MVNOに求められる差別化、これから向かうべき方向性は?

MVNOに求められる差別化、これから向かうべき方向性は?

2017.06.07

「格安スマホ」という呼称とともに、MVNOもすっかり市民権を得て、一定レベルまで普及が広がってきている。昨年あたりから、市場全体の動きも価格競争からサービス競争へと移行しているが、サービス内容としては大きな変化がなく、停滞しつつある感もある。MVNOが次に向かうべき方向性とはどのようなものだろうか。

MVNOメイン利用者が1割を突破

MMD研究所がメディア向けに開催した勉強会では、2017年の春商戦までのユーザー動向の調査結果が明らかにされた。これによると、キャリアのサブブランドを含めたMVNO回線をメイン回線としている利用者が初めて10%を超え、男女ともに60歳以上のユーザーが増加傾向にあることがわかった。

ソフトバンクのサブブランドであるワイモバイルがMVNOとして入っていない状態で7.4%、ワイモバイルを含めると10%を超える。なお実質auのサブブランドであるUQコミュニケーションズはMVNOに組み込まれている

これまで、MVNOの利用者はどちらかといえばITリテラシーの高い、30~40代の男性中心だったが、MVNO各社が展開してきた認知度向上のための施策が功を奏して、幅広い層のユーザーに訴求していることがわかる。

若年層だけでなく、比較的高齢層にも普及が進み始めた。高齢層にもスマートフォンの普及が広がっているということだろう
事業者ごとのシェアを見てみると、楽天モバイルが約20%とシェアトップを占めており、OCNモバイルONE、mineo、IIJmioまでで過半数を占め、それ以降は比較的団子状態といった感じだ

好調に見えるMVNOだが、最近はキャリアのサブブランドが低価格化を進めているほか、資本力にまかせて強力なCM攻勢をうつなど、MVNOにとっては厳しい状況も現れつつある。こうした資本力の差については各社とも思うところはあるようだが、総務省が動きだすような事態にならない限り、当面は自力で対応していかねばならないのも事実だ。

差別化のための手段が必要

今回の勉強会にはOCNモバイルONE、mineo、イオンモバイル、LINEモバイルという、MVNOの契約数や満足度で上位を占める各社の各担当者も参加していたが、いずれも対人販売拠点を設置して直接顧客に情報を伝えたり、サポートできる体制を整えるという点については、各社かなり力を入れてきたという。また、MVNOによるテレビCMもかなり増えて来ており、認知度もかなり上がってきている。

知名度の低さやサポート体制の弱さ、顧客に対するタッチポイントの少なさは2~3年前のMVNOの弱点とされてきた項目だけに、各社ともしっかり対策しており、それが契約数や満足度という形で現れているわけだ。素晴らしい優等生ぶりだが、それだけに各社の特徴が似てきてしまっており、逆に没個性だ、という感想も受けた。

MVNOが600社近く存在するようになり、MNOキャリアもサブブランドなどを通じてMVNOとの競争に向かっている。こうした厳しい環境の中で生存競争を生き抜いていくためには、もっと大きな差別化のための特徴を持つ必要がある。莫大な資本を背景に、大量のテレビCM攻勢や全国に数千件というショップの展開など、MNOと同じ方策を続けていては、結局量的にも質的にも敵わないのは明白だからだ。

この点は各社ともすでに問題を認識しており、今後は各社のスタイルにあったかたちでの展開を考えているようだ。それでは、MVNO各社は低料金やサポート体制以外に、どんな部分で差別化を図っていけばいいのだろうか。

1つめは独自の経済圏に囲い込んでしまうことだ。

差別化の手法1:ポイントの活用

独自の経済圏への囲い込みは、実はすでにいくつかのMVNOでは実現している。代表的なのは楽天モバイルだ。楽天モバイルを使えば楽天市場などで使える楽天スーパーポイントが溜まり、それを携帯電話代の支払いにも使えるというサイクルを作り出している。

楽天スーパーポイントでの楽天モバイルの支払いが可能になったことを説明(写真は2016年発表会当時のもの)

ポイント制度はMNO各社もかなり力を入れてきている分野だけに競争も激しいが、サイクルにうまく取り込むことができれば、ユーザーはポイントがある限り解約せず使い続けてくれる公算が大きい。また、光回線とのセット割引についても、ポイントではなく割引という形ではあるが、囲い込みの一種と見ることができるだろう。

問題は、多くのユーザーが使い続けたいと思うような魅力的なポイント制度を持つのはなかなか難しいという点だ。楽天モバイルに匹敵する経済圏を築けるとなると、イオンモバイル(現在は未実施だが、WAONポイントやイオングループの保険、証券など各種サービスと連動させた場合)、ソフトバンクのMVNOであるSBパートナーズが全日空と組んで展開中の「ANA Phone」(ANAのマイルが貯まる)、あるいは家電系(ノジマ傘下になった「NIFTYモバイル」や、ビックカメラの「BIC SIM」など)などが考えられる。こうした武器を持つところは、できるだけはやく取りかかるべきだろう。

差別化の手法その2:フルMVNO化

2つめは、現在よりもMNOからの独立性を高めることだ。具体的にはHLR/HSSを自前で持ち、独自のSIMを発行できるようにする「フルMVNO化」だ。一昨年あたりにはMVNOからの要望としてもしばしば出てくる案件だったが、総務省のワーキンググループからの提言で規制が緩和されて実現が可能になった今、逆にほとんど話題に取り上げられることがなくなってしまった。

HLR(Home Location Register)とHSS(Home Subscriber Server)を自前で持てるようになると、基地局にアクセスするユーザーを自分たちで管理できるようになる。

フルMVNOになることで独自のSIMカードの発行が可能になる

具体的には、現在はMNOから購入して再販する形式になっているSIMカードを、自分たちで自由に発行できるようになるのだ。SIMカードを自由に発行できるようになれば、たとえば特殊な機能を備えたSIMカードを作ったり、1枚のカードに複数のキャリアの設定を書き込んだSIMカード(マルチプロファイルSIMカード)、ランニングコストを抑えたいユーザーに人気があるプリペイドSIMカードも発行できる。

ただし、フルMVNO化に真剣に取り組んでいるMVNOは少ない。IIJと日本通信がそれぞれ実現しようとしているが、その他のMVNOにとってはHLR/HSSに対する設備投資が大きすぎるため、現実的な選択肢になり得ないようだ。

その代わり、上記2社については「MVNOに回線/サービスを卸すMVNO」という立場の「MVNE」として展開する余地が広がる。その他のMVNOにとっては、キャリアに頼らず展開する手段が増えるのは歓迎すべきだろう。

差別化の手法3:ユーザー密着型サービスの展開

3つめは、mineoのようにユーザーとの距離感を可能な限り小さくして、ユーザー密着型のサービスとして展開することだ。mineoは独自のユーザー参加型コンテンツ「マイネ王」を展開しており、サービス側の開発者と共同で端末のテストを行ったり、ユーザーから提案のあったサービスを開始するなど、サービス提供者の顔が見えるサービスとして満足度No.1という座を射止めている。一度信頼関係を築いてしまえば、長期の関係を結ぶことができるため、解約率を下げることが可能なわけだ。

コミュニティサイトマイネ王トップ

ただしこうしたサービスは、ユーザー数が少ないうちはいいが、ユーザーが多くなってくるとあっさりと破綻しやすいという問題も抱えている。大昔のパソコン通信のようなもので、ある種ユーザーの善意に任せているだけに、アナーキーなユーザーが一定の割合または数を超えると、その悪意を堰き止めきれなくなることがあるのだ。

また、いわば接客用のスタッフの負担が大きくなり、専業とするか数を増やすしかなくなって、本業に影響を与えてしまうのでは本末転倒だ。かなり繊細なハンドリングが必要になるだけに、どのMVNOでもできるというものではないだろう。逆にOCNモバイルONEがサポートで行なっているように、AIに任せてしまった方がいいのかもしれない。

いずれにせよ、元々MVNOというのはキャリア(MNO)ができないことをやるというのが存在意義なのだが、皆が皆同じ方向を向いてしまっているため、改善点なども共通化してしまい。結果として特徴らしい特徴を出すのが難しくなってしまっている。

もっと思い切った施策を打ち出して独自性を出さないと、 キャリアと直接競合することになり、結果的に規模の勝負で負けてしまう。小規模で小回りが効く点をもっと逆手にとったユニークなアイディアで勝負できるところが生き延びていくのではないだろうか。

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

関連記事
訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

関連記事