阿久津良和のITビジネス超前線

ポストビッグデータ時代におけるプラットフォーマーの条件

阿久津良和のITビジネス超前線 第6回

ポストビッグデータ時代におけるプラットフォーマーの条件

2018.10.23

ポストビッグデータ時代に注目したい米Teradata社

Teradataの戦略やソリューションを紹介するイベントを取材

Teradata(テラデータ)という企業をご存じだろうか。1979年に米国で創業し、現在ではクラウドベースのデータおよびアナリティクス(分析)に特化したエンタープライズ企業である。

日本法人は日本テラデータとして活躍しているが、日本マイクロソフトなどグローバルIT企業と比較すると、日本での知名度はさほど高くはない。だが、Teradataが持つ潜在能力は実に高く、ポストビッグデータの時代を迎えた現在こそ注目すべき企業の1つに数えるべきだ。

今回は、米国日時の2018年10月14~18日にラスベガスで開催された「Teradata Analytics Universe 2018」を中心に、同社の戦略やソリューションをご報告したい。

データウェアハウスからデータインテリジェンスへ

イベント初日の基調講演では、50カ国3,000人以上が集まった会場の聴講者に対して、Teradataのビジョンが語られた。現在同社は1,200万ユーザーを抱えつつ、11兆のクエリを通じて840EB(エクサバイト)のデータが使われる状況下にある。そのようななか、講演ではTeradata COO, Oliver Ratzesberger氏が「パーベイシブデータインテリジェンスの新時代を切り開いていく」と述べた。

Teradata COO, Oliver Ratzesberger氏

抄訳すれば『意思決定者のために加工・分析したデータの普及』。これが新たなTeradataを象徴するキーワードだ。同社は従来のDWH(データウェアハウス)企業から、ユビキタスなデータインテリジェンスを届ける企業に生まれ変わるという。イベント開催直前に発表した新たなコーポレートロゴにも同様のメッセージが込められており、その意思は登壇時の発言「アナリティクスを買うのはやめよう」(Ratzesberger氏)にも通じる。

新たなTeradataロゴ

Ratzesberger氏の発言は過去の自社を含めた旧態依然としたアナリティクスツールを否定するものだった。その理由は、パーベイシブデータインテリジェンスを実現するソリューション「Teradata Vantage(以下、Vantage)」の存在が核にあるからだ。Vantageの導入事例として、オーストラリアのQantas Airways Limited(カンタス航空)が成し得た燃料消費率1.5%の改善や、米通信キャリアのVerizon Communications(ベライゾンコミュニケーションズ)の月間解約率を1.2%で抑制したことを紹介。また、米国の非営利民間医療保険の最大手であるKaiser Permanente(カイザーパーマネンテ)は、Vantageを活用することで、年間に亡くなる12万5,000人の10%を救い、3,000億ドルの経費削減に成功したという。

Teradata President and CEO, Victor Lund氏は「現在のビジネスで求められるのは、保有するデータを容易に取り出して活用できる仕組み」だと述べる。多くの企業は蓄積したデータを古いシステムで管理し、データアナリストはデータコネクターを通じて分析前の処理を行うだろう。TeradataはVantageについて、「常にすべてのデータを管理するため、分析プロセスや展開先、分析による洞察を容易に得られる」と説明する。

Teradata President and CEO, Victor Lund氏

Teradata Vantageで何ができるのか

TeradataはVantageのメリットとして「好みの言語やツールが使用できる」「分析関数とエンジンを単一化」「複数のデータセットをサポート」の3要素を得られると語る。「皆さんに適切なツールを使って頂きたい。Vantageは『適切なツールを適切な仕事に使う』という概念が背景にあり、データの形状や分析内容に応じて言語やエンジン、4D Analyticsなどを用いて、広範なビジネス課題を解決できる」(Teradata SVP of Marketing, Chris Twogood氏)という。具体的なSQLやPython、Rなどの開発言語、各種BIツールに加えて、SASやJupyter、RStudioといったプラットフォームで、JSONやBSON、AVRO、CSV、XMLといったデータを扱える。

Teradata SVP of Marketing, Chris Twogood氏

また、すべてのデータをいつでも活用できるのがVantageが備える特徴の1つ。データをスピンアップし、必要な場面でダイナミックに分析できる場面が増えているが、従来のデータを読み込んで変換する過程はトラブルを引き起こす要因に数えられる。この課題に対してVantageはデータを1つのクエリで取得し、そのまま分析を実行するNative Object Storeの実現を2019年リリース予定の次期Vantageで容易にするという。データサイエンティストやビジネスアナリストはAmazon S3やAzure Blob上のデータをシームレスに処理できる。

Native Object Storeのイメージ図
Teradata President of Teradata Labs, Oliver Ratzesberger氏(左)とMicrosoft General Manager of Azure Media and Entertainment, Azure Storage and Azure Stack, Tad Brockway氏(右)による対談も行い、良好な関係性をアピールした

データ分析の前のデータ準備に課題、全自動化で解決へ

イベントではほかにも著名な登壇者により、企業のデジタル化に向けた施策など多くの話題が語られたが、最後はTeradata VP of Technology and Innovation, Jacek Becla氏の発言に注目したい。同士は長年スタンフォード大学に在籍していたが、Teradataに席を移した理由の1つとして、「顧客視点でエンタープライズの仕事に携わっている。技術や分析エンジンに取り組み、具体的なソリューションを実現できる」と述べた。

Teradata VP of Technology and Innovation, Jacek Becla氏

Becla氏は主に研究的視点から技術に携わっているが、「データラングリング(飼育)とスキーマ設計に7割の時間が費やされる」と、分析に至るまでのデータ準備に多様な課題があると指摘した。その上で「速さや最適性といった議論ではなく、すべてを自動化する」(Becla氏)のがVantageの意義であると語る。前述したTwogood氏が述べたようにNative Object Storeの実装は来年以降だが、「単なるビジョンではなく、研究所には試作機もある。1つのクエリにデータを割り当て、PB(ペタバイト)級のクエリを実行できる」(Becla氏)と多様な分析に集中できることを強調した。合わせて機械学習に用いるGPUのマルチスケジューリングについて、解決策を検討しているとして、現在取り組んでいる研究成果もいくつか披露した。

今後の機能については実装後に機会があれば紹介したいが、強いて昨今のバズワードを用いれば、現在は「ポストビッグデータ時代」に突入している。大量のデータを処理するビッグデータプラットフォームは普遍化し、利用する企業側はもちろん分析ソリューションの提供側でも、データの集積方法や更新の容易性、アクセスの最適化が課題として挙げられてきた。これらの諸条件を解決するには我々の意識変革も伴うが、基盤となるデータ・分析プラットフォームの躍進は、課題解決の大きな近道となり得るだろう。

阿久津良和(Cactus)

ユーザーとともに創る日本マイクロソフトのイノベーション戦略

阿久津良和のITビジネス超前線 第5回

ユーザーとともに創る日本マイクロソフトのイノベーション戦略

2018.04.23

多くのIT企業はハッカソン(ハックとマラソンを掛け合わせた造語)やコンテストを実施し、新たなビジネスの創出に努めている。Microsoftおよび日本マイクロソフトは学生向けITコンテスト「Imagine Cup」を2003年から、日本マイクロソフト独自施策としてスタートアップを支援し、技術革新を表彰するコンテスト「Innovation Award」を2007年から例年開催してきた。

過去のInnovation Award受賞者には、法人向けクラウド名刺管理・共有サービス「Sansan」を展開するSansan 取締役 富岡圭氏(2009年度優秀賞)など、ビジネスの第一線で活躍する方も少なくない。2017年から日本マイクロソフト 業務執行役員 コマーシャルソフトウェアエンジニアリング本部長に就任したドリュー・ロビンス氏は「技術スキルに磨きをかける場を提供したい」とその意義を語る。

2016年4月23日に開催した「Innovation Award 2016」の様子。Imagine Cup参加者を交えた記念撮影が行われた
2017年3月22日開催の「Innovation Award 2017」。Information Award受賞者たち

2018年4月16日に都内で開催した「Innovation Award 2018」は、Imagine Cup 2018日本代表最終選考会とInnovation Award最終審査、そして両者の表彰式を行うイベントだ。本稿ではInnovation Award受賞者に焦点を当て、自社の新ビジネス創出につながるアイディアを紹介する。

小型ドローンで各所を保守検査

イベントスポンサーの冠を持つOrange Fab Asia賞 兼 サムライインキュベート賞 兼 東京エレクトロンデバイス賞 兼 三井不動産賞を受けたLiberawareの「LAPIS(Liberated Activation Platform for Information Strategy)」は、非GPS環境下で小型産業用ドローンを活用し、屋内空間のデータ化とAI(人工知能)解析システムを用いた施設および基盤の管理やメンテナンスを可能にするソリューションである。

下水道管や物流センター、植物工場や洞道といった狭い空間に小型産業用ドローンが踏み入り、情報収集や予兆保全などに用いることが可能だとLiberawareは説明する。1例として地下施設内の基盤保守検査について、「Microsoft Azureを活用した機体管理やデータ解析、飛行設計などを行うLAPISを、Microsoft HoloLens(以下、HoloLens)を組み合わせることで、劣化したパイプを可視化するといったシナリオを実現」(Liberaware 関弘圭氏)できると語った。

Liberawareの小型産業用ドローンを音声で制御するデモンストレーション

ドローンから得た空間情報をサーバーに送信し、映像として構成したHoloLensのディスプレイに映し出すという。既に数社とプロジェクトを開始しつつ、音声やジェスチャーを用いたドローンの遠隔操作に着手している。さらなる小型化は可能かと審査員から問われると、同社は「センサーの小型化が課題」(関氏)とドローンを構成する部品の進化が影響を及ぼすと説明した。

顧客とデザイナーのイメージをVRで共有

PR TIMES賞を受けたのは、これまで莫大な費用を必要したVR(仮想環境)空間作成を、3D CADデータを読み込ませるだけで作成し、同空間内で打ち合わせや意思決定を行う空間・建築デザイナー向けのVRビジネスツール「SYMMETRY」。DVERSEの沼倉正吾氏は、「デザインの現場では顧客とデザイナーが互いのイメージを共有しなければならないが、人によって感覚は異なる」と述べ、その差異を埋めるのがSYMMETRYだと説明した。

DVERSEの「SYMMETRY」はWindows Mixed Reallyデバイスを装着し、顧客とデザイナーの間で建築物のスケール共有や修正が可能とする

カメラアングルを変えた背景画像や家具の画像を、教師データとして機械学習に与えることで、VR空間を作成する。顧客とデザイナーはWindows Mixed Reallyデバイスを装着し、VR空間に滞在してイメージをすり合わせるが、3Dモデルの物体認識率は学習済みが98%。未学習画像でも93%の正解率に達するという。DVERSEは、「市場規模は約12.7兆円。デザインの現場で必要だった確認・修正・承認のフローを改善する」(DVERSE 沼倉正吾氏)と述べ、建築や店舗、展示会など幅広い市場での展開を目指す。

懇親会で披露した「SYMMETRY」。デバイスを装着して体験する参加者も少なくなかった

量子コンピューティングをビジネス分野へ開放

プロトスター賞を受けたのは、MDRの「Wildcat」。機械学習などに用いられるプログラミング言語のPython用開発キットを利用し、量子コンピューティングと古典コンピューターの開発環境をクラウド経由で提供するソリューションだ。統計的な変動を用いた、確立リカレントニューラルネットワークの一種であるボルツマンマシンは、規模の拡大に応じて学習の正確性が欠落することから、実用化に大きな課題を残す。同社は「量子コンピューティングは、10年内に古典コンピューターを超えるため、ビジネス分野に明るい方々が量子コンピューティングを使える環境が必要」(MDR 小林俊平氏)だと語る。

MDR「Wildcat」の概要。Microsoft Azure上で稼働する

MDRは量子コンピューティングにまつわる課題を解決するため、ボルツマンサンプリングの計算負荷や精度不足を改善し、"古典+量子コンピューティング"のハイブリッドプログラミング環境を提供するWildcatを用意した。NVIDIAと協力したGPU並列化シミュレーテッド量子アニーラを用いて、ボルツマンのサンプリングを行い、それ以外は古典コンピューターで実行する仕組み。1GPUで5,000量子ビットの演算を可能にし、複数GPUでマルチノード並列化を実装している。今後の展望として同社は、ゲート型量子コンピューターのGPU並列化シミュレーター、量子アニーラや量子コンピューター用独自チップの開発、既存の量子コンピューターへの接続交渉を重ねているという。

Wildcatを支える「GPUアニーラ」の概要

ビジネスパーソンでもデータサイエンスを実行可能へ

弥生賞を受けたのはデータビーグルの「Data Diver」。エンジニアやコンサルタントの専権事項であったデータサイエンスを一般的なビジネスマンが利用可能にするツールだ。同社 代表取締役 西内啓氏は「統計学は最強の学問である」の著者でもある。「新しい統計手法を作っても使われないため、大学を辞めて個人でコンサルティング業務を続けていた。すると、顧客課題は共通項が多いことに気付き」(西内氏)、パッケージ化して同社を起業したと説明した。

データビーグル 代表取締役 西内啓氏

Data Diverは開発言語を用いないノンコーディングシステムで、取り出したい情報にまつわる条件設定を付与することで、RDBMS(関係データベース管理システム)内のデータを引き出せる。出力結果はスプレッドシートのため、エクスポートすれば会議資料にそのまま利用可能だという。データビーグルは現在、「B2Cの小売業界に注力し、既に利用案件が増加中」(西内氏)だと説明した。

データビーグルの「Data Diver」

自然言語理解を用いた情報分析

's ACADEMY賞を受けたのは、コージェントラボの「Kaidoku」。従来のNLP(Natural Language Processing: 自然言語処理)では難しかった言語情報解析にNLU(Natural language understanding: 自然言語理解)を用いて、自動分類や類似検索、視覚的分析を可能にするシステムだ。1例として、米国政府の金融商品に関する30万件のクレーム情報を読み込ませると、顧客が住所変更を行っていないようなデータ欠損や、類似するクレームは特定地域で発生したことが、視覚的に把握できるという。

コージェントラボの「Kaidoku」

コージェントラボの飯沼純氏は、資料作成の時間短縮やコミュニケーションツールに対する検索結果を業務利用する際、Kaidokuが役立つとアピール。「(複数のツールを併用することで業務フローと生産性に混乱が生じた結果、)約4.3兆円/年の機会損失回避や、長時間労働、労働生産性の低下を解決する」(飯沼氏)。

楽曲フレーズの均一性を抽出して類似曲をリコメンド

聴講者からの投票で一番人気となるオーディエンス賞を受けたのは、メタルテックの「SongsLink」。既存の曲推奨機能は音楽的特徴よりも評価や閲覧履歴と言ったメタデータを重視し、自身が聞きたい曲が流れにくい。そこで、イントロダクションのメロディラインやギターソロといったフレーズをデータ化することで、該当するフレーズで他の曲を推奨する。

メタルテックの「SongsLink」

事前の聴者趣向データを登録する必要はなく、Webサイトのウィジェットとして貼り付けることで得られる広告収入や、APIリクエスト課金モデルで収益化を目指すが、現在はYouTubeを基盤としているため、音楽配信会社との連携を図る。作者である長尾俊氏自身がヘビーメタル好きのため、緩急が激しい曲は分別しやすいという。

エッジコンピューターでも機械学習を実現

優秀賞を受けたのは、エイシングの「エッジライトコンピューティングを実現する機械学習AI」。同社はAIパラメータの調整を必要とせず動的な追加学習やエッジ側のリアルタイム学習を実現するDBT(Deep Binary Tree)エンジンを用いたソリューションを紹介した。組み込みを念頭に開発したDBTは、Raspberry Pi 3上で稼働させても50マイクロ秒の応答性を実現する。

DBTをエッジ側に実装することで、大幅な時間短縮と精度向上が可能になる

現在DBTはSaaSソリューションとして提供中だが、DBTアルゴリズムを焼き込んだFPGA版のリリースを予定中。エイシングは事業戦略として船舶エンジンや光学センサー分野で展開し、市場規模の観点から見ても1兆円を超えるビジネスにつながると説明する。授賞の感想を求められた出澤純一氏は、「この賞に恥じないユニコーン企業を目指してまい進する」と語った。

左から日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役社長 榊原彰氏、エイシング 代表取締役社長 出澤純一氏

計算手法を見直してNN演算を高速化

そしてソフトバンクテクノロジー賞および最優秀賞に輝いたのは、アラヤの「ニューラルネットワークの演算量削減・高速化技術」。同社が考案したフィルタを圧縮する設計を加えると、必要な部分だけ計算するため、ニューラルネットワークの精度を落とさずに演算量を10分の1から50分の1まで削減する。

アラヤの演算量削減技術概要

さらに他の演算手法と組み合わせることで、画像のリアルタイム処理を汎用的なFPGAで可能にする。通常はGPU付きワークステーションなどを必要とするが、スマートフォンや白物家電といったエッジ側の性能を飛躍的に向上させる可能性が出てきた。

物体認識のデモンストレーションでは約10倍の処理高速化を実現。FPGAで実装するれば、30fpsを超えるリアルタイム検出も可能になる

本技術を普及させる施策としてアラヤは、Microsoft Azure上に演算量削減版ニューラルネットワーク自動生成ツールを搭載して、顧客に提供する。同社は大手自動車メーカーと車載デバイス、某通信事業社とドローンの共同開発を進めており、「いずれも消費電力や小型化が必要条件のため、確実に勝てる部分でビジネスを進める」(アラヤ 松本渉氏)。授賞の感想を求められた松本氏は、「我々のプレゼンテーションは地味なので、他のチームが優勝すると思っていた。AIによる社会変革を目指すため、ご支援頂きたい」と語った。

アラヤの松本渉氏(右側2番目)

コミュニティのパワーを新ビジネス創出へ

本イベントの責任者であるドリュー・ロビンス氏は、「我々は顧客と共に技術革新を起こし、参加した学生や企業が他者から刺激を得て活躍する場面を増やしたい」と、長年イベントを続ける意義を語る。

日本マイクロソフト 業務執行役員 コマーシャルソフトウェアエンジニアリング本部 ドリュー・ロビンズ氏

自身も日本マイクロソフト参加する以前から、Microsoft MVPとしてコミュニティに参加してきた経緯を持ち、「技術革新を求めるエンジニアが一堂に会すると、個人ではなし得ない何かが生まれてくる。自分が(1990年代に開催していた)Microsoft Developer Daysに参加した際、Microsoft社員の支援を受けつつ最後までたどり着くことができた」(ロビンス氏)と、コミュニティのパワーを強く感じた経験をつまびらかに明かした。

だからこそ、Microsoft/日本マイクロソフトはImagine CupやInnovation Awardといったコンテストに注力し、2018年2月にはスタートアップを多角的に支援するプログラム「Microsoft for Startups」を開始している。「もしかしたら今日のイベントを切っ掛けに学生やスタートアップのキャリアが大きく変化するかも知れない」(ロビンス氏)イベントを開催し、新ビジネスの創出を目指してきた。

筆者は本イベントの取材を開始して3年足らずだが、Imagine Cup日本予選にチャレンジする学生たちのレベルは年を重ねて高まっている。Innovation Award参加企業も昨年まではアイディア性が際立っていたが、今年は機械学習など時代を反映したソリューションをプレゼンテーションする企業が際立った。いつの時代も世の中を変えるのは、たわいもない発想とそれを実現する熱量を持つ人々である。我こそはと奮起する学生やスタートアップ、もしくは自社の事業に新風を招きたいと考える企業は、来年の本イベントに参加することをお薦めしたい。

Innovation Award 2018受賞者の皆さん

阿久津良和(Cactus)

先端技術からビジネスシーンへ移った「HoloLensの今」--小柳建設社長インタビュー

阿久津良和のITビジネス超前線 第4回

先端技術からビジネスシーンへ移った「HoloLensの今」--小柳建設社長インタビュー

2017.11.16

日本マイクロソフトのMR(複合現実)デバイス「Microsoft HoloLens(以下、HoloLens)」が、ビジネスシーンを塗り替えようとしている。同デバイスは2016年12月2日から予約受付を開始し、2017年1月18日より順次提供を開始し、そろそろ1年を迎えつつあるHoloLensの歴史を振り返ってみたい。

先端技術として注目を集めたHoloLens

日本国内でHoloLensを披露したのは2016年4月18日に開催した日本航空(JAL)の発表会だった。同社はMicrosoftと提携し、ボーイング787型用エンジン整備士訓練生向けツール、そしてボーイング737-800型機運航乗務員訓練生用トレーニングツールを発表。VR(仮想現実)デバイスではなくMRデバイスを選択した理由として、日本マイクロソフトの関係者は「パイロットの訓練は視覚だけはなく触覚で覚えることが必要。さらに目の前に自身の手が動く様が大事。エンジンの内部構造を目の前にすると、(環境情報を遮断する)VRデバイスでは移動時に恐怖を覚えてしまう」と説明している。

また、別の発表会ではMRデバイス及びアプリケーションの導入背景として、航空機が安定することで修理機会は減り、保守点検期間も広がる傾向があると述べていた。もちろん経営観点から見れば望ましい結果だが、整備士は目の前の航空機に触れて知識が血肉となる。訓練用航空機の確保も困難になるため、アプリケーションの開発に至ったと言う。「航空機・エンジン企業の協力を得ないまま、撮影した写真を3D化して開発に至った」(日本航空 整備本部部長 兼 JALエンジニアリング 人財開発部長 海老名巌氏)と関係者は当時の苦労を吐露していた。

日本マイクロソフトで開催した日本航空の発表会。HoloLensを手にするJALの現役パイロットと整備士、中央はMicrosoft HoloLens担当General ManagerのScott Erickson氏

HoloLensの存在は、2015年4月末から米国で開催した開発者向けカンファレンス「Build 2015」で明らかにしていたが、前述の発表会が日本初上陸と相まって、多くの報道関係者が会見場に詰め寄っていった。筆者もHoloLensを始めて体験した際は、エアタップ(人差し指を立てて、まっすぐ下に倒すジェスチャー)で3Dホログラム化したエンジンを、あらゆる角度から見て回った感動は今でも思い出せる。

前述のように日本マイクロソフトは2016年12月から予約受付を開始しているが、その前に世界各国にある海外拠点のグローバルセールス及びマーケティングサービスを統括するMicrosoft EVP兼President Global Sales Marketing&OperatioのJean-Philippe Courtois氏を招いて、HoloLensを中核とした展開について説明した。「航空機を(デジタル空間に)持ち込むコンセプト」と、JALとの協業結果を説明し、Courtois氏は日本マイクロソフトを含めたグローバルで支援することを表明している。

HoloLensを手にするMicrosoft EVP兼President Global Sales Marketing&OperatioのJean-Philippe Courtois氏

日本マイクロソフトのHoloLensに対する注力具合は、これまでの製品・サービスの中でも群を抜くものだった。HoloLens出荷日に合わせて開催した2017年度下期の方向性を説明する記者説明会では、同社代表取締役 社長 平野拓也氏が、「デジタルトランスフォーメーション(変革)を推進する上で(HoloLernsは)鍵となる技術。初動実績も他国(西欧など6カ国)の合計数を3倍にあたる予約を頂き、驚いている。建設業界や製造業、ヘルスケア、そして教育現場。この4分野での展開に注力したい」と説明した。なお、HoloLernsは法人向けのCommercial Suite(税込み参考価格55万5,800円)と開発者向けのDevelopment Edition(税込み参考価格33万3,800円)の2種類を用意しているが、圧倒的に開発者向けが多く、「日本人がデジタルに対する親和性の高さや、ビジネスモデルの可能性に対する期待値、関心の高さを感じられる」(平野氏)好例と言えよう。

日本マイクロソフト品川本社ロビーでは、出荷開始日に合わせてHoloLensを披露していた

平野氏の説明どおり2017年4月20日には、建設業界におけるHoloLernsの展開として日本マイクロソフトは、小柳建設とHoloLernsを活用した連携を行うことを発表した。小柳建設はHoloLensを用いて業務の透明化や、近未来のBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)/CIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)データの活用、建設現場や施工主を含めたコミュニケーションを実現する「Holostruction」プロジェクトを推進している。HoloLensを採用した理由として、小柳建設は「政府のデジタル化推進(国土交通省が推進するi-Constructionなど)や建設業界の迷いに一石投じたいという思いがあり、HoloLensが直感的に『来る』と感じた」(小柳建設 代表取締役社長 小柳卓蔵氏)と説明し、小柳建設もMicrosoft及び日本マイクロソフトの3社連携で取り組むと説明した。

日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏(左)と、小柳建設 代表取締役社長 小柳卓蔵氏(右)

拡充するHoloLensのB2B/B2Cビジネス

このように増加傾向にあるHoloLensのビジネス利用だが、日本マイクロソフトの普及活動が実を結び、同社が音頭を取らなくてもビジネスとして成立しつつあると感じたのが、2017年11月8日に開催した「Tech Summit Japan 2017」では、「Microsoft Mixed Realityパートナープログラム」参加企業によるHoloLensアプリケーションの体験コーナーを設けていたが、前述した建設業に留まらず、新築マンション販売コンテンツや仮想マネキンよる試着体験、脊椎病院向けに開発したCTスキャンビューアーなど多くのコンテンツを用意していた。

2017年5月23日に開催した「de:code 2017」の基調講演には、HoloLensの父であるMicrosoft Windows and Devices Group Technical Fellow, Alex Kipman氏も登壇した

例えば「ホログラフィック・マンションビューアー」を展開するネクストスケープは、「デベロッパー所有のデータを3Dデータ化し、HoloLensで閲覧できるように加工している。室内まで見えるとさらに価値は高まるが、HoloLensを装着した状態で歩くことは空間スペース的に難しく、ジェスチャー操作で仮想空間内を移動しても体験的に面白くなかった」(ネクストスケープ クラウド事業本部 クラウドレンダリング事業開発部 部長 岩本義智氏)と語る。業界初を目指すため2017年4月上旬に着手し、ほぼ1カ月で基本システムを完成させた同社だが、背景には「都庁周辺のビル群を3Dモデル化するテストモデルを事前に作成し、実空間に投影しても正しく設置できることを検証してから、本プロジェクトに取り組んだ」(同氏)経緯があるため、アジャイル的な取り組みを実現できた。

「Tech Summit 2017」に設けたHoloLens体験コーナー。写真だけでは分かりにくいが、ディスプレイの先には3Dモデルが現実世界と融合し、さまざまな世界を実現している

試着体験をHoloLensで変えると意気込むハニカムラボは、未来の試着環境を作り上げようとしている。取り組みを始めた理由として同社は、DMM.makeと共同事業を行い、「バーチャルフィッティング事業に対する最新プロトタイプで、オンラインショッピングの可能性を広げるのが目的。当初は『オンラインだと洋服が自分に似合うのかなど(実店舗と比べると)不明確な点が多い』という意見が多く、既にある3Dモデル化の技術を使って取り組んだ」(ハニカムラボ 代表取締役/ソフトウェアエンジニア/クリエイティブディレクター 河原田清和氏)と理由を説明した。現時点では具体的なビジネスモデルに至っていないが、現在いくつかの案件が稼働中だと言う。当初は先端技術に位置していたMRだが、気付けば我々のビジネスシーンにも点在し、既存のソリューションを変えようとしている。

脊椎病院向けに開発したCTスキャンビューアーと、共有可能な音声アノテーションコンテンツに取り組むホロラボは、既に稲波脊椎・関節病院と共同開発を続けてきた。「(遠隔地から会議などに参加し、距離を問わずに共同作業を行う)機能にいち早く実装した」(ホロラボ 創業者兼CEO 中村薫氏)ことで、他局や別の病院にいる医療関係者が知見を述べるなど、これまでの治療と一線を画するソリューションを実現する。また、同社はHoloLensに限らず、Windows Mixed Realityデバイスや同モーションコントローラーを利用するソリューションも合わせて用意した。「細かい操作を行う際は(HoloLensの視点移動やジェスチャー操作だけでは)不慣れな方は使いづらい。(今後実装予定の)編集機能でもWindows Mixed Realityモーションコントローラーの方が使いやすく、視野角も広い」(同氏)と言う。

一連のアプリケーションで注目すべきは、一般消費者がMRの恩恵を得られるという点だ。新築マンションや仮想試着は説明するまでもなく、CTスキャンビューアーも医療現場に導入されれば、患者がHoloLensを装着して視覚的に自身の患部を把握しやすくなるだろう。

会場裏側に設置したホロラボのリモートシステム。遠隔地にいる医療関係者の視点をシミュレーションし、音声による相互コミュニケーションも実現する

そして、2017年11月14日にエアバスは、JAL及びJALエンジニアリングの協力によって、HoloLensを用いたA350 XWB向け訓練アプリケーションの試作品を開発したと発表した。「アプリケーションの実現には、航空機の3DデータとIT技術の進化に対応する人材」(海老名氏)という2つの課題があった。JAL及びJALエンジニアリングが独自に人材を抱えるのは現実的ではないため、今回はオブザーバーとしてエアバスの開発に参画し、エアバス本社はプロジェクトチームや社内トレーニング専門部署を設け、本アプリケーションの開発に取り組んでいる。

こちらのアプリケーションも体験する機会を得たが、コックピットや航空機のデータを持つ企業自身が開発しているため、その現実感は非常に高い。筆者はコックピットでエンジンを作動させるまでの手順トレースを10分ほど試してみたが、操作もしくは確認すべき計器やスイッチに視点を合わせるだけで操作でき、1年前のJAL製アプリケーションと比べて、ユーザー体験的も大きく向上しているように感じた。

エアバスによるA350 XWB向け訓練アプリケーションの試作品。今後改良を重ねつつ、実稼働を目指す

エアバスの発表会に参加していた日本マイクロソフト関係者は、「我々は技術支援を行う立場で、エアバスさんとJALさんによるビジネスソリューション」だと今回のアプリケーションを説明している。つまり、HoloLensは日本マイクロソフトが注力してきた市場開拓に成功し、MRの可能性に気付いた他企業同士が意思決定の迅速化や生産性能の改善など既存ビジネスソリューションを書き換えようとしているのが現在の状況だ。

IT技術で建設業界を牽引する存在を目指す小柳建設

さて、小柳建設は早期からMicrosoft及び日本マイクロソフトと連携しながら、建設業における計画・工事・検査の効率化と、アフターメンテナンスの履歴管理を可視化する「Holostruction」プロジェクトを続けてきた。現在の進捗として遠隔地からの建設情報の確認や、問題の共有などが現実化しつつある。このように建設業界の変革にチャレンジする小柳建設だが、同社代表取締役社長 小柳卓蔵氏に話を伺う機会を得たので、その内容をお届けしたい。

小柳建設 代表取締役社長 小柳卓蔵氏

--2017年4月からの現在までの進捗状況は

リモートコミュニケーションの実装です。事前の実証実験としてシアトル・日本間で同機能を検証しましたが、感動の一言に尽きます。アバターのデザインは(日本マイクロソフトに)お任せしましたが、相手が前かがみして首を動かすなど、さまざまな動きが再現されます。

また、音響効果も現実性を高める要素でした。例えば相手が左から話しかければ、(HoloLensのスピーカーを通じて)左方向から声が聞こえてきます。まるで相手が存在するかのような臨場感がありました。確かにコミュニケーション自体はSkypeのビデオ通話でも可能です。しかし、(HoloLensは)相手の顔こそ見えませんが、「直感的に五感で相手を認識できる」体験を得られます。

このリモートコミュニケーションを実装することで、遠隔地の作業員や関係者がアバターとして仮想空間に参加し、同じ物体を見ながらコミュニケーションを実現するアバターの視点や動作、物理的距離を超えて同じ空間を共有することを実現できたのは、(Holostructionをビジネスソリューション化する上で)もっとも大切なことでした。

--次に実装する機能は予定済みか

その点は私(日本マイクロソフト エンタープライズサービス部門 エンタープライズサービス営業統括本部 ソリューションスペシャリスト 鈴木保夫氏)からお答えします。2017年4月の時点でHolostructionの開発に必要な課題項目を列挙しており、日本マイクロソフトは継続的支援を行ってきました。現在取り組んでいるのは、橋梁などホログラフィックデータを建設現場に投入する際に必要な施工図をインポートする機能です。これにより、3Dモデルなど対象物の自由度が大きく高まります。

HoloLens体験コーナーでは、遠隔地にいる関係者と会話を交わしながら工程表の問題点を話し合うなど、リモート会議を経験できた

--Holostructionは現場で稼働しているのか

2017年9月から1件稼働させています。まだデータ入力を開始したところですが、鈴木さんのご説明にもあったように、どのような建設物でも、すべてホログラフィックに投影できる状態を目指しています。現状では今後1年に3~4現場で(Holostructionの利用に)チャレンジする予定です。

「Holostruction」のイメージ図。実際にHoloLensを装着すると、工程表を元に音声でコミュニケーションを取りながら、進捗状況を複数の参加者で確認し合うことが可能だった

--2Dの施工図を3D化する苦労は

大手建設企業などは施工図の3D CAD化に取り組んでいますが、地方の中小建設企業では未着手というのが現状です。その要因の1つは「難しそう」というイメージと、「3Dで書いて何の意味がある?」という意見が少なくなりません。年配の熟練技術者は頭の中で施工図から立体的なイメージを作り出すため、(3D CADの)必要性を感じていません。「2Dの図面を見て3D化できれば、ようやく一人前になった証し」と、建設業界に入る若者に対しても同じプロセスを提示するため、障壁となっています。ベトナムなど東南アジアでは、日本人が現地でBIMデザイナーを育てるという企業も出てきました。人材不足については海外からの流入に頼る部分も今後は出てくるかも知れません。

--HoloLens活用で他社の追従を感じるか

他の建設企業が我々にライバル心を持って頂かなければ、業界自体がデジタル変革を起こせません。新潟という地方の中堅中小企業である我々が、IT技術を活用した建設ソリューションを作り上げようとしています。だからこそ危機感ではなく、むしろ我々が「(IT技術+建設業界を)牽引する存在」を目指したいと考えています。

大手総合建設企業さんが取り組んだVR(仮想現実)ビューアーなどを目にしても、施工プロセスの部分的なところを切り出しているように見受けられます。さらに開発しているのがシステム部門と思われるため、現場の整合性や利便性を考慮していないものもありました。あくまでも推察の域を超えませんが、Goサインを出す上層部の方々が年配層でIT技術に理解がなく、食い違いや取り組みの遅延が発生しているように感じます。

ただ、我々がHolostructionに取り組めたのもタイミングによるところが大きいです。3年前に金融業界にいた自分が社長となりましたが、先端技術の重要性に気付ける若さと、チャレンジ精神を備えていたこと。そして鈴木さんを始めとする日本マイクロソフトさんとの出会いも重なって、始めて構築できました。価値に気付くのは年齢だけではありませんが、足の遅さが障壁となっているように見受けられます。

--Holostructionのロードマップは何合目

5合目に達していないか、という状態です。政府関係者にはHolostructionのデモンストレーションをご覧になって頂き、大変興味を持ってもらいましたが、いまだに建設業界全体は変化していません。皆がパラダイムシフトを起こして変革するタイミングを5合目と捉えています。この5合目は断崖絶壁と言えるほど厳しい部分ですが、垂直登攀(とうはん)で5合目を越え、業界関係者がHolostructionを使うようになれば、頂上に達したと初めて言えます。

--本日はありがとうございました。

阿久津良和(Cactus)