「マツダ3」登場が追い風に? 注目すべきハッチバックの新たな潮流

森口将之のカーデザイン解体新書 第11回

「マツダ3」登場が追い風に? 注目すべきハッチバックの新たな潮流

2019.01.11

ハッチバックのルーツはフランスとイタリアにあり

若者の心をつかんだホットハッチ、革命児「シビック」も登場

もはや経済的な実用車ではない! 変貌を遂げるハッチバック

多くの人の目がSUVに吸い寄せられている昨今だが、その中でハッチバックに新たな流れが生まれつつある。実用性や経済性ばかりを重視するのではなく、カッコいいデザインや楽しい走りを追求する車種が増えてきているのだ。マツダの新車も控える2019年は、ハッチバックが自動車業界のトレンドになるかもしれない。

マツダは今年、ハッチバック(画像)とセダンのボディタイプを持つ新型車「マツダ3」を発売する

ハッチバックのルーツは?

ハッチバックの歴史を語る上で外せない車種が2つある。1961年に発表されたルノー「4」(キャトル)と、その11年後に登場したルノー「5」(サンク)だ。

ルノー初の前輪駆動車でもあった「4」は、量産車初のハッチバックでもあった。コンセプトは「ブルージーンズのようなクルマ」だったそうで、背が高くて後端まで伸びたルーフは、マルチパーパス(多目的)であることを強調していた。

ルノー「4」は量産車初のハッチバックだ

ところが、同じプラットフォームを使って1972年にルノーが送り出した「5」は対照的だった。当初のボディは3ドアだけであり、前後のバンパーは量産車でいち早く樹脂製とするなど、ファッショナブルな面を強調していたのだ。

ファッショナブルに進化したルノー「5」

もうひとつの無視できない流れはイタリアにあった。1964年、フィアットがグループ内のアウトビアンキというブランドから前輪駆動ハッチバック「プリムラ」を登場させると、5年後にはひとまわり小さな「A112」を送り出したのだ。アウトビアンキは同クラスのフィアットより上級という位置づけで、ルノー「5」のように、付加価値を与えられたクルマだった。

「5」が生まれた1972年前後には、アウトビアンキ「A112」とプラットフォームやエンジンなどを共用したフィアット「127」、プジョー「104」、ホンダ「シビック」などが相次いで発売となり、1974年にはフォルクスワーゲン(VW)が「ゴルフ」を送り出すなど、ハッチバックは次第に勢力を増していく。

ホンダの初代「シビック」

その過程においては、前輪駆動ではないハッチバックも生まれた。代表格といえるのがトヨタ自動車の2代目「スターレット」だ。当時のトヨタは前輪駆動車を市販化していなかったこともあって、FR(フロントエンジン・リアドライブ)のままハッチバックを仕立てていたのだ。

FRのスターレットは、室内の広さなどで前輪駆動のライバルには劣っていたものの、前輪駆動のハッチバックが主流になる中で、コンパクトな後輪駆動の実用車という独自のパーソナリティが逆に注目されて、走り好きの人々に愛されることになった。

忘れがたきホットハッチの名車たち

走り好きの人々に愛された車種といえば、「ホットハッチ」と呼ばれたクルマたちを忘れることはできない。ハッチバックをベースとして高性能エンジンを積み、サスペンションを低く固め、ボディやインテリアを精悍に装ったものだ。

この分野のパイオニアといえるのが、1973年発表のアウトビアンキ「A112アバルト」だろう。アバルトは1960年代、フィアットのリアエンジン小型車「600」をベースとした高性能車を製作してレースで大活躍したが、600の生産中止に伴い、同じエンジンをA112に載せた車種を企画したのだ。現在のアバルト「595/695」のルーツになった1台といえるかもしれない。

アウトビアンキ「A112アバルト」

A112アバルトが登場した翌年には「シビック1200RS」、1976年には「5アルピーヌ」と「ゴルフGTI」が登場する。

シビックRSはシビックのスポーツタイプだが、ホンダは大気汚染やオイルショックなどが問題となっていた当時の国内事情を鑑みて開発を行っていた。エンジンは従来から出力を7psアップさせたに過ぎない。もっと早そうな名前も付けられただろうが、「ロード・セーリング」の略である「RS」を選んだのも、当時の情勢を考慮してのことだろう。

昨年はルノーが「アルピーヌ」ブランドを復活させ、新型車「A110」を発表してファンを喜ばせたが、A110にも脈々と流れるスポーツカーのノウハウを注ぎ込んで生み出したのが、ホットハッチの「5アルピーヌ」だった。1.4Lから93psを発生したエンジンは、のちにターボ化されて110psまで力を増した。現在も作り続けられているゴルフGTIの初代は、1.6Lから110psを発生していた。いずれのクルマも、小さな体に大きな力を秘めていたのだ。

VWの初代「ゴルフGTI」
こちらが現行型「ゴルフGTI」

ハッチバックは1980年代に入っても、若者を中心に根強い人気をキープし続ける。その中で、異彩を放っていたのが3代目シビック、通称“ワンダーシビック”だった。

ワンダーシビックは3ドアと5ドアのハッチバック、4ドアセダンという3つのボディ全てが専用設計で、3ドアはスポーツカーのように低く、5ドアは逆に現在のSUVを思わせる背の高いシルエットで、「シャトル」というサブネームが与えられていた。

“ワンダーシビック”と呼ばれたホンダの3代目「シビック」

しかし、その後はバブル景気の到来で、多くのユーザーが高級志向に走ったこともあって、ハッチバックに目を向ける人は少なくなっていく。この時期は、日産自動車が初代「マーチ」をベースにレトロ風デザインを与えた「Be-1」「パオ」「フィガロ」が目立っていたが、バブル崩壊とともにこの流れは消滅している。

日産が初代「マーチ」をベースに作った「パオ」

その頃からハッチバックの主役となっていったのは、1991年発表の2代目「マーチ」、1999年デビューのトヨタ自動車「ヴィッツ」、2001年誕生のホンダ「フィット」といったクルマたち。つまり、実用的かつ経済的な車種だ。「コンパクトカー」という言葉もこの頃に生まれた。一方、かつて一世を風靡したホットハッチは次々に姿を消していった。

元来、欧州でハッチバックは合理性重視の車種として認識されていたのだが、質実剛健なVWのゴルフがベンチマーク的な存在となったことで、その印象が強まっていく。ルノーの「5」も、1990年に後継車の「ルーテシア」(欧州名はクリオ)が登場したあたりから、実用性を重視する方向性にシフトしていった。

2001年にBMWプロデュースの新世代「ミニ」が誕生した後には、VW「ニュービートル」やフィアット「500」など、かつての大衆車のリバイバルが相次いだ。これらのクルマは、パーソナルカーとしてのハッチバックの役目を受け継ぐ存在のようにも見えたのだが、そもそも元ネタがないと生まれなかったわけだし、世界的なブームになるまでには至っていない。

実用車からの脱却が始まった? ハッチバックの今後は

しかし最近、ハッチバックに新たな流れが生まれつつあると感じている。SUVやミニバンの台頭もあってか、実用性追求の姿勢が薄れつつあるのだ。かつてのルノー「5」やワンダーシビックのように、ファッショナブルでスポーティな方向性を目指す車種が増えてきたような気がする。

その流れを象徴しているのが、これまでもハッチバックに革命を起こしてきたシビックではないかと思っている。

かつては日本製ハッチバックの代表格だったシビックだが、2005年発表の9代目から国内生産はセダンのみとなり、ハッチバックは高性能版の「タイプR」を英国から輸入するようになっていた。しかし、10代目となる現行型では、やはり英国からの輸入車ではあるものの、タイプR以外のハッチバックが復活している。

ホンダの現行型「シビック」

ボディサイズはかつてのシビックと比べるとかなり大柄になったが、長さや幅に対してかなり低いプロポーションや、窓が大きくて開放的なインテリアなどは、1980年代のワンダーシビックを思い出させてくれる。

トヨタが2018年夏、12代目カローラのトップバッターとして発売した「カローラ スポーツ」も、これまでカローラが守り続けてきた5ナンバー枠を脱したボディサイズに加え、個性的なフロントマスクもあいまってダイナミックな雰囲気を発散している。

トヨタの「カローラ スポーツ」

そして、今年の注目はマツダの新型「マツダ3」(日本名はアクセラ)だ。長いボンネット、高めのベルトライン、小さなキャビン、スロープしたリアなどに加え、キャラクターラインをほとんど使わず、線ではなく面で形を表現しているところなど、理屈抜きにカッコいい。

マツダの新型車「マツダ3」

新型マツダ3の原型は、2017年の東京モーターショーに「魁(カイ) コンセプト」という名前で登場していた。その時にマツダは、ワンモーションのシンプルなラインでフォルムを描きつつ、繊細な造形で光の移ろいやリフレクション(反射)の動きをクルマに取り込むことで、これまで以上に力強く、味わい深い生命感を作り込んだとアナウンスしていた。でもそれが、ほぼそのまま市販型になるとは思わなかった。

マツダの「魁(カイ) コンセプト」
新型「マツダ3」はコンセプトカーがそのまま市販車になったような印象だ

もちろん、ゴルフに代表される実用的なハッチバックが消えていくとは思っていない。しかし、SUVやミニバンが実用車の役目を担う今、ハッチバックがパーソナル化するというのは理解できる流れだ。今後はこうした車種がいくつも登場してきそうで、長年ハッチバックに乗り続けてきた筆者は嬉しい気持ちになっている。

絶滅させるにはあまりに惜しい! 再考したい2ドアクーペの魅力

森口将之のカーデザイン解体新書 第10回

絶滅させるにはあまりに惜しい! 再考したい2ドアクーペの魅力

2019.01.08

2人乗りが優勢の2ドア勢力図

「ザ・ビートル」終焉にも影響? 海外の2ドア4/5人乗り事情

乗れば忘れがたい魅力、無駄も豊かさと感じさせるクルマ

多くの自動車ブランドがSUVを送り出し、クーペのようにスタイリッシュな4ドアを登場させる一方で、減り続けているボディ形状があることに皆様はお気づきだろうか。それは、4/5人乗りの2ドアクーペだ。このまま絶滅の道を歩ませるにはあまりに惜しいので、このボディを愛する者のひとりとして魅力をつづってみたい。

4/5人乗り2ドアクーペの美しさをあらためて見つめなおしたい(画像は左の青いクルマからいすゞ自動車「117クーペ」、トヨタ自動車「セリカ」、三菱自動車工業「ギャランGTO」)

新型「スープラ」も2人乗りに変身

2019年に復活するトヨタ自動車「スープラ」の事前試乗会でプロトタイプに触れて、残念なことがひとつあった。ボディがリアシートのない2人乗りになっていたことだ。

新型スープラを復活させるにあたりトヨタは、「直列6気筒エンジン」と「後輪駆動」という初代からのパッケージングを守るため、BMWのスポーツカー「Z4」との共同開発という道を選んだ。Z4は2シーターのオープンカーであり、プラットフォームやパワートレインの基本を共有するとなれば、スープラも2人乗りになることは予想できた。

新型「スープラ」プロトタイプ(画像)は2シーターになっていた

しかもスープラは、以前の記事で紹介したように、モデルチェンジのたびにホイールベースと全長を短くしてきた、珍しい車種である。その目的のひとつがスポーツ性能の向上であり、この方向性を推し進めた2シーター化は理解できる。

この結果、日本で販売される日本車の2ドア2人乗りは日産自動車「フェアレディZ」、本田技研工業の「NSX」と「S660」、マツダの「ロードスター」と「ロードスターRF」、ダイハツ工業「コペン」を加えて7車種となる。

一方、同じ2ドアながら4/5人乗りの車種は、トヨタ「86」、スバル「BRZ」、日産「GT-R」、レクサス「RC」「LC」の5車種にとどまる。使い勝手の面では明らかに不便な2人乗りの方が多数派という、異例の状況になったわけだ。

希少な存在になりつつある2ドア4人乗りクーペのレクサス「LC」

昔のことを振り返ると、スープラのベースとなった「セリカ」をはじめ、2ドア4/5人乗りの車種はかなり多かった。逆に、同じ2ドアの2人乗りはフェアレディZやトヨタ「MR2」くらいしかなく、そのZさえ「2by2」という名の4人乗りを用意していたほどである。

日本車にも2ドア4/5人乗りの車種が多い時代はあった(画像はホンダ「プレリュード」)

欧米でも減り続ける2ドア4/5人乗りの車種

実はこれ、日本に限った話はではない。我が国以上に2ドアクーペが根付いていたアメリカでも車種は減っているのだ。日本で輸入しているモデルを見てみると、2人乗りがシボレー「コルベット」のみで、4人乗りは同じくシボレーの「カマロ」しかない。

シボレー「カマロ」

ヨーロッパではスポーツカー専門ブランドや1,000万円以上の高価格車を除くと、ジャガーとアルファ・ロメオではかつてあった4人乗りが消滅して2人乗りの「Fタイプクーペ/コンバーチブル」と「4C/4Cスパイダー」のみになり、プジョーやボルボでは2ドアそのものがなくなった。レンジローバー「イヴォーク」はSUVクーペという姿が鮮烈だったが、新型は5ドアのみとなった。

SUVクーペという姿が鮮烈だったレンジローバー「イヴォーク」

クーペとはいえないかもしれないが、フォルクスワーゲン「ザ・ビートル」が販売を終了するのにも、似たような理由があると思っている。同じように古き良き時代のベーシックカーをリバイバルさせたミニが「クロスオーバー」などを展開し、フィアットは「500」(チンクエチェント)に「500X」という5ドアを追加していく中で、オリジナルの面影を継承した3ドアにこだわったのがザ・ビートルだった。しかし、その点にこそ、このクルマがおよそ80年にも及ぶ歴史に終止符を打つことになった要因があるのではないかという気がするのだ。

ミニ「クロスオーバー」
フォルクスワーゲン「ザ・ビートル」

SUVブームも遠因に? 2ドア4/5シーターが減った理由

2ドア4/5シーターがここまで減ってしまった理由は何か。簡単にいえば、4ドアでもカッコいいクルマが作れるようになったことが大きいだろう。

そのひとつはSUVだ。中でも、それまでスポーツカー専門だったポルシェが2002年に送り出した「カイエン」の影響力は大きかった。

ポルシェ「カイエン」

ポルシェを代表するスポーツカーは「911」だが、この1台で全てをカバーできる人は少ない。ほとんどのユーザーは、別に他社のセダンやワゴンを持っていた。ポルシェは911オーナーの“もう1台需要”を狙うべく、SUVを企画したのではないかと思っている。

ところがカイエンには、それとは異なるユーザーが殺到した。2ドアは生活シーン的に無理という人々が、4ドアのポルシェとしてカイエンを選ぶようになったのだ。以前、あるカイエンオーナーに話を聞いた時、「ポルシェは好きだけれど911には興味がない」と言い切っていたのは印象的だった。

ポルシェの成功が、他の多くのプレミアムブランドをSUV参入になびかせる理由のひとつになったことは間違いない。ジャガー「Eペイス」(E-PACE)のように、セダンの「XE」よりスポーツカーの「Fタイプ」に近いデザインを取り込んで、4ドアのスポーツモデルとしてアピールする例も多い。

ジャガー「Eペイス」

「2ドアは買えない」と考える人のためのスポーツモデルという立ち位置を各社が持たせたことは、SUVがヒットした理由のひとつだと思っている。

4ドアクーペ登場も退潮の要因に

もうひとつの理由は、4ドアクーペの登場だ。こちらは1950年代の米国車に設定された4ドアハードトップをルーツとしており、日本車も1970年代以降、このボディを多数用意した。少数派ではあるが、1960年代の英国車にも4ドアクーペはあった。

もともとハードトップとは、オープンカーに装着する(幌ではなくて)固い屋根のことだったのだが、その後、サイドウインドーの窓枠を持たないクーペをこう呼ぶようになった。セダンと比べるとルーフが低く、前後のウインドーの傾きが強いことが多く、2ドアの流麗さと4ドアの実用性を兼ね備えたような車体だった。

しかし、日本車の4ドアハードトップは「車内が狭い」とか「ボディ剛性が低い」といった理由で21世紀初めに消滅する。すると、入れ替わるように登場したのが2004年発表のメルセデス・ベンツ「CLS」だった。続いてBMWが「6シリーズ・グランクーペ」、アウディが「A7スポーツバック」と、ドイツ勢が相次いで4ドアクーペ(A7はリアゲートがあるので5ドアともいえる)をリリースしてきた。

アウディ「A7スポーツバック」

もっとも、彼らは依然として2ドアのクーペも用意していたのだが、一方で、SUVにも低く流麗なルーフラインを特徴とする「SUVクーペ」を設定していた。こちらには最初から2ドアがなく、4ドアのみだった。このことからも、2ドア4/5人乗りクーペの販売台数が減少していたことは容易に想像できる。

4ドアでは得られない独特の魅力とは

でも筆者は、2ドアクーペには4ドアにはない良さがあると信じている。2人乗りの所有歴はないものの、4/5人乗りクーペは現在の愛車であるルノー「アヴァンタイム」を含め3台と付き合っており、独特の世界観に魅せられているひとりであるからだ。

車内の広さというと、後席のスペースを指すことが多い。逆に前席は、スポーティさを出すべくタイトに仕立てる例が目立つ。しかし、2ドアクーペのドアを開ければ、そうではないことに気づくはず。そこには前席優先の空間が広がっているからだ。この開放感、一度味わってしまうとなかなか離れることができない。

2ドアクーペに乗り込むと、独特の開放感が感じられる(画像はレクサス「LC」)

しかも、ドアを開けると前後どちらの席にもアクセスできる。後席に人が乗る場合は前席の背もたれを倒さなければならないけれど、荷物を置くだけならそのままでいい。狭い場所では長いドアが開け閉めしにくく、乗り降りしにくいという声もある。それに対しては、愛車アヴァンタイムのようにドアヒンジをダブルとして、前方にせり出しながら開く手法があることをお伝えしておこう。

ルノー「アヴァンタイム」のダブルヒンジドア

このパッケージングは、流麗なフォルムを生み出すことにも貢献している。4ドアはどうしても後席の居住性に配慮するから、クーペと名乗っていてもルーフラインはセダンに近くなる。一方、2人乗りのスポーツカーでは走りを突き詰める結果、全長もキャビンも短くなるので、流れるようなラインは描きにくい。

とはいえ、2ドア4/5シータークーペが無駄にあふれたクルマだという事実は、認めざるを得ない。でも、これはクルマに限った話ではないが、無駄こそ豊かさを感じさせてくれるものなのではないだろうか。カッコよさと使いやすさの両立は、多くの人が望むことかもしれない。ただ、その結果として大事なことを置き去りにしているようなら、それは残念なことである。

「ES」と「UX」ではテイストが違う? 2台の新型車で見るレクサスデザインの今

森口将之のカーデザイン解体新書 第9回

「ES」と「UX」ではテイストが違う? 2台の新型車で見るレクサスデザインの今

2018.12.05

レクサスデザインは3世代に分けられる

「LC」からの流れを受け継いだ「ES」のエレガンス

「UX」は特殊なレクサス? 大胆なデザインになった理由とは

2018年秋、レクサスの新型車2台が日本に登場した。北米では1989年から販売してきたセダンの「ES」と、新型車のコンパクトクロスオーバーSUV「UX」だ。2台を眺めると、同じレクサスながらデザインのテイストが異なることに気づく。なぜ違うのか。レクサスデザインの変遷を振り返りながら考えた。

2018年11月27日に発売となったレクサスのコンパクトクロスオーバーSUV「UX」

日本でも世界でも好調のレクサス

1989年にまず北米で発売し、2005年の日本導入から今年で13年となるレクサスブランドが今、存在感を高めつつある。昨年はラグジュアリークーペの「LC」を登場させるとともに、フラッグシップセダンの「LS」ではモデルチェンジを実施。今年の秋にはESとUXを続けて発売した。

2017年に登場したラグジュアリークーペ「LC」。この画像は特別仕様車の「Luster Yellow」だ(画像提供:レクサスインターナショナル)

レクサスインターナショナルの澤良宏プレジデントは、11月27日のUX発表会で同ブランドの販売実績に言及した。2018年1月~10月の販売台数は、グローバルで前年同期比6%増の56万7,000台を記録。日本では、なんと35%増の4万6,900台を達成したという。いずれも過去最高だ。

3世代にわたるレクサスのデザイン史

レクサスをデザインという視点で見た場合、3世代に分けられるのではないかと個人的には思っている。

第1世代は2005年の日本導入時にデビューした「IS」と「GS」、その翌年に登場した「LS」、2009年に発表となったクロスオーバーSUV「RX」とブランド初のハイブリッド専用セダン「HS」、2年後に加わったハイブリッド専用ハッチバック「CT」だ。

日本導入当時、レクサスは「微笑むプレミアム」というキャッチコピーを使っていたと記憶している。強烈な押し出しでアピールする欧米のプレミアムブランドに対抗するためのメッセージだった。この言葉を反映し、ISもGSも優しさを感じさせる造形だったという印象が残っている。

ところが、2012年1月に発表された現行「GS」から、イメージが変わりはじめた。最大の特徴は、バンパー上下のグリルをつなげ、中央から上下にいくほど幅が広くなる「スピンドルグリル」の採用だった。それ以外にも、前後のランプは「L」をモチーフとした大胆な造形になり、サイドやリアのラインもシャープになっていた。このクルマを機に、レクサスのデザインは第2世代に入ったと見ている。

「GS」からスピンドルグリルを採用した(画像は2015年11月に発売となったマイナーチェンジモデル、提供:レクサスインターナショナル)

翌年モデルチェンジしたIS、このISをベースとしたクーペの「RC」、2014年に新登場したクロスオーバーSUVの「NX」、その翌年に日本初登場となったフラックシップSUV「LX」と現行RXが、この第2世代に属すると思っている。

特にNXは、ブランニューということもあって表現が明確で、スピンドルグリルは上下に大きく開き、ヘッドランプは吊り上がり、SUVらしい力強さを表現する前後のフェンダーラインは角張っていて、とにかくシャープという印象だった。

2014年7月に発売となった「NX」(画像提供:レクサスインターナショナル)

その流れが変わったという印象を抱いたのが、2017年3月発売のラグジュアリークーペ「LC」だった。レクサスは2012年のデトロイト・モーターショーで発表したコンセプトカー「LF-LC」を量産化するという意図でLCを開発。市販の予定がなかったコンセプトカーを商品化するにあたり、2mを超えていた全幅、極端に低かった全高を常識的なレベルに収めつつ、オリジナルを忠実に再現するためにGA-Lプラットフォームを新たに用意した。

今のレクサスを築いたラグジュアリークーペ「LC」

LCの特筆すべき点はエクステリアデザインで、豊かに張り出した前後のフェンダーを含め、キャラクターラインはほとんどなく、複雑な曲面でフォルムを構築するという、それまでの日本車にはあまり見ない造形を実現していた。前後のランプも形状は個性的でありながら控えめで、必要以上に威圧感を与えることはなかった。

レクサスのラグジュアリークーペ「LC」

LCはインテリアも一新していた。クーペというと、どうしても躍動的なデザインになりがちなところ、LCは水平基調のインパネに小ぶりなメーターパネルで落ち着いた世界観を表現。ドアトリムを走るラインもゆったりした曲線で、大人っぽさを印象づけていた。

2017年10月に登場した現行LSも、同じGA-Lプラットフォームを採用している。フラッグシップセダンだけあってインテリアは凝った意匠で、例えばドアトリムのオーナメントは、切子細工をモチーフとした繊細な造形が特徴的だった。一方、エクステリアはプレスラインを最小限に抑え、「6ライト」(前後ドアとリアウインドーの間にも窓がある)のサイドウインドーによるエレガントなシルエットを強調していて、LCからの流れを感じさせた。

レクサスのフラッグシップセダン「LS」(画像提供:レクサスインターナショナル)

優雅なルーフラインの「ES」

そして、2018年10月に発売となった「ES」もまた、スピンドルグリルやヘッドランプで個性的な表情を出しつつ、ボディサイドについては無駄な装飾に頼らず、ゆったりしたカーブを描くクーペのようなルーフラインで優雅さを強調している。インテリアについても同じで、水平基調のインパネと小ぶりなメーターパネル、柔らかいラインのドアトリムなどは、LC以来の流れを受け継いでいる。

「LC」からの流れを感じさせる「ES」のデザイン(画像提供:レクサスインターナショナル)
「ES」のインテリア

ところで、このESは、市販車としては世界で初めて「デジタルアウターミラー」を採用したことでも話題を呼んだ。サイドミラーの形状を一変させるので、当然ながらクルマのデザインにも影響を与える装備だ。筆者は先日、試乗会で実際に体験してきたので、印象を簡単に報告する。

2016年の保安基準改定により、サイドミラーに鏡以外を用いることが可能になったことを受けて開発が始まったデジタルアウターミラー。ESのデビューが近づくタイミングで実用化のめどがたったので、初めて搭載したのだという。

「ES」が市販車として世界で初めて装備したデジタルアウターミラー
外から見るとこんな感じだ

後付け感のある左右のディスプレイは、こうした経緯を象徴したものである。今後は設計当初から採用が決まるので、一体感が高まっていくだろう。ディスプレイの場所についても、現在はミラーに近い場所に置いているが、二輪車にも乗る筆者の感覚としては、メーターパネルの左右でもいいのではないかと思った。

実際に使ってみると、ディスプレイの解像度をもう少し高めて、遠近感が分かるような3D的な表現を盛り込んでほしいという要望を抱いたものの、天候や周囲の明るさに関わらず、クリアな画像が見られるところはありがたかった。

さらにデジタルアウターミラーは、状況に合わせてズームしてくれる。例えば右左折時、ウインカーを出すとカメラは望遠から広角になり、周囲の状況をより広く映し出す。デジタルならではの機能で安全性も高まりそうだ。

「UX」のカタチが第三世代のデザインとは異なる理由

そんな体験をもたらしてくれた試乗会から2週間後、今度はコンパクトクロスオーバーSUVの「UX」が発表となった。発表会場で見たUXは、LCからESにかけての流れとは少し異なるデザインを身にまとっていた。

レクサスデザインの潮流とは立ち位置が違う印象の「UX」(画像提供:レクサスインターナショナル)

顔つきは他のレクサスと共通しているものの、前後のフェンダーは力強く張り出し、ボディサイドは2本のキャラクターモールがリアに向けて跳ね上がる。黒いフェンダーアーチモールやリアコンビランプが、空力特性を考えた形状である点も目立つ。

でも、レクサスのデザインがここから再び変わっていくわけではないと筆者は思った。UXのコンセプトは「Creative Urban Explorer」。新たなライフスタイルを探求する「きっかけ」(英語ではcue、コンセプトの頭文字とかかっている)となることを目指すクルマだとレクサスは位置づける。その大胆なデザインは、コンセプトに合わせたものなのではないだろうか。

「UX」の大胆なデザインは、コンセプトを体現したものなのかもしれない(画像提供:レクサスインターナショナル)

輸入車でも、似たような考えのもとに生まれたクルマがある。ボルボのコンパクトSUV「XC40」だ。デザインの基本的なフォーマットは上級SUVの「XC90」と「XC60」から受け継ぎながら、2トーンカラーや台形を強調したキャラクターライン、プレーンなリアパネルなど、兄貴分にはない斬新なディテールを取り入れている。

ボルボ「XC40」は同社SUVシリーズの末っ子だが、兄貴分とはテイストの違うデザインを採用している

少し前にも紹介したが、BMW本社で唯一の日本人デザイナーである永島譲二氏も、SUVはデザイン面で「冒険しやすい」クルマだと話していた。ドイツ車が中心になって築いてきた、上から下まで同一のデザインでそろえるというブランディングに飽きがきているからこそ、BMWやボルボは多様化を認める路線にシフトしつつあるのだろう。

この予想が正しければ、最近登場したレクサスの2台、セダンのESとクロスオーバーSUVのUXが、異なるテイストのデザインをまとっているのは当然だ。多様な見せ方を試みるレクサスは、最新のトレンドをよく理解していると感じる。次のレクサスはどんな方向で攻めてくるのか。カーデザインには想定外の驚きがあったほうが楽しい。