日立があえて行った、縦型洗濯機の「控えめ」なリデザイン(後編)

モノのデザイン 第49回

日立があえて行った、縦型洗濯機の「控えめ」なリデザイン(後編)

2018.12.20

日立の縦型洗濯乾燥機「ビートウォッシュ」最新機種

デザインと耐久性の両立など、細部にまでこだわりが

日立の家電全体が目指す「控えめ」なデザインを体現した

洗浄力の高さで定評のある縦型洗濯機。今年11月、同カテゴリに属する日立アプライアンスの「ビートウォッシュ」シリーズに、最新機種が登場した。中でも最上位モデル「ビートウォッシュ BW-DX120C」は、機能面での進化に加え、外観上も大きく変わった。

同製品のデザインや設計・機構を担当したのは、日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部のデザイナー・二宮正人氏と、日立アプライアンス 家電・環境機器事業統括本部 多賀家電本部第一設計部技師の宗野義徳氏。前回の記事に引き続き、一見しただけでは気づきにくい、細部にまでこだわり抜かれた要素やそれを実現するまでの苦労、問題を克服した方法について語っていただいた。

日立アプライアンスから11月に発売された縦型洗濯乾燥機の新製品「ビートウォッシュ BW-DX120C」。デザインを担当した日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部のデザイナー・二宮正人氏(右)と、機構・設計部分を担当した、日立アプライアンス 家電・環境機器事業統括本部 多賀家電本部第一設計部技師の宗野義徳氏(左)に、製品化に至るまでのデザインにまつわるエピソードを伺った

難しかった「光」の調整

既存機種からの象徴的な変更として、天面のガラスパネル部分に操作部が移動し、タッチパネル式のディスプレーが採用された新製品。この変更については前回伺ったが、実はLEDの光らせ方自体にもこだわりがあるという。

二宮氏は、「通常、LEDというのは、ベース(下地)が黒であれば、コントラストも出しやすいというのが定説なんです。しかし、本体が白である本製品では、視認性を確保しつつも、LEDが消灯した際には見えないように隠すという調整がかなり難しかったのです。デザイナーとしては非常にこだわった部分です」と明かす。

確かに、本製品では使われているLEDは橙色と青色の2色だが、ガラス素材を通すことでかなり見え方は変わる。新製品の場合、橙色LEDを用いているが、ガラスを通すことでピンクがかった色味に見え、ソフトな印象を与える。

橙色をメインに、2色のLEDを採用したガラスパネル上の操作・表示部。白く透過性のあるガラス素材越しとなることで、輝度によっても見え方が大きく変わる。視認性を確保しつつデザイン上の違和感がない光らせ方の調整にも苦心したとのこと
操作部のボタンやインジゲーターのレイアウトやデザイン案。いくつものパターンが検討されたという

本製品では、機能がデザイン的にうまく昇華されている例が少なくない。その1つが操作パネルの裏側。基板が入っているために出っ張った構造になっているが、取っ手を付けることによって、掴みやすさとデザイン性を両立させている。

また、天面のフタが手前に向けてわずかに反りあがった形状になっているのも特徴だ。二宮氏曰く、「開けやすくするためであると同時に、デザイン上のアクセントにもなっています。反りあがっていることで、お客様の心理的になんとなく触れたくなる、開けたくなる効果というのもデザインで体現しているんです」とのこと。

宗野氏も「フタを開けた時の佇まいは、シャープでありながらも角に少し丸みを持たせたデザインになっています。尖ってはいるけれど危なくはなく、かっこよく見せるギリギリのところまで"R(角の丸み)"を小さくしました。完全に尖った感じではなく、少し丸みがあるほうが空間とも調和しやすいという狙いもあります」と続ける。

天面のフタの手元部分に配備されたシルバーの縁取りは、デザイン上のアクセントであり、ビートウォッシュのデザイン意匠。手前方向に反り上がりをあえて設け、ユーザーが触れたくなる衝動を掻き立てるとともに、シャープな印象を持たせて、全体のデザインを引き締める役割も担う。シャープさを損ねないレベルに角を丸くして、安全面への配慮と空間調和も図られている

デザインと耐久性の両立を目指した「洗剤投入口」

洗剤投入口にあたる部分も、デザイン上のこだわりが詰まった場所である。洗剤用のタンクは、取り外すとそのまま自立して置けるように設計。セットした際には、フタを閉めるとタンクが中に押し込まれて完全にはまる仕組みになっている。また、運転中にフタが振動で開いてしまうのを防ぐために、内側にはマグネットが埋め込まれ、吸着する仕組みが採用されている。

いずれもユーザーの操作性をよりよくするためにこだわり抜かれた工夫ではあるものの、一方で担保されなければならないのが耐久性だ。フタというのは、開け閉めが頻繁になされる部分でもあり、一般に壊れやすい。これを解消するために、設計・機構担当者とデザイナーとの主張は食い違う。宗野氏はその際の攻防を次のように明かした。

「設計・機構を担当する側としては、タンク取り付け部のフタは最低限タンクに覆いかぶさる部分だけに留めたいんです。最小限の面積にすることで、お客様はフタの重さを感じずに開け閉めできますし、耐久性もよくなります。しかし、デザイナー側からすると、フタの部分を途中で割ってしまうことですき間ができてしまう上に、デザイン上もシンメトリーではなくなり美しさが損なわれてしまうと主張されてしまいました(笑)。そこで、最終的にはフタは全体を覆う形の本体と同じ長さにしました。面積が大きくなることで壊れやすくなるという課題は、フタの素材を見直し、より硬めの素材を選定することで解決しました」

機構・設計的には、自動洗剤投入用のタンクに直接かぶさる部分だけに留めたかったと明かされた、手前側のフタの部分。シンメトリーを保つ外観の美しさはもちろん、凸凹や隙間を失くすことで汚れにくさや、手入れのしやすさも両立させたという。面積が大きくなったことでフタの部分に負担はかかりやすくなるが、強度のある素材を採用することで堅牢性を担保したという

ちなみに、新製品の本体サイズは、幅と高さに関して従来モデルと変わっていない。自動洗剤投入機能を搭載した関係で、奥行のみ70ミリほど増加している。だが、パッと見た目の印象は若干小ぶりにも見える。その点を指摘すると、二宮氏はデザイン上のトリックを次のように説明した。

「前のモデルに比べると、ガラスパネルの幅自体や位置を本体ギリギリのところまで伸ばして無駄な要素を省いたことで、スリムに見える効果が生まれています。それ以外では、先ほど述べたパネルの反り上がり形状で全体をシャープに見せているのと、正面から見ると絞られた印象になるよう最適なバランスを考えて、本体の洗濯槽側のほうにも傾斜をつけたりもしているので、より小さく見えるのだと思います」

前機種(右)に比べて、数値上は正面からのサイズは同じ。ガラスパネルの幅や位置を本体端側のギリギリまで拡大したり、微妙な傾斜をつけたりすることなどにより、新製品(左)のほうが視覚的には心なしかスリムに見えるようにデザインされている

新製品の"機能美"について改めて問いかけたところ、「すべて機能美で組みあがっている」と二宮氏。確かに、無駄やノイズをなくしてシンプルに研ぎ澄まされたデザインというよりは、ひとつひとつの機能が、目にわかるかたちでデザインとして昇華されていると感じる。

一見控えめであっても、人を魅了するデザイン

今回のビートウォッシュシリーズのリニューアルに先駆け、2016年にドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム」シリーズのデザインも一新している日立。しかし、今回の縦型洗濯機におけるデザインの刷新はそれに次ぐ流れではなく、まったく別のプロジェクトのもとで進められたのだという。

日立アプライアンスでは、今年2月に社長の德永俊昭氏が記者会見の席で、日立の家電全体のデザイン改革を進めていくという意向を発信しており、ビートウォッシュのデザインの変更はその一環として位置づけられている。

日立は家電全体で"一見控えめであっても、人を魅了するデザイン"を目指すべく、"Less,but Seductive"というデザイン共通言語を策定した。二宮氏は「気付かないけど、"感じる"というのがデザインとして成功していると思います。日立では、今までも使いやすさにこだわったものづくりを続けてきました。新製品ではその哲学を継承しつつも、日々の負担となる洗濯を少しでもポジティブにするための洗濯機を徹底して追及し、衣類をキレイに洗い上げるという性能を表すために、外観上も美しく清潔な佇まいを目指してデザインしました」と、製品全体としてのデザインコンセプトを総括した。

"一見控えめであっても、人を魅了するデザイン"を目指すべく策定された全社スローガン"Less,but Seductive"が昇華された新製品。ただシンプルに要素をそぎ落としていくというのではなく、パッと見それとは気づかない機能美をさりげなく散りばめつつも、違和感がなく心地よさを感じるという、デザインの真髄を体現したプロダクトと感じる

筆者は、10月に行われたビートウォッシュの新製品発表会でひと目見るなり、「この製品は奥が深そうだ」という印象を持った。実際に、開発経緯やエピソードを伺ってみると、満ち溢れた想像を超える作り手側のこだわりに、感心するばかりだった。今回の取材では、日立が家電全体で掲げた"一見控えめであっても人を魅了するデザイン"というデザインコンセプトが、製品に行き渡りはじめているのだなという実感を得ることができた。

日立があえて行った、縦型洗濯機の「控えめ」なリデザイン(前編)

モノのデザイン 第48回

日立があえて行った、縦型洗濯機の「控えめ」なリデザイン(前編)

2018.12.19

日立の縦型洗濯乾燥機「ビートウォッシュ」が進化

AI搭載、洗剤自動投入など機能面が充実

製品の外観は「控えめ」な変更に見えるが、実は…?

日立アプライアンスから11月に発売された、縦型洗濯乾燥機の「ビートウォッシュ BW-DX120C」。独自のパルセーターと大流量のシャワーで、節水性を担保しながら繊維の奥に潜む頑固な汚れまで洗い上げる、"ナイアガラ ビート洗浄"による洗浄力の高さで定評のあるシリーズだ。

2018年の新モデルでは、今年の洗濯機市場全体におけるトレンドにもなった、人工知能(AI)機能を搭載。最適な洗い方や時間をAIが自動で判断するという最先端の機能に加えて、洗剤や柔軟剤を自動で計量して投入してくれる機能を搭載するなど、大幅な進化を遂げた。

11月発売の日立アプライアンスの縦型洗濯乾燥機「ビートウォッシュ BW-DX120C」。機能はもちろんのこと、外観上も大幅な進化を遂げた。これまでのデザインの流れを継承し、パッと見ではわからないかもしれないが、機能美を積み上げた

そして、外観もパッと見はシリーズの意匠をしっかりと継承しつつ、実は大きく変化し、2018年の「グッドデザイン賞」に選ばれている。今回はビートウォッシュの新モデルのデザイン、および設計・機構に携わった2名の関係者に、新製品の開発経緯をはじめ、デザイン・設計上のこだわりのポイントや、製品化までの道のりとその過程における知られざる裏話やエピソードについて語っていただいた。

外観、それにつながるおよび機構・設計部分を担当した、日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部のデザイナー・二宮正人氏(左)と、設計・機構を担当した、日立アプライアンス 家電・環境機器事業統括本部 多賀家電本部第一設計部技師の宗野義徳氏(右)

使い勝手向上のため、設計上の課題を解決

新しくなったビートウォッシュのデザインは、過去のモデルに比べて、よりシンプルかつスッキリとした印象だ。例えばその1つとして具体的に挙げられるのが操作部。従来製品では、操作部は本体の最も手前部分にあり、その後ろに衣類を出し入れする投入口が配置されていたのに対して、新製品では天面のフタの部分にあたるガラスパネル上に移動している。

コース名や残り時間など表示部分は、LEDでガラスパネル上に必要なもののみ現れる仕組みで、もちろんそれを直接触れて操作が行える。これまでの洗濯機では操作ボタンが並んでいたはずの手前部分にはスタートボタン程度しかなく、かなり思い切った仕様の変更とも言えるが、その理由には、実は前述の"洗剤・柔軟剤の自動投入"機能を実現したことによる、必然的な流れでもあったそうだ。

最もわかりやすいところで変化したのは、天面のガラスパネルに搭載された操作部。従来は、本体側の手前部分にあった

というのも、自動洗剤投入機能が追加されたことにより、まずは洗剤や柔軟剤をセットしておくタンクが増設されることになった。これをどの位置に配置するかを考えた際に、ユーザーの操作動線から言っても、最も手前側にあるのが理想的だ。しかし、設計・機構の面から考えると、ベストなのは本体下部、あるいは後方だったという。日立アプライアンス 家電・環境機器事業統括本部 多賀家電本部第一設計部技師の宗野義徳氏は次のように話す。

「給水経路を上から下へ通す関係で、設計側としては、本当はタンクは本体の下側か背面側に設置するのが一番です。それを手前側にすることで、経路をわざわざ後ろから手前側に伸ばさなければならなくなり、決まった外形寸法内にそれらを収めなけばならず、一筋縄ではいきません。タンクを下に配置したほうが省スペースになって設計上は容易なのですが、お客様の使い勝手を考えると、必然的に一番上の手前側がベストだということで、使い勝手と構造上の課題解決の両立に挑戦しました」

従来は操作部が配置されていた場所に、洗剤用のタンクを備えたことで、次に検討しなければならないのが操作部の位置だ。全体を考慮した結果、操作部は天面のフタ部分に配置する以外の方法がなかったわけだが、宗野氏によると実はこの仕様は以前から検討はしていたものの、ある理由から見合わせていたのだという。

「実は以前から、もう少し大きな操作パネルにしてほしいという要望もありました。ただ、天面のフタに操作部を配置する場合には、操作は一度フタを閉めなければできません。そして、その後に洗濯物の量が操作パネルに表示されてから改めてフタを開けて既定の量の洗剤を投入するわけですが、操作動線としては一行程が増えてしまうため、採用を躊躇していたんです。それが、今回のように自動投入ができるのであれば、洗濯物を中に入れた後は1度スタートボタンを押すだけ。そういう意味では、天面のフタに操作部を設けることができたのは、自動投入機能が追加されたからこそ実現できた仕様でもあるのです」と宗野氏。

右側が従来モデル。左の新製品と並べると、一見すると同じように見えるが、手前の操作部が大きく異なる

仕様変更がもたらした「改善」と「挑戦」

操作部が手前側でなくなったことで、衣類の投入口の位置や大きさの改善につながった。新製品では、衣類投入口が従来よりも手前側に移動し、高さもより低い位置となり、出し入れがしやすくなった。さらに、物理的な変更だけでなく、デザイン上もその機能を際立たせる工夫が凝らされている。日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部でデザイナーを務める二宮正人氏は、「入れやすそうなデザインというのをかなり意識しました。投入口の段差も一切なくしてなだらかな形状にし、衣類が滑るように中に入るようなイメージです」と語る。

操作部が手前側からなくなったことで、衣類の投入口が手前側へ移動し、高さも低い位置となった。デザイン上も、衣類を出し入れやすいよう、上方向になだらかに広がっていく形状が意識されたという
上側の部分は、横から見ると斜めにカットしたような形状で、衣類の投入口が前方に寄ったことで中を見やすく出し入れがしやすい高さにもなったことがわかる
3D CADで検討された、本体や衣類投入部などのデザイン案の一例

一方、操作部が天面のガラスパネルに移動したことで、新たな課題にも直面した。中でも最も大きかったのは"視認性"。二宮氏が"想定外"と語ったのは次のような点だ。

「ガラスパネルの透過性を高くするために、ベースの白色をちょっと暗くしたり、メタリックの粒子を弱めたりとかなり調整をしています。やるならとことんやろうということで、実は前のモデルと比べてさらに白く、メタリックの量も多くすることで、より美しいガラスの質感を演出しました。しかし、それでいてLEDの視認性はよくする必要があります。ある程度までは実現できたものの、今度はLEDが強すぎて、文字のインクがぼやけて見づらくなってしまうというジレンマに陥ってしまいました」

そこで取られた方策は、印刷の工程を複数の層に分け、それぞれを薄くして、透け感を調整していったとのこと。「2日間で全部で45種類ぐらいのサンプルを作りました。試行錯誤を繰り返してとことんやりましたが、だんだん感覚が麻痺してきてしまって、見極めるのも大変でした」と、宗野氏は笑いながら振り返った。

"自動洗剤投入機能"という新機能。前編となる今回は、それがもたらした、思わぬ偶然とも必然とも言えるデザインへの影響について語っていただいた。後編の次回は、洗濯機に限らず、日立が家電製品全体において意識するデザインのコンセプトや、それを目指す上で今回の新製品が特にこだわったポイントを中心に、掘り下げてみたい。

加湿器の給水方式を本気で再考したシャープ、子育て経験がヒントに

モノのデザイン 第47回

加湿器の給水方式を本気で再考したシャープ、子育て経験がヒントに

2018.11.27

シャープの加湿器、今秋の新製品は給水方式がユニーク

家庭での使い勝手を追求したハイブリッド給水の秘密

機能とデザインを融合させた開発の裏話を聞く

シャープから今秋発売された、加湿機の新製品「HV-H75/H55」。デザインはもちろん機構に至るまで従来製品から刷新しており、特に2通りの方法を用意した給水方式がユニークだ。これまでにありそうでなかった新しいスタイルの加湿機を提案する、本製品のプロダクトデザインに着目し、デザイン担当者に話を伺った。

シャープ IoT HE事業本部 国内デザインスタジオの吉野あゆみ氏(右)と、同社 グローバルHE事業本部 海外デザインスタジオの張ジニー氏

”ハイブリッド”な給水方式が生まれたワケ

従来はタンクに水を入れる一般的な給水方式を踏襲していたシャープの加湿機。新製品では、植木に水遣りをするように上から注ぐスタイルに生まれ変わった。この方式自体は既に他メーカーでも採用されているもので決して目新しいわけではないが、本製品がユニークなのは、2通りの方法で給水ができる"ハイブリッド"な仕様であること。シャープ IoT HE事業本部 国内デザインスタジオの吉野あゆみ氏は、このようなスタイルに行き当たった理由や経緯を次のように語った。

「新製品でコンセプトにしたのは、"家族誰でも使いやすい"ことです。というのも、企画担当者が子育て中ということもあり、忙しい人のために加湿機を作りたいという思いがありました。製品デザインのストーリーを考え始めた時、子どもが手伝ってくれるぐらいに簡単に給水ができるうえ、ご高齢の方でも楽に水を注げて、かつ手入れがしやすい加湿機という方向性が固まっていきました」

2018年9月に発売されたシャープのプラズマクラスター加湿機「HV-H75/H55」。ほぼA4サイズの設置面積ながら、最大化質量750mL/h(HV-H75)と、加湿能力も業界トップクラスのパワフルさ。そして何より、2通りの給水方法に注目したい

実際、消費者のアンケート調査からも、加湿機の購入時にもっとも重視するポイントとして"給水のしやすさ"が多数挙げられるという。同社ではこれを受け、試作段階でリビング環境におけるユーザビリティ調査を重ねたところ、上から水を注ぐスタイルがもっとも給水しやすいという結論に至った。「とはいえ、タンクの容量自体は4Lもあります。いろんな給水方法があったほうが家族で使うには使いやすいだろうということで、ハイブリッド給水方式を採用することにしました」と、同社グローバルHE事業本部 海外デザインスタジオの張ジニー氏。

通常どおり、底部にはトレー式のタンクを備え、上面にある給水口からも水が注げる仕組みを採用

新規の機構だけに想定外の課題

しかし、ひと言でハイブリッド給水方式と言ったところで、社内に前例が無かった方式だけに、開発は容易ではなかった。実現するにあたってもっとも議論されたのは、水の注ぎ口の位置だ。製品では最終的に本体正面から向かって右サイドに注ぎ口を備えているが、デザインでの理由から、当初は正面に正対して手前側に給水口を設けることを目指していた。

「上から注ぐ際に、どちら側から、どのようにやるのがいちばん使いやすいか? かなり話し合いました。デザイン的に言うと、見た目としてわかりやすいのはやはり正面。ところが、風が前方に向かって吹き出す構造では、うっかり水が跳ねた場合に身体にかかってしまうことがわかりました」(吉野氏)

上から水を注ぐスタイルでは、左側から風が吹き出る仕組みのために、水が跳ねるのをどのように回避するかに苦慮した

張氏も水が飛び跳ねる問題に苦戦を強いられたと話す。「給水口を右サイドに移動した後も、水が跳ねないように天面の給水皿の大きさとか深さを工夫しました。注水した後に水が残らないような設計にする必要もあり、それでいてデザイン的にはきれいな曲面を保ちたい。機能と美観を両立させるのに大変苦労しましたね。給水皿は光沢のある陶器をイメージしているので、実は素材と仕上げを変えたりしているんです」

お手入れのために取り外しができる構造になっている給水口は、あえて光沢のある素材を採用し、陶器のような印象に仕上げられている

取り回しやメンテナンスにも工夫

本製品は、幅27.2×高さ45.5×奥行22センチと、加湿機としてはかなりコンパクトなサイズ感でありながらも、加湿量750ml/hのHV-H75では適用床面積(木造和室~プレハブ洋室)が12.5~21畳とパワフルな加湿能力を持つ。設置面積に関しては、底面がA4サイズ未満に収まっており、コンパクトでありつつも高い加湿性能を発揮できるという、消費者のわがままな要望を満たしてくれる商品だが、サイズ設計はどのようにして決められたのだろうか。

製品内覧会でのサイズのデモンストレーション。設置面積はA4サイズに収めた

「給水トレーに関しては、フィルターが水を吸い上げられる能力が前提となるので、それによってだいたいの高さが決まります。そしてもう1つ意識したのは、洗面台に収まる高さ。日本の標準的な蛇口の高さから設定していきました。本体の高さ自体は、上から直接給水するスタイルのため、ふつうよりも高めです。給水方法とサイズ感の両面から老若男女問わずに使いやすいようにこだわりました」と吉野氏。

張氏も「加湿量を出すためには風路も関係します。仕様上は、4Lのタンク容量で考えていたので、それを実現するために給水トレーの大きさや形状を何回も測って、技術的な寸法を守りつつ、やわらかいデザインに仕上げるよう試行錯誤しました」と続ける。

給水タンクの高さは標準的な洗面台の蛇口の高さに収まるサイズに設計。加湿機と空気清浄機と一体型の機種では、後方にあるような形状とサイズのものが多く、給水しにくいという声が多かった

本製品はパーツを取り外して、本体の内側に手を入れて直接手入れが行えるのも特長。この構造を実現するにあたって、技術担当者とは安全性の面でかなり議論を交わしたという。取り外しやすいという要件を満たしながらも、尖りがちな本体内側に設置するパーツで手をケガしてしまっては問題だからだ。

本体はパーツを取り外して、内部に手を入れて清掃ができる設計に。デモンストレーションのようにタオルで上から下まで直接拭くことも可能

また、給水口に注いだ水が跳ね返るのを防ぐために、実は操作部の下に跳ね返り用の板を設けている。そもそもは機能的な目的で設けたものだったが、これが見た目にもスタイリッシュになる効果をもたらしたという。

「給水トレーの内部にも水の跳ねを防ぐためのプレートを設けたのですが、これによって風路が安定して、風の流れを整えるという思わぬ効果につながりました。また、加湿フィルターの色ははじめから水色なのですが、プレートが外側から水色のフィルターを見えなくしてくれて、かつ水の量が見やすくなるなど、今回は図らずしも機能美につながっていった箇所が多くありました。ふつうにデザインしているだけだと気づかない発見が多かったです」(吉野氏)

水が跳ね返るのを防ぐために設けられたプレートだったが、風路を安定させて、外側から水色のフィルターが透けて見えるのを抑える効果もあり、図らずしも機能美につながった

一方、張氏がデザイン上で意識した点として挙げたのは、シャープ独自の技術である"プラズマクラスターイオン"の表現だ。

「プラズマクラスターは弊社独自の技術。デザインの中でわかるように、風が出る部分は透明のルーバーを採用して、美しい局面の形状できれいな風が出ているイメージを表現しています。その上で、イオンが適用床面積の条件をクリアできるよう効率よく届けられなければならないため、角度が厳密に計算されているなど、技術者とかなり検討しました」(吉野氏)

美しい曲面で、プラズマクラスターを含むクリーンな風と空気のイメージを表現しながら、規定のイオン放出濃度を満たす必要があり、かなり計算して設計されたというルーバー部分

シンプルでわかりやすい洗練された操作部のインターフェースも好印象だ。「タンクが外から見えないデザインでありながら、上からも水を注げるという給水方法を採用しているため、水位を操作部側でわかるようにしたというのがこだわりです。満水になると、表示ランプだけではなく音でも知らせてくれます。家族の誰もが使いやすそうな操作部にしたかったので、文字やピクトグラムもできるだけわかりやすいものに変更しました」(張氏)

シンプルでありながらわかりやすい操作性とデザインが両立されている操作部

冬物家電なのに「ブルー」を採用した裏話

そして最後に、製品のカラーラインアップは白物家電の定番色であるホワイトと水色の2色。だが、加湿機と言えば、一般的には冬の季節家電だろう。従来はピンク色というのが定番で、社内からは「寒々しいのではないか?」と反対の声も少なくなかったという。しかし、最終的にデザインチームの意見が採用されるに至った。インタビューに答えてくれた2人は、その際の裏話として次のように明かした。

「これまでは白に加えてピンク色というのが定番でしたが、今のトレンド感からはブルーのほうが絶対に受け入れられるとデザインチーム側が強く主張しました。プレゼンの時には、サンプルとなるファブリックを見せたり、水色のセーターを着用したり(笑)。デザイン上は、蛍光灯の下で見た時にも冷たさを感じさせないように、光の反射を考慮するなど詰めていきました」(吉野氏)

「本体はブルーですが、暖かみを持たせるために、形に丸みを持たせています。さらに、寒々しい印象にならないように、給水トレーにフロスト加工を施し、乳白色にしてバランスをとりました」(張氏)

見た目がスッキリとしている上に、コンパクトに仕上げられた新製品。加湿器の正統進化を成し遂げ、そこからさらにハイブリッドな給水スタイルや、内部を細部まで直接お手入れできる機構など、外観だけでは想像がつかない機能性も持たせた。製品化に至るまでプロセスは、お話を伺った限りでも、筆者の想像を上回るこだわりに満ちたものだった。