安東弘樹のクルマ向上委員会!

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第12回

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

2019.01.16

安東弘樹さんがトヨタ「スープラ」試作車に試乗!

本当は単独で作りたかった? 安東さんが開発者に聞く

乗った感想は「嬉しいような寂しいような」

「やっぱり、憧れのクルマでしたね」。日本で「セリカXX(ダブルエックス)」と名乗っていたトヨタ自動車の初代「スープラ」について尋ねると、安東弘樹さんはこう語った。かつて憧れたクルマは今年、5世代目の新型モデルとして復活を果たす。新型「スープラ」のプロトタイプに試乗し、開発責任者と話した安東さんは何を思ったのか。試乗会に同行したので、その模様を報告する。

※文と写真はNewsInsight編集部の藤田が担当しました

2018年12月6日、安東さんはトヨタが袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催した新型「スープラ」プロトタイプの試乗会に参加した

40年前の小学生を熱狂させた初代「スープラ」

トヨタのスープラは、1978年に「セリカ」の上級車種として誕生した。日本では「セリカXX(ダブルエックス)」、北米では「スープラ」と名乗っていたが、3世代目からは車名をスープラに統一する。今回の新型で5世代目となるスープラの歴史について、弊紙ではモータージャーナリストの森口将之さんに解説して頂いた。

新型「スープラ」

トヨタはBMWとの共同開発で新型スープラを作った。プラットフォームはBMWの「Z4」および「3シリーズ」との共用で、エンジンもBMW製だ。新型スープラでは過去のモデルに共通していた直列6気筒エンジン(直6)とフロントエンジン・リアドライブ(FR)方式を継承。トヨタの開発陣は、「スポーツカーとして究極のハンドリング性能を達成するため、『ホイールベース』(前輪と後輪の間の幅)、『トレッド』(左右タイヤの間の幅)、『重心高』の3つの要素を重要視して開発初期のパッケージ検討を進めた」と説明する。

セリカXX(初代スープラ)の誕生当時、安東さんは11歳だった。思い出を聞いてみると、「見かけると、みんな『わー、ダブルエックスだ!』みたいな感じになってました。考えてみると、当時の小学生はほとんどが知ってたわけですから、すごいですよね。うちの長男(小学生)なんて、学年でクルマ好きの友達が1人しかいないって言ってますよ。あと、ダブルエックスはワーニングが音声だったので、『しゃべるクルマ』って呼んだりもしてました」とのこと。大学生の頃は「バブリーな友達」が3代目スープラを所有していたという。

3代目「スープラ」

では、これまでにスープラを買おうと思ったことはあったのだろうか。

「それは、なかったですね。どちらかというと、私は『ザ・スポーツカー』みたいなクルマより、『アルピナ』(カブリオというオープンカーに乗り継いだとのこと)に乗っていたこともあるくらいなんで、“アンダーステートメント”というと格好よすぎるんですけど、控えめというか、そういうものを選ぶ傾向にあります」

開発責任者の多田さんに聞く作り手の思い

試乗前、安東さんは新型スープラの開発責任者を務める多田哲哉さんとのグループインタビューに臨んだ。その際のやり取りは以下の通りだ。

安東さん(以下、安):取材でイギリスに行ったとき、「ハチマルスープラ」(型式がA80だったので4代目スープラをこう呼ぶ場合がある)が走っていて、それをみんなが見てたんですよ。すごく誇らしい気持ちになりました。「ワイルドスピード」という映画でも、スープラがフィーチャーされてましたよね。私は51歳なんですけど、この年代の人たちって、初代から見てきていますし、スープラにすごく思い入れがあります。それで、あえて失礼な言い方をするんですけど、「このクルマをトヨタだけで作りたかった」というお気持ちはなかったんですか? 

多田さん(以下、多):もちろんありました。「スポーツカーを他社と共同で作ることに、どんな意味があるのか」とか、「看板商品なのに、自社のエンジンが載っていないのはおかしい」みたいな話もたくさん頂いているんですけど、ただ、時代は大きく変わっているんです。

特に、最近のトヨタを見てもらえば分かると思うんですけど、業種を超えて、いろんなところとコラボレーションして、ものを作っているじゃないですか。それは他の会社も同じで、旬の会社は皆、それぞれの分野の最も面白い技術を持っているところと組んで、お客さんの期待を超えるようなプロダクトを作っています。そうじゃないと、この時代、もう残っていけないと思うんです。

新型「スープラ」開発責任者の多田さん

:正直、私たちの立場からすると、協業なんかやめて欲しい。内部で作った方が、はるかに簡単ですから。意思疎通もできますし。正直、「86」を作った後は、2度と協業はいやだと思ったくらいなんですが()、今回は、86の時とは比べものにならないくらい大変でした。会社としてのやり方も両社で違います。そういうことが何となく分かってきて、意味不明なこともたくさん起こりまして。

※編集部注:トヨタとスバルが協業して作ったのがスポーツカーの「86」と「BRZ」だ

:お察しします!

:ただ、最近はものすごく仲良くなりました。私たちも、BMWのやり方から学んだことがすごくたくさんあります。「あ、だからこうなってるのか!」「だからあの時、あんなことを言ってたのか!」みたいな感じです。それが協業の意味だと思います。

:スープラにMT(マニュアルトランスミッション)を導入する可能性は?

:もちろん! 先週もミュンヘンに行って、MTのテストをしてきたところです。今回はAT(オートマチックトランスミッション)で乗ってもらってますけど、MTがいやだとか、作らないとか言っているわけではないんです。

ただ、新世代のスポーツAT()というのは、手前味噌ですが、かなり出来がいいんです。MTとか、いわゆる「ツインクラッチ」みたいなものと比べても、正直、負けているところはほとんどありませんし、逆にアドバンテージがたくさんある。

※編集部注:ハンドルにシフトパドルが付いていて、手元でシフトチェンジしながら走れるATのこと

:ミッションメーカーとも話をしていますけど、もう、ツインクラッチとかMTの開発に、彼らはあまり力を入れてないんですね。「ネガ」がありすぎるので、やっている意味がなんです。来年、再来年になると、その差はさらに開くと思います。

:ATの方がタイムも早いとは思うんですけど、私は「シフトチェンジ」という行為そのものが好きで……

新型「スープラ」へのMT導入に希望をにじませた“シフトフィールフェチ”の安東さん

:もちろん分かりますよ! ガチャガチャやる感じがいいんですよね。

:もしスープラが欲しいと思ったとしても、MTがない時点で、選択肢からドロップしてしまうんですよね。そこはもったいないなーと思うんですけど。

:シフト操作が楽しいということは、シフトフィールをすごく求めるんですか? いかに気持ちよく、スパスパいけるかという。

:いやもう、本当、それだけというか。

:それがまず、トルクの大きいエンジンのミッションには、ものすごくハードルが高いんですよね。皆さんが期待しているようなシフトフィールを実現するには、ものすごく開発要素があるんですよ。それをそもそも、ミッションメーカーにやる気がない。

もちろん、お金をかければ、例えば「ポルシェ」のハイエンドにはMTが設定されていますけど、ああいう風に、中身をどんどんカーボン化して軽くするとか、そういう道もあるとは思うんですけど、そんな高価なミッションを設定して、スープラのユーザーは本当に買うのかなと思うんです。

もっと言えば、今後はスープラと86の両方を作っていくので、両方ともお求めいただきたいんですけど、86というのは、まさにそういう人のためにあるクルマです。86ではいろいろな操作を楽しんで、クルマと触れ合ってもらいたいんです。でも正直、スープラのトルクとスピードを考えると、よっぽど運転の上手な方ならいいんですけど、普通のお客さんが、こんなこと(例えば細かいシフト操作など)を楽しむ暇は、たぶん、ないと思うんです。

今回のATに乗っていただいて、それでもMTが欲しいということであれば、アップデートもありますし、お届けできればいいかなと。まずATに乗ってみていただいて、本当にご要望があれば、という感じですね。

:パワーユニットは直列6気筒の1本だけに絞るんですか?

:「スープラは直6」というのは揺るぎないんですけど、販売上の事情もあるので、もうちょっとお求めやすいクルマといいますか、ワイドバリエーションで構えたいと思ってます。

BMWとの共同開発について多田さんは、「部品として変えられるところは、ほとんど別で作っています。それを共通化して一緒に作ったとして、そんなことで値段が下がっても、ぜんぜん嬉しくないというのが両社の考えです。使えるものは使いましたが、お互いに作りたいものをちゃんと企画して、デザインもしたので、内外装の部品も、数えてみると90数%は別々で作っています」と説明していた

いよいよ試乗、安東さんの反応は…

この後、いよいよ試乗に向かった安東さん。雨の袖ヶ浦フォレストレースウェイで新型スープラに乗った感想を聞くと、「しっとり感というか、重厚感がすごいですね。ウェット路面でもクルマとの一体感を感じられて、楽しかったです」と話し始めた。

「ただ、嬉しいのか寂しいのか分からない、っていうのが正直なところですね。これって共同開発じゃないですか。このクルマをBMWの『Z4』より(おそらく)安く、トヨタのチャンネルで買えるのは嬉しいんですけど、ただ、スープラはトヨタのアイコンになるクルマだと思うので、乗った時に、思わず『流石はBMW!』というクルマでしたので、どうなんだろう? という気持ちです。これが純粋なトヨタ製だったら、『お、すげー!』ってなるんですけど」

共同開発である点は気になるものの、トヨタがスープラを16年ぶりに復活させる決断を下し、実際に商品化したこと自体については好感を抱いたという安東さんは、新型スープラのオーナー像にも思いを馳せる。

「価格はいくらなんだろう……。いくら安くなるといったって、たぶん、500万円は切らないだろうし。そうすると、若い人が乗るというのは難しいですよね。昔、スープラに憧れたけど買えなかった、セリカXX世代の人かなぁ。ある意味、Z4と競合すると思うんですけど、(Z4はオープンカー、スープラはクーペなので)屋根が開くか開かないかで差は際立つと思います。そこをお客さんがどう判断するかですね。スープラのデザインが好きな人は、絶対いると思いますけど」

新型「スープラ」を試乗する安東さん

「今日はフルブレーキングしないくらいの速度域でしか走ってないですけど、いいクルマでしたし、楽しいクルマでした。雨の袖ヶ浦も勉強になりました! ただ、やっぱりユーザー像がはっきり見えないのは気になりますね」。そんな言葉を残し、安東さんは帰路についたのだった。

オープンカーでも反感なし? 元オーナーの安東弘樹も認める「MINI」のブランド力

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第11回

オープンカーでも反感なし? 元オーナーの安東弘樹も認める「MINI」のブランド力

2018.12.25

自動車ブランドがライフスタイルを提案するのはアリ?

「寝ながら移動できるクルマ」の登場は文化的な危機

流動性が高まる安東さんのクルマ選び、最後に新手が登場!

「MINI」(ミニ)が持つブランド力は「唯一無二」だと語る安東弘樹さん。自動車業界では「電動化」と「自動化」が進み、クルマの無個性化、コモディティ化につながるのではとの見方も出ているが、ミニであれば生き残れるというのが安東さんの考えだ。

ミニの取材でビー・エム・ダブリュー株式会社を訪れた安東弘樹さん(取材風景の撮影:安藤康之)

クルマがコモディティ化してもミニは生き残る?

編集部:先日、マツダを取材した際にも話題になっていたと思うんですけど、電動化と自動化でクルマがコモディティ化していくとすれば、その時にはブランド力がますます大事になると思います。そういう意味で、「ブランドを売っている」というミニは、いいポジションにいますよね?

安東弘樹さん(以下、安):クルマが「家電」みたいになるじゃないですか。そうすると、普通のメーカーだと生き残れないような気がしていて。

オーディオが分かりやすくて、例えば「バング&オルフセン」とか「ブルメスター」とか、ブランドが確立しているメーカーは永遠に生き残るような気がしますけど、日本のいくつかのオーディオメーカーは、恐らく技術はあったのでしょうが、残念なことになってしまいましたよね。そういう意味でいうと、ミニって生き残るタイプのクルマだと思います。クルマのコモディティ化の話って、ミニとしても何か想定してます?

ビー・エム・ダブリューの丹羽智彦さん(以下、丹):ブランド優先の姿勢は、それ以前からやっているので、コモディティ化の流れになったからといって、急に態度を変えたわけではないですね。そもそも、なぜBMWがミニ(ローバー・グループ)を買収したかといえば、ローバー時代のミニは、ある意味、狭い世界でずっとクルマを作っていたんですけど、それでもファンが付いてきてくれて、そのブランド力に非常に魅力があったからです。ミニには、持っている商品より一回り大きいブランド力があるんです。

BMWブランド・マネジメント・ディビジョン プロダクト・マーケティングでプロダクト・マネージャーを務める丹羽智彦さん

:例えば、マツダさんがNA(初代「ロードスター」)のレストアを始めましたけど、ミニでも……やっぱり、この話は必要ないかな?

:あれですよね、ミニをリバイバルするという話ですよね? それをおっしゃる方は、よくいらっしゃいます。ディーラーへ行くと、「そういうこと考えてないの?」とか聞かれたりして。

:ローバー時代のものは、できないんですもんね。ミニのファンは、ローバー時代のミニを完璧にというか、そういうのをやって欲しいんだろうなとは思いますけど。

うちの弟も実はそうで、中古で「40周年のミニ」(ローバー MINI 40th アニバーサリーリミテッドというクルマのこと)、グリーンの綺麗なのを買ったんですけど、やっぱり、壊れるんですって。で、今は手放して、軽自動車に乗っているんですけど。でもそういうのって、ちょっともったいないですよね。BMWに責任はないんですが。

ミニの40周年限定車を手に入れるとは、さすがは安東さんの弟さん、といったところだろうか

ライフスタイルの提案でクルマの間口を広げて欲しい

編集部:で、そのブランドの話なんですけど、ミニは最近、「ファッション」や「住まい」といった分野でコラボ(「MINI FASHION」や「MINI LIVING」などという取り組み)するなど、ライフスタイルブランドとしての見せ方をますます強めている印象です。クルマの会社がライフスタイルまで提案するということについて、安東さんはどう思います?

:アリだと思いますね。私みたいなクルマだけのマニアって、細くは絶対に残っていきますけど、全体としては減っていくと思うんで。だから、クルマの間口を広げるのはアリですよね。例えば、音楽から入る人もいるかもしれないし。実際、歌の歌詞に出てきたという理由からクルマが好きになる人もいるので。

あと、びっっっくりするくらい、周りの人がクルマに興味ないんですよ。だから、こんなにミニバンが増えるんだろうし、「はやく自動運転にならないかな」って声もよく聞きますね。後輩の女性アナウンサーなんか、「自動運転になったらクルマを買う」っていってて、なぜかっていうと、寝てて移動できるからってことなんですよ。

そういう意味でも、いろんなところからアプローチするべきでしょうね。クルマを「寝てて移動できるなら買う」っていう人が増えると、文化的には廃れてしまうと思います。でもまだ、運転の楽しみって、本能的には絶対にあると思っていて。私は初めて買った「シティターボⅡ」(ホンダ)で「ヤビツ峠」(神奈川県にある峠)に行って、運転の楽しさを知ったんですけど。

初めて買ったクルマで「ヤビツ峠」に出掛けたという安東さん

:だから、いろんなアプローチがあっていいと思いますよ。最近はドラマですら、運転しているシーンが本当に少ない。バブル時代は多くて、しかも、いろんな価値観がありましたからね。

私が見たドラマでは、主人公の恋敵が「Sクラス」(メルセデス・ベンツ)に乗ってて、主人公の若い人が「N360」(ホンダの軽自動車)に乗ってたんですけど、N360がSクラスより俊敏に駐車場から出るシーンを、わざと上から撮って入れてあったりしたんですよ。絶対、好きな人が撮ってると思うんですけど。

最近の恋愛ドラマとかで、そういうシーンって皆無で、みんな電車に乗ってるじゃないですか。そういう意味で、クルマというものが、一般の社会からなくなりつつあるような気もするんですよね。だから、音楽でも家でも、例えば、こんな建築だったらミニが綺麗に収まるとか、そういう話でもいいし。

:とっかかりなんですよね。

編集部:クルマの存在感が、日本でだんだん低くなっているとしたら、そんな中で、ミニが持つ重要性って何でしょうか。

:ミニだからこそ重要かといわれると、そこはよく分からないんですけど、そういうメッセージを発信できるのがミニなのだとは思います。そこが、我々の救われているところでもあるんですけど。コラボで新しいアイデアを受け取って、それを世の中に出すことも、ミニのブランドとしては必要です。

:ミニにしかできないことがあると。

:例えば、「くまモン」とコラボしたりとか。

2013年にくまモンが英国のMINIオックスフォード工場を訪れた際、サプライズとしてお披露目された「くまモンMINI」(画像提供:BMW Group)

:いいと思います。クルママニアの中には、そういうコラボに眉をひそめる人もいると思うんですけど、いやいや、そうじゃないでしょと。一昔前の日本のモータースポーツなんかもそうでしたけど、「知らない人は入ってこないで」みたいな。ヨーロッパなんかは違いますよね。どんなに速いクルマを作ったり、魂込めてエンジンを作ったりしても、観る人がいなければ意味ないので。

ミニは「みんなが笑顔になれるブランド」

:以前、ミニの「コンバーチブル」(R57という型式)に乗ってたんですよ。紫っぽい紺にストライプ、ルーフはブルーで。そのクルマをサービスエリア等に停めておくと、必ず何人かが笑顔でクルマを覗き込んだり、若い女性が友達に「これ、かわいい!」とクルマを見せたり、好意で見てくれるんです。

私はクルマが注目されるのは好きではないので、どちらかといえば「知る人ぞ知る」というクルマを選ぶ傾向が強かったのですが、好きな仕様のクルマに乗っていて、皆が反応してくれて、しかも、それが嫌悪感ではないという体験だったんですね。車種によっては、コンバチ(コンバーチブル、オープンカーのこと)だと、ひと目みて「チッ」という反応もあると思うんですけど、ミニだと、皆が集まってくる。あれはすごい訴求力ですよね。ミニにしかない。

安東さんは以前、ミニの「コンバーチブル」に乗っていた(画像提供:BMW Group)

ビー・エム・ダブリューの前田雅彦さん(以下、前):ミニは独特かもしれませんね。うちってあんまり、競合しないじゃないですか。BMWであればメルセデスさんとか、どうしても比べられちゃうんですけど、ミニの場合って、まずフォルクスワーゲンさんと競合することとかないので。強いていえばフランス車ですけど、あちらも「指名買い」(いくつかのクルマを見比べて買うのではなく、そのクルマと最初から決めて買うこと)ですし、ミニもそうなので。

それは、ミニがブランドの価値を高めようとしているからだと思います。今年の「ミラノ・サローネ国際家具見本市」で「MINI LIVING」っていうのをやって、クルマは一切置かずに、ミニのある生活を建築物で表現したんですけど。クルマがなくても、ミニの世界観を感じてもらえるような取り組みを、ちゃんとやってます。それで、ライフスタイルブランドとして確立している部分もありますし。

ミニは2018年4月の「ミラノ・サローネ国際家具見本市」にて、ロンドンの建築事務所Studiomamaと協力し、「MINI LIVING - BUILT BY ALL(構築)」(画像)を展示した(画像提供:BMW Group)

:本当、唯一無二。これで格が上がっちゃうと、それもちょっと違うし。振り返られるデザイン、というかブランド力。うちの奥さんが典型的ですけど、ヘリテージも知らない、ノスタルジーもないって人で、ミニの名前すら知らない人でも、そうなんで。

ミニって、みんなが笑顔になれるブランドですよね。ミニのショールームに一緒に行った奥さんの表情を見て痛感しました。

ますます流動性が高まる安東さんのクルマ選び

編集部:で、最後に安東さん、全ての条件を満たすクルマは中々ないというお話でしたが、依然としてミニ「クラブマン」は購入検討リストに残ってますよね? ただ、車庫の問題が浮上したとか、何かいろいろと状況も変化しているみたいですが……

:そうなんですよ。うちの庭にウッドデッキが付いていたのですが、一度も使っていないので、そこをつぶして3台目の車庫にしようかなと思ってたんですけど、建築法上、できないということが分かりまして。だから、近くで駐車場を借りて3台目を買うのか、買い換えを含め2台体制のままでいくのか(※)、岐路に立っているような状況ですね。

※編集部注:ポルシェ「911 カレラ 4S」とジャガーのSUV「F-PACE」を所有している安東さんだが、仕事にF-PACEで向かうと、特に都内では、大きすぎて駐車場に止められない場合が結構ある。そこで安東さんは、3台目のクルマ選びを進めていた

例えば、ミニをポルシェの代わりに買っても、自分が楽しければ、何の抵抗もないので。それで、もう1台をメルセデスの「オールテレイン」(E220d 4MATICオールテレインのこと)にするとか。オールテレインだと事務所の立体駐車場にも入りますしね。

オールテレインとミニ、MT(マニュアルトランスミッション)があれば「クラブマン」なんですけど、ないので「3ドア」しか選択肢がないのかな、とは思いますね。理想はオールテレインとクラブマンの「ジョンクーパーワークス」(JCW)のMTなんですけど、現実としてないので。そこで、ちょっと浮かんだのが、BMW「M2」のコンペティション……

:おー! それもいい話ですね。

:それはいいですね。

BMWのハイパフォーマンスモデルは「M」から始まる車名を持つ。安東さんの購入検討リストに急浮上した「M2 Competition」(画像)は、最大出力410ps、最大トルク550Nm、後輪駆動の2ドアクーペだ。価格は873万円から

:またうるさくて申し訳ないんですけど、M2 Competitionで、明るいベージュの内装にシートベンチレーションかシートクーラーが付くと嬉しいのですが。

:あー、黒しかないですね。

:本当は四駆がいいんですけど、でも、400馬力を超えてて、3ペダル(MTのこと)もあるので、ちょっと、いいかなと思ったりしてるんですけど。

:あれも楽しいと思いますよ。

:それに、次もポルシェにすると、予算が倍くらい掛かっちゃうんですよ(笑)

「ミニはみんなが笑顔になれるブランド」と総括した安東さん

ガレージの問題が浮上した挙句、最後に思わぬ方向から新手が現れたおかげで、安東さんのクルマ選びがどのあたりに落ち着くのかは、全く見当が付かなくなってしまった。

それはさておき、ミニについてはクルマのキャラクターのみならず、そのブランド戦略についても、安東さんは好感を示した。ポップな感じとプレミアム感を併せ持ち、クルマの作りとしてはあくまで上質であることを「後席ドアの閉まる音」からも感じさせる。その独自性がミニの面白さだ。単なる自動車メーカーからライフスタイルブランドへ、という動きは業界で散見されるが、ミニの現在の姿は、その成功例の1つといえるのかもしれない。

どんな現場にも乗って行ける! 安東弘樹、「MINI」の独特な立ち位置を語る

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第10回

どんな現場にも乗って行ける! 安東弘樹、「MINI」の独特な立ち位置を語る

2018.12.18

「どちらかといえば、ミニはブランドを売るメーカー」

課題は自動化と電動化? いかに“らしさ”を残すか

京都・太秦にも乗って行ける「すご過ぎない」ミニ

「MINI」(ミニ)についてビー・エム・ダブリュー株式会社で取材中の安東弘樹さん。クルマに詳しくない人にも「かわいい!」といわせてしまうミニは、稀有な存在だと感じているそうだ。

ブランドの統一感を大事にするミニ

安東弘樹さん(以下、安):自動車メーカーのブランドショールームが好きで、ミニにもよく行ってるんですけど。

ビー・エム・ダブリューの丹羽智彦さん(以下、丹):何か違います? 他のブランドと。

:統一感ではミニが一番ですね。行くだけでワクワクします。やっぱり、妻とか息子を連れて行くと、反応が全然ちがうので。うちの妻は普段、ディーラーに行っても全く反応しないんですけど、先日、お台場のショールーム(江東区青海にある「MINI TOKYO BAY」のこと)に行ったとき、第一声で「うわ、かわいい!」っていって、すごく喜んでたんですよ。

ミニを見に行ったときは、家族の反応が違ったと安東さん(取材風景の撮影:安藤康之)

:いるだけで楽しいというのは、やっぱりミニが一番じゃないですかね。しかも、威圧感がなくて、入りやすいし。輸入車ってやっぱり、人によっては敷居が高いという部分があるじゃないですか。有明はオシャレなんで、入る瞬間はちょっと緊張するんですけど、入って、ミニの方に曲がった瞬間(有明の施設はMINIとBMWが隣接している)、一気に「かわいい」というか、そこがすごい。高級感がありながら、親しみやすいというのは、たぶんミニくらいしかないんじゃないですかね。

有明にある「MINI TOKYO BAY」

:ミニって、商品以外の部分でブランドを確立しているところがあって。単にクルマを売っているだけではなくて、どちらかといえば、ブランドを売るというメーカーになっているんで。

:あと、地方にいっても、ミニはCI(コーポレート・アイデンティティ)が完璧じゃないですか。徹底してるのってミニくらいで、うちの近くの「千葉北」(「MINI 千葉北」のこと)も、規模は小さいですけど、お台場をそのまま小さくしただけというか。そこは感心しますね。

自宅近くの販売店も当然ながらチェックしている安東さん

ミニが大事にするブランド、プロダクト、ヒト

ビー・エム・ダブリューの前田雅彦さん(以下、前):ミニのビジネスをやっていく上で、大切にしているものが3つあって、1つはブランド、1つはプロダクト、もう1つはヒトなんですよ。ブランドに関しては、ミニの世界観を感じてもらいたいので、店舗も統一させてもらっているし、ブランド観というものもどんどん訴求していこうといってます。

ミニのブランドに関しては、今までは真っ黒で統一して、ライトはピンクだったり黄色だったり、緑だったりと派手めなものをつかってたんですけど、2~3年前からは方向性を少し変えて、お台場なんかは特にそうなんですけど、プレミアム感を高めているというか。ブランドイメージ自体をお客様に飽きられないように、変えたりもしているんです。

:そのあたりって、どのくらいディーラーさんに任せてるんですか? ある程度は徹底してやっている?

:うち(ビー・エム・ダブリュー)はドイツ本社から徹底されますし、弊社もディーラーさんに徹底していただいてます。店舗って、家具を変えたりするとお金が掛かるじゃないですか。内装もそうだし。店側としては、あまりやりたくないことでもあると思うんですけど、それよりもやっぱり、ブランドをお客様にキチンと感じて、見ていただくことが重要なので、変えてもらえるようにしていってます。

:うちの近くって、ありとあらゆる輸入車販売店が並んでて、千葉県なので、都心ほどは(店舗のイメージ統一などが)行き渡るのが早くないんですけど、ミニだけは最初から徹底されてて。変な話、BMWにもできないレベルでできているのがびっくりなんですけど、何か差はあるんですか?

:それは、同じ温度感でやってるんですけどね。ただ、ミニでは、お客様の目に付くところだけではなくって、サービス工場でも指定のタイルを敷いたりとか、細かくやってますね。

ビー・エム・ダブリュー広報部製品広報マネージャーの前田雅彦さん

:それって、ある程度は経済力がないとできないことですよね。そういうのはどっちが払うんですか?

:基本はディーラーさんですけど、うちももちろん。

:多少はサポートしてます。やっぱり、投資は高いんですけど、それによって印象が変わってくるので、そこはディーラーさんにもお願いして。

:そこまでして守るのが、ブランドなんですね。

:そういうブランドだからこそ、これだけの価格でも、お客様にワクワク感を訴求できるので、そこは負けられないポイントです。

BMWブランド・マネジメント・ディビジョン プロダクト・マーケティングでプロダクト・マネージャーを務める丹羽智彦さん

ミニの課題は電動化? 個性を守りつつ次世代へ

:それでは、今後の課題とか目標は?

:えーっと、いろいろあります。例えば、電動化の時代にどうするかとか。あと、日本固有の問題としては、本当に、安全性って、自動運転なんかも、日本固有ですごい次元に向かっていて、そこには対応しなければいけませんよね。

ただ、それを一方的にやってしまうと、どうしても運転する楽しさはなくなってきてしまうので、ブランドのバリューとして大切にする部分と、どう折り合いを付けるか。そのあたりが懸念でもあり、やるべきことでもありますね。

:ミニには今、レベル2のACC(※)は普通に付いてましたっけ?

※編集部注:自動運転レベル2のアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)のこと。高速道路で前のクルマとの車間距離を保ちつつ、一定の速度で走ってくれる機能

:普通にではなく、オプションですね。大きいクルマだと、「クーパー」(というグレード)から標準装備にしてますけど。

:そこのところの要望とかってどうです?

:はっきり分かれていて、好きな人は好きですし、嫌いな人の中には「外してくれ」とおっしゃる方もいらっしゃいます。まだ、移行期間なのかなという感じですかね。

:でも、ミニってどちらかというと……

:そうなんです、どちらかというと「運転したい」とおっしゃる方に選んでいただいているので、そこまで他社に合わせる必要があるかどうか。当然、開発コストもかかるんで、それを価格に転嫁できるかというと、そこまでビジネスとして判断できていないので、検討要素ですね。

クルマの個性によって、自動化や電動化との相性は違ってくるようだ(画像は左がハッチバック・モデルの「コンバーチブル」、右が同「3ドア」、提供:BMW Group)

:ミニを買う人の割合って、国産車から来るケースと輸入車から来るケースでいえば、どうなんしょう?

:国産車からの割合は、少し上がってきてます。まだ輸入車からの方が高いですけど。

:電気自動車(EV)はまだ、カタログ的には入れてない?

:まだないですね。将来的には入れていかなければなりませんが、まだ少し先です。

:本国では、結構前から……

:コミュニケーションしてますよね。欧州では、来年の後半にも市場投入すると聞いてます。

ミニ「クロスオーバー」のプラグインハイブリッド車(PHV)「MINI Cooper S E Crossover ALL4」は日本でも購入できる

:私自身、EVのミニにはあまり興味ないんですけど、税制も含め、いいタイミングで入れていかなければならないんでしょうね。フォルクスワーゲンは「e-Golf」(「ゴルフ」のEV)を入れてますけど、まだミニでは、早急にという感じではない?

:それが主流になるほど、まだお客様のパーセプションというか、ご興味がそこまで来ていないかなと思います。いつかは来るだろうけど、という感じですね。ただ、最近のいろんなリサーチを見ていると、「次にクルマを買うならEVも候補に入れる」というお客様も増えているようなので、検討の必要はあります。

:EVにする時に、“ミニはミニ”というか、ライド感は残るんですかね?

:それは残すと思います。それをなくしてしまうと、1つの価値をなくしてしまうことになるので。ちなみに、なぜEVのミニには興味がないんですか?

:航続距離が短いからです。私はひとっ走り1,000キロなんで。だから、私はガソリンもハイブリッドも選択肢に入らないくらいなんですよ。私みたいに、松江(島根県)までひとっ走りという人には、ディーゼル以外の選択肢はないですね。財布だけの話ではなくて、CO2の排出という意味でも、燃費がいいということは、すなわち、ハイブリッドよりもディーゼルの方がいいんです。

日本には少ないタイプだと思いますけど、毎日、最低でも100キロは走るんで。私の「F-PACE」(ジャガーのSUV)は、うまくいけば無給油で900キロ走るんですよ。タンクが60Lと少なめなので、1,000キロは無理だとしても。だから、全部がディーゼルになって欲しいくらい。低速のトルクがあるし、ドライバビリティもいいし、圧倒的に疲れないので。

:なるほど。

これがジャガー「F-PACE」(画像提供:ジャガー・ランドローバー・ジャパン)

:で、安東さんのショッピングカートに今回、「クラブマン」を入れてくれたのは、どういう理由で? 「遊びぐるま」ですか?

:それは完全に、下手したら、ポルシェの代わりくらいです。ただ、カレラ4S(ポルシェの「911 カレラ 4S」)に乗ってるんで、MTと四駆が必須なんですね。四駆で速いクルマで、MTでサイズ感も丁度いいとなると……。クラブマンに四駆のMTがあれば買ったのになー、とは思ってます。3ドアにはMTの設定があるし、本国にもあるんですけど。

:もう、本国のサイトを見るのはおよしになっては(笑)

:でも、私が少数派というのは、よく認識してますんで。私が欲しくなるような仕様が出て、ミニがガレージに入るのを楽しみにしてます。

安東さんのガレージにミニが入るかどうかは今後の仕様次第といったところか

ミニは現場に気兼ねなく乗っていける稀有なクルマ

:ミニって、どこに行っても、どんな現場に乗って行っても恥ずかしくなくて、でも威圧感を与えない、稀有なブランドだと思いますね。やっぱり、京都の太秦にポルシェで行く自信はなかった(※)ですもん。

※編集部注:テレビドラマの撮影で、京都の太秦までクルマで出掛けた安東さんだったが、出演者本人がクルマを運転して太秦入りするのは珍しいことらしく、警備の方に「安東です」と名乗ると、「ご本人は乗ってます?」と聞き返されたとのこと。ご本人によれば「オーラないんで(笑)」だそう

:なんかこう、イメージなのか、局アナ時代の名残なのか、法律があるわけではないんですけど、どういう風に見られるか分からないので。でも、ミニだったら、「おしゃれ」「分かってる!」みたいな感じになるし。

:不思議なブランドなんですよね。例えば、メカだったらフェラーリとか、電気だったらテスラとか、そういうブランドみたいに、すごい立ち位置にはいないというか。ミニって、特別なポジションに置いていただいてるんで、そこはありがたいですし、大切にしたいです。

ほかのクルマと見間違うことのないデザインも含め、ミニは独特な存在だ(画像は「クラブマン」、提供:BMW Group)

ミニは「どんな現場にでも乗って行けるクルマ」だと安東さんは話す。それはなぜかといえば、やはりミニのブランドイメージによるのだろう。この流れで、安東さんとビー・エム・ダブリューのお二方に、編集部からも質問をぶつけてみた。その模様は、また次回お伝えしたい。