新しいSiriは何をもたらすか? 開発者に機械学習を開放するアップル

新しいSiriは何をもたらすか? 開発者に機械学習を開放するアップル

2017.06.09

アップルは6月5日、世界開発者会議「WWDC 2017」を開催した。基調講演では、iPhone/iPad、Apple Watch、Apple TV、Macといった各種デバイス向けの最新OSが披露され、MacBookシリーズ、iMacシリーズ、iPad Proシリーズの刷新と、スピーカーデバイスHomePodの発表が行われた。

この中で注目すべき動きは、各デバイスで利用できるアシスタント、Siriだ。

新しいSiriは何をもたらすのか

特にHomePodは、音声でSiriのコマンドを受け付けることができるスマートスピーカーだ。HomePodについて、詳しくは別記事にまとめているので参照して欲しい。

アップルは、各種デバイス全般的に、Siriをより深く活用して、アップルらしい体験を作り出そうとしている。しかし、この話をする上では、Siriに関する誤解を解くところから、初めなければならない。

Siriについての誤解

Siriは、iPhone 4Sに初めて導入された音声アシスタント、と紹介されることが多い。これでも間違いではないのだが、不完全な説明だ。Siriは厳密には、音声アシスタントではなく、たまたま現在、人とのインタラクションに音声の対話が使われているから、「音声アシスタント」と言えば話が早いだけだ。

Siriの技術的な背景には、機械学習、自然言語処理、検索といった技術が束ねられており、必ずしも音声アシスタントとしてのみ働いているわけではない。

例えばiPhoneを使っていると、「Siriの検索候補(App)」というウィジェットを見つけることができるが、これは、時間、場所、ヘッドフォンを接続した、などの状況に応じて、よく使うアプリを動的に変化させる仕組みであり、我々が普段iPhoneを、どのように使っているか、パターンを見出している。

また、メッセージやメールの中身から、住所や電話番号、スケジュールなどを抽出したり、コミュニケーションの文脈を読み取って、予測変換に最適な返事を用意してくれたりする。これらも、Siriの仕事なのだ。

繰り返しになるが、Siriは必ずしも、音声を介して利用するわけではなく、アップルのデバイスを利用する様々な場面で、我々のアシストをしてくれる存在、と言える。

より主張するSiriへ

開発者会議WWDC 2017でも、Siriの活動範囲がより拡がった。前述のように、我々の行動や端末利用のパターンを見出して、最適な情報を提供する、というSiriの仕事について、新OS向けにいくつかの機能を披露している。

まずApple Watch向けのwatchOS 4には、新たに「Siriフェイス」という文字盤が追加された。この文字盤は、Siriが普段何を考えているのかを垣間見ることができる興味深い機能と言える。

Siriフェイスを設定すると、文字盤にはカード型の情報が並び、デジタルクラウンでぺらぺらとそれらをめくることができる。時系列に、ユーザーが必要な、あるいは必要になりそうな情報を並べており、その中にはこれから先に起きる未来の情報も含まれている。

例えば、次の予定に向けて移動しなければならないとき、渋滞が発生していて、普段よりも時間がかかるなら、移動開始の予定開始時刻よりも前に、渋滞していることを表示する。また、ワークアウト機能で、あともう少しでアクティビティのリングが完成するとき、何分間、どんな運動をすれば良いかを提案してくれる。

iPhoneの例では、ウェブ閲覧をきっかけにしたニュースの提案や文字の推測候補のカスタマイズを披露していた。

メッセージアプリ内で何分内に目的地につけるかを相手に答える前に先回り表示した例

例えばウェブでアイスランドについて検索していたら、ニュースアプリではアイスランドの旅行に関する記事をピックアップし、同国の首都、レイキャビク(Reykjavík)の複雑なスペルを、QuickTypeの推測候補に優先して表示していた。

このように、明示的かどうかに関わらず、Siriは我々の行動から、次に何が起きるか、何が必要か、ということを割り出し、先回りして情報や環境を整えているのだ。

モバイル時代の機械学習のアプローチ

機械学習、人工知能と言えば、グーグルが思い浮かぶ。またAmazon Echoが好調なアマゾンの存在も大きい。いずれも、巨大なクラウドサービスを擁しており、膨大な計算量をこなせる環境を駆使して、様々な成果を上げている。もはや、人間はグーグルのAlphaGOには勝てないようだ。

こうした巨大企業が計算量(とコスト)に糸目を付けない環境で人工知能を発展させるアプローチと、アップルのそれとは根本的にアプローチが異なる。アップルは、各デバイスの中で、機械学習を完結させようとしているのだ。

アップルは今回のWWDCで、iOSやmacOS向けに機械学習のAPI、Core ML(MLはMachine Learningの略)を発表した。そして、既存のiPhoneやiPad、Apple Watch、Apple TVなどで、消費電力を少なく効率的に機械学習の処理を行うことができるようにした。

Core MLを発表。アップルは何を目指すか

アップルが各モバイルデバイスで機械学習を完結させる理由は、顧客の情報をクラウドに持ち込まなくても、端末内で有用なデータを作り出すことができる点、そして、こちらが重要なのだが、アプリ開発者が機械学習を生かしたアプリ開発に、手軽に取り組めるようにする点だ。

ユーザーが必要な機械学習によるデータを、必要なときに、セキュアに作り出すことができるプラットホームこそ、アップルが目指していた世界だ。

開発者は、端末内の機械学習によって価値を作り出せるアプリを開発すれば、高価なクラウドコンピューティングのコストを負担する必要はなく、機械学習を生かした体験が提供できるメリットがある。

アップルのApp Storeは近い将来、機械学習を生かした賢いアプリやゲームであふれることになり、次のアップルの競争力の源泉となる。

そんな戦略が明らかになりつつあるからこそ、Siriを音声アシスタント、ととらえると、アップルがやろうとしていることを正しく理解できなくなってしまうのだ。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。