森口将之のカーデザイン解体新書

なぜヒストリックカーのカタチは魅力的なのか

森口将之のカーデザイン解体新書 第3回

なぜヒストリックカーのカタチは魅力的なのか

2018.09.19

人々を惹きつける昔のクルマ、そのカタチが生まれた理由を探る

駆動方式、安全対策、環境性能…クルマのカタチを決める要素とは

「ケンメリ」で考えるクルマの魅力、デザインの魅力

昔のクルマは、どうしてこんなに魅力的なカタチをしているのか。ヒストリックカーのイベントに足を運んだ人の多くは、こういう感想を抱いていることだろう。今回は、取材で国内外のヒストリックカーに接してきた経験を通して、この難しいテーマについて考えてみたい。

なぜ昔のクルマのカタチは人を惹きつけるのか。本稿では魅力的なヒストリックカーの画像を紹介しつつ、このテーマについて考えていきたい(画像はトヨタ自動車「2000GT」、2018年2月の「第10回 Nostalgic 2days」で編集部撮影)

昔のクルマは駆動方式が千差万別

前回の記事で紹介した「AUTOMOBILE COUNCIL」(オートモビル カウンシル)をはじめ、ヒストリックカーのイベントに足を運んだ人の多くはクルマのカタチ、つまりデザインを見に来ているはずだ。動かないし乗れないクルマを展示するイベントに、多くの人が相応の入場料を支払って入場しているのだから、魅力の源泉がデザインにあることは間違いない。

いすゞ自動車「117クーペ」(「第10回 Nostalgic 2days」で編集部撮影)

なぜ、ヒストリックカーのデザインは魅力的なのか。さまざまなヒストリックカーに実際に接してきた人間のひとりとして言及しておきたいのは、それらのクルマが個性を出しやすい状況で生まれたという点だ。

まずは技術面。ヒストリックカーが現役だった頃、現在の小型車の主役である前輪駆動(FF)のクルマは少なかった。同じ前輪で駆動と操舵の双方をまかなうには、エンジンの力をタイヤに伝えるドライブシャフトの途中に、首を振るためのジョイントを用意しなければならない。このジョイントのスムーズな動きを出すのに、各社が苦労した。

日産自動車「ダットサン フェアレディ」(「第10回 Nostalgic 2days」で編集部撮影)

ゆえに、現在も大型セダンには見られるFR、つまりフロントエンジン・リアドライブを使い続けていた小型車は多かったし、いまでは希少なものという扱いを受けているRR(リアエンジン・リアドライブ)を使うクルマもけっこうあった。

日本もそうで、例えば1960年代の軽自動車では、RRの「スバル360」、FRのダイハツ工業「フェロー」や三菱自動車工業「ミニカ」、FFの本田技研工業「N360」などが同時に販売されていた。

「スバル360」(2017年の「AUTOMOBILE COUNCIL」で編集部撮影)。愛称は“てんとう虫”

途中のモデルチェンジでFFからRRに切り替わったスズキ「フロンテ」のようなクルマもあったし、日産自動車は同じクラスのFF「チェリー」とFR「サニー」を同時に販売していた。

日産「チェリー」(神奈川県座間市の日産ヘリテージコレクションで編集部撮影)

エンジンの置き方も、今と昔では事情が異なる。現在は大部分の前輪駆動車が採用する横置きエンジンは、左右のドライブシャフトの長さが異なることから、アクセルを踏むとハンドルが左右に取られてしまうことがあった。これを嫌って当時の前輪駆動車には、エンジンを縦置きとしたクルマも多かった。

クルマを横から見たときのプロポーションは、エンジンがどの位置に、どの向きで置かれるかで大きく変わってくる。昔のクルマはこのエンジンの積み方が、同じクラスでも千差万別だった。スタイリングに多様性があったのは当然だ。

トヨタ「スポーツ800」(「第10回 Nostalgic 2days」で編集部撮影)

制約の少なさが自由なカタチを生んだ

しかも安全対策や環境対策は、今ほど進化していなかった。

交通事故による死者が増えたことを受け、国や地域ごとに衝突安全の基準が定まるとともに、「JNCAP」(自動車事故対策機構が行う自動車の安全性評価)など、公的機関もクルマの安全性に関するテストを実施するようになったのが、この間の経緯だ。こうしたテストで良い成績を収める車種が登場すると、他社は構造や技術を参考にして、同様の特徴を備えた車両を開発するようになる。こうして、カタチが似たクルマが増えていった。

環境対策でデザインに影響を与える要素として挙げられるのが空力だ。こちらは、「Cd値」(空気抵抗係数)という数字で優劣が表される。空力性能は高速走行時の安定性向上にも寄与するが、近年は走行抵抗低減による燃費・環境性能向上にも注目が集まる。あるクルマが優れた空力を実現すると、似たようなフォルムの車種が出てくるのは安全対策と同じ流れ。これは、F1などレースの世界にもいえることだ。

ジャガー「Eタイプ」(「第10回 Nostalgic 2days」で編集部撮影)。電気自動車「E-TYPE ZERO」として復活することが先頃、決定した

裏を返せば、こうした対策が重視されていなかった1970年代初めまでは、メーカーが作りたいカタチをストレートに作りやすかった。もちろん、安全性能や環境性能は高いほうが望ましいけれど、それによって失われたものもあるわけだ。

こうした対策は、車体の大型化をもたらした。1970年代初めは、ほとんどの日本車が全幅1.7m未満、つまり5ナンバー幅に収まっていたが、今は全幅1.8m以上のクルマが多い。1度のモデルチェンジで一気に大型化したわけではないが、徐々に成長していったのだ。しかも、室内空間はモデルチェンジごとに大きくすることが求められたので、クルマの大型化はそれを実践した結果でもあった。

スバル「レオーネ」(「第10回 Nostalgic 2days」で編集部撮影)

さらに、自動車業界の競争が激しくなり、さまざまな国や地域に合わせたクルマを作る必要性が高まったことも、カーデザインが似てきたという声が多くなっている理由のひとつだと思っている。

昔は多くの日本車が、日本市場だけを相手にしていた。欧州のデザイナーを起用したり、同じ時代の米国車を思わせるスタイリングを導入したりしていたが、その目的は輸出ではなく、我が国のユーザーに対し、欧米の最新トレンドのカーデザインを提供することだったのだ。

ランボルギーニ「カウンタック」(2017年の「AUTOMOBILE COUNCIL」で編集部撮影)

文化が育んだ“ケンメリ”の人気

日産自動車を例にとると、1960年代の「ブルーバード」や「セドリック」はイタリアの名門デザインスタジオ「ピニンファリーナ」が手掛けていたが、1970年代になると一転して、「スカイライン」や「バイオレット」などに、当時の米国車を思わせるフォルムを採用した。

テレビCMに「ケン」と「メリー」という男女が出演していたことから、“ケンメリ”という愛称で親しまれた当時のスカイラインについて、一部の自動車雑誌は装飾過多で後方視界が悪いなどと酷評していた。走りの面でも、排出ガス規制が始まったばかりだったので、レースで活躍した「GT-R」がすぐに生産中止となるなど、性能は期待できなかった。

“ケンメリ”こと日産の4代目スカイライン「C110型」(日産ヘリテージコレクションで編集部撮影)

しかし、歴代スカイラインで最も販売台数を稼いだのはこのケンメリである。高度経済成長時代を過ごした若者のハートを、デザインとプロモーションで掴んだ結果だった。伝統的な自動車評価を超えたところで人気を博したのだ。

歴代スカイラインで最も売れたのがこの“ケンメリ”だ(日産ヘリテージコレクションで編集部撮影)

現在、5ナンバーの枠内で、このようにカッコ重視のスタイリングを実現するのは難しいだろう。だからこそ、個性あふれる1台として今も評価することができるし、デザインを通じて、ケンとメリーのCMが流れていた頃を思い出したりもできる。当時の世相も反映したデザインであるからこそ、いまなお評価されているのかもしれない。

現代のクルマには、いろんな意味で真似できない個性あふれるデザインだ(日産ヘリテージコレクションで編集部撮影)

万人に好まれるのは、現在のスカイラインなのだろう。しかし、日本文化を反映したクルマという点では、ヒストリックモデルに軍配が上がりそうだ。

ちなみに、10代目「R34型」までは事実上、日本専用車として国内市場で存在感を示してきたスカイラインだが、日産がルノーとアライアンスを組んで以降、国外では日産の上級ブランド「インフィニティ」で販売されるようになった。

スカイラインは今や、グローバルカーへの転身をとげた(画像は“ケンメリ”、日産ヘリテージコレクションで編集部撮影)

カーデザイン史として考えれば、年を経るにつれて設計に盛り込むべき要件が増え、内容が複雑になっていったことが分かる。デザインにおける自由度が少しずつ狭まっていったことは否めないだろう。逆にいえば、ヒストリックカーのデザインは、作り手の思いがストレートにカタチに現れていた。だからこそ、多くのクルマ好きの心を掴んでいるのではないかと考えている。

関連イベントも増加中…日本にヒストリックカー文化は根付くのか

森口将之のカーデザイン解体新書 第2回

関連イベントも増加中…日本にヒストリックカー文化は根付くのか

2018.09.12

日本で充実してきたヒストリックカーイベント

「AUTOMOBILE COUNCIL」に集った世界の名車たち

「クルマは文化」の欧米、日本の現在地は?

自動車の電動化や自動化が進もうとしている中で、それとは対極にある旧いクルマ、いわゆる「ヒストリックカー」に注目が集まっており、イベントも増えている。クルマのデザイン史を振り返る意味でも貴重な機会なので、こういったイベントが充実してきたのは好ましい流れだ。今回は、これらのイベントの中から、8月に行われた「AUTOMOBILE COUNCIL 2018」(オートモビル カウンシル 2018)を取り上げつつ、日本のヒストリックカーシーンの今を考えてみたい。

2018年8月に千葉県の幕張メッセで開催された「AUTOMOBILE COUNCIL 2018」。今回の記事では、会場に集った名車たちを画像で紹介していく

自動車を文化として認識する欧米、日本の現状は?

新車と同じように、ヒストリックカーの世界にもイベントがある。大きく分けてアウトドア系とインドア系があり、アウトドア系は展示がメインのものと、サーキットや公道の走行がメインのイベントがある。

例えばイタリアには、いずれも第2次世界大戦前からの伝統を持つ公道走行イベントの「ミッレミリア」と、展示をメインとする「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」がある。米国では毎年8月、カリフォルニア州において、ラグナ・セカ・サーキットを使った「モンテレー・モータースポーツ・リユニオン」と、ゴルフ場を会場とする「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」が開かれる。

フォード「サンダーバード」

コンクール・デレガンスとは「美の審査会」という意味のフランス語で、イタリア語ではコンコルソ・デレガンツァになる。車両のデザインやヒストリーだけでなく、現在のコンディションやオリジナリティまで厳しくジャッジされるのが特徴だ。ちなみに、今年の「ぺブルビーチ・コンクール・デレガンス」では、アルファロメオの「8C 2900B」というクルマが最優秀賞に輝いた。

一方、インドア系ヒストリックカー・イベントで有名なのは、毎年冬にフランスで行われる「レトロモビル」だろう。会場はパリのモーターショーと同じで、自動車メーカーや専門ショップ、オーナーズクラブによる車両展示のほか、オークションも実施され、実車だけでなく部品や書籍、ミニカー、絵画などを販売するコーナーもある。

フェラーリ「ディーノ」

筆者も、このレトロモビルを何度か訪ねたことがある。日本では見ることができないヒストリックカーやその部品、あふれんばかりのミニカーなどが所狭しと並んでいて、自動車を文化として捉えていることを思い知らされた。

日産「スカイライン ハードトップ 2000GT-R」(通称:ハコスカ)

ちなみに、旧いクルマを指す言葉としては、ヒストリックカー以外に「クラシックカー」「ヴィンテージカー」「ヘリテージカー」などの言葉もあり、日本語で旧車と呼ぶことも多い。

このうち、全体を総称するのがクラシックカーで、第2次大戦前に生まれたものをヴィンテージカー、戦後1970年代ぐらいまでに作られたものをヒストリックカーと呼び分けることもある。筆者はヒストリックカーを使うことにする。ちなみに、1980年代以降に登場した価値あるクルマについては、「ネオヒストリック」「ネオクラシック」という言葉を使うこともある。

テーマは「クラシック・ミーツ・モダン」

欧米に比べると日本は、ヒストリックカーの文化が根付いていないといわれる。20世紀初めからクルマとの生活を始めていた欧米と、1960年代になってそのような時代が訪れた日本とで、時間差が生じるのは仕方がないだろう。

スバル「レオーネ 4WD エステートバン」

それでも、日本クラシックカー協会は1970年代から東京都内で「ニューイヤーミーティング」を続けているし、富士スピードウェイや筑波サーキットといったサーキットでレースイベントを行ったりもしている。さらに最近になって、インドア系、アウトドア系を問わずイベントがかなり増えてきた。

中でも、今年で3回目と歴史は浅いものの、高い評価を受けているイベントがある。千葉県の幕張メッセで毎年8月に行われる「AUTOMOBILE COUNCIL」だ。「クラシック・ミーツ・モダン」をコンセプトに掲げ、自動車メーカー、外国車のインポーター、専門ショップ、オーナーズクラブなどが、さまざまな出展を行う。今年は3日間で3万人を超える来場者が詰め掛けた。

ホンダ「S600」

メーカーとインポーターでは、スバル、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ、アストンマーティンが参加した。この中でまず目を惹いたのがマツダだ。

マツダ「ランティス タイプR」

マツダはクルマのみならず、ディーラーからモーターショーの展示に至るまで独自のデザインポリシーを貫いており、多くのクルマ好きから支持を受けている。その精神がAUTOMOBILE COUNCILにも反映されていた。

さらに、今年の展示では「コンパクトハッチバック」をテーマとし、1980年代に一世を風靡した赤いボディの5代目「ファミリア」と、筆者も以前、記事で紹介した「マツダ 魁 CONCEPT」(マツダ カイ コンセプト、2017年の東京モーターショーに初出展)が並んで展示されていた。

マツダ「ファミリア」

おそらくマツダは、ファミリアから現在の「アクセラ」、そして次期アクセラのプロトタイプと噂される「魁 CONCEPT」に至る結びつきをアピールしたかったのだろう。まさにクラシック・ミーツ・モダンである。

「マツダ 魁 CONCEPT」

自動車を作って売ることが本業とされてきたメーカーにとって、販売が終わったヒストリックカーは収益面でうまみの少ない存在かもしれない。しかし、ブランドとして考えれば、長く輝かしい歴史を多くの人に伝えることは大切だ。その点で、ヒストリックカーを見せることはメーカーにとっても価値あることと私は考えている。

メーカーの垣根を越えた展示も

興味深かったのはトヨタのブースだ。こちらは「元気!!ニッポン1960s!」をテーマとして、レーシングカーの「トヨタ7」、速度記録に挑戦したスポーツカー「2000GT」などをディスプレイしていたのだが、その中になぜか日産の「セドリック」も置かれていた。

トヨタ「2000GT」(レプリカ)

トヨタはイベントの直前に「クラウン」をモデルチェンジして発売したばかり。なのに、長年ライバル関係にあったセドリックを持ってきたのはどうしてか。前回の東京オリンピックで聖火を輸送したセドリックの起用に、時節柄を踏まえた判断があることは間違いないのだが、こういった展示からは、日本の自動車文化をメーカーごとに分けず、一体のものとして捉えようとするトヨタの思いも伝わってくる。

これ以外では、筆者も日本上陸の模様をお伝えしたフランスのスポーツカー、アルピーヌ「A110」が新旧そろい踏みで主催者展示された。A110の一般公開は、日本ではこの会場が初めてということで注目を集めていた。40年の時を経ても変わらぬ精神を多くの参加者が感じたことだろう。

アルピーヌの新旧「A110」

ロールス・ロイスとベントレーの展示・販売・整備を行う埼玉県のワクイミュージアムが展示した「ラ・サルト」の存在感も印象的だった。

ル・マン24時間レースが行われるサーキット「サルト」の名を冠するこのクルマは、「もし1950年代のベントレーがスポーツカーを作っていたら?」というコンセプトで、同時代のベントレーのセダンをベースとし、英国の専門ショップが24台限定で生産したもの。大人の遊びという表現がふさわしいこのラ・サルトの日本初公開に、AUTOMOBILE COUNCILがもっとも相応しい会場だったという声が多くの関係者から聞かれたし、筆者もそう思った。

ジャガー「デイムラー・ソブリン」

とにかく、AUTOMOBILE COUNCILの会場は大人っぽい。コンパニオンはおらず、派手な照明や賑やかな音楽もない。落ち着いた雰囲気の中で名車をゆったり堪能することができる。美術館を思わせる場だったのである。

この面では、似たようなコンセプトのレトロモビルより上ではないかと思ったほどだ。日本のヒストリックカー文化が少しずつ大人に成長しつつあることを、このイベントを通して実感した。

ホンダの初代「レジェンド」
トヨタの3代目「コロナ」(RT40型)
スバルの初代「フォレスター」
GM「シボレー・コルベット スティングレー」
マセラティ「ギブリSS」
GM「ポンティアック・ファイヤーバード・トランザム」
ポルシェ「356 スピードスター」
BMW「3.0CSA」
ランドローバー「ディフェンダー」
アルファロメオ「ジュリア 1300TI」
シトロエン「DS Familiale」
三菱自動車工業「コルトギャラン」
いすゞ自動車「べレット 1500 デラックス」
日野自動車「コンテッサ 1300クーペ」
ダイハツ工業「コンパーノ スパイダー」
ジムニー、トコット、センチュリー…四角いクルマが増える理由

森口将之のカーデザイン解体新書 第1回

ジムニー、トコット、センチュリー…四角いクルマが増える理由

2018.08.31

モビリティジャーナリスト・森口将之さんの新連載

第1回は日本車に角ばったデザインが増えている背景について

注目の3台、四角い理由は三者三様?

「センチュリー」「ミラ トコット」「ジムニー」。最近デビューした日本車は、角ばったボディの持ち主が多い。しかも3台ともに注目を集めている。なぜ四角いクルマが次々に出てきて、どれもスポットが当たっているのか。四角さの理由を探っていくと、たどり着いたのは「日本文化」だった。

最近の日本車に四角いクルマが目立つ理由とは(画像はスズキ「ジムニーシエラ」)

馬車と駕籠の時代から続く伝統?

ここ最近発表された日本車に、四角いデザインが多いことに皆さんは気づいているかもしれない。具体的には、6月に21年ぶりのモデルチェンジを果たしたトヨタ自動車の最高級車「センチュリー」、同じ月に登場したダイハツ工業の新型軽自動車「ミラ トコット」、そして、20年ぶりとなるモデルチェンジを発表したばかりのスズキ「ジムニー」および「ジムニーシエラ」の3台だ。

しかも、3台ともに注目を集めている。センチュリーは限られたユーザーのためのクルマだが、昨年の東京モーターショーに参考出展されたときから話題になっていたし、ジムニーは現時点で注文しても納車まで半年待ちといわれる。ミラ トコットは発売から1カ月で月販目標台数の3倍となる約9,000台を受注した。

トヨタ「センチュリー」(画像提供:トヨタ自動車)

なぜ四角いクルマに好感を持つ人が多いのか。理由の1つに、丸いクルマが増えたことへの反動があるのは確実だろう。

欧州車にはダイナミックな造形が多い

自動車づくりの先輩である欧州や米国は、乗用車については動物に例えることが多く、前後のフェンダーを盛り上げたりして、抑揚の強いダイナミックなデザインを取り入れがちだ。確かにクルマも疾走する物体であるから、こうしたイメージには納得できる。

日本の乗用車は、欧米のカーデザインを参考にしながら進化してきた。海外での販売が重要になっている車種も多い。グローバルな嗜好を盛り込むことは大切だ。こうして日本車も、多くの車種が欧米と同じようにダイナミックなフォルムをまとうようになった。

欧米を参考にしたダイナミックなデザインとは対照的な、直線と角が特徴のデザインを採用したダイハツ「ミラ トコット」

しかしながら、多くの人が長い間、木造住宅で暮らしてきた日本人は、欧米人より水平・垂直のデザインに親しみを持つ人が多いような気もする。

そもそも乗り物がそうだった。今から200年ほど前、欧州の人たちが移動に馬車を使っていた頃、日本では人間が担ぐ駕籠(かご)が主役だった。両者のデザインを比べると、フェンダーなどに優雅なカーブを取り入れていた馬車に対し、駕籠は担ぎ棒を含めて直線と平面で構成されたものが多かった。

日本の風土が生み出した四角いクルマ

日本市場はこれまでも、欧米と比べて四角い乗用車が多かった。特にミニバンでは、かつては背が低く流麗なスタイリングの車種も人気があったが、現在の主役はトヨタ「アルファード」や日産自動車「セレナ」など、背が高い箱型の車種だ。軽自動車のハイトワゴンにも同じようなことがいえる。

トヨタ「アルファード」(画像提供:トヨタ自動車)

欧米に比べ日本では、自動車で移動する距離が短い。しかも、“ウサギ小屋”と称されるように狭い家に住む人が多い。道路も狭い。これが、乗り降りしやすく、車内が広々としていて、車体の見切りがしやすい箱型のミニバンなどを求める気持ちにつながったのではないだろうか。

しかも我が国は、欧州と比べて平均速度が低いから、高速域での空気抵抗を重視する必要性も相対的に高くないので、低く滑らかなスタイリングにこだわる必要もない。こうして考えてくると、四角いクルマは日本の風土が生み出した文化的な特徴ではないか、と思えてくる。

センチュリーに盛り込まれた「几帳面」な造形

しかし、センチュリー、ミラ トコット、ジムニー(ジムニーシエラを含む)の3台が四角いボディを採用した理由は、ほかにもありそうだ。

センチュリーのモデルチェンジを一言でいえば、“継承”だ。顔つき、横からの眺め、後ろ姿と、どこから見てもセンチュリー以外の何物でもない。多くの日本車が、移り気な日本人の気持ちを反映するように、モデルチェンジのたびに形を変えたがるところを見てきているだけに、センチュリーのブレない造形は尊敬に値する。

この見た目、「センチュリー」以外の何物でもない(画像提供:トヨタ自動車)

それでいて、細部には新しいディテールを盛り込んでいる。例えばボディサイドのキャラクターラインを見ると、ショルダー部のキャラクターラインには並んで走る2本の線を“角”として研ぎ出し、その隙間の面を1本の線として際立たせることで高い格調を与えている。これには、平安時代の屏障具(へいしょうぐ)の柱にあしらわれた面処理の技法を採用した。

この技法、実は「几帳面」と呼ばれる。我々が日頃、何げなく使う几帳面という言葉の語源はここにあったのだ。

この几帳面なボディサイドに注目だ(画像提供:トヨタ自動車)

トコットの四角さは「エフォートレス」のため

一方のミラ トコットは、新型車なので継承する伝統はない。では、角に丸みを入れたスクエアなフォルムの理由は何かというと「エフォートレス」、つまり、肩ひじ張らないクルマを目指して、女性社員のチームが開発したのだという。確かに、クルマに速さや勢いを求める気持ちは、男性の方が強そうだ。

でも実車を見ると、男性を含めて幅広いユーザーに受け入れられそうな、シンプルかつニュートラルなスタイリングだと思った。多くのクルマがダイナミック方向に向いているからこそ、個性的に映る。

ちなみに、ミラ トコットにはベーシックな仕様のほか、サイドシル(ドアの下側にあるフレーム)を白で塗装したり、グリルやドアにクロームメッキのモールを入れたりした、アナザースタイルパッケージの用意もある。これらは、ベースモデルがシンプルすぎて不安に思った男性社員が追加したものだというが、個人的にはベースモデルのほうがコンセプトを体現しており、好感を抱いた。

これは「スイートスタイル」というアナザースタイルパッケージだ

ジムニーの四角さは「ハスラー」あってこそ

最後に紹介するジムニーの場合は、チーフエンジニアに聞いたところ、「ハスラー」の登場が大きいと語っていた。ハスラーのほか、「イグニス」や「クロスビー」といった商品も持つスズキでは、SUVのラインアップの中で役割分担ができるようになり、ジムニーのデザインも2代目のような機能重視に戻したという。

最近まで販売していた3代目ジムニーは逆に、角を丸めたフォルムにボディ同色バンパーを備え、乗用車に近づけたような装いだったことを覚えている読者もいるだろう。3代目がデビューした20年前は、舗装路重視の乗用車的なSUVが増えはじめ、流行する兆しがあった。ジムニーも時代に乗り遅れまいと、このようなデザインに転換したのかもしれない。

上は「ハスラー」、下は3代目「ジムニー」(画像提供:スズキ)

しかし、それから20年が経過して、前述の兆しは現実になり、さまざまなブランドが乗用車的なSUVを送り出した。むしろ今では、四角いほうが個性的だし、ヘビーデューティSUVらしく見える。こうした読みも入っているかもしれない。

乗って感じた四角の恩恵

筆者は最近、これらの四角いクルマ3台に相次いで乗ることができた。実車を前にして感じたのは、どれも真横から見たプロポーションのバランスが取れていることだ。3台のデザインが練りこまれたものであることが分かった。

走り出すと、取り回しのしやすさに感心する。ミラ トコットはもちろん、全長5,335mm、全幅1,930mmという巨体のセンチュリーでさえそう思うのだから、スクエアなデザインが、いかに車体の見切りに効いているかが分かるだろう。ジムニーの四角さは、木や岩を避けながら進むオフロードコースでありがたかった。

前にも書いたように、四角いクルマは日本独自の文化から生まれたカタチだと考えている。欧米のダイナミック路線に影響されることなく、これを日本らしさとしてグローバルに打ち出しても良いのではないかと思う。