森口将之のカーデザイン解体新書

トヨタの新型「RAV4」が“ゴツく”なった理由

森口将之のカーデザイン解体新書 第15回

トヨタの新型「RAV4」が“ゴツく”なった理由

2019.04.10

トヨタ「RAV4」が日本に復帰、デザインは大きく変貌

都市型SUVが増える世の中に新型「RAV4」がもたらす新鮮味

オフロード試乗で体感! 見た目に負けない乗り味

トヨタ自動車のSUV「RAV4」が3年ぶりに日本市場に復活した。昔のRAV4を知っている人は「ずいぶんゴツくなったな」と感じているかもしれない。実はデザインの変貌には明確な理由がある。走りの印象を含めて報告しよう。

トヨタの新型「RAV4」

RAV4が日本市場に復活した経緯とは

前輪駆動乗用車のエンジンやサスペンションを活用してSUVを作る。今日では当たり前になっている手法をいち早く実現したのが、1994年にデビューしたトヨタ「RAV4」だった。CMキャラクターには、当時はデビューして間もなかったSMAPの木村拓哉を起用。ポップなデザインとともに、新たなジャンルのクルマであることを多くの人に印象付けた。

初代RAV4は、翌年に登場するホンダ「CR-V」をはじめ、スバル「フォレスター」、日産自動車「エクストレイル」など多くのライバルを生み出し、欧州からもフォルクスワーゲン「ティグアン」、プジョー「3008」などの競合車種が登場する要因となった。まさに、エポックメーカーだ。

ところが、生まれ故郷の日本では、初代では5ナンバー枠内に収まっていたボディ全幅が3代目で1.8mを超え、2Lだった直列4気筒エンジンが2.4Lになったこともあり、販売台数が落ち込んでいった。新型RAV4にとって先代モデルとなる4代目は、日本では販売すらされなかった。

ボディとエンジンの大型化は、主として米国市場での人気を受けたものだった。米国では、4代目の販売中にハイブリッド車を追加したことで、販売台数を大いに伸ばした。その結果、4代目RAV4はセダンの「カムリ」を抜き、トヨタのベストセラーカーになるほどの人気を獲得。この勢いを受けてトヨタは、2018年にニューヨークモーターショーで新型RAV4を発表した。

この間、日本では、レクサス「RX」の日本版として登場したSUV「ハリアー」が国内専用車として独立。現行「プリウス」と同じく新世代の「TNGAプラットフォーム」を採用するSUV「C-HR」も誕生した。他のブランドなら、SUVラインアップはこれで十分と思うだろう。

にもかかわらず、トヨタがRAV4を日本市場で復活させるのは、RAV4そのもののコンセプト転換によるところが大きかったのではないかと考えている。

コンセプトを転換し、日本市場に復帰する新型「RAV4」

新型RAV4のテレビCMを見た人は、オフロードシーンが多いことに気づいたかもしれない。最近のSUVでは珍しい演出だ。山梨県で行われた試乗会のプレゼンテーションでは、この点についての説明があった。

デザインのベースは2つの8角形

近年、さまざまなブランドから多くのSUVが登場しており、オンロード重視で快適性を重視したクルマ作りがトレンドとなっている。この流れの中で、SUVならではの「ワクドキ感」が薄れていると感じたトヨタは、新型RAV4を作るにあたり、ロバスト(robust、逞しい)であることとアキュレート(accurate、きめ細かい)であることの両立を目指したという。この造形により、ユーザー層の若返りも狙っているそうだ。

ロバストな印象になった新型「RAV4」

それを象徴するのがスタイリングだ。2つの8角形を90度ずらして組み合わせた「クロスオクタゴン」と呼ばれる手法を取り入れ、力強い造形と視界の良さを両立した。多くのクルマは真上から見ると四角形に見えるが、新型RAV4は機動性を向上させる意味もあり、四隅をカットしている。キャビン後端はオフロードの走破性を考慮してリアバンパーを斜めにせり上げた。

新型「RAV4」は2つの8角形を組み合わせた「クロスオクタゴン」というスタイリングを採用している

この方向性を明確にしているグレードが「アドベンチャー」だ。フロントのグリルとバンパー、スキッドプレート、ヘッドランプを専用とすることで、同じトヨタのピックアップや大型SUVに似た、力強い顔つきになっている。セダンやクーペに近いエモーショナルなSUVが増えつつある中では、かなり個性的に映る。

力強い顔つきの「アドベンチャー」

室内も多角形イメージをドアハンドルやエアコンのルーバーなどに取り入れており、デザインとしての統一感がある。滑り止めのゴムを施したエアコンやドライブモードセレクターなどのダイヤルを含め、独自の空間を作り上げようという気持ちが伝わってくる。

「アドベンチャー」の室内。デザインにはエクステリアとの統一感がある

しかも、スクエアなキャビンは室内が広い。新型RAV4のボディサイズは全長4,610mm、全幅1,865mm、全高1,690mm(アドベンチャーの数値)と、幅は広いものの長さはこのクラスの平均値である。ところが、後席は身長170cmの筆者が座ると足が組めるほど広い。荷室も580Lという数字を実感する。機能に裏付けられた造形である。

「アドベンチャー」のシート。全長は同クラスで平均的な数値だが、乗ってみると室内は広い

ここまで広いと、ライバルにはある3列シートを選べてもよいのではないかと思ったのだが、トヨタは北米向けに「ハイランダー」というひとまわり大柄な3列シートSUVを販売しているので、RAV4では2列シートにこだわったそうだ。

3列シートを設定する予定はないようだ

インテリアカラーは全グレードにブラックを用意したうえで、アドベンチャーにはライトブラウン、それ以外のグレードにはライトグレーを設定している。印象的なのはインパネやセンターコンソールに配されるアクセントカラーで、アドベンチャーはオレンジ、別のグレードではブラウンとしており、細部のコーディネートにまで気を配っていた。

ハイブリッド車の室内

トヨタが試乗会でオフロードを用意した意味

メカニズムでは、日本向けのRAV4では初となるハイブリッド車の投入がニュースだ。2.5L直列4気筒とモーターの組み合わせで、2Lのガソリン車と排気量が異なる。メインマーケットの北米ではガソリン車も同じ2.5Lだが、日本および欧州市場向けは税制などを考えて2Lを搭載したという。

どちらも2WD(前輪駆動)と4WDが用意されるが、ハイブリッド車は後輪を専用モーターで回す「E-Four」という仕組みであるのに対し、ガソリン車はプロペラシャフトで駆動するタイプになる。試乗会ではハイブリッド車「G」グレードの4WDと、ガソリン車の4WDのみとなる「アドベンチャー」に乗った。

「アドベンチャー」(画像)とハイブリッド車の「G」グレードに試乗

加速はもちろん、排気量で上回るうえにモーターのアシストもあるハイブリッド車の方が上だ。ガソリンエンジンのアドベンチャーは、3,000回転あたりまでエンジンを回すことが多く、エンジン音がそれなりにキャビンに響く。ただ、その音はハイブリッド車の2.5Lより滑らかで、回すことが気持ちいいと感じた。

新世代プラットフォームの剛性感、しっとりと動くサスペンション、移動距離の長い北米市場を見据えたような厚みのあるシートなどのおかげで、乗り心地は快適だった。ホイール/タイヤをインチアップしたアドベンチャーのほうが、しゃきっとした乗り味で好感を抱いた。ハンドリングも、パワートレインが軽いアドベンチャーの自然な身のこなしが好印象だった。

実は、新型RAV4のTNGAプラットフォームは、C-HRではなく、ひとクラス上のカムリと同じものを使っている。クルマ作りの過程では、オフロード走行を想定し、あの「ランドクルーザー」の開発スタッフからアドバイスを受けたそうだ。懐の深さを感じた乗り味はこうした理由によるものだった。

試乗会ではフラットなダートとモーグルなどからなるオフロードコースも用意されていた。こういった環境をトヨタが用意したのは、新型RAV4のキャラクターを強く印象付けるためだったのだろう。

試乗会ではオフロードコースも試すことができた

フラットなダートでは、E-Fourの進化にまず驚いた。これまでのE-Fourは、滑りやすい路面の発進時などに限り後輪を駆動する、エマージェンシー的な性格だった。新型RAV4のE-Fourはリアモーターが強力になり、後輪の駆動を感じながらのコーナリングを味わえるようになっていた。

一方、アドベンチャーを含む一部のガソリン車には、リアのトルクベクタリングが備わっていた。コーナーでは積極的に外輪のトルクを増やし、旋回を強めていく。また、ガソリン車は「マッド&サンド」「ノーマル」「ロック&ダート」の3モードの切り替えが可能で、200mmの最低地上高と合わせてかなりの凹凸を余裕でクリアできた。

初代RAV4を知っている人は新型の激変ぶりに驚くだろうが、初代RAV4が確立した乗用車テイストのSUVがあふれるほど増えた今だからこそ、逞しさにこだわった新型のデザインと走りが新鮮に感じた。

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新型「Aクラス」に試乗! デザインで考えた「ハイ! メルセデス」

森口将之のカーデザイン解体新書 第14回

新型「Aクラス」に試乗! デザインで考えた「ハイ! メルセデス」

2019.03.14

「MBUX」をインターフェイスデザインの観点でチェック

音声コマンドの理想的な在り方とは?

基本性能の進化にも改めて注目を

2018年秋に日本に上陸したメルセデス・ベンツの新型「Aクラス」は、デザインや走り、安全性などよりも、「MBUX」と呼ばれる対話型インターフェイスが話題になっている。実車に試乗することができたので、「インターフェイスデザイン」という観点でチェックしてみることにした。

メルセデス・ベンツの新型「Aクラス」

「インターフェイスデザイン」とは

「デザイン」という言葉がカバーする範囲は広い。筆者は2013年度から5回、グッドデザイン賞の審査委員を務めたことで、そう感じるようになった。グッドデザイン賞では「モノ」のデザインだけでなく、「コト」のデザインもジャッジする必要があるので、形や色にとどまらず、背景にある社会や生活にまで思考を巡らせてきたからだ。

でも最近は巷でも、デザインという言葉を広義に捉える人が増えてきているような気がする。昔からある「グラフィックデザイン」や「プロダクトデザイン」といった言葉に加え、「ソーシャルデザイン」や「グランドデザイン」といった新しい言葉が当然のように使われるようになってきた。

その流れでいけば、昨年10月に日本で発表されたメルセデス・ベンツの新型「Aクラス」は、インターフェイスデザインがトピックになっているクルマと言える。(内外装の)デザイン、走り、安全性といった、新型車の登場時に話題になりがちなポイントよりも、「MBUX」(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)と呼ばれる対話型インターフェイスが注目されているからだ。

新型「Aクラス」は内外装のデザインよりもインターフェイスのデザインの方に注目が集まっているクルマだ

MBUXとは何か。簡単に言ってしまえば、アマゾンの「Echo」やグーグルの「Google Home」のようなスマートスピーカーを、クルマに搭載したものである。これまでも、一部の車種ではカーナビやエアコンなどを音声で操作することができた。しかし、それらはステアリング上のボタンを押してAIにアクセスして、初めて音声コマンドを入力できるというものだった。音声だけでAIを起動できるクルマは、この新型Aクラスが初めてではないかと思う。

筆者は昨年2月にEchoを事務所に導入し、使用している。つまり、スマートスピーカーに慣れ親しんでいるユーザーの1人である。なので、MBUXについては興味津々だったのだが、実車に触れると考えさせられる部分が多かった。

筆者は事務所に入った瞬間にEchoを起動することが多い。片手にバッグを持ち、もう一方の手ではドアを開けながら、つまり、両手がふさがっていても、言葉を発するだけでニュースを聞いたり、音楽を鳴らしたりすることができるので便利だ。しかし、クルマの運転中は常にステアリングを握っている。AIを起動する場合には、ステアリングにスイッチがあれば良い。

MBUXは自動運転時代を想定したものだ、という主張があるかもしれない。しかし、現行法では、運転中にステアリングから手を離してはいけないというルールがある。自動運転がすでに実用化されているような誤解を与えるような言動は、安全面を考えれば慎むべきだろう。

「ハイ! メルセデス」と「アレクサ!」の違い

「ハイ! メルセデス」という起動ワードも気になった。実際は「ハイ!」や「ヘイ!」がなくても、単に「メルセデス」と発話するだけでAIが起動するのだが、それでも単語自体が長いし、発音しやすい言葉とは言い難い。

Echoで使われている起動ワードの「アレクサ」は、世界中の人にとって発音しやすい言葉とは何かを研究し、採用したものだと聞く。しかも、「アレックス」などの名前の人が使用することも考慮して、起動ワードを変更することが可能な仕様となっている。

先日発売となったBMWの新型「3シリーズ」にも、「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント」と呼ばれる音声操作システムが搭載されている。こちらの起動ワードはデフォルトで「OK! BMW」に設定されているが、後から変更することが可能だ。

インターフェイスデザインの観点でMBUXと比べると、使いやすいワードを研究して採用した点でアマゾンの方に分がある。音声による対応という観点で見ると、レベルは最近のボルボ車の方が上に感じた。

ただ、AI関連の技術は1年間で格段の進歩を遂げるという実感もあるので、使い込んでいくうちに、MBUXもレベルアップしていくのだろう。また、ドライバー以外の乗員にとっては、スイッチに手を伸ばしたり、ドライバーに操作をお願いしたりしなくても良いわけで、有用な装備と言えるのかもしれない。

新型Aクラスのインターフェイスの特徴はまだある。メーターパネルとセンターのディスプレイを一体化させ、横長でフラットな1枚のパネルに集約したことだ。試乗した日は雨だったこともあるが、この種のパネルで気になる外光の反射はうまく抑えてあって、常にクリアな視認性が得られた。

メーターパネルとセンターのディスプレイが一体化している

センターコンソールのタッチパッドは、右利きの人の使い勝手はどうなんだろうと思ったりしたが、筆者は左利きであり、大きな不満は抱かなかった。

新型「Aクラス」のセンターコンソール。四角く見える部分がタッチパッドになっている

続いて、目の前のステアリングから左右に生えるコラムレバーを見ると、トランスミッションのセレクターレバーであることを記した黄色いステッカーが貼ってあった。

近年のメルセデスは、セレクターレバーをセンターコンソールやインパネではなく、ステアリングコラムの右側から生やしている。この方式を採用しているのはメルセデスくらいだ。間違えやすいので、ステッカーを貼ったのだろう。

ステアリングコラムの右側に付いているセレクターレバー。黄色いステッカーでそれが何であるかを明示してあった

とりわけAクラスのセレクターレバーは、左側のウインカー/ワイパーレバーと同じように細く、スタイリッシュに仕立ててあるので誤解しやすいかもしれない。もちろん、乗り慣れれば問題はなくなるだろうが、注意書きが不要なインターフェイスデザインが理想だと思う人は多いはずだ。

基本性能の進化にも目を向けたい

このように、インターフェイスデザインについては語るところが多い(?)新型Aクラスだが、自動車本来のデザインやエンジニアリングの進化は着実だった。

エクステリアデザインは、他のメルセデスも採用しているエッジを効かせた顔つきや、キャラクターラインを控えめにして面で魅せるボディサイド以外は、旧型の人気が高かったためもあり、キープコンセプトでまとめている感じがした。

しかし実際は、全長が120mm、ホイールベースが30mm伸びており、室内や荷室が広くなっている。なのに、全体から受ける雰囲気はAクラスそのままというのは、デザインの工夫があってこそだろう。

走り出すと、今度はしっとりした乗り心地に感心した。試乗車のタイヤサイズが205/60R16と、近年の欧州車としてはおとなしかったおかげかもしれないけれど、先代初期型の荒っぽさが払拭されたのは大きな進歩と言える。

しっとりとした乗り心地には感心した

試乗した「A180」というグレードが搭載していたのは、メルセデスがルノーと共同開発した1.3L直列4気筒ターボエンジンだった。アクセルペダルを踏み込んで上まで回すとこもり音が気になったものの、1.3Lという数字から想像するよりも力はあり、回転はなめらか。7速デュアルクラッチトランスミッションのマナーもスムーズだ。

メルセデスとルノーが共同開発した1.3L直列4気筒ターボエンジン

もうひとつ気づいたのは、「スポーツモード」が最近のクルマとしては、かなり明確にアクセルやトランスミッションなどのキャラクターを変えることだ。このモードを選べば、Aクラスがカジュアルでスポーティな車種であることを多くの人が感じるはずだ。

運転支援システムはメルセデスの最上級セダン「Sクラス」と同等の操舵支援機能付きアダプティブクルーズコントロールを採用している。セットオプションで24万円という価格ではあるものの、車線変更までアシストしてくれるのはこのクラスでは異例と言える。動作のレベルも高かった。

先代より全長もホイールベースも伸びているので、室内は広くなった

クルマとしての基本性能は水準以上にある。なので、MBUXがそのポテンシャルに水を差していないかと気になったが、最近は話題性重視で買い物をする人が多いような気もするので、MBUXをメインに宣伝を行うメルセデスの手法は、マーケティング面では正しいのかもしれない。

ただ、形や色のあるものだけがデザインなのではなく、光や音もデザインの一部であり、使い勝手を高める上で、これらを工夫していくことも大切であることは、お伝えしておきたいポイントだと思っている。

「ミニ」とフィアット「500」がコンパクトなのに大人に見える理由

森口将之のカーデザイン解体新書 第13回

「ミニ」とフィアット「500」がコンパクトなのに大人に見える理由

2019.02.28

プレミアムコンパクトの両雄に見るデザイン戦略

勘所を押さえた引き算の美学

各所に盛り込まれたヘリテージ性が独特の存在感を生み出す

英国の「ミニ」とイタリアのフィアット「500」は、ともにレトロタッチのコンパクトカーとして根強い人気を誇る。なぜ、この2台は日本のコンパクトカーと違って見えるのだろうか。デザイン面から考えてみた。

「ミニ」(画像は「5ドア」)とフィアット「500」は独特の雰囲気を持つコンパクトカーだ

ミニが大人っぽく見えるワケ

今年は「大英帝国の小さな巨人」とかつて言われたコンパクトカー「ミニ」が誕生して60周年という記念すべき年だ。

ミニは1959年、当時のBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)が生み出したクルマだ。その後、メーカーが何度か再編されていく中でも生産が続き、現在はBMW傘下のブランドとなっている。

BMW製となって以降、ミニはプレミアムコンパクトへの転身を図り、その戦略は成功した。現在はオリジナルボディの「3ドア」のほか、「5ドア」および「コンバーチブル」、ひとまわりサイズの大きな「クロスオーバー」、ワゴンの「クラブマン」と、全部で5つのボディタイプを持つファミリーに成長している。

ミニ「クラブマン」

同じように、かつてのコンパクトカーがプレミアムコンパクトとして生まれ変わった輸入車というと、イタリアのフィアット「500」が思い浮かぶ。先代の500が生まれたのは1957年とミニの2年前。1977年に生産を終了するが、誕生50周年を迎えた2007年に復活を遂げた。

500にはオリジナルの3ドアのほか、カブリオレの「500C」、やや大柄な5ドアクロスオーバーの「500X」、さらに、わが国での販売はないが500Xと同等のサイズを持つワゴンの「500L」、これのリアを伸ばして3列シートとした「500Lワゴン」がある。

フィアット「500」

BMWプロデュースのミニがデビューした時、筆者は、1987年に日産自動車が当時の「マーチ」をベースに限定販売した「Be-1」を思い出した。丸いヘッドランプや台形のプロポーションなど、Be-1はクラシックミニを参考にしたようなデザインだったが、新生ミニはそのBe-1をモチーフとしたのではないかという気がした。

日産自動車「Be-1」

でも、ミニはBe-1より大人っぽく見えた。理由を今、自分なりに考えてみると、フロントグリルが落ち着きをプラスしていたこと、シックなボディカラーが用意されていたこと、そして、英国車というイメージが大人っぽさを感じさせたということ、この3つがポイントだったのではないかと思っている。

もちろん、クロームメッキのグリルはクラシックミニから継承したものだし、ブリティッシュグリーンをはじめとする渋いボディカラーも、クラシックミニに用意されていたものだ。

エメラルド・グレーのミニ「5ドア」

ついでに言えば、1950~60年代の英国車は華やかな色が少なく、ロンドンの空を思わせるような微妙なカラーが英国車らしさを表現していたとも思っている。それを見越したカラーバリエーションだったなら、さすがというほかない。

しかも、BMWプロデュースのミニは丸目の顔と台形フォルム以外にも、キャラクターラインを持たないボディサイド、縦長のリアコンビランプ、インテリアではインパネ中央の大きく丸いメーターなど、クラシックミニの特徴を継承している。

ミニ「3ドア」ジョンクーパーワークス(JCW)の内装
ミニ「3ドア」ジョンクーパーワークス(JCW)のリアコンビランプ

紛れもなく「500」に見せるデザインの技

クラシックのデザイン哲学に則ったクルマづくりを行っている点はフィアット500も同じだ。パワートレインを見れば、横置きフロントエンジン・前輪駆動というメカニズムを継承したミニに対し、500は先代の縦置きリアエンジン・後輪駆動から横置きフロントエンジン・前輪駆動へと180度以上の方向転換を遂げているが、真横から見たプロポーションに大きな変化はない。昔のフォルムを受け継ぐことに相当こだわったのだろう。素晴らしい仕事だと思う。

それだけではなく、現行500は小動物のような顔つきや、ミニに似た縦長のリアコンビランプ、ボディ同色のインパネなどに加え、正月に飾る鏡餅を思わせる上下2段のスタイリングも先代と同じテイストだ。だから、紛れもなく500に見える。

先代のスタイリングを受け継ぐフィアット「500」

細かく見れば、センターピラーを黒塗りとしているところなど、ミニと500にはクラシックと異なる箇所もけっこうある。でも、多くの人がミニであり、500であると認めるのは、オリジナルで目立つ部分はどこかを研究し、その部分だけを上手に取り込んだメリハリの付け方がなせるわざなのではないかと思っている。

それは、ミニと同じくBMWが開発した英国の超高級車「ロールス・ロイス」や、昨年日本でも復活したフランスの「アルピーヌ」などにも共通する考え方だ。エッセンスだけを取り入れて、あとはシンプルに仕上げている。

左が旧型、右が新型「アルピーヌ」

ミニのクロスオーバーやフィアットの500Xなど、オリジナルには存在しなかったボディを違和感なくラインナップに加えてしまえるのも、勘所を押さえたデザイン戦略があってこそだろう。作り手は、どこがミニらしく、どこが500らしいのかを熟知しているに違いない。

日本車と欧州車のカーデザインで異なるところの1つとして、前者には足し算のデザインが多く、後者には引き算のデザインが多いのではないかと考えている。もちろん例外はあるけれど、より具体的に言えば、日本車は欧州車よりも線が多い傾向があると感じる。

線だけではない。バンパーのインテーク(空気取り入れ口)にしても、インテリアの素材の使い分けにしても、日本車は演出が過ぎると思ってしまう車種が少なくない。やはり、心配性なのだろうか。万人に受け入れてもらおうと思うがゆえに、要素が多くなってしまうのかもしれない。ただ、演出が少ないクルマの方が、落ち着いて見えるのは事実である。

しかも、ミニと500のオリジナルが生まれたのは半世紀以上も前であり、長い歴史を生き抜いてきたブランドだという側面もある。作り手も、そのようなヘリテージ性を各所に盛り込んでいる。それが、単なる可愛らしいコンパクトカーでは終わらない、独特の立ち位置を生み出しているのではないだろうか。

長い歴史を感じさせるヘリテージ性もフィアット「500」の魅力だ

JCWとアバルトにも漂う落ち着き感

それは、2台をベースにしたスポーツモデル、ミニ「ジョンクーパーワークス」(JCW)とアバルト「595/695」についても言える。アバルト695は1.4Lターボから最高出力132kW(180ps)、ミニJCWは2Lターボから同170kW(231ps)を発生させるという高性能車であるが、エアロパーツやストライプ、アルミホイールなどの造形は控えめであり、乗り心地も荒くないので普段使いできる。

ミニ「3ドア」のジョンクーパーワークス(JCW)

以前聞いた話では、アバルト595/695はフィアット500の上級版として購入するユーザーも多いという。ミニJCWもそうだろう。良し悪しは別として、メルセデス・ベンツのAMGのような買い方をする人が多くなっているのだ。

確かに、ミニJCWやアバルト595/695は、高い性能のみならず、そういったユーザーをも満足させるような上質な雰囲気を備えている。高価な値付けに見合う内容なのだ。高性能版というと、リアに巨大なウイングを装着しがちな一部の日本車とは、目指す方向が全く違うことが分かる。

アバルト「695C Rivale」

ミニも500もプレミアムコンパクトという位置付けなので、コンパクトカーではあるが若者向けには仕立てていない。いわば小さな高級車であり、ユーザーの年齢層もそれなりに高いことが想像できる。

自分を含め、そのあたりの年齢のユーザーには、若返りたいという気持ちはあるけれど、若者向けのモノと付き合いたいわけではないという人が多いのではないだろうか。ミニと500に共通する、可愛らしい顔つきと大人っぽい仕立てを両立した姿からは、私たちの嗜好を熟知した作り手の洗練された手腕が見てとれる。