カレー沢薫の時流漂流

若気の至りとネットが結びつくリスク、「アルバイトの不適切行為」

カレー沢薫の時流漂流 第28回

若気の至りとネットが結びつくリスク、「アルバイトの不適切行為」

2019.02.18

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第28回は、「アルバイトの不適切行為」について

「バカッター」という言葉をご存じだろうか。

アルバイト先で食材を使って遊ぶ、買う前の商品を汚損するなどの悪ふざけを行い、その写真や動画を「こういうの面白いやろ」とツイッター(Twitter)にあげて大炎上する奴を指す言葉であり、主に若者が多い。

まず一番に思い出されるのは、ローソンのアルバイトがアイスケースに入った事例だろう。しかし、実はあれはツイッターではなく、Facebookに投稿されたものなのだ。

ツイッターへの熱い風評被害。ヘビーすぎるツイッターユーザーとして憤りを隠せないが、アイスケース事件以降、ツイッターで類似案件が多発したため、結局「バカをやるのはツイッタラー」ということになってしまったようだ。ツイッタラーはバカの上にインフルエンサーでもないという悲しい事実である。

その後、一旦「バカッター騒動」は落ち着いた。これは、バカがいなくなった、というわけではなく、SNSでは連日連夜、彗星の如くバカが現れ、それが若者やアルバイターだけではなく、良い年した地位のある大人だったりするため、バカをさらなる巨バカが飲みこむ形で徐々に目立たなくなってしまった、という感じがする。

しかし最近、また「おっさんたちは引っ込んでな」と若者アルバイターの「不適切行為」が話題になっているという。だが出火元はまたしてもツイッターではなく、今度はインスタグラム(Instagram)だ。

このように、SNSの中でもツイッタラーは民度が低いと言われがちだが、不祥事ブームの先駆けは意外と、キラキラ側のツールだったりする。柄の悪い雑誌を作っている編集部の人間は意外と逮捕されておらず、逆にインテリ系雑誌の編集部の人間の方が、突然タクシーの運転手を殴って逮捕されるのと同じ現象である。

なぜインスタグラムが火元になったかというと、インスタグラムには「ストーリー」という機能があるからだ。「ストーリー」に投稿した動画や画像は24時間後に自動的に消えるようになっている。よって「1日で消えるならいいべ」というノリで若者が不適切動画を上げてしまったりするのである。

ネットで“バカをやる”、あるいは“特定する”ことのリスク

今回大きな問題になったバカスタグラマー(こう書くと「バカッター」の語呂が如何に優れているかがわかる)は、すき屋とくら寿司のアルバイトが投稿した動画だ。

すき屋の動画は店内で氷を投げ合ったり、おたまを股間に当てたりと「インスタグラマーのセンスも俺たちと大差ない」とある意味ツイッタラーを安心させてくれる内容だったが、くら寿司の方はまな板で切った魚をゴミ箱に入れ、ゴミ箱から出した魚を再びまな板に載せる、という笑うところがない上に、飲食店としては致命的な動画であった。

おそらく、このアルバイターたちも「24時間で消えるし」という軽いノリで投稿したのだろうが、その動画は瞬く間にツイッターに転載され大炎上となった。さすがツイッタラーさん、こういうことは仕事が早い。

結果として、両者ともクビになった。そこでは終わらず、くら寿司はこの一件を受けて全従業員を再教育し、動画に関与したバイトに対しては法的対応をする準備に入ったと発表した。しかし、インターネットの処罰は光の速さで行われるため、それ以前に当人たちは氏名、年齢、学校などを特定され、顔写真なども晒されているという。

これは「最近の若者は」という話ではない。太古の昔からこのような若者による「悪ノリ」は行われており、40歳以上のパイセンが和民で語る武勇伝も、大体似たようなことだったりするのだ。ただ、パイセンの時代はインターネットがなかったため、その悪ノリが全国展開してしまうことがなかっただけなのである。

私の知人も「高校時代、みんなで『そこら辺の木』を燃やして、メチャクチャ怒られた」と言っていたが、インターネットやSNSがある時代だったら、その木の物理的炎上動画を「俺たちおもしろくね?」というノリでSNSにアップし、概念的大炎上をして「メチャクチャ怒られる」程度では済まなかったかもしれない。

私はオタクなので、そのような「ヤンチャ」な過去はないが、その代わり、俺の考えた最強のイケメンキャラなどが記された「黒歴史ノート」などがある。それもインターネットがない時代だったので、見られるとしても家族程度だが、それに関しても今はインターネットがある。SNSに限らずインターネット上に投稿されたものはどこの誰に見られるかわからないし、一度拡散したら半永久的に残り、自分の手で全てを抹消することはできない。

インターネット、SNSが当たり前な今の若者たちは、「若気の至り」や「黒歴史」に対しもっと慎重にならないと、人生が変わりかねないのだ。その点で、若い頃にネットがなかった我々は恵まれている。

しかし前述の通り、ネットでバカをやるのは若者だけではないので我々も気をつけねばならない。この炎上アルバイターたちは一様に、「面白いやろ?」という動機でやっていると思うし、我々もここまでしなくても、「これはウケる」と思って言ったことで周りをドン引きさせた経験があるのではないだろうか。

SNSで注目を集めることに執着しすぎると感覚がマヒし、明かに倫理に反していることを「これはSNSでウケる」と思ってやってしまうのだ。

また、ネット炎上は義憤にかられた「正義の人」による私刑までがワンセットだが、それも度を越し過ぎると、今度は逆に訴えられる側になりかねない。

炎上アルバイターが「特定」されるように、「正義」も匿名で執行できるわけではない。そして悪い事をした人間は罰せられるべきだが、バカがいるからといって、そのバカを罰する権利が自分にあるとは思わない方がいいだろう。

比喩ではなく日本が激震した「嵐、2020年活動休止」

カレー沢薫の時流漂流 第27回

比喩ではなく日本が激震した「嵐、2020年活動休止」

2019.02.11

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第27回は、日本が揺れた「嵐の活動休止」について

嵐、2020年で活動休止。

私がその第一報を聞いたのは、テレビのニュース速報だ。いちアイドルグループの休止がニュース速報になる。これだけでも、日本における嵐の重要度が伺える。

正確には、そのニュース速報を見た家人の「嵐活動休止だって」という声で知った。同じニュース速報でも、どこぞの市長が再選したとかなら、絶対に読み上げないだろう。ちなみに、私も家人も芸能人にはとても疎い。そんな人間でも「声に出して言いたいニュース速報」、それが「嵐活動休止」なのである。

「これはエライことになったぞ」

嵐ファンでなくても、最近騎士団長になった島耕作の顔でそう思った人間は多いのではないだろうか。何故なら、ファンでなくても「嵐ファンの知人」の一人や二人、頭に浮かぶからだ。すぐにSNSなどで、それらの人の安否確認に走った人もいるだろう。

つまり、行動が「災害が起きた時のそれ」になってしまっているのだ。「激震」というのは比喩でもなんでもない。

私もすぐにツイッターを見に行ったが、私のTLでは誰も嵐の話をしていなかった。どうやら、私の「安否が気遣われる嵐ファンの友人」というのは脳内で作り出した幻だったようだ。しかし、実際にそういう友人がいる人、さらに我こそは嵐ファンであり、「無事か?」というLINEがたくさん来たという人も日本には大勢いるだろう。

嵐と言えばSMAPなき後、日本の男性アイドル界のトップと言っても過言ではなく、今まさに人気の絶頂だ。そのグループが何故。

その何故、を我々が憶測する間もなく、速報が出たその日の晩に、本人たちによる会見が行われた。その会見によると、休止に至った理由はリーダーであった大野さんの「自由に生活がしたい」という気持ちが発端だったという。

当初大野さんは事務所自体を辞めるつもりだったが、他のメンバーが引き止め、話し合いの結果、「とりあえず嵐をお休みするということでいいんじゃないか」となり、2020年で嵐としての活動を休止することが決まったとそうだ。

嵐活動休止のニュースはファンらにとって寝耳に高圧洗浄機だったと思うが、このように、嵐と事務所側はできるだけファンへのダメージを減らすべく、周到に準備していたことが伺える。そうでなければこの段取りはありえない。

ダメージどころか、速報を見た時点で爆発四散した、という人も多いと思う。だがその後の会見を見て、私がファンだったら、四散した体が二散ぐらいまでには回復したと思う。

推しという「希望」と、ファンにとって本当に辛いこと

私は生粋の二次元原理主義だが、次元の別を問わず「推し」というのは希望だ。「今週末嵐のコンサートだ」という嵐ファンを、どれだけバールのようなもので殴っても絶対に死なない。もはや生きる理由を与えてくれる存在、と言っても過言ではないのだ。

大野さんが語った「自由な生活がしたい」という意思は、「嵐の活動がつらかった」とも取れる。自分たちの希望である彼らの活動に、「仕方なくやっていた」部分があるのだとしたら、それはファンにとって大変辛いことだ。

彼らにとって嵐は「仕事」なのだから、我々が会社を休んだり、辞めたり、解散という名の爆発を求めるのと同じように、大野氏が嵐の解散や休止を望むのも、全く不思議ではない。だがファンの理想は、「彼らも『嵐』であることを楽しんでいてほしい」なのだ。

ところで、その記者会見の席で、活動休止は「無責任では?」と質問した記者がいた。それに対し、メンバーの二宮さんと櫻井さんがしたフォローが、ファンの間で「神」と話題になっている。特に櫻井さんが和やかなムードから一転、真剣な面持ちで真っ先にコメントを返したことが、休止の発端になった大野さんをかばった行為として賞賛されている。

確かにこのエピソードは、ファンにとって救いである。イヤイヤやっていたのか、と思うのも辛いが、それ以上にファンにとって辛いのは「メンバーの不仲」である。活動休止ともなればいろいろな憶測を呼びそうなものであり、事実は本人たちにしかわからないが、少なくともあの会見では「不仲が原因ではない」と思わせてくれた。

実際、「嵐活動休止」の報を聞いた直後はこの5文字しか情報がなかったため、「実はメチャクチャ不仲で『大野氏』『松本氏』と呼び合うような状態だったのか」とか、「みんな嵐としての活動が苦痛で、楽屋に名前が書かれた嘔吐用洗面器が5個常備されていたのか」など、ネガティブな理由が多数頭に浮かんだ。それらはファンにとって何より辛いことである。

ファンが推しに抱く感情と言うのは、ただカッコいい、カワイイ、ともすれば恋愛感情のようなものだけではない。二次元のオタクをやっていても、ただキャラ同士が和気藹々としているのを見ただけで「尊い」と涙が止まらない時がある。

「あんたらが仲良さそうにしているのを見るだけでもババアは長生きできるよ、飴食う?」というような「何目線だよ」という立場から、推しにパワーをもらっているファンもいるのだ。もしメンバーが会見でお互い目も合わせないで、大野氏が経緯の説明をしている間に、二宮氏と櫻井氏がスマホをいじっていたりしたら、ファンはさらに二十四散ぐらいしたと思う。

その点今回の会見は、休止は確かに悲しいが、大野さんにはやりたいことがあり、メンバーがそれを尊重した結果なのだから仕方ないと思わせてくれるものだったと思う。

また、「無責任では」という記者の発言について、一週間でバックレたなら無責任と言えるかもしれないが、嵐はかれこれ20年勤続である。普通の会社勤めとして考えてみても、現代において20年間一度も転職したことがないという人間の方が少数派だろう。

さらに、嵐は休止までにまだ2年活動する。これは会社で言えば「退職前の引継ぎ作業」に相当する。会社で辞意を伝えた際に「じゃあ引継ぎを2年かけてしてね」と言われたら、その足で労基に行ってしまうだろう。

もちろん会見で言ったことが全てではないだろうし、とてもファンの前では言えない休止理由があるのかもしれない。だが、そういう部分を見せないのがアイドル(偶像)の仕事なのだ。ウンコはするけどファンの前ではしないのがアイドルなのだ。

そういった意味で、嵐は最後までアイドルの仕事を全うしようとしているように見える。

連載バックナンバーはこちら

“みんなの力”がリアルを動かした「ティラミスヒーロー問題」

カレー沢薫の時流漂流 第26回

“みんなの力”がリアルを動かした「ティラミスヒーロー問題」

2019.02.04

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第26回は、「ティラミスヒーロー問題」について

私のように一日68時間ほどツイッターをやっている人間なら、「ティラミスヒーロー問題」のことを一度は目にしただろう。

「ティラミスヒーロー」とはシンガポールの人気ティラミス屋で、2013年から日本にも進出。主にデパートの催事などで、オリジナルキャラクターの描かれた「瓶入りティラミス」の販売を行っていたそうだ。

そのシンガポールのティラミスヒーローに酷似したティラミス屋が表参道にオープンしたとして話題になったのだ。これから神戸にも出店する予定らしい。

問題のティラミス屋の名前は「HERO’s」。こんな名前だが乾物屋で看板商品は瓶入りかんぴょう、と言うならまだ「そういうこともあるかな」という気はするが、この店の商品もキャラクターが描かれた瓶入りティラミスだ。この時点で完全に黒だし、確信犯である。

また、それだけなら「パクり業者め、速やかに営業を止めるか、かんぴょうを売れ」という話になるだけだが、このティラミスヒーロー問題が大きく騒がれたのは、単に売れた店を真似しただけではないからだ。

本家シンガポールの「ティラミスヒーロー」は、日本で「ティラミスヒーロー」の屋号とロゴの商標登録を行っていなかった。そしてパクった方とされている「HERO’s」の方が「ティラミスヒーロー」という屋号、および本家のほぼコピーであるロゴの商標登録をしてしまったため、本家の方が「ティラミスヒーロー」という文言を日本で使えなくなってしまったのである。

つまり、法律上ではパクった側に権利があり、本家がそれを使うと逆に罰せられるという状態なのだ。そんなことがあっていいのか、と多くのツイッター民が絶望し怒ったのが、今回の件が大きく拡散された理由である。

この「HERO’s」の親会社は「gram」という。パンケーキが売りのカフェを出店しており、全国にかなりの店舗数があるようだ。

しかし、この「gram」そのものも、元々あった人気カフェの屋号と商材を奪ったもの、という噂があるほか、ローソンの人気商品「プレミアムロールケーキ」など、自社と関係ない有名スイーツの名前を商標出願しているそうだ。これらをティラミスヒーローの騒動とあわせて考えれば、商標未登録の人気商品を狙った「乗っ取り」の常習会社では、と言われている。

「ツイッター民の怒り」が持つ力と「弱点」

やり方だけ見ると吐き気を催す邪悪だが、「悪い奴ほど法律を守る」と言うように、日本の法律上、「HERO’s」や「gram」が罰せられることはない。

ただ、このツイッターでの騒動を受けて、各種メディアがこの問題を取り上げたことで、オープンしたばかりの「HERO’s」の店舗には客が来なかったり、逆に本家ティラミスヒーロー(編集注:現在は屋号をティラミススターに変更)の催事会場には客が殺到したりしている。「ツイッター民の怒り」というのはすでにバカに出来ないものであり、暴走しがちではあるが、問題提起や世の中を動かす力を持っているのも確かである。

しかし、「ツイッター民の怒り」には「長持ちしない」という特徴がある。何故ならツイッター民には他に怒ることがたくさんあるからだ、実に多忙なのである。実際、ツイッターを一日68時間やっていると、「嫌な事件」を5つは目にする。

ティラミスヒーローの件もその一つに過ぎず、HERO’sも「(同社が商標出願したロゴに関して)シンガポールの日本側運営会社に対し、その使用権をお渡しする所存でございます」という発表以降、普通に営業している。その内、新しい「嫌な事件」にツイッター民の関心は移り、HERO’sはうやむやの内に逃げ切るだろう、という見方もある。

確かに、世の中は一日68時間ツイッターを見ている人ばかりではないので、騒動が沈静化した後、何も知らない人が「瓶入りティラミスおもろいやんけ」と買ってしまうことは大いにあるだろう。しかし、今回の事件の真に嫌なところは、ティラミスヒーローのキャラクターが猫、つまりおキャット様という点である。

本家ティラミスヒーローは「世の中に瓶入りティラミスを広めるために活動するヒーローアントニオ」という猫をキャラクターにしており、そのストーリーだけで泣いてしまう。それなのに今回の騒動のせいで、アントニオは「ティラミスヒーロー」を名乗れなくなってしまったのだ。もう本当に泣く。

そして「HERO’s」の方も、ヒーローをモチーフとした数種類の猫のキャラクターを使っている。会社のやり方がどれだけ汚かろうと、猫はかわいい。この猫たちが描かれたティラミスが、運営会社の風評により売れ残っているかと思うと、とてもじゃないが「ざまあ」とは思えない。まさに、人間如きのいざこざにおキャット様が巻き込まれている状態である。

このおキャット様の犠牲から我々が何を学ぶべきかというと、まずおキャット様を私欲のために利用すると必ず地獄の業火に焼かれて死ぬという点。そして、商売をやる以上「うちのような小さいところがまさか」とは思わずに、商標登録ほか、権利に関しては法的に主張できる状態にしておかなければならないということだ。

特におキャット様関連で商売をさせていただこうと思っているものは必須である。自分のおキャット様は自分で守らなければならない。

ちなみに、「HERO’s」は現在もフランチャイズを募集しているようだ。今の騒動を知らずに「何か話題だし」と申し込む人がいたら、情弱を越えて商売自体に向いていないと思うが、gramについてはすでにフランチャイズ店があり、今回の件で深刻な被害を受けている店もあるという噂がある。

こちらも告発がツイッターでなされ、炎上の後アカウントを消してしまったようだ。気の毒な話ではあるが、フランチャイズ店舗は親企業の良い評判や知名度を借りて運営するものなので、逆に悪い風評に左右されるのも致し方ないところがある。

もしフランチャイズで何か店をはじめようと思ったなら、その会社のことを良く調べてから行うべきだろう。それが自分のためであり、おキャット様のためにもなるはずだ。

連載バックナンバーはこちら