「ES」と「UX」ではテイストが違う? 2台の新型車で見るレクサスデザインの今

森口将之のカーデザイン解体新書 第9回

「ES」と「UX」ではテイストが違う? 2台の新型車で見るレクサスデザインの今

2018.12.05

レクサスデザインは3世代に分けられる

「LC」からの流れを受け継いだ「ES」のエレガンス

「UX」は特殊なレクサス? 大胆なデザインになった理由とは

2018年秋、レクサスの新型車2台が日本に登場した。北米では1989年から販売してきたセダンの「ES」と、新型車のコンパクトクロスオーバーSUV「UX」だ。2台を眺めると、同じレクサスながらデザインのテイストが異なることに気づく。なぜ違うのか。レクサスデザインの変遷を振り返りながら考えた。

2018年11月27日に発売となったレクサスのコンパクトクロスオーバーSUV「UX」

日本でも世界でも好調のレクサス

1989年にまず北米で発売し、2005年の日本導入から今年で13年となるレクサスブランドが今、存在感を高めつつある。昨年はラグジュアリークーペの「LC」を登場させるとともに、フラッグシップセダンの「LS」ではモデルチェンジを実施。今年の秋にはESとUXを続けて発売した。

2017年に登場したラグジュアリークーペ「LC」。この画像は特別仕様車の「Luster Yellow」だ(画像提供:レクサスインターナショナル)

レクサスインターナショナルの澤良宏プレジデントは、11月27日のUX発表会で同ブランドの販売実績に言及した。2018年1月~10月の販売台数は、グローバルで前年同期比6%増の56万7,000台を記録。日本では、なんと35%増の4万6,900台を達成したという。いずれも過去最高だ。

3世代にわたるレクサスのデザイン史

レクサスをデザインという視点で見た場合、3世代に分けられるのではないかと個人的には思っている。

第1世代は2005年の日本導入時にデビューした「IS」と「GS」、その翌年に登場した「LS」、2009年に発表となったクロスオーバーSUV「RX」とブランド初のハイブリッド専用セダン「HS」、2年後に加わったハイブリッド専用ハッチバック「CT」だ。

日本導入当時、レクサスは「微笑むプレミアム」というキャッチコピーを使っていたと記憶している。強烈な押し出しでアピールする欧米のプレミアムブランドに対抗するためのメッセージだった。この言葉を反映し、ISもGSも優しさを感じさせる造形だったという印象が残っている。

ところが、2012年1月に発表された現行「GS」から、イメージが変わりはじめた。最大の特徴は、バンパー上下のグリルをつなげ、中央から上下にいくほど幅が広くなる「スピンドルグリル」の採用だった。それ以外にも、前後のランプは「L」をモチーフとした大胆な造形になり、サイドやリアのラインもシャープになっていた。このクルマを機に、レクサスのデザインは第2世代に入ったと見ている。

「GS」からスピンドルグリルを採用した(画像は2015年11月に発売となったマイナーチェンジモデル、提供:レクサスインターナショナル)

翌年モデルチェンジしたIS、このISをベースとしたクーペの「RC」、2014年に新登場したクロスオーバーSUVの「NX」、その翌年に日本初登場となったフラックシップSUV「LX」と現行RXが、この第2世代に属すると思っている。

特にNXは、ブランニューということもあって表現が明確で、スピンドルグリルは上下に大きく開き、ヘッドランプは吊り上がり、SUVらしい力強さを表現する前後のフェンダーラインは角張っていて、とにかくシャープという印象だった。

2014年7月に発売となった「NX」(画像提供:レクサスインターナショナル)

その流れが変わったという印象を抱いたのが、2017年3月発売のラグジュアリークーペ「LC」だった。レクサスは2012年のデトロイト・モーターショーで発表したコンセプトカー「LF-LC」を量産化するという意図でLCを開発。市販の予定がなかったコンセプトカーを商品化するにあたり、2mを超えていた全幅、極端に低かった全高を常識的なレベルに収めつつ、オリジナルを忠実に再現するためにGA-Lプラットフォームを新たに用意した。

今のレクサスを築いたラグジュアリークーペ「LC」

LCの特筆すべき点はエクステリアデザインで、豊かに張り出した前後のフェンダーを含め、キャラクターラインはほとんどなく、複雑な曲面でフォルムを構築するという、それまでの日本車にはあまり見ない造形を実現していた。前後のランプも形状は個性的でありながら控えめで、必要以上に威圧感を与えることはなかった。

レクサスのラグジュアリークーペ「LC」

LCはインテリアも一新していた。クーペというと、どうしても躍動的なデザインになりがちなところ、LCは水平基調のインパネに小ぶりなメーターパネルで落ち着いた世界観を表現。ドアトリムを走るラインもゆったりした曲線で、大人っぽさを印象づけていた。

2017年10月に登場した現行LSも、同じGA-Lプラットフォームを採用している。フラッグシップセダンだけあってインテリアは凝った意匠で、例えばドアトリムのオーナメントは、切子細工をモチーフとした繊細な造形が特徴的だった。一方、エクステリアはプレスラインを最小限に抑え、「6ライト」(前後ドアとリアウインドーの間にも窓がある)のサイドウインドーによるエレガントなシルエットを強調していて、LCからの流れを感じさせた。

レクサスのフラッグシップセダン「LS」(画像提供:レクサスインターナショナル)

優雅なルーフラインの「ES」

そして、2018年10月に発売となった「ES」もまた、スピンドルグリルやヘッドランプで個性的な表情を出しつつ、ボディサイドについては無駄な装飾に頼らず、ゆったりしたカーブを描くクーペのようなルーフラインで優雅さを強調している。インテリアについても同じで、水平基調のインパネと小ぶりなメーターパネル、柔らかいラインのドアトリムなどは、LC以来の流れを受け継いでいる。

「LC」からの流れを感じさせる「ES」のデザイン(画像提供:レクサスインターナショナル)
「ES」のインテリア

ところで、このESは、市販車としては世界で初めて「デジタルアウターミラー」を採用したことでも話題を呼んだ。サイドミラーの形状を一変させるので、当然ながらクルマのデザインにも影響を与える装備だ。筆者は先日、試乗会で実際に体験してきたので、印象を簡単に報告する。

2016年の保安基準改定により、サイドミラーに鏡以外を用いることが可能になったことを受けて開発が始まったデジタルアウターミラー。ESのデビューが近づくタイミングで実用化のめどがたったので、初めて搭載したのだという。

「ES」が市販車として世界で初めて装備したデジタルアウターミラー
外から見るとこんな感じだ

後付け感のある左右のディスプレイは、こうした経緯を象徴したものである。今後は設計当初から採用が決まるので、一体感が高まっていくだろう。ディスプレイの場所についても、現在はミラーに近い場所に置いているが、二輪車にも乗る筆者の感覚としては、メーターパネルの左右でもいいのではないかと思った。

実際に使ってみると、ディスプレイの解像度をもう少し高めて、遠近感が分かるような3D的な表現を盛り込んでほしいという要望を抱いたものの、天候や周囲の明るさに関わらず、クリアな画像が見られるところはありがたかった。

さらにデジタルアウターミラーは、状況に合わせてズームしてくれる。例えば右左折時、ウインカーを出すとカメラは望遠から広角になり、周囲の状況をより広く映し出す。デジタルならではの機能で安全性も高まりそうだ。

「UX」のカタチが第三世代のデザインとは異なる理由

そんな体験をもたらしてくれた試乗会から2週間後、今度はコンパクトクロスオーバーSUVの「UX」が発表となった。発表会場で見たUXは、LCからESにかけての流れとは少し異なるデザインを身にまとっていた。

レクサスデザインの潮流とは立ち位置が違う印象の「UX」(画像提供:レクサスインターナショナル)

顔つきは他のレクサスと共通しているものの、前後のフェンダーは力強く張り出し、ボディサイドは2本のキャラクターモールがリアに向けて跳ね上がる。黒いフェンダーアーチモールやリアコンビランプが、空力特性を考えた形状である点も目立つ。

でも、レクサスのデザインがここから再び変わっていくわけではないと筆者は思った。UXのコンセプトは「Creative Urban Explorer」。新たなライフスタイルを探求する「きっかけ」(英語ではcue、コンセプトの頭文字とかかっている)となることを目指すクルマだとレクサスは位置づける。その大胆なデザインは、コンセプトに合わせたものなのではないだろうか。

「UX」の大胆なデザインは、コンセプトを体現したものなのかもしれない(画像提供:レクサスインターナショナル)

輸入車でも、似たような考えのもとに生まれたクルマがある。ボルボのコンパクトSUV「XC40」だ。デザインの基本的なフォーマットは上級SUVの「XC90」と「XC60」から受け継ぎながら、2トーンカラーや台形を強調したキャラクターライン、プレーンなリアパネルなど、兄貴分にはない斬新なディテールを取り入れている。

ボルボ「XC40」は同社SUVシリーズの末っ子だが、兄貴分とはテイストの違うデザインを採用している

少し前にも紹介したが、BMW本社で唯一の日本人デザイナーである永島譲二氏も、SUVはデザイン面で「冒険しやすい」クルマだと話していた。ドイツ車が中心になって築いてきた、上から下まで同一のデザインでそろえるというブランディングに飽きがきているからこそ、BMWやボルボは多様化を認める路線にシフトしつつあるのだろう。

この予想が正しければ、最近登場したレクサスの2台、セダンのESとクロスオーバーSUVのUXが、異なるテイストのデザインをまとっているのは当然だ。多様な見せ方を試みるレクサスは、最新のトレンドをよく理解していると感じる。次のレクサスはどんな方向で攻めてくるのか。カーデザインには想定外の驚きがあったほうが楽しい。

BMWデザインの秘密とは? ドイツ本社で唯一の日本人デザイナーに聞く

森口将之のカーデザイン解体新書 第8回

BMWデザインの秘密とは? ドイツ本社で唯一の日本人デザイナーに聞く

2018.11.16

「Z4」と「8シリーズ」に共通するキドニーグリルの革新

オマージュと新たな意匠が溶け合う新型「3シリーズ」

スポーツカーよりも制約が厳しい実用車のデザイン

日本でも根強い人気を持つ外国車ブランドのBMW。魅力のひとつがスポーティーなデザインにあることは確実だろう。では、BMWのデザインはどのように生まれるのだろうか。ドイツ本社のデザイン部門で30年にわたり活躍する日本人デザイナーが、最近登場した3車種を題材にプロセスを語った。

BMWのスポーティーなデザインはどのように生まれるのか(画像は「8シリーズ クーペ」)

ドイツ本社で活躍する唯一の日本人デザイナーが来日

BMWのデザインについて話を聞くのに、もっともふさわしいと思える方が日本にやってきた。ドイツBMWのデザイン部門でエクステリア・クリエイティブ・ディレクターを務める永島譲二氏だ。

永島氏(画像)は米国ミシガン州ウェイン州立大学大学院でデザイン修士課程を修了すると、ドイツのオペルでキャリアをスタート。フランスのルノーを経て1988年にBMWに入った

永島氏のBMWにおける経歴を見ると、1996年発表の「Z3」(現在の「Z4」の前身)、同年発表の4代目「5シリーズ」(現行型は7代目)、2005年発表の5代目「3シリーズ」(現行型は6代目)をはじめ、多くの市販車・コンセプトカーのデザインに関わっている。今回は、同氏がコンセプトカーに携わった「Z4」と「8シリーズ」、そして、多くのクルマ好きが気になっているであろう次期「3シリーズ」について話を聞くことができた。

ヘッドランプの並びを変えた新型「Z4」

まずは、BMWとトヨタが共同開発を行った車種としても知られる新型「Z4」についてだ。3代目となる新型Z4は、今年8月に米国で発表となった。永島氏はコンセプトカーのデザインに携わっている。

永島氏がデザインに携わった「Z4」のコンセプトカー(画像)は、2017年の東京モーターショーに登場した

新型Z4とコンセプトカーを比べると、ディテールには違いが見受けられるものの、基本的なフォルムはほぼ同じだ。デザインの進行過程でコンセプトカーを披露し、評判をリサーチしたのではないかと予想できる。自動車業界ではしばしば見られる手法だ。

新型「Z4」(画像提供:BMW Group)

一方、旧型との違いとしては、電動開閉式ハードトップが廃止となり、初代と同じソフトトップに戻っている点が目立つ。ディテールの新しさは、永島氏の説明で理解できた。

「ヘッドランプはこれまで、ほかのBMWと同じように横に並べていましたが、新型では縦に並べました。丸型にはこだわらず、同じ形を2つ並べる考え方にしたのも変更点です。もうひとつ、キドニーグリル外側の尖ったポイントが下に移動していることも特徴といえます。これは、後で説明する8シリーズにも共通するのですが、スポーツカーについては、こういう造形でいこうと決まりました」

新型「Z4」のフロントマスク。従来のBMWでは、グリルの左右両端の頂点(横に張り出しているカド)が中央より上に位置していたのだが、「Z4」と後述の「A8」では、その頂点が下に移動している(画像提供:BMW Group)

躍動的なボディサイドにも注目

ボディサイドでは、ドアの前の「エアブリーザー」と呼ばれるスリットが目を引く。近年登場した他のBMWにも見られるこのデザインには、クルマの横の面を強調するという役割もあるが、ここから空気を抜くことで、空力特性を高めるという機能的な目的もあるそうだ。躍動的な印象を与えるボディサイドの造形については、永島氏の言葉を引くことにする。

「旧型ではフロントからリアに向けて下がっていくラインを用いていましたが、新型では逆に上がっています。今回説明する3台に共通することですが、このラインの動きは、駆動輪である後輪を強調するためのものです。ラインに接する面をねじることで、ハイライトがリアに向けて強くなっていくようにもしています。こうした面の使い方は、現在のトレンドでもあります」

新型「Z4」のボディサイド。ラインがクルマの後部にかけて上がっていっていることが確認できる(画像提供:BMW Group)

リアを見てみると、リアコンビランプは薄くなって高い位置に付き、「L」字型を描いている。これは3次元造形を取り入れたデザインだが、似たような処理はSUVの新型「X4」(日本では2018年9月に発売)にも見られる。

新型「Z4」のリアコンビランプは「L」字型を形成する(画像提供:BMW Group)

「6シリーズ」を継ぐも方向性は異なる「8シリーズ」

続いては、先日発表されたばかりの「8シリーズ」だ。このクルマは「6シリーズ」の後継車だが、方向性はやや異なり、グランドツアラーから本格スポーツカーへとシフトしている。日本で発売となったのは2ドアクーペのみだが、ドイツではカブリオレが発表済みで、今後は4ドアのグランクーペも登場予定だという。ラインアップは6シリーズと同じになるわけだ。

「6シリーズ」の後継車だが、よりスポーティーなデザインをまとう「8シリーズ」(画像提供:BMW Group)

8シリーズのスポーティーな性格はプロポーションからも伝わってくる。全長を短く、全幅を広く、全高を低くしたボディは、水平に近かったルーフラインが前席を頂点としたスロープとなり、リアウインドーからトランクリッドまでが一直線につながった。

「Z4でも説明しましたが、フロントマスクはキドニーグリルの頂点が下に移動しています。ボディサイドはエアブリーザーから後ろをえぐることで重量感を減らしながら、リアフェンダーに向けて力強いショルダーを描いていて、カッコよさと安定感を表現できていると思っています。台形だったリアウインドーは下部を絞り込み、張り出しを強調しました。リアコンビランプはブレードを連想させる3次元造形のL字型で、点灯すると『L』が強調されるようになっています」

「8シリーズ クーペ」のボディサイドからは、リアフェンダーを強調したいというBMWの意思が伝わってくる(画像提供:BMW Group)

新型「3シリーズ」には懐かしい表現も

最後は、BMWの主力車種であり、2018年10月のパリモーターショーでデビューした新型「3シリーズ」だ。

BMWの主力車種「3シリーズ」の新型(画像提供:BMW Group)

新型3シリーズを語る上で、最初に永島氏が言及したのは、このクルマをデザインすることの難しさだった。BMWの主力車種ということで注目度が高い上、売れることが宿命づけられたクルマでもあるからだ。しかし、そんな中でも、新型には新しい造形をいくつも取り込んでいる。

「ヘッドランプの下側にボディカラーが食い込んでいるのが分かるでしょうか。実は、4代目の3シリーズをイメージしたのです。また、初代3シリーズやその前身の『02シリーズ』のように、左右のキドニーグリルの枠がつながっており、横から見ると上が突き出した『シャークノーズ』と呼ばれる形状にしてあります。グリルをつなげたのは、内部に安全装備のセンサーを取り付ける場所が必要という理由もありましたが、3シリーズは新型で7代目と代を重ねているので、オマージュ的な表現を入れてみました」

オマージュと新たな意匠が混じりあう新型「3シリーズ」のデザイン(画像提供:BMW Group)

ボディサイドには、リアドアガラス後端のラインが下りきる直前で曲がり、前に向かっていく「ホフマイスターエッケ」と呼ばれる処理が施してある。「ホフマイスター」は昔のチーフデザイナーの名前、「エッケ」はコーナーの意味で、やはり02シリーズあたりから使っているBMWの伝統だ。

ここの曲率は構造的に小さくできないので、世代が変わってもほぼ一定なのだそう。しかし、新型3シリーズではこの部分を鋭くしたいと考え、ピラー側に黒いガーニッシュを追加した。さらに後ろに行くと、リアパネルを矢尻型にサイドに回り込ませている。こちらは、車体寸法が大きくなる中で、クルマをコンパクトに見せるための技術だそうだ。

クルマをコンパクトに見せるためのデザインも取り入れている新型「3シリーズ」(画像提供:BMW Group)

これまで、ドアハンドルの高さにあったキャラクターラインは、より高い位置に移動させるとともに、ドア下方のラインをリアに向けてせり上げてある。ただし、Z4や8シリーズのような面を使った表現は控えめだ。永島氏によれば、実用車はスポーツカーと違い、車体寸法の制約が大きいことがその理由だという。3シリーズでいえば、日本のガレージやパーキングのサイズも考慮しているそうだ。

ちなみに、新型3シリーズの空気抵抗係数(Cd値)は0.24と8シリーズの0.33を上回る。実用車では燃費の要求も厳しいためだ。

実用車にはスポーツカーよりも多くの制約があり、それらがデザインにも影響を及ぼす(画像は新型「3シリーズ」、提供:BMW Group)

デザイナーとしては面を強調したいところだが、3シリーズのような車種ではなかなか難しいと話していた永島氏。その点、SUVであればカテゴリーの歴史が浅く、まだ決定的な形というものも存在しないので、冒険できる可能性は残されているというのが同氏の見解だ。

ジープらしさは細部にも宿る? 日本上陸の新型「ラングラー」に試乗

森口将之のカーデザイン解体新書 第7回

ジープらしさは細部にも宿る? 日本上陸の新型「ラングラー」に試乗

2018.10.31

日本で抜群の人気、理由は四角いデザインにあり?

マニアでなくてもそそられる細かな演出に好感

これは「オフロードのスポーツカー」だ! 試乗で走りも確かめた

“元祖クロスカントリーSUV”のジープ「ラングラー」が11年ぶりにモデルチェンジし、日本で発表となった。デザインはひと目でジープと分かるが、ディテールへのこだわりは旧型以上。新たに採用したターボエンジン、定評の悪路走破性も含めて報告しよう。

ひと目でジープと分かる新型「ラングラー」

今年はヘビーデューティSUVの当たり年?

今年は伝統的なヘビーデューティSUVがそろってモデルチェンジするという、異例の年になった。

まず6月にメルセデス・ベンツ「Gクラス」が新型に切り替わると、翌月にはスズキ「ジムニー」がモデルチェンジ。そして10月には、元祖SUVといえるジープ「ラングラー」の新型が日本に上陸した。

ご存知の方も多いと思うが、ラングラーは第2次世界大戦中に軍用車として開発されたウィリス「MB」がルーツ。終戦後、これを民間向けに設計し直した「CJ」(シビリアン・ジープ)から、市販車としての歴史が始まった。

ジムニーが登場したのは1970年、Gクラスは1979年だから、ジープは群を抜いて長いキャリアの持ち主だ。他にヘビーデューティSUVとしては、トヨタ自動車「ランドクルーザー」や英国のランドローバーも思い浮かぶが、これらはジープに範を取った両社が終戦直後に生み出したものだ。

今年はヘビーデューティーSUVの新型が続々と登場した(左はジムニー、右はGクラス)

日本で高い人気、中国を上回る販売台数

ジープCJはウィリスからカイザー、AMC(アメリカン・モーターズ・コーポレーション)とメーカーを変えつつ、「CJ-5」「CJ-7」など、いくつかのバリエーションを生み出しながら長きにわたって作り続けられ、1986年に「ラングラー」(形式名:YJ)に切り替わる。

翌年、ジープ・ブランドはクライスラーの一員となる。その後のラングラーは、車名を受け継ぎながら「TJ」「JK」とモデルチェンジし、今回「JL」になった。

ラングラーについて特筆すべき点は、日本での人気の高さだ。最近まで販売していたJKでいえば、我が国で売れたジープの4割を占める。世界レベルで見れば中国より上、つまり、米国に次ぐ世界第2位の台数をマークしていた。

この連載でも書いたが、日本車に四角いスタイリングのクルマが多く、人気が高いのは、この国独自の文化を反映した結果だと考えている。ラングラーも四角い。これが、我が国で高評価を得ている理由の1つではないだろうか。

グレード別に見た新型「ラングラー」の価格(税込み)は「SPORT」が459万円、「UNLIMITED SPORT」が494万円、「UNLIMITED SAHARA LAUNCH EDITION」が530万円。サイズは2ドアの「SPORT」が全長4,320mm、全幅1,895mm、全高1,825mm、ホイールベース2,460mm、4ドアの「UNLIMITED SPORT」が同4,870mm、1,895mm、1,845mm、3,010mmだ

ジープらしさを高める細部へのこだわり

そんなラングラーの新型JLは、写真を見てお分かりのとおり、クルマに詳しくない人でもジープだと分かる格好をしている。さらに、試乗会のプレゼンテーションでは、基本的なフォルムだけでなく、ディテールにもジープらしさを高める要素をいくつも散りばめてあるとの説明があった。

新型「ラングラー」のフロントグリル

全てのジープは、7本の縦スロットが入ったフロントグリルと台形のホイールアーチを持つ。新型ラングラーも同じだ。その上で新型は、かつてのCJの特徴を復活させた。ヘッドランプが7スロットグリルの両端に食い込んでいるのだ。

ボディサイズを見ると、全幅と全高については旧型とほぼ同じだが、全長は「UNLIMITED」で165mmも伸びた。これまで5速だったATが、新型で一挙に8速になったことに対処するためもある。ラングラーらしい形をキープしながら空力特性の改善も行っており、フロントウインドーは7度傾きを強めた。

エンジンは「UNLIMITED SPORT」が2.0Lターボ(画像)、それ以外が3.6LのV6だ

一方で、サイドウインドーは天地を広げ、リアゲートに装着するスペアタイヤの位置は下げるなど、視界を良くするリファインも実施している。後付けしたようなリアコンビネーションランプもラングラーの伝統となっているが、これは、内部に予防安全用センサーを内蔵するという目的も持たせたデザインだ。

新型ラングラーはジムニーやGクラスなどと同様に、ボディとは別体のラダーフレームを持つ。さらに、キャビンの上半分は樹脂製で、内側の頑丈なロールケージで安全性を確保している。樹脂製のルーフは取り外しが可能。それどころかドアも脱着できて、フロントウインドーは前に倒すことができる。

日本の法律では、ドアを外したりフロントウインドーを倒したりして公道を走行することは禁止されているが、本国では、昔のジープのような雰囲気を楽しむユーザーも想定する。ドアヒンジには脱着に使用する工具の種類まで刻んである。

ドアヒンジに工具の種類を示す記号が刻まれる

さらに、フロントウインドーやアルミホイールには、ジープのイラストがワンポイントで添えてある。ただでさえジープそのものの姿をしているのに、ディテールでさらにジープらしさをアピールする。マニアでなくとも、このデザインにはそそられる人が多いのではないだろうか。

フロントウインドーにジープのイラストが

走りでもモデルチェンジ効果を実感

インテリアもジープらしく力強い造形でまとめてある。メーターは丸いアナログ式で、ATセレクターと副変速機はレバー式。スイッチはタッチパネルに頼りすぎず、確実さを優先した方式を継承している。頭上にはロールケージが露出し、ドアは一部が鉄板のままだ。それがまた、ジープらしい雰囲気を盛り上げている。

力強い造形でまとまったインテリア

では、走りはどうか。今回の試乗では、旧型から受け継がれた3.6LのV型6気筒自然吸気エンジンを積む車種でオンロード(公道)を走行したあと、新搭載の2L直列4気筒ターボエンジンを搭載した車種でオフロードコースを走った。

まず感じたのは、ドライビングポジションが自然になったことだ。旧型はペダルが右寄りでアクセルとブレーキの段差が大きく、ブレーキに合わせてシートをセットするとアクセルが遠かった。ところが、新型は違和感なく扱えるようになった。

走り出すと乗り心地の良さに気づく。ラダーフレームと前後リジッドサスペンションという伝統を受け継ぎつつ、普段使いも違和感なくこなせるようになった。加速はATが8速になったおかげもあり身軽に感じる。旧型より小回りが効くことも日本のユーザーには朗報だろう。ハンドリングはおっとりしているが、コーナーでのロールの出し方は自然で、腰高感は抱かなかった。

加速はトランスミッションの多段化で身軽に。旧型より小回りが効く点も日本で乗るには嬉しい

オフロードコースは、他の多くのSUV試乗会で用意されるそれより一段とハードだった。しかし、ラングラーは平然と走破していく。200mmもの最低地上高が効いていて、床下をぶつける気配はない。強靭なラダーフレームと良く動くリジッドサスペンションが、4つのタイヤを確実に接地させ、車体を前進させる。ローレンジを選べば、急な下り坂でも速度を抑えてくれる。

他の多くのSUVが電子制御の助けを借りて走り切るようなシーンを、ラングラーは伝統的な機械の力で進んでいく。だから、操る楽しさが味わえる。“オフロードのスポーツカー”と呼びたくなるほどだ。

新型「ラングラー」は“オフロードのスポーツカー”とでも呼びたくなるような走りを見せた

ターボエンジンは2,000rpm以上に回転を上げておけば、アクセル操作に対してリニアに力を発揮してくれるので扱いやすかった。日本では税金が2Lクラスで済むので、これまでラングラーを考えなかった人も興味を抱くかもしれない。

前述のように、日本でのラングラー人気は根強いものがあるが、新型はオンロードでの加速性能や快適性能の向上、2Lターボエンジンの追加などにより、さらなる人気を獲得しそうだ。そして、実際にオーナーになった人々にとっては、ジープらしさを深めたデザインが満足感を高めてくれるはずである。