今さら聞けないビジネスIT用語集

参照系APIで経済が変わる--「オープンAPI」

今さら聞けないビジネスIT用語集 第20回

参照系APIで経済が変わる--「オープンAPI」

2018.05.22

2017年5月17日に成立した「銀行法等の一部を改正する法律(通称: 改正銀行法)」の施行予定日が近づいている。金融庁は2018年6月1日を予定日としているが、同法の施行で注目すべきは、オープンAPI導入の努力義務だ。金融制度ワーキンググループは「金融機関におけるオープンイノベーションの推進にかかわる措置」の1つとして先の項目を掲げており、メガバンクはもちろん多くの地方銀行も対応済みである。

API(Application Programming Interface)はOSやサービスが保持・運用するデータや機能を、他のシステムから呼び出す際、簡潔なコード記述を可能にするインターフェースだが、オープンAPIはインターネットの普及に伴い、現在では標準的な機能として用いられるようになった。開発現場に詳しい方なら、2005年にJohn Musser氏が立ち上げたAPI情報サイトProgrammableWebもご承知だろう。

全国銀行協会は、改正銀行法の観点からオープンAPIを「銀行と外部の事業者との間の安全なデータ連携を可能にする取組み」と述べ、銀行などが保持するデータを事前に契約を結んだ外部事業者(電子決済等代行業者)にAPIとして公開することで、利用者に価値を提供する金融サービスを実現するものだと説明している。つまり、企業や政府機関が公開するAPIも広義の意味では"オープンなAPI"だが、今現在オープンAPIと称する場合は、改正銀行法で実現した金融機関が公開するAPIを指す。

このような仕組みを有識者や政府が後押しする理由は、銀行が法令上で固有業務や付随業務、周辺業務といった役割を定めており、民間企業のように自由な発想でビジネスを創出するのが難しい存在だからである。とある銀行マンは講演で、「我々は保守的な思考に陥りやすい。フィンテック的なアプローチを行うには、組織全体の改革が必要だ」と述べている。そのため、政府が枠組みを取り払い、方向性をうながす必要があるのだ。

だが、オープンAPIへの取り組みは始まったばかりである。オープンAPIには、顧客のために送金の指示の伝達まで行う1号業務の「更新系API」、顧客に対して口座情報を取得し提供する2号業務の「参照系API」を定義しているものの、前述した金融機関が対応するのは後者のみ。改正銀行法施行後、2年以内(2020年6月)にオープンAPI体制整備を努力義務として課しているものの、多くの金融機関は「検討中」「対応開始時期は未定」としている。つまり、現時点では銀行口座情報を取得して一括管理することは可能ながらも、送金振り替え指示は不可能なため、物品購入時はこれまでどおりクレジットカードなどを使わなければならない。ここが変われば経済流通は大きく様変わりするだろう。

阿久津良和(Cactus)

第4次産業革命を支える通信技術要素--「LPWAN」

今さら聞けないビジネスIT用語集 第19回

第4次産業革命を支える通信技術要素--「LPWAN」

2018.04.23

広域ネットワークを対象とする低電力無線通信は、LPWAN(Low-Power Wide-Area Network: 低電力ワイドエリアネットワーク)やLPWA(低電力ワイドエリア)、LPW(低電力ネットワーク)といった多様な呼称を持つが、世界では多くの通信業者が標準化を目指した競合を繰り広げている。

一見すると既存の無線LANで充分と考える御仁もおられるだろう。だが、Wi-Fi Allianceの802.11は通信速度を優先し、工場など長時間運用を求めるIoTシナリオには合致しない。そのため、既存ビジネスを最適化するLPWANが注目を集めている。

今、注目すべきはフランス企業の「SIGFOX」、LoRaWAN Allianceが提唱する「LoRaWAN」、3GPPの標準規格「NB-IoT」の3種類。SIGFOXは京セラコミュニケーションシステムが同ブランドで国内展開を進めており、NB-IoTは水道メーター向け無線自動検針の実証実験を2017年12月から始めている。LoRa WANは同団体のコントリビュートメンバーであるセンスウェイが、2019年3月末までに人口カバー率60%を目指す「SenseWay Mission Connect」を2018年4月に開始した。

センスウェイは三井不動産と協力して、高層ビルやマンションなどの屋上にLoRaWANゲートウェイ基地局を設置する(センスウェイ発表資料より)

LPWANの活用例だが、街灯LEDを自動で制御するスマートシティ化や、温度センサーを内蔵した訪問老人介護ソリューション、鉄道レールの張力負荷などを計測する保守ソリューションに用いられている。各種センサーから得た情報をLPWAN経由で取得し、サーバー側に数値を蓄積すると同時に、場合によってはエッジ側で自動対応するシナリオも珍しくない。

LPWANを活用したIoTデバイスが社会に普及するには、何をおいてもコストが大きな課題となる。SIGOXは1デバイス年100円以上だが、LPWANを用いたIoTデバイスの通信回数は多くないため、年間利用料は1,000円を切る程度。後発となるセンスウェイは1デバイスあたり30円以上/月(1日12回接続、通信間隔2時間程度)という料金設定を用いている。ただし、センスウェイは大量購入値引きを用意し、8円以上/月という価格設定も用意するという(適用条件は2018年4月時点で未定)。

政府は「平成29年版 総務省情報通信白書」で、2020年までにグローバルで300億を超えるIoTデバイスが利用され、LPWAN需要は2020年までに400万回線に達する勢いだと分析。5Gと同様に重要な第4次産業革命を確立するための重要な技術要素と捉えている。総務省によればアズビル、日本IBM、NTTドコモ、日立システムズなど多くのIT企業が実証実験を続けてきた。

総務省「平成29年版 総務省情報通信白書」による、LPWAN市場の成長率

これらの現状を鑑みれば、既存の生産工場をデジタルする際の重要技術や、新規ビジネス創出にLPWANがもたらす影響の大きさをご理解頂けるだろう。

阿久津良和(Cactus)

行き詰まる製造業が生き残る道--「サービタイゼーション」

今さら聞けないビジネスIT用語集 第18回

行き詰まる製造業が生き残る道--「サービタイゼーション」

2018.03.20

従来の製造・販売ビジネスは終焉を迎えつつある。いくら高品質な製品を製造しても、価格面だけの差別化で市場競争を生き残るのは難しい。また、法に触れないレベルで不当廉売を仕掛けられれば業績悪化はもちろん、いずれ倒産の憂き目を迎えることとなる。正に悪貨は良貨を駆逐するだ。この構造に気付いた企業が自社のビジネスモデルを変えようとしている。それが「サービタイゼーション(Servitization)」である。

サービスエコノミーの一種に数えるサービタイゼーションは、製品販売から利益を得るのではなく、製品をサービス化し、包括ソリューションとして収益を得るビジネスモデルだ。ある意味サブスクリプションビジネスに類似するが、製品の保守情報や収集情報を顧客と共有し、潜在顧客の獲得や新ビジネスへの活用など利点は多い。

例えば小松製作所は油圧ショベルやフォークリフト、ダンプトラックなどの建機製品を販売する企業だが、昨今は「スマートコントラクション」は建機と建設現場、そこで働く従業員をITで有機的につなぐソリューションを提示している。旧来のアナログな現場にIT技術を持ち込み、多様な情報の可視化と効率性の向上を実現した。

小松製作所やNTTドコモなど合弁会社となるランドログは、「スマートコントラクション」を支えるアプリケーション環境や3Dデータを提供。その結果、建機を含めた開発ソリューションをサービス化した

製造現場のIT化ソリューションを提供するIFSは、顧客のサービタイゼーション移行について次の3段階を示している。レベル1は製品や予備部品の供給、消費財の補充。レベル2では定期保守や修理、状態監視やヘルプデスクの用意。そしてレベル3では顧客とのサポート契約やレンタル契約、リスクと売り上げを共有する形を理想像として掲げた。

IFAが定義したサービタイゼーション移行の3ステップ(「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット2018」より)

サービタイゼーションを数字の文脈から見ると、航空用エンジンの製造などを行うRolls-Royce Holdings(ロールス・ロイス・ホールディングス)は、ビジネスモデルの変更によってOEMに対するサービスの年間売り上げは5~10%増。25~30%の保守コスト削減を実現している。

政府が2017年6月に公開した「平成28年度 ものづくり基盤技術の振興施策」によれば、国内製造業4,514社のうち、今後3年間の国内売上高予想は増加(6.2%)、やや増加(33.0%)と回答する一方で、やや減少(14.7%)、減少(5.2%)と横ばい状況が見られる。他方で3分の2の企業が工場などのデータ収集に取り組みはじめた(前年度比26%増)が、具体的活用には至っていない。日本の製造業とその精神性や歴史を示す「ものづくり」は誇らしげな言葉だが、世界を取り巻く環境はそれを許さない。国内製造系企業が生き残る道はサービタイゼーションへの移行である。

阿久津良和(Cactus)