カレー沢薫の時流漂流

「チョコフレーク販売終了」、最大の原因とは?

カレー沢薫の時流漂流 第12回

「チョコフレーク販売終了」、最大の原因とは?

2018.10.22

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第12回は、「チョコフレーク販売終了」について

また巨星が堕ちた。

森永製菓が「チョコフレーク」の販売終了を発表したのである。チョコフレークとは、その名の通りコーンフレークにチョコがコーティングされた菓子で、1967年から販売されているという。私よりも遥かにパイセンである。

チョコフレークが私にとってどんなポジションの菓子だったかというと、子供の時は「家にあったら嬉しい菓子」だったし、大人になってからも「まんざらでもない」と言ったところだ。

ちなみに「家にあっても大して嬉しくない菓子」は「かりんとう」だった。母親が好きで良く買っていたのだ。一瞬チョコに見えなくもないのがまた憎い。

ロングセラー菓子の「終了」、最大の原因は

チョコフレークのみならず、その前にはカールなど「昭和の子どものテンションを上げていた菓子」が次々と販売終了している。(編集注:カールは関東で販売終了したが、関西では今も販売されている)。そういう時、もはや風物詩と言っていいのが、「オークションサイトなどで、販売終了になった菓子が高値で出品される現象」だ。

我々はそこまでバカで良いのかと思う現象だが、毎回起こるということは毎回買う奴がいるのだろう。確かに、チョコフレークやカールなどがなくなるのは、それらが血肉(主に下腹)になっている昭和の人間としては寂しいものがある。

しかし何故なくなるかというと、「それがないと禁断症状で死ぬ人間がそれほどいなくなった」からだ。わずかに残った禁断症状で死ぬ人間のためにチョコフレークを作るのではもう採算がとれなくなったので、その数人には申し訳ないが死んでいただこうという話である。利益を追求する企業としては当然だ。

そして、その数人以外は、なくなって寂しいとは思っても、実際なくなって何か困るかというと大して困らない。つまり、「なくてもどうとでもなる物」になったから、なくなるだけである。

そもそも、なくなる最大の原因は「俺たちが買わなかった」からだ。よって、「なんでなくなるんだ!」と騒いでいいのは、恒常的にチョコフレークを買い、ソバガラの代わりに枕にチョコフレークを詰めていた人間だけだ。

私も10年近く作家をやってきて「買う人間がいないから終わる」という現象は身をもって何度も体験してきているので、チョコフレークに同情している場合ではない。むしろチョコフレークぐらいのレベルになると、「騒がれた結果ワンチャン(復活)ある」ので、ますます同情できない。

ともかく何かが終わると言うと「なんで」と脊髄反射で言ってしまう我々だが、何かの陰謀ということはなく、ほぼまちがいなく「金にならなくなったから」である。

〇〇離れした若者が張り付いているモノ

しかし、何故チョコフレークは売れなくなったのだろうか。味に関しては、今の子どもが喜ばない、などということはないはずだし、昔の子どもだってまだ喜んで食っている。

その原因は「スマホ」では、という分析がある。最近の若者は小腹が空いた時、菓子など食わずにスマホを舐めているというわけではない。チョコフレークは手の体温でチョコが溶けるので、スマホを操作しながら食うとスマホ画面が汚れるために敬遠されはじめた、というのだ。

そう言われれば、私のスマホ画面は常に汚い。何故こんなにいつも汚いのだろう、と家人に問うたところ「あなたの手がいつも汚いからだ」と言われたことがある。そして私の手がいつも汚いのは、いつも手でなんか食っているからである。

すべてのパズルのピースがそろった、という感じでその時はいたく感動したのだが、原因がわかった後も私のスマホ画面は24時間汚い。「スマホの画面が汚れる」程度のことで、手が汚れる菓子を食うのを止めなかったからだ。

つまり、チョコフレーク販売終了の要因はスマホの普及ではなく、「スマホの画面が汚れるという些末な理由で手が汚れる菓子を食うのをやめる軟弱な精神を持つ者が増えた」ことにある。

スマホが原因とされているのはチョコフレークだけではない。同じく販売終了が決まったガムの「キスミント」に関しても、「レジで並んでいる間スマホを見るようになったため、レジ前のガムを見なくなったから」売れなくなったのだとも言われている、魔王かよというぐらいなんでもスマホのせいだ。

ちなみに、キスミント販売終了の報に、「若者のガム離れ」という見出しを使ったところもあったそうだ。もはや、世の中には「若者の○○離れ」という言葉を聞くと絶頂する人間が一定数いるとしか思えない。

このようにありとあらゆるものから離れているらしい若者が逆に何に張り付いているかというと、やはり「スマホ」がその一つであることは否めない。しかし、スマホが汚れる菓子はチョコフレークだけではない。ポテトチップスなどその典型だが、こちらはまだなくなる様子はない。おそらく手や画面が汚れようと、それが嫌なら箸を使ってでも、ポテチを食いたいと思う人間の方が多いのだろう。

「スマホ画面が汚れてでも食いたい」

それが、今後菓子が生き残る条件なのかもしれない。

「ノーベル医学生理学賞」、全日本人に響く受賞内容を振り返る

カレー沢薫の時流漂流 第11回

「ノーベル医学生理学賞」、全日本人に響く受賞内容を振り返る

2018.10.15

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第11回は、「ノーベル医学生理学賞の日本人受賞」について

今回のノーベル賞、日本人はノーベル医学生理学賞を本庶佑氏(と米国のジェームズ・アリソン氏の二氏)が受賞した。

ノーベル賞と言えば、「奥さんはこんな人で、こんな内助の功があったのです」という報道の仕方が、成人式で暴れる新成人の次にうんざりされていると思う。

もちろん内助の功が悪いわけではない。才能グラフが偏り過ぎていて、一般社会に放ったら野垂れ死ぬ人間(※個人の感想)を社会性のある者が支え、大きな成果を上げさせるというのは、パートナーシップとしてこれ以上の姿はない。

だが、一番にいう事じゃないだろう、という話なのだ。

本庶氏は一体何故ノーベル賞を取ったのか、その功績はどんなものなのか。その功績を有用なものにするために、今後どうしたら良いか、という内容の方が重要である。

しかし、ノーベル賞受賞者が挙げた功績の中には難解なものも多い。説明されてもそれがどうすごいのかさえわからず、「それより奥さんはどんな人?」と言い出したくなることがあるのも事実だ。

その点、今回の本庶氏の功績はわかりやすいかどうかは別として、我々一般人の関心を大きく引くものである。本庶氏の受賞理由は、「免疫を抑える働きを阻害することで、がんを治療する方法の発見」だ。

「がんの特効薬」報道への懸念

日本人の死因第一位は「がん」である。昔に比べ治療法が進化しているとはいえ、未だに「不治の病」であり、痛みが強く、それを治療する過程がまた苦痛というイメージがある。

「自分ががんになったらどうするか」。日本人なら一度は考えたことがあるのではないだろうか。私も罹っていない今なら「苦しいのは嫌だから痛みを減らして潔く死にたい」などと同人誌の女騎士みたいなことを言えるが、今までの人生、潔かったことなど一度もないのだから、実際罹ったらあらゆる治療法にすがってしまうかもしれない。

だが、治療はもちろん、「痛みを減らして潔く死ぬ」ことにも、多額の費用がかかるのではないか。がんによって起こる苦痛は肉体的なものだけではなく、金銭的にも大きいのだ。患者だけではなく家族にも大きな負担である。

つまり「がん」というのは、日本人すべてにとって脅威なのである。

それに対し、画期的治療法を見つけたと言われたら、その内容はわからなくてもとりあえず「でかした!」と膝を叩いて立ち上がってしまうだろう。

実は本庶氏らが発見したがん治療法は、すでにがん治療の現場で使われている。「オプジーボ」という「免疫チェックポイント阻害薬」を投与することにより、免疫にかけられたブレーキが解除され、がん細胞を攻撃できるようになるそうだ。

これらは「がん免疫療法」と言われ、従来の直接がんを攻撃する治療法と違い、元々人間の体にある免疫の力を利用してがんを攻撃する。実際効果を発揮した例もあり、今後がん治療の主力となることを期待されている治療法なのである。

つまり、「がんの特効薬」が開発されたわけではないため、がんに怯える一日本人としてテンションダウンは否めない。外国人4コマの4コマ目から2コマ目に逆戻りだ。逆に言えば、がん特効薬の実現に一歩近づいたとも言える。

しかし、今回の本庶氏ノーベル賞受賞のニュースの中には、あたかもがんを治す夢の薬が開発されたかのような報道もあるようだ。確かに、「今後がんを完治できるかもしれない治療法の第一歩的なものを踏み出した功績」と言われるより、「がんを治す薬を開発した」と言われた方が、「マ!?」と食いついてしまうのが人情である。

そして、食いついてしまう人というのは、今まさにがん治療をしている人だったりするのだ。実際、ノーベル賞報道以降、「あの治療法はできないだろうか」という問い合わせが増えているそうだ。

ただ、この免疫療法はすべてのがんに効くわけではなく、またすべての人が試せる治療法でもないという。

そういう人を、「新しいものに飛びつこうとする情弱」と言うことはできない。私のように「生きのびてどうすんの?」と聞かれて「わからん」と答える人間でさえ、がんに罹ったら、わらにもすがってしまうだろう。それが明らかに風呂に良く浮いている陰毛であってもだ。残して死ねない子どもなどがいたらなおさらだろう。

問題は、このノーベル賞受賞に乗じて、そういった「わらにもすがる思い」の人間を食い物にする者が現れるのでは、ということである。「あのノーベル賞を取った治療法」と謳って、保険適用外の高額かつ効果も定かではない自由診療を行うクリニックが増えることが懸念されている。

このたび本庶氏があげた功績が大きなものであることは確かだが、「ガンが治って身長が伸びモテるようになった」と札束風呂でダブルピースしているような、持ちあげすぎ報道には専門家も苦言を呈している。

誤った報道をするぐらいなら、「奥さんはこんな人で内助の功がすげえ」、という話を延々としているほうが、まだ平和なのかもしれない。

身一つで生き抜く強さを求める「筋肉ブーム」

カレー沢薫の時流漂流 第10回

身一つで生き抜く強さを求める「筋肉ブーム」

2018.10.08

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第10回は、にわかに広がる「筋肉ブーム」について

空前の筋肉ブームだそうだ。

以前から、ネットなどで筋肉崇拝者は増加傾向であったが2018年になってから特にそれが顕著であるという。

それは、先日NHKが突如放送した「みんなで筋肉体操」の人気を見てもわかる。「みんなで筋肉体操」とは、5分間の筋トレ番組であり、今でもYouTubeで動画が見られる。

なぜこの番組がそこまで注目を集めたかというと、まずモデルとして筋トレをするメンバーが異色なのだ。モデルは三人いて、センターを務めるのが俳優の「武田真治」。テレビをほとんど見ず芸能人に疎い私でも知っている人物だが、彼がちょっと目を離した隙にマッチョになっていたことは知らなかった。

そのサイドにいるのが「小林航太」。職業は弁護士、しかも東大卒と、婚活サイトでも釣りを疑われるレベルのスペックであり、その上筋肉である。その筋肉を生かしコスプレイヤーとしても活躍しており、私の好きなFGOのキャラのコスプレをしている写真も見られるが、その肉体美ゆえにまあ完成度が高い。こういう、天に二物も三物も与えられている人間がいるから、ゼロ物で生まれてくる奴が出て来てしまうのである。

最後に「村雨辰剛」。気づいたらこちらの胴が真っ二つになっているような居合切りの達人(ジジイ)を彷彿とさせる名前だが、日本に帰化した金髪の元スウェーデン人であり、職業は庭師だ。このように、3億倍に希釈しないと、とても飲めない濃いメンツなのだ。

しかし、筋肉体操が注目を集めたのは、ただキャラが濃い人間を集めたという点ではない。これだけ「くわしく話を聞いてみたい」メンバーを集めておきながら、三人は一切喋らず、ひたすら5分間、筋トレをするだけなのである。喋るのは指導している近大の谷本道哉准教授だけだし、言うまでもないだろうがこの人もムキムキだ。

一見すると「キャストの無駄遣い」に見えるが、これが逆に番組の信用性を上げている。何故ならこの番組のキャッチフレーズは「筋肉は裏切らない…」であり、あくまで主役は筋肉なのだ。

そんな筋肉様を差し置いて、やれ武田真治とか弁護士とかスウェーデン庭師だとかいう枝葉にスポットライトを当てたら、「フェイク番組」と言われても仕方がない。むしろ、「筋肉」をテーマにしたら、勝手に弁護士とか庭師とか武田真治が集まってきたという風情なのである。

反響を受けてNHKは、「みんなの筋肉体操」続編を検討していると発表したという。やはり「筋肉は裏切らない…」のだ。

筋肉、この「自分磨きの終着点」

では、なぜ世の中の関心が筋肉に集まってきたかというと、突発的な現象ではなく、「いろいろやってみた結果、最終的に筋肉に行きついた」のではないかと思う。

私も、今より若い時は、美容ダイエット、自己啓発とか色々やってみた。人によっては、ここに英会話や留学、パワーストーンなどが入ってくるだろう。

そして、それらすべてに失敗した現在、私も世間と同じように「やっぱり筋肉だよな」という結論に見事着地している。正確には、筋肉だけではなく、健康、何より「体力」だと思っている。

今まで意識していなかったが、何をするにもまず体力がいる。苦しいことはもちろん、楽しいことですら、体力がないと「楽しい」を「疲れ」が凌駕して楽しめなくなるし、逆に体力があれば「長く楽しめる」のだ。

このように、世の中全体が迷走に迷走を重ねた結果、「やっぱ、まず体が丈夫なことからすべてが始まるのでは」という原点に戻ったのが今なのではないだろうか。

また、「他人をアテにしちゃダメだ」という風潮もこの筋肉ブームに一役買っている気がする。

今、筋肉は男だけのものではなくインスタなどでも「#腹筋女子」というタグが流行っているそうだ。これまで、女性向け筋トレと言ったらシェイプアップ目的が多かったが、現在では本当に腹筋を割るのが目的で、最終的にカヅキパイセンの剣撃を腹筋で跳ね返すところまで行こうとしている女子が増えているようだ。(編集注:「カヅキパイセン」は「KING OF PRISM by PrettyRhythm」(2016年公開)の登場キャラ。詳細はカレー沢さんの感想コラムにて)

今でも昔と変わらず、「自分磨きをしてハイスペ男と結婚しよう」という風潮はなくならないが、同時に「男(他人)の稼ぎをアテにするのではなく、自分が稼げる女になるための自分磨きをすべき」という考えも浸透してきている。

生活力だけではなく、肉体的にも「自分自身が強くなる」ことを考える者が増えてきたのではないだろうか。

世間には、「女で一人は大変だよ?」と独り身の女を脅す人がいる。確かにどれだけ経済的に自立していても、自分の金で買ったキャビアのビンの蓋が開かないなど、意外なところで男手のなさが痛い局面は存在する。

それが、筋トレで解決し、他人の脅しに屈しない生活ができるというならするしかないだろう。

そもそも、舐められてるから脅されるのだ。メスゴリラともなれば、それを脅すガッツのある奴はそうそういないはずである。

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