日本には手頃なスポーツカーが必要だ! 安東弘樹、マツダで語る

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第6回

日本には手頃なスポーツカーが必要だ! 安東弘樹、マツダで語る

2018.10.03

マツダで古いクルマの楽しみ方について聞く安東さん

ロードスターにはポルシェにも勝る“人馬一体感”がある?

若者のクルマ離れを止めるのはスポーツカーだ!

初代「ロードスター」(NA型とも呼ぶ)のレストア事業を始めたマツダを訪ね、同事業を担当する梅下隆一執行役員と話をする安東さん。長く愛される“NA”を元通りに蘇らせようとするマツダの心意気には感銘を受けた様子で、自身も「NAに乗らなかったことを後悔している」という、その思いを語り始めた。

対談する安東さんとマツダ執行役員 カスタマーサービス担当 ブランド推進・グローバルマーケティング担当補佐の梅下隆一さん(対談風景の撮影:安藤康之)

「ロードスター」が「ポルシェ」を超えているところ

安東さん(以下、安):先日、「愛車遍歴」という番組(BS日テレで放送中の「おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR,NO LIFE!」のこと)の収録がありまして、歴代の和製オープンカーの特集だったんですけど、何に感動したかというと、「NA」を大事に乗っている20代後半の方に、そのクルマを借りて運転したんですよ。もう、「なぜ、俺は今まで乗らなかったのか! 所有しなかったのか!」と思うくらい楽しくて。

「人馬一体」は皆が使う言葉だし、NAでは特に代名詞になってますけど、「ケイマン」なり「ボクスター」なり、「911」(いずれもポルシェ)なり、「とはいえ人馬一体って、ほかにもあるんじゃないの?」と思ってたんですよ。だけど、“人馬一体感”の次元が違ったんですよね。「これか、皆がいってたのは!」っていうくらいで。手の中に収まるようなパワーユニットの出力であったり、シフトフィールであったり。

なぜポルシェに乗るかというと、ポルシェが好きというよりも、あのシフトフィールがよかったんですよ、やっぱり“シフトフィールフェチ”なんで。あの「カチッ」と入る感じ。なので、僕が今乗っている「997の後期型」(安東さんの愛車であるポルシェ 911 カレラ 4Sのこと)が一番だと思って買って、今だに一番なのは揺るがないんですけど、でも、NAに乗ったとき……なんていったらいいのかな、いい意味での敷居の低さというか。やっぱり、確かにシフトの剛性とかで比べればポルシェの方がはるかに高いんですけど、でも、カジュアルにクルマとの一体感を味わえるという意味では、その“一体感レベル”でいえば、NAの方が上に感じたんですよ。

安東さんがカジュアルにクルマとの一体感を味わえると評する初代「ロードスター」(画像提供:マツダ)

安:彼(借りたNAの持ち主)は中古で買っただけといってたんで、前のオーナーがどういう風に乗ってきたかは分からないんですけど、30年前のクルマで、これだけカジュアルな一体感を味わえるということに、目からウロコというか、感動して。逆にいうと悔しいのが、なぜ今、このクルマがないのかと。どのメーカーにもないじゃないですか。御社にすらない。なぜ、ないんだって。こんなクルマを日本のメーカーは作れていたのに。

真面目に、程度のいいNAを買ってきて、500万円かけてレストアしようかなと本気で思ったくらいで、もうちょっとお金が儲かったら頑張ろうかなとは思っているんですけど(笑)、それくらい欲しいと思う、乗らなかったことを後悔するくらいのクルマだったので。

復活の「ロードスター」に世界で最も乗りにくい国とは?

安:日本は税制もね、古いクルマは高くなる。そういうのは論外だと思っていて。本当に、ヨーロッパとは反対のロジックで、なんでこうなっているんだろうと。メーカーの方は、どんな思いなんですか? だって、メーカーとしては、どんどん新しいクルマに買い換えてもらえると、潤うという話もあるじゃないですか。これについて、レストアまでやり始めたマツダはどう思っているのか、純粋に伺いたいです。

梅下さん(以下、梅):それは、間違っているとか間違っていないとかではなく、これは日本の社会とか、経済が歩んできた道そのものなので、その中での規制の部分とか、法制の部分だけを抜き出してどうこういっても、しょうがないのかなという気はします。

でも一方で、せっかく僕らは一歩を踏み出したので(ロードスターのレストアに乗り出したので)、将来的には、マツダもどんどんやっていくし、お客様も少しずつ増えるし、という状態になって、やっぱり色んな人に認めてもらいたいというのはあります。日本にも、こんな素敵な文化があるよねと。日本にとって自動車というのは、振り返ってみても素敵なものだったよねといってもらえる状態が理想です。

マツダがレストアを続けていって、昔のクルマを楽しもうという顧客も増えれば、こういった文化を取り巻く日本の環境も変わるかもしれないと梅下さんは考える

安:世界中に愛好者もいますしね。

梅:そうなったら、何かが変わるかもしれないし。何もない中で、「よそ(欧州などの他国)はやっているから日本もやれよ」というより、僕らとしては、世の中にアピールして、お客様が沢山いますよ、僕らもやりますよという本気を見せて、それで何かが変わればいいと思っています。鶏と卵ですけど。

安:そうですよね。ただ、たぶん世界で一番、NAロードスターを維持するのが難しいのは日本であることは間違いないですよね……

梅:それはそうかもしれませんね。古いクルマを持とうと思うと、日本はハードルが高い。アメリカなんか、行って見ているとうらやましいくらいハードルが低い。

安:庭先に「SELL」と書いてクルマを置いておくと、「これください!」と買っていく人がいる。後で書類1枚を提出すれば個人売買成立。日本は、リバイバルしたクルマは基本的に、車検の頻度も高まりますし。そこは結構、大変ですよね。

梅:でも、それだけじゃなくて、例えばアメリカを羨ましいと思うのは、そもそも土地が安いから、家がでかい。ちょっとした家だと、ガレージに必ず2~3台は停まってる。タイヤなしのクルマを裏庭なんかに置いておけますもんね。

安:ニューヨークとかじゃなければね。

梅:日本の社会や、いろんな仕組みを含め、ハードルは高いですよね。

アメリカをうらやましがる2人

若い人が買える、安くて格好いいクルマはあるか

安:うーん、税金もそうですし、クルマの値段そのものも上がってますし。でも、若い人に興味を持ってもらわないと、将来がないじゃないですか。彼(NAの持ち主)が20代で、ロードスターに乗っているのは嬉しいんですけど、せっかくいいクルマに出会えているのに、車検だとか負担も多いわけで……。そんな中でも、クルマを何百万円もかけて直すという取り組みが、もうちょっと広がればいいと思うし、マツダが純粋な思いでやっていることって、本当にありがたい話。

梅:温かい目で見守っていただければ(笑)

安:NAが出たのって、大学生の頃だったんですよ。何人か乗ってました。今、一番、若い人に必要なのは、安いけど憧れるっていうクルマじゃないですかね? 「スイフト スポーツ」(スズキの小型車)あたりが近いのかもしれないですけど。高くないけど憧れるクルマが必要だと思っていて。

「スイフト スポーツ」(画像提供:スズキ)

安:僕が最初に乗ったのが“ブルドッグ”って呼ばれてた「シティ ターボⅡ」(本田技研工業)というクルマで、もちろん中古で買ったんですけど、あのクルマだったら、どこに出しても惨めな思いはしなかったんですよ。オーバーフェンダーがあって(タイヤを覆う部分が張り出した感じになっている)、メルセデスの隣でも「俺のクルマの方がいい」みたいな感じで。中古で60万円だったんですけど。

安東さんが初めて買ったクルマ「シティ ターボⅡ」(画像提供:本田技研工業)

安:NAロードスターって、もちろん、そこまで安いクルマではないですけど、大学生が例えば、親に頭金だけ借金して、ローンをバイト代で払えば買えるクルマで、憧れるクルマだったわけじゃないですか。それにNAなんか、純粋に格好いいじゃないですか、リトラクタブルライトで。

梅:格好いいですよね。

点灯すると現れるリトラクタブルヘッドライトも特徴(画像提供:マツダ)

安:格好いいのに庶民が、大学生が無理をすれば買えるクルマで、それの先駆けだし、最後という感じもしてるんですよ。そこが一番、今、足りない部分かなと思うんです。

梅:まだまだ努力が足りないのかなと思いながら聞いていたのですが、現行のロードスター(4代目、いわゆるND型)って、下は二百数十万円から始まってますよ、今でも。それが今の若者にとって、本当にアフォーダブルかというと、100%の自信はないのですが、あのクルマは、そういう意味では、めいっぱい頑張った価格にはなってるんです。もちろん、目の肥えた人にも買ってもらえるグレードも用意しながら、だけど下は、ちょっと“素”なんですけど、若い人にも買って欲しいという気持ちを込めて作っている。初代のスピリットを持ちながら作ったクルマではあるのです。

安:もちろん。NDはデザインも格好いいですしね。

梅:まあ、今のお話をうかがっていると、もっと頑張れといわれているのかなという気もするんですけどね。

現行型の4代目「ロードスター」(ND型)。安東さんも格好いいデザインだと評価する(画像提供:マツダ)

安:NAが出た当時でいうと、今より100万円までは安くないですけど、60万円くらいは安かったですよね? その時はバブル真っ只中で、単純に比較はできないですけど。若い人にNDを頑張って買って欲しいなという思いもあるんですけど、親が今、不景気ということもあるし。

梅:それはもちろん。ただ、おっしゃるように、NDがどうこうというだけではなく、若者がクルマを買ってくれない、あるいは買えないのは、「これ欲しい!」と、「これなら、いくらかムリしてお金を出してもいい」といってもらえる魅力を、まだ十分に発し切れてないんでしょうね。

安:NDは十分だと思いますけど、価値を考えれば適正価格だと本気で思ってますけど、NDが50万円安かったら……。だから、NDじゃなくてもいいんですよね、そこまで高クオリティじゃなくてもよくて、オープンカーじゃなくてもいいと思うんですけど、本当に150~200万円で。それができるのが、マツダなのか、スズキなのか。ダイハツとかも、作れないのかなと思っちゃったりするんですけど。

梅:頑張らなくてはいけないですよね。若者がクルマを買わなくなった理由を、巷ではよく携帯電話だとかいいますけど、一方で皆、お金を出して海外旅行には行くわけですし。だから、これは自分にとって特別な経験、素敵な体験なのだと分かっていれば、無理してでもクルマに若干のお金は出すと思うんですよ、若者でもね。

安:200万円以内なら出す気はしますよ。

梅:中古のロードスターなんかどうでしょうね?

安:それもあるんですけど、今の若者って“ムリしてる感”を嫌うと思うんですよね。中古を買ってまで乗りたくないというか。見栄えっていうか、“インスタ映え”もしないし。NAは当時、間違いなくインスタ映えするクルマだったんですよ! インスタが当時あったとすれば、動画なんて流しまくりですよ! ただ、今は部品の値段も上がっているし、保安部品も必要だし……

各社がギリギリでやっているのは重々、分かってるんですけど、でもなんか憧れる、高くないクルマというか、そのクルマに乗っていると、インスタ映えというか格好いいというものって、見渡すと皆無に近いというか。「ハスラー」とか「クロスビー」(いずれもスズキのクルマ)は頑張ってると思うんですけど、NAの格好良さとは若干、質が違うというか、皆がわいわいやって楽しむ感じで。NAは隣に立っているだけで絵になりますもん。

僕は成城大学出身で、当時は(ロードスターを)“パパに買ってもらった系”の人が結構いて、普通に正門にNAを停めて待ってたんですけど、めっちゃくちゃ格好いいというか。屋根かなんか開けてて、強烈な印象で。みんな見るんですよね。あれが200万円で買える世の中ってすげーなと改めて思いますよ。彼らはAT(オートマチックトランスミッション)だったんで、そこは残念だったんですけど、でも考えてみたら、ATの設定があったのは良かったのかもしれません。敷居も下がりますし、女性も乗れたりするし。

だから、オートマで乗れてオシャレで格好いいというのは、“オールドミニ”に近い感じですね。今はミニも高くなっちゃったんですけど。ローバー時代のミニ(ミニというクルマのブランド。初代はローバーミニとも呼ばれる。今はBMW傘下)は安くてオシャレで。

梅:そういうスピリットに満ちた車でしたよね。

「ローバーミニ」のよさについて共鳴する両者

若い人に乗ってもらうためには、若い人に魅力的だと思ってもらえるクルマを、アフォーダブルな価格で用意しなければいけない。ロードスターもそういったクルマなのかもしれないが、現代の若者にも手が出しやすい、もう少し安いクルマも用意しては、というのが安東さんの考えだ。

さて、話はここから、日本のクルマ文化そのものについて、そして、これからのクルマが初代ロードスターのように生き残っていくには何が必要か、というテーマに入っていく。続きは次回、お伝えしたい。

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「ロードスター」レストアの哲学とは? 安東弘樹がマツダに聞く!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第5回

「ロードスター」レストアの哲学とは? 安東弘樹がマツダに聞く!

2018.09.26

昔のクルマに乗って楽しみたい人には厳しい自動車大国・日本

そんな状況に憂い顔の安東弘樹さんがマツダへ

初代「ロードスター」のレストアを担当する梅下執行役員を直撃!

日本で古いクルマを楽しむのは大変だ。製造から年数の経ったクルマは税金が上がったり、維持していくのに必要な部品を見つけるのが難しかったりするので、あえて旧車を選んで乗るにはお金も手間も掛かるからだ。それであれば、どんどん新車に乗り換えていこうと考える人が多くても無理はない。

そんな状況に一石を投じたのが、1989年に発売した初代「ロードスター」のレストアを開始したマツダだ。この取り組みに共鳴する“クルママニア”安東弘樹さんが、マツダで同事業を担当する梅下隆一執行役員に話を聞いた。

※文はNewsInsight編集部・藤田が担当しました

挨拶早々、試乗したばかりの新型「アテンザ」について「購入するか迷っている」と切り出した安東さん。「アテンザ」の開発主査を務めたこともある梅下さんは「たくさんのクルマに乗っていらっしゃる、その目でご覧になってもいいクルマでしたか?」と笑顔で応じていた(対談風景の撮影:安藤康之)

なぜ自動車メーカーがレストアするのか

安東さん(以下、安):なぜ今、しかも「NA」(初代ロードスターのことをNA型と呼ぶ。2代目はNB型、4代目となる現行型はND型といった具合)のレストアなんですか? ユーザーからすると「485万円か……」って感じもありますよね?

※編集部注:マツダが始めた「NAロードスターレストアサービス」の価格は、「基本メニュー」が税込み250万円、「フルレストア」が同485万円。

もちろん、色々なリバイバルプランが各メーカーにあるんですけど、でも、当時200万円で買えたNAを、485万円かけて……。そういうお客さんがいるという目算はあったんですか?

左は初代から4代目まで勢ぞろいした「ロードスター」。初代は中央右(画像提供:マツダ)

梅下さん(以下、梅):いろんな側面で語れるんですけど、体験ベースでいうと、ロードスターって、ものすごく多くのファンの方に愛していただいているクルマで。毎年、軽井沢でファンイベントがあります。ここ数年は大体、1,200台くらい来るのかな? 僕もお邪魔することがあるのですが、基本的にファンのイベントなんですよ、マツダが主催しているわけでもなんでもなく。うちはそういうの全然やってなくて、ほとんどお客様におんぶにだっこなんですけど……

安:自然発生的なね。

梅:だから、まあ、ロードスターというのは、お客様に育ててもらっているクルマだなと。僕らは“生みの親”だけど、お客様が“育ての親”になっていて。そんな気持ちでイベントを見学させていただいてたら、お客様が「ちょっと来いよ」と。

安:梅下さんの立場を分かった上で、ですよね?

梅:面白いのは……(編集部に)話が長くなっても大丈夫ですか?

マツダ執行役員 カスタマーサービス担当 ブランド推進・グローバルマーケティング担当補佐の梅下隆一さん

ファンクラブの猛者たちに出会って

梅:そこへ行くと、ファンクラブの中に、NAを買った時に40代くらいで、今は60代後半~70代の方々で組んでいらっしゃるチームがありまして、その人たちから見ると、僕なんか“ひよっこ”なわけですよ。「マツダから来たぞ(若造が、みたいな感じ)」と。で、前夜祭みたいな懇親会があって、その晩は軽井沢プリンスホテルのコテージに泊まるんですけど、そこで、「梅ちゃん、今晩、何号室のコテージにおいで」と。そこに行くと、20人くらいのおじさまたちが……

安:猛者がいるわけですね!

梅:そこへ挨拶にいくと、最初から最後まで「あの部品がない、この部品がない」と。だけど、ぜんぜん怒ってないんですよ。

安:あ、怒ってない?

梅:ぜんぜん! 「ないんだよねー」ってニコニコして、皆でそれを話してる。僕は当時、開発のマネジメントの立場で行ってたんですけど、カスタマーサービス本部の立場になって行ってみるうちに、その言葉がだんだん自分ごとになってきて、「こらなんとかせにゃいかんな」と。

ちょうど開発の部隊も同じ思いを持っていて、今でもNAは2万台以上が走ってるんですけど、そのお客様がお困りのところもあるし、そこに何とか答えたいなと。そういう気持ちが1つ。

往年の「ロードスター」ファンとの出会いがレストアを考え始めたきっかけの1つと梅下さん

梅:もう1つは、もう少し広く、会社・ブランドの立場で考えてみると、そんな風に愛されていて、あんなにたくさん走っている30年前の日本車って、たぶん今、日本にはないと思うのです。だからこれは、僕らにとっても、日本にとっても、けっこう大切なものかなと思って。なので、このクルマがもっと、日本の社会の中で長生きできないかなとシンプルに思ったし、将来これが、「日本にもこんな名車があったよね」と言ってもらえるようにと。

あるいは、そこまで僕らが言っちゃいけないのかもしれないのですが、自動車の文化に、少しでも貢献できればという思いもあって。やるなら、一部の部品の復刻だけではなくって、部品も復刻するけど、きっちりと「これがオリジナルだ」というモノを提供できるカタチがあるのではと思って、レストアにしました。

安:内容が徹底してますよね。「ここまでやるのか!」と感銘を受けました。そのかわり、「それなりのお金を出してもらえれば、復活させますよ」というところも、中途半端じゃない。これって、なかなか日本メーカーが踏み切れないことですよね。例えばテレビ局なら、番組づくりとして「8時だョ!全員集合」をもう1回、同じカタチでできるかというと、できないんですよ! そこの情熱が、他のメーカーと違うし、僕は好感を持ってますね。

「ロードスター」のレストアをテレビの番組づくりに例える安東さん

安:そもそも、日本メーカーには古いクルマの部品がないじゃないですか。100年単位の欧州に比べると、たかだか30年前のクルマでもないって、逆にすごい。そんな日本で、30年前のクルマを、全く同じように作り直すと。お客さんが持って来たクルマを、部品も新しくして、組み立てをやるというのは、これはもう、なんだろう? 欧州メーカーから遅れていたのを、一気に追い越したような……

梅:まあ、追い越してはないですけど(笑)

ロードスターにもう1人の「育ての親」

安:メーカーが責任を持ってレストアするというのは、僕の知る限り、なかなかないですよ。特別なお客さんは別ですよ、例えば、ずーっと「ロールスロイス」に乗ってる人とか。でも、ロードスターは庶民のクルマじゃないですか。庶民のクルマで、ここまでのっていうのは……

梅:あ、庶民のクルマという意味では、(ここまでメーカーがやる例は)ないですよ。そこがだから、我々のチャレンジになるんです。先行している欧米のブランドや、日本だったら一部の高価なクルマならできてるんですけど、やっぱり、このクルマ(ロードスター)でやるのは、すごく大変でした。

※編集部注:例えばホンダは、初代「NSX」のリフレッシュプランを用意している。その価格はメニューの選び方によって大きく変動するが、「エンジンオーバーホール」「足回りオール」「外装オール」「内装オール」などを組み合わせていくと1,000万円近い金額になる。

梅:正直にいって、(レストアの)値段のほとんどは工賃なんですよ。工場でクルマを預かって、部品を一旦、全部取り外すわけですよね。それから塗装し直して、部品を換えて……。作業工賃が値段のマジョリティーなんですよ。で、高いクルマだろうがロードスターだろうが、レストアにかかる工数っていうか、人手はそんなに変わらない。だから、高めのプライシングができれば「なんとかやっていけるぞ」とソロバンも作れると思うんですけど、これをフルパッケージで485万円くらいというのは、これは本当に大変。ほとんど利益ないです。“赤”ではないが利益はないという、ギリギリの線でやっているのが現状で。

レストアでは「サンバーストイエロー」など車体色も選べる(画像提供:マツダ)

安:どのくらいの受注があるんですか?

梅:大体、40人前後のお客様が待っていらっしゃる状況です。実は、今の予定では年間数台しかできない。というのも、マツダなりに自信を持っているエンジニアというか、匠(たくみ)じゃなきゃ作業をやらせないので、そういう人はやっぱり、数人しかいないんです。そういう状態なので、どうやって増やそうかと思っている。

安:妥協したくないですもんね。

梅:そこが重要で、我々からするとロードスターって、僕らは生みの親だけど、育ててくれたのはお客様と、街のショップさんなんですよ。ずーっとケアしてくれたのがショップさんで。僕らが中途半端というか、メーカークオリティでレストアできないんだったら、ショップさんにお任せした方がいいんですよ。

むしろ僕らは、少数だけど、メーカーじゃなければできないクオリティでレストアすることに存在意義がある。一方で、「485万円は出せないけど、自分のロードスターもリフレッシュしたいよ」というお客様には、僕らも部品をお渡しするので、ショップさんにも、もっと仕事をしてもらいたいという思いがあるんです。

安:今回のレストアを機に、これまでより多くの部品供給ができるようになるんですか?

梅:そうです。今回の活動で「コレは復刻しなければいけないな」という部品が見えてきたわけですよね。それをリストアップし、150部品くらいを新たに復刻して、サプライヤーさんとも相談しながら作れるようになったので。

例えば「NARDI製ステアリングホイール」(木製のハンドル)などを新たに復刻した(画像は初代「ロードスター」、提供:マツダ)

「当時のまま」へのこだわり

安:どのくらいのレベルで復活するのか、本当に楽しみ。もし機会があったら、レストアしたクルマを運転してみたいくらい。限りなく、当時のクルマに近づけるのがテーマなんですか?

梅:もちろん。当時のまま、そのものに戻したいんですよ。だから、逆にいうと、当時より良くはならないんですよ。

安:だからいいんですよねー! そこなんですよ。別に、いじらないわけですよね?

梅:お客様のクルマは、8月9日に1号車を納車させて頂いたのですが、その前に、初めてのトライアルなので2~3台、作ってるんですよ。どこが難しいかとかを見るために。

レストア1号車納車式の様子(画像提供:マツダ)
NAロードスターレストアプロジェクト第1号車の持ち主は西本佳嗣(けいじ)さん(右)と奥様の眞里美(まりみ)さん(左)。愛車のユーノスロードスターVスペシャル(1.6L、ネオグリーン、タン内装、5MT)は、1992年に新車で購入したものだという。画像中央はマツダ副社長執行役員の藤原清志さん(画像提供:マツダ)

梅:僕も昔、NAを持ってて、今回はレストアしたクルマに乗ったんですけど、本当に当時のまま。ちょっとブレーキが甘いのも含め「このままや!」と(笑)

安:原点回帰というか、とにかく元に戻したわけですね。そういうのいいな……!

「ロードスター」の原点回帰に共鳴する安東さん

ひとしきりロードスターのレストアについて話した2人。いつしか話題はNA型そのものの話に移り、なぜ最近の日本には、若者でも手を出せる手頃なスポーツカーが少ないのか、あるいは存在しないのかという、より根源的なテーマへと進んでいった。その模様は次回、お伝えしたい。

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マニュアル設定の理由は? 安東弘樹、トヨタ「カローラ」の技術者と語る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第4回

マニュアル設定の理由は? 安東弘樹、トヨタ「カローラ」の技術者と語る!

2018.08.28

安東さんが「カローラ」技術者と対談

マニュアル車の設定には意外な理由も

安東さんのクルマ選びは混迷の度合いを増してきた

トヨタ自動車の新型車「カローラ スポーツ」に試乗し、自身の“購入検討リスト”にも加えるほどの好感触を得た安東弘樹さん。試乗後に行ったエンジニアとの懇談では、マニュアルトランスミッション(MT)設定の理由など、気になるポイントに次々と切り込んだ。

※文と写真はNewsInsight編集部・藤田が担当しました

カローラは「つまらないクルマではない」

安東さんが話を聞いたのは、トヨタ Mid-size Vehicle Company MS製品企画 ZE 主幹の梅村伸一郎さん。最初の話題は、新しいカローラがハッチバックというボディタイプとなった理由だ。

ほかの参加者が帰路についた後も話し込んでいた梅村さんと安東さん

カローラにはセダンの「アクシオ」とワゴンの「フィールダー」があるが、新型が全く新しい姿で登場したのはなぜか。梅村さんは「イメージを変えるという意味で有効かなと。カローラにはハッチバック、セダン、ワゴンをグローバルで用意するんですが、ハッチを最も早く投入したのは、ユーザー層の若返りを図る上で1つの手段。もともとカローラにはスポーティーなイメージがあったので、原点回帰を図りました」とした。

対する安東さんは、フォルクスワーゲンの試乗会で「ポロ」と「up!」のGTIに乗ったばかりと前置きした上で、「カローラもつまらないクルマではなく、感動すら覚えました。今までは退屈なクルマというイメージがあったので、ハッチバックにしたことも含め、英断だと思います。元はといえば『レビン』もありました。1970年代初頭に父親がカローラに乗っていましたが、当時は高齢の方のクルマというイメージは微塵もなかったので、原点回帰は大歓迎です」と応じた。

スポーティーなイメージを取り戻すカローラの原点回帰は「大歓迎」と安東さん(画像提供:トヨタ自動車)

若い人は「カローラ」を買う?

デザインについては、「生まれて初めてカローラを格好いいと思った」と安東さんも好印象だ。梅村さんはリアの造形について、「バックドアには樹脂を使ってます。『フィールダー』も樹脂だったんですが、トヨタとして初めてのトライだったので、鉄に戻せるような(のっぺりした)造形にしなければなりませんでした。今回はノウハウがあったので、思いきった造形にできました。これは鉄だとできません」とのこだわりを教えてくれた。

トヨタが若者世代に提示するクルマのカローラ スポーツだが、最も安いグレード「G“X”」で210万6,000円、最上級グレード「HYBRID G“Z”」で268万9,200円からという価格設定について安東さんは、少し高いとの印象を抱いた様子。「20代の人が買うとなると……」と懸念を示すと梅村さんも、「ちょっと高いという声は実際、ある」と応じた。

「もう少し何とかできないかとは考えていますが、インパクトを出したいという考えもあって(装備などにもこだわった)。少し値が張りますが、20~30代が欲しいと憧れるクルマは、その上の世代の方にも買って頂けるので」とする梅村さんによれば、受注状況は「今までの傾向から考えると、若い人からも受注は頂いています。グレードは『G“Z”』が最も多く、ハイブリッドが7割」(試乗会があった7月5日時点での数字)とのことだった。

若い世代が憧れるクルマは、上の世代にも魅力的に映るはずと梅村さんは話していた(画像提供:トヨタ自動車)

マニュアル設定は「すばらしい判断!」

「人生で一度もマニュアルから離れたことがない」と話す安東さんが期待を示したのが、カローラ スポーツのMT車(8月2日に発売)だ。 「日本のMT車市場は小さいんですけど、『スポーツ』ということで」と導入の理由を説明する梅村さんに対し、安東さんは「すばらしいご判断! このまま(MT車を)絶滅させるのは……」と嬉しそうな様子を見せた。

カローラ スポーツが導入する「インテリジェントマニュアルトランスミッション」(iMT)は、インテリジェントという言葉の通り、ドライバーの変速動作をクルマがコンピューター制御で支援するシステムだ。例えば発進時のクラッチ操作を検出した際には、クルマ側でエンジン出力を最適に調整する(トルクを上げる)ことで、クラッチのみによる発進操作をよりスムーズに行えるようサポートする。MT車の操作が苦手な人でも「エンストしにくい」(梅村さん)そうだ。

日本のMT車市場は小さいが、カローラでMTを出したいという強い思いがあったと語る梅村さん

カローラにマニュアルを設定する2つ目の理由

クルマに関する全ての操作を自分で行いたいと考える安東さんにとって、iMTのようなクルマ側からの介入は不要だろうとは思うが、こういったシステムを導入すること自体については、「MT車のハードルを下げるのにすごくいい。一度エンストすると、萎えてしまう人もいるので。僕の世代でもMT乗りはほとんどいない」とし、その判断に理解を示していた。

MT車の衰退を嘆く安東さんは、「カローラ スポーツ」に「iMT」を導入するトヨタの判断を喜んだ

アクシオ、フィールダーにもMT車を用意するトヨタだが、同社がカローラシリーズにMTを採用する理由は、運転の楽しさを提供するためだけではない。カローラユーザーの平均年齢は60歳を超えているので、これまでMT車にしか乗ったことがなくて、「MT車しか乗れないといって買ってくれる人もいる」(梅村さん)そうだ。

「あの色(紺色、ブラッキッシュアゲハガラスフレークというエクステリアカラー)でMTのターボだったら、このクラスの日本車で初めて欲しいと思うかも」。エンジニアとの懇談も終盤に差し掛かり、カローラ スポーツのMT車が購入検討リストに入ったことを明言した安東さん。ポルシェ「911 カレラ 4S」、ジャガー「F-PACE」に続き、安東家に納車されるのはどのクルマになるのだろうか。対抗馬としてはMINI(ミニ)「クラブマン」、マツダ「アテンザ」が有力なようだが、判明したときには弊紙でもお伝えできればと思う。

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