岡安学の「eスポーツ観戦記」

2018年に『ストV』で世界一になったガチくんは、いま何を考える?

岡安学の「eスポーツ観戦記」 第4回

2018年に『ストV』で世界一になったガチくんは、いま何を考える?

2019.05.16

2018年にレッドブルと契約し、プロゲーマーになったガチくん選手

同年『ストV』公式世界大会「カプコンカップ2018」で優勝

2018年の振り返りや、これから目指すことなどを聞いた

「ニコニコ闘会議2018」の「闘会議グランプリ(GP)」で『ストリートファイターV AE (ストV)』部門の準優勝を皮切りに、「カプコンプロツアー2018」のアジア地域決勝大会優勝、そして『ストV』の公式世界大会「カプコンカップ2018」優勝と、破竹の勢いで2018年のeスポーツシーンを駆け抜けたガチくん選手。同年にレッドブルと契約を結んでプロゲーマーになったことも、ガチくん選手の躍進を象徴させる出来事だったと言えるだろう。

その勢いはまだまだ衰えることなく、“世界王者”として追われる立場になった2019年も、さらなる飛躍に期待したいところだ。そこで、ガチくん選手に、昨年までの振り返りと、今年の抱負を聞いてみた。

「カプコンカップ2018」で優勝をはたしたガチくん選手

プロを目指す地方在住者は、目につきやすいアピールを

――世界チャンピオン獲得おめでとうございます。2018年2月のニコニコ闘会議2018でプロライセンスを取得されましたが、その時点では獲得賞金額もなく、スポンサーも付いていない状態でした。それを考えると、まさに大躍進の1年だったのではないでしょうか。

ガチくん選手(以下、ガチくん):2018年は本当にできすぎの1年でしたね。2017年までは、出身地の広島を中心に活動をしていたのですが、東京に出てきた時点では、まだ実力不足だったと思います。

JeSUのプロライセンスについては、カプコンプロツアーのポイントをそこそこ稼げていたので選んでいただけたのかなと。ただ、まぁそこで選ばれなかったとしても、そのうち選ばれるとは思っていましたね。早いか遅いかの問題だったと思います。

――最初に賞金を獲得したのは、そのプロライセンスが発行された闘会議でのエキジビションマッチでした。準優勝でしたが、そのとき決勝の相手は板橋ザンギエフ選手でしたね。そして奇しくも、2018年12月に行われたカプコンカップの決勝も、同じく板橋ザンギエフ選手が相手。何か縁のようなものを感じますね。

ガチくん:チームで戦う国内リーグの「RAGE」でもザンギさん(板橋ザンギエフ選手)と同じチームでした。すごく縁がありますよね。2018年はザンギさんで始まってザンギさんで終わった感じです。ザンギさんが女性だったら、もう結婚しているくらいの縁ですよ(笑)。

「カプコンカップ2018」のグランドファイナル

――2年前に上京したとのことですが、そのきっかけは何だったのでしょうか。また、上京してからオフラインで強い選手と対戦しやすくなったと思いますが、誰と練習をしていたのでしょうか。

ガチくん:後先考えないで行動するタイプだったので、とりあえず「やってみよう」と上京を決めた感じです。ただ、『ウルトラストリートファイターIV』で知り合ったハイタニさんには背中を押してもらいました。東京に来てからも、ハイタニさんや藤村さんが以前いたオフィスで練習していましたね。LINEグループに招待していただいて、「今日は空いています」というメッセージが届くんです。

あとは、やはり嫁の存在が大きいですね。「行きたいなら行ってみれば? 一緒に行くし、ダメだったら広島に戻ればいいよ」って言ってくれて。自分としては東京に出れば活躍できる自信はあったのですが、その言葉で行く決心が付きました。

――地方でプロゲーマーを目指している同じような境遇の人に対してアドバイスはありますか?

ガチくん:そうですね。僕みたいに地方でくすぶっている人はたくさんいると思います。ただ、現状ではやみくもに「東京に出ていきたい」という気持ちだけでは難しいでしょうね。

地方にいる間に配信を頑張るとか、ランクマッチ(『ストV』のゲーム内ランキング)のポイントで上位に入るとか、目につきやすいアピールをするといいと思います。

さすがに海外のイベントは行きづらいと思いますので、国内の大会に参加して、そこで好成績を出し、いろいろな人とコミュニケーションをしていけば、自ずと上京するチャンスは訪れると思います。僕も広島の大会はもちろん、関西などで行われた大会には、頻繁に出場していました。

――上京した年には「インプレスeスポーツ部」でストV攻略企画「ガチくんに!」の配信も始まりましたが、企画者であるPC Watchの若杉編集長とは元々知り合いだったのでしょうか。

ガチくん:若杉さんも広島出身なんですよ。同郷ということで僕を指名していただきました。若杉さんもeスポーツの仕事をしたいと考えていたそうなので、ちょうどいいタイミングでしたね。

――当時は一般的には無名の選手だったガチくん選手が世界チャンピオンになったわけですから、見る目があるというか、いい買い物でしたね。

ガチくん:そうですね、いい買い物だったと思います(笑)。こちらとしても何もない状態のときに使っていただいた恩もありますし、お互いに良好な関係になったと思います。

――『ストV』で、道場システムが導入されたときも、「ガチくんに!道場」ができて、ガチくん選手もメンバー入りしましたね。多くの視聴者が憧れのプロ選手と一緒の道場に入れるという喜びがあったと思います。また、多くの人たちがDiscordで連絡を取り合って対戦などをしているようです。

ガチくん:仲のいい人たちと遊ぶのはモチベーションになりますよね。1人で黙々とやるのもいいんですけど、なかなか続けるのが難しいものです。お互いに切磋琢磨したり、意見を言い合ったりできる環境は、レベルアップにも繋がると思いますし、コミュニティとしていい感じになってくれれば、僕もうれしいです。

視点を変えることで広がった戦い方の幅

――2018年の急成長した要因は何だったのでしょうか。

ガチくん:そうですね、僕は自分が正しいという価値観を重視しているところがあったんですよ。それまであまり人のプレイを参考にしていなかったんです。それでも結構勝てていたので、そのときは良かったんですが、『ストV』のシーズン2で使用キャラのラシードが弱体化したあと、大会で2回プール落ち(予選落ち)をしてしまったんです。

「これまで勝ってこれたのはキャラクターの強さだったのではないか」と悩みましたね。そこで、自分が固執していたプレイだけでなく、いろいろなプレイを見ようと思い、同じラシード使いのオイルキングやビッグバード、竹内ジョン君などのプレイを見るようになりました。

例えば、EVO Japanでジョン君が準優勝したとき、バージョンアップされたばかりで、「VトリガーII(溜めたゲージを消費することで使えるモード)」が初めて実装されたにもかかわらず、しっかりと研究してきて、使いどころを見つけていたんです。

それを見てすごく感心しましたね。ほかの人のプレイをよく見ることで、戦い方の幅が広がったように感じたんです。もちろん、そのまま真似するのではなく、自分なりに咀嚼したうえで、やってみるようにしました。あとは、難しいと思っていたことにも挑戦したり、自分のキャラクターだけでなく対戦相手についてももっと調べるたりするようになりましたね。

――今年も若干ですが、「ラシードを含む強いキャラクター」以外が強化され、かなり平坦になったと言われています。どういった対策をしていくのでしょうか。

ガチくん:たしかに、シーズン4になって、キャラクターの強さがいつになく平坦になったと思います。ただ、現状だとまだトーナメントを勝ち上がっていけるのは数キャラに絞れるので、その対策を考えています。一方で、トーナメントの下の方で負けてしまわないように、すべてのキャラクターで対策もしっかりしていきたいです。もっと視野を広くしていかないといけないですね。

――キャラクターの強さが平坦になったことにより、多くのプレイヤーが複数のキャラクターを使い、対戦相手のキャラクターとの相性も考えていくようになったと思います。ガチくん選手はラシード以外のキャラクターを使う予定はあるのでしょうか。

ガチくん:ラシードというキャラクターの強みは、圧倒的に不利になる相手がいないことなんです。シーズン4になって複数のキャラクターを使用する人も増えてきましたが、僕の場合は、ほかのキャラを練習するよりも、ラシードの練度を上げることに集中したいですね。単純にラシードというキャラクターは楽しいというのもありますが、未だに新しい発見があるので、練度はまだまだ上げられると思っています。

――今年はまだ少ししか大会は行われていませんが、実力者がプール落ちするなど、選手の実力も拮抗してきた印象があります。

ガチくん:実際に今年のツアーを参加してみて、本気で取り組んでいる人が増えたというか、記念参加やエンジョイ勢が減った印象がありますね。まだ、ツアーも初期段階なので、ポイントによるトーナメントの振り分けが行われていないという理由もあるのですが、プールで強豪がぶつかることもあります。前はプールに手練れが1人くらいのことが多かったのですが、複数いることもあって。それだけ強い人が増えたのかも知れません。この前の大会では同じプールにPunkがいましたから。

中堅として後輩を育てながら“先輩超え”を目指す

――昨今はeスポーツ自体も盛り上がってきていますが、そういった状況の変化はどう捉えていますか。また、世界チャンピオンになったことで、そういった状況に対する立場の変化などは感じますでしょうか。

ガチくん:メディアの扱い方が変わったように思えます。テレビ番組で取り上げられるようになりましたし、大会の数そのものも増えていると思います。周りの見る目というか、評価が変わってきたんじゃないでしょうか。そもそも議題にも上がらなかったですからね。「eスポーツはスポーツか」みたいな論争も起こっていますけど、それの善し悪しではなく、そもそも以前はその議論さえ起きなかったわけです。

立場に関しては、カプコンカップで優勝したものの、まだまだ強い方はたくさんいますし、業界を牽引できるほどではないと思っています。ときどさんとかウメさん(ウメハラ選手)に頼ってしまうところが多いですね。実力の面でもそうですし、知識もまだまだ足りません。今は、上にいる人たち、先輩方を超えていくことを目指していきます。

今年も、もうカプコンプロツアーがスタートしましたが、チャレンジャーの気持ちで参加しています。気持ち的には上京したときと変わらないですね。ただ、若手というほどの年齢でもなく、ちょうど中堅と呼ばれる世代なので、後進のことも考えています。

ジョンやもけ、カワノなど、若手にも注目していますし、僕にいろいろ聞いてくる人には、誠意を持って対応していますし、彼らにうまく伝えていけたらいいと思っています。対戦のこととか、大会のこととか、自分が伝えられることは伝えていますね。まあ、僕なりの回答ってことになってしまいますけど。

――スポンサーがついてからは、今まで以上にプロ意識が働いていると伺っていますが、ファンサービスなどを強化しているのでしょうか。

ガチくん:僕はプロ野球が大好きなんです。試合も観ますし、ニュースもチェックしています。各選手のSNSも見ていたりするんですが、ファンの目線でいうと、プロ野球選手のプライベートが垣間見えるオフショットがうれしいんですよ。試合時の真剣な顔だけでなく、勝負事と離れたときの表情を見るのが好きなんです。

なので、僕のファンもオフショットを期待していたりするのかなって思っていて、Instagramではオフショットの写真を投稿するようにしています。嫁に手伝ってもらって、「こっちから撮って」とか。

あとは、大会の会場など現場で声をかけられたら、できるだけ対応するようにしています。応援してくださっているのがわかると、やはり嬉しいですね。ただ、ファンの対応が完璧にできているかというと、まだまだだと思っています。

――スポンサーのレッドブルとはどのようなやりとりがあるのでしょうか。

ガチくん:レッドブルってすごくアットホームで、いろんなことを相談できたり、それを一緒に解決していこうって言ってくれたりするんですよね。僕の役割は大会で勝つことなんですが、いつもそこまで気負わなくてもいいよって言ってくれています。選手が活動しやすい環境を作ってくれていて、とても感謝しているので、少しでも役に立てればと思いますね。

ちょっと前に結婚式を行ったんですが、そのときはシャンパンタワーならぬ、レッドブルタワーを作ってみました。少しでもレッドブルの認知に繋がればと。

あと、やはり好きなゲームで生活させてもらっているので、ゲームの認知度や地位の向上にも協力していきたいです。未だに「ゲーム=悪」のイメージが残っていることもあるんですが、実際はそうではないことを理解してもらいたいですね。公共の場とかに出る機会があれば、積極的に多くの人に伝えていけたらなと思います。

格闘ゲームってゲームのなかではわかりやすいと思います。体力がなくなったら負けとか、どっちが攻撃してどっちがダメージ受けているのかとか、すぐにわかります。決着も早いですしね。

ただ、ゲームのシステムが単純なだけに、勝敗だけでなく、背景というか選手同士の気持ちというか、そういうところまで伝えていきたいと思っています。大会でプロ選手同士の戦いだと、すごい緊張感のなかプレイしているわけですよね。普段は絶対ミスらないようなコンボも、大会の決勝ではミスってしまうことがあるわけです。その試合にかかるプレッシャーは尋常じゃないんですよ。そういうところまで伝えられれば、観ているほうも楽しくなるし、深さを感じてもらえるんじゃないでしょうか。

――なるほど、では最後に今年の目標や抱負についてお聞かせください。

ガチくん:目標としては「昨年以上の成績を」と言いたいのですが、さすがにできすぎだった2018年以上の成績を残すのは厳しいとは思います。ただ、「昨年の優勝はたまたまだった」と言われないように、安定した成績を残していきたいですね。

また、カプコンプロツアーの海外大会は昨年と同じくらい行きたいと思っていますが、今年はインタビューやイベント出演といったツアー以外の仕事も増えそうなので、それらを優先しながらも、可能な限りツアーに参戦したいと考えています。そういう意味では、今年の目標は「露出を多くし、1人でも多くの人に知ってもらう」でしょうか。“プロとして存在感”を出していきたいですね。

――ありがとうございました!

有料チケットで成功したLJL、日本eスポーツイベントのお手本になれるか?

岡安学の「eスポーツ観戦記」 第3回

有料チケットで成功したLJL、日本eスポーツイベントのお手本になれるか?

2019.04.23

よしもと∞ホールで開催された「LJL SPRING SPLIT 2019 Final」

リーグが進むにつれて増えていったチームや選手の固定ファン

有料チケットにも関わらずリーグでは会場がほぼ満席状態

4月13日、よしもと∞ホールにて、『League of Legends(LoL)』の国内プロリーグ「League of Legends Japan League(LJL)」の王者を決めるプレイオフ決勝、「LJL SPRING SPLIT 2019 Final」が行われた。

対戦カードは2019年春季シーズンのリーグ戦を20勝1敗の圧倒的な強さで勝ち上がった「DetonatioN FocusMe」と、プレイオフのセミファイナルにてリーグ2位の「Crest Gaming」を3連勝で下し、リーグ3位からファイナルに勝ち上がった「Unsold Stuff Gaming」だ。Unsold Stuff Gamingのリーグ成績は12勝9敗と、DetonatioN FocusMeと比べると見劣りするが、チーム状態は上り調子なので、成績差以上の拮抗した試合が期待できそうだ。

20勝1敗の好成績で1位抜けしたDetonatioN FocusMe
リーグ戦3位からセミファイナルを勝ち抜き、ファイナルに進出したUnsold Stuff Gaming

観戦が前提のeスポーツリーグとして成功を収めたLJL

ファイナルの形式は「BO5方式(5戦3勝勝ち抜け)」だ。Unsold Stuff GamingがDetonatioN FocusMeをあと一歩まで追い詰めるシーンがあったものの、結局はDetonatioN FocusMeがリーグ戦の強さをそのままに、3連勝で優勝を果たした。

LJLで優勝したことで、DetonatioN FocusMeは、5月1日から19日にかけて、ベトナムと台湾で行われるMSI(Mid-Season Invitational)に日本代表として出場することが決まった。DetonatioN FocusMeは、昨年のWorldsでプレイインステージで初勝利をあげ、強豪C9をあと一歩のところまで追い詰めるなど、大活躍しただけに、MSIでもそれ以上の成績を期待したいところだ。

決勝に相応しい熱戦を繰り広げたが、結果は3-0でDetonatioN FocusMeで優勝した

今回の「LJL SPRING SPLIT 2019」は、よしもとクリエイティブエージェンシーが運営に加わったこともあり、会場もよしもと∞ホール。観客席が常設されている劇場を使用することにより、観客が観戦することを前提に行われたリーグ戦となった。試合はすべて有料(2500~3500円)で、日本のeスポーツイベントとしては画期的なリーグ戦と言える。

しかも、多くの試合でほぼ満席状態。もっとも少ない日でも6割以上の席は埋まるそうだ。開幕戦と今回のファイナルに限れば、立ち見席まで埋まるほどの人気ぶり。“観るeスポーツ”の先駆けとして、大きな成功を収めたのではないだろうか。

ファイナルは立ち見が出るほどの人気。チケットもあっという間に完売した

徐々に増えていったチーム/選手の固定ファン

観客についても、最初のうちは『LoL』のプレイヤーがプロの試合を観に来るという印象だったが、終盤になるにつれ、選手を応援するファンが増え始め、まさにスポーツ観戦やライブ観戦に近い状態になっていた。観客席を見回すと、誰がどこのチーム、どの選手のファンかひと目でわかるほど、応援が本格的になっていた。

DetonatioN Gamingのユニフォームを着て応援する観客もちらほら。Ceros選手やEvi選手を応援する手作り応援グッズを携えた人も

リーグ戦では、試合終了後にロビーでファンとチームの「ファンミーティング」が行われる。これは昨年も行われていたが、ファンにとっては選手と近づける貴重な場になっていた。

今回のファイナルでも、試合の終了後にフォトセッションやファンミーティングが行われた。死力を尽くした試合後に1時間以上立ちっぱなしでファンに対応するのは、選手にとって決して楽なことではない。しかし、それでもファンを楽しませるのが「プロ」である。

ただ、今後、さらに観客が増え、会場が大きくなった場合は、アイドルの握手会のように、1人あたりの時間を設定する、「はがし」と呼ばれる係員を配置するなど、多少の対策は必要になってくるかもしれない。

試合終了後、ロビーでファンミーティングを行うUnsold Stuff Gaming

今回のSPRING SPLITは、全試合をよしもと∞ホールで行っていたが、今後セミファイナルとファイナルは、もう少し大きな会場で実施してもよさそうだ。

今回は初めてリーグを通して有料チケットでの開催だったこともあり、どれだけの人が訪れるか未知数な状態で席数を増やすのは難しかったかもしれないが、SPRING SPLITを通じて運営の見通しもある程度できたはずだ。2年前のSUMMER SPRITのファイナルは、幕張メッセの幕張イベントホールで開催しており、その席数は固定席だけで3888席。このときもほぼ満席となっていたので、さらに大きな会場での開催も見込めそうである。

日本のeスポーツのなかでは、もっとも観客を集められるプロリーグの1つであるLJL。SPRING SPLITをさらなる飛躍のステップとして、SUMMER SPRITの成功も願いたいところだ。LJLがほかのeスポーツタイトルへも大きく影響することは間違いなく、日本のeスポーツの発展のきっかけとなるのは言うまでもないだろう。

eスポーツ部の発足を促進させた「全国高校eスポーツ選手権」の功績

岡安学の「eスポーツ観戦記」 第2回

eスポーツ部の発足を促進させた「全国高校eスポーツ選手権」の功績

2019.04.10

毎日新聞社は「全国高校eスポーツ選手権」の決勝大会を開催

全国規模で行われる高校生対象のeスポーツ大会は初

通信高校でも活動できる「eスポーツ部」の発足に大きく貢献

3月23・24日に、幕張メッセにて、「全国高校eスポーツ選手権」のオフライン決勝大会が開催された。同大会は、全国の高校生が『ロケットリーグ』と『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』で競い合う、いわばeスポーツのインターハイ。主催者は、選抜高校野球大会(センバツ)を手がける毎日新聞社だ。

最近ではテレビ東京と電通が高校生対象のeスポーツ大会『STAGE:0』の開催を発表したり、ルネサンス高校新宿代々木キャンパスがeスポーツコースを開設したりと、高校生とeスポーツとの接点が増えている。

なかでも、全国高校eスポーツ選手権は今回が初の試み。高校生が対象のeスポーツ大会としても初の開催だ。伝統的なメディアの新聞社が行うことでも話題になった。

通信高校では難しかった「部としての活動」を実現

今大会にエントリーしたのは、LoL部門が93チーム、ロケットリーグ部門が60チームだ。最終的に、ロケットリーグ部門は佐賀県の佐賀県立鹿島高校「OLPiXと愉快な仲間たち」が、LoL部門は東京都の学芸大附属国際「ISS GAMING」が優勝した。

予選はすべてオンラインの試合だったので、オフラインで、しかも大勢のオーディエンスの前で試合するのは決勝大会が初。物怖じしない生徒もいたが、場慣れしていない生徒も多く、緊張した面持ちで大会に参加している様子が見受けられた。

優勝した学芸大付属国際「ISS GAMING」

同大会の予選は12月で、本戦は3月。受験シーズンと重なるので、本選出場が決まったチームの3年生は受験勉強をしながら練習しただろう。また、過去に例のない試みということもあり、学校側への申請や参加表明など、慣れないことも多かったはずだ。高校生にとって、それらは決して簡単なことではない。それでも延べ150チーム以上が参加したことを考えれば、今回の取り組みがいかに高校生から受け入れられたかがわかる。

プロのeスポーツイベントさながらの豪華なステージで対戦。会場は大いに盛り上がった

なかでも、注目したいのが、通信制高校の参加の多さだ。通信制高校には、通学制と通信制があり、通信制の場合、基本的に学校へ通うことはない。『LoL』の決勝大会に進出したN高校は心斎橋キャンパスからの登録だったが、大阪近辺に住んでいる生徒ばかりではなく、全国からオンラインで授業を受けている生徒もいる。

したがって、高校に通っていても、同級生と出会うことは少なく、1つの場所に集まって行う部活も基本的にできない。特に運動系はそうだろう。しかし、eスポーツであれば、基本オンラインで集まり、一緒にプレイすることができる。

つまり、通信制高校では諦めることの多い部活動を、eスポーツが実現させてくれたと言ってもいいだろう。そして、部活をする以上、ほかの高校と競い合うという大会は大きなモチベーションになるものだ。

N高校の生徒たちも会場に駆け付けた。多くの生徒が選手たちと顔を合わせたことがないなかで、横断幕を掲げて応援していた

今回の大会はeスポーツ部の発足にも寄与

今回参加したチームは、パソコン部など、普段はほかの活動をしている部であったり、大会のために急遽集まった有志であったり、同好会的なものであったりと、正式な「eスポーツ部」でないケースも多い。

『LoL』の決勝大会に進出した岡山共生高校はeスポーツ部としての参加だったが、大会が開催されるまでは「同好会扱い」で、大会出場に際して、学校側へ交渉した結果、部として認めてもらったのだという。

岡山共生高校の応援団。岡山から応援に駆けつけた

最近、公費でゲームやパソコンを購入したり、部活でゲームをしたりすることに嫌悪感を抱く教師がいるというニュースを耳にする。しかし、高校生がこれだけ自主的に行動し、そして通信制の場合は諦めることの多かった部活に参加できる喜びがあるのであれば、後押ししたいと思うものではないだろうか。

全国高校eスポーツ選手権は次回の開催も発表されている。学校でeスポーツ部を発足させるハードルが高い学校もあるかもしれないが、今年のがんばりを見せた参加校のおかげで、そのハードルは多少なりとも低くなっていくはずだ。

最初に述べたが、全国高校生eスポーツ選手権は毎日新聞社が主催の大会。つまり、センバツや全国高校ラグビー、全国高校駅伝競走大会、全日本学生音楽コンクールなど、高校生のためのスポーツ、文化事業を支えるイベントであるということは変わりないはずなのだ。