売に力を入れ他社から顧客を奪うべく、実質0円、一括0円どころか5万円、10万円ものキャッシュバックが飛び交う激しいスマートフォンの値引き合戦を繰り広げ、分離プランの存在が薄れていったのだ。そうしたキャリアの過剰な端末値引きが行政の怒りを買い、結果的に今回の緊急提言案に至った大きな要因の1つにもなっている。

ちなみにモバイルビジネス研究会が実施されていた当時の総務大臣は現在の菅官房長官であり、現在の総合通信基盤局長である谷脇康彦氏は、当時は総合通信基盤局の事業政策課長として、モバイルビジネス研究会に大きく関わっていた。そうした意味でも、今回の緊急提言案と分離プランの導入は、行政側にとって10年越しの悲願だったといえる訳だ。

だが一方で、端末メーカーにとっては、10年前に起きた官製不況が再び訪れることが確実な情勢にもなっている。2020年に次世代の「5G」ネットワーク導入が見込まれる中、それに対応するスマートフォンの販売が不振などとなれば、5Gの普及にも大きな影響を与えかねない。それだけに分離プラン導入の成果だけでなく、その反動による影響がどのような形で浮かび上がってくるのかにも、しっかり注視しておく必要がある。

グーグルスマホのブランドが「Nexus」から「Pixel」に変わった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第26回

グーグルスマホのブランドが「Nexus」から「Pixel」に変わった理由

2018.11.26

話題の新グーグルスマホ「Pixel 3」が日本上陸

グーグルのスマホはそもそも「Nexus」じゃないの?

ブランド変更の背景に実は大きな戦略転換

グーグルが日本で新しいスマートフォン「Pixel 3」シリーズを発売し、話題となっている。グーグルはかつて「Nexus」というブランドで日本でもスマートフォンを提供していたが、なぜNexusからPixelへとブランドを変えるに至ったのだろうか。

米国に続き日本でも発売されたPixelシリーズ

2018年11月1日、グーグルは自社開発の新しいスマートフォン「Pixel 3」「Pixel 3 XL」を、日本で発売した。Pixel 3/3 XLはそれぞれ5.5インチ、6.2インチの有機ELディスプレイを搭載したスマートフォンで、最新のAndroid OSである「Android 9 Pie」を搭載するほか、AI(人工知能)やAR(拡張現実)など、グーグルの最新技術をふんだんに活用してカメラ機能を強化していることが、大きな特徴となっている。

グーグルの「Pixel 3」。カメラを中心として、グーグルの技術を積極的に取り入れた高機能ぶりが特徴だ

実はPixel 3/3 XLは、その名前が示す通り、グーグルのPixelシリーズ・スマートフォンの第3世代に当たる。米国などでは2016年に初代「Pixel」、2017年に「Pixel 2」を発売しているのだが、日本では発売されなかった。そのため特に最新のAndroidを使いたい人達などを中心に、Pixelシリーズの日本発売を切望する声が多く上がっていた。

だがグーグルは、それまで国内で沈黙し続けていたのが嘘のように、Pixel 3/3 XLの発表前後には積極的なプロモーションを展開した。今後は日本でも、積極的にPixelシリーズを販売していこうという姿勢がうかがえる。

しかしグーグルのスマートフォンといえば、かつて日本でも「Nexus」シリーズが販売されていたことを、覚えている人も多いのではないだろうか。グーグルはPixelシリーズのスマートフォンを投入する以前、Nexusブランドでさまざまなメーカーと協力しながら、独自のスマートフォン開発を推し進めていたのである。

グーグルのスマートフォンといえば、かつては「Nexus」ブランドであった。日本でもいくつかNexusブランドのスマートフォンが販売され、注目を集めた時期がある

コストパフォーマンスの良さで人気となった「Nexus 5」や、イオンリテールが販売して「格安スマホ」の礎を作り上げた「Nexus 4」など、日本でも大きな注目を集めた端末がいくつか登場している。

だがグーグルは、2015年の「Nexus 5X」「Nexus 6P」でNexusシリーズを終了させており、2016年からはブランドをPixelに切り替えている。なぜ、グーグルはスマートフォンのブランドを変える必要があったのだろうか。

グーグルのハード戦略転換がブランドにも

その理由はスマートフォン、ひいてはグーグルのハードウェア戦略の大きな変化にある。インターネットサービスを主体としているグーグルは、元々ハードウェアを直接手掛ける企業ではなく、スマートフォンに関してもOSとなるAndroidと、その上で動作するアプリやサービスに注力していた。

それゆえNexusシリーズは、主としてアプリ開発者に向け、Androidの最新OSが利用できる標準モデルとして販売するという意味合いが強かった。実際Nexusシリーズで最も重視されたのは純粋なAndroidが動作することであり、それ以外の余分な機能は基本的に省かれていたことから、一般利用者向けとしては機能面で物足りなさがあった。

だがグーグルは、その後インターネット上だけでなく、実生活のリアルな場面でも利用できるサービスの提供に力を入れるようになってきた。実際、グーグルは近年、話しかけるだけでさまざまな情報を引き出せる音声アシスタントの「Googleアシスタント」や、スマートフォンを用い店頭でも使える決済サービスの「Google Pay」など、インターネット上で完結するのではなく、実生活での利用を想定したサービスに力を入れている。

しかしながらリアルに向けたサービスを提供するには、それを利用するためのハードも一体で作り上げていく必要がある。そこでグーグルは、2014年に、サーモスタットで知られるベンチャー企業のNestを買収したことを皮切りに、自社サービスが利用できるハードウェアにも力を入れようと戦略転換を図っているのだ。

グーグルの戦略転換を象徴しているものとして、日本では2017年に発売されたスマートスピーカーの「Google Home」が挙げられるが、実は初代Pixelが世の中に登場したのは、Google Homeと全く同じ2016年なのである。日本上陸のタイミングがずれたことでピンと来ないかもしれないが、グーグルは2016年から、自社でハードとソフトを一体にして提供するという戦略に大きく舵を切っていたのだ。

グーグルのハードウェア戦略の転換を示した「Google Home」。日本では2017年に発売されているが、米国などではPixelと同時期に発売されている

さらにグーグルは2018年、スマートフォンメーカーである台湾HTCのスマートフォン事業の一部を買収した。こうした動きからも、グーグルがハードウェア、ひいてはPixelに一層力を入れようとしていることは見て取れる。はたしてグーグルの思惑通り、スマートフォン市場で存在感を高められるかどうか、今後が大いに注目されるところだ。

なぜ携帯キャリアは「大容量プラン」を推進するのか

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第25回

なぜ携帯キャリアは「大容量プラン」を推進するのか

2018.11.22

続々と登場する携帯キャリアの大容量プラン

通信技術の向上により大容量通信を下支え

大容量プランを展開する各社の思惑とは?

ソフトバンク・KDDI(au)・ドコモは2016年頃より、データ通信量が20GBを超える大容量プランの提供に力を入れるようになった。この流れは年々進んでいき、今年新たに発表されたプランを見ても、通信量をさらに追加したものや、動画・SNSの通信量をカウントしないものなど、大容量化を進めるものがほとんどであった。そこには通信技術の向上だけでなく、各社の思惑も。

20GB以上のプランにさまざまなオプションを付随

ここ最近、毎年のように大きな変化が起きている大手携帯キャリアの料金プランだが、2018年も大きな動きが相次いだ。その1つはKDDIの「auフラットプラン25 Netflixパック」だ。

これは20GBの通信量が利用できる「auフラットプラン」に、映像配信サービスの「Netflix」と「ビデオパス」をセットにし、さらに5GBの通信容量を追加したもの。別途契約を必要とせずにNetflixが利用できる上に、別々に契約するよりもお得な料金で利用できるのが特徴だ。

auが8月に投入した「auフラットプラン25 Netflixパック」。25GBのデータ通信と、Netflixなどの映像配信サービスがセットで利用できるプランだ

もう1つは、ソフトバンクの「ウルトラギガモンスター+」。これは通信容量が50GBの「ウルトラギガモンスター」に、YouTubeやHulu、AbemaTVなど、計8つのサービスを利用した時の通信量をカウントしない「カウントフリー」の仕組みを付け加えたものだ。

いずれのプランにも共通するのは、通信容量が非常に大きいこと。数年前には5~7GB前後の通信容量が主流だったことを考えると、その数倍もの容量を誇る最近のプランはいわば「使い放題」にも近い。

通信量の20GB超えは、今となっては驚く話ではなくなった。だが、2016年頃までの大容量プランといえば、通信料金だけで月額1万円を超える非常に高額なもので、「契約したくでもできない」ものであった。それが手ごろな料金となり、多くの人に利用されるようになったきっかけは、2016年にソフトバンクが「ギガモンスター」を投入したことである。

ギガモンスターは、20GBのデータ通信を月額6,000円で提供した。基本料金を加えても月額1万円を切る安さで注目を集めた。その後KDDIやドコモも同様のプランを提供するようになり、以後大手キャリアの利用者には20GB以上の大容量プランが広く浸透するようになった。

手ごろな価格で大容量通信が利用できるプランの先駆けとなったのは、ソフトバンクが2016年に提供開始した「ギガモンスター」である

本音は通信料収入の維持拡大

使える通信容量が大きければ、大容量通信が必要なサービスを安心して利用できる。通信量を気にしてWi-Fi環境下でしか利用しなかった動画サービスを、今ではLTE環境下でも抵抗なく利用するようになったユーザーも多いことだろう。大容量プランの登場が、スマートフォンで利用するネットサービスの幅を広げたのは確かだ。

しかし、なぜキャリアは大容量プランの低価格化を推し進めたのか。その理由の1つが、技術の進化によって、低コストでの大容量通信の実現が可能になった点にある。

キャリア各社は、複数の電波を束ねることで高速かつ大容量の通信を可能とする「キャリアアグリゲーション」や、小型の基地局「スモールセル」の設置による負荷分散などといった4Gの技術に加えて、多数のアンテナを用いて個々の端末に直接電波を飛ばすことで、大容量通信を実現する「マッシブMIMO」など、次世代移動通信システムの5Gに用いられる技術の一部も先取って活用することで、大容量プランの提供を実現している。

ソフトバンクはギガモンスターの導入に当たり、多数のアンテナを用いて通信容量を増やす「マッシブMIMO」の技術を導入したことを明らかにしている

だが、大手キャリアの一番の目的は、下落傾向にある通信料収入を回復させることである。MVNOによる低価格なモバイル通信サービスの台頭によって、最近の大手キャリアは、低価格なサブブランドに力を入れたり、MVNO自体を買収したりするなど、低価格サービスの充実に力を入れるようになった。

その結果、顧客の流出を抑えることはできたものの、これまで高額な料金プランを契約していた人達が、キャリア自身が用意した低価格サービスへと流れる動きを強める結果にもなってしまった。そのことがキャリアの通信料収入を引き下げる要因へとつながっている。

キャリアにとって通信料金は収入の柱であるだけに、低価格化の進行は業績悪化に直結してしまう。そこで、高価格なサービスの魅力を高めることによって低価格サービスへの流出を防ぎ、ARPU(average revenue per user:顧客一人あたりの平均売上高)を下げ止めるために、通信量を大幅に増やした。これが、大容量プランが生まれた理由と見られる。

ここで気になるのは、大手キャリアが大容量プランだけでなく、利用した通信量に応じて毎月の料金が変化する、“段階制の料金プラン”も積極的にアピールしはじめたことだ。これはどちらかというとスマートフォン初心者に向けたものという位置付けと捉えられる。行政による低価格化の圧力によって生まれた側面も多分にあるだろう。それだけにキャリアとしては、段階制よりも魅力が大きく値段が高い、大容量のプランを多くの人に契約して欲しいというのが本音でもあるのだ。