カレー沢薫の時流漂流

面倒くささが先に立つ「軽減税率」のしくみ

カレー沢薫の時流漂流 第19回

面倒くささが先に立つ「軽減税率」のしくみ

2018.12.10

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第19回は消費税増税に伴い実施予定の「軽減税率」について

今回のテーマは「軽減税率」である。

庶民を救う「軽減税率」のはずが…

来年10月、消費税が10%に増税される。この前8%になったばかりやんけ、と思うが、「そうしないと日本ダメです」と言われたら、これからも日本に居座り続ける予定の者としては協力せざるを得ない。

しかし、所得が上がらぬまま税だけ増えれば、当然我々の負担は増加する。特に庶民の生活は圧迫され、スーパーのレジで合計金額が出た後、一つ二つ商品を棚に戻しに行くということが3回に2回は起こるようになるだろう。

そんな庶民や、それよりも苦しい低所得者層を救うという名目で実施を予定されているのが「軽減税率」である。

「軽減税率」とは、消費税が10%となった後も、一部商品だけは8%のままにしようという政策だ。一部商品とは何かというと「肉、魚、野菜、などの生鮮食品」「清涼飲料」「老人ホーム、学校給食」「テイクアウト」「新聞」などである。

要するに、飲食物など生活必需なものを8%のままにすることにより、低所得者層を救おうという作戦だ。その中に何で新聞が入っているのか。生ごみを捨てる時に必需だからか、と思ったが、「報道を味方につけるため」という見方が強い。こんなに露骨でいいのかとハラハラする。

人間食べなきゃ死ぬわけであるから、それらの税率が据え置きというのは一見良いように見えるが、すでにさまざまな問題点が指摘されている。

まずこの軽減税率、低所得者層救済という名目だが、実際に多く恩恵を受けるのは富裕者層と言われている。何故なら、食費にかける金額は富裕層の方が当然高いからだ。

例えば食費に月10万かけている富裕層と、三食うまい棒コーンポタージュ味でやりすごしている層がいるとする。前者の裕福勢の場合、軽減税率により毎月2000円消費税が軽減され、年間2万4000円浮くことになる。

片やうまい棒勢は、うまい棒が10円か11円かで一議論あるが、10円と仮定して、毎月の食費が900円、軽減税率により軽減額は月18円、年間216円である。つまり、裕福勢の方が2万3,784円も多く軽減税率の恩恵を受けているということになってしまう。

例をうまい棒コーンポタージュ味にしてしまったせいで、まったく説明ができてない気がするが、ともかく軽減税率は食費に多く金を使える富裕層の方が、軽減額自体は大きいということである。

「金持ちは恩恵を受けるな、むしろ36%ぐらい多く払え」、というわけではないが、「低所得者層救済」という名目で導入するなら、この軽減税率は適当ではないと言われている。そこを考えてか、低所得者層や子育て世帯に2万円(購入上限額)で2万5000円分の買い物ができる「プレミアム商品券」を配るというが、最大5000円のキャッシュバックで穴埋めできるのだろうか。

バナナは軽減対象に入りますか?

また、それ以前の問題もある。「うまい棒コーンポタージュ味は軽減税率対象に入るのか」という話だ。

実際、あのスポーツドリンクは清涼飲料水なので8%だが、この栄養ドリンクは指定医薬部外品だから10%だと、その線引きは曖昧かつ細かく、多くの飲食物販売店で混乱が起きると言われている。全国で「バナナはおやつに入るのか」というような古代の議論が、大真面目にされるようになってしまうのである。

また、テイクアウトは8%だが外食やイートインは10%なので、イートインスペースがあるファーストフード店やコンビニでは特に大混乱が予想される。

「早い」「手軽」が売りで私たち庶民に密接な関係があるコンビニやファーストフード店が、この軽減税率導入によりスムーズに行かなくなったら、「消費税10%より、コンビニやファーストフード店でもたつくことがムカつく」という事態になり、客が次々とモヒカンになってしまうかもしれない。軽減税率のせいで、庶民の生活が別の意味で圧迫される可能性があるということだ。

そもそも日本は少子高齢化の労働力不足で、コンビニ店員の確保もままならず、外国人労働力に頼らざるを得ないため、外国人や高齢者でも簡単に操作できるPOSレジを導入するなどの工夫をしている。それなのに、ここでさらにコンビニ業務を複雑化してしまったら、ますます働き手を確保できず、「コンビニ20時閉店時代」の到来が早まるだけだろう。

ちなみに軽減税率を導入することにより、全部10%にする場合より1兆円ほど税収入が少なくなってしまうそうだ。その1兆円をどこでまかなうかというと、総合合算制度の見送りやたばこ税、所得税の増税でまかなう予定らしい。

総合合算制度とは医療、介護、保育の負担の合計が一定額を越えたら国が補助をするという制度である。超高齢化社会日本にとっては、医療や介護などを補助してくれる政策の方が大事な気がするが、何故かこちらを見送って、軽減税率を採用するという。

私には理解しえぬ深い理由があるのかもしれないが、私程度の人間の感想としては「もう面倒だから全部10%にしてくれ」という感じだ。

もしかしたら、国民の方から「頼むから全部10%にしてくれ」と言わせるために、この「軽減税率」は存在するのかもしれない。

日本の未来を漠然と描いた「創造社会」に思うこと

カレー沢薫の時流漂流 第18回

日本の未来を漠然と描いた「創造社会」に思うこと

2018.12.03

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第18回は、経団連が発表した「創造社会」行動計画について

何かデカいことを成し遂げたい「第5の社会」

経団連は、日本の社会が目指すあるべき姿を「創造社会」と名付け、その実現に向けた行動計画をまとめたそうだ。(編集注:経団連発表の資料内13Pに「創造社会」の記載あり

まず「創造社会」というネーミングから新しい臭いがまったくしないとゲンナリするかもしれないが、これを「そうぞうしゃかい」と読んだ奴はセンスがない。これは「創造社会」と書いて「Society5.0」と読むのだ。まさに人名ですら字面通り読めなくなっている現代日本にふさわしい方針である。

ではわが日本が目指す「創造社会(Society5.0)」とは何かと言うと、私が前に連載していたコラムで1回取り上げたことがあるのだが、もちろん忘れているので今一度読み返してみたところ「Society5.0のことをまったく理解できないまま書いたんだろうな」ということだけはわかった。

私の理解力が低いこともあるが、Society5.0というのは概要を見ても「イマイチ何をするのか良く分からない」のである。いろいろやろうとしているのはわかるが、具体的に何をするかわからない。総じて「何かデカいことをやろうとしている大学生」感がある。

まずSociety5.0の名前の由来だが、今まで日本は狩猟、農耕、工業、情報と4段階の社会の変遷を経験してきた。これらに続く5番目の社会が「創造社会」というわけである。

狩猟や農耕に比べて創造というのはあまりにも漠然としているので、その内容がうすらぼんやりしているのも致し方なし、と言ったところであり、実際具体的に何をするかは「今後発表」だそうだ。

何をするか決まってから発表した方が良かったのではないかとも思うが、同人誌だって「新刊出します」と発表することで後に引けなくなって新刊が出たりするのだから、「まずデカいことを言う」のは大事なことである。

ともかく「AI」とか「IoT」とかデジタル技術は大きく革新しているので、それをどう生かしていくかという人々の「創造力」が、いま日本にある課題を解決する鍵になるということらしい。

だが、そこに出てくる具体的な例が「3Dプリンター」など、「若干情報が古い」もしくは「既出」なため、この創造社会に対し世間は「期待薄」という反応のようだ。

カレー沢薫、創造の前に「想像」する

このように、創造社会それ自体が「これから創造します」という感じなので、こちらもあやふやなコメントしかできないのだが、人様が考えたことについて「そんなのフォトショップで描いた餅ですよ」と文句をつけるのは、意識の高い小学5年生でもできる。

貴様の住んでいる日本のことなのだから、ダメ出しするだけではなく、お前も「創造しろよ」という話だろう。そういうわけで、今後日本のために個人として何ができるか、創造の前に想像してみることにした。

今の日本が抱えているのは、何をおいても「少子高齢化による労働力不足」である。それに対する解決策として「AI」や「ロボット」には大きな期待が寄せられ、実用化もされているようだが、ロボットなど未だに「二足歩行で拍手喝采」の域なので、これから需要がさらに増えるであろう「介護」などをAIやロボットが完全に行うのはまだ先だろう。

また介護ロボットが実現化しても、何せロボットなので、ご老人の顔に機械的にウエットティッシュを押し付け続けているという事故も起りかねない。つまり人の手は必ず必要なのだ。

その「人の力」が最小限で済むようにAIの活用が肝になるのは確かだが、AI技術の開発に自分が何か役に立てるかというと、AIの基盤組み立て工場で働く以上は無理な気がするし、それすら今はAIがやっているのかもしれない。ともかく、技術開発はできる人に任せておくのが無難だろう。

また、ロボットやAIが進化するまでの間、人間の労働力は必要になるが、人はすぐに増えない。今の日本は出産・育児が大変であり、「増やしやすい環境」とは言えないので、少子化もすぐに解決するとはとても思えない。よって「外国人労働力」はすでに不可欠なものとなっている。

そこでまず、「英語を勉強する」というのはどうだろうか。バカバカしいことを言っているかもしれないが、日本語が不自由な店員に「日本語が喋れないなら日本に来るな」と罵倒する日本人もいるという。しかし、今の日本は外国人に来てもらわないと社会が回らなくなりつつあるのだから、逆にこっちが一番使用頻度が高いであろう英語を覚えるぐらいの姿勢を取った方がいいのではないだろうか。全世界で通じる言語を網羅したいという人は、「ボディランゲージの精度をキレキレにする」というのもある。

外国人労働力の受け入れに関しては、文化の違いなどによるトラブルや治安の悪化が懸念されているが、意志の疎通さえできれば、それも減るはずである。

しかし、私は今ひきこもりで人とまったく喋らないので日本語すら忘れつつあるし、それでなくても生活に精一杯でそんな余裕はない、という人も多いだろう。

もっと、金も頭も時間もないボンクラでも、日本のためにできることはないだろうか。それが一つだけある。「不便を許す」ことだ。

今の日本は、コンビニが24時間開いていて、amazonでポチった商品が次の日に届く便利な世の中である。その便利さを維持する労働力がもうないと言うなら、それに対して何もできない人間は「不便を受け入れる」しかない。

「コンビニは20時に閉めます」と言われても文句を言うのではなく、「よしわかった仕方ない」と言うのが、無力な自分にできる唯一の日本への貢献だ。

全然“OK”ではなかった「Googleのセクハラ問題」

カレー沢薫の時流漂流 第17回

全然“OK”ではなかった「Googleのセクハラ問題」

2018.11.26

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第17回は、国内外で波紋を呼んだ「Googleのセクハラ問題」について

近年、日本でもやっと「セクハラ」が問題として大きくとりあげられるようになった。

言わずと知れたIT企業と「Gの法則」

それ以前は「セクハラ」という言葉はあったものの、セクハラを訴える女は「冗談の通じない奴」であり「笑顔で受け流すのがデキる女」という風潮ですらあった。

それが今では、セクハラがニュースとして扱われたり、セクハラによる左遷や降格処分が行われたりする。まだまだ十分ではないが、セクハラは笑って済ませられる問題ではないと周知されるようになってきた。

それに対し「そんなことを言われたら何も話せない」という反論も良く見るが、そもそも職場で仕事以外の話をする必要はないのだ。そこに性的な話が必要というのは、「株式会社TENGA」とか以外ではありえないだろう。

しかし、これでも日本はまだ遅れており、欧米などはもっとセクハラに厳しいだろうし、そもそもセクハラや職場における性差別自体が少ないのでは思っていた。だが、「そんなことはなかったぜ」ということがわかるニュースが飛び込んできた。

日本では「OK Google」より「ググれカス」でおなじみのあの「Google」が、この2年でシニアマネージャー以上の役職につく13人を含む48人を、セクハラを理由として解雇していると発表したそうだ。これだけ聞くと、セクハラに対し毅然な態度を取り、「セクハラ野郎は役職付きでも絶対許さないマン」としてふるまっているように見える。

当のGoogleも「ますます基準を厳格化」していくと宣言しているのだが、よくよく考えると「解雇規模のセクハラをする人間が50人近くいたとか、どんなソドムの市だよ」という話だ。学校で言えば1クラスの人数より多いし、その4分の1が役職付きというのは完全に「ヤバい会社」である。

それに、何事も表沙汰になるのは「氷山の一角」に過ぎなかったりするので、G(昆虫名)の法則でいくと、実際にはその30倍、Googleではセクハラが横行していたかもしれない、ということだ。

無間地獄のようで「まだマシ」な現在

世界を代表するIT企業の内情が一部の人間にとっての酒池肉林であったことには驚きを隠せないし、私も生粋のアソドロイドユーザーとして残念である。だが、それ以前にもアソドロイドユーザーを落胆させアイフォーンのカタログを手に取らせる事態が起こっていたのだ。

アソドロイドの父と呼ばれているアンディ・ルービン氏も、実はセクハラ問題が原因で2014年にGoogleを退職している(本人は否定)。その際、Googleは氏に対し9000万ドルの退職金を払っていたという報道がされたのである。

9000万ドルと言われてもピンとこないだろうが「約100億円」である。ますますワケがわからなくなってしまったが、とにかく途方もない金額だ。これでは解雇されようがノーダメージも良いところだし、罰どころか「女王様のビンタ」級の「ご褒美」と言っても過言ではない。

誰だって100億あげると言われたら「セクハラしてない」とツッぱるよりその場で辞めるだろう。Googleはセクハラした者を全く罰する気はなく、「処した処した」というポーズを取りたかっただけ、と思われても仕方がない。

それに対して、Googleは「セクハラによる解雇者に退職金を払ったことはない」と言っているが、アンディ氏は「セクハラが問題で退職した」と言われているだけで解雇者の中には含まれていない。そして、本人はセクハラの事実自体否定している。

つまり、セクハラの解雇者には退職金を払っていないが、「アンディ氏に100億円払ってない」とは言っていないのである。そもそもセクハラを理由に48人解雇したという話も、アンディ氏の問題が報道されてから「でもうちはセクハラ野郎を48人も解雇してるんすよ」と言い出したことである。

Appleの社員でさえ「これはクロやろ」と同情を禁じ得ない事態に、当のGoogle社員は「俺たちが頑張って稼いだ金がセクハラ野郎の懐に入っているのか」と、自分がホストに貢いだ金が本カノの顔に打つヒアルロン酸代に消えたと知った太客の如く激怒、1000人以上の従業員が世界各地で抗議行動を行った

そのプラカードには決め台詞の「OK Google」を揶揄して「NOT OK GOOGLE」という文字も見られたそうだ。それが上手いのかどうかはわからないが、とにかくGoogleが全然OKじゃなかったのは確かなようだ。

日本では上記のセクハラ問題が原因でこの抗議活動が起こったという報道がされているが、もともとシリコンバレーのIT企業では男女の待遇差がエグく、それにこのセクハラ騒動が合わせ技となり大きな抗議活動になったという。どうやら欧米では、職場での男女格差が日本より少ないというのもただの思い込みだったようだ。

このように、セクハラを含むハラスメント問題は世界的に大きな問題と言えるが、最近では「何でもハラスメントだと騒ぐハラスメント」という「ハラスメント・ハラスメント(ハラ・ハラ)」というのもあるらしい。

まさに地獄が「紹介します『地獄』です」と新しい地獄を連れて来た、という状態だが、ハラスメントに対する一番の下策は「黙って我慢する」なので、まず「それはハラスメントだ」と声をあげることが大事であり、言われた方もそれ自体がハラスメントだと感じたら「それはハラ・ハラ」だと声をあげればよいだろう。

無間地獄のようにも見えるが、黙って地獄を我慢しなければいけない世の中よりはまだマシかもしれない。