パナソニック家電成長のカギは“憧れ”へのつなげ方

パナソニック家電成長のカギは“憧れ”へのつなげ方

2017.06.13

パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長(パナソニック代表取締役専務)は、2017年6月12日、滋賀県草津の同カンパニー本社において、2017年度事業方針について説明した。

パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長

国内家電市場におけるパナソニックのシェアは27.5%と、過去30年間で最高となったことを示したほか、創業100周年を迎える2018年度には、売上高2兆8000億円、営業利益率4.5%を目標に掲げ、引き続き、成長戦略を推進する考えを示した。

成長のポイント:プレミアム商品

パナソニックの家電事業の成長戦略のポイントは、国内におけるシェアナンバーワンの維持と、海外事業の拡大にある。そして、それらを支えるのが、プレミアム商品の提案と、現地完結型の企画、開発、製造による地域密着型製品の展開だ。

本間社長も、「地域、国に適合したプレミアム商品提案を通じ、限界利益の向上とともに、日本における新たなマーケティングを展開し、シェアナンバーワンを拡大する一方、海外においては全地域の黒字化を目指し、とくにアジア、中国、インドでは組織能力を向上し、事業成長を加速させる」と語る。

たとえば、プレミアム家電の構成比は、日本では46%、アジアでは38%に、中国では55%に拡大しており、「今後は、インド、欧州にもプレミアム家電を積極的に展開していくことなる」という。

プレミアム家電の定義は、それぞれの国によって異なり、日本の冷蔵庫では400リットル以上、中国ではスマホで制御できる商品といった形になるが、「プレミアム家電の共通的な考え方は、憧れにつながる商品」と位置づけている。

国内においては、白物家電需要の飽和状態もあり、成長率は1%程度を想定しているが、競合メーカーが低迷していることもあり、パナソニックへの集中が見られている環境にあることは見逃せない。

本間社長は、「世界を見渡しても、それぞれの国でトップシェアを持っているローカルメーカーは、日本におけるパナソニック以上のシェアを持っている。そうした観点からみると、日本でシェアを拡大できる余地はまだあると考えている」と語り、「健康家電やフィットネス家電など、様々な提案を通じて日本における家電事業を成長させ、シェアを拡大させる」と意気込む。

だが、シェア拡大戦略には、慎重な姿勢もみせる。

「日本は、収益が高く出せる環境にあるため、シェア拡大を利益計画に盛り込むと、大きな増益を目指した計画になり、甘い立て付けになる。そのため、2017年度以降の営業利益計画には、日本でのシェア拡大は盛り込んでいない」とする。

ちなみに、パナソニックは、2018年度に迎える100周年にあわせた記念モデルについて、8月に第1弾製品を発表する予定だという。

「100周年というのは、内部的なものであり、これを外部に向けて打ち出していくかはまだ決めていない。だが、この節目にあわせて、各事業部に、目が覚めるような中身を持った製品を、ひとつずつ投入できるように要請している」と本間社長は語る。

これらの商品も、日本市場向けのプレミアム商品になることは明らかだ。どんな「目の覚めるような商品」が登場するのかが楽しみだ。

成長のポイント:海外事業の拡大

もうひとつの成長戦略の軸が海外事業である。

パナソニックは、ここ数年、米国および中国からのテレビ事業の撤退により、海外売上げ比率が減少。現在、国内外の比率は54対46となっている。だが、数年後にはこれを逆転させ、海外が半分以上を占める形になることを目指す。つまり、家電事業の成長には、海外事業の拡大が鍵になる。

とくに、アジア、中国は、それぞれAPアジアおよびAP中国を設立。権限と責任を委譲した「前線化」によって、現地主導型の経営体制を確立。この成果がようやく発揮されようとしているところだ。

「アジア、中国では、ラインアップを刷新しているため、これらの地域での収益性が劣るように見えるが、この1年で収益が刈り取れると感じられるところまで到達し、十分な力がついてきたと判断している」2017年度には、アジア、中国において、5%台の営業利益率を目指す考えだ。

中国では、ECサイトを通じた販売が増加していることから、ECサイトと一括商談を行う電商本部を新設。さらに、「旺盛なインバウント需要の影響もあり、パナソニックの理美容商品に対する認知と評価が高まっている状況を捉え、スモール家電を中心としたプレミアム戦略を推進。外資系白物家電ブランドナンバーワンの獲得を目指す」と語る。

ナノイーを搭載したドライヤーをはじめとするスモールアプライアンスも、中国で高い評価を得ており、2万円を超える製品が売れ筋になっているという。

とくに中国では、「軽厨房」ブランドによるスマートキッチン群を、2016年9月から発売。スマホと連動したIoT家電として展開することで、プレミアム比率を高めることに成功している。

「軽厨房シリーズは、来月までに商品が出揃う。冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、圧力鍋、ベーカリー、IHグリルがひとつのアプリが操作できるようになっている」とし、「IoT家電は、中国が最も手応えがある。中国では、多くの人が、朝から晩までスマホを手放さない。また、IoT家電に対する価値を感じて、そこに対価を支払っている。中国で成功した商品のなかで、日本でも受け入れられる商品や、そこに価値を感じてもらえる商品があれば、順次、日本にも投入していく」と語った。

また、アジアでは、ベトナム、インドネシア、フィリピンで家電ブームといえる状況に入っていることを指摘。「エアコンが一般消費者の購入できる価格帯に入ってきた。マレーシアのエアコン生産拠点に加えて、新たにタイの生産拠点で、50万台体制でエアコンの生産を開始。さらに、クアラルンプールのアジアデザイン拠点の機能を強化する」などとし、アジアでの体制強化をさらに加速させている。

そのほか、インドでは、地域とAP社の共同責任経営のパナソニック インド アプライアンスを設立。ジャジャールへのR&Dセンターの開設や、バンガロールでのオフショア開発部門の開設に加え、2017年度第4四半期から、インド国内で冷蔵庫工場を年間50万台体制で稼働する計画も明らかにしている。

各地域の収益性と成長性向上のロードマップ

だが、いくつかの課題もある。

ひとつめは、海外事業における収益性と成長性への取り組みだ。

本間社長は、「海外では、一部赤字の地域があり、さらに、パナソニックが弱い領域も多い。海外家電事業の収益性と成長性は、業界水準には見劣りする」と語りながら、「日本では、メジャー家電、スモール家電、エアコン、AVCという4つの柱がある。だが、海外でその体制が確立できているのは、台湾とマレーシアだけである。この4つの柱で事業展開することで、その地域におけるパナソニックブランドの確立につながる。そして、この4つの柱のすべてに強い商品を持っているのは、世界中を見てもパナソニックだけである。今後、どの地域において、どの柱を、どの順番で立てていくのかということを、明確なロードマップとして考えている」と語る。

そして、「2017年度は、一部残っていた海外家電事業の赤字を無くし、地域、国に適合したプレミアム商品の提案を通じて限界利益を向上させたい。家電事業は、文化に寄り添う事業であり、調理家電ならば食文化、洗濯機ならば衣類の文化に沿ったものになる。そこに対して、パナソニックならではのやり方で商品を提案していく」と述べた。

たとえば、インドでは、衣服についたカレーの染みを落とすことができるカレーコースを搭載した洗濯機や、高音質を実現した液晶テレビなどによるプレミアムマーケティングを展開しており、こうした地域ごとのニーズ特性にあわせた商品展開を進める考えだ。

カレーモード搭載の洗濯機

テレビ事業の利益率改善

また、テレビ事業の利益率改善も課題となる。

「テレビ事業は、限界利益率の改善と、2015年度までの構造改革の完了で、利益は良化している」とするものの、ソニーが2016年度実績でテレビ事業の営業利益率5%を達成しており、パナソニックのテレビ事業の利益率はそれを大きく下回る。

本間社長は、「ソニーが、テレビ事業において、営業利益率10%を目指すと宣言したことは感慨深い」と前置きしながら、「パナソニックは、テレビ事業に関しては、具体的な販売目標を掲げるようなビジネスではないと考えている。また、最も大きなコストを占めているパネルを調達するという体制では、5%の営業利益を出すのはたやすいことではない」とする。そして、「全体の経営を考える場合に、そこに高いターゲットを置いて、全体を狂わせては戦略を誤ることにつながりかねない。達成可能な現実的な目標を置いて、毎年、少しずつ良化していけばいいと考えている」と語る。

それにも関わらずテレビ事業は継続する意思を見せる。

「家電の販売プラットフォームを持つ上で、テレビ事業を持つ重要性はある」とし、「家電事業が文化の事業であるのに対して、テレビ事業は文明の事業である。顧客価値を認識してもらうもので、各地域でそれをどう訴求するかが重要だ」とする。

4K有機ELテレビ「ビエラ TH-65EZ1000」

パナソニックが成長戦略のなかにテレビ事業を位置づけていないのは明らかだが、収益改善は当面の課題であることに間違いはない。

BtoB事業の地盤をいかに早く構築できるか

そして、もうひとつの課題が、BtoB事業の地盤づくりだ。

パナソニックの利益拡大において、BtoB事業は重要な鍵になり、本間社長も、「将来において、BtoB事業は高い利益を確保できるビジネスだと考えており、高収益化への推進を加速していきたい」と語る。

だが、現時点では、「地域別販売体制を確立している段階にある」のが実状だ。利益成長に向けた改革として、冷機コンプレッサー事業の本社機能をシンガポールに移転したのもそのひとつだ。

ここでは、M&Aを含めた非連続の成長戦略や、IoTを活用することで事業基盤を強化するといった取り組みにも挑む。増収増益を加速する体制づくりを早期に構築できるかが鍵になる。

2つのリスク

さらに、本間社長は、成長戦略におけるリスク要因として、「2つの課題がある」とし、「鉄やアルミニウムなどの原材料費の高騰による収益性の阻害」、「労働力の逼迫と、それに伴う人件費の増加」をあげる。

こうした外的要因をにらみながら、収益拡大への舵取りを担う必要がある。

本間社長は、「過去2年続けて、すべての事業で増益となった。成長ドライバーは、どれかひとつの事業というよりも、すべての事業を増益させることにある。2017年度もすべての事業で増益を目指す」とする。

アプライアンス社では、非連続投資を行いグローバルな成長を目指す「高成長事業」にエアコン、食品流通、スモール・ビルトインを位置づけたほか、安定的な収益拡大を目指す「安定成長事業」には、洗濯機、冷蔵庫などのメジャー家電や、コンプレッサーなどのデバイスを位置づけ、リスクを最小化し、黒字化の定着を目指す「収益改善事業」には、テレビやデジカメなどのAVCを位置づけている。

パナソニックの家電事業全体では、この2年で営業利益を2倍に拡大してきたが、さらなる利益拡大に向けた一手を、国内外において打つ考えだ。2018年度の創業100周年に向けてのラストスパートがかかりはじめた。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

2019.01.23

Tim Cook氏の投資家向けレターが波紋を呼ぶ

大きな誤算だった新型iPhoneの販売状況

中国勢に翻弄されるApple、噂の「iPhone SE2」は?

AppleのTim Cook(ティム・クック) CEO

1月29日に発表される米Appleの2019年度第1四半期(2018年10-12月期)決算に合わせ、投資家らに宛てた同社CEO Tim Cook氏のメッセージレターが波紋を呼んでいる。

1月2日に発信されたこのメッセージには、当初890-930億ドルとしていた同四半期の売上が840億ドル程度と最大1割程度減少することが記されており、その理由として世界情勢の悪化やそれにともなうiPhone売上減少が挙げられている。この報告を受けて同社株価は1割程度も急落し、iPhoneに部品を提供するサプライチェーンにも影響が拡大している。現在Appleに何が起きており、今後同社はどこに向かうのか。

Tim Cook氏が投資家向けメッセージで語ったこと

Appleが決算発表前のガイダンスを下方修正することは過去にも何度かあったが、iPhone発売以降の現行体制に移行してからは過去最大のインパクトとなった。熱心なAppleウォッチャーとして知られるDaring FireballのJohn Gruber氏はこの件について「2002年6月以来」と述べており、ドットコムバブルがはじけた直後の新製品リリースに苦戦していたAppleの苦境に近い状況を想定しているのだろう。

さて、今回の下方修正最大の要因は中国市場にある。下記はTim Cook氏が投資家らへのメッセージで語った内容だが、中国では2018年後半に経済減速が始まっており、iPhone、Mac、iPadのすべてのカテゴリで売上減少が発生しているという。

> While we anticipated some challenges in key emerging markets, we did not foresee the magnitude of the economic deceleration, particularly in Greater China. In fact, most of our revenue shortfall to our guidance, and over 100 percent of our year-over-year worldwide revenue decline, occurred in Greater China across iPhone, Mac and iPad.

> China’s economy began to slow in the second half of 2018. The government-reported GDP growth during the September quarter was the second lowest in the last 25 years. We believe the economic environment in China has been further impacted by rising trade tensions with the United States. As the climate of mounting uncertainty weighed on financial markets, the effects appeared to reach consumers as well, with traffic to our retail stores and our channel partners in China declining as the quarter progressed. And market data has shown that the contraction in Greater China’s smartphone market has been particularly sharp.

もちろん経済減速を意識して中国の人々の間で旺盛な消費意欲が減退して、高価なApple製品を買えなくなったという話もあるだろう。一方で、特に中国ではiPhoneの競争力がなくなりつつあるという指摘もある。例えばWall Street Journalが1月3日(米国時間)に公開した記事では、本来は中国市場などをメインターゲットに「安価で大画面」をうたって登場したはずの「iPhone XR」が10万円近い値付けで非常に高く、Huaweiなどの競合製品と比較しても機能面で見劣りして魅力的ではないと説明されている。

実際、カメラ機能でいえばより安価な価格帯でHuaweiのP20 ProやMate 20 Proといった製品が提供されており、背面が単眼カメラで値付け面でもiPhone XRは不利だ。価格競争力という点ではXiaomiというライバルもおり、中国市場におけるiPhoneは「iPhone」というブランド価値でしか勝負できていない。

現行のiPhone XR

もともとサプライチェーンの最適化で世界最高レベルの手腕を持つTim Cook氏が中国に築いたiPhoneの製造エコシステムは、Appleを大きく成長させる一方、中国で強力なライバルを育て競合を激化させた。いまや世界で最もスマートフォン激戦区となっている市場において、中国に育てられたAppleが、中国で生まれた競合らによって弾かれつつある。

Appleの誤算と将来

Apple不調の話はいまこのタイミングで出てきたわけではなく、一昨年2017年にiPhone Xをリリースした直後にはささやかれはじめ、昨年2018年にiPhone XS、XS Max、XRをリリースしたことで確信に変わったという流れだ。

特にAppleからオーダーを受注するサプライヤ各社は、生産量の動向を事前に把握しており、昨秋に何段階かにわたってiPhone XRの製造量が当初見込みの半減以下になったことを受けて、このトレンドが確かなものだと認識しただろう。もともとiPhone XRの製造台数は全iPhoneのうち3-4割程度を見込んでいたが、現状では1割強の水準にとどまる。

iPhone XSとXS Maxもすでに販売が頭打ちのため、iPhone Xの製造ラインを復活させて(オーダー済み)在庫部品を消化したり、iPhone 7や8といった旧モデルの流通数量を増やして全体の販売台数を調整したりと、新モデル不調を旧モデル復活で穴埋めする状態が続く。

さらに、すでに製造済みの流通在庫や部品消化のためiPhone XRを大量に販売しなければいけない状況であり、Appleが携帯キャリアにバックリベートを渡す形で値下げを進めたり、トレードインプログラムを介して旧機種の下取りを条件にiPhone XRのみを比較的安価に販売したりと、さまざまな施策が続いている。

米カリフォルニア州サンフランシスコにあるApple San Francisco店舗の入り口に掲げられたiPhone XRの宣伝文句
店内ではトレードインプログラムによるiPhone XRの割引販売告知が掲げられている

iPhone XRの製造数は専用部品である液晶パネルの数量から想定できるが、もともと製造量の少なかったLG Displayはともかく、フォアキャストの大幅減少を受けて最大のサプライヤであったJDIは非常に大きな影響を受けているといわれ、新型iPhoneに関わりの深かったサプライヤほど少なからぬダメージを受けている。結果として、昨年2018年第4四半期(10-12月期)時点ですでに一部サプライヤが大幅な業績の下方修正を行っている。筆者の推測だが、後述のAppleの製造計画を見る限り、今後もしばらくはサプライヤの苦難の時代が続くだろう。

Appleの製造計画に詳しい複数の関係者の話によれば、同社は2019年秋に新しい3モデルのリリースを計画しており、それぞれ「6.5インチのOLED」「5.8インチのOLED」「6.1インチのLCD」という現状のモデル構成をそのまま維持する。機能面での大きな違いは「カメラ性能」で、最上位モデル(6.5インチ)は「3眼カメラ」を採用し、残りはすべて「2眼カメラ」となる。

「3眼カメラ」については競合のHuawei製品とは異なり、望遠や広角ではなく「深度計測」に特化したセンサーになるようだ。主にポートレート撮影を想定したもので、「強力なコンデジ」を突き詰めた競合製品との違いとなっている。また現行モデルではiPhone XRとしてリリースされた普及モデルでも2眼カメラであり、「カメラ性能で競合と比べて不利」という状況を覆す狙いがあると考える。

一方で、2018年モデルでLCD搭載製品の需要があまり見込めないと判断したAppleは、2020年モデルで「OLED搭載モデルのみ」に絞ってリリースする可能性がある。現状聞こえてくるのは「大画面」と「中画面」の2モデル構成で、それぞれの需要をカバーする。また同年代のモデルでより大サイズのカメラセンサーを搭載するという話も出ており、ライバル対抗を隠さない方針のようだ。

次期モデルは高値傾向がより問題に

反面、部品原価は高くなる一方で、この場合カメラモジュールのコストが一気に跳ね上がり全体のBOM (Bill Of Materials)を圧迫する。BOEなど中国系メーカーへのOLEDパネル製造の打診もあるようだが、LG DisplayでOLEDパネル製造が上手くいっていない現状を見る限り、今後も少なくとも1-2年はSamsung Displayによるほぼ独占供給状況が続き、パネル価格も高止まりを続けることになるだろう。つまり2020年も引き続きiPhoneの高値傾向は続き、場合によってはさらなる値上げという可能性も出てくる。

現行ラインアップで最上位機種の「iPhone XS Max」(右)と、その小型版の「iPhone XS」(左)

高価格が敬遠されるなか、iPhone XS、XS Max、XRの世代ではForce Touchの機能を省いてコスト削減までしておきながら、さらに値上げ要素を維持する狙いは何なのか。

これを筆者はイノベーションのジレンマのようなものだと考えている。iPhoneの機能としてはほぼiPhone 6の世代で完成しており、以後は大きなイノベーションなく製品の更新が続いている。一方で、大きな競争にさらされた競合メーカーらは最新機能やアイデアを惜しみなく投入し、「世界初」的なアピールを続けている。

ユーザーの目からすれば「そんなのは微々たる差でスマホの機能自体はたいして変わらない」と思うかもしれない。だがAppleの目にはそう映っておらず、焦りのようなものがあったのかもしれない。その結果、Tim Cook氏の号令で大きく舵を切って登場したのがOLED全面採用モデルである「iPhone X」や、そこに据えられた「Face ID」のような仕組みというわけだ。

おそらく、Appleが一番意識しているのは中国メーカー各社と中国市場で、昨今の大画面化や搭載機能の強化傾向(カメラなど)を見る限り、これはほぼ確信に近いと考える。もしAppleの最近の動きがおかしいと感じる方がいるのなら、それは「中国のライバルに翻弄されているから」と考えていいのかもしれない。

「iPhone SE2」の可能性はあるのか

最後に、昨今話題になりつつある「iPhone SE2」の可能性に触れて締めたい。

つい先日、iPhone SEが再販されて一瞬で売り切れたことが話題になったが、このオリジナル「iPhonse SE」が登場したのは2016年春。ちょうどiPhone 6SとiPhone 7が登場する合間のタイミングのことだ。

色々いわれているが、iPhone SEのもともとの登場経緯は、iPhone 6の不調で部品が消化しきれず、iPhone 5の筐体にiPhone 6Sの部品などを組み合わせ、「小型画面で最新機能」という形で売り出された。価格が最新のフラッグシップモデルよりも安価に設定されていたこともありユーザーからの反応もよかったが、iPhone全体のASP(平均販売価格)を引き下げる要因となった。Appleとしてはあまり積極的に販売したくないモデルでもあり、最大の販売チャネルである携帯キャリアにはあまり商品を流さず、製造も絞っていたという話を聞いている。ある意味苦肉の策で登場した製品といえる。

今回、特にiPhone XRの流通在庫が余る傾向にあり、iPhone SE2が登場する条件が整いつつあるという見方もある。だが、ある関係者の話によれば「iPhone XRは専用部品が多く使い回しが難しい」という理由もあり、高コストな製品をあえて値下げした状態で売るほどApple側にも余裕がないとう状況のようだ。少なくとも、最新機能を搭載した製品を安価に入手するルートとしての「iPhone SE2」は出てくる確率が低いだろう。

クックCEOはこれまで以上に難しい舵取りを迫られる

一方、LG DisplayなどにLCDパネルの発注を行い、今春にも安価なiPhoneの登場を示唆する声も聞く。その関係者の話によれば、実際にこうしたLCDパネル受注が増えているのは事実だとしているが、この情報だけからiPhone SE2のような新しい製品か、あるいは単に旧モデルの製造数を増やしているのかを推測するのは困難だ。

iPhone SE2のような製品を発売して既存の上位モデルの売上をカニバライズするよりも、iPhone 7や8のラインの製造を増やしてローエンド需要を満たすほうが現実的かもしれない。実際、iPhone XS MaxやXSの不調に比して旧製品の大画面モデルは販売数が伸びており、実際にこの予測を補強する。ライバルとの競合に加え、自身の製品の市場バランスを崩さないという両方に気を遣わなければいけないというのも、Appleのつらいところだろう。