「コミケ有料化」の経緯と“DB”の哲学

カレー沢薫の時流漂流 第20回

「コミケ有料化」の経緯と“DB”の哲学

2018.12.17

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第20回は、盆暮れにやってくるオタクの祭典「コミケ」の有料化について

来年の話になるが、2019年からコミケことコミックマーケットが有料化するそうだ。

このニュース、「ガタッ」と席を立った人と興味ゼロな人、真っ二つだと思う。私だって「渋谷ハロウィン有料化」と言われたら、「別にいいんじゃないすか、知らんけど」と答えるだろう。

コミケの「入場料」、参加者の反応は

まずコミケとは同人誌即売会の事である。よく知らない人からすれば、アニメや漫画のキャラクターを使った破廉恥極まる漫画、すなわちDB(ドスケベブック)が並んでいる場所というイメージがあるかもしれないが、その印象はまったく間違っていない。

しかしDJB(ドスケベじゃないブック)もあるし、手作りのグッズやアクセサリーを売っている人もいる。また企業の参加も多く、もはや、どんたくやねぶたに並ぶ大きな「祭」と言っていいだろう。

そのコミケだが、東京オリンピックの影響を受けて、長らく会場として使っていた東京ビッグサイトが使えなくなり、中止になるのではという噂があった。結局、中止されることはなかったが、東京ビッグサイトと青海展示場の2か所を会場とし、期間を4日にして開催される予定のようだ(従来は3日)。

しかし、従来のコミケより規模を縮小することには変わりなく、収益は例年より減るのに、警備費などの費用がいつもよりかかると予想されており、DBなどを売る側である「サークル」から徴収する「サークル参加料」だけでは採算がとれないので、買う側である一般入場者側からも金をとることにしたようだ。

これに関しては概ね「仕方ない」という反応が多いそうだ。虎穴に入らずんば虎児を得ずと同じように、入場料を払わなければDBを得られないと言われれば払うしかない。また、そうしないとコミケ自体が成り立たないと言うなら、参加者として協力せざるを得ないだろう。

だが、オタクが金を惜しまないのはあくまでDBもしくはDJB本体に対してだけだ。DBを買う時に「値札を見る」というのは「集中力に欠ける」としか言いようがない。表紙の破廉恥極まる推しの姿以外が視界に入るようではまだ青い。

また、同人誌即売会で売られる本というのは「数に限りがある」。よって目当ての本というのは「買えるか買えないか」でしかなく、「いくらか」は関係ない。

たとえページ数に対し割高な値段であろうとも、どうせ明日には転売野郎が同じ商品を法外な値段でオークションに出すのだ。それだったら相場の何倍だろうが、「目が眩むほど推しを破廉恥に描いてくださったご本人」の懐に入ってくれた方がありがたい。むしろその金を元手にもっと描いて欲しい。

別の例で言えば、ライブのチケットでも、まずチケットが取れたことが嬉しく、チケット代がいつもより安いとか高いとかはあまり考えないだろう。しかしイープラスなどに払う「手数料」までどうでも良いかというと、「てめえはダメだ」という人も多いのではないか。

コミケも、その入場料でDBが1、2冊多く買えたと思えば、惜しいと感じなくもない。そのため、コミケ有料化自体は容認しても、それを引き起こした東京五輪に対して怨嗟の声をあげている者はいるようだ。

門外漢からすれば「どう考えても東京五輪の方が重要じゃないか」と思うかもしれないが、これは「野球中継でDB(ドラゴンボール)が見られない」のと同じことなのだ。野球という名の東京五輪に興味がない者にとっては、そのせいでDB(ドラゴンボール)という名のDB(ドスケベブック)が買えないとなると、東京五輪を苦々しく思わずにはいられない。

DBとDJBの境界線

だが有料化によるメリットもあるようで、特に「年齢確認が楽になる」といわれている。

当然だが、DBは18歳未満には売ってはいけない。よって、販売時には身分証明書を提示するというのが一応の決まりになっているが、混雑時に一人ひとり確認するのは手間だし、だからと言って確認せず18歳未満に売ってしまったら、売った方が怒られる。

2019年開催のコミケでは、入場料を払った時点で入場者にはリストバンドが渡され、それが2会場の入場券の代わりになる。入場料支払い時点で年齢確認を行い、リストバンドの色などで18歳以上か未満かわかるようにすれば、いちいち売り場で確認しなくても済む。

この18歳以上を示すリストバンドは、私もコミケじゃない同人誌即売会で利用したことがある。入場料を払う時ではなく、入場待機しているところに係の人が回ってきて、「18禁本を買う予定の18歳以上の方は挙手してください」というシステムだった。

「我々はスポーツマンシップに則りエロ本を買います」と選手宣誓をしろということになるが、同人誌即売会に来ておいてDBを買うことを隠したいというのは、ヌーディストビーチに来ておいて「脱がなきゃダメ? 」と言っているようなものだ。

続々と手があがり、その場で免許証などによる年齢確認が行われ、確認が済んだ者には「エロ本買えますリストバンド」が渡された。これは売り場での年齢確認制より格段にスムーズであり、1分1秒を争う会場内では実に便利であった。

コミケでなくても、「ゾーニング」は大きな問題となっている。有料化と2会場化を機に、DBとDJBの線引きがさらに厳格化していくのかもしれない。

面倒くささが先に立つ「軽減税率」のしくみ

カレー沢薫の時流漂流 第19回

面倒くささが先に立つ「軽減税率」のしくみ

2018.12.10

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第19回は消費税増税に伴い実施予定の「軽減税率」について

今回のテーマは「軽減税率」である。

庶民を救う「軽減税率」のはずが…

来年10月、消費税が10%に増税される。この前8%になったばかりやんけ、と思うが、「そうしないと日本ダメです」と言われたら、これからも日本に居座り続ける予定の者としては協力せざるを得ない。

しかし、所得が上がらぬまま税だけ増えれば、当然我々の負担は増加する。特に庶民の生活は圧迫され、スーパーのレジで合計金額が出た後、一つ二つ商品を棚に戻しに行くということが3回に2回は起こるようになるだろう。

そんな庶民や、それよりも苦しい低所得者層を救うという名目で実施を予定されているのが「軽減税率」である。

「軽減税率」とは、消費税が10%となった後も、一部商品だけは8%のままにしようという政策だ。一部商品とは何かというと「肉、魚、野菜、などの生鮮食品」「清涼飲料」「老人ホーム、学校給食」「テイクアウト」「新聞」などである。

要するに、飲食物など生活必需なものを8%のままにすることにより、低所得者層を救おうという作戦だ。その中に何で新聞が入っているのか。生ごみを捨てる時に必需だからか、と思ったが、「報道を味方につけるため」という見方が強い。こんなに露骨でいいのかとハラハラする。

人間食べなきゃ死ぬわけであるから、それらの税率が据え置きというのは一見良いように見えるが、すでにさまざまな問題点が指摘されている。

まずこの軽減税率、低所得者層救済という名目だが、実際に多く恩恵を受けるのは富裕者層と言われている。何故なら、食費にかける金額は富裕層の方が当然高いからだ。

例えば食費に月10万かけている富裕層と、三食うまい棒コーンポタージュ味でやりすごしている層がいるとする。前者の裕福勢の場合、軽減税率により毎月2000円消費税が軽減され、年間2万4000円浮くことになる。

片やうまい棒勢は、うまい棒が10円か11円かで一議論あるが、10円と仮定して、毎月の食費が900円、軽減税率により軽減額は月18円、年間216円である。つまり、裕福勢の方が2万3,784円も多く軽減税率の恩恵を受けているということになってしまう。

例をうまい棒コーンポタージュ味にしてしまったせいで、まったく説明ができてない気がするが、ともかく軽減税率は食費に多く金を使える富裕層の方が、軽減額自体は大きいということである。

「金持ちは恩恵を受けるな、むしろ36%ぐらい多く払え」、というわけではないが、「低所得者層救済」という名目で導入するなら、この軽減税率は適当ではないと言われている。そこを考えてか、低所得者層や子育て世帯に2万円(購入上限額)で2万5000円分の買い物ができる「プレミアム商品券」を配るというが、最大5000円のキャッシュバックで穴埋めできるのだろうか。

バナナは軽減対象に入りますか?

また、それ以前の問題もある。「うまい棒コーンポタージュ味は軽減税率対象に入るのか」という話だ。

実際、あのスポーツドリンクは清涼飲料水なので8%だが、この栄養ドリンクは指定医薬部外品だから10%だと、その線引きは曖昧かつ細かく、多くの飲食物販売店で混乱が起きると言われている。全国で「バナナはおやつに入るのか」というような古代の議論が、大真面目にされるようになってしまうのである。

また、テイクアウトは8%だが外食やイートインは10%なので、イートインスペースがあるファーストフード店やコンビニでは特に大混乱が予想される。

「早い」「手軽」が売りで私たち庶民に密接な関係があるコンビニやファーストフード店が、この軽減税率導入によりスムーズに行かなくなったら、「消費税10%より、コンビニやファーストフード店でもたつくことがムカつく」という事態になり、客が次々とモヒカンになってしまうかもしれない。軽減税率のせいで、庶民の生活が別の意味で圧迫される可能性があるということだ。

そもそも日本は少子高齢化の労働力不足で、コンビニ店員の確保もままならず、外国人労働力に頼らざるを得ないため、外国人や高齢者でも簡単に操作できるPOSレジを導入するなどの工夫をしている。それなのに、ここでさらにコンビニ業務を複雑化してしまったら、ますます働き手を確保できず、「コンビニ20時閉店時代」の到来が早まるだけだろう。

ちなみに軽減税率を導入することにより、全部10%にする場合より1兆円ほど税収入が少なくなってしまうそうだ。その1兆円をどこでまかなうかというと、総合合算制度の見送りやたばこ税、所得税の増税でまかなう予定らしい。

総合合算制度とは医療、介護、保育の負担の合計が一定額を越えたら国が補助をするという制度である。超高齢化社会日本にとっては、医療や介護などを補助してくれる政策の方が大事な気がするが、何故かこちらを見送って、軽減税率を採用するという。

私には理解しえぬ深い理由があるのかもしれないが、私程度の人間の感想としては「もう面倒だから全部10%にしてくれ」という感じだ。

もしかしたら、国民の方から「頼むから全部10%にしてくれ」と言わせるために、この「軽減税率」は存在するのかもしれない。

日本の未来を漠然と描いた「創造社会」に思うこと

カレー沢薫の時流漂流 第18回

日本の未来を漠然と描いた「創造社会」に思うこと

2018.12.03

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第18回は、経団連が発表した「創造社会」行動計画について

何かデカいことを成し遂げたい「第5の社会」

経団連は、日本の社会が目指すあるべき姿を「創造社会」と名付け、その実現に向けた行動計画をまとめたそうだ。(編集注:経団連発表の資料内13Pに「創造社会」の記載あり

まず「創造社会」というネーミングから新しい臭いがまったくしないとゲンナリするかもしれないが、これを「そうぞうしゃかい」と読んだ奴はセンスがない。これは「創造社会」と書いて「Society5.0」と読むのだ。まさに人名ですら字面通り読めなくなっている現代日本にふさわしい方針である。

ではわが日本が目指す「創造社会(Society5.0)」とは何かと言うと、私が前に連載していたコラムで1回取り上げたことがあるのだが、もちろん忘れているので今一度読み返してみたところ「Society5.0のことをまったく理解できないまま書いたんだろうな」ということだけはわかった。

私の理解力が低いこともあるが、Society5.0というのは概要を見ても「イマイチ何をするのか良く分からない」のである。いろいろやろうとしているのはわかるが、具体的に何をするかわからない。総じて「何かデカいことをやろうとしている大学生」感がある。

まずSociety5.0の名前の由来だが、今まで日本は狩猟、農耕、工業、情報と4段階の社会の変遷を経験してきた。これらに続く5番目の社会が「創造社会」というわけである。

狩猟や農耕に比べて創造というのはあまりにも漠然としているので、その内容がうすらぼんやりしているのも致し方なし、と言ったところであり、実際具体的に何をするかは「今後発表」だそうだ。

何をするか決まってから発表した方が良かったのではないかとも思うが、同人誌だって「新刊出します」と発表することで後に引けなくなって新刊が出たりするのだから、「まずデカいことを言う」のは大事なことである。

ともかく「AI」とか「IoT」とかデジタル技術は大きく革新しているので、それをどう生かしていくかという人々の「創造力」が、いま日本にある課題を解決する鍵になるということらしい。

だが、そこに出てくる具体的な例が「3Dプリンター」など、「若干情報が古い」もしくは「既出」なため、この創造社会に対し世間は「期待薄」という反応のようだ。

カレー沢薫、創造の前に「想像」する

このように、創造社会それ自体が「これから創造します」という感じなので、こちらもあやふやなコメントしかできないのだが、人様が考えたことについて「そんなのフォトショップで描いた餅ですよ」と文句をつけるのは、意識の高い小学5年生でもできる。

貴様の住んでいる日本のことなのだから、ダメ出しするだけではなく、お前も「創造しろよ」という話だろう。そういうわけで、今後日本のために個人として何ができるか、創造の前に想像してみることにした。

今の日本が抱えているのは、何をおいても「少子高齢化による労働力不足」である。それに対する解決策として「AI」や「ロボット」には大きな期待が寄せられ、実用化もされているようだが、ロボットなど未だに「二足歩行で拍手喝采」の域なので、これから需要がさらに増えるであろう「介護」などをAIやロボットが完全に行うのはまだ先だろう。

また介護ロボットが実現化しても、何せロボットなので、ご老人の顔に機械的にウエットティッシュを押し付け続けているという事故も起りかねない。つまり人の手は必ず必要なのだ。

その「人の力」が最小限で済むようにAIの活用が肝になるのは確かだが、AI技術の開発に自分が何か役に立てるかというと、AIの基盤組み立て工場で働く以上は無理な気がするし、それすら今はAIがやっているのかもしれない。ともかく、技術開発はできる人に任せておくのが無難だろう。

また、ロボットやAIが進化するまでの間、人間の労働力は必要になるが、人はすぐに増えない。今の日本は出産・育児が大変であり、「増やしやすい環境」とは言えないので、少子化もすぐに解決するとはとても思えない。よって「外国人労働力」はすでに不可欠なものとなっている。

そこでまず、「英語を勉強する」というのはどうだろうか。バカバカしいことを言っているかもしれないが、日本語が不自由な店員に「日本語が喋れないなら日本に来るな」と罵倒する日本人もいるという。しかし、今の日本は外国人に来てもらわないと社会が回らなくなりつつあるのだから、逆にこっちが一番使用頻度が高いであろう英語を覚えるぐらいの姿勢を取った方がいいのではないだろうか。全世界で通じる言語を網羅したいという人は、「ボディランゲージの精度をキレキレにする」というのもある。

外国人労働力の受け入れに関しては、文化の違いなどによるトラブルや治安の悪化が懸念されているが、意志の疎通さえできれば、それも減るはずである。

しかし、私は今ひきこもりで人とまったく喋らないので日本語すら忘れつつあるし、それでなくても生活に精一杯でそんな余裕はない、という人も多いだろう。

もっと、金も頭も時間もないボンクラでも、日本のためにできることはないだろうか。それが一つだけある。「不便を許す」ことだ。

今の日本は、コンビニが24時間開いていて、amazonでポチった商品が次の日に届く便利な世の中である。その便利さを維持する労働力がもうないと言うなら、それに対して何もできない人間は「不便を受け入れる」しかない。

「コンビニは20時に閉めます」と言われても文句を言うのではなく、「よしわかった仕方ない」と言うのが、無力な自分にできる唯一の日本への貢献だ。