「信用スコア」や「評価経済」という言葉を耳にしたことはないだろうか。

現在、日本では「信用」に意識を向けなくとも、国民のほとんどは不自由ない生活を送れる。会社に勤めていればローンを組めるし、現金を持っていれば買い物ができるだろう。そのため、信用を意識する人はあまり多くない。現金の信用が極めて高いお国柄にも、その一因がありそうだ。さらに遡れば、単一民族の村社会を起源とする国民性が、信用を意識することが少ない根本原因かもしれない。

一方で、日常的に「信用」を意識する国もある。アメリカでは、1950年代後半からクレジットカードが浸透し、現在でもその存在感は大きい。「クレジットカードでどこまで支払えるのか?」は一種のステータスシンボルであり、特に金融の領域で、享受できるサービスや待遇を左右する大きな因子となっている。この意味で、クレジットカードは「信用スコア」を見える化した先駆けとも言えるだろう。

アメリカに限らず、クレジットカード(≒信用スコアという考え方)は世界各地で展開され、スコアを上げる、スコアを下げないという感覚もかなり浸透している。「信用」の高低を意識した生活は、すでに日常に溶け込んでいるのだ。

そして近年、日本でも「信用」を取り巻く動きが活発になってきたように感じる。

本連載では、「テクノロジーを用いて、信用情報を新たに創造し、精緻化すること、そして新たな信用を基盤に新しいサービスが成立するビジネス領域」を『Credit Tech(クレジットテック)』と呼び、紹介していく。

第1回の今回は、「信用」に関わるビジネスが盛り上がりをみせる背景を、時代の流れから読み解いてみたい。

なぜいまクレジットテックが注目されているのか?

近年、急速に多面的な担保がなされるようになってきたように見える「信用」だが、実はこれまでの人類の歴史においても、商取引の活性化に伴い、信用の担い手と信用を担保する情報は多面化してきている。まずは、その変遷を簡易的に紹介しよう。    

【産業革命以前】国(教会)が「身分と土地」によって信用を担保
17-18世紀の産業革命以前の西欧列強では、信用とそれに紐づく金融事業は、主に国(や教会)が保証する身分や土地所有によって担保されるものだった。商取引が現代ほど多方面ではなく、流通させるべきお金の総量もそう多くなかったことに加え、貸し付けは国によるものが中心だったため、身分、土地といった限られた情報や資産を担保にするだけで、十分経済が回っていた。

【産業革命後】中央銀行が「所有財やサービス」から信用を担保
産業革命を迎えると多くの資本家が生まれた。彼らは一市民でありながら財を蓄え、これまで以上に多くの取引やサービスの提供を担うようになる。それに応じて、従来の身分や土地以外にも、所有する財やサービスが富の源泉と捉えられるようになった。つまり、土地所有や身分以外に信用を担保する資本が誕生したのだ。

これに伴い、増大する財やサービスを担保とした金融サービスが提供されるようになり、イングランド銀行を走りとする中央銀行がその役目を担うことになった。部分的な銀行業や個別の貸し付けは古来より存在していたが、財やサービスが信用、金融に値する資本として公に共通認識されたのはこの頃が初めてだった。

【1950年代】クレジットカードが誕生し、信用情報機関が「利用/支払い実績」から信用を担保
近代になると、本来お金を保有する個人/法人の購買機会損失を補うため、現金がなくとも同等に信用が付与されサービスを受けられる汎用的な仕組みとして、「クレジットカード」が作られた。商店ごとに独自に提供するいわゆる"ツケ"は以前より存在していたが、多くの商店で汎用的に利用できる後払いの仕組みはクレジットカードが世界初である。

クレジットカードは、利用開始時にはその個人/法人に対して国・銀行が担保する従来の資本を信用の前提とするが、実績が蓄積されるにしたがい、「利用/支払い実績」が信用を担保するようになる。クレジットカードの実績に紐付いた信用と、それを担う信用情報機関の誕生である。

このように、信用とそれに伴う金融サービスは、「従来の信用情報を基盤とする仕組みだけでは、スムーズかつ誠実な取引を行うにあたり、摩擦が大きくなる」という事態に直面するたびに、信用の担い手と信用を担保する情報を多面化させてきた。そして現在、その新しい波が来ている。

【現在】各民間企業が保有する「さまざまなビッグデータ」により信用を担保
インターネットの登場に代表される近年のテクノロジーの発展に伴い、顔の見えない相手との取引や、CtoCマーケット、グローバル展開するECサービスなど、これまでにない新しい取引形態が多数成立した。結果として、個人/法人を問わず、ヒト・モノ・カネ・情報など、あらゆる資源の取引量が爆発的に増大している。

それに対して、国や銀行や信用情報機関が担保してきた従来の信用のあり方だけでは、担保の質・スピードともに、不十分になってきている。例えば、国を跨いでの取引には、ある特定の国や銀行が保証する信用では不十分だし、CtoCにおいてはお互いの信用をわざわざ問い合わせて確認する手間はかけにくい。また、銀行やクレジットカードのアカウントを保有していない人も存在する。ここにきてまた、新たな信用の担い手と信用を担保する情報が必要になった。

そして、テクノロジーの発展した現在においては、民間企業がその担い手だ。各社が競い合うように、自社のユニークなビッグデータをもとに信用を担保し始めている。例えば中国のアリババは、自社サービスの購買歴と決済歴をもとに独自のスコアリングサービスを展開。LINEやメルカリも、自社のプラットフォーム上のコミュニケーションや売買のビッグデータをもとに、新しい信用のあり方を模索している。私の所属するネットプロテクションズも、従来の信用情報に紐付かない自社与信による後払いサービスを展開し、そこで得た1億件以上の購買歴と決済歴をもとにサービス改善や開発を推進することで、増大する商取引をよりスムーズにしている。

ここまで見てきたように、実は信用の担い手と信用を担保する情報はこれまでも増え続けてきた。そのため、信用が多面化していること自体に新しさがあるわけではない。一方で、信用の担い手と情報がここまで急激に、爆発的に増えている状況は、過去に類を見ない。この動きは日本のように、単一民族ならではの暗黙知的信用を強固な基盤とする社会においてですら、すべての商取引の前提を覆す可能性を秘めているほどの、非常にダイナミックな動きなのだ。

なぜいまクレジットテックが注目されているのか?

答えは明快だ。

人類の商取引の基盤が、いままさに、有史最大とも言える規模とスピードで、変革しようとしているからである。

次回は、テクノロジーによって可視化されてきた「新しい信用情報」について、具体的な内容を紹介したい。