山下洋一のfilm@11

「Home Hub」を使って実感、AI時代のGoogleのキラーサービス

山下洋一のfilm@11 第2回

「Home Hub」を使って実感、AI時代のGoogleのキラーサービス

2018.12.05

Googleの2018年のスマートスピーカー新製品「Google Home Hub」

スマート家電コントロールとフォトフレームに絞り込んだ設計

「Googleフォト」+「Googleアシスタント」の抗しがたい便利さ

Googleが米国で発売したHomeシリーズの最新製品「Google Home Hub」。ディスプレイ付きでありながら、149ドルに価格を抑えたスマートスピーカーだ。製品の発表会で同社がアピールしていたスマート家電のコントロール機能に惹かれて、ダイニングキッチンで家族が家電を操作するデバイスとして購入したのだが、使ってみて「価値あり」と思ったのはデジタルフォトフレーム機能の方だった。

日本でもAI処理を活用した「Pixel 3」シリーズの撮影機能が話題だが、Google Home Hubもまた、AIとGoogleのサービス (Googleフォト)との組み合わせで相乗効果を発揮するハードウェアになっている。この数週間Google Home HubとPixel 3を使ってみて、15年前のWeb成長期における「Gmail」と同じように、AI時代においてGoogleが「Googleフォト」をキラーサービスにしようとしているのを実感している。

Google Home Hubは何ができるの?

Google Home Hubは、いわゆるスマートスピーカーだが、スマートディスプレイと呼ばれることもある。7インチのタッチ対応の液晶ディスプレイを搭載し、スクリーンによって音声だけでなく目でも情報を捉えられるGoogleアシスタント・デバイスだ。OSはAndroidではなく、Linuxベースでもない。セキュリティが問われるIoTを視野にGoogleが新開発している「Fuchsia」の技術が用いられているという報道もあり、実際Fuchsiaを思わせるユーザーインターフェイス (UI)が採用されていて動作は軽快だ。

7インチというとスマートフォンに近いサイズだが、テーブルの上で小さすぎるということはない。Google Home Hubの操作は現時点で日本語非対応だが、日本語コンテンツの表示は可能だ

特徴の一つが機能を絞り込んでいること。カメラ非搭載で、ディスプレイがあるのにビデオ通話ができない。オーディオ機能もシングルの小さなスピーカーのみだ。何でもできるハイエンドデバイスではなく、スマート家電コントロールとフォトフレームに追加機能を集中させたスマートスピーカーであり、代わりに価格が149ドルと求めやすい。米国のスマートスピーカー市場は「一家に一台」から「一部屋に一台」時代に突入しており、Google Home Hubはダイニングキッチンやベッドルームをターゲットにした価格・設計と言える。

ディスプレイを上からスワイプダウンするとスマート家電のコントローラ画面が現れ、Homeアプリで管理しているスマート家電を、ビジュアルを駆使した分かりやすいUIで操作できる。便利ではあるのだが、ウチの場合は大して広くない家にすでにスマートスピーカーが何台かあるので、どこに居ても音声で操作できる。Amazon Echo Plusのようにスマートホームハブを内蔵していたらうれしかったが、残念ながらGoogle Home Hubという名前なのにハブ機能は備えていない。

Homeアプリで管理するスマート家電を一箇所で操作、スワイプダウンで素早くアクセス可能

AIの価値を実感、フォトフレーム機能の出来栄え

一方フォトフレーム機能は、PixelシリーズのスマートフォンとGoogleフォトの組み合わせで使うと「目から鱗が落ちる」快適さだ。モバイル優先からAI優先にシフトしたGoogleがアピールする「AI+ソフトウェア+ハードウェア」の価値を実感できる。

Googleは今年、度々「AI+ソフトウェア+ハードウェアのシナジーで最高の体験を作り出す」とアピールしていた

Google Home Hubは、標準設定では常時画面オン状態で写真のスライドショーまたは時計を表示し続ける。前面上部に環境光センサーを用いたAmbient EQという機能を備え、周囲に応じて画面の明るさや色合いを変化させる。暗い部屋ではぼんやりと光る程度だからベッド横に置いても睡眠の妨げにならないし、どのような状況でもフォトフレームの写真がキレイに表示される。

フォトフレーム機能はGoogleフォトを写真のソースとしており、すでにGoogleフォトを使っているのであれば、特に追加で何かやる必要はない。スマートフォンで撮影した写真が自動的にクラウドに送られ、家族や友達との写真がGoogle Home Hubに表示される。

今さらではあるが、デジタルフォトフレームがあると、撮った写真をカメラやスマートフォン、クラウドの中に埋もれさせずに楽しむ機会がグッと増える。Googleフォトの場合、ユーザーが写真を分類しなくても投げ込んでおくだけで自動的に写真を分析して、写っている人やもの、場所などをタグ付けしてくれるので、Googleアシスタントを使って「先月に撮影した写真を見せて」とか、「ポートランドで撮った写真を見せて」というように音声で簡単に取り出せる。音声検索でもきびきびと反応してくれるので、過去の写真を見るのも楽しい。

撮った写真を見る機会が増えると、さらに写真を撮ろうという意欲が湧いてくる。Google Home Hubはディスプレイが常時オンなので、キッチンでのレシピの表示などにも便利だ

スマートスピーカーはAIを身近にしたか?

今年の米国のブラックフライデーセールではスマートスピーカーの値引きが目立ったが、昨年に比べると消費者側の購買熱は明らかに冷めている。買ってはみたけど、照明のオン/オフ、天気やニュース、道路情報の確認にしか使っていないという人も多い。市場は、スマートスピーカーに対して盛り上がった期待感がひとまず落ち着き、一周回って新たな需要を喚起できるかどうかという分岐点にある。

スマートスピーカーのコア機能であるデジタルアシスタントは、ネット大手のAI戦略に密接に結びつく。一般の人達にAIをどのように活用してもらうか? Googleは、その効果を最も分かりやすく人々に実感してもらえる方法として写真を選んだのだろう。

Pixel 3の撮影機能はデュアルカメラのような表現力をシングルカメラで実現し、暗いシーンでも明るい写真に仕上げる夜間モード「Night Sight」はAI時代のコンピュテーショナルフォトグラフィの大きな可能性を示している。Pixelシリーズで撮影した写真や動画はオリジナルのまま、容量制限なしでGoogleフォトにアップロードできる。Google Home Hubを持っていたら、クラウドにある大量の写真をインテリジェントに楽しめる。一つ一つは小さな快適だが、それらが組み合わさった「AI+ソフトウェア+ハードウェア」の効果は大きい。

Night Sightモードを使いPixel 3で撮影した写真

Googleフォトに関しては、家族や友達との関係、日常行動などを読み取れる写真をGoogleに渡すことにプライバシー問題を不安視する声が根強い。しかし、新しい撮影機能はこれまで撮れなかったような写真を実現し、Pixelユーザーは制限なしにオンラインストレージを使え、Google Home HubのAIによる補助で撮った写真を存分に楽しめる便利さは大きな魅力だ。

GoogleフォトはAI時代にGmailの夢を見る

この便利さと懸念のせめぎ合いの状況は、2004年にGmailが登場した時に似ている。Gmailは、Web 2.0の頃のWeb企業の競争においてGoogleが抜け出せたキラーサービスになった。Webメールの容量が数十MBだった時代に、1GBの大容量スペースを無料提供。ビジネスモデルの維持が不安視されたが、Gmailによってクラウドサービスに対する人々の理解が深まり、Googleアカウントを持つ人が飛躍的に増加した。広告のためにメールをGoogleにスキャンさせることにプライバシー問題の懸念が広がったものの、Gmailの成長をとどめるものにはならなかった。

これまでGoogleフォトを使っていなくても「Night Sight」に興味を持ってPixelシリーズのスマートフォンを購入して使い始める人がいれば、Google Home Hubにもっとたくさんの写真を表示させたくてGoogleフォトに写真を入れ始める人もいるだろう。そしてGoogleアシスタントのできる仕事ぶりを実感したら、Googleフォトから離れ難くなる。Googleフォトで管理する写真を増やし、PixelユーザーがGoogle Home Hubを購入したり、その逆も起こり得る。そして、さらにGoogleアシスタントが便利になるという蟻地獄のようなプラス循環にはまってしまう。

背面上部のボタンは、マイクをオフにするプライバシー保護機能

山下洋一のfilm@11」は、シリコンバレーを中心にテクノロジー企業の勃興を追い続けてきた筆者が、独自の視点で米国の”今のリアル”を切り取る連載コラムです。

YouTube Musicの時代だから、復活する「Winamp」に期待すること

山下洋一のfilm@11 第1回

YouTube Musicの時代だから、復活する「Winamp」に期待すること

2018.11.19

iTunes以前にデジタル音楽革命を起こしたWinampが2019年に復活予定

開発者が自分たちの欲しいソフトウェアを形にしたのがWinamp

2019年版はモバイルとストリーミングでモダンなアプリに

Winamp」が復活する。AOL時代のようにブランド名だけで存続するような復活になる可能性は否めない。でも、Winampはかつて、Pandoraにも、Spotifyにもなれる存在だった。1990年代後半にWinampを使っていた1人としては、多くのギークを魅了したトガったWinampの復活を期待せずにはいられない。

爆発的に成長した独立時代、AOL傘下になって衰退

Winamp復活を報じたTechCrunchの「Winamp returns in 2019 to whip the llama's ass harder」によると、新生Winampはモバイルとストリーミングに活路を見いだそうとしている。Winampの権利を取得したRadionomy社のAlexandre Saboundjian氏 (CEO)は、デスクトップ版について「すでに勝負はついた」と言い切っている。音楽の楽しみ方の主流がモバイルとストリーミングに移行しているのだから、それらをターゲットにするのは当然だ。ただ、それだけでは「Winamp」という名前で、Winampを思わせるデザインのメディアプレーヤー・アプリが登場するだけで終わりそうな不安を禁じ得ない。では、Winampを冠するのに何が必要なのかというと、オリジナルWinampが備えていたカルチャーだと思うのだ。

Winamp 6の公開に備えて、まずは開発版のリークがユーザーの間に広まっている不安定な現状への対策として、公式ベータ版のWinamp 5.8を10月末に公開、開発が実際に進んでいることをアピールした

今では、「Winampを使ったことがない」という人も多いと思うので、まずはその歴史を簡単に紹介しよう。

Winampは、ユタ大学の学生だったJustin Frankel氏とDmitry Boldyrev氏が、MP3デコードエンジンをWindowsユーザーインターフェイスに統合したシンプルなオーディオプレーヤー(ソフトウェア)から始まった。バージョン1.0のリリースは1997年、音楽はCDで聴く時代に、学生を中心にMP3形式のオーディオファイルが普及し始めた頃だ。MP3なら数百曲・数千曲の音楽を全てPCに入れて管理できる。CDを入れ換えることなく、手軽に音楽ライブラリを楽しみたい……そんなWindows PCユーザーのニーズに応えたプレーヤーだった。

Winampは最初のMP3プレーヤーソフトではない。しかし、Winamp以前にあったMP3プレーヤーは、オーディオデコーダー然としていたり、音楽プレーヤーとして使いにくいツールばかりだった。Winampは、今で言う音楽を聴く"体験"にフォーカスして作られた最初のMP3プレーヤーと言える。Winampを作った理由について、Frankel氏は「自分が欲しいソフトウェアを作った」と述べている。その後、Winampは数多くのファイル形式に対応、プラグインを使った拡張、スキンによる外観のカスタマイズ、幅広いUSBデバイスのサポートを追加していく。

今でこそOSベンダーが提供するメディアプレーヤーでも不自由を感じないが、音楽CDが主流だった20年前は、違法ダウンロードに結びつけられてMP3が危険視され、著作権保護技術が施されていないデジタル圧縮ファイルのサポートは限定的だった。そうした中でWinampは、AOLに買収されるまで、小さな開発チームが自分たちが欲しいと思ったプレーヤーを形にし続け、不自由を自由に変えてきたから、多くのギークから支持され、ユーザーを爆発的に増加させた。

つまり、環境や常識に囚われず、自分達もユーザーの1人である開発者が、自分達が欲しいと思っているソフトウェアを形にしてこそWinampなのだ。

開発していたNullsoftが1999年にAOL傘下に収まってから、トガっていたWinampが瞬く間に丸くなった。AOLは同時期に当時のネット音楽サービスでトップだったSpinnerも買収し、Nullsoftと開発チームを統合した。うまく機能すればWinampに音楽サービスを融合させる相乗効果が期待できたが、2つのチームはなじまなかった。Nullsoftはわずか4人。ユーザー数はWinampの方が多かったが、すでに大規模なチームになっていたSpinnerが予算やプロジェクト運営の主導権を握るようになって、Nullsoftはかつてのように自分たちのアイディアを形にできなくなくなった。

AOLにおいてもFrankel氏は、中央サーバを持たないファイル共有クライアント「Gnutella」を開発するなど、常識にとらわれないエンジニアであり続けた。そんなFrankel氏をAOLは煙たがるようになり、Frankel氏もAOLインスタントメッセンジャーの広告をブロックするプログラムを書いたり、AOLによるNullsoft買収の4年目のアニバーサリーに「WASTE」という暗号化を用いたファイル共有ネットワーク・ツールをリリースしたりするなど、AOLに反旗を翻すような行為を繰り返した。

開発者だけではない。そもそも当時Winampを好んだ音楽ファンやギーク達は、Time Warnerと合併して巨大メディア企業化するAOLを嫌悪する傾向が強く、NullsoftがAOL傘下になったことで急成長のコアとなったユーザーが離れ、Winampコミュニティも骨抜きになった。エピソードを1つ紹介すると、WinampのインストールにAOLのサービスをバンドルしようとしたAOLに対してFrankel氏が激怒。「WinampのユーザーはAOLなんか求めていない! 彼らはAOLのことをクソだと思っているんだよ!」と言い放った。2003年末、Winamp 5のリリースを見届けてFrankel氏はAOLを離れた。

当時Winampはメディアプレーヤーの強力な製品ブランドになっていたため、Frankel氏が去ってからもアクティブユーザーが増え続け、10周年となる2007年に約9,000万人にまで伸びた。しかし、音楽市場に変化を起こす影響力を持ったユーザーはWindows市場にも浸透し始めたiTunes (とiPod)へと移っており、ピークを過ぎてからWinampは急速に衰退し、2013年にNullsoftが開発および配布終了を発表した。

成熟市場ではユーザーが少ないが、Winamp 5.8でも必要な容量は35.9MBと軽量であるため、グローバル規模では今も約3,000万人が利用している

目指すのは「音楽版のYouTube」

Winamp 6.0がどのようなソフトウェアになるのか、Radionomyは断片的なヒントしか公表していない。Radionomyは、誰でもネットラジオを開設できるオンラインラジオ配信のプラットフォームを運営する。数万規模のステーションが登録されており、同社がWinampを買収した際には共に取得したSHOUTcast (約50,000のネットラジオ局を抱える)の方が欲しかったとも言われた。

Saboundjian氏は、モバイルにおいてユーザーがオーディオプレーヤー、ネットラジオ、ポッドキャストなど複数のアプリを切り換えながら使っているのをWinamp 1つにまとめるとしている。その点に関しては賛否両論だ。FacebookがMessengerを分離したように、1つのアプリが多機能であるより、サービスごとにアプリが独立していた方がモバイルでは使いやすいという声もある。90年代後半にMP3プレーヤーが求められたほど、今日のモバイルユーザーが十徳ナイフのような音楽/オーディオ・アプリを強く求めているとは思えない。

Radionomyがネットラジオをもっと普及させたいと考えているのであれば、同社はWinampのイメージに囚われず、自分たちが欲しいモバイルアプリやサービスを形にした方が、よりWinampらしいWinamp 6になるのではないだろうか。

日本でラジオはオールドメディア化して縮小傾向にあるためイメージしにくいと思うが、欧米でラジオは今でも健在だ。英国だと90%以上の人がラジオを聴き、若い世代も例外ではない。欧米では音楽を中心にたくさんのラジオ放送を受信でき、様々な番組を楽しめる。ニッチなトピックを含めて自分好みの番組を見つけられるから、多くの人の生活にラジオがとけ込んでいる。だから、より多くの番組を、多デバイスに提供できるネットラジオに対する需要は大きい。

誰でもラジオ番組を持てるRadionomyが狙っているのは、音楽をかけられて、Podcastのように自由な「音楽版のYouTube」のような存在だ。それなら「YouTube Musicがすでにある」という声が聞こえてきそうだが、残念ながらYouTube MusicはYouTubeが高品質なビデオコンテンツを作り出すユーチューバーを生み出したような存在にはなっていない。むしろRadionomyはそこにフォーカスしてWinampをデザインした方が、かつてのWinampのようにユーザーコミュニティの支持を得られる可能性があるように思う。

RadionomyはWebサイトなどに「Cast、Play、Sell」というスローガンを掲げている。メディアプレーヤーより、もっとソーシャルなソフトウェアをイメージさせる。音楽ファンだけではなく、アーティストや配信者のチャンスを広げるプラットフォーム。WinampがMP3音楽プレーヤーの草分けとなった時も、人々が音楽に触れ、音楽を話題にする環境を作ったことが、ユーザーの爆発的な拡大につながった。現在の開発チームも、そんなイメージで「Cast、Play、Sell」を掲げていると期待したい。

Nullsoftは「It really whips the llama's ass! (ラマの尻をしばく)」というスローガンでWinampをインターネットコミュニティにアピールした。Winamp 6のメーリングリストの登録を呼びかけるWebページで「登録プロセスではラマに危害は及ばないが、いずれしばく!」とRadionomy

「山下洋一のfilm@11」は、シリコンバレーを中心にテクノロジー企業の勃興を追い続けてきた筆者が、独自の視点で米国の”今のリアル”を切り取る連載コラムです。