静かに広がりをみせる「クアオルト」に注がれ始めた企業の視線

静かに広がりをみせる「クアオルト」に注がれ始めた企業の視線

2017.06.16

「クアオルト」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。これはドイツ語で、“治療・療養・保養のための滞在”を表す「クア」と、“場所・地域”を意味する「オルト」が合わさった語句。つまり、健康保養地・療養地のことをクアオルトと呼ぶ。

クアオルトは、気候や環境、温泉、運動、食事、医療制度などを総合的にプログラム化し、健康維持・増進を促すというのがその役割だ。2015年には「日本クアオルト協議会」が設立され、大分県由布市、和歌山県田辺市、山形県上山市、石川県珠州市、新潟県妙高市、島根県太田市、秋田県三種町、群馬県みなかみ町、兵庫県多可町の計9自治体が参加している。

各自治体とも積極的にクアオルトに取り組んでいるが、上山市の「上山型温泉クアオルト事業」に着目したい。というのも、クアオルト発祥のドイツとは医療制度などが異なり、そのまま導入するのは困難。そこで日本の自然環境や温泉を活用した「日本型クアオルト」が模索され始め、上山市は日本型クアオルトの先進自治体として、リードしているといわれているからだ。

では、なぜ上山市はクアオルトを推進しているのだろうか。その理由は、同市が近年抱える切実な事情に関わってくる。

そもそも同地は、開湯から559年の歴史ある温泉があり、蔵王連峰に囲まれた地に上山城がそびえ、酒田港と米沢などを結ぶ街道の要衝だった。つまり、温泉町であり、城下町であり、宿場町でもあるという、複数の顔により栄えた土地柄なのだ。

ところが平成になると、多くの地方自治体が抱える問題に、例外なく上山市も直面する。そう、高齢化による一人あたりの医療費の高騰、観光宿泊客の減少による産業の不活性化といった問題である。特に観光客の減少は、東日本大震災以降、顕著になったという。

ウォーキングの実践で“楽しく”健康増進

クアオルトを解説する山形県上山市 市政戦略課 クアオルト推進室 室長 佐々木慶氏

そこで上山市が着目したのがクアオルトだ。市民の健康増進による寿命延命だけでなく、観光誘客に波及効果が期待できることから導入を決定した。ドイツのドナウエッシンゲン市と友好都市盟約を締結していたことも、上山市の背中を押したようだ。

では、上山型温泉クアオルト事業には、どのようなプログラムが用意されているのだろうか。まず“温泉”と名称につくからには、入湯プログラムがあることは容易に想像できる。何しろ歴史ある温泉町だ。市の財産ともいえる温泉を活用しないわけはない。クアオルトに協力する温泉宿も複数あるが、上山市では今後、水中運動が行える温泉健康施設の建設も計画しているそうだ。

注目したいのは「気候性地形療法を活用したウォーキング」。これは、心拍数を確認しながら“楽しく”“無理なく”ウォーキングすることで、運動効果を高めるのが目的だ。上山市には、ドイツ・ミュンヒェン大学により認定された5カ所・8コースが存在するが、同大認定コースは、国内はおろかアジア初なのだという。ほかにも街中を気軽に歩けるコースなど20コースがある。

また、約600kcalの「クアオルト膳」や「クアオルト弁当」、「上山産ワイン」など、旬の食材を採用している健康に配慮した食事が提供されている。

さらに、クアオルトを活用し、特定保健指導対象者や糖尿病予備群など、重症化しかねない人を対象にした「宿泊型新保険指導」(スマート・ライフ・ステイ)を2014年にプログラム開発、2015年から本格実施した。この宿泊型新保険指導の体験者は「非日常のという環境での保健指導なので、健康に対する意欲がより向上した」と感じたそうだ。

さて、こうしたクアオルトに企業の視線が注がれ始めている。上山市を例にみてみると、まず2016年10月に太陽生命が包括連携を締結。そして、2017年6月には損保ジャパン日本興亜ひまわり生命(以下、ひまわり生命)も、上山市との包括連携の締結を発表した。奇しくも保険事業者がクアオルトに着目したワケだが、これは偶然とは思えない。ひまわり生命の例でみてみよう。

生命保険企業の在り方を変革

ひまわり生命 人材開発部長 下川亮子氏

ひまわり生命 人材開発部長 下川亮子氏は、「生命保険会社の役割を変えていかなくてはならない」と話す。どういうことかというと、そもそも生命保険は、契約者が疾病したり、万が一の場合が起こったりした際、保険金が支払われるという仕組み。だが「保険金も大切だが、長いあいだ、健康でいることこそ重要」(下川氏)という。

こうした考えのもと、ひまわり生命は中期経営計画において「健康応援企業」への変革を宣言した。そのためには社員の意識改革が必要で「社員とその家族が健康維持・増進」→「健康への意識・知見を高め企業文化を構築」→「顧客に対し健康を軸にした価値を提供」というステップで、国民の健康を応援していくのだという。

すでに社員全員にフィットネスをサポートするウェアラブル端末「Fitbit」を配布。これは業界初の試み。さらに「プレミアムフライデーズ」を導入した。経済産業省が主導する施策と異なり“ズ”がついているのは、「弊社の場合、締め日が月末。月内最終週の金曜日では利用できない社員が多くなってしまう。そこで月内のどの週の金曜日でも午後3時に仕事を切り上げられる制度にしたため“ズ”をつけた」(下川氏)とのことだ。

そして、今回のクアオルト活用という健康維持・増進施策が続く。同社には約3,200人の社員がいるが、その全員に1泊2日のクアオルト体験を行ってもらうとしている。

では、本当に約3,200人もの大人数がクアオルト体験を実行するのか……そのための休暇や費用はどうなるのかという疑問がわく。経済的負担からクアオルト体験を敬遠する風潮が生まれかねない可能性もある。この筆者の疑問に下川氏は「特にクアオルト体験用の休暇はないが、費用は会社が一部負担する。まだ緒に就いたばかりなので全社員に体験してもらえるよう、いろいろ取り組みたい」と答えた。さらに下川氏は、「クアオルト体験施策は“福利厚生”の一環ではなく“経営理念”」と強調した。

さて、すでに実施されているFitbit全社員配布とプレミアムフライデーズだが、クアオルト体験施策と有機的に結びつくかもしれない。まず、Fitbitはウォーキング時の記録に役立つし、プレミアムフライデーズにより生じた時間は、荷造りなどクアオルト体験出発前の準備に充てられる。場合によっては“前泊”のために金曜日に移動するということもあるだろう。

ひまわり生命では、すでに“先遣隊”ともいえる社員を何人か上山市に送り込んだそうだ。ひまわり生命 事業企画部 金子奈津子氏もその一人。金子氏は実際にクアオルト体験に参加し、3つのポイントを挙げた。「クアオルト専任ガイドが個人の状態に応じた歩行ペースをリードするので、“がんばらずに楽しく”歩けた」「低カロリーでヘルシーな食事だが、ローストビーフやサシミなど食べ応えがあった」「健康に対する知見を持った上山市の人々と交流できた」という3点だ。

クアオルト体験したひまわり生命 事業企画部 金子奈津子氏。同社提供サービス「Linkx」(リンククロス)のウェブマガジンに体験記が掲載されている

企業への浸透はクアオルトの認知度向上がカギ

太陽生命もひまわり生命も、健康という価値を顧客に提供するのがねらいだ。そのため、保険事業者がいち早くクアオルト活用を採り入れたのは自然な流れといえる。だが、そうした保険事業者とは異なる企業が、福利厚生というアプローチでクアオルトを採り入れるケースが増えるのではないか。そのためには、クアオルトを実施している各自治体がいかに認知度をアップできるかにかかっている。

総務省施策が追い風に? 携帯分離の「歴史的チャンス」狙うファーウェイ

総務省施策が追い風に? 携帯分離の「歴史的チャンス」狙うファーウェイ

2019.03.20

モバイル業界を変える「携帯値下げ議論」が過熱

ファーウェイは日本を取り巻く環境を「歴史的チャンス」と発言

コスパ高いミッドレンジ端末でシェア拡大を目指す

20日、NTTドコモが特定の端末の購入を条件に通信料金を割り引く「docomo with」、購入する端末に応じて通信料金を割り引く「月々サポート」を終了する方針を固めたという報道が話題となっている。

国内のモバイル業界では携帯電話料金見直しが進んでおり、3月5日には総務省が中心に進めてきた端末代金と通信料金の分離が閣議決定された。NTTドコモは分離プランを軸とした新料金プランを4月に発表する見込みだ。

日本のモバイル市場を大きく変えるこの動きを「歴史的チャンス」と見ているのがファーウェイだ。2018年末から米中対立が加速する中、ファーウェイが打ち出すメッセージも語気を強めている。果たして日本市場でシェアを拡大できるのだろうか。

逆風吹けども、依然として業績は好調

今年に入り、ファーウェイの周辺が騒がしい。3月7日には、ファーウェイは米国政府を相手取って訴訟を起こした

さらにその内容をFacebookでライブ配信するなど、米国以外の世界市場に向けたメッセージにもしており、そのメッセージをまとめたウェブサイト「Huawei Facts」は、わざわざ日本語版も用意している。

2018年末から続く米中対立を巡る報道は、ファーウェイの業績にどのような影響を与えたのか。MWC19でインタビューに応じたファーウェイ・ジャパンの呉波氏は、「一部の消費者は影響を受けたが、2019年に入ってから売上は大幅に伸びている」と語った。

ファーウェイ デバイス 日本・韓国リージョン プレジデントの呉波(ゴ・ハ)氏

話題の「折りたたみスマホ」でもファーウェイは先行する。

ファーウェイに先立って折り畳みスマホを発表したサムスンだが、こちらはMWCではガラスケース内での「展示」のみにとどまったのに対し、ファーウェイは「Mate X」の実機を用いて報道関係者に折り曲げを試させるなど、製品化で一歩先を行っていることをアピールした。

ファーウェイの折りたたみスマホ「Mate X」。報道陣には手に取って折り曲げてみる機会も用意された

Mate Xは次世代移動通信の「5G」にも対応しており、日本では5Gサービスの開始を待って投入時期を見極める方針だという。

ちなみに3月26日に発表予定のフラグシップ機「HUAWEI P30」シリーズは、例年通りのタイミングで日本市場に投入するようだ。SIMフリーでの発売だけでなく、ドコモが採用した「HUAWEI P20 Pro」のように大手キャリアによる採用があるかどうかも注目したい。

分離プランを「歴史的チャンス」と捉えるワケ

一方、2019年の国内モバイル市場で話題となっているのが携帯料金における「分離プラン」の導入だ。KDDIとソフトバンクはすでに導入済みだが、NTTドコモは4月に発表する新料金プランから本格導入するとみられている。

分離プランの特徴は、NTTドコモの「月々サポート」のように回線契約と紐付けた端末の割引が禁止される点だ。端末の割引自体が禁止されるわけではないというものの、大幅な割引は難しくなる。その結果、10万円を超えるようなハイエンド機ではなく、3〜4万円で一括購入しやすいミッドレンジ機の需要が高まるとの見方が有力だ。

この動きをファーウェイはどう見ているのか。

呉氏は「非常に重要視している。スマホが登場したときや、SIMフリー市場が始まったときのインパクトに引けを取らない、歴史的な瞬間になる」と興奮気味に語る。

日本のSIMフリー市場でベストセラーとなった「HUAWEI P20 lite」を始め、ファーウェイのミッドレンジ機のラインアップは厚い。モデルによってはフラグシップと同じCPUでミッドハイの価格を実現するなど、コスパの高さも特徴だ。大手キャリア向けにさまざまな提案ができる体制といえる。

フラグシップと同じ「Kirin 980」搭載でミッドハイ価格の「HONOR View 20」

また、5G対応も順調だ。

モバイルWi-Fiルーターに強みを持つファーウェイは、MWC19でも5G対応ルーターを多く出展していた。日本ではまだ周波数の割り当てが終わっていないものの、国内大手キャリアは2019年内にもプレサービスを始める動きがある。5Gスマホが普及するまでの間、5Gルーターの需要は高まる可能性がある。

5G対応のモバイルWi-Fiルーターも出展していた

ミッドレンジ市場の拡大を狙って、今年はシャープやサムスン以外にも、ソニーモバイルの参入も予想されている。

この価格帯が激戦区になることは間違いないが、ファーウェイはその中で高コスパの製品ラインアップや、国内での地道な販促活動やブランドメッセージの打ち出しによって対抗していく構えだ。

ヨドバシカメラ梅田店での販促イベントの様子
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2019.03.20

Googleが新しいゲームプラットフォームを発表

配信方式でゲーム機不要、「ゲーム機」の時代の終焉?

2019年内にローンチ、性能はプレステやXbox以上か

3月19日、米国で開催中のゲーム開発者会議「GDC 2019」の会場で、Googleがクラウドベースのゲーミングプラットフォーム「STADIA」を発表した。特定のゲーム機に縛られず、ネットに接続したスマホやパソコン、テレビを通してストリーミング(配信)形式でゲームをプレイできる。

この事業を担当するバイスプレジデントとして、STADIAを発表するフィル・ハリソン(Phil Harrison)氏。そもそも彼からして、元はソニーのプレイステーション立ち上げの主要メンバーで、その後Microsoftに移りXboxを担当したという経歴の持ち主

かねてより、MicrosoftのXbox事業のトップマネージャーを引き抜いた、ソニーでPlayStationのハード開発にかかわったエンジニアが転職したといった噂が頻繁に流れており、「Googleがゲーム市場に本格参入する」という憶測は強まっていた。実際に2018年には、Googleは「Project Stream」と呼ばれるストリーミング形式のゲーム基盤の計画を発表し、米国内でベータテスターを募って技術テストを行っていた。

STADIAは、Project Streamの延長線上にあるサービスと見られる。ユーザーは特定のゲーム機を持っている必要がなく、従来のゲーム機の役割をするのはGoogleの設置するデータセンターだ。簡単に言えばクラウドサービスのように、実際にゲームタイトルが動作しているのはデータセンター側で、ユーザーはインターネットを介してゲームを遠隔でプレイする。

STADIAのデータセンターから配信されたゲームをパソコンでプレイしている様子
パソコンで遊んでいたのと同じゲームを、タブレットやテレビでも同じように遊ぶことができる

このプラットフォームの特徴によって、例えばYouTubeで新作ゲームのトレーラー動画を見ていて気に入ったときには、そのページ内の「プレイする」ボタンを押すだけで、インストールすら不要で、動画を再生するかのようにそのゲームをプレイできるようになる。

そして、STADIAのデータセンターが持つゲーム機としてスペックは、サービス開始時のものとして、GPUの演算性能は10.7テラFlopsに達するといい、これはPlayStation 4 Proの4.2テラFlopsや、Xbox One Xの6.0テラFlopsを大きく上回る。映像品質も4K/60fpsのストリーミングに対応し、将来は8K/120fps対応も予定しているという。

STADIA用の「STADIAコントローラー」も販売する。SNSアップ用のボタンや、Googleアシスタントボタンが備わっている

Googleは2019年中にSTADIAをローンチする予定で、まずは米国、カナダ、欧州でサービスを開始すると説明している。発表を受けた翌20日の東京株式市場では、任天堂とソニーの株価が揃って大きく下落した。投資家たちが、GoogleのSTADIAによって、Nintendo SwitchやPlayStationのビジネスが脅かされると考えたからだ。

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